プラチナ富士雲景シリーズ「鱗雲」とプラチナ万年筆の矜持

いつも神戸の店舗で仕事していますので、あまり外に出ることがありません。それでも年に2,3度は出張販売で首都圏に行くことがあって、東京までなら調整機を持ち運ぶのに便利なので新幹線で行きます。

590&Co.の谷本さんと新幹線に乗るようになって、車内のワゴン販売でアイスクリームとホットコーヒーを買う楽しみを知りました。行きも帰りも、乗れば必ず買っています。

売店で買ってもよさそうだけど、車内販売で買うのがささやかな贅沢で、新幹線の旅ならではの優雅な遊びのような気がしています。

新幹線に乗った時のもうひとつの習慣は、富士山を撮るというものです。

そろそろと思ったらスマホで現在地をチェックして、逃さず富士山を撮っています。これは大抵の人がしていて、日本人なら撮らずにはいられないのだろうと思います。

でも日本人に限らず外国の人も写していることが多く、富士山には高さだけではない魅力があるのだと思います。

晴れていて、黒い富士山が裾野から山頂まで見えたら珍しい。ほとんどの場合山頂には雲がかかっていて、見ることができません。富士山と雲は一対の景色になっています。

だからプラチナの新しい限定品の「富士雲景シリーズ」というものが始まった時になるほどと思いました。

シリーズの最初は「鱗雲」です。富士山の頂に鱗雲が敷き詰められた風景を私は見たことはないけれど、青黒い富士山と白く輝く鱗雲をその万年筆は表現していることがよく分かりますし、万年筆としても美しく仕上がっていると思います。

古くからのプラチナのファンは細字を好む人が多いように思っています。

硬くしっかりとしたペン先と程よく抑制されたインク出で、くっきりとした細字が書けるのがプラチナの万年筆の特長で、メモ帳に細かい字を書くならプラチナセンチュリーが向いていると思います。

プラチナの細字へのこだわりは字幅のラインナップに表れていて、定番モデルセンチュリーには他社にはない超極細が用意されています。

字幅の種類を減らす傾向にある万年筆の中にあって、プラチナは万年筆が仕事の道具として使われていた頃の名残を守っていると嬉しくなります。

時代の移ろいか、新幹線の車内でのワゴン販売も廃止されるようです。

そういうなくなっても大きくは困らないけれど、あって欲しいと思う人もいるというもの、余分に感じるものはなくなっていく時代なのだと思います。

そういう時代だからこそ、古くからの万年筆のあり方にこだわるプラチナの矜持に共感せずにはいられません。

⇒プラチナ富士雲景シリーズ「鱗雲」

スタンダードを教えてくれるペン

人が良いと言うモノでも、それが自分にとっても良いモノかどうかは分かりません。

例えば、ネットの記事や雑誌などで良いと言われている革靴をお金を貯めて買っても、それが自分の足の形に合っていなければ自分にとっては良いものではなくなります。

自分の足に合ってすごく良かった、というものは結局自分で見つけるしかない。

でもそうやって見つけたものは、人生の宝物と言えると思います。

日頃万年筆やステーショナリーをお勧めしているのに身も蓋もないと思われるかもしれないけれど、靴や服ほどでなくても、万年筆でも同じことが言えると思います。

万年筆販売のプロとして、ただ良い、と言うのではなく、中身のあるなるべく公平な見解をお伝えしたい。

そのモノを知る時にまずスタンダードを知るべきだと思います。

万年筆もスタンダードと言えるものをまず使って、標準を知ることでもっと自分に合うものを探すことができるかもしれません。

私は万年筆のスタンダードとして、頑なにペリカンM800をお勧めしてきました。これは一般論を言っている訳ではなく、自分がM800をずっと使ってきて実感していることです。

重量も軸径も万年筆の標準的なサイズで、これよりも大きければオーバーサイズ、これよりも小さければ小振りな万年筆と言える。重さもこれ以上であれば重い、これ以下では軽いと言うことができる、本当に基準となるサイズだと思います。

