無心になれること

普段はあまり家に居る時間がないけれど、たまたままとまった時間家に居る時に没頭できたのが、自分だけのシステム手帳のダイアリーを作るというものでした。

既製のダイアリーは非常によく考えて作られているけれど、水曜日が休みという自分の生活のサイクルにはどれも合いませんでした。これだけ仕事の仕方が多様化してしまうと、既成のダイアリーがジャストフィットする人の方が少ないのではないかと思っています。

休みの水曜日の欄をできるだけ小さくして、他の曜日に当てるようにした方が限られた紙面を有効活用できる。特に小さなミニ5穴システム手帳において、無駄なスペースを作らないというのは私にとって厳守したいルールです。

ダイアリー作りのベースとなる用紙は、そら文葉のフレックスダイアリーや当店のオリジナルミニ5穴リフィルなどがいいと思います。

当店オリジナルリフィルは万年筆の極細くらいで枠内に書ける4mm方眼で極上の書き味を持つ、Liscio-1紙を使用しています。極細の万年筆なのにヌルヌル書ける快感は手帳を書くことを楽しくしてくれます。

そら文葉のデザイナーかなじともこさんはもともと自分で線を引いたり、パソコンで作ったりしてオリジナルリフィルを自作されていましたので、そら文葉にもそういう自由度が入り込める余地が残されています。

フレックスダイアリーは基本的に方眼罫ですが、時間表記に使える数字が入っていたりして、ダイアリーとして使うための演出がちゃんと盛り込まれています。

そら文葉の用紙は、バイブルサイズリフィル筆文葉とは違っていて、薄めの紙を使用しています。リング径の細めのミニ5穴リフィルになるべくたくさんの枚数を収めることができるようにという配慮からですが、薄めだけどギリギリ裏に透けないくらいの厚みは保っています。

罫線を引く時、私の場合、かなじともこさんと同じように色鉛筆で線を引いています。

水性ボールペンやサインペンだと定規で引いた後に線が流れてしまったり、かすれてしまうことがよくありました。シャープペンシルのカラー芯の消せるタイプのものを使うと間違えた時に消すことができるのでお勧めです。

色鉛筆で引いた線は、柔らかく良い風合いに感じられるのも私は気に入っています。

日付などの数字は、連結して使うことができるゴム印「エンドレススタンプ」の6号という一番小さなものが良いと思います。スタンプ台は黒でもいいですが、どうせなら好きな色を使って、祝日などを赤で押すとより使いやすい、完成度の高いものになります。

ネットなどでカレンダーを調べて、間違えないように慎重にリフィル1枚ずつ線を引いて、スタンプを押して、ダイアリーリフィルを作る時間は、面倒に思えるかもしれないけれど、集中できる楽しい時間になっています。

*Pen and message.オリジナルM5リフィル 4mm方眼罫(Liscio-1紙仕様)

*智文堂M5リフィルそら文葉(そらもよう)

ANTOU(アントウ)~完成させる楽しみ~

台湾のデザインステーショナリーブランドのANTOU(アントウ)が入荷しました。

このブランドは台中市の隣の彰化を拠点として、ステーショナリーのみならずテーブルウェアなども扱っています。

デザインステーショナリーというと、他を寄せ付けない完成された世界観を有するものをイメージしますが、このANTOUは、使う人が組み合わせたり、工夫することで完成するところを狙っているように思えて、ユーザーの創造力を刺激します。

書き味や使い勝手は素晴らしいけれど、デザインや装飾で使う気になれない国産のペンはたくさんあると思います。

ANTOUの「マルチアダプタブルペン」は、芯のサイズ・形の制約を受けず、油性ボールペン、ゲルインクボールペンなどほとんどのボールペン芯を使用することがでる、まさに夢のペンだと言うと、言いすぎでしょうか。

たまたまたその替芯を使うことができたという部分はありますが、様々なメーカーの替芯を使えるようにしたいという発想。当たり前ですが、文具メーカー、筆記具メーカーでは絶対に実現しない商品です。

私たちのような文具が好きな人間ならいつもそんな風に思うけれど、台湾でも同じように思う人がいて、それを形にしてしまうとは。

ANTOUのペンはアルミ素材を厚めに削りだして、サテンフィニッシュを施して、少しザラザラした粗い触感を残して仕上げられています。キャップはマグネット式で、開け閉めも素早くできて、ストレスがありません。

