オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活

オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活
オマス「マザーオブパールマルーン」 小豆色の復活

以前、老舗と言われる万年筆メーカーは黒の他に定番の色として小豆色のモデルを揃えていました。

万年筆の色のラインナップとして、黒が外せないように小豆色もまた外せない色だと思っていましたが、1990年代イタリアの新興万年筆メーカーが台頭してきて、気が付けば小豆色の万年筆がなくなっていました。

ペリカンも、最後の砦であったモンブランも、そしてこのオマスも。
そういえば、あまり売れないながらも国産の万年筆にはなぜか小豆色は残っています。ですがこれは世界的にカラフルな万年筆が増えるという流れに取り残されたままだからなのか。

黒いボディに金の金具の万年筆はあまりにも男臭く堂々とし過ぎていて、好みではないと思っている人の声はよく聞きます。
そういう男性のためにも小豆色はちょうどいい落ち着いた色だったのではないかと思います。

オマスがそういうところを狙って小豆色を復活させたのかどうかは不明ですが、「マザーオブパールマルーン」という新色を発売しました。
正確に言うと新色で、以前あった小豆色に輝きを加えた現代的なスパイスも入っています。

でも案内をいただいた時に、そうかこの色があったかと思い当たったくらいなので、小豆色の復活と言ってもそれほど外れていないと思います。
最近万年筆のカラーボディはオレンジ、真っ赤、真っ青などの非常に鮮やかな色が多く、これはデルタドルチェビータがヒットしてからの流れだと思うのですが、人知れず私は万年筆のカラフル化をドルチェビータショックと呼んでいます。

オマスはボディサイズをパラゴン、ミロードと用意しています。
パラゴンは大きなペン先と直径16mmの極太で大きなボディのオーバーサイズの万年筆です。
ボディが大きいので、首軸を金属にすることでバランスを取り、大型万年筆にありがちな後ろ重心を解決しています。
ミロードは直径14mmの標準サイズの万年筆で、ペリカンM800、モンブラン146、パーカーデュオフォールドなどとほぼ同じサイズです。
このアルテイタリアーナミロード万年筆を昨年のオマス社訪問の時にプレゼントされて使っています。

黒いボディにシルバーの金具のハイテクフィニッシュ(気持ちは分かりますがなぜハイテク?)の一番変哲のないモデルです。
このミロードハイテクにもオマスらしさが感じられ、使うのが楽しい万年筆です。
12面体のボディや特長的なリング、クリップなどにオマスらしい意匠は凝らされています。

しかし、私がいつもこだわっていて、喜びを感じるのは書いている時のフィーリング、書いている時に手に伝わる「らしさ」で、それを持っているところがとても気に入っています。

M800やデュオフォールドは、その実用性の追求から、非常にがっしりした硬い書き味を持っていて、それはそれで心地よい滑りの良さと頼もしさを感じますが、オマスには味わい深さを感じます。

テキパキと仕事をこなす感じではなく、ダラダラといつまでもその書き心地を確かめながら書いていたいような感じ。
それは同じイタリアの老舗アウロラにも感じていて、2つのブランドの共通点としてエボナイトのペン芯の存在に思い当たります。

オマスもアウロラもエボナイトのペン芯にこだわっています。
現代では主流になっているプラスチック製のペン芯の方が細かい細工が可能で、各社の研究によるノウハウを反映させることができます。
インクの違いによるインク出の差異がなく、インク選びにシビアにならなくてもいい。
使い出してすぐでもしっかりとインクが出てくれる。
ペリカン、パイロットなどのペン芯にはその良さがよく表れています。

それに対して、エボナイトのペン芯はインクが馴染むまでに2週間ほどの時間を要する。
使用するインクによって、出方がかなり違う、とプラスチック製とは正反対の特長(?)がありますが、長年使い込んだときのペン先に寄り添った馴染んだインクの出方はエボナイトならではだと思っています。

イタリアの万年筆がドルチェビータショックで、外装の美しさに注力していると思っていた中、アウロラ、そしてこのオマスの老舗は書き心地や使用感の「らしさ」も追求していたと思って嬉しくなりましたし、それらの長く使う前提の味わいには落ち着いたボディの小豆色も合っていると思います。


万年筆の書き味・1

万年筆の書き味・1
万年筆の書き味・1

万年筆の良い書き味を言い表す言葉、ヌルヌルヌラヌラ(以後ヌルヌラ)は太字の万年筆の醍醐味あるいは、太字のみの特権のように言われますが、それは細字の万年筆でも実現するものです。

