中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600

中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600
中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600

クロスのペンでセンチュリーⅡというモデルがありました。

大きく伸びやかなデザインで書くことにおいて最も優れたバランスのタウンゼントと、細い軸でクロスの最も代表的なペン、センチュリーという個性の強いペンの中間のサイズで、携帯性と筆記性能を両立したすばらしいペンですが、なぜかセールス的に苦しんでいました。

この事例は、昔あった三菱の4WDパジェロとパジェロミニの中間パジェロJrにも当てはまったり、ベンツAクラスとCクラスの中間のサイズのBクラスにも当てはまったりするのだろうか。
500円のAランチ、700円のBランチ、900円のCランチならBランチが売れるのに(?)。

ペリカンスベレーンM600の存在は残念ながらクロスセンチュリーⅡの事例に当てはまるのではないかと思っています。

ペリカンの伝統を受け継いでいて、60年以上の歴史のあるM400と、バランスが良く高い評価をいつも得ているM800の中間に位置するM600はM400の携帯性とM800の筆記性能を兼ね備えた大変優れた万年筆だと思いますが、M400とM800のコンセプトがあまりにもしっかりしていて、M600にペリカンとしての存在感が希薄なのが人気が低い理由なのかなと思います。

でも実際M600は程よい大きさの本当に使いやすい万年筆だと思います。

私はこのM600にアウロラの代表的な万年筆オプティマに似たバランスを感じて、特に女性の方には使いやすいのではないかと思っています。

M800は万年筆を使い慣れた人にはとてもバランスの良い万年筆で、万年筆の正解だと思っていますが、初めて万年筆を使う人や女性には少し重さを感じてしまうところがありますし、M400は万年筆を使い慣れた人が机に向かって長時間書き続けるにはボディが少し細いと思っています。
ある程度ペンを寝かしてゆったりと書くためにはM600くらいの太さが必要だと思います。

万年筆で書くことに慣れてきて、筆記角度が低くなってきた女性にはアウロラオプティマとともに、このM600もお勧めしたいと思います。
しかし、唯一無二の存在ではなく、オプティマを引き合いにだされるあたりも、M600らしいところだと思ったりします。

⇒ペリカン M600

アウロラ88オールブラックの普遍性

アウロラ88オールブラックの普遍性
アウロラ88オールブラックの普遍性

万年筆はなぜ黒と金の金具のものしかないのだろうと疑問に思っていました。
しかし、黒に金の万年筆(以後黒金)は、何歳になっても飽きずに使うことができるし、インクのシミなども気にする必要がない。
言わば感覚的にも実用的にも理由のある、万年筆においての普遍性がこの黒金の万年筆にはあると理解してから、黒金の万年筆に対して心が大きくなりましたし、どちらかというと好きになりました。

しかし、万年筆においての普遍性を持った黒金だからこそメーカーはその造形に気を配って作らないと、美しいものとそうでないものの違いが歴然と出てしまいます。
黒金の万年筆で最も美しい形を持ったものの一つとして、アウロラ88オールブラックを思い浮かべます。
ボディのラインは全て自然なラインで繋がっていて、どっしりした安定感さえも感じられる。
装飾らしい装飾はなく、シンプルなキャップリングに小さくロゴではない筆記体のAuroraの文字。
こういうデザインの手法を何というのか分かりませんが、何か理論に基づいて形作られた理知的な感じがします。

黒金の中には、シンプルな中で特徴を出そうと、ラインが不自然になってしまっているものもたくさんあるように思います。

アウロラ88をデザインしたマルチェロ・ニッツォーリはオリベッティのタイプライターやミシン、電話などもデザインしていて、どれも自然な曲線が流れるようなラインになって形作っているものばかりです。
ニッツォーリに限らず88が生まれた40年代から50年代にかけてイタリアには優れたデザイナーが何人も存在し、そのデザインによって世界中を席巻する工業製品を作っていました。

