万年筆に求めるもの。私の場合は、使いたいと思わせてくれるデザインや佇まい、つまりモノとしての魅力です。そして書き味が良くないとせっかく手に入れても結局使わなくなるので、書き味が良いというのは絶対条件です。
書き味が良いというのは、ペン先の硬い・柔らかいに関係なく滑らかに書けるということで、そうでないと愛用する気にはなれません。万年筆は長く使い込んで自分の手に合っていくと言われていますが、最初が良い状態である方が早いに決まっている。
万年筆の書き味を良くするのは私の仕事で、それぞれの万年筆の正しい状態にしてあげれば、ペン先の素材に関係なくどれも滑らかに書けるようになると思っています。その正しい状態が書き慣らすスタートに立った状態です。
万年筆が正しい状態になって、滑らかに書けるようになった上で、それぞれの万年筆の書き味が存在していて、それはペン先の素材や形状、ボディのバランスなどで違ってきます。
メーカーごとのその書き味の違いを味わうということも私は伝えていきたい。
昨年セーラー万年筆が発売した「2021-21」は、セーラー万年筆のアイデンティティとも言える21金のペン先を2021年にちなんで発売した1500本限定の万年筆で、21金の書き味の味わい深さを改めて再認識してもらいたいという想いで作られました。
セーラー万年筆は、2020年に大手文具メーカープラスの傘下に入り、それまで経営的に苦しかった状態を脱し、様々な万年筆を次々と発売するようになりました。
コーポレートカラーもブルーから「セーラーブルー:黎明」と名付けられたブルーブラックのような色に変更され、会社の新たな歴史の幕開けを印象付けています。
その新たなコーポレートカラーであるセーラーブルーとキラキラ光る加工がされたボディの2021-21は、ペン先にもこだわっています。
そもそも、万年筆のペン先は刻印が多くなるほど硬くなっていきます。だから刻印が少ないスッキリとしたペン先は柔らかい。
良い例がパイロットカスタム742、743のフォルカンのペン先です。それが慣れが必要なほど極端に柔らかいのは、ペン先サイドの切り込みや薄さとともに、刻印を必要最小限にしているからです。
セーラー万年筆の2021-21も、大きくデザインされた21の文字や21金表示はレーザーで描かれていて、字幅表記のみ刻印で、非常に刻印の少ないペン先になっています。そのため書き味も定番品よりも柔らかい。
ペン先にも限定品としての価値が持たせてあって、かなりこだわりが感じられる限定万年筆です。面白いものだと思い飛びついて発注しましたが、年が変わっても在庫があると聞いて、さらに仕入れました。
セーラーの万年筆は、ペンポイントの研ぎの形状から、美しい文字が書ける万年筆だと思っています。そのセーラーでさらに違う書き味を持ったこの万年筆を、できるだけ多くの方にご紹介したいと思っています。