インターネット色見本完成しました

インターネット色見本完成しました
インターネット色見本完成しました

当店で万年筆を購入される際に、趣味の文具箱13号でも紹介された、インクの「和歌色見本帳」を見て万年筆と一緒にインクも買われることがよくあります。
その万年筆で使う予定のインクを入れて、インクの出方も含めたペン先調整をする方がいいと思いますし、せっかくなのでその万年筆に合ったインクを選びたいと言われることがよくあります。
インクの色と万年筆の軸の色を合わせるという方は多く、パイロット色彩雫の「夕焼け」を使いたいから、ラミーサファリオレンジを選ぶという方もおられるくらいです。

店に来て下さった方が色見本帳でインクの色を選ばれるのと同じように、ホームページでも色が分かるようにインクの色見本を掲載しました。

私は子供の頃から絵を描くのがとても苦手でした。
そのことに気付くのにしばらく時間がかかりました。
人を絵の具の肌色でそのまま塗ってしまったり、道路を灰色で塗りつぶしてしまったり、木を一面こげ茶で塗ってしまったりということがいつもでした。
描き始める時は上手く描きたいと思いますが、すぐに現実を思い知らされて、途中でどうでもよくなって、何でもいいから色が全面に塗ってあればいいというだけの意識しか働かなくなります。
絵は見たまま描けばいいと、上手い人からよく言われますが、私はそれぞれの色を自分の持っている先入観で塗りつぶしていました。

絵の具とか色鉛筆とか、画材と聞くととても憂鬱な気分になるくらいで、色を選ぶという感覚は私にはなく、万年筆のインクもより滑らかに書くためのオイルのような感覚で今までずっと選んできました。

インクの色にこだわる人は、万年筆のインクを画材のような感覚で選んでいるのであり、子供の頃に絵で賞状をもらったことのあるような絵の得意な人だけだというひがみ根性が私の中にはあり、そんな風に思っていました。

店にある色見本帳も、ホームページの色見本帳も私でなく、スタッフが時間をかけて作りました。インクの色見本を作るというのは本当に根気の要る仕事で、好きで興味がないとなかなかすることができないと思います。
私はそう思っていますが、楽しみながら作っているスタッフを見ていると、もしかして楽しい仕事なのかと思ってしまいます。

私が理想とする万年筆は、細くても太くてもインクがたくさん出て、裏に抜けてしまうくらいのものが好みなので、色よりもひたすら流れの良いものを追いかけてきました。
そんなインクの色に興味のない私でも、インクの色が変われば、まるで万年筆が新しくなったような嬉しい気持ちになります。

パソコンの環境で、多少見え方は実際とは異なると思いますが、選ばれる時の参考になればと思っています。ホームページの「インク・消耗品」からご覧下さい。

インク・消耗品cbid=2552140インク・消耗品csid=0″ target=”_blank”>インク・消耗品

マーレン ~掘り下げる楽しさと万年筆の広がりのバランス~

マーレン ~掘り下げる楽しさと万年筆の広がりのバランス~
マーレン ~掘り下げる楽しさと万年筆の広がりのバランス~

マーレンは1982年創業ということで、万年筆メーカーの中では最も新しい部類に入りますし、保守的な万年筆の世界において、マーレンという名前はまだそれほど名声を得ている訳ではない、新興ブランドだと言えます。

しかし、マーレンで最も有名な万年筆バイタス・キーを例にとってみると、万年筆をより楽しいものにしたいというマーレンの想いが伝わってきます。
バイタス・キーはボディ中央に空けられた鍵穴に付属の鍵を差し込んでインクを吸入させるという、とても気取った演出がされた万年筆です。

技術的なものは出尽くしていて、新しい技術のない万年筆の業界において煩わしく万年筆の不便なところだとされていたインク吸入の手間を、粋なアイデアによって、楽しめるものに演出されています。
それは些細な事かも知れませんが、万年筆を多くの人たちから忘れられないようにするためにも大切なことだと思います。
バイタス・キーは何本も万年筆を持っていて、それなりに知識のある人にも楽しんでもらえる万年筆だと思います。

