パーフェクトペンシルの居場所

「趣味の文具箱」の清水編集長が、大人の部活「パーフェクトペンシルファンクラブ」を立ち上げられました。パーフェクトペンシルという存在にはずっと興味があったので、いいきっかけだと思い私も新たに購入して入会することにしました。

具体的な活動内容はまだ分かりませんが、何か面白くなりそうという思いと、入会したら送られてくる金属製の会員カードとPPのロゴが入ったパーフェクトペンシル用のエンドキャップも魅力でした。

会員カードはもう少し先になるようですが、エンドキャップはすぐに送られてきました。でももったいなくて使えず、持ち歩いているもののまだ一度も使っていません。

パーフェクトペンシルは調べてみると品薄な状態でしたが、何とか入手できたので、とにかく使ってみています。

今まで出かけるたびに買っていた安いシャープペンシルをジョッターにつけてメモ用に使っていましたが、その役割をパーフェクトペンシルに代えて使っています。

世界で最も贅沢な鉛筆は使っていて気分もいいし、今まで使っていた2Bや4Bとは違う、海外の硬めで滑りのいいHBの書き味も好きになりました。

パーフェクトペンシルを使っていて思うことは、早く短くして使い慣れた風にしたいけど、もったいなくて削れないというジレンマでした。

私は鋭く尖らせた鉛筆の書き味が好きなのですが、使って削るうち、イメージより早く短くなってきました。いい長さになったら鉛筆削りではなく、ナイフで芯だけを削って尖らせるようにしようかと思っています。

もったいないという言葉がこの鉛筆に一番相応しくない言葉で、庶民がパーフェクトペンシルを使うとこうなるのだというお手本を私がやっているのかもしれません。付属のシャープナーもまだ一度も使ったことがなく、昔から使っている小さな鉛筆削りを持ち歩いて削っています。

別持ちの鉛筆削りと消しゴムを使っていたらパーフェクトペンシルの意味がないと思われるかもしれませんが、これもパーフェクトペンシルの楽しみなのかもしれません。

パーフェクトペンシルに惹かれるのは、この「何かできそうな佇まい」ですが、何かと組み合わせてパーフェクトペンシルの居場所を作ってあげると、私たちの生活に溶け込んで自然に使える筆記具になると思います。

私は愛用のメモジョッターにパーフェクトペンシルがピッタリと収まりましたので、そこがパーフェクトペンシルの居場所になっています。

万年筆の筆跡に比べて鉛筆は薄いけれど、例えばアイデアなど確定的でないことを書き出すときには薄いくらいがちょうどいい気がします。濃く書きたければ力を込めればいいのです。

自分がこの鉛筆を手にした時、どんなインスピレーションを受けて、何が書けるかということに今はとても興味があります。いいおじさんが新しいおもちゃを手にした子供のように、書くこと、パーフェクトペンシルを持つこと、が今は楽しくて仕方ありません。

*現在パーフェクトペンシル自体が品薄な状態ですが、入荷したものをWEBサイトに掲載しています。

パーフェクトペンシル ブラック

パーフェクトペンシル プラチナコーティング ブラック

新たな選択肢「アウロラタレンタム・デダーロ」

イタリアや日本のメーカーの万年筆作りは、イギリスやアメリカで作られていた万年筆を模倣するところから始まりました。イタリアの古い万年筆メーカーも日本の古くからある3社もほぼ同時期に100周年を迎えるのは、当時イタリアと日本で同時発生的にそういう動きがあったからだと思っています。

そのイタリアと日本のメーカー、特にアウロラとパイロットは、今では万年筆の業界をリードする重要な存在になっています。

コロナ禍にあっても、アウロラの限定品攻勢は続いています。

アウロラの限定品の品番は、オプティマ365などの「オプティマ型」は定番のオプティマと同じ品番996と表記されます。(オプティマネロは997)。

ヴィアッジオセグレート(神秘の旅)シリーズなどの「88型」は品番888、スターリングシルバーを使ったアンビエンテシリーズに代表されるシリーズは品番946で表記され、それぞれの番号のうしろに名称を略したアルファベットがついています。

