吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ

吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ
吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ

私は吸入式の万年筆もカートリッジ式の万年筆も使っていますが、吸入器の動きがスムーズな万年筆は使っていて気分が良く、ついついそれに手が伸びてしまいます。
万年筆を道具として使っている人は、多かれ少なかれ万年筆のどこかにこだわりを持って使っていて、それがデザインである人や書き味である人など様々です。
国産として久々のピストン式吸入機構を持つ万年筆プロフィットレアロで表現したセーラーのこだわりはその万年筆の魅力を高めてくれていて、プロフィットレアロに強く惹かれる人もたくさんおられるのではないかと思います。

セーラーが5年前に発売した創業95周年限定万年筆「レアロ」はキングプロフィットをベースとした、大きなペン先を持つ吸入式万年筆でした。

それまでセーラーは長刀研ぎペン先やクロスポイントなど、非常に書きやすいけれど、たくさんインクを使う万年筆が多く、コンバーターやカートリッジではすぐにインクがなくなってしまうので、大容量のインクを吸入できる吸入式の万年筆の開発を多くの愛用者から期待されていました。

時計は機械式であって欲しいと時計が好きな人が思うように、万年筆愛用者は万年筆に吸入式を求めるのかも知れません。セーラーはそのような万年筆にマニアックなこだわりを持つ人たちに支えられてきたので、その開発は急務だと、外部にいる私たちでさえ思っていました。

とっておきの吸入式を限定万年筆の目玉としてしまったことで、多くの人の声に応えることができないのではないかと思っていましたが、セーラーは定番の中心的万年筆プロフィット21の吸入式万年筆プロフィットレアロを発売しました。

プロフィット21は非常にオーソドックスな外観を持った万年筆です。しかし、誰でもペン先を滑らせた瞬間に分かるその書き味の良さで、それを愛用している方々だけでなく、万年筆を販売する立場の人間からも支持を得ていました。
ベーシックな万年筆を探されているお客様にお勧めすると、その書き味を喜んでもらえるプロフィット21は非常に有り難い存在だったのです。

プロフィット21は数年前と比べると少し硬く感じられるペン先に移行しているようですが、その書き味の良さは健在で、そこに吸入機構を備えたことで、セーラーも吸入式万年筆の必要性を感じているということが分かりました。
海外の万年筆、ペリカン、アウロラ、モンブラン、ラミー、ビスコンティなどは吸入式機構を実用万年筆に採用していて、珍しいものではなくなっていますが、国産万年筆ではなぜか吸入式は少なく、定番として作られている実用万年筆ではパイロットの大容量のインクを吸入できるカスタム823くらいしかありません。
それだけ日本の万年筆は、その売れ行きが悪くなってしまって、一番癖がなく無難なカートリッジ、吸入式の両方に対応した両用式が実用的には十分だということで作られてきたのだと思います。
インクを入れるという事は同じでも、その過程を楽しむ、それが吸入式の万年筆の良いところで、大人の心のゆとりを感じられる万年筆だと思います。

セーラー:プロフィットレアロ

イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて

イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて
イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて

イベントの開催を知らずに、当店を訪れたお客様はきっと驚かれたと思います。店の3分の1くらいのスペースを楔のイベントのために木製品で埋め尽くしていたからです。

イベントは4日間で、比較的長めの日程だったと思いますが、終わってみるとやり尽くしたという感慨はなく、1年に1回のお祭りが終わったような、とても寂しい気分になっています。
イベント自体が盛況であるほど終わった時の寂しさがあり、これからまた私たちは別々の場所でそれぞれの仕事を上げていく努力をしていくことになります。
元気のある、明るい雰囲気の永田さんの存在によって、イベントの内容以外でもお客様方に楽しんでいただけたと思っていますし、私たちも楽しく仕事をさせていただきました。
永田さん4日間お疲れ様でした。そしてご来店いただきましたお客様、本当にありがとうございました。

個人的に気に入って、1年越しの想いが叶って使い出すことができたウォールナットのスツール、コンプロットミニと命名された名刺入れ、そして今までになかった希少な素材のペンなど、イベントにはたくさんの新製品があり、非常に楽しく迷うことになった方も多いと思います。

