透明ボディへの思い

透明ボディへの思い
透明ボディへの思い

私の暑い夏の過ごし方で、一番好きでこれが夏の醍醐味だと思っているのは、最近時間がなくて少なくなったけれど、暑い日中に板の間の床の上に枕だけ置いてズボラな姿で寝そべって本を読むことです。

床の冷たさを背中に感じて本を読む。
子供の頃の記憶で、父もいつもそうやって重そうな本を読んでいました。
しばらくして見ると、寝てしまっていることもあったけれど。
本が好きな人にとって、こんな幸せな時間はないのかもしれません。

本を読んでいるとメモをとらなくてはいけないこともあります。
後で書こうと思っても、絶対に忘れてしまうのですぐに書かなければいけない。
寝転んだ状態で書くのに一番いいのは軽い鉛筆、ではなく、筆圧をかけなくても逆さ向きでも書くことができる万年筆です。

鉛筆は筆圧をかけないと薄くなってしまうし、ボールペンは一部のものを除き、逆さ向きではかくことができません。
万年筆は毛細管現象の働きでペンポイントまでインクが流れてきていますので、ちゃんと調整された万年筆なら、紙に当てるだけで上を向いていても書くことができます。
その体勢で長時間書くとペン芯内のインクがなくなって書けなくなりますが、ペン先を下にするとタンクやカートリッジ内のインクがすぐにペン芯に補充されます。
枕に寝転んで書くことはないけれど、ソファにもたれた上体だけ起こした体勢での書きものは休みのたびにしています。

こんな体勢でものを書くことが多いから、私には立派なノートよりも軽く切り取りができるメモ帳の方が良くて、でも何でもいいわけでなく、罫線はちゃんと書く気持ちを盛り上げてくれるものの方がいい。
そこで原稿用紙罫のサマーオイルメモノートの替紙を原稿用紙罫で作りました。

そういう背景からも分かるように、これはデザイン的な面白さを求めたものではなく、大真面目に実用的な理由があって作っています。

寝転んだ体勢で書くのに適した万年筆の条件は、ボディが軽く、ペン先は硬め。更にインクがペン芯まで降りてくることが確認できる透明ボディであれば最高に条件が整い、M200クラシックデモンストレーターはぴったりだと思います。

そういうズボラな万年筆の使い方にも、ペリカンM200は妙にはまってしまう。
透明のデモンストレーターボディに金の金具は、何となく古臭い印象もあるし、下手をすればチープにさえ見えます。
でもこの古臭さやチープさに味わいが感じられて、何か懐かしい気分にさせてくれます。

全然関係はないけれど、透明のものを見るといつも連想してしまう観覧車の話をしなければいけません。

一昨年の夏、家族で横浜へ行った時に泊まっていたホテルの向かいにあった大きな観覧車に乗りました。
私は岩国の錦帯橋の上で足がすくむほど高所恐怖症であるにも関わらず、45度おきにある透明の部屋に乗ろうと言い出してしまいました。
外壁だけでなく、椅子も床も透明で、高さを忘れるために目を反らすところがありませんし、目をつぶるのはお金がもったいない。

私たちが乗った部屋が地上を離れ始めた時にしまったと思いましたが、もう逃げ道はなく、手に汗を握りなるべく遠くだけを見るようにして、何とか1周を耐え、地上に着いてドアが開いたと同時に、転がり出るように一番最初に外に出ました。
高所恐怖症で高いところに上がることなど考えられない私を惹きつけるほど、透明のものというのは、特別なふうに見えて魅力があります。

観覧車の話はこの万年筆の良さと全く関係がないけれど、ペリカンM200クラシックデモンストレーターには心を動かす趣と私が勝手に見出した実用性を感じます。

カンダミサコ「風琴マチ名刺入れ」とあじ名刺

カンダミサコ「風琴マチ名刺入れ」とあじ名刺
カンダミサコ「風琴マチ名刺入れ」とあじ名刺

大和出版印刷の活版印刷の名刺「あじ名刺」は、派手さはないけれど、ひとつひとつの文字に力強さがあって、とても味わいのある大人の名刺だと思います。
この名刺を渡して気付いてくれた人がいると、この名刺について語りたくなるし、相手が気付かなくても活版印刷についての説明をしたくなる。