M800に限らずペリカンの特長のひとつに、自社インクはもちろん、他社インクでもスムーズに書けるということが挙げられます。

インクを色々変えて使う人なら経験があるかもしれませんが、それまで気持ち良く書けていた万年筆がインクを変えた途端に書きにくくなったりする。

それはインクの粘度や粒子の大きさとペンとの相性によるものですが、ペリカンは多少の出方の差はあっても気持ち良く書けることが多い。

自由にインクを変えることができて扱いやすいペンと言うことができます。

私もまだ万年筆をペリカンM800を1本しか持っていなかった時、インクを色々入れ変えて使って、インクの性質の違いをつかむことができました。

M800は標準的なサイズだと言いましたが、それまで軽いペンを使っていた人には重く感じられるかもしれません。その場合はキャップを尻軸にはめずに持つと軽くなって、使いやすく感じるかもしれません。

そうやって使っていくうちに、キャップを尻軸にはめてペンの重みで楽に書くという、万年筆ならではの書き方もできるようになっていき、万年筆の書き方も教えてくれるペンでもあるのだと言えます。

お手紙向上委員会が年4回発行している「ふみぶみ」というフリーペーパーがあります。当店でも店頭に置いてお持ち帰りいただけるようにしています。

手紙を書くことを楽しむ人を増やしたいという志を持って発行されている内容の充実した冊子で、現在15号まで発行されています。

私も創刊号から寄稿させていただいていて、毎回好きなことを書いているのですが、ふみぶみの次号、16号でもペリカンについて書きました。

ペリカンはコロナ禍とウクライナ戦争の影響をもろに受けて、製品供給がままならず、かなり苦しんでいました。この三年間、日本中の売場からペリカンの万年筆が消えてしまっていた。

先日ペリカンの親会社が、インドネシアの会社からフランスの会社の変わったという記事が新聞にも出ていました。それでペリカンの状況が良くなって欲しいと思っています。会社が変わっても、変わらずスタンダードを教えてくれ、安心してお客様にお勧めできる万年筆を作って欲しいと願っています。

⇒Pelikan TOP

綴り屋の世界観

出張販売は旅に出られるということと、他所の街のお客様と親交を深めることができるということもあって、個人的にも当店としてもなくてはならない大切なイベントになっています。

昨年から590&Co.の谷本さんと共同開催の出張販売を始めましたし、今年からは当店の森脇も出張販売に同行するようになりましたので、今までの一人旅とは違う、賑やかな旅になっています。

しかし絶対に失敗できない、というプレッシャーはどうしてもあって、初日が始まるまでの緊張感は何度経験しても軽くなることがありません。

短期決戦でもある出張販売では、何か話題になるものをと思って、色々多めに仕入れたり、新しいものを企画しようとしたりします。

出張販売に出ることで外に意識が向いてしまうと思っていたけれど、むしろ店の活性化にもつながることだと考えるようになりました。

たった数日のイベントで大量に仕入れたものを完売することはないので、イベントが終わったら店での話題商品になると思っていますし、外に出て仕事をするのは、自店について客観視するいい機会になっていると思います。

先日の代官山のイベントでは、綴り屋さんのアーチザンコレクションという斬新なデザインの万年筆に人気が集中したため、それ以外のものはほぼ持ち帰ってきました。

例えば出発直前に綴り屋さんから託された「月夜」の漆塗りのシリーズは、綴り屋さんと同じ塩尻市の塗り師小坂進氏が手掛けられたものですが、綴り屋さんが表現したかった極限まで削ぎ落としたようなシンプルな世界観に沿った表現がされているように思います。

