趣味の道具か、実用か ペリカンM800ブルー・オ・ブルー

趣味の道具か、実用か ペリカンM800ブルー・オ・ブルー
趣味の道具か、実用か ペリカンM800ブルー・オ・ブルー

ブルー・オ・ブルーは忘れかけていた万年筆の正解、M800の良さを思い出せてくれる役に立ったと思っています。
たくさんのメーカーからたくさんの万年筆が出ていて、新製品もたくさん発売されています。
メーカーも常に新しいものを示して顧客に飽きられないように、当然の活動です。
しかし、万年筆の実用においての正解があるとするなら、これから発売される何かではなく、すでに発売されていて、長い間使い継がれている定番の中にあるのではないかと私は思っています。
何か大きな新発明が出ない限り、万年筆の実用においての正解はもう既に示されているのです。

宣伝の必要のない定番品と比べて、派手に雑誌広告などで取り上げられ、発売される限定品や新製品の方が目立ってしまい、正解である定番品に多くの人の目が向かないのは残念に思っていました。

しかし、M800ブルー・オ・ブルーは限定品でありながら、万年筆の正解を手に出来るということで、皆様にお勧めしたい万年筆です。

ペリカンM800は、日常の道具として酷使に耐えうる道具であり、このM800が万年筆の中で最も優れたバランスを持った万年筆であることは多くの人が知るところで、私もペリカンM800を初めての万年筆としてもおすすめしています。
同様に、モンブラン146もほぼ同じプロポーションを持っています。モンブラン146には計算され尽くした、均整のとれた完璧でスマートな優等生らしさが感じられると思っています。

それに対してM800は洗練とはほど遠い、長時間ハードに書くための道具であり、もしかしたらとても文房具的でシンプルすぎる存在なのかもしれません。
M800を最初の1本として使い始め、万年筆の全てを教えてもらいながら、他にもっと良いものがあるかもしれないと違う万年筆をいろいろ使ってみるけれど、やはりこれが良かったと、最後に手にする万年筆なのかもしれないと思っています。

万年筆は趣味の道具か、実用の道具かということをよく考えますが、実用の道具でありたいと思っています。

私にとっては仕事を趣味に近付けるための道具、書くことで仕事を楽しくしてくれる道具が万年筆でしたので、趣味と実用の間なのかもしれません。
そんな私にとってM800は本当に丁度良い存在でした。

書き味が良いだけでなく、所有することにも価値を見出せますし、最もプロポーションに優れた万年筆であり酷使に耐えるものである、という事も嬉しいところです。

万年筆のような、趣味と実用の中間に位置し自分のこだわりを表現するものにおいて、ポテンシャルが高いということはとても大切なことで、自分は潜在能力の高い万年筆を持っていると思えることが、こういった万年筆を使う上で大切な気持ちの置き所なのかもしれません。

このM800のポテンシャルの高さは相当なもので、ペリカンの中で最も硬いペン先とインクの性質に左右されにくい高性能なペン芯の存在が、ボディのバランスの良さと一緒になって、M800を最も筆記に適した万年筆にしています。

趣味の道具でもいい、でもハードな実用に耐えられる存在であってほしい。
M800はそんな物への期待に応えてくれる万年筆だと思っています。
限定生産品ブルー・オ・ブルーは、M800と言うモデルの、「ロングセラーであるが故の目新しさのなさ」を解消する役割を果たすと思っています。

ダイアリーの季節

ダイアリーの季節
ダイアリーの季節

毎年非常にたくさんのダイアリー が文房具店や書店の店頭に並んで、多くの人が1シーズンにそれらを1冊だけでなく、2冊以上買うことも珍しくないと思います。
でも毎年必ず同じ物を使い続けている人は少ないかもしれませんし、繰り返し使われるリピーター率の高いものというのは、決まっているのかもしれません。

そんな厳しいダイアリー商戦に私たちが敢えてオリジナルダイアリーを出して挑んだのは、ダイアリーが私たちの筆記習慣の中心となるものだと思ったからです。
言い変えるとダイアリーは万年筆を使う理由として最初に多くの人が挙げるものだからです。

手紙などを書かず、電子メールで全て済ませる人でも手帳は手書きする人が多いので、そういった人たちにも使っていただくための、独自のこだわりを持ったダイアリーを発売したいというのは願いに近いものでした。