これらの限定品を代わるがわるに発売することで、私たちを飽きさせることなく今まできましたが、新しいパターンができました。

アウロラタレンタムは日本市場では廃番になってしまいましたが、本国では作り続けられている定番品で、このタレンタムをベースにした限定品デダーロが発売されました。

タレンタムはオプティマや88よりも一回り大きなレギュラーサイズの万年筆で、筆記性に優れた、書くことにおいて最もバランスが良いとされているサイズです。

タレンタムと同サイズの万年筆というと、ペリカンM800、モンブラン146、パーカーデュオフォールドなど錚々たる万年筆が揃う激戦カテゴリーですが、その中でもタレンタムはイタリア万年筆らしいデザインの良さで個性を放っていると思います。

アウロラがタレンタムを発売して、アウロラの吸入式でない本格万年筆を世に問うたのも20年以上前のことになります。その時はまだ、パイロットにカスタム845はありませんでした。

名品万年筆パイロットカスタム845とタレンタムは近いサイズで、カートリッジ/コンバーター両用式という機構も同じです。個性は違うけれど、満を持して激戦カテゴリーに参入したという点で、メーカーの想いは近かったのかもしれません。

アウロラの代表的な万年筆オプティマや88は、リザーブタンク付きピストン吸入機構というユニークな機構を備えていて、それがアウロラの特長にもなっています。

しかしタレンタムは、カートリッジ/コンバーター両用式というシンプルな機構でアウロラの深みのある書き味を楽しめるというところが価値だと思います。

書き味の良い万年筆は世の中にたくさんあるけれど、繊細な深みのあるアウロラの書き味と柔らかい中に粘りのあるカスタム845の書き味は抜群だと思っています。

今の時代、その国民性について言うのは時代遅れかもしれないけれど、日本人とイタリア人というのはともに繊細な感性を持ち合わせているから、この書き味を創り出すことができたのだと思います。

タレンタムの限定品デダーロは、彼の作った迷宮ラビリントスがテーマになっていて、テーマに沿った迷路のエングレイビングがキャップに施されています。

金属キャップの万年筆を尻軸につけて書くとかなりリアヘビーになると思われているかもしれませんが、88ゴールドキャップでも定評のあるアウロラの金属キャップはさほど重くもなく、通常のバランスで書くことができます。

初めてのアウロラとしても、安心してハードに使えるタレンタムデダーロという新しい選択肢ができました。

⇒アウロラ タレンタムデダーロ ブルー

⇒アウロラ タレンタムデダーロ ビアンコ

アウロラ Viaggio Segreto(ヴィアッジオセグレート) MATERA(マテーラ)

東京に出張販売に行った帰り、新神戸駅で新幹線を降りた途端に全身が包まれるような熱気と湿度を感じました。東京もかなり暑かったけれどどこかカラッとしていて、例えるなら東京は砂漠の暑さ、こっちは熱帯雨林の暑さということになるのだろうか。おそらくイタリア南部は、カラッとした暑さになるんだろう。

アウロラの新しい限定品シリーズが始まりました。シリーズ名はViaggio Segreto in Italy (イタリアの秘められたる旅)です。

イタリアの8つの神秘的な街をテーマにしていて、天冠と尻軸が丸い88がベースモデルです。

天冠・尻軸が丸い、いわゆるバランス型と言われる形の万年筆はたくさんありますが、アウロラ88の形は特に自然で美しいと思います。

アウロラはカレイドスコーピオシリーズでボディと同柄の素材の首軸を持った万年筆を発売し、この神秘の旅シリーズでもそれを継承し、発展させました。

イタリア最南端にあるマテーラは、岩山にできた自然の横穴を利用した洞窟住居サッシが有名で、8世紀から13世紀にかけてイスラム勢力から逃れてきた修道僧が住みついたと言われています。

マテーラの周囲では旧石器時代の出土品も発掘されていて、古くから人が住んでいたようです。

イタリアには1度しか行ったことがありませんし、マテーラもグーグルアースでしか見たことがありませんでしたが、ここに人が住んでいるということが驚きでした。陸から発見されにくいこの場所に移り住んできた人たちには、それぞれ事情があったのでしょう。

マテーラのサッシも南部イタリアの貧しさの象徴だったそうです。

20世紀になって、半ばスラム化したサッシの住民を移住させて、今の美しい場所に整備し直しました。自然の石灰岩から成るサッシ群の地下には広大な貯水槽があり、それをイメージした色を軸の色としています。

