ペンシルエクステンダー楔トゥラフォーロアルミ

ペンシルエクステンダー楔トゥラフォーロアルミ
ペンシルエクステンダー楔トゥラフォーロアルミ

工房楔(せつ)のアルミ金具を使ったエクステンダーが完成しました。

工房楔のペンシルエクステンダーは、ここ2年で著しい進化をとげていて、実用面でのさらなる完成度を求めた今回のアルミ金具の採用です。

木の加工だけでなく、こういった金具を次々とオリジナルで作ってしまう木工家は非常に少なく、工房楔の永田さんの、面白いものを作って行きたいというアグレッシブな姿勢を感じることができます。

鉛筆が長いままでも使うことができるトゥラフォーロタイプは、以前から他のメーカーからも発売されていた仕様ですが、工房楔のものがデザイン的に最も美しく仕上げられていると思っています。

従来の真鍮金具タイプは、尻軸へ行くほど太くなっていて、これが見た目の特別感と重厚さと手の中に上手く納まる心地よい重量感を生み出していました。
真鍮の金具は、その質感や風合いなど木と非常に相性の良い素材ですが、良くも悪くも万年筆的な重厚な使用感が特長でした。
その重量を生かして、ペンを寝かせて書くようなところは、リフィルとなる鉛筆の使用感とは全く違っていて、それが真鍮金具のトゥラフォーロの持ち味だとも言えます。

アルミ金具採用のメリットは、何と言ってもその重量にあります。
アルミ金具は、鉛筆持ち味を生かした使用感になっていて、エクステンダーと鉛筆の一体感を感じ、鉛筆の延長線上のオプションパーツとしてエクステンダーが存在しているように思えます。

鉛筆との差異感を無くすためにストレートタイプのデザインとしていますが、これもスマートなデザインになっています。
鉛筆を好んで使われている方には、真鍮金具よりもこのアルミ金具の方が使いやすいと思っていただけると思います。
丁寧に面取りされて磨かれたアルミ金具と木の素材は、鋭いコントラストを見せて、このトゥラフォーロアルミを大変魅力的に見せています。

真鍮金具でも感じましたが、木の部分と金属の部分の見え方のバランスが絶妙で、これ以上ないバランスだと思っています。

木の素材は現在永田さんの手元にある最良のものを選んでいます。
黒柿は、古くから茶道具や根付など木工芸で珍重され、誰もがその良さを認める素材です。使い込むほどに艶を増し、杢が際立ってくるところが特に魅力です。
今回の花梨は、特に杢が細かく美しい材です。
木工家の素材選びは博打みたいなところがあって、こういった抜群の素材に出会うこともありますし、割ってみると全く使えない材だったりということもありますので、材料を見抜く目も木工家の腕のうちで、永田さんは特にこの目が優れています。

チンチャンはローズウッドの一種です。これも今回のものはネットリとした艶のある、赤みの強い良い材料が入っていると思います。
伊勢神宮欅は、木目のバラつきの少ない素材です。伊勢内宮の大変縁起の良い素材が使われていて、受験などのお守りとして購入される方もおられます。

工房楔の魅力は、大変な銘木を日々使うことができる道具に仕上げているところで、ペンシルエクステンダートゥラフォーロのアルミ金具採用も、日々使うことができる道具としての姿を追い求めた結果行き着いた答えです。
銘木を毎日使っていただけるものにして、その良さを多くの人に知ってもらうというのが、工房楔の永田さんのライフワークです。

⇒工房楔(せつ)エクステンダーへcbid=2557546⇒工房楔(せつ)エクステンダーへcsid=7″ target=”_blank”>⇒工房楔(せつ)エクステンダーへ

カンダミサコ新作「ブッテーロ革ペントレイ」完成

カンダミサコ新作「ブッテーロ革ペントレイ」完成
カンダミサコ新作「ブッテーロ革ペントレイ」完成

カンダミサコさんの新作「ブッテーロ革ペントレイ」が完成しました。
昨年から販売させていただいている、ペーパーウェイト、ブッテーロ革デスクマットとセットで使っていただける同じ素材、同じ色で揃えています。

