工房楔 芯ホルダー

工房楔 芯ホルダー
工房楔 芯ホルダー

当店が工房楔の永田さんの作品を扱うようになって2年半が経ちました。

その頃から永田さんは筆記具のバリエーションをいくつかお持ちでしたが、最もインパクトがあって、代表的なペンはパトリオットボールペンで、他のアイテムはそれほど強い個性を持っていなかったように思いました。

しかし、永田さんは持ち前の行動力と探求心でご自分の作品群の見直しを行い、木工家のペンというカテゴリーを越えた、筆記具として、自信を持ってお勧めできるものを増やしていきました。

刳り物という工作としてはとてもプリミティブな方法を使い、だからこそ素材本来の良さを引き出せ、愛着を持って使い続けることができる、それが工房楔の特長です。

ですが楔の製品のさらに良いところは、木の良さを楽しむため、不必要な加工が施されていない「素材本来」に出会えるところだと思っています。

木製の万年筆は以前から様々なものが各メーカーから発売されてきました
が、割れ防止を気にし過ぎて、過剰に加工されたものが多く寂しくなります。

そこには大量生産に向かない素材を無理に均一な感じにしようとしている、作り手のお客様に強く言えない弱さのようなものを感じます。

永田さんの作品は、材質を見極める確かな目と、それをありのままの姿に美しく削り出せる腕があって初めて実現するもので、それらが揃っていることが多くのお客様が楔の商品に魅せられる理由なのだと思います。

先日のイベントから発売されている芯ホルダーが大変好評です。

デザイン自体は全く奇をてらわないオーソドックスなものですが、私はそういう物の中にこそ永く愛される名作があるのだと思っています。

デザイン的に目立った所はなく、シンプルに握りやすさだけを考えて作られたボディに、とても偉そうな言い方で恐縮ですが、考え抜いて一皮剥けた永田さんを感じました。

芯ホルダーの機構は、2mmの芯を使うノック式です。
万年筆をよく知る人の間では、製図用芯ホルダーのようなドロップ式ではない、モンブランピックスなどを連想させるノック式の方が印象は良いかもしれません。

私の勝手な思いこみですが、ペンシルの方がボールペンよりも趣味的な要素が強いような気がしますので、永田さんのペンはペンシルであって欲しいと思っています。

⇒工房楔 芯ホルダーcbid=2557546⇒工房楔 芯ホルダーcsid=3⇒工房楔 芯ホルダーpage=2″ target=”_blank”>⇒工房楔 芯ホルダー

「ペン語り」電子書籍化

「ペン語り」電子書籍化
「ペン語り」電子書籍化

この「ペン語り」が電子書籍になりました。
大和出版印刷株式会社のWEBサイトfromkobe.jpで販売しています。i-Pad、i-Phoneなどお持ちの方はぜひご購入ください。

大和出版印刷の電子書籍事業はル・ボナーの松本さんのブログ「ル・ボナーの1日」も手掛けていて、印刷業界では非常に先鋭的な動きになっているようです。
今後こういった電子媒体が増えていくと思われますが、紙の方が良いものもありますので、そのあたりの棲み分けができてくると思います。

この「ペン語り」の電子書籍化は大和出版印刷から当店への3周年のプレゼントといったところでしょうか。

大和出版印刷は今後も仲間たちの文章を電子書籍化していきたいとかなり意欲的です。

「ペン語り」は、毎週金曜日にホームページに掲載できるように休みの水曜日に完成させるようにしています。
定休日の夜、1週間何となく考えたり、メモしたものを手帳に文章として書き始めます。
何も気にせずにただ万年筆が書いてくれる文字を記していきます。

以前は原稿用紙なども使ったことがありましたが、あまりちゃんとした格式張ったものは合わず、手帳に書き込むことにしています。
直接パソコンに打ち込めば早いですが、やはり万年筆にこだわりたいという気持ちとずっとそのスタイルで書いてきたので今さら変えることができないということもあります。

週1回何かを書いてインターネットに出すという仕事を9年間やってきて、文章の書き方は定まっていました。

大和出版印刷が万年筆の書き味を追求して作った紙、リスシオワンを使って作られた「リスシオワン・オリジナルダイアリー」のデイリータイプは、日記風に使ってもいいし、私のように何か文章を書かなければならない人が、毎日何かを書き溜めるためにも使うことができます。