それらはイタリアデザインの第1次黄金期の中にある製品で、他のイタリア工業製品が今見ても美しいと思えるのは88と同様です。

美しい形を持ち、万年筆の普遍性を追求した黒金に、ピストン吸入機構、エボナイトのペン芯などこだわった機能を持った万年筆がアウロラ88オールブラックです。

⇒アウロラ88オールブラック

オマスミロードとボローニヤ人

オマスミロードとボローニヤ人
オマスミロードとボローニヤ人

今夏の旅行に携えて移動中や宿に帰ってからの時間の楽しみである、自分なりの紀行文を書くための万年筆として、オマスアルテイタリアーナミロード万年筆を選びました。

そして旅に持っていく万年筆やノートと同じくらい大切な携行本が、井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」で、万年筆と関連性を持たせて旅の間オマスについて考えたいと思いました。
オマスは1925年にイタリアボローニャで創業し、今もその地に根付いて活動している万年筆メーカーです。
万年筆の歴史において重要な名品を生み出したりして、海外では根強い人気があるようですが、日本では輸入代理店が何度も変わったりしたため、不当に知名度が低いようでしたが、喫煙具などを中心に扱っている会社インターコンチネンタル商事が扱うようになって、ようやくオマスを日本でも広めていく体制が整ったようです。

昨年オマスの工場を訪ねるためにボローニャを訪れたことで、オマスにもボローニャの街にも強い思い入れを持ちました。
そんな背景もあり、オマスをモンブランやペリカンなどと同じくらい、一般の万年筆に詳しくない人でも知っているブランドにしていきたいと思っています。

まず自分でオマスの万年筆をとことん使ってみようと思い、昨年から最も代表的で一般的だと思う万年筆アルテイタリアーナミロードをかなりの使用頻度で使っています。
ミロードはペリカンM800相当のレギュラーサイズの万年筆で、決して小さくありませんが、コットンレジンという綿由来の天然素材の樹脂を使っているために質量が軽く、手に重さを感じることはありません。
握った感じも他のメーカーが使うアクリルレジンに比べると柔らかさを感じます。
これらの特長はエボナイトに通じるところですが、変色や臭いがきになるエボナイトの欠点を解消した素材だと思っています。

素材の軽さ、柔らかさは使っていて気分が良いし、多くのイタリアの万年筆の特長である多すぎない適度なインク出とペン先のフィーリングの良さもあって、努めて使おうとしなくても自然に手が伸びる万年筆になっています。

井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」を読んでボローニャの街が中央政府とは距離を置いた住民自治によって発展してきた街だと知りました。

1940年代には、イタリアファシスト党やナチスドイツを市民兵であるパルチザンが戦い占領から自治を奪い返した歴史や、社会的弱者の自立を助ける施設を個人が立ち上げて市民の協力によって軌道に乗せたり、市民の声を反映させて古い建物をそのまま利用して会社や文化的な施設として利用したりなどなど、ボローニャ独自の街を良くしようとする活動は住民主導で行われているとのこと。

オマスもそんなボローニャ人気質の中で生まれてきたことは間違いなく、またボローニャの街の発展にも貢献してきたのだと考えると、オマスの万年筆に自分たちの街は自分たちで何とかするという住民自治を貫いてきたボローニャの人たちの大人の精神も感じるのです。

4時間に及ぶ昼休みをとり、夕方になるとスーツでビシッときめて街に出て、友達同士でただおしゃべりしている。そうかと思えばただブラブラと散歩している男たちの姿もまたボローニャ人のそれであり、なかなかおもしろい。

端正で破綻のないフォルムと柔らかな持ち味と書き味のアルテイタリアーナ万年筆は、ボローニャの男たちの姿そのものだと思っています。

*画像は店主愛用のアルテイタリアーナミロード(ブラック)です。

リスシオダイアリーに向かう

リスシオダイアリーに向かう
リスシオダイアリーに向かう

季節外れのダイアリーの話題で恐縮です。
年々ダイアリーが店頭に並ぶのが早くなっていて、9月頃から並び始めていたのが早いと思っていましたが、最近では7月中からでも並ぶようになってきました。
そういったものの中には9月始まりというものもあって、お客様方はたくさんの種類の中からダイアリーを選ぶことができるようになったということでしょうか。