初対面の人との雰囲気を和やかに、心を近付けるのにも役立つものだと考えると、あじ名刺は相手に自分の名前や立場を知ってもらうという名刺の役割以上の効果を持っていると思います。

当店でもあじ名刺の受付をしていて、すでに多くの人に名刺を提供していますが、ビジネスでも使うことができる大容量の名刺入れがありませんでした。
あるお客様に、「名刺印刷を受けているのに、名刺入れは扱っていないの?」と指摘されたりしていて気になっていたのですが、やっと名刺れらしい名刺入れを揃えることができました。

あじ名刺を収納するのに相応しい品質と設えを持っている、カンダミサコさんの風琴(ふうきん)マチ名刺入れです。
革はル・ボナーさんなど多くの革職人さんが使っているブッテーロ革で、油分を多く含んだタンニンなめしの革で、布やブラシで手入れしながら使い込むとピカピカの艶が出てくれるのが特長です。
傷が付いても、指で擦ったり、革用のブラシをかけたりすると、消えたり、薄くなったりする。
しなやかなブッテーロ革の特長を生かし、さらに風琴マチという技術を盛り込んだことがこの名刺入れの一番の特長で、たくさんの名刺を収納することができるのに薄くなっていて、それが風琴マチの効果です。

風琴マチという蛇腹状のマチをつける技術は革を薄く剝いて、張り合わせなくてはならず、とても難易度の高いものですが、カンダさんはさりげなくこれをやってのけます。
見た目はシンプルでオーソドックスな名刺入れのスタイルでありながら、実は手間と高度な技術が込められた一味違う仕様になっているところは、活版印刷という職人の腕によるところがその出来栄えを左右するあじ名刺と近いものを感じます。
テクニックや仕様が先にあるのではなく、理想的な製品の形があって、それを実現するために技術を駆使する。

そんなカンダミサコさんらしいスマートさと腕の良さ、丁寧な仕事が感じられる名刺入れです。

*活版印刷名刺「あじ名刺」は店頭にて見本帳をご覧いただいております。興味がおありの方はお問い合わせ下さい。

サマーオイルメモノートに原稿罫

サマーオイルメモノートに原稿罫
サマーオイルメモノートに原稿罫

出勤や帰宅中、本を読んでいない時は何か書くことを考えていますので、鞄に入れているサマーオイルメモノートを使わない日はありません。

まとまったものは机に向かってノートや原稿用紙に書きますが、自分が書くものの大半はこのメモノートで充分用が足ります。
メモノートに書いたものはパソコンに打ち込んで形にしないと、いつまでも書いたものがメモに残っていますので、それで自分を追い込んでいるようなところもあります。
でも相当な頻度でメモノートを使っていますので、このメモノートへのこだわりも強く、もっと良くしたいという欲求がいつも出てきて、改良点も出てきました。
綴じる紐も当初37cmでしたが、現在は55cmに変更して、和綴じのようにすることによって、表紙の穴から上の部分が反り上がるのを防止しています。

また製造工程上実現していないので、個人的に行っている作業なのですが、穴から上方向に切り込みを入れることでスムーズに中紙を切り離すことができ、ちぎれた小紙片が紐周辺に残らなくなります。
このメモに向かっている時間が長いので、いろいろ気になることが出てくるのだと思います。

今回の中紙を原稿用紙にしてみるというのも、文字数を把握しながら書くことができればとても便利だと思ったからです。
原稿用紙罫を模様としてではなく、本気で原稿用紙として使おうと思っています。
紙の大きさ、一マスの大きさの加減で1枚140文字という変わった文字数になっていますが、無地の状態よりも更に書く気分を盛り上げてくれる罫線が原稿用紙罫です。
もちろん、原稿用紙罫をただの模様としてとらえることも可能です。
私の場合、あれほど色々なメモを使っていたのが嘘のように、他のメモ帳を使わなくなりました。