新作のペントレイは、革を7層も積み重ねた構造のもので、色違いの革をカンダさんがコーディネートして重ねた断面のグラデーションが美しい、センスを感じさせる上質なものになっています。

その仕上げに一番苦労したという断面のグラデーションがこのペントレイの外観上の特長になっていて、見て、触っても楽しめるものは今までなかったのではないかと思っています。

こういった革のペントレイは、器型のものがほとんどで、表面に溝がつけられているタイプの革のものは珍しく、大変便利なペン休めです。
私は毎日使っている万年筆を美術工芸品のように扱っているわけではありませんが、大切にしている万年筆を机の上にそのまま置いたり、硬いものの上に置くことが躊躇われていました。

また同時に使っているペン同士が当たることもとても心乱されることで、そういったことを気にせずに万年筆を使うようにしてくれるペントレイは作業効率も上げてくれます。
揃いのデザインのデスクマットも、3層もの素材を重ねて反り対策としていますが、安定感もある大変使いやすいものになっていますので、併せてお使いいただくとより雰囲気のある机上空間が出来上がります。

ペントレイもデスクマットも、革本来の風合いを残してなめしているブッテーロ革を使用していて、革ならではの風合いが模様となっていますので、私もそうですがこういった素材感を楽しめる方には他にない素材です。

最近とても忙しくされているカンダミサコさんですが、そのお仕事の合間を縫って昨年末フィレンツェとパリに一人旅に出られていました。

ヨーロッパで受けた刺激が、このような美しい作品を生み出したのかと思うと嬉しく思いましたし、クリエイティブな仕事をするために外に出てみることの重要性も感じて、ただ毎日作品作りさえしていればいいというわけではない職人の仕事の難しさ、感性の研ぎ澄まし方を垣間見た気がしました。

全てカンダさんとご主人のお二人で全ての工程をこなしていますので、ひとつの作品が出来上がるまでに時間がかかりますが、これからもカンダミサコさんと共に、ゆっくりと歩いていきたいと思いました。

*カンダミサコさんのデスクマットのサイズ別製が可能になりました。

既製品は、A4サイズですが、以下のサイズを参考にのせておきます。(税込み、送料・手数料別途必要)
B1 100,000円 B2 58,000円 B3 28,000円 B4 15,000円
A1 80,000円 A2 46,000円 A3 22,000円

ご希望の方はメールでお問い合わせ下さい。

自分らしいインク色探し ~当店オリジナルインクについて~

自分らしいインク色探し ~当店オリジナルインクについて~
自分らしいインク色探し ~当店オリジナルインクについて~

当店のオリジナルインクは、冬枯れ、朔、山野草、朱漆の4色があります。
他にも作りたいインクの色はたくさんありますが、最近では非常に多くの色が各メーカーから発売されていますし、お店のオリジナル色も珍しい企画ではなくなっていますので、当店が発売しなくてもいいのではないかという天邪鬼な心が働いてオリジナルインクの色を増やさずにいます。

暮らしの手帳に当店の紹介記事を書いてくださったSさんが、冬枯れインクのことを書いて下さったこともあって、冬枯れは非常に人気があります。

冬枯れの色は、文字は黒であって欲しいと思うけれど、ノートにたくさんの文字を黒で書いてしまうと黒々してうるさくなってしまう、後から見た時に、少し薄めの方が見やすいのではないかという実用的な理由と、侘び寂びを感じさせる日本的な色というイメージからできたものです。
黒の万年筆インクは非常に多くの種類がありますが、その中でも黒とグレーの中間にあたる色で、他にあまりない色だと思っています。

朔は手紙に最も適した落ち着いた温かみを感じさせる色だと思っていて、ずっとお客様への手紙に使っていました。
どの万年筆に入れても、流れが良く、そういったところも気に入っている理由のひとつです。
手帳に書いても、目に優しい色で落ち着いた感じがして、朔ばかり使っています。
これは当店スタッフKが以前セーラー万年筆インクブレンダー石丸氏に作っていただいたもので、月のない夜(朔の日)をイメージして作られています。使っていたところお客様からお問い合わせいただくことが多かったので、お店のオリジナルインクとして使っています。