リフィルを交換する時は、キャップを閉めて、キャップごと回転させて口金を外します。芯を口金で掴んで固定しますので、長さ、形に制限されず、多くのものに対応できる仕組みです。

販売時、ゼブラのゲルインクボールペンの芯がセットされていますが、自分が最も愛用したいリフィルを装着することで、このペンは完成します。

そして、そうやって完成したこのペンは他のモノでは代わりが利かないものになります。

光沢を持たせて仕上げられている波型のトレイや小物入れは組み合わせて使うことができますし、この上に木や革の素材のものがあってもおかしくない。むしろそういう異素材のものがある方がしっくりくるような気がします。

私が目盛り好きで、目盛りはデザインモチーフとして最高だと思っているからかもしれませんが、ペントレイを兼ねた定規も面白い存在で、デスク周りの雰囲気を変えてくれるものだと思います。

ANTOUは、アートディレクターイェン・チェン氏と金属製品の加工で高い評価を得ているダイキャスメタル社との共同プロジェクトです。そしてANTOUとは彰化郊外の小さな工場が点在する地域の名前でもあります。

ダイキャスメタル社はいち早く欧米との仕事を始めて、評価されてきた30年以上の経験を持ちますが、本拠地であるアントウを活性化するために他の工場とノウハウを共有して、地域の技術向上に取り組んでいます。

ANTOUが世界的な仕事を請け負う地域になればという願いがこのプロジェクトには込められていて、このペンに込められているのは文房具好きの夢だけではないのだとお伝えしたいと思いました。

⇒ANTOU(アントウ)

リフィル遊び

私たちが手帳に求める機能は、スケジュールだけでなくメモを書いたり、覚書を書いておいて必要な時にそれを見たりなど様々だと思います。手帳の中でもシステム手帳なら、それぞれの用途に合わせてリフィルを選んで、カスタマイズすることができる。

私は昔からその使いこなしについて考えることが好きで、いくらでも考えていられます。そういう楽しみがシステム手帳にはあります。

同様にボールペンの替芯の選択肢が多いということも、自分がそのボールペンをどう使うかを考えて、それに合わせて芯を選べる楽しさがあります。

工房楔とのコラボ企画こしらえは、パイロットカスタム742・743の首軸を装着することができる万年筆銘木軸ですが、これに使うことができるボールペンユニットがあります。

三菱シグノ、ゼブラサラサ、ペンテルエナージェルなどの芯を使うことができて、こしらえをキャップ式のボールペンとして使うことができます。ただ、こしらえは時期によって若干ですがサイズが異なりますので、今のところパーツだけの販売をしていません。(店頭か出張販売などにお手持ちのこしらえをお持ちいただけましたら、実際合わせてみて販売させていただきます)

それらの替芯は同形のものが多く、色数も線幅もかなりの種類があって、多くのバリエーションの中からお気に入りのモノを見つけて使うことができます。万年筆と違って、これらのゲルインクのボールペンの替芯は値段も安いので、手軽に交換できるところもいいところです。

こしらえ用ボールペンユニットよりもさらに多くの芯に対応するのが、工房楔のMペンです。

Mペンはマグネット式のキャップを持つ水性ボールペンですが、尻軸にネジが切ってあり後ろのパーツが緩みますので、多少の長さであれば調整することができます。

こしらえ用ボールペンユニットで使うことができる芯は全て使うことができますが、それらに加えて、芯やチャックの形状が特殊で互換性がないとしていました、パイロットのフリクション(消せるボールペン)やパイロットのジュースアップ(通常のゲルインクボールペン)の芯も使うことがきます。

特にフリクションは様々な用途を思い浮かべることができるけれど、万年筆や銘木で目が肥えてしまうと、デザインや素材もこだわりたくなります。フリクションも、それぞれが銘木を使った1点もののMペンで使うことができます。

