流行のものは仕入れたらすぐに売り上げになってくれるのでとても有難いですが、確保するのがとても難しい。無視はできないけれど、そういうものばかりを追いかけていたくない。
そういう流行のものは来年も需要があるかどうか分からないので、なるべく無いものとして営業できたらと思います。
でもやはり、売れた時に喜びを感じるのは自分たちで考えたオリジナル商品です。形にするまでには時間も労力もかかるけれど、これほど楽しいことはないと思います。
そういうオリジナル商品と、古くから販売されているメーカーの定番万年筆や筆記具と合わせて提案するのが当店の王道のパターンになっています。それは既存の定番品に改めて注目してもらえるように、15年間当店なりに試行錯誤して取り組んできたことでもあります。
当店オリジナルの1本差しペンケースで、レザーケースSというものがあります。細めで、ボールペンを入れるのにちょうどいいサイズです。
私はペンケースに収める時、ペンのクリップが広がらないよう、なるべくなら何も挟みたくない。上着のポケットなどに安心して挟むことができるペンは、クリップにつなぎ目がない無垢の素材で、スプリングが仕込まれているファーバーカステル伯爵コレクションくらいです。
伯爵コレクションのクリップの効果は絶大で、本当によくできていると思いますが、そういうボールペンばかりではありません。
愛用のボールペンをこのケースに入れて、クリップで挟まずにポケットに入れて持ち運びたい、それは美しい形がいい、と考えてまずレザーケースSを企画しました。Sは通常よりスリムなサイズ感のために敢えてSと最初から付けました。
そのレザーケースに、太軸の万年筆も入れることができるMサイズを作りました。
レザーケースMはモンブラン149がピッタリ入るサイズですが、底が閉じてある形状なのでモンブラン146、ペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆もしっかりホールドしてくれます。
ペンケースというより、ケースもペンの一部として考えて、ケースから取り出すところから書くための所作と考えています。
このケースには、張りがあって丈夫なドーフィンという革を使っていますが、この革の裏が適度に柔らかく毛足が長めなこともあって、ペンを適度にホールドしています。
最近は、使い込むと艶が出て変化していくタンニン鞣しの革が流行していますが、ドーフィンのようなクロム鞣しの革は傷がつきにくく、いつまでも美しく使うことができます。そして一番違う点は、クロム鞣しの革は銀を黒く変色させないところです。
ドーフィンという今まで文具系ではあまり使われなかった革を使ったというのも天邪鬼な当店らしいと思います。流行から外れるけれど、定番の革として、ドーフィンレザーのような素材も使っていきたい。
こういうものを発売することができるのも、私たちの考えに賛同してくれて、几帳面に、手間を惜しまず美しい仕事を心掛けてくれている職人さんの腕があるからで、心から有難いと思っています。