マーレンは万年筆にそれほど強いこだわりを持っていない人、例えばこれから万年筆を使ってみようと思っている女性などからはそのデザインの美しさから選ばれることが多く、マーレンの価値はこういうところにもあるのだと思っています。
私は万年筆の業界は、マニアックに掘り下げて行くだけでなく、もっとたくさん人への広がりを意識して働き掛けていかなければ未来がないと思っています。
柔らかい書き味や、ボディのバランス、伝統的な作りなど、それらも大切なことだと思います。
しかし万年筆の価値はそれだけでなく、固定観念に固まっている頭によって、自由な万年筆選びが妨げられてはいけないのではないかと考えています。

マーレンで最も売れている万年筆、ネイチャーは万年筆という気負ったところがなく、小振りで装飾を抑えたシンプルなデザインでありながら、曲線の柔らかさ、持ったときの心地よさなど、女性にピッタリの万年筆だと思いました。
お洒落なものに敏感な女性たちがこの万年筆を選ぶのも、万年筆を知らないからではなく、万年筆を知らないからこそ、固定観念に囚われずにお洒落なものを選ぶことができるのだと思います。

マーレンの現在日本に輸入されていないモデルを当店限定で輸入発売するという話をいただいた時、とても面白いと思いました。
ぶ厚い本国のカタログから選んだものは、他のメーカーにはない独創的なデザインを持ったものばかりで、これらの万年筆が2本目、3本目の万年筆ではなく、初めて選ぶ万年筆であってもいいのではないかと思いました。

私がマーレンの魅力を知ったのは、グラフィックデザイナーの神谷利男さんのオデュッセイアを知ってからでした。
クリーミーホワイトの深みのある色合いに、無骨なアクセサリーを思わせる、大胆に配されたシルバーのリング、大きなペン先。
存在感があり、選ぶ人を限定するような気高さのあるペンで、たくさんあるペンの中で、このペンを選ぶことがとてもかっこいいと思いました。

当店がマーレンを扱い出したのは、どちらかというと地味で内向的な万年筆を格好いい余裕のある大人の道具に演出したいという事と、ボディの美しさで万年筆を選ぶことのできる女性たちが選べるようにとの気持ちからです。

そういった感覚を取り入れることで、万年筆がより一般化し、広がりを持ってくれるのではないかという思いもありますし、それらのバランスを取っているマーレンの姿勢に敬意を持っています。

当店ではこれからも万年筆の楽しさを掘り下げるお手伝いと、自由な感性で万年筆を選ぶ女性を応援できる店でありたいと思っています。

*画像はオデュッセイアです。

格の違いという魅力 M450

格の違いという魅力 M450
格の違いという魅力 M450

万年筆において同じ形でもボディの素材の違う「高級タイプ」があります。

ボディの素材が良いものになって価格が高くなるのに伴って、ペン先の素材も14金から18金にグレードアップされていたりします。
今までこの素材違いの高級タイプに必要性を見出すことができませんでした。使ったことがなかったために、その良さが分からなかっただけなのでしょう。
5~6万円までが実用においての上限で、それ以上は素材が違うだけで、書くことにおいては何も違わないと、最近までお客様に伝えて来ました。

最近、ペリカンM450を使い出して、「高級タイプ」の存在意義のようなものを知りました。
M400、M600は筆記具として、とても優れたものですが、M450はそれらの道具性よりもさらに上質なフィーリングを持っていて、値段の高いものには何か理由があるということがペリカンの万年筆の中ではちゃんとルールとしてあるということが分かりました。
それは格の違いという、抽象的な表現でしか言い表せない、なかなか具体的な言葉の見つからないものですが、M450はそのペンを持った時の気持ち、書き味の豊かさ(下品な言い方をすると高そうな書き味)など、同型の普及版M400と比べると明らかに別物で、格という曖昧で基準のない言葉を使いたくなるものでした。

私と同い年のある女性のお客様とM450は私達の世代では、少し背伸びしないと使えないペンだと話していました。
40才になった私達にとって、バーメイルキャップで、トートイス柄のボディを持つこの万年筆はかなり使うことに照れが出てしまうペンだと思いました。
中にはこのペンがすでに似合う貫禄を身に付けている方もおられますし、華やかな存在感を持っていて、このペンに負けない魅力を出している方も同年代でおられます。
普通の、どちらかというと大人しいタイプの私達にとっては、無理をして自分自身を合わせていかなければいけないペン、それがM450でした。
同じペリカンM400のデラックスタイプで、スターリングシルバーキャップのM420などなら私達は自然体で使うことができると思いますが、金色のバーメイルトートイスM450は、個人的には少し背伸びが必要な気がします。