螺鈿の潔いまでのシンプルさは月夜というシンプルな造形の万年筆にこそ合うものだと思いましたし、石目や溜塗も、その深みのある仕上がりをいつまでも見ていたくなります。

もうひとつの名品「漆黒の森」は、書くための道具である万年筆の機能を追究した、綴り屋さんの万年筆の中でも最も渋い万年筆だと私は思っています。

金属をなるべく使わないようにして作られた軸は、太めなデザインであるにも関わらず20グラムもありません。この軽さには柔らかいペン先が合うと思いました。

当店の仕様では、パイロットの14金のペン先を調整して取り付けています。

「漆黒の森」は、当店の万年筆の品揃えの中でも定番的に持っておいて、多くのお客様にお勧めしたいものだと思っています。

アーチザンコレクションで新しい可能性の扉を開いた、綴り屋さんの万年筆。独特の雰囲気があって、当店はその世界観に共感していて、大切にしたいと思っています。

⇒綴り屋・TOP

お手本集がもたらす静かな楽しみ

2021年に第一集を発売した堀谷龍玄先生のペン習字お手本集の続編、「続万年筆で書く龍玄手本集」が完成しました。

先日の代官山の出張販売では、ご購入いただいた方に、特典として「年賀状」か「暑中見舞い」文章のお手本をお渡ししました。

出張販売では初めての試みでしたが堀谷先生も同行して下さいましたので、そのお手本の裏に、その場でご購入された方のお名前を書いていただきました。

楷書、行書、草書の中からお好きな書体を選んでいただいて書かれていましたが、ほとんどの方が楷書を選ばれていたようです。

楷書できっちりと自分の名前を美しく書きたいと思っておられる方が多いことを改めて認識しました。

私も日ごろから、せっかく万年筆を使っているのだから自分にしか読めないような文字ではなく、はっきりとした端正な文字を書きたいと思っています。

それに草書、行書の続け字よりも、整った楷書の文字で自分の名前を書くということが、最も相手に敬意を表明した書体であると思っています。

そんな私の希望もあって、今回の手本集では中国の古典、蘭亭序と九成宮醴泉銘のお手本を載せていただき、書道の気分を味わいながら楷書の練習ができるようにしました。

端正な楷書を書きたいと思った時に、プラチナセンチュリーなどの硬いペン先の万年筆が合っているように思いがちですが、堀谷先生のお手本ではカスタム743フォルカンなどの極端に柔らかいペン先の万年筆で楷書のお手本が書かれています。

楷書だからこそ、フォルカンのような柔らかいペン先で強弱をつけて書くようにするのだということを前回のお手本集で知りました。

美しく文字を書くには、インクも重要です。

堀谷先生は、文字が締まって美しく見えるということで黒インクを勧めておられますが、黒インクの中でも少し薄めの当店オリジナルインク「冬枯れ」を愛用して下さっています。

冬枯れは乾くと少し黒味が引くインクなので、運筆の濃淡が表現でき、筆圧がかかったところは濃く、力を抜いたところは薄くなって文字が生き生きします。冬枯れはペン習字の練習を楽しくしてくれるものでした。

この手本集の原稿書きに使われているのは主にツバメノートの立極太罫ノートで、他にはない太い縦罫線と、滑らかでにじみの少ない自然な書き味を持っています。当店でのペン習字教室では、この2種類のノートを使ってお稽古しています。

ぜひお手本集と冬枯れ、ツバメ立極太罫ノートのセットで美しい文字を書くお稽古を楽しんでいただけたらと思います。

万年筆で美しい文字を書く練習は、静かな楽しい時間を過ごすことができます。それこそが当店がいつも提案したい大人の万年筆の楽しみだと思っています。

⇒「続・万年筆でかく 龍玄手本集」

⇒オリジナルインク「冬枯れ」

⇒ツバメ縦罫ノート(ノートTOP)

S.T.デュポンの伝統とトレンド

万年筆専門店をしているけれど、なるべく世界のことを知るようにして、少しでも広い視野で自分の仕事を展開したいと思っています。

今の当店の在り方がそのような視野の上に成り立っているようには見えないかもしれません。でもただ万年筆のことだけを考えるのではなく、世情を掴んで色々なモノのトレンドを知った上で、それらと自分の信念とのバランスを取って世界の中で万年筆について考えたいと思っています。

そんなふうに考える私にとって、S.T.デュポンのモノ作りは大いに共感できるものです。

S.T.デュポンは、ペンに力を入れて展開するブランドだけど、旅行用トランクに代表される最高級の革製品作りからこの会社が始まったことや、ブランドの中心にライターがあって、ファッションや文化の中でのペンについて追究しているからなのだと思います。

S.T.デュポンの定番にして代表的なペン「ラインD」は、ライターのような塊感のあるしっかりとした作りのペンで、S.T.デュポン伝統の純正漆が施された高級感のあるシリーズです。