パッケージの細長いボックスの中にはターコイズブルーのインクと取り扱い説明書、そしてQRコードが描かれた栞が同梱されています。QRコードを表示させると、マテーラの街の映像が美しい音楽とともに流れてきます。

アウロラの強みは魅力的なテーマを美しい軸の色で表現できることで、首軸、天冠、尻軸全てのパーツを同じ素材にすることが可能です。それでさらに魅力を増したのではないかと思います。

アウロラの万年筆はペン先が馴染むまでに少しクセがありますが、そこはお任せいただければ、最初から気持ちよく書けるようにしてお渡ししています。軸の美しさに見劣りしないウットリする書き味を楽しんで下さい。

インクにも相性があるけれど、ローラーアンドクライナーのインクはアウロラに入れても快適にお使いいただけると思います。

先日、ローラーアンドクライナーの2022年限定インクディープパインフォレストが発売されました。

ラメ入りやフラッシュするインクを作らないローラーアンドクライナーは、今の時代において保守的な昔ながらのインク作りをするメーカーで、安心して使うことができます。

ローラーアンドクライナー本社のあるチューリンゲンの深い森をイメージしたディープパインフォレストも、ローラーアンドクライナーらしい渋い色合いのダークグリーンは定番品にはない色です。

あまり色の濃いインクは粘度が高くなるのか乾きが遅くなる傾向にありますが、ローラーアンドクライナーのインクは色の濃さと乾きの早さのバランスが取れているのでお勧めです。

⇒Viaggio Segreto(ヴィアッジオセグレート) MATERA(マテーラ)

⇒ローラー&クライナー 2022年限定インク Deep Pine forest(ディープパインフォレスト)

590&Co.さんの3周年と万年筆店のシャープペンシル

590&Co.(コクエンアンドコー)さんが3周年を迎えましたので、お祝いに3人でお店にお邪魔してきました。

当店の閉店後なので、お邪魔するのはいつも遅い時間になりますが、いつもお客様がおられます。木曜日と金曜日は22時まで営業されているので、仕事帰りに行きたくなる人も多いのだと思います。

王子公園近くにあった最初のお店に遊びに行った夜もものすごく暑かった。それからすぐに事情があって元町高架下に移転して、2周年を迎えた後に今の場所に落ち着かれました。

短い間に2回移転しなくてはいけなかったけれど、谷本さんは気持ちを切らさずに、その度にどんどんいいお店を作っていきました。

たった3年で590&Co.は有名になって、出張販売に行くとお客様が店先に並ぶほどの店になりました。

谷本さんのしていることを真似しても仕方ないけれど、その仕事ぶりや気持ちの持ち方には教えられることが多い。見習えるところは見習って、当店らしさについて考えています。

ずっと何を書くのも万年筆しか使っていなかったけれど、谷本さんが590&Co.を始めたあたりから鉛筆やシャープペンシルもいいなと思い始めて用途に応じて使うようになりました。

いろいろ使ってみてこれはものすごく良い、万年筆店らしいシャープペンシルにたどり着いたと思ったのがペリカンD400でした。

D400はそれほど大きくない軽めのシャープペンシルです。垂直に立てて書くことを前提にした製図用シャープのように前重心ではなく、万年筆のように中心にバランスがあるので、自然に寝かせて書くことができます。

D400に万年筆メーカーのシャープペンシルはこうあるべきだという主張を感じました。行き詰っている原稿を少しずつ書いたりするのにシャープペンシルはすごく使いやすく、万年筆と使い分けられると思いました。

芯が尻軸をノックして出てくるのも感覚的に操作できて、使いやすく感じます。何もかも自然な分特別感は少ないけれど、実は隠れた名品なのではないかと思っています。

芯は標準仕様は0.7mmでこのままでもノート書きにはいいかもしれませんが、0.5mmの機構に当店で入れ替えることもできます。私は使い慣れた0.5mmで使っています。

ペリカンD400はずっと以前から存在していたシャープペンシルですが、590&Co.さんというお店と出会うまでは顧みることがなかった。

学生の時や若い頃だったらこのシャープペンシルにこれほど惹かれなかったかもしれません。

実用的な渋い存在の、玄人好みのシャープペンシルです。

⇒ペリカン ペンシルD400

両店の個性を際立たせる

先日代官山で590&Co.さんとの共同開催による出張販売をしました。

代官山という落ち着いた大人の街が好きで、コロナ前までは毎年出張販売で訪れていました。3年ぶりに再開した出張販売でも代官山は外せないと思いました。

徒歩3分ほどの距離にそれぞれがギャラリーを借りて、両店それぞれで3300円以上お買い物して下さった方には、オリジナルミニエコバックをプレゼントしました。そうやって双方をご案内したせいか、両店を訪問して下さるお客様も多かったので、両店の参加が決まっている京都手書道具市・神戸ペンショーでも企画するつもりです。