それでもそのお客様も私も、このM450を仕事においてはある程度の所まで来て、さらに伸びていくためには高度な努力と見極めが必要になってきたこの年に選びましたが、それはただの偶然ではないと思いました。

まだまだ自分の仕事を良くしたいという気持ちは強く持っていて、仕事と自分への投資だと思える、自分を引っ張ってくれる万年筆だと思います。
M450という万年筆、私はトートイス柄にペリカンの伝統を感じ、バーメイルにヨーロッパのクラフトマンシップ感じていますが、私達の世代にとって何か特別な意味のある万年筆だと思っています。

~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売

~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売
~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売

店を始めたばかりの頃、あるお客様からペンを自分仕様にカスタマイズすることのできるものがあったらいいのにと言われたことがありました。
その言葉がずっと気になっていて、ことあるごとに頭の中でイメージするようになっていました。
車やバイク、ギターなどでも、愛用しているものをパーツを交換して自分だけの仕様にしたいと思うもので、様々な趣味の製品にはそういったものが発売されています。
これらと同じような考え方のものがペンにもあれば面白いとは私も思いました。

数年前、ラミーがアクセントというペンで、交換用のグリップを発売しましたが、これもペンのグリップを交換して自分だけのオリジナル仕様にするというもので、商業的に成功したかどうかは分かりませんが、実験的な試みで共感を持ちました。
ペンでアクセサリー的な要素の高いパーツと言えば、クリップであると多くの方が思われていると思いますし、クリップはペンの顔だと私も思っています。
クリップには「ポケットに挟む」「転がり防止」という必要な機能がありますが、全体のバランスを崩さないことも重要です。
そのためデザインに凝ったものは少ないようですが、その小さな部品の中に各メーカーのこだわりが形となって表れています。

クリップの機能とそれを形にしたシンプルなデザインのファーバーカステルや、控えめでありながらエレガントなデザインで、断裂などの事故を嫌い、一枚の板から形作ることにこだわったアウロラ。
まん丸の玉を付けたような特徴的な形のパイロット。
それぞれのメーカーがデザインと機能美をクリップで表現しているところから考えても、クリップはデザインにおいてとても重要なパーツであり、そのペンの個性を表現することのできるパーツだと思います。

上記の考え方から、ペリカンM800、M600に対応した交換用のクリップをシルバーアクセサリーとして作りました。

シルバーアクセサリーの作家として、コツコツとご自分の世界を表現するものを作っているきりさんに私のM800を渡し、デザイン、重さ、大きさなど検討に検討を重ねて完成しました。

M600、M800のペリカンをまた違う万年筆のようなデザインにしてくれる、存在感を増すためのアクセサリーだと思っています。
ペリカンのスーベレーンシリーズは、キャップトップのペリカンマークの外側にある、リングを回して外すと、簡単にクリップを外すことができます。
クリップがインナーキャップの奥にあるビスで留まっている万年筆が多い中、ペリカンだけはこのリングを取り外すだけで、クリップを外すことができますので、交換が可能になるのです。
型で作ったものを手触り良く、物が引っかからないように、丸みを持たせるのにきりさんはかなり苦労して1本ずつ丁寧に磨き上げたようですが、おかげでシルバーの重厚感を持ちながら、柔らかい感じのするものになったと思います。

ボディ、他の部品との雰囲気を合わせることができるように、光沢仕上げの磨きと渋いいぶしがあります。
大量生産の工業製品である万年筆に、より手作りらしさと、自分仕様であるというスペシャリティ感を感じていただけるものだと思っています。

初回ロット各20個ずつの販売になります。

変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~

変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~
変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~