当店のオリジナルダイアリーは、分度器ドットコムさん、大和出版印刷さんとの共同開発で、それぞれの得意分野を反映しています。
ダイアリーの用紙は大和出版印刷の万年筆用紙リスシオ・ワンです。
リスシオ・ワンは文句なしに書き味が良く、この紙の書き味を知ってしまうと他の紙が使いにくくなるほどです。

リスシオ・ワンの書き味を確かめながら、書くことを楽しみたい方には、デイリーダイアリーが最適だと思います。

日記のように使うことができる、日付の入っていないフリーダイアリーですので、その日の書く分量によってページを加減することができます。
1ページの4分割レイアウトは各人の工夫で、様々な使い方ができます。
同じ項目は、ページの同じ場所に書くようにすると後から見たとき必要な情報を見つけだしやすくなります。

月間ダイアリーの一覧性は侮れないものがあります。スケジュール管理をするために一番使いやすい形はこのようなカレンダータイプだという方も多いかもしれません。

たくさんの量を書き込むことはできませんが、一覧性と同時に書き込むことも楽にできます。
ページの一番左側の部分、1ヶ月の目標や予定を書くスペース、各週の始めにあるスペースはその週の予定や、日にちは決まっていないけれど、この辺りの予定などを書き込むのに便利です。

月間ダイアリーは定番のレイアウトの中に、独自の工夫を盛り込んだものになっています。
週間ダイアリーは、シンプルな定番レイアウトを守りながら、使い手の自由度を高めたものになっています。

1日を大きく2つに分けたページ欄は、当然午前と午後に分けて使うことも可能です。
仕事とプライベート、自分と相棒の予定など様々な使い方が工夫ひとつでできる、実は優れ物なのです。

これらのダイアリーと横罫や方眼のノートを組み合わせて使うために便利なカバーもル・ボナーさんが昨年同様制作しています。
カバーの完成は11月上旬ごろを予定しています。
あと2ヶ月半で2011年。
当店のオリジナルダイアリーをぜひお使いいただきたいと思います。

⇒リスシオ・ワンオリジナルダイアリー

追い込まれて出会った道具「Liscio-1薄型ノート」

追い込まれて出会った道具「Liscio-1薄型ノート」
追い込まれて出会った道具「Liscio-1薄型ノート」

こんなに緊張することは人生においてあまりないのではないかと思いました。
大和座狂言事務所の狂言の公演間に行われる、基調講演というものがあります。それは公演ごとにあらゆる分野の専門家が壇上に立ち、古典文化とのつながりや精神性について話すというものでした。

お客様である、大和座狂言事務所の安東先生から出演の依頼をいただき、大勢の人の前で話す事が苦手な私ですが、万年筆の事を一人でも多くの方に知って欲しいという気持ちから思いきってお引き受けしたのです。

基調講演自体は時間が足りなくなって、皆さまにご迷惑をおかけして自責の念にかられていますが、人前で話すことに対する度胸みたいなものはついたのではないかと思っています。

今までになかった負荷の中で、様々なご配慮をしてくださった大和座狂言事務所の方々の気持ちが心に沁み、感謝しています。

今回の基調講演のために本当は半年前から色々考えていたのですが、やらなければいけないというリアリティを持って取り組んだのは夏になってからでした。
それでも数ヶ月もの時間がありましたが、毎日減っていくカレンダーに焦りながら、とにかく何かをやらなければならないという気持ちで、無駄な作業もたくさんしていたようにも思います。

まず、講演で話す内容を項目ごとに細かく情報カードに書いていきました。先に情報カードにタイトルだけを書き、順番を決めてから、箇条書きで内容を情報カードに書き込んでいくのです。
それを元にパソコンで原稿を作り、声に出して読んでみたりして、そこに手書きで修正、加筆などしていきました。
その原稿をもとに、また声に出して読んでみたりしましたが、私の場合は間の流れがつかめず上手くいきませんでした。

こういうやり方があったのだと思ったのは、かなり講演が迫ってからでした。

話す内容が決まったら、順番や項目、内容の箇条書きを見ながら、その内容をひたすら書くということが、結局私に合っていることが分かりました。
話したい内容をひたすら書いていくと、自然と頭に入っていき、内容も練られていくような気がします。