書き込んだ量によって使うページ数を調節することができるように日付の入っていないフリーダイアリーになっています。
中字ぐらいの万年筆でも書くことができるスペースを確保するという紙面の大きさと携帯性を確保するため、そしてパソコンのキーボードの前に置いても打ち込み作業がしやすいように正方形のサイズになっています。

上記のデイリーダイアリーと見開き1週間のウィークリーダイアリー、見開き1ヶ月のマンスリーダイアリーの3種類のダイアリーとそれらと合わせて使うことができる、横罫、方眼のノートもあり、今後同サイズのノートのバリエーションを増やしていきたいと思っています。

万年筆を販売していて、万年筆に関する文章を週1回作らなくてはならない私でさえ、パソコンに打ち込まないと仕事になりません。
時代が進むごとにパソコンでの打ち込みが多くなり、手書きの機会がどんどん減っていく。
そんな毎日の中で万年筆をなるべく使うためのダイアリーがリスシオワンオリジナルダイアリーです。

万年筆で書いた電子書籍を大和出版印刷がプレゼントしてくれて、リスシオワンという万年筆をもっと使いたくなる紙を作り上げる。デジタルとアナログ、データとフィーリング。
どちらかだけでなく、バランス感覚が大切なのだと思います。

アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り
アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラ”マーレリグリア”が入荷しました。

この万年筆から連想される万年筆が、5年前の限定万年筆アウロラ85周年記念“レッド”です。
レッドは真紅のボディに、容赦なく黒ずむコーティングされていない細かな彫刻が施された純銀の金具で、私たちが期待するアウロラらしさ、イタリアらしさが表現されていました。

そんな85周年レッドとマーレリグリアは、金具の彫刻の違いなどはありますが、安直に言ってしまえば色違いで、レッドで感じたイタリアらしさ、アウロラらしさをマーレレグリアのブルーでも感じることができます。

アウロラの良いところは、専業のメーカーとしてやってきた会社の物作りのロマンがいまだに感じられるところだと常々思っています。

多くの専業メーカーが世界を2分した持ち株会社のグループに属し、親会社のコントロールを受けて、経営的には利益の出る儲かる体質になったかもしれません。ですが、他のメーカーとのペン先などの重要パーツの共通化や、製品のコストダウンがはかられるようになって、良いものを作りたいというそれぞれのこだわりというロマンが後回しにされているような気がしています。

しかし最近になって、ブランドビジネスの派手で洗練されたイメージのプロモーションは多くのお客様からは期待されておらず、職人魂のこもった物作りのロマンこそが求められているということに、物が急に売れなくなって、それぞれの作り手が気付き始めていると思います。

生産拠点を人件費のかからない国々に移してしまい、生産の効率化をしてしまった現在から、以前のように一見非効率な職人魂の感じられる物作りに戻すということには色々難しい問題があるかもしれません。

お客様のこだわりの物を作っている企業が考えるべき生き残る方法は、多くの利益を出して株主に還元するのではなく、良い物を作って消費者の支持を得て、売上げを回復させることなのではないかと、アウロラの変わらない物作りを見ていて感じます。

アウロラは、もしかしたら多くの会社がこぞって乗った利益を生み出す船に乗りそびれてしまった会社なのかもしれませんが、それが今価値を持っていることに、愉快ささえ感じています。

*画像左が「マーレ・リグリア」右が「85周年レッド(非売品)」です。

人前で話すことと情報カード

人前で話すことと情報カード
人前で話すことと情報カード

万年筆を販売する仕事は一対一での接客が多く、大勢の人の前で話すことはありません。
結局今までそういう機会もなく、ずっと苦手意識を持ったままでした。でも大袈裟ではなく、私にとっていずれ越えなければならない壁だと思っていたのです。

すると今年、大勢の人の前で話す機会が巡ってきました。

大和座狂言事務所の公演の舞台の合間に基調講演をして欲しいと、代表の安東伸元先生から依頼されたのです。
ご迷惑をお掛けするのではないかと、経験のないことを理由にお断りしようかとも思いましたが、尊敬する安東先生のお役に立てるのなら、という気持ちと自分の課題を克服するチャンスだという思いからお受けすることにしました。

