万年筆雑感~太字へのお誘い

おじさんになると、年代や性別でその好みを決めつけてしまうことがありますが、大抵それは正しくないことが多いので、改めなければと思います。やはり思い込みは一番良くなくて、いつもニュートラルな状態でいないといけない。

例えば、もう革も金具もなくなって作れなくなってしまいましたが、コンチネンタルM5手帳は、自分と同じくらいの年代の男性に、素材感のある革を厚く使った、「書かなくても持っているだけで楽しい手帳」として作りましたが、販売してみると女性のお客様が多く購入されていました。

そして売れ筋の万年筆の字幅は、私たちが若い頃20年以上前では、売筋はM、女性はFかEFでした。

でも最近は男女ともにFやEFを好まれるように変わってきたように思っていましたが、男女で分けるところも時代遅れだし、海外のM以上の字幅、国産でいうと太字以上を使いたいと思われる人も多く、いろいろな自分の中のデータも時代に合わなくなっていて、修正しなくてはいけないと思います。

太めの字幅を使う醍醐味は、湧きだすように潤沢なインク出でヌルヌルと書けるところだと思います。そしてそんなインク出では小さな文字や細部まで表現された美しい文字を書くのは難しいけれど、自分が太字で書きたいと思う文字は、そういう文字ではない。

自分の書きたい文字を書くための万年筆なので、用途によって字幅を変える必要はないのかもしれません。文字がつぶれてもいいからM5手帳にも太字で書くのもありだと思います。

そういう使い方をするなら、ドイツの万年筆のB以上の字幅がいい。

国産やイタリアのペンもよく書けるけれど、ドイツのペンのBの豪快なインク出には及ばないし、縦線が太く、横線が細目のドイツらしい線の形もそういう文字に合っています。ペリカンやモンブランのB以上になると期待通りの文字が書けると思っていますし、ペリカンのBBなら尚いいかと思います。

手帳にきれいな文字を書くことばかりに気をとられて、細字ばかりを見ていたけれど、万年筆の書き味は太くなればなるほど快感と思えるほど良くなっていく。

たまにはまた太字の万年筆でヌルヌルとした書き味を味わいながら、インクを大量に消費するのもいいのではないでしょうか。

日本の万年筆には微妙な書き味の違いがあって、それを感じ分けることは繊細な感覚を持った私たち日本人らしい万年筆のあり方で、それは世界に誇れるものだと思います。

私は日本の万年筆の書き味の良さを知っているから、ペン先調整でどの万年筆も日本の万年筆のような良い書き味に整えたいと思うし、そういう気持ちはブレずに持ち続けていたい。

新型コロナの影響でそれは滞っているけれど、人の行き来もモノのやり取りも境界線がなくなった現代において、モノ作りのお国柄は失われつつあっても、万年筆にはまだちゃんとあります。いくら国をまたいで行き来しても、その人のアイデンティティは変わらない。

万年筆のお国柄が失われないのは、万年筆がその人のアイデンティティを表現する道具だからなのかもしれません。

⇒Pelikan M800

⇒モンブラン 149