このミニエコバックは、大和出版印刷さん、谷本さんの分度器ドットコムさん、当店の共同プロジェクトのオリジナル正方形ダイアリーが革カバーごとちょうど入るサイズです。

私は正方形ダイアリーをこのバックに入れて持ち歩きたいと思っていますが、皆様も何かの用途を見出していただければ何よりです。

いつもは東京に来ても、代官山周辺をウロウロするだけで神戸に帰ってしまいますが、今回は谷本さんと表参道でギャラリーを経営しているAさんを訪ねました。

そのギャラリーは、表参道と青山通りの交差点からそれほど離れていない静かな場所にありました。

新しくきれいな小じんまりとしたギャラリーは、人が4人ほど入ればいっぱいになるくらいのスペースで、いい空間でした。やり方次第で、心を通わせるいい場所を作ることができるかもしれないと思いました。

私も谷本さんも出張販売ではたくさんの商品を持ち込んで、借りたギャラリーいっぱいに商品を並べるというやり方をしているので、何か考え方を変えないとこういういい空間で出張販売はできないかもしれない。でも何かやりたいと思わせるAさんのギャラリーでした。

ギャラリー見学の後、Aさんの案内で表参道の裏手を色々歩いて見て回りました。

日本における最先端の情報を発信している街にあるお店は、どこもこだわりを持ってここで営業しているように見えます。ここに立ち並ぶお店のやり方に対して、私たちの出張販売や普段の営業はどうなのだろう。

もちろん、地方都市神戸にある当店と表参道の店ではやり方は違って当然だと思うけれど、もしかしたらすごく泥臭いやり方をしているのかもしれない。

賑やかな表参道周辺を歩いていろんなものを見ながら、自分たちの仕事について考えることができました。

Aさんには今回とてもお世話になりましたし、食事に同席して下さったKさんのお心遣いにも感謝しました。久し振りの上京が思い出深いものになりました。

590&Co.さんとの共同開催の出張販売を続けて、成功させるためには両店の個性は際立っている方がいいし、扱う品物も違う方がいい。神戸の実店舗も歩いて3分ほどの距離にあるので、重なる部分はなるべく少ない方がいいと思う。

当店の取引先は少ない方だと思いますが、その分強いつながりを感じさせるものをお客様に示したいと思っています。

同じ元町にある革小物を扱うお店、フリースピリッツさんのレンマバルコペンケースを扱い始めていて、代官山でも好評でした。

ミネルヴァボックスで有名なイタリアバタラッシィカルロ社によるプエブロレザーは、ミネルヴァボックスと同じようにはじめはマットな質感ですが、使い込むと艶が出てきて、劇的な色変化をします。少し小振りで、女性の鞄でも入るちょうどいい大きさと安定感のある形をしています。大きく滑らかに開くファスナーが付いている、使いやすいペンケースです。

神戸の工房で隅々まで気を配って丁寧に作られているペンケースは、細々とした雑多な文房具を入れてもいいし、大切なペンを当店のレザーケースSドーフィンに入れて、このファスナーペンケースにさらに入れてもいい。

当店は、こういうものを増やしていくべきなのだと改めて思っています。

⇒レンマ バルコペンケース(ペンケース3本以上収納TOPへ)

⇒レザーケースSドーフィン

~理想のペンシース~レザーケースSドーフィン

万年筆と同じようにボールペンも大切にしたい。

しょっちゅう買い替えていろんなものを使うわけではなく、これと思ったものを長く使いたいと思っています。

10年以上使ったのは、ファーバーカステルクラシックエボニーのボールペン。とても美しいボールペンで、この姿が気に入って万年筆とセットで使っていました。

昨年からはS.Tデュポンの、ディフィブラックブラッシュコッパーボールペンを使っています。

このボールペンを使い始めたのは、銅とブラックの組み合わせに惹かれたからです。デザインは私の持ち物の中では先鋭的なものですが、持ち心地の良さと素材に強さが感じられて気に入って使っています。