ヌルヌラはペンポイントと紙の間にあるインクがクッションのような役割をすることによって起こります。
自動車教習所で習った、雨の日の高速道路で気をつけなければいけない「ハイドロプレーニング現象」のようなことがペン先に起きて、何の抵抗もないペン先の滑りが得られるのです。
太字の万年筆はペンポイントの平面が大きいので、ハイドロプレーニング現象が起こりやすく、ヌルヌラが得られます。
ペンポイントの平面をスイートスポットと言います。
ヌルヌラの抵抗のない、気持ち良い書き味で、クッキリした線を書くことができます。
スイートスポットを野球のバットに例えると、ピッチャーの球威をあまり感じずにボールを遠くまで飛ばすことができる芯にあたります。
バットの真芯でボールを捉えた感覚は本当に気持ちよく、フィーリングといいそれからもたらされる最大の効果といい、バットの芯とスイートスポットは私にとってほぼ同じものです。

話が少しくどくなりましたが、元に戻すと細字の万年筆の書き味にもヌルヌラ存在します。
それは長年使い込んでいくと使う人の角度に合ってペンポイントに平面ができ、そこにもやはりハイドロプレーニング現象が働くからです。
その平面のつき方は使う人それぞれで違っていますので、平面がある万年筆ほど違う人が書くと引っ掛かりが出たり、インク出があまり良くなかったりします。

この平面を人工的にペン先調整で作り出すことができます。
使われる方の筆記角度、ペン先の向きに合わせて平面を作ります。

使い込むこと、あるいは調整によって細字の万年筆であっても、ヌルヌラは実現するものであるということを知らない人も多く、ぜひ知っておいて頂きたいと思いました。

ペンレスト兼用万年筆ケース3本用完成

ペンレスト兼用万年筆ケース3本用完成
ペンレスト兼用万年筆ケース3本用完成

シンプルなものほど工夫が必要で、形になるまで時間がかかるものだと思いました。
出来上がりはスマートでシンプルなものだけど、その見た目とは違って、当店と製作者のカンダミサコさんの工夫が詰まった、思い入れのあるものになりました。
このペンケースが形になるまでにカンダさんに何度も試作を作ってもらい、少しずつ修正していきました。

最近ペンケースにシンプルなものがたくさん出てきました。
フラップなどがついておらず、ペンを差し入れるだけのものですが、こういったものは意外と実用性が高く、私も使ってみましたが机に置いておいてペンを取り出すときにこれほど便利なものはないと思いました。

ズボラ(標準語では面倒臭がり)な性格で時々ペンケースのフラップを開けることさえ面倒なときがあるからですが、私のようにズボラでなくても、忙しい時などフラップを開けずにペンを取り出せたら便利だと思いますので、こういったものの需要はあると思いました。

しかし、そういったペンケースは取り出しやすい反面、持ち運びの時少し不安があります。
誤ってペンケースを逆さまにしてしまった時にペンが脱落する危険性があって、そそっかしい私は何度かペンを落としてしまいました。
取り出しやすい利便性とペンの脱落を防ぐ機能を併せ持たせることができたら。
それがこのペンレスト兼用万年筆ケースの始まりでした。
ふた部分を枕のように使えるように、そして中のペンを取り出しやすいようなデザインはイメージしていましたが、実際の革でそれを実現するのは数ミリ単位での調整が必要で、試作は大変だったと思います。

使い方は、持ち運び時にはふたを閉めて万年筆の脱落防止と保護の役に立つクローズ状態。机などに置いて使っている時は、ふたを枕のようにペンの背後に入れ込んだオープン状態にしていただくと出し入れがしやすくなっています。

モンブラン146、ペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆を標準としていますが、モンブラン149のようなオーバーサイズの万年筆も入ります。

使い始めた時、少しピッタリとしていますが、素材であるシュランケンカーフは柔軟で中身に合ってくるようなところがありますので、使っているうちに出し入れしやすくなります。
シックな黒はお仕事などのフォーマルな時、スーツによく合うと思います。
アイリスはカジュアルな服装の時にも合うし、パッとした気分が晴れやかになる色だと思います。

出来る限りシンプルなデザインでありながら、必要な機能性を持たせたペンケースに仕上がっています。

⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース(3本差し)gid=2127777⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース(3本差し)page=3″ target=”_blank”>⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース(3本差し)