激動の世界経済の中で、あるいは自然界の中でもそうだと思いますが、環境の変化に適応して姿を変えていけるもののみが、長く続いていけると言われています。

ペンの業界においても、使う人の価値観や販売店の変化、ファッションやインテリアの業界からの影響などから、変化した方がいいという風潮は常にあり、各社なるべく自社のアイデンティティを失わないように変化に適応しようとしているのがよく伝わってきます。
伝統や歴史のロマンもその品質のうちとされる筆記具の業界において、急激な変化は各方面、特に今までのお客様との軋轢が生じてしまいますので、たいていのメーカーが自社の歴史や伝統を重んじながら、慎重なイノベーションを企てることになります。
ですがそれはどこか中途半端で、新しいものに限ってお客様から支持を得られないということが多いように感じています。
変化しているように見えながら実は旧態依然とペンを作っていると万年筆は若い人から受け入れられない魅力のないものになってしまうと思っていました。
しかしヤード・オ・レッドはそんな変化には無縁な、変わらないデザインと手作業によるペン作りを続けています。
多くの愛用者を持ちながらも、そのデザインに多くの若い人たちが魅力を感じていることを知り、変化だけが生き延びる方法なのではないと知りました。
ヤード・オ・レッドと聞いた時に、私たちペンの業界の人間は、その名前に敬意を感じ、別格の存在として認識しています。
その魅力は、伝統的なデザインでありながら、他に似ているもののないことと、上質なスターリングシルバーのタッチとエージングだと、一言で言い表すことができますが、それほど明確にその特徴が多くの人に伝わっているブランドは他にないのかもしれません。

ヤード・オ・レッドの創業は1943年と、そのデザインからイメージするほど古くはありませんが、その前身となったのは1822年に創業した、ハンプトン・モーダン社です。
3インチの芯をリボルバーのように12本繰り出し機構の周りに収めることのできる繰り出し式のペンシルを発明して販売していたモーダン社の創業がヤード・オ・レッドの始まりと言えますが、その繰り出し機構は多くのシャープペンシルの機構の参考になっていることがよく分かります。

そのペンシルの仕様はその歴史の中でも全く変わっていません。1960年代から70年代にかけて、ボールペンの台頭により多くの万年筆、高級筆記具メーカーが潰れてしまいましたが、150年以上作り続けてきた昔ながらのペンシルに特化してきたことでヤード・オ・レッドが今まで生き延びることができてきたのかもしれません。
機構的に特徴のあるペンシルが中心的なモデルになりますが、その他のペンでもヤード・オ・レッドが孤高の存在であることが理解できると思います。
万年筆の独特の書き心地は、柔らかいペン先と少なめのインクの出による繊細なもので、ヤード・オ・レッドの万年筆が好きな愛用者の方もおられます。
ボールペンにおいても古典的なスタイルは今では逆に新鮮に感じられ、自分の個性を表現する道具として受け入れられているようです。

ヤード・オ・レッドの50年代にあったペンのデザインを復刻した「レトロ」というシリーズがあります。
黒い樹脂のボディとスターリングシルバーのクリップのコントラストがとても印象的なモデルですが、当店で日本未入荷のレトロミニサイズボールペンの予約販売の受付を始めています。予約後3ヶ月程納期をいただいておりますので、興味のある方はサイトからご覧下さい。
先日発売を開始したコラボメモカバーとの相性も良く、携帯性に優れたとても魅力あるものだと思います。

*画像はバイスロイ・ビクトリアン/ポケットビクトリアン各万年筆とボールペンです


ヤード・オ・レッド商品一覧cbid=2557105ヤード・オ・レッド商品一覧csid=19″ target=”_blank”>ヤード・オ・レッド商品一覧

さりげなくメモをとり、生かす ~コラボメモカバー~

さりげなくメモをとり、生かす  ~コラボメモカバー~
さりげなくメモをとり、生かす ~コラボメモカバー~

物を考えたり、何かのヒントを得るのに本を読むことは大いに役立ちますが、人と話すことほど刺激になることはないと思っています。
そして話をしている時にその要点をメモするようにして、後で見直したり、まとめたりすることによって、その時人と話した内容が私たちの財産になり、物事を考える助けになると思っています。

メモをとることは予告なく訪れる仕事のチャンスや降りてきたアイデアを実現するための第一歩なのかもしれません。
人と話している時にとるメモの効用は多くの人が実証していて、他者から学べるものは何でも学ぶという謙虚で貪欲な姿勢がメモをとるという行為に表れます。
相手に何でも話してもらいたいという時に大きなノートを開いたり、縦開きのメモ帳を開いて、いかにもメモをとる姿勢をすると、相手に意識させてしまうような気がしますので、小さな手帳にサッと要点を書くくらいのさりげないメモとりをしたいと思っていました。

メモのとり方についてそんなふうに考えている時に、パイロットから復刻発売されたポケットタイプの万年筆、ミュー90Sの人気が非常に高いことが分かってきました。
サイズはコンパクトでも、すぐに外せる勘合式キャップを尻軸にカチッとはめると書きやすいサイズになり、万年筆らしくないデザインのミュー90Sの人気は、メモをとる時にさりげなく使う万年筆を待っておられた方が多かったということを表していて、万年筆でメモをとることについての万年筆側の答えを見たような気がしました。

