あまり成功していないと思う人もいるかもしれないけれど、自分の服装について考えることが好きで、以前はいろいろな雑誌を見たりして、コーディネートの参考にしたりしていました。
しかし、今ではそういうものを見なくなりました。
インターネットでそういう情報がいくらでも出ていることもあるけれど、それぞれの思惑のもとに誰かが決めたコーディネートよりも、自分で考えて選んだものを好きに組み合わせて着たいと思うようになったからでした。
店ではお客様になるべくリラックスしてもらいたいと思っていますし、自分もいつも自然体で、リラックスしていたい。だからキチンと見える範囲でカジュアルな服装でいたいという、自分の事情に合った組み合わせは自分で見つけないとどこにもない。
服装の中心は靴だと思っている。靴に合わせて服が決まると言っても言い過ぎではなく、私にとっては服装のこだわりどころです。
靴はそれなりのものを買うと、底を張り替えたり、修理に出したりすることで、かなり長い期間履き続けることができるけれど、服は消耗品だと思っています。
値段の高いものをどんなに大切に使っても、インクを飛ばしてダメにしてしまったり、擦り切れたり、気分が合わなくなっていく。がんばって良いモノを揃えるよりも、こだわりどころではない部分はファストファッションのものを取り入れたりして組み合わせるようになりました。
きっと多くの人が私と同じように思って、ファストファッションを取り入れていると思います。
文房具にも同じことが言えます。
こだわらない部分は100均などの文具売り場で選んだものを活用して、こだわる部分にはお金をかけるという人は多いでしょう。私の服装で言うところの靴にあたる部分がきっと万年筆などの筆記具にあたるのだと思います。
使い込んで育てながら、修理しながら、長い期間、もしかしたら生涯使っていくものだから、こだわる人は良いものを選んで欲しい。
でも最近ファストファッションのような万年筆が増えてきたと思っています。デザインは良いけれど、素材や作りがあまり良いとは言えないようなものが増えてきた。それらは万年筆を使う人を増やすきっかけにはなるけれど、そういうものばかりになってしまうのはつまらない。
華やかなデザインも良いけれど、金ペン先の書き味を味わうことが万年筆の醍醐味で、その奥の深い楽しみを多くの人に知ってもらいたいと思っています。
いろんな時世から、売れるものの単価が下がり、万年筆の単価が下がることも仕方ないことなのかもしれない。そんな状況において日本のメーカーの万年筆は、万年筆のファストファッション化と戦えるものだと思っています。
日本のメーカーはデザインをオーソドックスなものにして、14金のペン先を装備した万年筆を1万円代から選べるようにしています。そして、それ以上の価格帯のものを選べば、さらに良い書き味が得られるようになっています。
1万円代で金ペン先を備えた万年筆の代表的なものは、プラチナセンチュリーです。
弾力が強めの硬い14金のペン先を備えていて、その特長は一定のインクの濃さで揃った文字を書くことに特化しているというところにあります。つまり手帳にきれいな揃った文字を書くことに適していて、今の時代の万年筆のあり方に合致しています。
逆に柔らかいペン先のモノを使いたいと思う時は、パイロットやセーラーの2万円のものを選ぶと期待通りの書き味が得られます。
パイロットカスタム742は豊富なペン先バリエーションがあり、硬さも選べるほどです。書き味の良い万年筆を使いたいと思っている人はまずカスタム742をお勧めします。他には、セーラープロフィット21はそのペンポイントの研ぎのせいか、味のある文字を書くことができると思っています。書くことが楽しくなる万年筆の筆頭だと思います。
こうしてメーカーを横断して国産の万年筆について考えると、その書き味だけでも様々な個性があることが分かりますし、それぞれに深い味わいがあります。
もしかしたらこれは大人の渋い万年筆の楽しみなのかもしれないけれど、私は面白いと思う。
低価格で、私たちのこだわりに応えてくれる国産の万年筆を大切に思っています。