上質な素材で、シンプルなものを作るWRITING LAB.のイメージが顕著に表れているのが、このサマーオイルメモノートで、メモ帳に本気で使うことができる原稿用紙罫を入れるのもWRITING LAB.的だと思っています。

コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成

コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成
コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成

工房楔の銘木万年筆ケースコンプロットは、10本収納のディエーチと4本収納のクアトロがあります。
机上での使用を想定した10本用ディエーチは、開いたまま立てておき仕事に必要なペンを選ぶという、万年筆を使い分ける楽しみを改めて感じさせてくれるものです。
私はコンプロット10(ディエーチ)を使い始めて、万年筆を使うことが更に楽しくなりました。
10本を一度に見渡せるため使うペンが偏らないという効果もあり、それはもしかしたらインクが乾いているのではないかという心配から私を解放してくれる、精神衛生上も大変意義のあることだと思います。

仕事が終わるとコンプロットをパタンと閉じて、引き出しなど収納場所に仕舞っておく。明日の朝またそれを開いて仕事をする。
コンプロットに関する一連の動作が儀式のように思わせてくれるのも、コンプロットが厳選された素材の刳り抜きという、素材の良さを最も生かす技法で作られているからなのかもしれません。

シンプルな加工法である刳り抜き技法は、腕の良さと素材を見る目が物を言う、ごまかしのきかない技法で、自分の仕事に厳しい工房楔の永田さんだからこそ、その大作であるコンプロットを作り上げることができたのではないかと思います。

コンプロット4ミニは携帯できるコンプロットとして、用途や色をコーディネートした4本を持ち出すのにちょうど良い、鞄に入れやすいサイズですが、持ち歩くにはどうしても傷が気になります。

そこで、コンプロット4ミニを持ち歩くためのコンプロットウェアをWRITING LAB.で企画しました。
コンプロットを保護するためのカバーですが、中に入れるコンプロットに見合う上質で素材感のあるものとして、栃木レザーのクリーク革を選んでいます。
手触りや色合い、質感に、革本来のものが感じられ、使い込むと艶を出してくれます。
内装は、出し入れすることによって銘木製のコンプロットを磨く役割もある合成皮革のエクセーヌを使っています。
コンプロット4ミニを引き立て、より使い易く、持ち運び易くしています。

万年筆を使うことを楽しくしてくれるコンプロット、そしてコンプロットをより楽しく使うことができるコンプロットウェアです。

万年筆を入れるケースに更にケースを作ってしまう。
WRITING LAB.では、こういった一見無駄に見えるけれど需要のありそうなものを、シンプルに上質な素材を使って作っていきたいと思っています。
そしてそれは万年筆を使うことをより楽しくしたいという思いからです。

今後も、色々な万年筆を楽しむためのものを作っていきたいと思っています。

⇒WRITING LAB.コンプロットウエア

想いを込めるインクの色

想いを込めるインクの色
想いを込めるインクの色

ペリカンのエーデルシュタインインクに、新色タンザナイトが発売されました。

ペリカンのブルーブラックは落ち着いた紺色で、個人的にはとても好きな色ですが、酸化鉄の作用で紙に定着する昔ながらのブルーブラックなので、インクの出が少なくなることがあります。
アウロラなどの万年筆ではインクの出が極端に少なくなったりしていましたので、ペリカンのブルーブラックはどちらかというと扱いにくいインクのひとつでした。
タンザナイトはブルーブラックの色ですが、従来のブルーブラックとは成分が違うためインクの出が渋くならず、ペリカンの純正インクを使いたいと思っておられた方には待望のインクです。

私も万年筆のインクはたいていブルーブラック系の色を使っています。
黒は書いていて何となくつまらないし、ブルーは私の好みからするとパッと明るすぎる。
夏には特にそうですが、インクの色を何か違うものにしたいと思って、黒やロイヤルブルーにしたりして(あまりインクの色で冒険しない方です)しばらく使ってみたりしますが、すぐにいつものブルーブラックに戻ってしまいます。