毎年のダイアリー選びは深刻な問題だと思います。
自分のライフスタイルに一番合ったものはどれなのか、多くの人が探し求めて毎年試行錯誤しているのではないでしょうか。
もちろんお店でオリジナルとして販売しているということもありますが、リスシオダイアリーは市販の中に答えを見つけられなかった方に、一度は使っていただきたいダイアリーだと思っています。

私も今まで本当にたくさんのダイアリーを使ってきました。

中には数年間使い続けたもののありますし、使い始めてすぐに使わなくなったものもあります。
やはり一番長く使ったのはシステム手帳で、その中でもA5サイズのものがほぼ私の中のほぼ正解だったと思います。

大きな筆記スペース、ページの入れ替え、書類もそのままファイリングできるなど使うことにおいてはとても便利でした。
しかし、A5サイズのシステム手帳は大きすぎました。
机の上でも邪魔になるし、鞄の中は手帳に占拠されてしまう。
筆記スペースを確保しながらコンパクトにするにはやはり綴じ手帳しかないと思いました。
でもある程度使い方に合わせて組み合わせることができた方が楽しい。
それがリスシオダイアリーだと思っています。

月間ダイアリー、週間ダイアリー、1日1ページ、横罫、方眼という種類があって、これらを組み合わせて使うことができる。

そして用紙には、大和出版印刷さんが万年筆用紙としての書き味を追求したリスシオ・ワン紙が使われているので、普通なら引っかかりが感じられる細字の万年筆でも相当書き味良く使うことができますし、インクの収まりも悪くない。
綴じ手帳は書いたものがどうしても時系列に並んでしまいますが、それらをインデックスや付箋で表示することによって、複数のテーマの中から見つけたいものを見つけやすくすることもできます。

手帳を使いこなす楽しみはそういう風に自分なりの使い方を編み出すところにもあって、文具好きの方なら付箋やスタンプなどのツールを使って、綴じ手帳を攻略することは大いなる楽しみになると思います。

自分でリスシオダイアリーを使いながら、様々な改良点を見つけることになります。
それらを反映して、書くことを楽しくし、お仕事や家事の役にさらに立てる2012年版のリスシオダイアリーは9月中には発売いたします。

ラミーサファリ フレンドシップペン

ラミーサファリ フレンドシップペン
ラミーサファリ フレンドシップペン

サファリを何度も使おうとしましたが、紛失したり、人にあげてしまったりして手元に居ついたことがなく、今1本も持っていません。
でもいつもなぜか気になって、使ってみたいと思わせる存在ではあるのです。
かなり厚いものでも挟むことができるクリップは厚手のコートのポケットにも挟むことができますし、キャップはパッチン式(勘合式)でちょっとメモしたりする時に便利です。
ABS樹脂のボディは軽くてあまり気を使わなくていい。
書き味も軽く、独特のものがある。
万年筆の中のサファリというよりも、サファリという筆記具が存在しているかのように思える。

万年筆というものはどんなものでもそれなりに雰囲気を持っていて、その物自体が何かを語ってくれる物だと思っています。

字を書かずとも、ただポケットに差しているだけでもその人が知的に見えたりする物。それが万年筆かもしれません。
でもサファリはそんなある種の誤魔化しは効かない。実際に使わなければいけない万年筆です。
そういった理由からか、サファリを使っている人はとてもクリエイティブに見えたりするものです。
サファリは何本も持っていたい万年筆でもあります。
定番のものを中に入れるインクの色によってボディカラーを変えて持つのもいいし、過去7色あった毎年発売される限定色を1本ずつ揃えていっても結構な本数になります。
もしご当地サファリなどがあれば、旅に行った時の記念になるかもしれないなどと想像したりします。

ラミーサファリフレンドシップペンが発売になりました。
これは毎年発売される限定色ではなく、日本とドイツの国交が始まって150年の記念に発売された特別企画のペンです。
万年筆を使っている人でドイツに親しみを持っている方は多いので、このペンは人気が出るだろうと思いましたし、私も欲しいと思いました。
私のようにサファリを持っていない人のサファリのきっかけとなるかもしれない特別なサファリの限定発売です。