朱漆はなかなか用途を見つけるのが難しいインクなのかもしれません。
このインクの色を赤と思ってしまうと本当に用途が限られてしまいますので、あまり気にせずにメモなどで使う方がいいのかもしれません。
でも、きつい印象を与えない赤々していない採点用の赤インクを探されている方にもぜひ使っていただきたいと思います。

当店の4色のオリジナルインクは、それぞれ四季のイメージに合わせていますが、朱漆は一番説明が必要で実は春の色です。

朱漆と考えた時に、それは何かお祝いごとがあった時に使う朱塗りの器の色だと思いました。お祝い事、ハレの日は、春にあることが多い。
そういった理由で、朱漆は春の色としています。

最近、色インクを使ってみたいと思うようになって、山野草を使うようになりました。
エンツォ・フェラーリはいつも自分専用の非常に鮮やかな紫色のインクを使っていたと言われていて、そこから少しだけインスパイアされて、エンツォより控えめな色ですが愛用しようと思っています。
秋の高原に咲く花々をイメージした色ですが、使ってみるととても気分が良いと思いました。

自分が書いた文字がきれいな紫色というのがとても新鮮で、このインクで書くことが楽しくて仕方ありません。
インクの色というのは、エンツォのようにそれが自分の色になってしまうと、その色を見ただけで誰が書いたものかすぐ分かるようになります。
そうなるまで使い続ける強い意志と努力が必要ですが、何かそういう色を見つけたい。
当店のオリジナルインクが、多くの人にとって自分の色と思われるようになればいいな、と思います。

⇒Pen and message.オリジナルインク

実用的に意味のある吸入式 ”カスタム823”

実用的に意味のある吸入式 ”カスタム823”
実用的に意味のある吸入式 ”カスタム823”

万年筆は吸入式であってほしいと、万年筆に趣味性などの面白味を求めている方は思うことが多いようです。
それは時計は機械式であってほしいと思うのと一緒で、合理的ではないある種の無駄に意味を見出している、万年筆を使うという行為を大切にしている人の中に多いのではないかと思います。

そういった面白みに大いに理解は持っていますが、私などはそのあたりには無頓着で、カートリッジ・コンバーター両用式の万年筆でも全然平気ですし、インク交換のためにボトルインクを持ち歩かなくて済むカートリッジ式の方が便利に感じてしまう方です。
かと言って、実用一辺倒で、ただ書ければいいというわけではなく、色々なこだわりがあって、書き味の良くないものやインクの出が不十分なものは許し難いとさえ思います。

吸入方式にはあまりこだわらないけれど、書き味にはこだわっている私のような者、万年筆は吸入式であってほしいと思う人、あるいは万年筆はハードに使うための仕事道具だと思われている人など、どの人にもどこか興味を惹かれ、場合によれば心奪われるところがあるのがカスタム823で、どんな人にもお勧めしたい万年筆のひとつだと言えます。

カスタム823は、超実用万年筆カスタム743とほぼ同じデザインの万年筆ですが、一番の違いはその万年筆が国産の万年筆には珍しく吸入機構を備えているところです。

吸入式というと、尻軸を回転させることで胴軸内のピストンを上下させてインクを吸入させるものがほとんどですが、このカスタム823はプランジャー式という少しユニークな吸入方式を持っています。

プランジャー式吸入機構は、尻軸を回してフリーな状態にしてから引っ張り上げ、押し下げることで一気にインクを吸入する、空気圧を利用した吸入方式です。
複雑な吸入メカニズムをボディ内に備えていないため、インクタンクを大きくとることができて、インクを大量に吸入することができます。
その動作は劇的で何度やっても楽しいと、無頓着な私でさえ思います。

大量のインクを吸入することによって、本当に長時間書き続けられるということは、このプランジャー式という吸入方式は万年筆としての面白味だけでなく、実用的にも意味のあることなのです。

パイロットがプランジャー式吸入機構を開発したのは、実はかなり古く1933年に遡ります。
携帯時インクが漏れることのないインク止め機能のある、大量のインクを吸入することのできる吸入機構を備えた万年筆を作りたいというのが開発目標でした。
当時、モンブラン、ペリカンに代表される回転式ピストン吸入機構はあまり広まっておらず、吸入量の少ないゴムチューブを使った吸入機構が一般的でした。一気に大量のインクを吸入することができ、インク漏れのない理想的な吸入方式。
それがパイロットが今から80年近く前に他社に先掛けて開発した吸入機構であり、現在でもその存在意義があり、実用的に充分使いうるものだというところに恐れ入ります。