まだホームページには掲載できていないですが、台湾のメーカー「ANTOU(アントウ)」にも様々な芯を使うことができるマルチなボールペンがあります。

芯を口金で掴むことによって、替芯本体の形に左右されず多くの替芯を使うことができる。これは私の知る限り一番多くの種類の芯を使うことができるボールペンです。

ANTOUはたくさんの芯に対応した構造以外にもこだわって作っている感じがする仕上げの良さ質感の良さががあって、好感の持てる物作りをしています。

たくさんの安価で質の良いボールペンが発売されていて、それら全てをリフィルとして活用できるこれらのボールペンに今の流れを感じています。

⇒Pen and message.オリジナル銘木万年筆軸 こしらえ(工房楔・春の新作ページ)

⇒工房楔・Mペン

工房楔 厳選の定番材WEBイベント3/30(月)11時スタート

 毎年3月に行っていた工房楔の春イベントは、5月2日(土)・3(日)に延期しました。 姿の見えないウイルスには色々な見解があり対応が難しいところで、ギリギリまで世の中の雰囲気を見ていたのですが、やむを得ない判断だったと思っています。

イベントは5月ですが、工房楔の木製品のうち、定番材を厳選して仕入れることができました。これらは現在撮影を進めており、3/30(月)11時からホームページでも販売いたします。

希少な杢ももちろん良いのですが、定番材の良いところは気に入った素材をいろいろな商品で揃える楽しみがあるということです。ハワイアンコアでボールペンとシャープペンシルを揃えて、2本差しペンシースに入れて鞄に入れているだけで嬉しくなります。

木は様々な種類があって、必ず気に入ったものが見つかると思っています。木の違いを楽しむことはお酒やタバコの味を味わうようなもので、最初はどれも同じに見えるけれど、身近に置いて見ているうちにその味わいが分かってくる。

そのうち同じ名前の材でも、その中に好みが出てきます。名前は同じ花梨でも杢目は様々で、玉杢がビッシリと入ったものから線状の杢の入ったもの、紅白に分かれているものなど、数多くあります。今回、工房楔の永田さんが春のイベント用に作ったものの中から、定番材を中心に厳選して仕入れました。

今回の新作は限定製作のミニボールペン、「ルーチェコルタ」です。

ミニ5穴システム手帳の高さとほぼ同じ12センチ弱の長さのルーチェコルタは、片手ですぐ書けるノック式のボールペンです。

替芯はいわゆる4Cタイプという、細く短い金属製の芯を使用しています。

4Cタイプは世界標準の芯ですが、ごくわずかにメーカーによって口径の誤差があります。一般的には、ゼブラ4Cが太くて、三菱・パイロット・海外メーカーが細い仕様になっています。

例えば、ラミー2000の4色ボールペンに一度でもゼブラを入れると、芯を受ける筒が広がってしまい、ラミーの芯が緩くなって脱落しやすくなります。

ルーチェコルタは、太い口径の4Cも細い口径の他のメーカーのものの快適に使えるようになんと2種類のアタッチメントが用意されています。

白いアタッチメントがゼブラ(太い口径)用、黒いアタッチメントが他のメーカーのもの(細い口径)用です。どちらかの芯に絞って作ったらいいのにと思うけれど、こういう細かい違いに対応するのが永田さんらしさなのかもしれません。

工房楔はペンシル系の種類も多くて、それも他の木工家さんとの差別化になっています。

ペンシル系だけでも、2ミリ芯ホルダードロップ式・ノック式・0.7ミリペンシル・0.5ミリペンシル・ペンシルエクステンダーと多彩なラインナップです。

今回から取り扱うことになった、磁石式のキャップのMペンも面白い。

替え芯は最初シュミットの水性ボールペンインクが入っていますが、三菱のジェットストリーム油性ボールペン芯やゲルインクボールペン、あらゆる替え芯に適合しているので、お好みの書き味に変えることができます。

形が全く違う替え芯に適合しているのは非常に画期的で面白い商品だと思います。

最後になりましたが、パイロットカスタム742・743の首軸が入る万年筆銘木軸「こしらえ」長軸も少量ですが入荷しています。

お好みの素材を探しに、3/30(月)11時からスタートするWEB上での工房楔の定番材のイベントをぜひご覧下さい。

規模を守る、ポリシーを守る生き方

AURORA シガロ 

万年筆の仕事が長いので、万年筆を通して知った色々なことを教科書にしてきたような気がします。そしてそれは今でも変わりません。特にイタリアの万年筆メーカーには劇的なことが色々起こり、店の在り方や立場の取り方の教訓としても学ぶところが多くありました。