しかし、楔と言えば、趣味の文具箱でも掲載された贅沢な10本用ペンケース、コンプロット10に驚いた方も多いのではないかと思います。
このコンプロット10の登場で、今までひたすら銘木のペンを作ってきた工房楔 永田篤史のイメージが変わったと思っています。
コンプロット10は、ただ銘木で文具を作ったというだけでない、今までになかった新しく作られた価値であり、既にあるものに工夫を凝らしたというものとは全く違う創意によって完成されたものです。
物作りに携わる人にとって、新しい価値を作ることは、ひとつの到達点であり、コンプロット10でそれを成し遂げることができた永田さんの企画の進化を感じています。

コンプロット10の企画を聞いた時に私は成功するのかどうか分かりませんでした。
もしかしたらものすごく販売努力の必要な商品ができてしまうかもしれないと思いましたが、完成して、お客様の反応を見て、コンプロット10の成功を疑いませんでした。

新しくなった楔(永田さん自身は何も変わりませんが)のコンプロット10に続いて発売された新製品は「オリジナルの部品を使った万年筆」で、私は密かに今回のイベントの目玉だと思っていました。

信頼できる大手部品メーカーによる金ペン先を予定していましたが、完成が遅れてたため、今回のイベントには間に合いませんでした。
そこで先に従来のペン先を入れておき、後日差し替えをするということになりました。
ペン先以外の部品、万年筆のベースとなる金具を金属加工職人と共同で全てオリジナルで作った、新型のクローズドエンド万年筆。
大きさ、バランス、破綻のないきれいなボディラインなど、オリジナリティがありながら、どっしりとした様になった出来栄えになっています。

今回のクローズドエンド万年筆に辿り着くまでの試作品をいくつも見てきました。最初は良いのか悪いのか分からないものだったものが少しずつ形を変えていきました。
私たちの見えないところで、永田さんが試行錯誤しながら本当にたくさんの軸を削りながら到達した、もうこれしかないという形になったと思います。

楔の永田さんのように、大メーカーでなくペンを作っている工房は部品メーカーが公に発売するパーツを使ってペンを作らざるを得ません。
ボディはそれぞれの工房のこだわりを素材、形、仕上げなどを加えることが出来ますが、素人目には一緒に見えてしまい、デザインで差別化することが難しいことが、永田さんの不満と焦りになっていました。

このオリジナリティの問題を解決して、万年筆作りをし続けていくためにもオリジナルボディは必要だったのです。
オリジナルの金具は、1つ1つ真鍮やステンレスを削り出して作られていて、その素材感を大切にしたパーツの存在は、楔の万年筆をより格調高いものにしています。

私たちのような店以外でも、全ての仕事においてオリジナリティは非常に大切だと思いますが、それを早くから意識して、素材である木の良さだけに甘えない木工家永田篤史の新たな挑戦に共感しましたし、これからも協力していきたいと思っています。

工房楔 木工家という生き方

工房楔 木工家という生き方
工房楔 木工家という生き方

今までの私なら永田さんの作る木製品に立ち止まることはなかったかもしれません。
それまでの私は機能的に優れたもの、デザイン的に美しいものだけが良いものだとしていましたし、そういうものにしか魅せられることがなかったからです。
しかし、モノの良さにはそれだけではない、扱い方、見方、関わり方によって見出せる良さがあるということを永田さんの木製品とそれに魅せられたお客様方から教えられました。

使っていくうちに化粧が剥がれ、ただ汚くなって愛着が薄れていく工業製品に対して、使って、磨きこむうちに変化して、愛着が増していく、銘木を使った木製品の良さは大人だけに分かるものだと最近分かってきました。

大人の感じるモノの良さを7つも年下の青年の教えられることは悔しいですが、永田さんは木工家として15年間木に関わって生きてきましたし、工房楔を始めてからでも7年も経っているので、自分の信じる道で生きてきたということでは、私の先輩なのだと認めなければいけません。

永田さんと知り合って、木工家という生き方はとても苦しい、忍耐と体力のいるハードな生き方だと思いました。

自分が納得して作ることができる材料が見つかるまでいくら求められても作らず、杢の出方や個々の形にこだわるので、型を使わずひとつひとつの切削の作業に時間と集中力がいる。
大量の削粉でいつものどがイガイガしてしまう、指を失う人も珍しくない電動の危険な刃物を扱う。その上、全国で開催されるクラフト展に夜通し車を飛ばして駆けつけ出店したり、百貨店の職人市や物産展に参加して、大変な作業をしていない時はハードな旅をしているのです。