考えてみると、パイロットのカスタムシリーズは実用を追究したモデルで、全てのモデルには実用的な意味があるラインナップだと思われます。
そのためカスタム823の吸入式に実用的な意味があって当然で、書き味・タフな実用性ともに文句ない性能を持つカスタム743に、実用的な意味での吸入式が備えられたものがこの万年筆なのです。

カスタム823は、万年筆のボディに美しさなどを求める方には受けないかもしれませんが、80年以上前に描いた理想の万年筆像を具現化したパイロットの技術者の夢が詰まった理想の万年筆。
万年筆で書くということを楽しまれる方には一度は手に取ってほしい万年筆だと思っています。

⇒パイロット カスタム823

ファーバーカステル伯爵コレクション

ファーバーカステル伯爵コレクション
ファーバーカステル伯爵コレクション

ほとんどの人がそうかもしれませんが、冬が嫌いで外が寒いと外出したくなくなったり、出勤する時間もダラダラと遅くなったりします。
そんな憂鬱な冬を少しでも楽しくしようと、外出したいと思えるようにしようと思い切って買ったグローバオールのダッフルコートは今では冬の間中手離せないものになっています。

かなり厚手のウールなので重さもかなりありますが、それを差し引いてもメイドインイングランドというロマン、オーソドックスで流行に左右されないデザインはダウンジャケットに戻れない満足感を着るたびにくれます。
イギリスで70年もの間変わらずに作り続けてきたというロマン、そしてファッションのトレンドに流されないダッフルコートのスタンダード、これだけでも着る人を幸せにしてくれて、出不精を緩和してくれます。

こういった古くから変らずに作り続けてきて、スタンダードとなったものに私はとても惹かれます。

その好みは多くの場合、他の物にも当てはまり万年筆も同様です。
今までになかったものを作ろうと奇をてらった斬新なものよりも、クラシックで保守的な作りのしっかりしたものがとても好きです。

作り続けるためにはただ何も変えずに惰性で生産するのではなく、少しずつでも改良してより良いものにしていく努力が必要で、長い年月をかけて作り込まれたものに勝るものはないと思っています。

ファーバーカステルは、世界で最初に鉛筆を製造したメーカーとして有名で、その歴史は250年にも及ぶということですので、筆記具メーカーとしては最古参になります。
9000番鉛筆という濃い緑色の鉛筆が最も有名で、ファーバーカステルを製図・デザインの分野で最も尊敬されるメーカーとしている立役者ですが、その鉛筆のノウハウが存分に生きていると思われる伯爵コレクションの万年筆をご紹介いたします。

伯爵コレクションの万年筆は、他の万年筆のようにキャップを尻軸につけてベストなバランスを保ったり、適度な軸の太さがあって万年筆を寝かせてゆったり書くという書き方ではなく、キャップを尻軸につけずに、万年筆を立て気味にして書くというのが合った使い方だと思っています。

それはもしかしたら鉛筆につながる書き方なのかもしれないと思うと、ファーバーカステルが独自に守り抜いてきた鉛筆作りに対してのこだわりが、万年筆に生きているのだと理解できます。

万年筆を使い慣れた人が、他の万年筆からファーバーカステルに持ち替えて書いた時にとても違和感を感じるかもしれませんが、これがカステルが提案する万年筆だと思うと、そして鉛筆作りで250年間の実績があるということは誰をも黙らせてしまいます。

伯爵コレクションのシンプルだけどとてもファーバーカステルらしい、優雅さを感じさせるデザインは、他の万年筆メーカーが良しとするバランスでは作り得ないもので、そういった点において伯爵コレクションの万年筆はスタンダードでないのかもしれませんが、これこそがファーバーカステルがスタンダードとする筆記具だと思えてしまいます。