イタリアのモノ作りの会社の中には、知名度はあるのに家族経営など小規模経営にこだわるところも多くあります。それらの企業はシェアとか売上など規模を大きくすることに興味がなく、グローバルに展開する会社とは一線を画しています。

規模を拡大したり経営を安定させるために大資本の援助を受けたら、 確かに経営的には楽になるかもしれないし、売上も上がるかもしれない。 でも仕事のやり方に口出しされて、利益の目標まで設定されるようになるだろうし、自分たちの考えには添わない仕事でも受けなければならなくなる。

結果として自分たちの原点である理想のモノ作りがしにくくなってしまいます。

小規模なモノ作りの会社が守りたいものは、より大きな売上ではなく、自分たちの流儀に合ったやり方で仕事をして顧客にも満足してもらうこと、自分たちの考え方を貫くことだと思っています。

だから今の生活に特に不満がなく楽しく暮らせているのであれば、それ以上は望まない。その気持ちは私にもよく分かります。マイペースで細く長く続けた方が、ブランド価値の維持にもつながるし、商売の仕方としても堅実だと思います。

個人経営の会社が大切にしていることに夢があります。

会社の論理で言うと、売上が上がるのならどんなこともやるべきだと思うけれど、夢が持てないからやらないという選択も理解できます。

イタリア人の、小さな会社を維持する心構えの影響を私は強く受けています。それが自分の仕事を長く続けることに繋がる心構えだと理解できたからその考えを取り入れたいと思った。それは今では自分の血のようになって、私の思想を形成するひとつになっています。

イタリアがコロナウイルスの拡大がひどい国として報道されています。イタリアに住む友人たちと同じように、当店が勝手に身近に感じているアウロラのことも心配しています。

アウロラは前述したようなイタリアの小規模企業の考え方を体現している会社の一つだと思っています。これまでも様々な世相の変化、困難をくぐり抜け独自経営を貫き、自分たちのモノ作りを貫いてきました。

ブランドの手法などのノウハウが入ったらもっとスマートな仕事の仕方ができるのかもしれないけれど、アウロラは自分たちのやり方にこだわっています。

デザインが良く、万年筆は使い込むと非常に良い書き味に育ってくれます。アウロラのペンが好きだからというのもありますが、会社としての在り方に共感が持てるのは、自分たちの仕事に対して同じように思っているからです。

売上を上げることは会社を継続させるために必要なことで、なぜ会社を継続させるかというと万年筆が好きな人に関わり続けるためであり、それが自分たちの夢であり、理想の生活だからです。

イタリアの老舗万年筆メーカーと日本の小さな万年筆店の共通点は万年筆を扱っているということくらいですが、仕事に臨む心持ちのようなものは似ているのではないかと思っています。

⇒AURORA 限定品 シガロ

アートと木工の融合

毎年恒例になっていた春の工房楔イベントを、 3月20日・21日に予定していましたが、新型コロナウイルスのことを考えて、延期することにしました。状況が毎日のように変化するので、ぎりぎりまで告知ができず申し訳ありません。

新たな日程は5月2日(土)・3日(日)となります。ゴールデンウイーク中のイベントは初めての試みですが、ぜひご来店下さい。

本日発売の雑誌「趣味の文具箱vol.53」に掲載されている、工房楔永田篤史氏と漆芸作家池田晃将氏のコラボ作品「エクステンダー楔・螺鈿」が入荷しています。

これは数量限定での製作で、店舗を限定しての販売ということで、扱うことが出来てありがたく思っています。

工房楔をご存知のお客様にはもうお馴染みですが、池田昇将氏は先日の銀座の百貨店美術画廊での個展で、初日に全作品完売した新進気鋭の螺鈿作家さんです。工芸である螺鈿を全く新しい解釈で、極小のデジタルな世界を表現して、アート作品に昇華されています。

 いくら腕が良くても、そこに独創性がなければひとついくらで仕事をする職人になってしまいます。それが悪いことだとは思わないけれど、伝統工芸が既存の枠に収まったままでは今の感覚からどんどん外れて行って、いずれ廃れてしまう。 池田氏の活躍は、螺鈿工芸のみならず日本の伝統工芸全ての指針にもなるのではないかと思っています。