そういった作業に向くのは、立派な厚いノートではなく、薄型のひとつのテーマで使い切れるようなノートが良いと思いました。
私が使ったのは、大和出版印刷のリスシオ1薄型ノートで、綴じ方もホッチキス留めなので、折り返してつかうのにも便利です。
1時間半の講演の内容をひたすら書いて、ちょうど1冊使い切るくらいの分量で完結します。
そうやって書いたものは、そのまま講演のカンニングペーパーになりました。

いろんなものを使って、無駄な作業を繰り返して、たどりついた道具、それが本当に簡単な薄いノートで、その存在はとても有難く感じられました。

*出演直前の最終確認中の画像です
⇒Liscio-1(リスシオ・ワン)薄型ノート横罫・方眼
⇒Liscio-1(リスシオ・ワン)薄型ノート無地

工房楔 芯ホルダー

工房楔 芯ホルダー
工房楔 芯ホルダー

当店が工房楔の永田さんの作品を扱うようになって2年半が経ちました。

その頃から永田さんは筆記具のバリエーションをいくつかお持ちでしたが、最もインパクトがあって、代表的なペンはパトリオットボールペンで、他のアイテムはそれほど強い個性を持っていなかったように思いました。

しかし、永田さんは持ち前の行動力と探求心でご自分の作品群の見直しを行い、木工家のペンというカテゴリーを越えた、筆記具として、自信を持ってお勧めできるものを増やしていきました。

刳り物という工作としてはとてもプリミティブな方法を使い、だからこそ素材本来の良さを引き出せ、愛着を持って使い続けることができる、それが工房楔の特長です。

ですが楔の製品のさらに良いところは、木の良さを楽しむため、不必要な加工が施されていない「素材本来」に出会えるところだと思っています。

木製の万年筆は以前から様々なものが各メーカーから発売されてきました
が、割れ防止を気にし過ぎて、過剰に加工されたものが多く寂しくなります。

そこには大量生産に向かない素材を無理に均一な感じにしようとしている、作り手のお客様に強く言えない弱さのようなものを感じます。

永田さんの作品は、材質を見極める確かな目と、それをありのままの姿に美しく削り出せる腕があって初めて実現するもので、それらが揃っていることが多くのお客様が楔の商品に魅せられる理由なのだと思います。

先日のイベントから発売されている芯ホルダーが大変好評です。

デザイン自体は全く奇をてらわないオーソドックスなものですが、私はそういう物の中にこそ永く愛される名作があるのだと思っています。

デザイン的に目立った所はなく、シンプルに握りやすさだけを考えて作られたボディに、とても偉そうな言い方で恐縮ですが、考え抜いて一皮剥けた永田さんを感じました。

芯ホルダーの機構は、2mmの芯を使うノック式です。
万年筆をよく知る人の間では、製図用芯ホルダーのようなドロップ式ではない、モンブランピックスなどを連想させるノック式の方が印象は良いかもしれません。

私の勝手な思いこみですが、ペンシルの方がボールペンよりも趣味的な要素が強いような気がしますので、永田さんのペンはペンシルであって欲しいと思っています。

⇒工房楔 芯ホルダーcbid=2557546⇒工房楔 芯ホルダーcsid=3⇒工房楔 芯ホルダーpage=2″ target=”_blank”>⇒工房楔 芯ホルダー

「ペン語り」電子書籍化

「ペン語り」電子書籍化
「ペン語り」電子書籍化

この「ペン語り」が電子書籍になりました。
大和出版印刷株式会社のWEBサイトfromkobe.jpで販売しています。i-Pad、i-Phoneなどお持ちの方はぜひご購入ください。

大和出版印刷の電子書籍事業はル・ボナーの松本さんのブログ「ル・ボナーの1日」も手掛けていて、印刷業界では非常に先鋭的な動きになっているようです。
今後こういった電子媒体が増えていくと思われますが、紙の方が良いものもありますので、そのあたりの棲み分けができてくると思います。

この「ペン語り」の電子書籍化は大和出版印刷から当店への3周年のプレゼントといったところでしょうか。

大和出版印刷は今後も仲間たちの文章を電子書籍化していきたいとかなり意欲的です。

「ペン語り」は、毎週金曜日にホームページに掲載できるように休みの水曜日に完成させるようにしています。
定休日の夜、1週間何となく考えたり、メモしたものを手帳に文章として書き始めます。
何も気にせずにただ万年筆が書いてくれる文字を記していきます。