私にとって外出したくない気持ちを奮い立たせるものがグロバオールのダッフルコートだとすれば、なかなか気が乗らない仕事に向かわせてくれるのがファーバーカステルの万年筆で、そこに伝統とロマンを感じています。

⇒ファーバーカステルcbid=2557105⇒ファーバーカステルcsid=7″ target=”_blank”>⇒ファーバーカステルcbid=2557105⇒ファーバーカステルcbid=2557105⇒ファーバーカステルcsid=7″ target=”_blank”>⇒ファーバーカステルcsid=7″ target=”_blank”>⇒ファーバーカステル
*画像は伯爵コレクション・グラナディラです。

カスタム743

カスタム743
カスタム743

質実剛健という言葉が最も似合う万年筆がカスタム743だと思っています。
万年筆は書くため、あるいは気持ちよく文字を書くためのみにあるのではなく、書くことを楽しむことと同じくらい、その万年筆のデザイを楽しむことも万年筆を使うことの醍醐味です。

しかし、カスタム743はデザイン的な面白みや見て楽しめる要素を持たせようとする努力はされておらず、万年筆の本質の部分だけを追究した結果生まれたように思います。
しかし、この万年筆にはこれで十分という及第点を遙かに超えた性能やフィーリングの良さが備わっています。
まさに書くということに全てが向かっている万年筆だと言えます。

黒いボディに金色の金具というあまりにも万年筆然としたデザインは長く飽きずに使うためのありきたりさを狙ったもの、絞られたキャップトップとボディエンドはバランスを中央に集めるため、さらにキャップの尻軸への入りの深さも有利になり、バランスをより良くするためのものだと解釈しています。
他の万年筆よりも長く感じられるキャップはペン先の保護だけでなく、首軸とボディの接合部(万年筆の中で一番弱い部分)をも守るための仕様になっています。

大きなペン先は、柔軟性よりもしっかりとした耐久性が感じられますし、字幅ごとに溝の太さが最適に調整されている容量十分な大きなペン芯も備わっています。

ここまで書くということにこだわったカスタム743を、2011年は実用的な万年筆求めておられる当店のお客様方におすすめしたいと思い、字幅を揃えてみました。

私は国産の万年筆においては2万円クラスのものが実用的には完璧だと皆様にお勧めしてきました。
2万円クラスの万年筆は、持つ喜び、見る楽しみなどの要素は少ないかもしれませんが実用的に不満を持たれることは少ないものだと思っています。

しかし、そこまでの性能の限界を求めた使い方をしなくても、オーバークオリティであるということは、万年筆を使い慣れた人だけでなく、初めて万年筆を使う人にも、大きな喜びを常にもたらせてくれるものだと思っていますので、平均点を大きく超えた実用万年筆としてカスタム743を選びました。

実用的な万年筆としてお勧めするために、なるべく用途に合ったものを選択していただこうと、多くの字幅を用意しています。

極細、細字は手帳への細かな文字での書き込み専用、中字は手紙用、太字はメモ帳や原稿用紙用として私は使い分けるようにしています。

普通のペン先ではない、特殊な形のものについては、下記の解説をご覧ください。

〇ポスティング(PO)
本来帳簿に細かな数字を明瞭に書くために、そしてなるべく滑らかに書くために考案されたペン先です。
ペンポイントをお辞儀させることでペン先が開きにくくなり、安定して太さが均一な文字を書くことができます。
手帳に小さな文字を書くような用途に向いています。

〇ウェーバリー(WA)
ポスティングとは逆にペンポイントが少しのけぞった格好をしていて、ペン先の腹が開きやすくなり、柔らかな書き味で紙当たりが柔らかくなります。
書き味を楽しめる中字相当のペン先です。

〇スタブ(SU)
明朝体のような、横線が細く、縦線が太い文字を書くことができるペン先です。
ドイツ製の万年筆の中字以上が以前はこれに近い仕上げになっていましたが、最近では丸研ぎになっていますので、スタブは貴重な存在だと言えます。
ペン先をひねらずに紙に正対させるという書き方のコツが少し必要です。