 万年筆店である当店が池田氏の作品をいつまで扱うことができるのか分からないけれど、池田氏をこうやってステーショナリーの世界にも連れ出してくれた工房楔の永田篤史さんのおかげで、当店でも取り扱うことが出来ています。

 3柄各2本という大変少ない入荷数ですが、作家さんの作品を間近でご覧いただける機会だと思います。

 ファーバーカステルパーフェクトペンシルが最も贅沢な鉛筆として脚光を浴びたことがありましたが、パーフェクトペンシルはあくまでも製品でした。

 今回の螺鈿付きペンシルエクテンダーは実用的な銘木鉛筆補助軸にアート作品を埋め込んだ、製品を超越したものだと思っています。

 所有した人は、これに鉛筆を入れて実際に使うかどうか分からないけれど、鉛筆を入れて色や姿を合わせて、眺めるだけでも楽しいと思います。

 当店の近くに鉛筆類専門店590&Co.さんができて、鉛筆が身近な筆記具になりました。

 万年筆は私にとって日常の筆記具ですが、何かの下書きを書くときやアイデアをひねり出す時には鉛筆を使いたいと思うようになって、愛用の鉛筆削りで先を尖らせて書くことが多くなりました。

 子供の頃に書いていた気持ちを思い出させてくれる素朴な筆記具が鉛筆で、そんな削って短くなった鉛筆を使う素朴な道具と螺鈿作品のアンバランスさが大変面白い。

短くなった鉛筆が先に付いて初めて、ひとつの世界観を表す作品になると思っています。

*限定商品・工房楔×池田晃将 エクステンダー楔・螺鈿

ペンポイントの美

アウロラ88クラシック F

店の仕事は常に試行錯誤だと言うと、恥ずかしいことなのだろうか。

企画や試みなど、失敗したと思うこともあれば、上手くいくこともあります。もちろん他人事ではなく店がダメになったら生活に困るのだけど。

でも次から次に起るハプニングにどう対処するか、真面目に楽しむしかないと思っています。

今、過去になかったようなことに世の中がなっていて、普通に仕事をすることが難しくて不安も多いけれど、こういう状況の中でどうやって仕事をするか正解はない。どうすれば店を守ることにつながるのかというふうに考えるようにしています。

自分がやりたいこと、楽しいと思うことをやってみて、何が世間の人に反響があるかを聞いてみるのもその一つです。

今取り組んでいるのは、ペンポイントの拡大写真をお見せして、その美しさを感じてもらうというものです。

私がいつも見ている、25倍のペンポイントの景色を皆さまにも見てもらいたいと思いました。どれくらいの人が私と同じようにペンポイントを美しいと思ってくれるのか、これは定着するものなのか見てみたい。

万年筆の仕事を始めた頃からルーペでペンポイントを見て、その書き味を確かめてきました。これが今の自分の仕事をする上での財産になっていると思います。

ルーペで見るペンポイントは美しい。軸の美しさや書き味の良さと同じように、これも万年筆の価値のひとつだと言えます。

メーカーのよって、ペンによって様々な書き味の違いがあるように、ペンポイントの形も本当に様々です。

一度見たペンポイントは記憶のどこかにあって、かなり月日が経って同じペンポイントを見た時に以前に見たことがあると思い出すことがよくあります。

ペン先調整に際して、私はまずルーペで見ているペンポイントが一番美しく見えるようにしたいと考えていて、そこからご希望や書き方に合わせていきます。

ペンポイントの美しさを構成する要素は、「形」「左右の関係」「光沢」の3つだと思います。

その形とは、書きやすそうな形、書き味がよさそうな滑らかな曲線の美しい形であること。

万年筆は書くためのものであるので、その書くという機能を高い次元で実現できそうなペンポイントの形が美しい形だと思っています。

左右の関係とは、切り割りを中心とした左右のペンポイントの関係です。食い違いがないことは当然ですが、開き過ぎていても不格好です。適度に寄っていることがペンポイントの美しさを構成する左右の関係において重要です。

そして光沢も重要です。

必要以上にペンポイントを磨くと光り過ぎて、冷たい感じの光沢になってしまいます。わずかに白みを帯びたような鈍い光沢を持つものが美しいペンポイントの要件として重要だと思っています。