以前は原稿用紙なども使ったことがありましたが、あまりちゃんとした格式張ったものは合わず、手帳に書き込むことにしています。
直接パソコンに打ち込めば早いですが、やはり万年筆にこだわりたいという気持ちとずっとそのスタイルで書いてきたので今さら変えることができないということもあります。

週1回何かを書いてインターネットに出すという仕事を9年間やってきて、文章の書き方は定まっていました。

大和出版印刷が万年筆の書き味を追求して作った紙、リスシオワンを使って作られた「リスシオワン・オリジナルダイアリー」のデイリータイプは、日記風に使ってもいいし、私のように何か文章を書かなければならない人が、毎日何かを書き溜めるためにも使うことができます。

書き込んだ量によって使うページ数を調節することができるように日付の入っていないフリーダイアリーになっています。
中字ぐらいの万年筆でも書くことができるスペースを確保するという紙面の大きさと携帯性を確保するため、そしてパソコンのキーボードの前に置いても打ち込み作業がしやすいように正方形のサイズになっています。

上記のデイリーダイアリーと見開き1週間のウィークリーダイアリー、見開き1ヶ月のマンスリーダイアリーの3種類のダイアリーとそれらと合わせて使うことができる、横罫、方眼のノートもあり、今後同サイズのノートのバリエーションを増やしていきたいと思っています。

万年筆を販売していて、万年筆に関する文章を週1回作らなくてはならない私でさえ、パソコンに打ち込まないと仕事になりません。
時代が進むごとにパソコンでの打ち込みが多くなり、手書きの機会がどんどん減っていく。
そんな毎日の中で万年筆をなるべく使うためのダイアリーがリスシオワンオリジナルダイアリーです。

万年筆で書いた電子書籍を大和出版印刷がプレゼントしてくれて、リスシオワンという万年筆をもっと使いたくなる紙を作り上げる。デジタルとアナログ、データとフィーリング。
どちらかだけでなく、バランス感覚が大切なのだと思います。

アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り
アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラ”マーレリグリア”が入荷しました。

この万年筆から連想される万年筆が、5年前の限定万年筆アウロラ85周年記念“レッド”です。
レッドは真紅のボディに、容赦なく黒ずむコーティングされていない細かな彫刻が施された純銀の金具で、私たちが期待するアウロラらしさ、イタリアらしさが表現されていました。

そんな85周年レッドとマーレリグリアは、金具の彫刻の違いなどはありますが、安直に言ってしまえば色違いで、レッドで感じたイタリアらしさ、アウロラらしさをマーレレグリアのブルーでも感じることができます。

アウロラの良いところは、専業のメーカーとしてやってきた会社の物作りのロマンがいまだに感じられるところだと常々思っています。

多くの専業メーカーが世界を2分した持ち株会社のグループに属し、親会社のコントロールを受けて、経営的には利益の出る儲かる体質になったかもしれません。ですが、他のメーカーとのペン先などの重要パーツの共通化や、製品のコストダウンがはかられるようになって、良いものを作りたいというそれぞれのこだわりというロマンが後回しにされているような気がしています。

しかし最近になって、ブランドビジネスの派手で洗練されたイメージのプロモーションは多くのお客様からは期待されておらず、職人魂のこもった物作りのロマンこそが求められているということに、物が急に売れなくなって、それぞれの作り手が気付き始めていると思います。

生産拠点を人件費のかからない国々に移してしまい、生産の効率化をしてしまった現在から、以前のように一見非効率な職人魂の感じられる物作りに戻すということには色々難しい問題があるかもしれません。

お客様のこだわりの物を作っている企業が考えるべき生き残る方法は、多くの利益を出して株主に還元するのではなく、良い物を作って消費者の支持を得て、売上げを回復させることなのではないかと、アウロラの変わらない物作りを見ていて感じます。

アウロラは、もしかしたら多くの会社がこぞって乗った利益を生み出す船に乗りそびれてしまった会社なのかもしれませんが、それが今価値を持っていることに、愉快ささえ感じています。