既に完成した商品を店に並べて、お客様に買っていただくだけの私たちから見ると、とても大変な仕事に思えます。
全国に木工家と言える人がどれくらいいるのか想像がつきませんし、永田さんに聞いても分からないと言いますが、インターネットで木工家のブログを検索してみると無数に見つかりますし、それらの記述から木工家を志すアマチュアの方はもっとたくさんおられるようです。

そんな中で、永田さんが大多数の木工家と名乗る人たちから抜け出すことができたのは、腕に磨きをかけ、良い材料にこだわり続けていることとともに、オリジナリティを追求し続けたからだと思います。

今、永田さんが取り組んでいるのは、完全オリジナル万年筆の製作で、金具、ペン先周りなど全て楔のオリジナルになっています。

今までの楔の万年筆よりもさらに銘木であることの良さ、デザイン的な美しさを兼ね備えたものが出来上がる予定で、9月19日から22日まで開催する今回のイベントにその外観サンプル(ペン先の完成は10月末予定)を見ていただくことができると思います。
常に高いレベルを求めて努力を惜しまない永田さんには、木目の美しさ、仕上げの良さに甘えない常に戦い続ける木工家の生き方を見ます。

当店の創業2周年記念の企画として、9月19日(土)から22日(火)まで工房楔のイベントを開催できることをとても誇らしく、有り難く思います。

夢の小箱 ル・ボナーデブペンケース

夢の小箱 ル・ボナーデブペンケース
夢の小箱 ル・ボナーデブペンケース

このペンケースを「ブタペンケース」と言い間違える人は、私を含めた関西の人に多いようです。
松本さんとこのペンケースについて話していて、話の最後に「うちのペンケースはデブペンケースです。ブタではないですから。ちなみに。はい。」と言われたことがありました。
関西人はデブというのをついブタと言い換えてしまいますね。

万年筆を数本だけ大切に収納し、持ち運ぶことのできる万年筆用ケースも良いですが、ひとつにたくさんのものを入れることのできるペンケースの中身を、自分なりのこだわりでコーディネートするのも楽しいものです。

鞄の中身の色を統一したり、機能的に整理したりすることがある種のロマンであり、ペンケースの中身を設えるのはその延長線にあるものだと思います。
私たちは1日の活動の中で、様々な細々とした文房具を使います。
そんな文房具たちをひとまとめにしておいて、それらを納めたペンケースを取り出せば、すぐに仕事に取り掛かることができるペンケースがいつも手の届く範囲にあればとても便利ですし、机の引き出しがいつも鞄の中にあるようで心強いと思います。
そんなペンケースは丈夫な革製であって欲しいし、人前に出して自分の演出にも役立つお洒落なものであって欲しいと思います。
そして、たくさんの小物が入ることが絶対条件です。

そんな条件に合い、ぜひ皆様にも使っていただきたいと思うのが、ル・ボナー製デブペンケースです。
私がこのペンケースに出会ったのは今から3年前でした。

まだル・ボナーの松本さんと出会ったばかりの頃、大和出版印刷の川崎さんが持っていたのを見せていただきました。
今まで見たことのない風変わりな形と大きさ、でも素人の私にも分かる作りと革の良さ。
私にとって、このペンケースの存在そのものがル・ボナーさんの存在を表していました。
このデブペンケースを扱いたいとその時から思っていましたが、やっと扱えるようになりご紹介できるようになったことに、新しい商品を扱い出したこと以上の感慨を持っています。

当店で3万円以上の万年筆を買っていただいた方に革の1本だけ入るペンケースをお付けしているのも、大切な万年筆をデブペンケースに入れていただくための役に立つようにと考えたものでした。

デブペンケースには、ブッテーロとシュランケンカーフの2種類の革があり、ブッテーロはキャメルにその特徴が顕著に現れるエージングを楽しめる革で、男性に好まれることが多いようです。
シュランケンカーフはカラフルで丈夫な柔らかい革で、傷に強いのも特徴です。
女性にも使っていただけるとてもお洒落な印象のものになっています。