工房楔 コンプロット4ミニ完成

工房楔 コンプロット4ミニ完成
工房楔 コンプロット4ミニ完成

欲しいと思っていた万年筆がある程度揃ったら、次はそれらの万年筆をコーディネートして楽しんでいただきたいと思います。
ペンケースにその日の仕事をいかに楽しくできるかを考えた機能重視の組み合わせの万年筆を揃えて持ち出すのは、朝の楽しい儀式になるのではないかと思います。
コーディネートしようとしているうちに欲しい万年筆が浮かんできたりすることもあるかもしれませんが・・・。

万年筆のコーディネートを必ず楽しくしてくれるペンケースが工房楔の新作コンプロット4ミニです。

コンプロット4ミニは、従来作で大型のペンを納めることができる10本入れのコンプロット10をレギュラーサイズピッタリに縮小して、4本だけ納めるようにした携帯版とも言えるもので、美しく納めたコンプロット10は、とても魅力的だけど、書斎だけで見ているのはつまらない、携帯して持ち歩きたいと思っていた方には待望とも言えるコンプロット4ミニの完成だと思っています。

机上、あるいは自宅でのペンの保管庫的な要素が強く、その重量ゆえに持ち運びには不向きだったコンプロット10でしたが、常にインクを入れていつでも使える状態にしたものを選んで納めておいて、開いて見とれたり、どれを使うか迷ったり、楽しみを提供してくれるものでした。

でもコンプロット10はペンを10本納めることができるただの収納ケースではなく、納めたペンをより美しく見せてくれる演出的な効果もあります。
保管庫としてのコンプロット10ですが、コンプロット4ミニはコンパクトでその日使うだけのペンを収納して持ち歩く、夢の小箱のような存在だと思っています。
木目の美しい木の宝石とも言える銘木をくり貫きという最もプリミティブな方法で美しさを残して、機能を付け加える。
工房楔の作品は全てがやりすぎないように銘木を生かすように作られていますが、コンプロット10もコンプロット4ミニも工房楔の良さが最も表れている作品だと思います。

*コンプロット4ミニは、花梨、ウォールナット、楓ちぢみ杢の3種類でのラインナップで、今の所ウォールナットはご予約をいただいてから1ヶ月後のお渡しになります。

⇒コンプロットサイトページへgid=2125800″ target=”_blank”>⇒コンプロットサイトページへ

中屋万年筆のオーダーの仕方

中屋万年筆のオーダーの仕方
中屋万年筆のオーダーの仕方

手作りオーダーの「中屋万年筆」のホームページを見ながら、無数にある組み合わせの中から自分好みの組み合わせを考えたり、試作品や特注で作られた過去の作品を見て自分ならどうするかなどと考えるのは本当に楽しい時間です。
時にはお客様からのご注文で、仕事としてそれができることは本当に恵まれていると思います。

先日、お客様からの依頼で、お持ちの濃紺のズボンのベルト(オーダー品)の色を、中屋の漆で再現してボディカラーにするということをしました。

出来上がってきた黒と見紛うばかり(光に照らしたり、黒と比べると分かるくらいの)の濃紺の中屋は、極太軸という、ホームページにはあまり表面的に出ていない直径17mmのボディで、迫力のある仕上がりとなりました。

極太軸は、碧溜め色のものを店でも作ってみました。
中屋万年筆の母体となっているプラチナが得意とする細字をその万年筆には装着しています。
いつも店でオーダーする黄金のコンビネーションとしては、濃茶のブライヤーにシルバーの金具を合わせるというもので、豊かで柔らかい木の手触りを持っていながら、凛とした締まった感じのものになります。

中屋万年筆の注文は、難しいと言われることが多く、その無限の組み合わせがお客様からすると難しく感じられるのだと思います。
中屋万年筆をオーダーをするにあたって、これだけの情報があれば作ることができる、というものを以下に挙げておきます。

(1)ボディのデザインあるいは素材を選ぶ⇒中屋HPサイト
(2)色を選ぶ:漆 11色・ブライヤー 2色・セルロイド 3柄 *あるいは特注色
(3)ペン先のサイズを選ぶ

カタログモデルとは違い、多くのバリエーションがありますのでお好きなサイズを選ぶことができます。

(4)ペン先の色(デザイン)選ぶ
金色そのままか、ピンクゴールド、ロジウム、ルテニウムあるいは金とロジウムの染め分けか、ボディの色、雰囲気を合わせて選ぶことができます。