アウロラ 大陸シリーズの魅力

アウロラ 大陸シリーズの魅力
アウロラ 大陸シリーズの魅力

石のついた指輪をする習慣がない。
それはお守りだったり、願いだったりと個人的な想いがこもったもので、それをする習慣のある人を少し羨ましく思うこともあります。

アウロラ大陸シリーズアメリカのキャップトップにつけられた石レッドジャスパーは、北米、中米、南米などで産出される貴石で、身を守ると言われている、いわゆるパワーストーンだとか。
指輪をしない代わりに、こういう石がついた万年筆をお守り代わりに身に付けるのも、万年筆のひとつのあり方だと思います。

アウロラ大陸シリーズ第4弾アメリカが発売になりました。

アフリカ、アジア、ヨーロッパと続いている人気シリーズだけに、次は何大陸をテーマにしたものを発売するのか憶測を呼んでいましたし、新作が出ても良さそうな日程を過ぎても発表されないことから、もう発売されないのではないかという心配する声も聞かれていました。
中にはこのアメリカ大陸を予想された方もおられたかもしれません。

過日私のブログで、これはアメリカ合衆国を中心とした北アメリカ大陸だと申し上げましたが、実は誤報で今回の大陸シリーズのテーマは南北アメリカ大陸でした。

実にいい加減な話になってしまいますが、そう言われてみればボディカラーは単純な赤と青ではなくもっと深みのある複雑な色合いで、そんなところが南米ぽいかな?と思わせますし、キャップリングのモチーフにはちゃんとコンドルやナスカの地上絵も刻印されています。

毎回大陸シリーズのリングが見所のひとつとなっていますが、このリングのフレームとなっている紋のような柄がとても良い雰囲気を出していると思いました。
私を含めてこのアメリカの写真だけを見た人は、数年前のペリカンの史跡シリーズピカデリーサーカスと似た色合いだと思われたかもしれません。
しかし現物を見てみると、全く異なる発色、柄の奥行きで、ペリカンを連想することのない、別の魅力のあるペンです。

ペン先もボディの基本的な形も同じで、ボディカラー、キャップリングなどを変更しただけのアウロラの限定品がなぜ皆さんの気持ちを動かすのか少し不思議な気がしますが、それは前作との変更点について冷静に分析すればこそ思うことで、アウロラの万年筆の良さを知る者として立場が変わった時、やはり前作のエウロパと近作のアメリカでは「全然違う」ということになります。

私は大陸シリーズに代表されるアウロラの作る限定万年筆はやり過ぎた所のない、安心して使えるところが魅力だと思っています。
面白みはあるけれど使い辛い仕様だったり、非常にアバンギャルドな設えだったりすると、コレクターズアイテムとしては面白いかもしれませんが、実用的には疑問が残ってしまう。
アウロラの限定品の魅力、それは「使う」ということが前提になっているというところです。

アウロラの万年筆を語る上で無視できない、オプティマ、88の定番の万年筆の書くことにこだわった良さがあるからこそ、アウロラは信用され、その限定品は多くの人の気にかかるのだと考えています。

M1005デモンストレーター オーバーサイズへの誘い

M1005デモンストレーター オーバーサイズへの誘い
M1005デモンストレーター オーバーサイズへの誘い

現在発売されている万年筆の中で最も柔らかいペン先で書き味の良い万年筆がペリカンM1000だということに賛同してくださる方は多いと思います。

大きなペン先は毛筆の穂先のようにしなやかに、筆記の方向にさからうことなくついてきてくれて、たくさんのインクを紙に送り出しながら良い感触を手に伝える。
でも、ペン先調整をする者にとって、M1000ほど不思議に思う万年筆はありません。

それはペン先とペン芯の関係が、他の万年筆の常識とあまりにもかけ離れている。
普通ペン先はペン芯にピッタリと密着していないと書いている途中でインクが途切れてしまうため、調整する時はペン先とペン芯が離れることのないように調整します。
これはイリジュウムを削るなどの加工以前の最も注意しなければいけないところですが、M1000の構造は違っています。