それでも責任の重さを痛感していて、当日のことを考えると緊張して手に汗握る想いです。

安東先生とは暮らしの手帖を読んで当店を知って下さった奥様と一緒にご来店されたのが出会いでした。

よく来て下さっていて、お付き合いが深まっていく中、安東先生が執筆しておられる大和座狂言事務所の会報を読ませていただくようになりました。

会報を読ませていただいて、安東先生が狂言を演じることで最も伝えたいと思われている(と私が思っている)メッセージが、”日本人としての誇りを持ち続ける”ということに強い共感を覚え、影響さえ受けていました。
基調講演にお声掛けいただいたことはとても光栄なことだったのです。

講演は1時間半という私にとっては大変な長時間です。
かなりちゃんと原稿を作っておかないといけないと思いました。

まず私は話したいことを5×3の情報カードに書き始めました。
書いたものが読みやすいように、プラチナブライヤー細字を使いました。
話すことは苦手でも、こんな時にどんな万年筆が最適かということだけは分かります。
ブライヤーの細字は、ペン先に硬めの弾力があり、ボディが太目なので、線がクッキリ書けて、たくさん文字を書くような今回のような作業に向いています。

情報カードの紙質にもこだわりました。
やはりインクとの相性の良いものを使いたいと思って、色々試してみました。
国産のものは多少紙質の違いはありますが、万年筆での使用を前提に考えられているのか、どれを選んでも不愉快なものではないことが分かりました。

ただ海外のあるメーカーのものは、ボールペン用なのか、表面の強いワックスが万年筆のインクを弾きました。

色々試した結果、ライフの方眼罫のものを使い始めました。
インクの伸びが一番良く、にじみも多くないライフの情報カードの紙質が一番気に入りました。

たくさんの情報カードを入れ替えたりして話す順番を作ります。
こんな作業をしていると、やはり情報カードは(特に5×3は)こういった使用のためのものだと思います。

これが例えばシステム手帳のリフィルなどでしたら、やりにくい作業だったと思います。でも情報カードは5×3の大きさ、紙厚、硬さなど全てがこのような作業にぴったりだと思えます。

手に汗握る緊張と戦いながら、大勢の人の前で話すために、情報や話したいことをひとつの形にするのが情報カードというツールなのだと改めて思いました。

分度器ドットコムイベント ”文旅”

分度器ドットコムイベント ”文旅”
分度器ドットコムイベント ”文旅”

先週の定休日、京都での打ち合わせの後、いつも乗る京都駅ではなく、四条河原町から電車に乗りました。
打ち合わせが早めに終わったので、夙川に寄って分度器ドットコムのお店に寄ろう、そして谷本さんと夕飯を食べようと思ったからです。

途中十三で乗り換えなければいけませんし、特急でも新快速よりも停車駅が多く、JRに比べて阪急は不便に感じてあまり利用することがありませんでした。
でも特急の停車駅が増えたおかげで夙川にも停まるようになり、分度器ドットコムのお店にも行きやすくなりました。
夙川駅に降りてから谷本さんに電話して、お店で待ち合わせることにしました。
人通りの少ない場所にあるそのお店の夜は、暗くなったばかりの時間でもとても遅い時間に感じられ、元町の人の流れから外れた当店の夜ととてもよく似ています。
店の立地としてはどうか分かりませんが、静かな日本の町の夜という感じがします。

分度器さんの店は、非常に品数が多く、しかも他のお店にはないような珍しいものばかりあります。オリジナル商品のアイテムが多いのと、独自で海外から直接買い付けている商品がたくさんあるからです。
どれも欲しいと思いながら、どうしても使いたいと思うものを選んで買い物をさせていただいて店を出ました。

谷本さんと夙川駅近くのとんかつ屋さんに入りました。
実は前日も谷本さんが夕方当店に来られて、少し話したりしていました。
9月10日からの分度器ドットコムイベント「文旅」の開催のための店舗見学ということもありましたが、2日連続で、しかもわざわざ会いに行くというのも変な感じかもしれませんが、いつもこうやって会って話すのがとても楽しいと思わせるのが谷本さんで、それはル・ボナーの松本さんにも感じています。