〇ファルカン(FA)
指先の力の入れ加減で、細くも太くも書くことができる大変柔らかいペン先です。
書ける文字は筆のようで、これに代わる使い勝手を持ったペン先はありませんが、使いこなすには少しテクニックが必要です。
ペン先が柔らかくすぐ開くため、筆圧を調整できないとすぐにインクが途切れてしまいます。
筆圧の調整は、シンプルに力を抜くか、ペン先をひねって開きにくくする方法があり、書きながらこれらのテクニックを駆使しなければならないのがフォルカンですが、使いこなせた時の感激は大きいと思います。

特殊ペン先は通常の万年筆のペン先とは仕様が違っていて、文字通り特殊なもので、使う人をかなり限定してしまいますが、実用上大いに意義のある使う理由のあるものだと私は思っています。

国産万年筆最高のタフな性能とフィーリングの良さを持ったカスタム743に用途に応じたペン先をチョイスすることで、最高の実用万年筆になります。

⇒パイロット カスタム743

唸らせるペリカンらしさ M320 ルビーレッド

唸らせるペリカンらしさ M320 ルビーレッド
唸らせるペリカンらしさ M320 ルビーレッド

発売予定から1年遅れて、やっとペリカン特別生産品M320ルビーレッドが発売されました。
ペリカンはミニサイズのスーベレーン300シリーズをベースに、定期的にM320という特別生産品を色を違えて鮮やかな色で発売していて、前回はグリーン、その前はオレンジで、どちらも定番品とは違うボディとキャップが同色のタイプでした。
今回のルビーレッドは、明るめの鮮やかな色合いの以前のものと比べると、少し落ち着いたイギリス風な(?)印象を受けます。

M300、M320ともにミニペンというサイズながら、他のスーベレーンのシリーズと同じように回転吸入機構を備えた吸入式の万年筆で、万年筆の面白みを理解しているペリカンらしいところだと思います。
しかも非常に小さなペン先であるにも関わらず、柔らかくて味わい深い書き味を持たせているところもまたペリカンらしいと唸りました。

万年筆は1本だけ単体で持つよりも、何か自分なりに取り合わせを考えて、何本かまとめて持つ方が道具として楽しいと私は思っています。

例えば3本の取り合わせなら、細字、中字、太字の字幅で万年筆を同色のもので揃えてみたり、同じ素材の(例えば木など)ボディにしたり、取り合わせる共通点は非常にたくさんあって、他人から理解されなくても、自分の好みというか、美学で決定すればそれが一番楽しい。

どのペンとどのペンを組み合わせないといけないという規則もありませんので、お好みで自由に楽しんでいただきたいと思います。

でも、個人的にペンの取り合わせで一番美しく、贅沢なのは同じペンで取り合わせることだと私は思っています。
同じ形で色だけ違ったペンを字幅違いやインクの色違いで3本ペンケースに入れて持っていると、統一された道具感が強くなって、面白みも強くなると思いませんか?

子供の頃、あまり高いものではありませんでしたが、金属のケースに入ったツールボックスをねだって買ってもらった思い出があります。

何かのために使うからという用途はなく、ただ統一感のあるその道具のセットというものに強く惹かれたからだったと思いますが、ドライバーやレンチなど、たくさんの工具が整然とツールボックスに収まっている姿を見るのはワクワクするもので、使わないのに何度も出しては仕舞ってを繰り返していました。
ペンケースにそれぞれ役割を与えたペンを統一感を持たせて持ち歩くのが楽しいのは、このツールボックスに惹かれた気持ちと同じなのかもしれません。

ペリカンは、定番品のM300やこのM320をピッタリと入れることができるミニサイズの3本差しのペンケースを発売していて、ここにこれらのペンを取り合わせて入れるというのは、非常に満足感のある取り合わせですが、ペリカンはそんな楽しみも理解しているとすれば、このペンケースに300番台の万年筆やボールペンを3本揃えて入れるのはペリカンの思うツボなのでしょうか。


⇒ペリカン ミニペンケース

パイロットシルバーン、手帳用の万年筆

パイロットシルバーン、手帳用の万年筆
パイロットシルバーン、手帳用の万年筆

手帳用の万年筆が私の原点なので、手帳に使う万年筆にはかなりこだわりを持っているというか、大切に考えています。

手帳用の万年筆というと、メーカーなどが提案しているものは、軸がものすごく細かったり、ミニペンのように小さなものだったりするものがほとんどですが、手帳のペンホルダーに収まりやすいという理由からだけでそういったものを手帳用の万年筆として使うのはもったいないと思っています。