ル・ボナーさんの女性用の鞄のシリーズのほとんどがこのシュランケンカーフで作られていて、コーディネートを楽しむこともできます。
このペンケースにいつも使う、あるいは持っているととても便利だと思う文房具を入れて、仕事場でも、自宅でも、外出先でも思いついた時にすぐに作業に取り掛かれることができるものになってくれると思います。

そしてこのペンケースにどのようなものを入れるか文房具屋さんであれこれ買い込むのも、本当に楽しいことだと思います。

デブ・ペンケース/ブッテーロ革
デブ・ペンケース/シュランケン・カーフ

リスシオ・ワン ダイアリー完成

リスシオ・ワン ダイアリー完成
リスシオ・ワン ダイアリー完成

先日からその進行状況を時々お話させていただいておりました、大和出版印刷のリスシオ・ワン紙を使ったダイアリーが完成しました。

ダイアリーは3種類あり、ウィークリー(見開き1週間)、マンスリー(見開き1ヶ月)、デイリー(1日1ページ)で、縦横15.8cmの正方形サイズになっています。
持っているところが美しく見えるということ以外にも、見開きしやすく、筆記スペースを確保しながら携帯性をも兼ね備えたサイズだと思っています。

細かい時間単位、分単位のアポイントが入ることが少ない私のように、移動せずに仕事している者にとって、時間軸に重点を置いたダイアリーは自分なりにアレンジして使う必要がありました。
それは時間ごとの細かなこれから何をするかという予定よりも、何があった、どのようなことをしたという記録の方に重点を置いた使い方が中心になるからでした。
1日1つか2つくらいの簡単な予定が書けて、記録を細かく書きたい。仕事もプライベートもこのダイアリーに全て収めたいという発想でこのダイアリーを企画しました。

リスシオ・ワン紙はペン滑りが良く、程よい最小限のにじみ、裏抜けのしにくさなどを兼ね備えた万年筆ととても相性の良い紙です。
更にこのダイアリーはページが開きやすくほぼ180度開くため、書き込む際にストレスを感じません。

表紙は比較的厚めの素材にして、記入時の安定性を考慮しました。
素材感が楽しめる紙を使い、それぞれ色の違うものにしていますが、ウィークリーは分度器ドットコムのブルー、マンスリーは大和出版印刷のグリーン、デイリーは当店のボルドーという意味合いになっています。

表紙に入っている、分度器と万年筆・ノートのイラストは、当店スタッフKのアイデアで分度器ドットコムの谷本さんと私が不慣れなイラストを描くことになり、2人とも悪戦苦闘しながら仕上げました。
恥ずかしながら、このダイアリーの目指す、自分なりに書く(描く)ことを楽しむという目的に合った表紙だと思っています。

分度器ドットコムの谷本さんは以前から正方形サイズのダイアリーを企画していましたが、なかなか実現が難しく、その企画を温めていました。
私もいつかは、と思っていたものの、現時点では難しいと思っていたので、谷本さんのパワーに感心していました。
そんな谷本さんの元に大和出版印刷と当店が結集することになったのは、大和出版印刷が開発した万年筆専用紙リスシオ・ワンの存在で、この紙でダイアリーを作るという企画に無理をしてでも参加したいと思いました。

当店で「万年筆で絵を描く」教室の講師をしてくださっている、神谷利男さんの描くことを楽しんでいるノートを見て、自分と万年筆の接点を振り返っていた時でもありました。
万年筆をなぜ使い始めたのか、それは「手帳をきれいに書きたい」からだったと思い当りました。

手帳を書くことは万年筆を使うことを楽しむことにつながり、それは趣味と言えるものかもしれないと思った時に、そのための手帳を作りたいと思いました。
仕事もプライベートも全て、同じ手帳に書いて、日常生活を豊かにしてくれる手帳、そんな手帳ができたら、万年筆を使う理由をより多くの人に提供することができるかもしれないと思ったのです。

1社だけで作るよりも意見を摺り合わせたり、方向性を決めたりすることは困難でしたが、大和出版印刷の多田さんが分度器ドットコムと当店の意見を取りまとめる大変な役回りを引き受けてくれて、何度も暗礁に乗り上げながらも完成させることができました。

今後、このダイアリーを活用するための革カバー(10月下旬発売予定)がル・ボナーの松本さんの企画、製作によって進んでいます。
ダイアリー本体だけに終わらず、さらに発展して、ダイアリーをコーディネートする楽しみもご提供したいと思っています。