こういう気に入ったボールペンをそのまま持ち運ぶのではなく、ナイフを収める鞘のように、そのペンをより美しく見せてくれるケースに入れて持ち運びたいと思います。

ボールペンをより美しく見せてくれる、理想的な形の1本用のペンシース「レザーケースSドーフィン」を作りました。

よくあるタイプのペンシースかもしれませんが、微妙なラインにこだわったので、無駄がなく鋭い、美しい形のものができたと思います。

作ってくれたのはM6システム手帳やジョッターなどをお願いしている職人さんで、私のラフなスケッチから姿の良いイメージ通りのシースを作ってくれました。

使っている革はフランスの老舗タンナーレギャーマンのドーフィンという革で、エンボス加工した革に熱を加えて強くプレスした、張りのある、とても上品は印象の革です。

この革の張りがこのケースをより立体的で美しいものにしてくれていますが、これから色々な素材で作ってもらおうと、イメージを膨らませています。

ボールペンにピッタリな細めのペンケースですが、細い万年筆や小振りな万年筆(M400まで)も収めることができます。創業直後から当店を支えてくれた愛嬌あるデザインのカンダミサコペンシースは、すでに多くのお客様にお使いいただいています。そのペンシースととともに、選択肢が増えたと思っています。 

ペンを手に入れた時に一緒に使いたくなるレザーケースがまたひとつ新たに出来上がりました。

⇒Pen and message. オリジナルレザーケースS ドーフィンレザー

2012-2022・プラチナセンチュリーディケイド

プラチナはセンチュリー万年筆発売10年を記念して、センチュリーディケイドを発売しました。

10年前2012年は当店は創業5年のまだ始まったばかりの店でした。

創業15年経っても、まだ世の中の色々な流れに流されそうになったり、迷ったりしているけれど、それはきっと何年経っても変わらないのだろうと思います。

15年やってきたという感慨のようなものはあり、その15年の一部である10年を記念した万年筆には、その期間を共にしたという思い入れを持ってしまいます。

それにしても10年なんてあっという間だった。

半透明の軸で、重厚な黒金が多い国産万年筆とは一線を画したセンチュリーを発売したこと自体、プラチナの挑戦だと思いました。でも今では世の中に認知されていると思うし、このペンで万年筆を使い始めたという人を多く見てきました。万年筆を使う人を増やすことに大きく貢献した万年筆だと言ってもいいと思います。

センチュリーディケイドは、センチュリー万年筆の前作3776の最初のモデル「3776ギャザード万年筆」のギャザードボディをデザインとして取り入れたという特長もありますが、ペン先が新設計のものであるというところにプラチナの意気込みを感じますし、これからのプラチナの万年筆を予告しているとも思います。

筆圧のコントロールが要らないという使いやすさを考慮した、かなり硬めのセンチュリーのペン先よりも、ディケイドのペン先は穂先が細く長くなっていて、しなりを感じるものになっています。

センチュリーのがっしりとした感触も感じられるので、ペン先の厚みは変わらないと思いますが、硬い中に弾力を感じさせる、より昇華した書き味をディケイドで味わうことができます。

キャップの閉まりの感触も良いフィーリングをしていて、作り込まれた上質さのようなものを感じることができます。

やはりこの万年筆はプラチナのこの10年の集大成、そしてこれからの10年を期待させてくれるペンなのだと思います。

自分なりに激動だったと思い、あっという間に過ぎた10年を振り返るのは、手帳や日記、アルバムでもいいけれど、1本の万年筆でもいいのかもしれない。

ディケイドはそれぞれの人のそれぞれの10年を物語るペンになると思います。

⇒#3776 センチュリー 発売10周年特別限定モデル「ディケイド」

オリジナルM6手帳に合うボールペン

オリジナルM6手帳は、美しく見える姿にこだわって作っていただきました。

自然で無理のない姿を追究したら、オーソドックスなサイズ感になっていきました。

同じ型でサドルプルアップレザーとシュランケンカーフの2種類を作っていて、濃厚な雰囲気のものが好きな人と、スマートで洗練されたものが好きな人、両方の好みをカバーできるようにしています。素材を変えたら全く違う雰囲気の手帳になりました。