漆の温かでピッタリと手に吸い付くような質感は、金属軸の冷たさを補って余りあるもので、最高の組み合わせに思えます。

カチッと気持ち良くはまるキャップに表れている精度の高い作りも魅力で、このラインDこそ最もデュポンらしいペンだと思っています。

しっかりとした作りと高級感を両立したラインDによって、S.T.デュポンが古き佳きモノ作りのハートを今も持ち続けていることが分かります。

当店は「万年筆店」として皆さまに認識されていると思いますが、書くことが楽しくなるボールペンも私なりに見つけ出して揃えておきたいと思っています。

数は少ないけれど、決定的な力をもつボールペンは何かとよく考えていて、最近私が注目しているのはディフィのシリーズです。

ラインDのモノ作りとは少し違った、その時々のトレンドを取り入れて変化していくディフィシリーズは、このペンのデザインの変遷を追いかけているだけで面白い。

発売当初は、デザインは良いけれど少しクセがあって、書くことに慣れるまで少し時間が必要でした。

しかし、ディフィミレニアムというシリーズになり、オーソドックスな握り心地になりました。

細く長いクリップは使いやすいし、まだ世界でも一般的ではなかったイージーフローボールペン芯を真っ先に採用したのも、このディフィでした。

ディフィを追いかけることで世界のモノ作りを知ることができると思っています。

伝統を守り、S.T.デュポンらしく進化するラインDと、トレンドに合わせて次々に変化するディフィ。

2つのデュポンは良いペンだと思いますし、モノとしての面白みもあるペンだと思っています。

⇒S.T.デュポン TOP

*来週は代官山に出張販売中のため、次回更新は7月21日(金)です。

バゲラシステム手帳とペンケース~夜Ⅱ・庭~

バゲラのペンケースは、私たちや革製品に詳しい当店のお客様方にも、相当なインパクトを与えた作品でした。

同じような形のペンケースは他にもあるかもしれませんが、革の組み合わせやステッチの使い方など、ひとつの造形作品のような印象を持ちます。そしてそのセンスこそが、このペンケースのオリジナリティだと思いました。

ペンケースの次は何を作りましょうか、と高田さんが聞いてくれましたので、それならバイブルサイズのシステム手帳を、と答えました。

ペンケースと同じようにシステム手帳は大切に思っている人が多く、バゲラさんのペンケースのようなシステム手帳を望んでいる人は自分以外にもいるはずだという確信がありました。

そしてペンケースとセットで持ちたくなるシステム手帳が完成し、今年の3月から販売を開始していますが、やはり気に入って下さる方が多くおられます。

「夜Ⅱ」は、「夜」というコンセプトのシステム手帳に使っていた高田さん秘蔵の革がなくなってしまいましたので、革を変えて「夜Ⅱ」として新たに作っていただいたものです。

牛革のヌバックを揉んで風合いを出したものをメインに、ペンホルダーにはパイソン、ベルトとベルトループには斑の大きく違うクロコを使って、濃厚な夜の雰囲気を纏ったものになっています。全て手縫いで作られていて、一筆書きのように通されたシングルステッチが景色になっています。

「庭」のコンセプトでもバイブルサイズのシステム手帳とペンケースが出来上がりました。

アンティーク風にパティーヌ加工したアンティークゴートをメインに、ベルトはクロコ、ベルトループには渋い色のオーストリッチ、ペンホルダーはパイソンの革を使用しています。

エキゾチックレザーを贅沢に使いながらも自然の中にあるような色彩にまとめられていて、草花と土の庭の風景がイメージできるものになっています。

大量生産品ではなく、限りのある革を使って1つ1つ時間をかけて作っているため、1つのコンセプトで多くても10数冊しか作ることができません。

途中からバゲラさんのシステム手帳とペンケースにシリアルナンバーを目立たないところに入れてもらうようにしています。

バゲラの高田さんご夫妻が出来上がるたびに持参してくれるひとつひとつのものとの出会いは私たちにとっても特別です。

お花やお菓子を持ってきて下さることもあって、出来上がった作品を納めてくれる時間自体が特別なものになっています。

バゲラの革製品はひとつずつ特別な想いと時間を経て、お客様の手元に渡る。

ひとつひとつの時間と想いを刻んだシリアルナンバーはこういうものにこそ合っていると思います。

当店は自分たちの仕事と気持ちのペースに合ったモノに出会えたと思っています。

⇒バゲラ~革製品オーダー専門店TOP

速やかにさりげなくメモを取るためのジョッター

生活の中で、最小の動作で速やかにメモを取りたいと思うことが多いと実感します。移動中のバスや電車の中でアイデアを思い付いたり、やることを思い出したりした時には、すぐにメモに書いておきたい。