メモ、手紙、ノートなど万年筆を使う用途は様々ですが、私の場合は手帳に向かっている時間が長く書く文字数も一番多いので、手帳用としている万年筆のイリジュウムが一番よく減って書きやすく(私には)なっています。

手帳に書くには細字のペン先である必要がありますが、同時に書きやすくなくてはならないという言わば究極の性能が求められます。
その要求に応えてくれる万年筆こそが、快適に手帳に使うことができる万年筆だと思っていて、そんな万年筆について考えてみたいと思います。

万年筆選びにおいて国産か外国製かを分けて考えるのは特に意味のあることではないと思っていますが、手帳用と考えた時にはそれは結構重要な意味があり、どうしても国産のものが中心になってしまいます。

国産の万年筆の方が、外国製の万年筆よりもインクの出が少なめですし、ペン先も細いので、手帳によりくっきりときれいな文字を書きやすくなっています。
国産の万年筆のそのような切れの良さは、なかなか捨て難いものがあります。
いくつかの万年筆の候補があって、それは手帳用としなくても超一流の万年筆ばかりですが、その筆頭に挙げたいのが「パイロットシルバーン」です。

私も手帳用として長く使っている万年筆ですが、その全てが私が求める手帳用の万年筆の用件を満たしています。
キャップは勘合式で、開け閉めする頻度が多い手帳の用途に向いていますし、キャップの尻軸への入りが深くバランスがとても良いのも、書く性能の一部です。

国産の万年筆の中でも特にインクの出は少なく調整できる部類に入りますので、そういったところも手帳に向いていると考える所以です。

私が手帳用と考える万年筆を今後もご紹介していきたいと思っています。

⇒パイロット・シルバーン

ペリカンM450 伝わりにくかった上質

ペリカンM450 伝わりにくかった上質
ペリカンM450 伝わりにくかった上質

毎年日本輸入筆記具協会という団体が発行しているPENカタログというものがあります。
そのカタログはメーカーの枠を超えて、日本に正規輸入されている高級筆記具が多数掲載されている販売店備え用のカタログです。

私たち筆記具の販売員は、日に何度もこのカタログを開いて、調べたり、確認したりする、この仕事においてなくてはならないものです。
万年筆を知ったばかりの時は毎日飽きずにこのカタログを眺めて、色々な事を勉強してペンを販売する基礎知識を身につけました。

毎年、12月に来年のPENカタログが店に届き、すぐに目を通します。
良い新製品が出ていないか、そしてカタログから消えたペンがないかどうかを知るためです。
今年もそうやってチェックしていて、一番ショックを受けたのは、ペリカンM450がカタログから消えていたことでした。

M450は過去のモデルの復刻ということもあり、現代的になり始めているペリカン社のラインナップの中で、トレドなどと並ぶ異色の存在の万年筆です。
スターリングシルバーに金張りのバーメイルのキャップにタートル柄のボディが外観上の特徴です。

バーメイルは、90年代までは上級グレードの万年筆の素材としてよく使われていて、長年使うことで少しずつ変化して金の色が落ち着いて良い風合いになっていきます。そういうところに先人の知恵、ヨーロッパの工芸の奥行きを感じていましたが、最近のペンにはあまり使われなくなってしまいました。

私は、復刻版などのクラシックなデザインで現代の品質を持ったものがとても好きなので、M450も使っています。
使い始めた時、派手な金キャップへの抵抗が少しありましたが、徐々に良さが分かってきました。
この万年筆と出会えて良かったと思い、ぜひこの万年筆を多くの方々に使っていただきたいと思っていましたので、PENカタログから消えてしまったことはとても残念に思いました。

M450はカタログを見ているだけでは、M400と同じサイズで、キャップがゴールドでペン先が18金になっているだけで、値段が最も柔らかく大きなペン先を持つM1000と同じ値段ということしか分かりません。