何度も書いているかもしれませんが、私は当店オリジナルインクの朔をよく使います。
このインクはくすまないブルーブラック、紺色を目指して作った色で、新月の夜の空をイメージしています。
どの万年筆に入れてもインクの流れが良く、気持ちよく書くことができるので、万年筆のインクの伸びを重視する私にはその特性的にも他に換え難いインクです。

これは私の勝手な印象というか、思い込みですが、ブルーブラックのインクはどれも夜をイメージしています。
モンブランの古典的なインク、ブルーブラックも最近ミッドナイトブルーという名前に変更しましたし、エルバンとカランダッシュはブルーナイトという色があります。
ブルーブラックとは言っていないけれど、オマスのブルーは他のメーカーのブルーよりも色が濃く、イタリアの夜の空をイメージさせます。

インクの色というのは、作り手も使い手も、想いを込めるととても良い物に感じられて、そこがとても面白いと思っています。

⇒Pen and message.オリジナルインク「朔」
⇒Pelikan エーデルシュタインインク「タンザナイト」

万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの

万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの
万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの

どんな小さなものでも丁寧な手仕事が妥協なく施されている。
カンダミサコさんが作る革製品からは、センスの良さとともに、技術の素晴らしさと意外にも思えるストイックさを感じます。

万年筆を愛用すればするほど、使い慣れれば慣れるほど、万年筆を丁寧に扱いたいと思う心は強くなって、すでに使い倒して小傷がたくさんついている万年筆でも良い革のケースに収めたいと思う。
万年筆を使っている人は使い慣れたノートを革のカバーに収めたいと思う人が多く、当然万年筆も革のケースに収めたいという気持ちが強い。
でも万年筆を収める革のペンケースは重厚で、いかにも万年筆を入れるという感じのものばかりです。
特に女性のお客様に軽く爽やかに万年筆を収納するものと言われると、困ってしまうほどそれらは決まりきった形のものばかりでした。

当店ではカンダミサコさんのペンシースをお勧めすると、女性だけでなく、男性のお客様方の心もつかめる確率が高い。
カンダミサコさんのペンシースの特長は1本だけをサッと収めることができながら、クリップを通す場所が内部にあり、脱落することがない。
そしてそのクリップを通す場所は、片方は入口すぐから始まっていますし、反対側入口から奥まった所から始まります。

例えばペリカンのようにクリップからキャップトップの距離が短い万年筆とモンブランマイスターシュテュックのようにクリップからトップが長い万年筆とでは、差し込む方向を変えることで、ペリカンならM800まで、モンブランなら146までを収めることができます。

しなやかで手触りが良いのに傷が付きにくく、非常に扱いやすい素材であるシュランケンカーフは、カラーバリエーションが多く、必ず好みの色、用途に合う色を見つけることができます。
万年筆のボディの色やインクの色とペンシースの色をコーディネートしてもいいし、ペリカンやモンブランのように軸色がベーシックな場合、インクの色や他の身の回りのものとコーディネートした色のペンシースに収めると、万年筆が夏らしく華やぎます。

ル・ボナーのデブペンケースに万年筆と他の文房具を一緒に入れて持ち歩くとき、ペンシースに万年筆を収めると、万年筆に傷が付き防止になる。
なるべく荷物を軽くしたい夏には特に役立つ小物だと思います。
とても便利なものだけど、機能性だけでなく、万年筆や万年筆を使う心に彩りを与えてくれるものが、カンダミサコさんの丁寧な手仕事によるペンシースです。

⇒カンダミサコ1本差しペンシース

仕事に役立つもの

仕事に役立つもの
仕事に役立つもの

私が本屋さんで長時間棚の間をさ迷うのは、本が好きだということもありますが、一番大きな理由は自分の仕事をもっと良くするための知識を与えてくれたり、自分の思考を深めてくれる本を探すということです。