*画像左が「マーレ・リグリア」右が「85周年レッド(非売品)」です。

人前で話すことと情報カード

人前で話すことと情報カード
人前で話すことと情報カード

万年筆を販売する仕事は一対一での接客が多く、大勢の人の前で話すことはありません。
結局今までそういう機会もなく、ずっと苦手意識を持ったままでした。でも大袈裟ではなく、私にとっていずれ越えなければならない壁だと思っていたのです。

すると今年、大勢の人の前で話す機会が巡ってきました。

大和座狂言事務所の公演の舞台の合間に基調講演をして欲しいと、代表の安東伸元先生から依頼されたのです。
ご迷惑をお掛けするのではないかと、経験のないことを理由にお断りしようかとも思いましたが、尊敬する安東先生のお役に立てるのなら、という気持ちと自分の課題を克服するチャンスだという思いからお受けすることにしました。

それでも責任の重さを痛感していて、当日のことを考えると緊張して手に汗握る想いです。

安東先生とは暮らしの手帖を読んで当店を知って下さった奥様と一緒にご来店されたのが出会いでした。

よく来て下さっていて、お付き合いが深まっていく中、安東先生が執筆しておられる大和座狂言事務所の会報を読ませていただくようになりました。

会報を読ませていただいて、安東先生が狂言を演じることで最も伝えたいと思われている(と私が思っている)メッセージが、”日本人としての誇りを持ち続ける”ということに強い共感を覚え、影響さえ受けていました。
基調講演にお声掛けいただいたことはとても光栄なことだったのです。

講演は1時間半という私にとっては大変な長時間です。
かなりちゃんと原稿を作っておかないといけないと思いました。

まず私は話したいことを5×3の情報カードに書き始めました。
書いたものが読みやすいように、プラチナブライヤー細字を使いました。
話すことは苦手でも、こんな時にどんな万年筆が最適かということだけは分かります。
ブライヤーの細字は、ペン先に硬めの弾力があり、ボディが太目なので、線がクッキリ書けて、たくさん文字を書くような今回のような作業に向いています。

情報カードの紙質にもこだわりました。
やはりインクとの相性の良いものを使いたいと思って、色々試してみました。
国産のものは多少紙質の違いはありますが、万年筆での使用を前提に考えられているのか、どれを選んでも不愉快なものではないことが分かりました。

ただ海外のあるメーカーのものは、ボールペン用なのか、表面の強いワックスが万年筆のインクを弾きました。

色々試した結果、ライフの方眼罫のものを使い始めました。
インクの伸びが一番良く、にじみも多くないライフの情報カードの紙質が一番気に入りました。

たくさんの情報カードを入れ替えたりして話す順番を作ります。
こんな作業をしていると、やはり情報カードは(特に5×3は)こういった使用のためのものだと思います。

これが例えばシステム手帳のリフィルなどでしたら、やりにくい作業だったと思います。でも情報カードは5×3の大きさ、紙厚、硬さなど全てがこのような作業にぴったりだと思えます。

手に汗握る緊張と戦いながら、大勢の人の前で話すために、情報や話したいことをひとつの形にするのが情報カードというツールなのだと改めて思いました。

分度器ドットコムイベント ”文旅”

分度器ドットコムイベント ”文旅”
分度器ドットコムイベント ”文旅”

先週の定休日、京都での打ち合わせの後、いつも乗る京都駅ではなく、四条河原町から電車に乗りました。
打ち合わせが早めに終わったので、夙川に寄って分度器ドットコムのお店に寄ろう、そして谷本さんと夕飯を食べようと思ったからです。

途中十三で乗り換えなければいけませんし、特急でも新快速よりも停車駅が多く、JRに比べて阪急は不便に感じてあまり利用することがありませんでした。
でも特急の停車駅が増えたおかげで夙川にも停まるようになり、分度器ドットコムのお店にも行きやすくなりました。
夙川駅に降りてから谷本さんに電話して、お店で待ち合わせることにしました。
人通りの少ない場所にあるそのお店の夜は、暗くなったばかりの時間でもとても遅い時間に感じられ、元町の人の流れから外れた当店の夜ととてもよく似ています。
店の立地としてはどうか分かりませんが、静かな日本の町の夜という感じがします。