世間であまり売れなかったのは、その良さが知られていなかったからなのだと思われますが、キャップが金属になって、ペン先が18金になるだけで、こんなに違うのかと思わせる特別なペン先のタッチを持っています。

万年筆の書き味の良さを表す時によく硬い、柔らかいで表現されることがありますが、そういった方向性とは違うベクトルの良さを感じるのが、M450の書き味です。
カタログでは絶対に分からない良さを持ったM450を知っていただいて、最高の状態で送り出したいと思っています。

使って分かる良さのある、とても渋い存在の万年筆がまたひとつ消えそうになっています。

3本差しペンケースの取り合わせ

3本差しペンケースの取り合わせ
3本差しペンケースの取り合わせ

万年筆のどこに面白みを感じるかというのは人それぞれで、イタリアの万年筆のような意匠を凝らしたところに惹かれる人もいれば、ペン先のフィーリングをひたすら追求している人もいます。

万年筆という物ひとつとっても人それぞれ感じる部分が違うのが面白いところだと思っていて、それは人の好みという感覚であって、誰にも押し付けることのできないものだと思います。

私自身は、お客様方が感じておられる万年筆の面白みをそれぞれ理解しているつもりですが、自分自身で万年筆に惹かれる部分はその取り合わせです。

今自分が持っている工房楔の10本収納ペンケース、コンプロット10に入っている中のどれとどれを組み合わせて3本差しのペンケースに入れるか、というのが、もしかしたら万年筆を選ぶ基準の大部分を占めるのかもしれません。

毎日ル・ボナーの3本差しのペンケースにその日使うつもりの万年筆を3本選んで持ち歩いています。
デザイン的なバランスが取れていて、細字、中字、太字が揃って自分が使う用途をカバーしているということが3本の取り合わせの条件になります。
3本差しのペンケースには、ペンをただ3本収納する以上の意味があると思っています。

1本差しにはまた違った潔さや意味があって、そこにはこの1本だけで仕事をするというような気迫みたいなものを私は感じて取っていて、1本差しを使う人に畏敬の念を感じます。

話を3本差しに戻すと、3本差しのペンケースに無作為に選んだ3本をただ収納するのではなく、自分の万年筆での用途を満たしながら、デザイン的に揃えたり、テーマを設けたりして、自分一人悦に入っていて、これが私が一番心惹かれる、「取り合わせ」です。
ペンケースに3本差しのものが多く発売されているのには、用途を満たすようにという考えがあってのことだと思っています。

当店のオープン直後からの売れ筋商品である3本差しのペンケースは、非常に頑丈に作られていて、中に入れるペンを保護するという考えが大きく働いています。
その日使うつもりの3本の万年筆をこのペンケースに安心して託すことができる。
そんな気持ちを教えてくれたものが、ル・ボナーの3本差しのペンケースです。

ちなみに私にとっての最高の取り合わせは、3本とも字幅違いで同じ万年筆です。
当然デザインが揃っていますし、用途も満たしている。
例えばプラチナブライヤーを細字、中字、太字と揃えてペンケースに入れて持ち歩きたいと思っていて、これは最高の贅沢のように思っていますが、いまだに実現できずにいます。

最近ラインナップに細字と中字しかないものが増えてきて、確かに万年筆の字幅の売れ筋はそのふたつですが、3本取り合わせのロマンを理解しない無粋なことであると非難せざるを得ないと思っています。

取り合わせのバリエーションは、人それぞれ様々だと思います。
ブライヤーを3本揃えるように、木というテーマで手帳用の細字、手紙用の中字、メモ用の太字としたり、インクの色を黒、青、赤としたり、ペン先の硬さを3段階に選んでみたりなど、こういうことを考えるのは本当に楽しいと思います。

今回が今年最後のペン語りになります。
今年1年本当にありがとうございました。来年も何卒よろしくお願いいたします。
皆様良いお年をお迎えください。

*画像は店主の実際のペンケースです。3本差しペンケースはチョコですが飴色に表面が変化しています。

⇒工房楔(せつ)コンプロット10:木製品トップへgid=2125800″ target=”_blank”>⇒工房楔(せつ)コンプロット10:木製品トップへ
⇒ル・ボナー3本差しペンケース