ペン芯はペン先の一部分にしか接していないし、書いている時には離れていることもあるのに、たくさんのインクをペン先に伝えて途切れることがない。
なぜかインクが流れてくれる。
でもペン芯の押し返しがないので、ペン先は柔らかく自由に動いてくれるのは事実で、M1000の書き味が非常に柔らかいのは、このペン先とペン芯の関係によるところが大きいと思っています。
しかし多くの人がM1000の書き味の良さを知りながらM1000に踏み切れない理由は、そのサイズにあるのだと思っています。

ペリカンにはM800という実用において完璧とも言える万年筆があります。
M800はM1000とは対照的で、非常に硬いペン先を持っています。そのためハードな筆記もペン先のことを気にせずに書き続けることができるヘビーユーザーのための万年筆となっています。そのボディサイズは万年筆のお手本とも言えるサイズなので、M800を使う人は多くてもM1000にたどり着く人は少ない、M1000は大きすぎると考える人が多いようです。

しかし、M1000のボディが完全に実用を無視しているかというとそうでもありません。
私は余分な力が入らずに一番きれいな文字を書くことができる筆記具はゼブラのハイ・マッキーだと常々思っています。
万年筆の話でいきなりマジックペンの話をして妙に思われるかもしれませんが、マッキー極太のボディを持った時の手の中での座りは、手があまり大きい方ではない私でも良い印象を持っているので、きっと他の方でも同様に感じていただけるのではないかと思います。
ハイマッキーの印象から、M1000のサイズもそれほど実用からかけ離れているサイズではないと最近は思うようになりました。

ペリカンは、ペリスケ、M205デモンストレーター、M205ブルー、M800デモンストレーターM205DUOなどのデモンストレーターモデルをここ10数年で5種類も発売していますが、デモンストレーターはそれらの過去の限定品とは迫力が違うオーバーサイズならではの魅力を備えています。
M1000のデモンストレーターモデルは金具をシルバー色にしてM1005としています。
キャップ内の処理、吸入機構周辺、ペン先ユニットのソケットまでも専用パーツとして、まるで医療機器か実験器具かのように見せていて、書き味同様にボディもまた、オーバーサイズでないとできない楽しむための仕掛けがされているのです。

オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活

オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活
オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活

以前、老舗と言われる万年筆メーカーは黒の他に定番の色として小豆色のモデルを揃えていました。

万年筆の色のラインナップとして、黒が外せないように小豆色もまた外せない色だと思っていましたが、1990年代イタリアの新興万年筆メーカーが台頭してきて、気が付けば小豆色の万年筆がなくなっていました。

ペリカンも、最後の砦であったモンブランも、そしてこのオマスも。
そういえば、あまり売れないながらも国産の万年筆にはなぜか小豆色は残っています。ですがこれは世界的にカラフルな万年筆が増えるという流れに取り残されたままだからなのか。

黒いボディに金の金具の万年筆はあまりにも男臭く堂々とし過ぎていて、好みではないと思っている人の声はよく聞きます。
そういう男性のためにも小豆色はちょうどいい落ち着いた色だったのではないかと思います。

オマスがそういうところを狙って小豆色を復活させたのかどうかは不明ですが、「マザーオブパールマルーン」という新色を発売しました。
正確に言うと新色で、以前あった小豆色に輝きを加えた現代的なスパイスも入っています。

でも案内をいただいた時に、そうかこの色があったかと思い当たったくらいなので、小豆色の復活と言ってもそれほど外れていないと思います。
最近万年筆のカラーボディはオレンジ、真っ赤、真っ青などの非常に鮮やかな色が多く、これはデルタドルチェビータがヒットしてからの流れだと思うのですが、人知れず私は万年筆のカラフル化をドルチェビータショックと呼んでいます。

オマスはボディサイズをパラゴン、ミロードと用意しています。
パラゴンは大きなペン先と直径16mmの極太で大きなボディのオーバーサイズの万年筆です。
ボディが大きいので、首軸を金属にすることでバランスを取り、大型万年筆にありがちな後ろ重心を解決しています。
ミロードは直径14mmの標準サイズの万年筆で、ペリカンM800、モンブラン146、パーカーデュオフォールドなどとほぼ同じサイズです。
このアルテイタリアーナミロード万年筆を昨年のオマス社訪問の時にプレゼントされて使っています。