私たちが企画したダイアリーが多くの方々のお仕事や家事、プライベートをより豊かにするお手伝いになればとても嬉しく思います。
使ってみていただいて、ご不満な点、改良するべき点などをお寄せいただいて、使われる方皆様と一緒にこのリスシオ・ワンダイアリーを来年以降もより使いやすいものにしていきたいと思っています。



*フリーデイリーダイアリー

旅に持ち出したオプティマ

旅に持ち出したオプティマ
旅に持ち出したオプティマ

2泊3日の東京への旅の準備に、着替えや洗面道具、財布などの必要な物の他に、まだ読んでいない松浦弥太郎氏の本を1冊(氏の主宰するCOWブックス訪問も予定に入れていました)、ほぼ日手帳(毎日つけている日記とスケジュール帳を兼ねている)、5×3カードを入れたジョッター(立ったままメモするのに便利で薄く荷物にならない)、そしてアウロラのオプティマを、鞄店ル・ボナーの店主松本さんが教えてくれたやり方で表面の艶を作り出した、同店の鞄に入れました。

他人が見ると特に見るべきもののない旅の荷物ですが、私なりにこだわりを持って考えて入れた旅の備えでした。
いつも持ち歩いている万年筆を全て持っていけば良さそうなものですが、荷物を少しでも減らしたいし、どれか1本に絞ってみるのも一興かと思いました。

オプティマを持って出たのには私なりに理由があって、1本だけを持って出掛けたということが、私のこの万年筆に寄せる信頼を物語っていて、感じ取っていただけると思います。

持っている中で、M450なら太い文字を気持ちよく書くことができて、旅先で葉書を書くことも快適ですし、ブログやコラムの原稿なども調子良く書けると思います。

また、ブライヤーならほぼ日手帳にも小さな文字を書くこともできますし、原稿に使うこともできます。

シルバーンならほぼ日手帳にもぎっしり文字を書くことができるほどの細字ですので、メモなど様々な用途に使うことが可能です。

最近愛用しているそれぞれの万年筆にも持って出るだけの理由はありましたが、それでも私は中字のオプティマを選びました。

ずっと持っていたものの良さを再認識することがたまにありますが、10年以上使っているオプティマのその良さを最近再認識したのです。

オプティマはインクとの相性が難しく、私が好むようなインクの伸びを得ようとするとインクを厳選しないといけませんし、ペン先は硬く時々鉛筆のような書き味と言われます。
しかし、程良く太いボディの持ち心地は柔らかいと思えるフワッとした金属のボディでは絶対に得られないものですし、硬いペン先は机で書くことが少ない旅先のシチュエーションで様々な角度で書いても、ちゃんとインクを出してくれ、スピードを上げて一気に書き上げる負荷のかかる状況でも耐えてくれました。

今回の旅で、私は常にメモを書き、夜ホテルの部屋で原稿を書き、行き帰りの新幹線でも書くことを止めることはないほど、万年筆をいつも手に持っていましたが、それはもしかしたら、オプティマを持って出たからなのかもしれません。

気持ちを伝える葉書

気持ちを伝える葉書
気持ちを伝える葉書

高校生の頃、夏休みの間中長野の母の実家で農業のアルバイトをしていました。
農業は肉体的にはきつく、忍耐力も必要でしたが、自分に合っているように思えました。しかし、高校生なら誰もが楽しい思い出を作るはずの夏休みに彼女と離れ離れになって、一緒にいることができなかったことだけが辛かったのを今でも覚えています。
24,5年前になりますので、携帯電話もEメールもありませんでしたし、仕事が終わった夜に彼女の家に電話することも気が引けました。
そんな私たちが連絡を取り合うには郵便しかありませんでした。
手紙をやり取りするようになって、手紙を出した後、返事が来るのがとても楽しみになりました。
その手紙のやり取りによって大いに励まされて、無事に夏休みのアルバイトを終えることができました。
そんな経験はもしかしたら、今の仕事を始めることに関係しているのかもしれません。

そうたくさん書くわけではありませんが、手紙よりも葉書を書くことが多くなりました。
以前はただ長い手紙を書くことが気持ちを伝えるのに重要だと考えていた所があり、たいへんな労力が必要でした。
最近はそうではなく、便箋何枚にも綴る長い手紙を書かなくても数行の言葉の中に相手を思う気持ちが表れていればいいのではないかと思うようになりました。
もともと私自身、饒舌に話をする方ではないということもありますが、より自分らしくありたいと思った形が葉書へのシフトでした。