それらをまた思い出そうとすると時間がかかってしまうし、もしかしたら二度と思い出せないかもしれません。

スマホのメモ帳に書いておいてもいいかもしれないけれど、私の場合はあまりスマホは開けない方がいいと思っています。

私たちの仕事は、情報を得ることも大切ですが、オリジナルの発想力も大切だと思っています。

インターネットの中の広い世界を知らずに、自分の頭の中だけと対話していても限られたモノしか生み出せないと言われるかもしれないけれど、何かを考える時にスマホを見て上手く行ったことがありませんでした。

それよりも、普段お客様方と話したり、色々なものを見たり聞いたりしていることがインプットで、自分の中に既にあるそういうものを集めて形にしていくことがそれぞれの事情に合ったオリジナルのアイデアを生み出すことなのかもしれないと、この齢になってようやく思うようになりました。

だから歯を磨いている時や風呂の中など、無心になれる時ほどメモを書きたいと思うシーンが訪れるのだと思い当たりました。

そういった私なりの事情があるので、なるべくスマホは開けず自分の頭の中だけで考えたい。そうなると、アイデアは手で何かの紙に書いておく必要があります。

「ジョッター」は、とても使いやすく古くから使われている趣のある文房具です。

メモを大切に考えているので、当店もジョッターをオリジナルで作りたかった。そしてどうせ作るなら、当店なりのアイデアのあるものを作りたいと思いました。

当店がこだわってよく使う革、サドルプルアップは光沢のある美しい銀面を持った革です。サドルプルアップで色々な商品を作りたいと思っていたので、ジョッターにも採用しました。

ジョッターを取り出すだけで速やかに、さりげなくメモが取れるよう、ペンホルダーを付けました。

ペンホルダーには細めのペンを入れるようになっていて、ファーバーカステルクラシックコレクションのボールペン、ペンシル、パーフェクトペンシルなど直径10ミリ前後のものをイメージしました。

こういう用途にファーバーカステルを持ち出してくるのも当店のこだわりで、実用性はもちろん、デザインも良く、こういうものをメモや手帳に使っていただきたいと思っています。

メモとしてのコンパクトさと、書き込める面積のバランスの良い、M6システム手帳のリフィルがセットできるようになっています。

手帳リフィルを使うことで、メモが散逸せずにメインのM6手帳に綴じることができます。

手帳に挟んでおくのにもいいサイズ感ですし、男性でしたら服のポケットにも入ります。

メモという言葉にロマンを感じて大切に思っています。1つのメモが形になって発展し、大きな仕事となっていくことがあるからです。

⇒M6サイズジョッター

ペリカンM800グリーンデモンストレーター発売

モンブランとペリカンはよく比べられて語られることが多いと思います。

世界にはたくさんの万年筆があるけれど、この2つの会社に関してだけは、売上が1位と2位というわけではないのに、ペリカン派とモンブラン派に分かれて論争されている。・・と言うとさすがに大げさだけど、お客様と話をしていると両派に分かれる気がしています。

どちらもドイツの老舗メーカーで、現在もハードな仕様にも耐えうる良い万年筆を作っています。

しかし2つの会社が辿ってきた道はあまりにも違っていて、対照的にさえ思えます。

モンブランは早い段階でファッションブランドの傘下に入って、筆記具のメーカーと言うよりもファッションブランドと言える存在になっています。

ペリカンはあくまでも文具メーカーであり、多くの一般ステーショナリーや学童用万年筆も作っています。

モンブランが目指す万年筆のあり方はファッションのアイテムにもなる万年筆で、ペリカンは文房具の中のひとつとしての万年筆を示してきました。

私たちはもしかすると、モンブランというブランドに対してエリートの象徴を見て、対するペリカンに庶民性を見ているのかもしれません。

ペリカンの定番モデルには、縞模様やクリップにあしらわれたくちばしなど遊び心があって、シンプルで真面目な雰囲気のモンブランとは少し違います。大人の余裕のようなものが感じられて、惹かれる方も多いと思います。