黒いボディにシルバーの金具のハイテクフィニッシュ(気持ちは分かりますがなぜハイテク?)の一番変哲のないモデルです。
このミロードハイテクにもオマスらしさが感じられ、使うのが楽しい万年筆です。
12面体のボディや特長的なリング、クリップなどにオマスらしい意匠は凝らされています。

しかし、私がいつもこだわっていて、喜びを感じるのは書いている時のフィーリング、書いている時に手に伝わる「らしさ」で、それを持っているところがとても気に入っています。

M800やデュオフォールドは、その実用性の追求から、非常にがっしりした硬い書き味を持っていて、それはそれで心地よい滑りの良さと頼もしさを感じますが、オマスには味わい深さを感じます。

テキパキと仕事をこなす感じではなく、ダラダラといつまでもその書き心地を確かめながら書いていたいような感じ。
それは同じイタリアの老舗アウロラにも感じていて、2つのブランドの共通点としてエボナイトのペン芯の存在に思い当たります。

オマスもアウロラもエボナイトのペン芯にこだわっています。
現代では主流になっているプラスチック製のペン芯の方が細かい細工が可能で、各社の研究によるノウハウを反映させることができます。
インクの違いによるインク出の差異がなく、インク選びにシビアにならなくてもいい。
使い出してすぐでもしっかりとインクが出てくれる。
ペリカン、パイロットなどのペン芯にはその良さがよく表れています。

それに対して、エボナイトのペン芯はインクが馴染むまでに2週間ほどの時間を要する。
使用するインクによって、出方がかなり違う、とプラスチック製とは正反対の特長(?)がありますが、長年使い込んだときのペン先に寄り添った馴染んだインクの出方はエボナイトならではだと思っています。

イタリアの万年筆がドルチェビータショックで、外装の美しさに注力していると思っていた中、アウロラ、そしてこのオマスの老舗は書き心地や使用感の「らしさ」も追求していたと思って嬉しくなりましたし、それらの長く使う前提の味わいには落ち着いたボディの小豆色も合っていると思います。


万年筆の書き味・1

万年筆の書き味・1
万年筆の書き味・1

万年筆の良い書き味を言い表す言葉、ヌルヌルヌラヌラ(以後ヌルヌラ)は太字の万年筆の醍醐味あるいは、太字のみの特権のように言われますが、それは細字の万年筆でも実現するものです。

ヌルヌラはペンポイントと紙の間にあるインクがクッションのような役割をすることによって起こります。
自動車教習所で習った、雨の日の高速道路で気をつけなければいけない「ハイドロプレーニング現象」のようなことがペン先に起きて、何の抵抗もないペン先の滑りが得られるのです。
太字の万年筆はペンポイントの平面が大きいので、ハイドロプレーニング現象が起こりやすく、ヌルヌラが得られます。
ペンポイントの平面をスイートスポットと言います。
ヌルヌラの抵抗のない、気持ち良い書き味で、クッキリした線を書くことができます。
スイートスポットを野球のバットに例えると、ピッチャーの球威をあまり感じずにボールを遠くまで飛ばすことができる芯にあたります。
バットの真芯でボールを捉えた感覚は本当に気持ちよく、フィーリングといいそれからもたらされる最大の効果といい、バットの芯とスイートスポットは私にとってほぼ同じものです。

話が少しくどくなりましたが、元に戻すと細字の万年筆の書き味にもヌルヌラ存在します。
それは長年使い込んでいくと使う人の角度に合ってペンポイントに平面ができ、そこにもやはりハイドロプレーニング現象が働くからです。
その平面のつき方は使う人それぞれで違っていますので、平面がある万年筆ほど違う人が書くと引っ掛かりが出たり、インク出があまり良くなかったりします。

この平面を人工的にペン先調整で作り出すことができます。
使われる方の筆記角度、ペン先の向きに合わせて平面を作ります。

使い込むこと、あるいは調整によって細字の万年筆であっても、ヌルヌラは実現するものであるということを知らない人も多く、ぜひ知っておいて頂きたいと思いました。