分度器さんの店は、非常に品数が多く、しかも他のお店にはないような珍しいものばかりあります。オリジナル商品のアイテムが多いのと、独自で海外から直接買い付けている商品がたくさんあるからです。
どれも欲しいと思いながら、どうしても使いたいと思うものを選んで買い物をさせていただいて店を出ました。

谷本さんと夙川駅近くのとんかつ屋さんに入りました。
実は前日も谷本さんが夕方当店に来られて、少し話したりしていました。
9月10日からの分度器ドットコムイベント「文旅」の開催のための店舗見学ということもありましたが、2日連続で、しかもわざわざ会いに行くというのも変な感じかもしれませんが、いつもこうやって会って話すのがとても楽しいと思わせるのが谷本さんで、それはル・ボナーの松本さんにも感じています。

イベントについて話をした後、世間話や身の回りの話などをしていました。
谷本さんの会社は着実に大きくなっていて、売上も、スタッフの人数も増えています。
周りに対する責任の重さや期待は私の比でなく、それらの期待に応えようとするプレッシャーは相当なものだと思いますので、私たちと会う時だけでも力を抜いて、気楽でいて欲しいと思っています。
谷本さんと出会う前の私は、本当に狭い視野しか見えていなかったと思います。
谷本さんは旅先で見て気に入ったものを交渉して買い付けてきたり、様々な人にアプローチをかけてオリジナル商品を作ってもらったりしています。
海外のメーカーなどからも、直接やり取りして商品を仕入れていて、全てのお膳立てが整った上でしか仕事をしていなかった自分が恥ずかしくなりました。

6月のヨーロッパ旅行も、谷本さんがいなければ実現しなかったもので、海外も同じ地球の上だというように考えられるようになったことに感謝していますし、私の旅への渇望に気付かせてくれました。

谷本さんも私も常に旅をしていたいと思っているところがありますが、やはり仕事をしていると簡単に旅に出ることはできません。でもまた必ず旅を仕事にできるようにして、出かけたいと思っています。

私のライフワークが万年筆を使う人のためのものであるなら、谷本さんのライフワークは文房具を探して旅をするというもの。
理想とするオリジナル商品を作ってくれる人を探したり、見たこともない自分の美学に合った文房具を探して旅する谷本さんの文旅をテーマにした分度器ドットコムのイベントを9月10日(金)から9月30日(木)まで開催します。

⇒「分度器ドットコムイベント”文旅”」
9月10日(金)~9月30日(木)まで開催。土曜日・23日(祝日)は谷本氏来店予定です。(時間は未確定)

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード
日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

最近お客様とのやり取りの中で、手帳用の万年筆について考えることが多くありました。
仕事のほとんどがパソコンでの打ち込みで完了してしまい、手書きする機会はどんどん減っていて、万年筆が使われなくなってしまうのではないかという意識は常にあります。
でもそれ以上に、字を書かなくても生活していけることに対して、何か人の思考に悪い影響を与えるのではないかという気がしています。

しかし、手帳だけは手書きされていて、いくらI-phoneなどのデジタルツールが普及してもそう簡単に変わらないのではないかと思っています。

万年筆を使う人は、貴重な手書きの機会である手帳への筆記を万年筆でしたいと思うでしょうし、そうでなくても仕事をされている方が万年筆を使いたいと思うのは、手帳への筆記が目的であることが多いようです。

私は多くの方と比べると、まだ仕事の中で万年筆を使う機会が多い方ですが、やはり手帳への書き込みが一番多く、趣味に近い楽しみのひとつになっています。

手帳を楽しく、美しく書くにはやはり日本のメーカーの万年筆が向いていると思っています。
外国のメーカーのものは、どんなに細いペン先がついていてもインクの出が多いものが多く、にじみが出たりして、どうしても文字が太くなってしまいがちです。

後から見た時に見やすい手帳ということを考えると日本のメーカーの万年筆が優れていて、それは1960年代からしばらくの間一世を風靡したプラチナポケット、パイロットエリートに代表される日本特有のポケットタイプの万年筆からの流れなのかもしれません。

柔らかいペン先の書き味を楽しめる万年筆と正反対の存在であるこれらの万年筆は、手帳への筆記を中心に考えられていて、柔らかい書き味よりも線の美しさを追求していたように思います。