イベントについて話をした後、世間話や身の回りの話などをしていました。
谷本さんの会社は着実に大きくなっていて、売上も、スタッフの人数も増えています。
周りに対する責任の重さや期待は私の比でなく、それらの期待に応えようとするプレッシャーは相当なものだと思いますので、私たちと会う時だけでも力を抜いて、気楽でいて欲しいと思っています。
谷本さんと出会う前の私は、本当に狭い視野しか見えていなかったと思います。
谷本さんは旅先で見て気に入ったものを交渉して買い付けてきたり、様々な人にアプローチをかけてオリジナル商品を作ってもらったりしています。
海外のメーカーなどからも、直接やり取りして商品を仕入れていて、全てのお膳立てが整った上でしか仕事をしていなかった自分が恥ずかしくなりました。

6月のヨーロッパ旅行も、谷本さんがいなければ実現しなかったもので、海外も同じ地球の上だというように考えられるようになったことに感謝していますし、私の旅への渇望に気付かせてくれました。

谷本さんも私も常に旅をしていたいと思っているところがありますが、やはり仕事をしていると簡単に旅に出ることはできません。でもまた必ず旅を仕事にできるようにして、出かけたいと思っています。

私のライフワークが万年筆を使う人のためのものであるなら、谷本さんのライフワークは文房具を探して旅をするというもの。
理想とするオリジナル商品を作ってくれる人を探したり、見たこともない自分の美学に合った文房具を探して旅する谷本さんの文旅をテーマにした分度器ドットコムのイベントを9月10日(金)から9月30日(木)まで開催します。

⇒「分度器ドットコムイベント”文旅”」
9月10日(金)~9月30日(木)まで開催。土曜日・23日(祝日)は谷本氏来店予定です。(時間は未確定)

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード
日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

最近お客様とのやり取りの中で、手帳用の万年筆について考えることが多くありました。
仕事のほとんどがパソコンでの打ち込みで完了してしまい、手書きする機会はどんどん減っていて、万年筆が使われなくなってしまうのではないかという意識は常にあります。
でもそれ以上に、字を書かなくても生活していけることに対して、何か人の思考に悪い影響を与えるのではないかという気がしています。

しかし、手帳だけは手書きされていて、いくらI-phoneなどのデジタルツールが普及してもそう簡単に変わらないのではないかと思っています。

万年筆を使う人は、貴重な手書きの機会である手帳への筆記を万年筆でしたいと思うでしょうし、そうでなくても仕事をされている方が万年筆を使いたいと思うのは、手帳への筆記が目的であることが多いようです。

私は多くの方と比べると、まだ仕事の中で万年筆を使う機会が多い方ですが、やはり手帳への書き込みが一番多く、趣味に近い楽しみのひとつになっています。

手帳を楽しく、美しく書くにはやはり日本のメーカーの万年筆が向いていると思っています。
外国のメーカーのものは、どんなに細いペン先がついていてもインクの出が多いものが多く、にじみが出たりして、どうしても文字が太くなってしまいがちです。

後から見た時に見やすい手帳ということを考えると日本のメーカーの万年筆が優れていて、それは1960年代からしばらくの間一世を風靡したプラチナポケット、パイロットエリートに代表される日本特有のポケットタイプの万年筆からの流れなのかもしれません。

柔らかいペン先の書き味を楽しめる万年筆と正反対の存在であるこれらの万年筆は、手帳への筆記を中心に考えられていて、柔らかい書き味よりも線の美しさを追求していたように思います。

そしてポケットタイプの万年筆が手帳用に向いていた理由のもうひとつはその携帯性にもあります。
家でゆったりと書いている時はあまり関係ありませんが、仕事中など忙しい時に手帳に用件だけ書き込んですぐに仕舞うには勘合式でパッと閉められるキャップが適しています。

そうやって手帳用の万年筆に必要な条件を挙げているとピッタリな万年筆に気付きます。
黒檀、智頭杉(ちずすぎ)、鉄刀木(たがやさん)、の3種類の材質をラインナップさせている、セーラーの木軸スタンダードというシリーズです。