(5)金具の色を選ぶ
クリップのついているものならクリップの色を選ぶことができます。リングもついていればリングの色も合わせましょう。

(6)オプションをどうするか
漆塗りのモデルでしたら、グリップに象嵌を埋め込むことが可能です。
その他小物もお選びいただけます。

(7)書き方(癖)を指定する
筆記角度(紙面とペンの角度)
ペン先の向き 親指側にひねるか、小指側にひねるか 真直ぐか
筆圧の強さ(弱い、普通、強い)
運筆の速さ(早い、普通、遅い)
書く文字の大きさ(大きい、普通、小さい)

非常に多くの選択肢があり、難しく、悩み多いものですが、考える楽しみ、悩む楽しみがあるものだと思います。

中屋万年筆は、最も日本的で美しいデザインを持った万年筆で、多くの人に使っていただきたいと思っています。筆記角度など、ご自分での判断が難しい場合は、当店でもご相談に乗りながら決めていただけます。
ぜひ中屋万年筆のオーダーにチャレンジして下さい。

*画像手前が碧溜塗りの極太軸の中屋万年筆です。

⇒Pen and message.オリジナル長寸用万年筆ケース

オリジナル長寸用万年筆ケース完成

オリジナル長寸用万年筆ケース完成
オリジナル長寸用万年筆ケース完成

ペンケースのサイズについて考えに考え続けてきました。
いろんな種類の万年筆に対応して、それらをスマートに収めることができるものができないだろうか。
M800、モンブラン146などのレギュラーサイズの万年筆はペンケースに納まって当然で、逆にこれらの万年筆が入らないとそのペンケースは万年筆用と言えない所があります。
そしてモンブラン149が入るとかなり説得力がありますが、サイズを149に合わせるとほとんどの万年筆が中でカタカタと遊んでしまうほど大きくなってしまいます。
149はペリカンM1000などとともにオーバーサイズというカテゴリーになりますので、これらが入らなくても仕方ない、ということになります。

そういえばパイロットカスタム743は、手の小さな日本人に合ったサイズのボディにオーバーサイズ並みの大きなペン先ついた万年筆で、メーカーからのアナウンスはありませんが、その辺りが開発思想としてあるのかもしれません。
話が少し横道に反れましたが、オーバーサイズやそれ以上の大きさの、例えば中屋万年筆ロングや工房楔のクローズドエンドなどを入れるペンケースに困っている方も多いと思い、当店オリジナル 長寸用万年筆ケースを発売しました。

中に入れる万年筆として一番イメージしたのは、中屋万年筆のロングサイズです。
キャップを尻軸につけなくても書きやすいサイズを保つ、この特長ある長寸万年筆を格好良く収めるための万年筆ケースの必要性を感じていました。
オーバーサイズの万年筆は、大太刀のような存在で、それ1本だけで持っていてもいいのではないか。
そういったものとして万年筆を捉えた場合、ある程度和の雰囲気を持ったものがいいのではないか。

当店の小器用なスタッフKが、自分のシガーロング黒溜めを収めるために自作していた簡単なペン入れの形をそのまま採用した、シンプルで和の雰囲気を持った万年筆ケースです。
表にはしなやかさと耐久性を持つ黒桟革を使っています。
黒桟革は非常に柔らかい、国産黒毛和牛の革にシボ加工して、シボの出っ張った部分に漆を塗るという加工が施されています。
この万年筆ケースに実用的にも質感もピッタリの素材だと思っています。

内側は柔らかさと粘りをもったソフトカーフを使っていますので、中の万年筆を保護するとともに、万年筆が滑り落ちてしまうことを防止してくれます。
シンプルな形だからこそ素材の持ち味が生きてくる。
当店オリジナル長寸万年筆ケースは黒桟革の持ち味が生きたものだと思っています。

夏服の万年筆

夏服の万年筆
夏服の万年筆

冬に選んだ手帳が、自分にとって最も合ったもので、これから生涯これを使い続けたいと思っても、季節が変わると急に違うものに変えたくなったりしたことはないでしょうか?