しかし、私が葉書を再認識した一番の理由は、店を始めた時から届き出したあるお客様からのスケッチが描かれた葉書でした。
そのいつまでも大切に取っておいて、コレクションとしてファイリングしておきたいと思うほどの葉書を受け取って、それに対して返事を葉書で書くということが2年近く続いていて、こういうコミュニケーションのあり方は素敵だと思いました。
実際、手紙よりも葉書の方が書くのに時間もかからないので、筆不精になりにくいという利点もあります。

葉書を出すと当然様々な葉書を試してみるようになりました。
特に手紙に近い、葉書としては長い文章を書く時には無地の葉書を使うことになりますので、官製はがきや他の店で売られている葉書など色々書いてみましたが、結局は自分の店で販売しているライフのもので定着しました。

ライフの葉書箋は白い紙と黄色い紙のものがあり、白い紙はインクの伸びが良くて私にとってとても好きなタイプの紙でした。
それに対して、黄色い紙はにじみが少なく、正確な線を書かせてくれます。
かなり性格の違う紙なので、どちらの紙を選ぶかはかなり好みが分かれるところです。
無地の葉書箋の他に裏に絵や写真の印刷されたポストカードは、それを買うところから楽しむことができます。
値段が安いこともあって、最近ではポストカードを買うことが楽しい趣味になっています。
お土産屋さんには必ず絵葉書が売られていて、絵葉書は何か文化のように定着している感じがします。

また、葉書に貼る切手も柄に凝ったものを使いたくなると思います。
相手の好みや住んでいる場所などをイメージして、それに合う切手を使いたくなると思いますが、ほとんどの切手が期間限定の販売なので気に入ったものをすぐに買った方がいいかもしれません。

Eメールならほぼ無料なのに対して、葉書は50円かかりますし、ポストに投函しなければ届きませんし、届くのに数日かかってしまいます。
でも葉書にはポストに自分宛の葉書が入っていた時の嬉しい気持ちと、肉筆が伝える相手を思いやる気持ちも届けてくれます。
気軽に、こういうツールを使えるようになるのも、自分らしさかもしれません。

旅の備え

旅の備え
旅の備え

子供の頃の家族旅行は、タフな父を持ったせいで目的地を次々に巡る無茶な計画のために、宿に着いたら疲れて寝るだけというものが多かったように記憶しています。
それは今でも変わってなく、父と行動すると徹夜で車を走らせて目的地を目指すという日程が珍しくありません。
その影響で旅というのは時間の限り、たくさんの場所を回るものだと思い込んでいたところがありました。

しかし、歳をとったせいか、体力のない妻からの10数年の訴えのせいか、少し時間にゆとりを持たせて、日程をゆったり取って、早めに宿に着くようにして夕方や夜にのんびりできる時間を作るのも良いかもしれないと最近は思うようになりました。
ゆっくりすると決めた旅支度に入れたいのが、本とノート、そして万年筆でした。

バタバタと温泉に入って、会席の料理をお腹いっぱい食べて、ひかれた布団の上でいつもと同じテレビを見るよりも、いつもと違う環境で本を読んだり、旅の紀行文を書いたりするのは何て心豊かな時間なのだろうと思います。
本はあまり重くてかさ張る本は不向きかもしれませんし、長時間の集中が必要なものもあまり向いているとは言えません。
短い文章がいくつもある短編小説や細切れのエッセイのようなものが向いていますし、写真集のようなものも良いかもしれません。
本と同様に万年筆も全ては持ち出せないので、持っているものの中から厳選することになります。

落としたり紛失したりという心配もありますので、こういう時一番大切にしている万年筆はもしかしたら持って行かないかもしれません。
でもせっかくの旅先で気持ちよく書きたいので、書き味の良い、お気に入りのものを持っていきたいと思うのも人情です。

一番大切な万年筆を持って行くのかどうかは皆様それぞれのご判断ですが、荷物の中で押されて破損しないように頑丈に万年筆を守ってくれるペンケースに入れて行く必要があります。

