この店が始まった時から、お金をいただいてペン先調整をしています。
今ではそれが普通のことになっていて、最初の頃の緊張感を忘れかけているのではないかと思いました。
今思い返すとよく始めることができたと思うけれど、唯一自分ができることで、世の中の役に立つことだから何としても仕事にしなければ、という必死な想いがありました。
道具も揃っていなかったし、自分では充分理解しているつもりだったけれど、今から考えるとやはり充分ではありませんでした。
やはり怖いもの知らずだったから始めることができたのかもしれません。
当時なかったペン先調整の機械も2代目になって、字幅を細くする時間も早くなったし、仕上がりも格段に良くなりました。
ペン先調整は、お客様がこの店に最も期待して下さっていることのひとつで、当店の生命線だと思っています。ペン先調整がなければ当店は続いてくることができなかっただろう。
有料でペン先調整をするということを、まだ始めたばかりの頃にチャンスを下さった皆様には特に感謝しています。
創業10年目にして手に入れた理想のペン先調整の機械は特に大切にしたいと思っていて、時間ができた時は入念に手入れをしています。
真円が狂っているとペン先が跳ねて調整しにくくなるので、そこらじゅうについている磨き粉を拭き上げて、ゴム砥石にやすりをかけて真円に近くします。
それから粗研ぎ用のやすりも交換します。
今の機械は2年前にペンランドカフェのオーナーだった高木社長に紹介していただいた機械製作会社のエンジニアの方に作っていただいたもので、とても気に入っています。
手入れをするとより愛着が増して、使うことが楽しくなります。
でも手で調整していた時から、ペン先調整は楽しくて仕方なかった。
自分の手で書きにくい、時には書けない万年筆が書けるようになるということが嬉しくて仕方なかった。
今も同じ気持ちのままペン先調整をしています。
時々、ペン先調整はどういう時にしてもらえばいいか、ペン先調整で何が変わるのかと質問されることがあります。
そういう時は、どういう不満があるのかをおっしゃっていただければ解消できるようにしますと、お答えしています。
お客様がそのペンのどういうところが不満なのか、そしてどこをどうすればそれが解消できるかを的確に見抜く力がペン先調整にとって必要な能力で、それはお客様のことを理解するという、サービス業においてすごく基本的なことと共通しています。
だから私にもできると今は思っています。
万年筆店にとってペン先調整は必須の技術なのではないかと思います。
ペン先調整ができるということは、ペン先の良し悪しを判断できる目を持っているということで、万年筆を扱う店として必要なことだと思います。
実際、万年筆を販売する店でペン先調整をしている店は少ない。
それが万年筆を使いたいと思った人が店に買いに行かず、値段の安いネットショップで買うということになっている理由のひとつになっています。
ネットショップではできないサービスができて、気持ちよく書くことができる万年筆を用意できたら、安心して万年筆を買うことができる店を探しているお客様はその店を選んでくれる。
そういった思いもあるし、自分が唯一できることを求めてくれる店があったということもあって、本当は自分の店で精一杯だけど、他所のお店の応援に出向くこともあります。
2月21日(木)・22日(金)は、新しくできた「なんばスカイオ」にあるKA-KU大阪店で、万年筆の販売応援としてペン先調整に行かせていただきます。
カクテルインク、オリジナルノート作成サービスなどをする新しいお店KA-KU大阪店も、万年筆を安心して買えるお店として知って欲しいと思います。
お店が違ったらそれはライバルなのかもしれないけれど、私たちはその前に万年筆の世界が注目してもらえるようにしなければいけないし、自分の店のライバルは、近くにある同業他社ではなく、例えば同じ元町にあるカメラ屋さんだったり、楽器屋さんだったりするのではないか。
趣味のものを扱うお店全てがライバルだと思うと、万年筆をカメラよりも、音楽よりも面白いものにしなければいけないと思っています。