私が本を読むのは、いつも何かの答えを探しているところがあります。
仕事の答えを直接書いていなくても、私自身がその内容から連想してヒントにすることができればそれでいいので、どんな本がそれにあたるのかは自分でも全部読んでみるまで分かりません。
実際「思考の整理学」「文章の書き方」や「無言の前衛」などのように直接自分にヒントを授けてくれる本にはめったに出会えないと思うけれど、それでも時間があれば本屋さんの棚の間をさ迷いたくなります。
その辺り一帯に発見されていない鉱脈があるくらいに思っていて、その鉱脈を掘り当てるために棚の間をさ迷う。

年末に手帳売場でさんざん立ち読みして、厳選して使い出した手帳を違うものに換えたくなるのは今頃なのではないかと思います。
手帳をシーズン中に換えたくなる理由は、今使っている手帳に原因があるのではなく、手帳を換えると自分の仕事がもっと良くなるのではないかと思ってしまうからです。

シーズン中に手帳を換えると写し換えないといけないこともありますし、中途から始まったり、終わったりしているので、記録として意味を成さなくなると、今まで何度も後悔しているので最近はしなくなりました。

でも手帳を換えたいと思うのも、本を探す心も似ていて、自分の仕事をもっと良くしたいという気持ちに端を発しています。

万年筆をいろいろ使いたいと思うのも、本や手帳と同じように自分の仕事がもっと良くなるのではないかと期待するからなのではないかと思います。
実は私もそのように考えていて、本と同じように万年筆も自分への投資だと本当に思っています。
でも仕事が楽しくなったり、モチベーションが上がったりすることを考えると、正真正銘、自分への投資だと思います。

本や手帳には、これが誰にでも絶対正解だと言えるものがなく(強いて言えば古くから読まれている古典の類は正解に違いないのでしょうが)、それは人によって違うと思いますが、万年筆には誰にとっても正解だと言えるものがあります。

ペリカンM800は書くことにおいて正解だと言える万年筆のひとつだと思います。
良い万年筆の証拠ですが、既にお持ちの方もたくさんおられて今更お勧めするのもどうかと思いますが、書いていて何のストレスも感じない、何も気にならないというのがM800の特長ではないでしょうか。

M800は軸が重くて太いので使いにくいという人も中にはおられますが、もう少しだけ我慢してM800を使ってみていただきたいと思います。
突然大きいと思っていたM800が手にしっくりくる日が必ず来ます。

細くて軽い軸のペンに慣れていた手が万年筆に慣れてきたというのは、そういうことなのだと思います。

書くことにおいて完璧なバランスを持った万年筆は必ず仕事の助けになってくれて、これによってアイデアが浮かんだり、ヒントをもらったりすることはないかもしれませんが、頭に思い浮かんだことを一気に文章にするような時に必ず助けになると思います。
自分の回転の悪い頭が少しでもよく回るように、浅墓な考えが少しでも深くなるように何でもしたいと思っていて、それが本だとか、手帳や万年筆だと思っています。

道具で自分の仕事が良くなるというのは幻想なのかもしれませんし、そうでないのかもしれない。
しかし、少なくともそれによって、仕事が快適になったり、効率が上がったりはします。
書いていて何も気にならない、まったくストレスがないというM800のような万年筆は良い道具が満たすべき唯一の要件をしっかりと満たしていて、それで十分ではないのかと思えます。

当店ではペリカンM400、M600、M800、M1000のペン先を全て揃えています。
一番合いそうなM800をぜひお選びに来て下さい。

⇒Pelikan M800

ペンレスト兼用万年筆ケース

ペンレスト兼用万年筆ケース
ペンレスト兼用万年筆ケース

定番として作ったオリジナル商品を、再生産する度に少しずつ仕様を変えて作りこんでいく作業がとても好きです。

もちろん最初に作った時にこれで完璧だと思って発売するわけですが、自分も使いながら改良したい所を探しています。それを直して、より完全な状態にする。
終わりのない永遠に続く作業なのかもしれないけれど、ロングセラーの万年筆も問題箇所を直したり、顧客の声を反映させたりしながら今の形になっているのだと思うと、1回生産だけの限定品よりも定番品の方が修正が重ねられている分、魅力的に感じたりします。