それぞれ別売で同素材のペンホルダーも作りました。そこに合わせるペンを考えていくと、どちらもモダンなデザインのものよりもクラシックな印象のモノの方が合うようです。個人的には、素材で言うとステンレスよりも樹脂系の方が合うと思いました。

私も今年からオリジナルのM6システム手帳を愛用していて、はじめはペリカンM400や古いエボナイトの万年筆を差して使っていましたが、すぐに書き込むことができるボールペンをこの手帳のペンホルダーに差しておきたいと思うようになり、今はファーバーカステルクラシックのボールペンを差しています。

ファーバーカステルもこの手帳の雰囲気に似合っていてとても気に入っていますが、手帳なので色分けして書き込みたい人もいるかもしれない。そう思って、この手帳に合う複合ペンも探してみました。

ボールペン黒赤とシャープペンシルなどが1本に入った複合ペンは日本製の独壇場と言って良いのですが、この手帳に合うクラシックなデザインのものは見当たらなかった。

海外のものに目を向けてみると、シャープペンシルはついていないけれど、ラミー2000の4色ボールペンはよく合っていました。

でももっとクラシックなものを探して行き当たったのが、カヴェコのディアマルチペンでした。

歴史のあるカヴェコのペンはたくさんの種類が発売されていて、カジュアルなイメージがありますが意外とクラシックなデザインのものも多い。ディアはそんなカヴェコの中でも50年代のペンの趣を持ったシリーズです。その中にまさかマルチペンがあったとは。

やっとこの手帳に合う複合ペンが見つかったと喜んでいましたが、ディアマルチペンは廃番が予定されていて、輸入元に残っているものだけとなります。

出会うのが遅かったのかもしれませんが、完全に無くなるまでは当店で扱っていきたいと思っています。

手帳とペンをコーディネートするのは楽しい。それは服装などと同じかもしれません。 大した服装をしているわけではありませんが、好きな靴を履いて、ファストファッションのものも取り入れて、好きで買った違うブランドのものを組み合わせて、自分らしいカッコができたら、それだけで出掛けるのが楽しくなります。

手帳に合うようにコーディネートしたペンを持って、出掛けていきたいと思います。

⇒カヴェコ ディア マルチペンゴールド

非金ペン先思想

万年筆は金ペン先であって欲しい、という想いを私たちおじさん世代は持っています。9金は嫌だけど、14金でも18金でも21金でもいいから、金ペン先の万年筆を使い込んで、そのペン先が育って柔らかくなっていくのを感じたい。

そこまで思わなくても、どんなにカッコいいデザインの万年筆でも、ペン先が鉄ペンだと候補から外れてしまうのが我々の世代でした。

それは時計が機械式であってほしいという、実用から離れたロマンのようなものに似ているのかもしれません。でも金ペンは非金ペン先にはない柔らかな書き味を持っているものもあるので、実用から離れたとは言えないけれど。

当店も金ペン先のものにこだわって扱ってきましたが、時代は変わってきていると思います。お客様にも、金ペン先でなくてはいけないというこだわりを持たない人が増えてきました。

非金ペン先の万年筆でも、良い書き味のものが出てきたということもありますし、非金ペン先であることで、良いデザインのものが安く買えるようになってきたということも理由なのだと思います。

金ペン先へのこだわりを捨てるつもりはないけれど、それ以上に今の時流に合っていない店にはなりたくないという想いの方が強いので、そういうものも取り入れてご紹介していきたいと思っています。

非金ペン先の万年筆が万年筆を趣味とする人に認められ出したのは、台湾のメーカーが質の良い魅力的な非金ペン先の万年筆を発売し出したからではないかと思います。

デザインに個性があって、しっかりした品質の万年筆を安い値段で発売したからこそ、世界中のお客様に受け入れられたのだと思います。きっと今まであった万年筆の価値観とは違う考え方で台湾の万年筆は作られているのではないだろうか。

台南ペンショーで、当時まだ日本で流通していなかったペンラックスを見かけてぜひ扱いたいと思い、ペンラックスのブースでgoogle翻訳と日本語で必死に話そうとしてドン引きされたことは苦い思い出だけど、今では縁あって日本の輸入代理店を通してペンラックスを扱っています。

最初に扱ったグレートナチュラルシリーズは、私のこだわりでわざわざ金ペン先に交換してもらいましたが、今は現地仕様のままで、スチールペン先の安い価格で販売することがこのペンらしいと思っています。