勝手に庶民の象徴に祭り上げてしまったペリカンですが、その使用感は万年筆の王道と言えるものだと思っています。

今のペリカンの最も代表的な万年筆「スーベレーンM800」は、硬すぎないガッシリしたペン先と適度な重量感のある万年筆で、最もリラックスして自然に書ける万年筆の筆頭だと思っています。

何も気にせず書くことに集中できる万年筆は、モンブランで言えば149ですが、ペリカンはそんな万年筆を149の半分の価格で作っています。

コロナ禍の影響はペリカンにも強く作用して、一時は全く流通していない状況が続いていましたが、今年になってやっと戻ってきました。

やはりペリカンのない万年筆売場は寂しいし、万年筆のお手本だと信じているM800を皆様にお勧めできないのは不本意でした。

定番モデルも少しずつ揃うようになってきましたが、最近の話題は限定生産品M800グリーンデモンストレーターです。

M800の縞模様は、生産の効率化・耐久性の向上を目指して透明部分がブラックに変更され、インク残量が見えなくなりました。インク残量を確認しながら万年筆を使いたい人にはM800グリーンデモンストレーターの発売はとても有難いと思いますし、何よりも大量のインクの存在を感じながら書く安心感を味わわせてくれます。

万年筆は豊かでラグジュアリーな雰囲気を味わえるモノが多く、その部分に憧れる人も多いかもしれません。しかしペリカンは万年筆は書くための道具、筆記具であることを常に忘れず、自分の手を動かして仕事している我々庶民のものであり続けようとしているように思います。

⇒Pelikan M800グリーンデモンストレーター

ペンスポット・ボルトアクションボールペン「gate811」

私が車の免許を取るために自動車学校に行っていた時は、ミッション車が標準的で、オートマチック車に乗れる時間はわずかでした。オートマは操作がとても楽で、ミッションのようにクラッチ操作をミスしても、ロデオのようにノッキングすることがないので、その時間を楽しみにしていました。

でも乗っていた車は2台目までミッション車で、それは運転を楽しむというよりも、オートマよりも値段が安いから、そして燃費が良かったからでした。

オートマの性能がそれほど良くなかったのかもしれませんが、ミッション車に乗るのが普通の時代でした。

しかし、気がついたらオートマ車がほとんどで、ミッション車の方が珍しいくらいになっていました。

車を走らせるために変速レバーをガチャガチャと動かしたり、渋滞の時はクラッチを調整する足が疲れるミッション車が当たり前だったのに、今ミッション車は趣味で乗る車になっている。

書くことも似たような状況かもしれません。

昔はパソコンなんて職場になく、商品を発注するにも紙に手書きをしてファックスを送らないといけなかった。何かする時は手書きをするということが普通でした。その時はもっときれいな書面でファクスを送りたいから、活字にしたいと思っていたし、はじめて自分が書いた文章をプリンターで印刷した時は、別人が書いたようにきれいで、とても嬉しかった。

でも仕事ではコンピューターに打ち込みすることが当たり前になって、手書きの書類を見ることはほとんどなくなりました。

気が付いたら手書きをしなくても生活は成り立つようになっていて、日常的に手書きをする人は、好きで書く人・書くことが趣味だと言える人がほとんどになっていました。

私もそうですが、書くことが好きな人は万年筆だけでなく、どんな筆記具を使ってでも書いていたいものです。

むしろたまにボールペンを使ったりするのも気分が変っていいと思いますし、仕事中は私でも万年筆よりもボールペンの方が使いやすいと思います。

だから当店はボールペンも提案したいと思います。

時計作家のラマシオンの吉村恒保さんが作るボールペン ペンスポットgate811が久し振りに入荷しました。

ハンドメイドの時計やジュエリーの製作もしながらなのでなかなか出来上がらず、前回から1年近くの月日が過ぎてしまいました。以前軸中央にあったリングがなくなって、継ぎ目のない一体型構造にモデルチェンジしています。