ル・ボナーのペンケースは、全てのペンケースの中で、最も頑丈で中身を守ることができるもので、旅に持ち出すことによってその本領を発揮するのではないかと思っていました。
全ての部分において2枚重ねに張り合わされた厚いブッテーロの革を使用していて、柔らかく使い慣らすのにかなりの時間がかかると言われるほどハードな仕様はさすが鞄職人と思わせるものです。

旅にはカートリッジ式の万年筆が携帯性に優れているかもしれませんが、吸入式の万年筆を旅に持ち出すためのトラベルインクポットというそのままの名前のものがビスコンティの製品にあります。

日本人の短い休暇ではペンケースにちょうど入る万年筆と同じ大きさのインクポットというその発想はなかなか出にくいですが、休暇の長いイタリアならそのようなものも必要なのかもしれないと思います。話が旅から反れてしまいますが、トラベルインクポットはもちろん旅以外でもとても便利な存在です。

仕事場にボトルインクを常備しておく必要がありませんし、出先でインクが切れるかも知れないという不安から開放されて、気が楽になります。

旅行はなるべく荷物を少なくするべきだと思いますが、いろいろ持って行きたいものを置いて、本とノートそして万年筆をしのばせることは、忙しくて行ったという事実と記念写真しか残らない旅行よりも、ゆったりとした時間を過ごす、自分のイマジネーションを刺激する旅の始まりなのかもしれませんね。

ビスコンティ トラベルインクポット
ル・ボナー ペンケース

ヨーロッパ伝統工芸品の佇まい カランダッシュ エクリドール

ヨーロッパ伝統工芸品の佇まい カランダッシュ エクリドール
ヨーロッパ伝統工芸品の佇まい カランダッシュ エクリドール

デュポン・ディフィのボールペンの書き味が今までのボールペンとは違う、とても滑らかなものだということは、以前のこのコーナーでお伝えしました。
ディフィの登場によって、これでやっとカランダッシュ以外の選択肢ができたと思った方も多いと思います。

ディフィ登場以前の高級ボールペンにおいて最も書き味が滑らかなのはカランダッシュだということが業界の定説でした。
カランダッシュのボールペンに採用されている芯「ゴリアット」はカランダッシュもかなり自信を持っていて、筆記具の仕事に携わる私たちもそれを認めざるを得ない、他を凌駕するものでした。

しかし、ディフィのように他社と互換性のあるパーカータイプではないゴリアット芯はカランダッシュでのみ使うことができるもので、そのことからカランダッシュのボールペンの優位性を保ちながらも、その書き味の広がりを知らしめることを阻んできたのかもしれません。

カランダッシュのボールペンの中で一番人気のあるものがエクリドールのシリーズです。
比較的短めで、シンプルな六角形のボディはシャツのポケットにも入れやすく、使い減らした鉛筆のように握ることができます。
1953年発売(原型は1947年に完成)という歴史のあるモデルのため、デザイン的にも機能的にも他のボールペンとかなり違ってきています。
今では高級ボールペンはほとんどボディをひねって回転させることで芯を出すツイスト式になっていますが、エクリドールはノックボタンを押して芯を出すノック式になっています。

会議の席や静かな図書館などでガシャガシャとノック音を響かせることが下品だということで、静かに芯を出すことができるツイスト式が主流になっていったと聞いたことがありますが、カランダッシュのノック式は音がしない静かな作動により芯を出すことができます。
ボールペンにおいても、シャープペンシルにおいても、回転式よりもノック式のボタンを押す動作の方が私たちの感覚には自然に感じられますので、スピーディに、でも静かに芯を出したい時、エクリドールの機構はやはりアドバンテージが高いと思われます。

エクリドールの機能面について、ひとつひとつ挙げ連ねていくと、高級ボールペンの実用的な要件を全て満たしていて、このボールペンがいかに欠点のないものかということが分かってきます。
売れ筋として、ロングセラーを続けているものには何か理由があるということをエクリドールはちゃんと教えてくれるのです。

でも私がこのエクリドールの最も素晴らしいと思うところは、その佇まいにあると思っています。
銀張りの(スターリングシルバーモデルもありますが)ボディに彫刻された模様は時代によって変化していて、新しいデザインも意識していますが、ヨーロッパの伝統工芸品らしい上品な設えで、これで仕事をしたいと思わせる雰囲気があり、それがエクリドールの最も他から秀でたところなのではないでしょうか。

カランダッシュ エクリドール