当店のオリジナル商品、ペンレスト兼用万年筆ケースはあまり修正箇所が見られず、実用部分では全く変更を加えずに今に至っています。
でも革の供給の問題で革を変えたり、色を変えたり、内張りやステッチの色を変えたりはしていて、より良いものを目指しています。

しばらくの間品切れしていましたペンレスト万年筆ケースの黒が再入荷しました。
鮮やかできれいな色が揃うシュランケンカーフの中にあって、黒は異色の存在。
でもあえて黒を選ぶということが贅沢に感じられますし、自分で使い込んでみると、黒の良さが分かってきます。

シュランケンカーフの黒を選んだのは、なるべく地味で、ビジネスシーンでも気後れすることなく使っていただけるものを作りたいと思ったからで、内装もダークブルーにしました。
今回は少しだけ華やかなものとして、ワインカラーの内装のものも作ってもらいました。
この万年筆ケースは、お仕事での使用において完璧な機能性を持っていると自信を持っています。
鞄の中やポケットの中に入れている時はフラップを被せて、ペンが脱落したり、傷がつかないようにする。
フラップを枕のようにペンの後ろにまわすとペンがすぐに取り出せるようにできます。
薄いのでジャケットのポケットにも入れることができますが、モンブラン149やペリカンM1000くらいの太い万年筆も収納することができる。
万年筆を仕事の道具として使いこなすのに役立つペンレスト兼用万年筆ケースは私にとっても仕事での必需品で、仕事用のシルバーン、赤インク専用のシェーファー、カステルのボールペンを入れて日々使っています。

⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース

WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”

WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”
WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”

休みの日やちょっと出掛けたりする時の男の持ち物はそんなに多くない。
カフェでの時間があったり、電車の中で時間を持て余して、何か書き物をするかもしれないと思って大判のノートを持ち歩いたり、読むかもしれない単行本を持ち歩くというイレギュラーはあっても、決まって持って出るのは財布、携帯、手帳、万年筆の4点セットだと思います。

ル・ボナーのポーチピッコロに財布、携帯、手帳とともにSOLOに万年筆を1本入れて持ち歩くようになりました。

1本だけ、たとえ使わなくても自分を象徴するような、自分の代表的な万年筆を持って出るということが潔いのかもしれないと思うようになりました。
使う予定のない万年筆は持って出ない方がカッコいい。

このペンケースSOLOは、兵庫区和田岬の工房“IL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)”の久内ご夫妻が作っています。
フィレンツェでご主人の淳史さんは靴工房で、奥様の夕夏さんはフィレンツェ伝統のしぼり技法の革小物工房でそれぞれ修行されましたが、夕夏さんが修行していた工房ではシガーケースも作っていました。

昨年ベラゴの牛尾さんに久内さんご夫妻を紹介していただいて、当店でお会いした時に万年筆に関連したものを作ろうという話になり、シガーケース型のペンケースを作ることになりました。
そこから試行錯誤が始まり、久内さんは2度程試作品を作って下さいました。
シガーも万年筆もそれほど変わらず、コロナサイズのシガーなどは大きめの万年筆(例えばペリカンM1000など)とほぼ同じサイズですが、最大の違いはその重さでした。

シガーを入れても問題なくても、万年筆を入れると自然と胴が下がって抜けてしまう。
蓋と胴の合いの強さをコントロールする精度がお二人の仕事に要求されましたが、木型を修正して、勝手に抜けることなく、手で引っ張ると良い具合に抜けるように仕上げて下さいました。

ペンケースSOLOの最大の特長は、ムラ感のある色気のある色合いだと思っています。
ナチュラル色の革に顔料で色を重ねていくフィレンツェ伝統のパティーヌ技法によってそれは仕上げられています。
定番色は5色ありますが、今後この色で様々なものを企画していきたいと思っています。