芯を出す時は、車のシフトレバーを操作するようにノックして芯を出します。そして芯を交換する時はレバーを取り外します。

全てのパーツが吉村さんの時計作りのように1つずつ削り出して作られていることを知ると、このボールペンがいかに手間を掛けて作られているか分かります。

適合する芯は、絶妙な滑らかさを誇るパイロットアクロインクボールペン芯が使われていて、吉村さんはよく分かっている方だなと思います。

小振りなサイズはM5手帳のペンホルダーに収まることを意識したからですが、このサイズ感がこのペンを小気味のいいものにしていると思います。

ミッション車を思わせるボールペンgate811は、私たちの時代のミッション車ではなく、趣味で乗るスポーツカーのシフトゲートを思わせるものであることは言うまでもありません。

⇒真鍮ボルトアクションボールペン Gate811

オマスの精神を受け継ぐASC(アルマンドシモーニクラブ)

ASCのペンを扱い始めました。

老舗であり、マニア受けするペンを作っていたオマスが2016年に廃業して、セルロイドなどの部材を引き継いだのがASCの創業者カルタ・ジローニ氏でした。

本当はオマスの名前も引き継ぎたかったそうですが契約の関係で叶わず、ブランド名をオマスの創業者の名前をもらいアルマンド・シモーニクラブとしました。

ちなみにOMASという名前もオフィチーナ・メカニカ・アルマンドシモーニの頭文字をとったものです。

カルタ・ジローニ氏をそこまで駆り立てたのは、他のメーカーとは一味違う、尊敬に値する万年筆メーカーオマスへの愛情だったのでしょう。

ASCはアメリカの会社で、メイドインイタリーのオマスとは違う、各部品を専門業者で製作する分業による現代のペン作りをしています。しかし、オマスへの愛情、イタリアのペンへの憧れには変わりなく、オマス愛を隅々まで行き渡らせたゴージャスなペンを世に送り出しています。

ASCのペンはオマスのペン作りの精神を受け継いだメーカーだと分かるのは、それぞれのペンの書き味の味わい深さから窺うことができます。

柔らかいペン先にエボナイトのペン芯の書き味は、大量生産品では出せないいい味を持っています。

スチールペン先の最も安価なスタジオシリーズでも、そのデザインのまとまりの良さ、透明感のある素材を使ったその姿はオマスのペンを彷彿とさせます。

ボローニャシリーズは、まとまりの良いデザインをセルロイドを使って高級感を与えたオマスらしいASCならではのシリーズで、非の打ち所のない完璧な仕上がりの代表的なシリーズです。

オマスの三角形の断面を持つ衝撃作360を現代流にアレンジしたのがトリアンゴロです。

360はシンプルな装飾のほとんどないペンでした。三角形というインパクトのある姿に装飾は必要なかったのでしょう。

トリアンゴロは、透明なセルロイドを使って細部を洗練させた、ゴージャスでインパクトのある姿のペンに仕上がっています。

当店もオマスへの愛情は強かった。

オリジナル万年筆を作ったり、イタリアの本社を訪ねたりするほど力を入れていましたので、オマスの廃業は当店にとってもショックな出来事でした。

私がオマスを知ったのは、1990年代でした。

他社がしていない木軸のペンにも積極的に取り組んでいましたし、イタリアの上質な革を使ったペンケースも作っていました。

ほとんどのブランドが、黒、青、ブルーブラックのインクしか作っていない時代に、様々なカラーインクを発売していました。

他のメーカーの一歩も二歩も先を行っていた、取り組み方が全く違うメーカーで、それがオマスらしさになっていました。

私は主に万年筆を扱っていますが、昔からインクはもちろん革製品についても、万年筆と組み合わせて考える習慣があり、今思うとオマスの影響かもしれないと思います。

そうやってオマスの影響を受けて、オマス愛を持っている業界関係者はたくさんいるだろう。

今でもオーバーサイズのパラゴンの書き味を覚えています。ライバルはモンブラン、と自信満々で言ったオマスのCEOの言葉に、味のあるパラゴンの筆記感が重なりました。

私たちに影響を与えた万年筆メーカーオマスはASCのペンの中に生きていると信じています。

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