最初はポケットタイプの万年筆を市販のA7サイズのメモ帳の表紙に挟んで使っていました。大変使い勝手が良かったのでしばらくはその状態で使い続けていました。ですがそのうち、どこか物足りない気分になりました。
それはやはり見た目が事務的すぎるという所にあると思ったので、実用的でありながら見た目も美しいメモ帳のカバーを作りたいと思いました。

レポート用紙に鉛筆で書いた簡単なたたき台はすぐに出来上がりました。
それをル・ボナーの松本氏に作ってもらい、両店で販売したいと思いました。
松本氏が鞄作りで忙しいことは分かっていましたので、少しためらいましたが、多くのお客様がこのコラボレーションを待ち望んで下さっていると思い
ましたので、実現したいと思いました。

松本氏は思いのほかこの企画を気に入って下さったようで、原稿をファックスで送ると、次の木曜日には早速試作品を持って打ち合わせに来て下さり、松本氏の本気度が伝わってきました。
松本氏のアイデアは芯材を使わずに革を厚くすることによってしっかり感を出すという専門的な所から、ペンホルダーの仕様など外観的な所まで随所に生かされています。

サンプルを2ヶ月以上使っていますが、ポケットや手元にこのようなメモ帳がペンと一緒にあることの優位性は高く、私の場合はメモを書き漏らすことが少なくなりました。
夜ほぼ日手帳にその日あったことなどを日記代わりにつけていますが、一日を振り返る時キーワードだけでもメモ帳に記しておくと、その日の流れがよみがえってきます。

しかし、メモ帳にメモをとってそのままになってしまうと、せっかく人の話を聞いてメモをとってもそれを生かすことができません。
A7サイズのメモ帳は、文具各社から様々なものが発売されていて、私はメモをメモ帳の中に埋もれさせてしまうことを防ぐために、切り取り式のメモ帳を使っています。
一日が終わった時に、その日書いたものを必ず切り取るようにすることによって、メモを文章にしたり、予定に入れたりして、何らかの形で活かせるようになってきたと思っています。

たかがメモですが、それが全ての始まりであり、このメモから様々なことが始まるのだと思うと、とても大切な仕事の道具であると思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

2回目の聞香会の夜、楔の永田さんがコンプロット10を持って来られた時、その物の良さに、居合わせた人は一同息を呑みました。
木目にあまり良い反応を示さない女性方の反応も良好で、永田さんは手応えを感じたのではないかと思います。

これはル・ボナーの松本さんが、チェザーレ・エミリアーノというブランドの万年筆の空箱を加工してペンボックスにしていたものが原型になっていて、それがこんなに美しいものに形を変えてできあがったものです。
松本さんの万年筆への情熱が永田さんにインスピレーションを与え、永田さんの情熱で松本さんが動いたという、楔とル・ボナーのコラボレーション企画です。
行き付けのバー、バランザックのカウンターで、松本さんが永田さんに万年筆を入れるケースを作るべきだと熱弁をふるっておられたのが、コンプロット10誕生の始まりだと思います。
美しい木目を広い範囲で必要とするため、かなり高価になることが事前に分かっていましたが、永田さんのこだわりと熱意を理解してくれるお客様は、きっとおられると思いました。

少し変わった形は、ケースを開いた時に指を挟まないように配慮された形であり、四角いものよりも概観に変化があり、このケースをおもしろいものにしていると思います。
もともとこの形は釣り道具の毛ばりを入れるフライケースとしてあったもので、そのサイズを拡大したものです。
大きくすることにより、金具、磁石の耐久性の強化が図られているとともに、より木目を美しく取りにくくなっていて、木目の美しさにこだわる永田さんを苦しめたところです。
余程の良材でないとこれだけの大きさで、木目の美しいものが得られることはなく、どうしてもそれが価格に跳ね返ってきます。

木を組み合わせる指物(さしもの)ならコストもさほどかからず、量産も可能で、木取りに苦労することもなかったかもしれませんが、永田さんは削りだす刳り物(くりもの)にこだわり、そうでなければ自分が作る意味がないとまで言っていました。
木目が美しい、滑らかに磨かれた完成品を前にして、それは理解できるような気がしました。