私はよくそういうことがありますし、それは万年筆にも言えることだと思っています。
心境の変化というか、用途の変化は季節と関係があって、服装が変わることにも関係があると思っています。
服装が変わるとポケットの数も変わるし、鞄も変わるかもしれない。
携帯の仕方が変わるとどうしても使い方が変わってしまいますので、季節に関係なく一生使い続けられるものというのは本当に少ない、あるいは存在しないのかもしれません。

季節は巡って、今年もまた暑い夏が来ます。

私は今までがんばって、長袖のシャツを着るように心掛けてきましたが、さすがに記録的な猛暑だった昨夏は諦めて、半袖のポロシャツなどで仕事をしていました。
今年もきっと暑い夏になると思いますので、夏向きの万年筆について考えてみたいと思います。

最初から夏服のための万年筆だと決めていると、毎年夏に登場して使わなくなるということは起こらないと思います。
私が考える夏向きの万年筆は、マーレリグリやマリーナピッコラなどのように、色が夏らしいとかそういう意味ではなく、半袖のシャツのポケットに差してもかさばらず、重さを感じにくい、という意味になります。

やはり万年筆はポケットに差していると、使用頻度も高くなるし、何か書きたいと思った時にすぐに書くことができます。
そのために胸にポケットがついたシャツが必要になり、今年は胸ポケットのついた半袖のシャツも欲しいと思っています。
スーツのポケットなら多少大きくて、重いものでもいいですが、シャツのポケットに差す万年筆は小さくて軽いものがベストで、筆頭はやはりペリカンM300だと思います。

とても小さな万年筆で11gという軽さ。もしかしたら、万年筆最軽量かもしれません。
小さなボディなのにカートリッジ1本分近くの容量のある吸入式です。
このサイズでよくぞここまでペリカンらしさにこだわってくれたと思います。
小さなペン先なのに、非常に柔らかい書き味を持っているのもこの万年筆の特徴です。
このサイズの万年筆で、長時間何か書きものをし続けるということはあまりイメージできませんし、この万年筆の意図するところではないと思います。

ポケットからちょっと出して、手帳やメモ帳にサッと書いて、またポケットに戻すということを繰り返すのがポケット用万年筆なので、M800のようにハードなものよりも、一瞬の筆記が柔らかく、気持ちよく書けることをペリカンは選んだのかもしれません。

また、柔らかいペン先は軽く書くと細かい文字が書けて、力を入れると太目のインパクトのある文字を書くことができますので、そういった使い方もイメージしたのかもしれません。
ポケット用万年筆は立ったままで筆記することが多く、立ったままの筆記では筆記角度、ペン先の向きなどが定まりません。
そういった時に柔らかいペン先の方が、ペン先のひねりなどについてきてくれますので、そういった意味でも、このペン先は辻褄が合っています。

M300は今では少なくなってしまった、紳士の小物という趣を感じます。

本格的な、プロにも愛用されるタフな万年筆にして、ペリカンを代表する万年筆M800をそのままスケールダウンしたところに、ペリカンのユーモアを感じますし、ポケット用、手帳用のペンだからといって、簡略化のないところにペリカンのこだわりを感じます。

夏用万年筆ペリカンM300、胸ポケットのある半袖のシャツとともに夏に向けて用意したいと思いませんか?

*画像手前がM300、奥がM800です。

⇒Pelikan M300

ペリカンM800イタリックライティング

ペリカンM800イタリックライティング
ペリカンM800イタリックライティング

私が最初に自分でお金を出して買った万年筆はペリカンの♯800でした。
当時M800という呼び方でなく、800番と言われていてモンブラン146とともに全ての万年筆の手本というか、最も理想的なプロポーションを持った万年筆だったので、それを知りたいと思いました。
ボールペンやシャープペンシルに慣れた手に800番ははるかに大きく重かったので、使い始めたばかりの時キャップを尻軸に差して書くことができませんでした。
後ろが重いような、引っ張られるような感じがしました。
でも尻軸に付けたキャップ側の重みとペン先側の重みをシーソーのようにバランスを取ることで楽に書くことができると気付き、800番が最高のバランスを持った万年筆だと思えるようになりました。
800番が書くことにおいて最も優れたバランスを持っている万年筆だという考えは今も変わっていませんので、実用的な万年筆を探しているお客様には今もM800をお勧めする候補に挙げています。

書くことにおいて最高のバランスを持った万年筆に、イタリックライティングというなかなか渋い限定品が発売されました。
実はこの限定品は昨年末に一度日本に入りましたが、あまりにも数が少なかったため、店頭で見かけることはほとんどなかったと思われます。
当店も2回目の入荷でやっとご案内できることになりました。