それぞれの材の手触りが感じられる最小限の仕上げは、長年の使用で光沢が増し色目が深まるという変化が見られ、ポリウレタン塗装が施された以前の仕上げとは飛躍的に変わったところだと思います。

愛着を持って使い込むことのできるボディは、コンバーターが入る最小限のサイズで、ポケットに差して使うのにもちょうどいいサイズです。

非常に硬いプロフィットやプロフェッショナルギアのクリップに比べてしなやかで使い易いものが付いているところも携帯に向いているところです。

ペン先が細字だけの設定というところにも、セーラーの意思が強く感じられ、手帳用の万年筆について考えた時に筆頭に挙げられるペンが木軸スタンダードです。


旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”

旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”
旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”

オマス本社工場のあるイタリアボローニャに、不安いっぱいで訪ねた私たちを満面の笑顔で迎えてくれた、オマスのエグゼクティブ韓国人のブライアン・リー氏が私にとってオマスの顔であり、イメージになっています。

イタリアの会社なのに韓国人の彼にオマスを感じたのは、彼自身が取り仕切るそのオマスという会社について、自信満々に、時にはライバル会社の悪口も言いながら説明するリー氏の、オマスが好きでたまらないという姿勢が、ドライなビジネスの世界に似つかわしくないように感じたからでした。

そんな彼が未発表の新製品について現物を見ながら説明をしてくださいましたが、その中に「アルテイタリアーナ・ミロード・クルーズ」もありました。

きれいな色のボディとスマートなデザインで、女性に向けた新しいモデルということで紹介されました。
しかしオマス本来の魅力は、軽くて、大き過ぎないボディと柔らかい書き味だと思っていますので、このクルーズのコレクションは、堂々とゴージャスになった新生オマスの中にありながら、旧来のオマスの魅力に近いものなのだと思っています。

実際クルーズは、オマスの予言通り、万年筆を使い慣れた女性たちから絶大に支持されています。
大きく重く、堂々としたオマスのサイズは多くの女性にはどうしても大きく感じられ敬遠されがちですが、クルーズのサイズなら使いやすいと思ってもらえるようです。

万年筆を使い慣れていない、初めて万年筆を使うという方、女性だけでなく男性にも使っていただきたい万年筆で、これからお勧めしていきたい万年筆のひとつです。

クルーズの実用面についてご説明しますと、ペン先は14金、あまり大きくはありませんがどの個体を試しても柔らかすぎず、良いフィーリングのものが付いています。

インク吸入機構は、カートリッジ、コンバーター両用式で、伝統的に吸入式が多かったオマスの中にあってよりカジュアルに万年筆を楽しみたいという希望にもかなったものになっています。

外出先での使用が多い方にも両用式は便利ですし、それが選択肢の多いヨーロッパサイズ(ペリカン、モンブラン、ウォーターマンなど多数のメーカーが対応)のカートリッジに対応しているとなれば尚更です。

創業時のオマスのペンは、アルマンド・シモーネがその才能を存分に発揮したアイデアルなものが大変多く、それらは今復刻しても人気が出そうなものばかりです。
現在のオマスは機構的にはより安定したオーソドックスなものを採用していますが、まだまだ独特のものを持っていて、他の多くのメーカーが意識しなくても似てしまうという、デザインにおいてのモンブラン的なペンデザインの方程式を採用していないところにオマスの独特のデザインの秘密があるのかもしれません。

完璧に思われるモンブラン方程式を使わなくても美しいペンを作り出すことができるということをオマスは証明しています。

訪問終了後、小さな本社屋の玄関で私たちと一緒にこっそりタバコを吸うエリートらしからぬ、リー氏の姿に遠くヨーロッパで会った隣国人の身近さも手伝って、この万年筆が重なります。

ラミーサファリ

ラミーサファリ
ラミーサファリ

池波庄太郎氏が「男の作法」という本の中で、ビジネスマンの万年筆は、侍の刀のようなものだから、立派な良いものを差しておかなければならない、という内容の話をされていましたが、そんなステイタスを語る「物」としての万年筆と対極にあるのが、サファリのような万年筆だと思います。

しかし、サファリに持つ人の主張を感じさせるものがないかというと、そんなことはないと思います。逆にこの万年筆だけを愛用しているという人からは、強烈なデザイン志向の強い人をイメージします。