ペンラックスの新しいシリーズ、デルガドコレクションが発売されました。

モンブラン149とほぼ同じサイズのオーバーサイズ万年筆が中心だったペンラックスでしたが、スペイン語で「細い」を意味する「デルガド」コレクションは、モンブラン146ほどのレギュラーサイズの万年筆です。

華やかなデザインで存在感があるので、小さくなったことに気付かないくらいですが、手の大きくない人にはこれくらいのサイズの方が握りやすい。

今回採用したレジンの柄の効果もあると思いますが、ペンラックスの万年筆はさらに洗練されています。

アルミ削り出しで作られている丈夫な吸入機構はオーバーサイズのグレートナチュラルシリーズと同じで、ペンラックスのこだわりがデザインだけでないことが分かります。

ペンラックスデルガドコレクション、美しく魅力的な万年筆を多くの人に使ってもらえる価格で販売するには、非金ペン先でなければ実現できない。それがペンラックスの万年筆作りの思想なのだと思います。

⇒デルガドコレクション エウプロエア

⇒デルガドコレクション ベタ

札幌出張販売とローラー&クライナー

札幌の出張販売では、様々な海外のインクを卸販売している北晋商事さんのギャラリーをお借りしました。普段はオリジナルプリントの写真作品を展示されています。

狸小路6丁目という、神戸で言うと元町通6丁目くらいの商店街を行ききったところですが、200万都市札幌の中心にある商店街なので人通りも多く賑やかな場所で、その通りに面した建物の2階にそのギャラリーはあります。

北晋商事さんがいなければ、北海道で出張販売ができると思えなかったかもせれません。

他の業種の仕事をしていた北晋商事さんがインクの仕事を始めたのは、当店が創業したのと同じくらいの時期でしたが、当店は何も変わっていないのに対して、北晋商事さんは今では日本中のお店にインクを卸しているとても有名な会社になっていて、社長の商才の違いでこんなにも差が出るのだと思いました。

金敦也社長の奥様の申修靜さんがカリグラファーで、インクやカリグラフィ用品の輸入を始めたのが始まりだったそうですが、当時は万年筆のインクが今ほど目立った存在ではなかったので、金社長には先見の明があったのかもしれません。

北晋商事さんが輸入するインクの中心となっているもののひとつがローラー&クライナーです。

少し前発売されてあっという間に完売してしまった、ローラー&クライナーの「青騎士」という限定インクがありましたが、その企画を10年前に持ち込んだのが金社長です。先日の青騎士は10年ぶりの第二弾でしたが、最初に発売した青騎士という企画インクがあったから、ローラー&クライナーは毎年何らかの限定インクを作り続けているのだと思います。

ローラー&クライナーのインクについては、私も最初ピンとこなかったけれど、お客様からの情報もあって当店でも扱いたいと思い、直接電話して取引を申し込んだのが金さんとのお付き合いの始まりでした。

特徴的な色のセンス、どの紙にも使える筆記性能、安心して使える品質、コストパフォーマンスの高さなど全て兼ね備えたインクで、信頼できるインクのひとつになっています。

私自身がインクを選ぶ時、最近はメーカー純正、当店オリジナルインク、ローラー&クライナーの中から選ぶようになっています。もうひとつの当店のオリジナルインクのように思うようになったのは北晋商事さんとのご縁もありますが、それを抜きにしても純粋にお客様にお勧めしたい良質なインクです。

今回の出張販売でも、最も売れていたインクはローラー&クライナーで、新しいインクが次々と出てくる中、その人気は不動のものだと思いました。

1892年にインクの製造を始めたローラー&クライナーは、今年ちょうど創業130年という節目の年を迎えていて、バーディーグリーズ、サリックス、スカビオサなど全てインクの中でも定番と言える存在を持つほど力のある会社になっています。

カリグラフィー、絵画を描く人、万年筆を使う人のために良質なインクを提供すること、環境にも配慮したモノ作りをする心を持っていて欲しい、と万年筆やその周辺のモノを作る会社に対して思います。

万年筆というのはやはり自分達の生き方を表現するモノだと思うから、尊敬できる会社に作っていてもらいたい。ローラー&クライナーもそんな風に思える会社のひとつです。

⇒ローラー&クライナ- ボトルインク