そしてポケットタイプの万年筆が手帳用に向いていた理由のもうひとつはその携帯性にもあります。
家でゆったりと書いている時はあまり関係ありませんが、仕事中など忙しい時に手帳に用件だけ書き込んですぐに仕舞うには勘合式でパッと閉められるキャップが適しています。

そうやって手帳用の万年筆に必要な条件を挙げているとピッタリな万年筆に気付きます。
黒檀、智頭杉(ちずすぎ)、鉄刀木(たがやさん)、の3種類の材質をラインナップさせている、セーラーの木軸スタンダードというシリーズです。

それぞれの材の手触りが感じられる最小限の仕上げは、長年の使用で光沢が増し色目が深まるという変化が見られ、ポリウレタン塗装が施された以前の仕上げとは飛躍的に変わったところだと思います。

愛着を持って使い込むことのできるボディは、コンバーターが入る最小限のサイズで、ポケットに差して使うのにもちょうどいいサイズです。

非常に硬いプロフィットやプロフェッショナルギアのクリップに比べてしなやかで使い易いものが付いているところも携帯に向いているところです。

ペン先が細字だけの設定というところにも、セーラーの意思が強く感じられ、手帳用の万年筆について考えた時に筆頭に挙げられるペンが木軸スタンダードです。


旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”

旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”
旧来オマスの魅力を持った新製品 ”クルーズ”

オマス本社工場のあるイタリアボローニャに、不安いっぱいで訪ねた私たちを満面の笑顔で迎えてくれた、オマスのエグゼクティブ韓国人のブライアン・リー氏が私にとってオマスの顔であり、イメージになっています。

イタリアの会社なのに韓国人の彼にオマスを感じたのは、彼自身が取り仕切るそのオマスという会社について、自信満々に、時にはライバル会社の悪口も言いながら説明するリー氏の、オマスが好きでたまらないという姿勢が、ドライなビジネスの世界に似つかわしくないように感じたからでした。

そんな彼が未発表の新製品について現物を見ながら説明をしてくださいましたが、その中に「アルテイタリアーナ・ミロード・クルーズ」もありました。

きれいな色のボディとスマートなデザインで、女性に向けた新しいモデルということで紹介されました。
しかしオマス本来の魅力は、軽くて、大き過ぎないボディと柔らかい書き味だと思っていますので、このクルーズのコレクションは、堂々とゴージャスになった新生オマスの中にありながら、旧来のオマスの魅力に近いものなのだと思っています。

実際クルーズは、オマスの予言通り、万年筆を使い慣れた女性たちから絶大に支持されています。
大きく重く、堂々としたオマスのサイズは多くの女性にはどうしても大きく感じられ敬遠されがちですが、クルーズのサイズなら使いやすいと思ってもらえるようです。

万年筆を使い慣れていない、初めて万年筆を使うという方、女性だけでなく男性にも使っていただきたい万年筆で、これからお勧めしていきたい万年筆のひとつです。

クルーズの実用面についてご説明しますと、ペン先は14金、あまり大きくはありませんがどの個体を試しても柔らかすぎず、良いフィーリングのものが付いています。

インク吸入機構は、カートリッジ、コンバーター両用式で、伝統的に吸入式が多かったオマスの中にあってよりカジュアルに万年筆を楽しみたいという希望にもかなったものになっています。

外出先での使用が多い方にも両用式は便利ですし、それが選択肢の多いヨーロッパサイズ(ペリカン、モンブラン、ウォーターマンなど多数のメーカーが対応)のカートリッジに対応しているとなれば尚更です。

創業時のオマスのペンは、アルマンド・シモーネがその才能を存分に発揮したアイデアルなものが大変多く、それらは今復刻しても人気が出そうなものばかりです。
現在のオマスは機構的にはより安定したオーソドックスなものを採用していますが、まだまだ独特のものを持っていて、他の多くのメーカーが意識しなくても似てしまうという、デザインにおいてのモンブラン的なペンデザインの方程式を採用していないところにオマスの独特のデザインの秘密があるのかもしれません。

完璧に思われるモンブラン方程式を使わなくても美しいペンを作り出すことができるということをオマスは証明しています。

訪問終了後、小さな本社屋の玄関で私たちと一緒にこっそりタバコを吸うエリートらしからぬ、リー氏の姿に遠くヨーロッパで会った隣国人の身近さも手伝って、この万年筆が重なります。