SOLOペンケースに入る万年筆は、ペリカンM1000、モンブラン146、ペリカンM800よりも細いものです。アウロラ88、オプティマなどは、クリップの出っ張りが大きく少しきつい感じです。

受注生産で納期は3週間いただいていますが、先日のイベント用に作成して頂いたものが少量ありますので、「要在庫確認」となっているものはすぐにお送りできます。ぜひご覧下さい。

⇒シガーケース型ペンケース”SOLO”

ドイツらしさの主流 ラミー2000

ドイツらしさの主流 ラミー2000
ドイツらしさの主流 ラミー2000

仕事が終わってホッと一息ついた一人の時間、自分にとって柱となる万年筆はどれだろうと、常時インクを通している13本の万年筆を見ながら考えています。

それはこの中にあるのか、それとも敢えて欠けたままに10年以上放っているあの万年筆なのか。
あの万年筆とは何なのかはまだ言えないけれど。
そんなふうに個人的なものとして万年筆について考えるのは、実は楽しい悩みなのです。
自分にとっての1本も決めることができない私とは違って、自分にとっての1本をはっきり持っている人は結構いるのだと、皆様のお話をお伺いしていて知りました。

それはもしかしたら万年筆を売る側の人間である私と、買う側である皆様との立場の違いに関係があるのかもしれません。
やはり売る側の人間としては個人的な好き嫌いは交えず、公平に全てのメーカーの万年筆を見なくてはいけないという気持ちが無意識のうちに働いていて、個人的な万年筆でさえも序列をつけてはいけないと思っているからなのだと思うようになりました。

私の師匠の中の一人にラミー2000が自分の持っているものの中で最高のペンだと言う人がいます。
ヘミングウェイやビンテージの逸品を含めて100本にも届こうという人の最高のペンがラミー2000だと言われた時、それは話のネタなのではないかと思ってしまいましたが、どうも本当のようです。
2万数千円の価格のラミー2000が数万円、中には10万円以上にもなる万年筆よりも良いというのをその人なりのジョークなのだと思ったのです。

ラミー2000が悪いペンだと言っているのでは決してありません。
ラミー2000は1966年に誕生した万年筆で、2000年まで通用するペンとしてラミーがまさに社運を賭けて発売した万年筆でした。
ほとんどの万年筆メーカーが社内でデザインしたものを製品化するのが一般的でしたが、ラミー2000では、当時新進気鋭だった工業デザイナーだったゲルトハルト・ミューラーを起用しました。
2000の名に偽りなく、当時最も先進的なデザインで、今もまだ最もユニークな存在の万年筆です。
ラミー2000が最高の万年筆だと言った先ほどの方は「非常にドイツ的な万年筆やな。」とラミー2000を評しています。

ペリカン、モンブランもとてもドイツらしい万年筆だと思われていますし、私もそう思っていますが、ペン先が大きなクラシックスタイルの万年筆が多くラミー2000のドイツらしさと、他のクラシックスタイルのドイツらしさとはかなり方向が違っています。
シンプルで一切の装飾のないモノトーンのラミー2000は1940年代に起こったバウハウス運動の流れを汲んだデザインで、戦後のデザインだと言えます。
それに対して、ペリカン、モンブランのクラシックな万年筆のデザインは戦前のデザインと言えるのではないかと思います。

万年筆以外の製品では、私たちはラミー2000のようにモノトーンでシンプルなものをドイツらしいと思っていたはずです。
しかし最もドイツの万年筆らしいと思われているペリカン、モンブランはそうではなく、万年筆が他の世界とズレがあることに気付きました。
ラミー2000は異端なのではなく、最もドイツ的なデザインの主流を体現している万年筆だったのです。

その方のラミー2000は1975年に手に入れてずっと愛用しているとのことで、ペン先のイリジュウムは見事に美しく平らにすり減っていました。

⇒ラミー2000