イタリックライティングは、M800の緑縞のボディに特別なペン先が付けられたモデルです。ペン先の刻印がIBという見慣れない表記になっていて、これはイタリックブロードを表しています。
ペリカンの通常品よりも、横線が細く、縦線が太く書くことができるヘラ形の仕上げになっていますので、日本語を書くと明朝体のような文字、アルファベットを書くとカリグラフィ文字を書くことができます。線の形に個性を出すことができる、見た目は普通でも書いてみると面白い、その線の形でのみ他のものと差別化している渋い限定万年筆です。

最近その傾向は弱まっていますが、以前はドイツ製の万年筆のM以上の字幅はこのイタリックライティングのようなイリジュウムの研ぎ方をしていて、独特な文字を書くことができました。
ドイツ製の、特にペリカンの万年筆の研ぎは最近では丸くなっていて、横線のキレがなくなっていました。
イタリックライティングは以前のようにドイツ製の万年筆らしい線を好まれる方にもお勧めですし、太字で線に特長のあるため書いていて楽しい万年筆だと思います。
こういう形のペン先は書き出しのインクが出にくいことがありますが、ちょっとした調整で解決することができますので、お任せいただきたいと思います。
色や形で魅せる派手な万年筆ではありませんが、使うための限定万年筆がイタリックライティングです。

⇒Pelikan M800 イタリック・ライティング

革と万年筆 カンダミサコ2本差しペンシース

革と万年筆 カンダミサコ2本差しペンシース
革と万年筆 カンダミサコ2本差しペンシース

カンダミサコさんの新作2本差しペンシースが完成しました。
多くの方にお使いいただいている1本用のペンシース同様とてもシンプルな構造ですが、カンダさんらしい色使い、カッティングで非常にお洒落なものに仕上がっています。

フラップのない中のペンをすぐに取り出せるデザインですので、よく使う手帳用の細字とメモ用太字を組み合わせて入れてもいいし、万年筆とボールペンを入れてもいいし、コーディネートが楽しめる、実用的なものだと思います。
カンダさんがよく使う発色の良い革シュランケンカーフを、内側と外側で色を変え、4種類の組み合わせで仕上げています。

シュランケンカーフは、カーフ独特のしなやかさとシュリンク加工による密度の詰まったしっかりしたコシを併せ持った素材で、こういった製品によりその良さが出ると思っています。
中に入る万年筆はアウロラ88、ファーバーカステルクラシックコレクション、ペリカンM600あたりはストレスなく入ります。

革は本当に不思議な素材だと思っています。
大きくても時間が経てば中身に合わせて沿ってフィットしてくれるし、小さくても伸びてくれる。
それはペンケースやブックカバーのようなステーショナリー、靴や鞄など上質な素材を使ったものであれば全てそうなのかもしれません。

アウロラの書き味について考える時、そんな良質な素材を使った革製品とよく似ていると思っています。
使い続けることで、ペン先は柔らかく動いてくれるようになりますし、ペン芯はペン先に馴染んで充分なインク量をペン先に送り続けてくれるようになって、使うたびに本当に良い書き味だと思えるようになります。

私が愛用しているアウロラの万年筆のひとつに88クラシックがあります。
これは以前オプティマについていたペン先を付け替えたものです。
私が自分の88クラシックに与えている用途は、手帳の次に万年筆の使用頻度の高い手紙を書くことですが、お客様への感謝の手紙を本当に楽しみながら書かせてくれます。

88のデザインは万年筆の最も代表的なデザイン、モンブランマイスターシュテュックのようにキャップトップ、ボディエンドがドーム型の紡錘形のデザインです。
しかしその発売はマイスターシュテュックより古い1947年で、シルエットはより緩やかなカーブを描いています。
更に88には装飾らしいものがほとんどなく、キャップリングに筆記体で小さくauroraと書かれているだけというところにとても好感が持てます。
優雅なカーブを描くクリップの存在も88の外観上の特長です。

アウロラのほとんどの製品に採用されているクリップですが、形の美しさと先端の玉をつまんで抜き差しするととてもしやすいようになっていますので、88の使い勝手、実用性がペン先だけでないことを物語っています。

モンブランやペリカンに比べて使っている人が少ないアウロラ、そしてそのアウロラの中でもオプティマに比べて人気がない88ですが、本当に良い万年筆だと思っています。

もっと多くの人に認めていただきたい万年筆のひとつです。

⇒カンダミサコ 2本差しペンシース
⇒アウロラ88クラシック801
⇒アウロラ88オールブラック