高倍率のルーペを見るのにも慣れが要るし、ペンポイントを見るのもある程度数を見ないと見所が分からないかもしれないけれど、見ているうちに分かっていただけると思います。

写真は先日入荷したアウロラ88クラシック<F>です。アウロラのペンポイントは丸く仕上げてあるのが特長です。筆記角度の許容範囲が広く、使い勝手の良さそうな大らかな使い心地のペン先と言えます。

ラマシオンの時計

ラマシオンの時計をつけ始めて3ヶ月ほど経ちました。結婚して25年経って、その記念となるものを形として残しておこうということになり、大きさだけ違えて同じ時計を2つ作りました。

それまで使っていたセイコーの時計は20年くらい毎日つけていたけれど、ラマシオンの新しい時計をつけるようになってから、数日で止まってしまった。

時計屋さんに持ち込んだけれど、直すのはもう難しいとのことで、1年ほど前にこれが最後の修理になりますという最後通告を受けていたので諦めがつきました。

今も裕福ではないけれど、ウチがもっと慎ましく生活していた頃に、妻が苦しい家計をやりくりしてくれてプレゼントしてくれた時計だったので、初心を忘れないためにも無理矢理修理して使い続けていた。

でもその時計は苦しかったときのことを思い出すから妻は好きではないと思っていたことが、時計を諦めたときに分かり、それからラマシオンの時計だけをつけています。

ダグラス革のベルトは、3か月経って自然に艶が出て来始めています。革ブラシで磨いて艶をだそうかとも思いましたが、時計というものの時間を考えると服に擦れて自然に艶が出るくらいゆったりと構えたいと思いました。

シチズンミヨタのムーブメントは結構正確で、1日では誤差も出ず、機械式時計の中ではかなり正確な方なのではないかと思います。日本製のムーブメントへの信頼性は高いと思われますので、シチズンのムーブメントを採用しているのはこの時計にとってアドバンテージだと思います。

バスや電車に乗る時、ペン芯を温めてペン先と密着させる時には必ず時計を見ます。

気に入っている時計はそういう日常のちょっとした時間を楽しいものにしてくれるし、他に同じものをしている人がいない自分だけの仕様だと思うとより嬉しく感じられます。

ラマシオンの吉村さんと作った当店オリジナル仕様の時計もシチズンミヨタのムーブメントを使用していて、安心して毎日使うことができます。

ダイヤル部分には、当店らしい素材として花梨こぶ杢を、ベルトにはこれも当店らしい素材ダグラス革をカンダミサコさんから譲ってもらって使用しています。

どちらも時計にはあまり使われることがなかった素材ですが、万年筆店である当店が発売する時計らしいものだと思います。時計も万年筆などの筆記具も、毎日を楽しくしてくれるものだと思っていて、それを提案することが当店の役割のひとつだと思っています。

⇒ラマシオン メンズウォッチTOP

⇒オリジナル機械式腕時計スケルトン文字盤

タフな道具としての万年筆

ペン先が柔らかくて書き味を楽しめるもの、書いていること自体が楽しいと思える万年筆もいいけれど、タフな道具としての万年筆のあり方に万年筆に惹かれる原点のようなものがあって、そういうものも持っていたいと思います。

いざという時、とにかく書かなければいけない時に、書くことに集中できる万年筆の代表的なものがモンブラン149とペリカンM800だと思っています。

オーバーサイズの149とレギュラーサイズのM800を同列で比較するのは不思議な感じがするかもしれないけれど、モンブランはオーバーサイズの大きさが自然に握れる万年筆だと考え、ペリカンはレギュラーサイズをそう考えたのだと思います。そういう点で、この2本の万年筆は同じ方向性にある万年筆だと思っています。

どちらも書くということだけを突き詰めた硬いタフなペン先と、自然に持てて書くことに集中できる、慣れると代わりが利かないほど馴染むバランスの良い万年筆です。

同じモデルであっても、万年筆は時代を得て少しずつ変化しています。

技術の進歩によって効率的なもの作りがされるようになって、素材は扱いやすく大量生産に向いた素材に変わり、技術もより効率の良いものに変化しています。柔らかいペン先も少しずつ硬いものに変わってきています。

それは万年筆を使う人のノスタルジーから言うと寂しいことだけど、仕方ないことなのだと思います。昔ながらの物作りが理想だったとしても、例えば万年筆が今の10倍の値段になったら誰も買わなくなってしまう。