木目の美しい外装だけではペンケースとしては不完全で、ペンを保護する内装も重要であることは言うまでもありません。
そこにはル・ボナーの松本さんが担当した内装があり、このケースの魅力を引き上げています。
ピッグスキンの裏革を敷き詰めた内装に可倒式の仕切りがあり、ブッテーロのベルトで固定できるようになっています。
仕切りとベルトがペンの太さに合わせて動かせるため、様々な太さのペンを収納し、固定することができます。
さらに中でペンがカタカタと動くこともなければ、向かい合ったペン同士が当たることもありません。

10本を収納することができるペンケース。
たくさん持っている人には物足りない数ですが、自分のコレクションの全てを入れるのではなく、たくさんあるコレクションの中から今一番のお気に入りを10本だけ選んで、特別なケースに入れておく。
このケースを開いた時、木のフレームの中のピッグスキンに守られた10本のペンへの愛情はさらに強くなるのだと思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨cid=Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨keyword=%A5%B3%A5%F3%A5%D7%A5%ED%A5%C3%A5%C810″ target=”_blank”>Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):ウォールナット

好きなインク選び

好きなインク選び
好きなインク選び

当店では万年筆を買われたお客様が一緒にそのペンに入れるインクを買われることが多く、万年筆を選ぶ時と同じくらい、あるいはそれ以上の時間をかけてインクの色選びをされる方をよく見ます。

それくらいインクというのは多くの人にとって、こだわり所であり、自分の個性が発揮できるところでもあるのだと思います。
万年筆の軸の色に合わせたり、季節感を出したり、仕事でテンションの上がる色にしたりなど、様々な理由でインクの色を選ばれているようです。
そんなふうにインクの色で迷われている所を見るのは皆様のこだわりを感じることができて、とても参考になりますし、楽しい時間でもあります。
万年筆を使われている皆様にはインクの色でもっと遊んでもらいたいと心から思っています。

そんなことを言いながら、私は最近自分が一番インクの色にこだわっていないのかもしれないと思い始めました。
その時々で使っているインクの色が違いますし、全てのペンに同じ色のインクを入れてしまうため、色々な色を使い分けることもしていません。
今まで様々な色のインクを使ってきて、結局自分の答えは色にはないということが分かってきました。

私のインクへのこだわりは、色ではなくその「性質」でした。

よく伸びるインクという表現が皆様に伝わるかどうかわかりませんが、そのよく伸びるインクを私は好んで使っています。
よく伸びるインクというのは、サラサラと流れるインクというふうに言い換えることができるかもしれません。
そのようなインクはスルスルと書き味が良く、その書き味の良さを感じたいがために、私はいつも伸びるインクを使います。
よく伸びる代わりに、乾きが遅かったり、にじみが大きかったり、色がつまらなかったりしますが、そんなことは全く気にしません。
万年筆からサラサラと滑らかにインクが流れてくれることだけを望んで、よく伸びるインクを使い続けています。

インクの色を変えて「色」を楽しむ。インクの性質を変えて「書き味」を楽しむ。インクには色々な楽しみ方があるのかもしれません。

私が現在よく伸びるインクとして把握しているのは、セーラーブルー、セーラーブルーブラック、パイロットブラック、パイロットブルーブラック、パイロットブルー、そして当店オリジナルインク朔です。

画像は当店スタッフ私物インク(一部)です。

息子へ贈る万年筆

息子へ贈る万年筆
息子へ贈る万年筆

中二の息子が卒業式で送辞を読むということで先生からお誘いを受け、卒業式を見に行ってきました。
大勢の人を前にしても堂々として落ち着いていて、送辞を読み上げながら涙ぐみ声を詰まらせる「余裕」を見せる彼のしゃんと伸びた背中を見ながら、その成長にとても驚いてしまいました。

親馬鹿になりますが、彼は成績も良く、生徒会の活動でも活躍しているいわゆる優等生で、両親には似ませんでした。
わが家ではダイニングテーブルで仕事や勉強をすることが慣わしとなっていますので、彼のストイックと思えるほどの勉強量はいつも見ていましたし、その彼の直向さに私も逆に影響を受けています。
そんな息子に今までちゃんとした万年筆を贈ったことがなく、周りの人に万年筆の良さを広めようと努力されている皆様から見ると意外に思われるかもしれません。