たしかにサファリは、普通の万年筆と比べて価格も安く、ペン先は鉄、ボディはプラスチックでなるべく安い素材が使われています。
ですが他の万年筆にはあまりない、「自分はこの万年筆を愛用している」と自信を持って言える個性のようなものを持った万年筆だと思います。

直線を基調としたボディのデザインは、発売されて30年経った今でも古臭さを感じさせませんし、実用性においても不満の出るものでないことは、愛用されている方が多くおられることで実証されています。

ペン先はスチールですが、先端にはイリジウムがちゃんと付いていますし、使い込むと使い手の書き癖をちゃんと覚えてくれるようになっています。
硬いスチールペン先のフィーリングはひとつの筆記具の有り方として、あっても良いと思えるものです。

同じくらいの値段の万年筆はありますし、カジュアル万年筆というカテゴリーで新製品も次々と発売されていますが、いまだにサファリを超える存在のものは生まれていないと思います。

サファリは安くて手軽に使い始めることができる万年筆ということ以上に、使う人のライフスタイル、仕事の仕方などを物語るものだと思っています。
デザイン的にも一般的な万年筆と違っているところが、サファリが他の安価な万年筆と違って見えるところで、「サファリ」という筆記具と言ってもいいのではないかと思っています。

サファリには金ペンでないものは万年筆にあらずとか、何万円も出さないとポリシーを持って使う万年筆は買えないなどの万年筆の固定観念に囚われないところがあります。
コレクション心を満たすような所有感はありませんが、その時の気分で好みの色のものを買って、気分を変えて仕事をするにはとても良い万年筆で、仕事用の万年筆と位置付けることができるものなのかもしれません。
初めて万年筆を使う人も、万年筆を長く使ってきた人も、サファリを手にすると、決して侮れない存在感をそこから感じることができるでしょう。

⇒ラミー サファリ

雰囲気のあるペンということ

雰囲気のあるペンということ
雰囲気のあるペンということ

お客様がおられず一人で店にいる時、仕事の合間の息抜きに新しく使いたいノートやインクのことを考えたりすることがあります。

今使っているインクは実用的なことを考えてブルーブラックばかりですが、日頃あまり使わない色のインクを使い慣れた万年筆に入れたりすると、万年筆が違うものになったような気がして、万年筆ならではの楽しみだと思います。

ある人が、私がブルーブラックしか使わないのを見て、ドイツでビールを飲まないのと同じくらい、楽しいことに背を向けていると言いましたが、本当におっしゃる通りだと思います。
でも自分がノートや手帳に書いた文字が、全部同じ太さ、同じ色でないと気が済まない、ガチガチの生真面目な性格のために、ブルーブラックから他の色に変えて使うことを拒否し続けているのが、様々なカラーインクに私があまり手を出さない理由です。

40を過ぎてから、少しずつ「金色」に対する抵抗がなくなってきて、ペリカンM450というキャップと尻軸が金色(スターリングシルバーに金張り)の万年筆を手にしました。
30代までの自分なら絶対に使うことがなかったタイプの万年筆でしたが、なぜか急に気になり始めましたし、古典的なモデルの復刻という古典回帰なところも気に入って使っています。

特別なペン先の使用感もさることながら、置いている姿もコンパクトで、でも存在感があって、本当に良いペンだと思います。

このM450のように、素材の良さからくる雰囲気のあるペンがだんだん減ってきている気がしています。それは今の時代の物作りが、趣きとか雰囲気を求めない、あるいはあまり大切にしない時代になっているのかもしれないと嘆いたりしています。

金と言えばアウロラ88クラシックは、金張りのキャップに黒いボディという、今では異色とも言えるペンですが、このアウロラ88クラシックからは最近のペンにはない男らしさのようなものを感じます。

日頃から男らしく、タフでありたいと実は思っている私にとって、とても魅力的な万年筆のうちの1本で、男性のお客様にはよくお勧めしています。
これらの金の万年筆にエルバンのビルマの琥珀という金をイメージさせる色を入れたら、とても粋なのではないかと思って、M450にビルマの琥珀を入れてみました。

金の万年筆に金のカラーインク。悪くないかもしれません。


⇒ビルマの琥珀