モンブランは部品点数の少なさから、さすがに効率よく作られているように見受けられ、今の物作りの最先端を行っていると思います。

個体差が少なく、どれも同じように問題なく書ける。だけど、そのままではどこか味気ない。

ペリカンは手間のかかる縞模様を今も作り続けていて、ほとんど変わらない値段で販売しているのはすごい企業努力だと思うし、好感が持てる。

ペン先の状態に関しては、若干個体差が多く、インクの出の多い少ない、書き味の良し悪しにバラつきがある。

現代の物作りでも、ペン先の調整はきっとどうにもならない。

当店は書き味をより潤いのあるものに、そして一番良い状態にすることが今の時代に万年筆店をさせてもらっていることの使命だと思っています。

文豪のように猛烈に文字を書くこともできる2本の万年筆。

モンブランはそのブランドイメージから何となくエリート的な、ステイタスシンボルとしての万年筆のイメージを持ち、ペリカンには少しマニアックな文房具の延長としての万年筆の印象を持っています。私はエリート的なものへの反発心から、ペリカンに好感を持っているのは、昔の、巨人に対しての阪神フアンの心境と同じなのかもしれない。

でも、モンブラン149はステイタスシンボルというだけのものでは決してないし、ペリカンM800は趣味のものというよりも毎日使う完璧な仕事の道具だと思っていて、物作りが変化してもそれに変わりはない。

私たちが万年筆で書きたいと思った原点を振り返った時、こういう万年筆を求めていたのではないかと思い出すもの。

生産工程が変化しても変わらず存在し続けている書くための機能を突き詰めた2本の万年筆。

当店は現代の万年筆に足りないものを少しだけ足して、この2本の万年筆がいつまでも書くことにおいて完璧な機能を備えた万年筆であり続ける手伝いをしたいと思っています。

⇒モンブラン マイスターシュトゥック149

⇒ペリカン M800万年筆

〜自分の色〜 アウロラフラコーニ100インク発売

木工家の工房楔・永田篤史さんはオレンジ色が好きで、永田さんを知る人はオレンジ色を見ると永田さんを思い出すほど、それは自他ともに認めるものとなっています。

好きなオレンジ色のものを揃えて、そのオレンジ色好きを周りに刷り込んで、印象付けてきた永田さんの徹底ぶりがすごいと思いました。

私にはそのくらい好きな色が今までありませんでしたが、ある時からモスグリーンやアーミーグリーンのような色のものに惹かれるようになって、お店で見つけると買うようになりました。

インクもあまり決まった色がなく、ブルーやブルーブラックなどの無難な色の中からそれぞれのペンの用途に合う理想的なインク出になってくれるものを使うという、どちらかというと、インクを色ではなく性質で選んでいました。

私も日常的に、モスグリーン系のオリジナルインクCigarやクアドリフォリオあるいはエルバンエンパイアグリーンを使えるようになるだろうか。

昨年創業100周年を迎えて、限定万年筆を連続して発売していたアウロラが100周年記念インクを発売しました。

万年筆のインクの色として定番の色を押さえながら、それぞれの色の世界観がイタリアの遺跡やアート作品で表現されていて、そちら側からそのインクに惹かれる方もおられるかもしれません。

中身は今回の企画のために新たに作られたものですが、ボトルは1930年代から40年代にアウロラが発売していたものを復刻しています。

前述しましたが、アウロラは昨年100周年ということでかなりの数の限定品を発売しました。それらはもちろん今しか買うことのできない、通常はない仕様のもので素晴らしいけれど、当店としては今年もう一度定番品に立ち戻りたいと思っています。

少し小振りで華やかなオプティマはアクセサリーのようで、女性の方にもお勧めできますし、88は男性の方の一生もののペンの候補として、ぜひ一考して欲しい万年筆です。 

私はイタリアの製品の良さの一つは流行に流されないところだと思っています。各社自分たちの美意識をしっかりと持っていて、デザインを流行とは違うところで作り上げている。

アウロラの万年筆にもそれをいつもそれを感じていて、そういうものが生涯愛用するのに相応しいものではないかと思っています。

⇒AURORA 88ゴールドキャップ

⇒AURORA オプティマ ロッソ