私自身、万年筆を使う人を一人でも増やすということをライフワークとすると宣言しておきながら、自分の息子に万年筆を使わせることができていないことは非難の的になっても仕方ないことです。
しかし、自分が仕事としているものを贈ることへの照れもあって、息子を洗脳することから逃げている訳です。
その息子が志望する高校に入学した時に万年筆を贈りたいと最近思い始めました。
彼の書く量を見ていて、より書くことを楽にしてあげたいという思いと、書くことを楽しむことができる道具万年筆が、私が彼に教えることができる唯一のことだと思いました。
私は小学校高学年でプラチナプレピーを使っていましたが、その後発展していかなかったのは、書き味の良い万年筆の存在を教えてくれる人がいなかったからでした。
だから彼が使うかどうかは別にして、書きやすい金ペン先の万年筆を贈りたいと思いました。
どんなものがいいかいろいろ考えましたが、ラミー2000を思いついたとき、一番ふさわしいような気がしました。
ラミー2000はその存在がいろいろなことを物語ってくれていて、親から息子への無言のメッセージになると思ったのです。

1966年に2000年まで通用するものという目標を掲げ、企画、デザインされたラミー2000は目標通り2000年をとっくに過ぎた今でも古臭さを感じさせず、感覚の新しい若い人からも支持されています。
発売当時、黒いボディに金色の金具の万年筆が主流で、ペーパー加工された銀色の金具の万年筆などなく、かなり異端的に思われたラミー2000は全く売れなかったそうです。
それでもラミーは2000の素晴らしさを信じて辛抱強く作り続け、時代が追いついてくるのを待ちました。
今ではそんなことが嘘のようにラミー2000は現代のデザインに自然に馴染むものになっています。

ラミー2000からは、彼が仕事をするようになった時に、先を読むことや、他人に惑わされないオリジナリティを持つことの大切さ、自分が信じたことを貫く頑固さを持ち続けることを教訓として感じ取ることができると思っています。

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」
神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

私はいつも何か新しい世界を知って、仕事の幅と奥行きを持たせたいと思って本を読みます。
今まで本を読んで偶然知った世界が仕事の役に立ったこともありましたし、新しい世界の扉を開けることでもありました。
本を読むことは、自分への楽しみであり投資でした。
本から刺激を受けて、仕事に役立てることは皆さんも同じだと思います。

万年筆にも同じことが言える人がいるのかもしれません。
万年筆1本あればとりあえず用は足りますし、せいぜい用途別に持ったとしても、字幅を揃えて3本くらいあれば充分です。
しかし、物から与えられる刺激、インスピレーションを感じる人が、その万年筆は仕事の役に立つと思うなら、手に入れなければならない理由になると思います。
この本の著者神谷利男さんもそれぞれの万年筆からインスピレーションを与えられたこともあったのだとこの本を読んで知りましたし、万年筆から刺激を受けて良い仕事ができるということは確実にあると思います。
初めてこの本のゲラ刷りを神谷さんから見せていただいた時、写真や絵に惹きつけられましたが、ゆっくり時間をかけて読ませていただいて、その文章の私的世界は、時にはビジネス書であり、時には生き方を教えてくれる本でした。

会社の社長であり、グラフィックデザイナーであり、二人の息子さんの父親であり、夫である神谷利男という人からより良い仕事をしたいと思っている人へのメッセージだと思えるくらい、様々なことを教えてもらうことができて、もっとクリエイティブでありたいと思える刺激が受けられる本でした。
非常に凡庸な言い方ですが、この本をただの万年筆の本だと思いながら読んだ人は、その内容の深さに嬉しい驚きを覚えるでしょう。

この本には、見た事もないような珍しい万年筆や、誰も知らなかったような万年筆の知識などはありません。
そもそも神谷さんには、自分のコレクションの万年筆の、こういうところが良いなどという万年筆を批評する気持ちなどなく、様々な万年筆から得ることができた仕事にも生きたインスピレーションを本という形で私たちに教えてくれました。
より良い仕事をしたいと思っておられる方には、とても刺激になる本で、ただの万年筆の本にはない、著者の生き様から、自分たちの生き方を教えられる本だと思っています。

いつも目の前にあるものに夢中で、子供のように話がポンポン飛ぶ神谷さんに会うといつも刺激を受けますが、この本でもさらに奥深い刺激を受けました。