明けましておめでとうございます。
いきなりですが、正直に告白すると、去年はいろいろなことで苦しんだ年で、いろいろ考える所がありました。
いろいろ考えた結果、結局当店には万年筆しかない、当店がチョイスした万年筆を当店なりに味付けして示していく他に道はないとい開き直りに似た結論に至りました。
当店なりの万年筆の味付けというのはペン先調整です。
各メーカーさんが緻密に設計して、細心の注意を払って生産している万年筆をより書き味が良いように、気持ち良く書けるようにすることがペン先調整です。
中にはペン先調整をしなくてもとても書き味が良いものがありますが、たいていの場合ペン先調整でより滑らかに書けるようになります。そして、調整の必要があるかないかを見極めて、必要のないものには何もしないのもペン先調整の目と経験に基づく技術だと思っています。
万年筆の書きやすさは人によって違うと言われることもありますが、ペン先の硬い柔らかい、インク出が多い少ないなどの好みの違いはあっても、滑らかに書けるペン先が嫌いな人はいません。
そういう万人が好む状態を当店としては標準的な状態だとしています。
販売する万年筆もペン先調整で持ち込まれる万年筆もそれぞれの万年筆の最も良い状態を目指して調整していますが、その状態にするにはそれぞれの万年筆の最高の状態がどういうものか知っている必要があります。
調整士は様々な万年筆を見て、それぞれのとても良い状態の万年筆を書いたり、ペンポイントをルーペで見て、多くの万年筆の良い状態の書き味を知っています。
それを知っているからペン先調整を任されたペンをどういう状態にするべきかという到達点が分かる。
私も職業柄、良い状態の万年筆を書かせていただいたり、ルーペでペンポイントを見せていただく機会に恵まれました。おかげで多くの万年筆の良い状態を知ることができ、感覚的にも理解することができました。これが私の調整士としての財産で、このおかげで今まで生きてこれたのだと思っています。もちろん私に万年筆を任せてくださったお客様がいるからこそです。
仕事の経験は時代が変わるとなかなか生かすことができず、むしろ邪魔になることが多いかもしれませんが、ペン先調整は経験が技術になっていく。だから調整士は齢をとっても続けていける生涯の仕事だと言えます。
ペン先調整とペンポイントを特殊な形状に形作る研ぎとは区別して考えています。
ペン先調整ではメーカーさんの作っているペンポイントの形状を尊重していますが、極端に細く書きたいとか、横線が細く縦線は太いスタブ形状にしたいとか、キレの味ある美しい文字が書きたい、という要望があった時には、メーカー純正のペンポイントの形状では実現できないことがありますので、特殊な研ぎを施すことになります。
最近ご要望が多いのが三角研ぎです。
極太や太字などかなり太いペンポイントから研ぎ出す方がその特長が出しやすいですが、細めでもできないわけではありません。筆記角度40度くらいの少し寝かし気味で書いた時にヌルヌルと気持ち良く書けるように筆記面作り、ペンポイントの先端に行くほど細く研ぎ出します。
寝かせて書くと太く、立てて書くと細く書ける状態にします。
そうすると日本語のトメハネハライが美しく表現しやすいペンポイントになり、書くことが楽しいペン先になります。
手帳には細く書いて、他のものには太く書くというような太さの使分けもできます。
セーラーの中字以上のペンポイントは近い形状をしていますが、それをより極端にはっきりさせたものがこの三角研ぎです。
インク出は多めよりも少なめにした方が線にキレが出るようです。
金ペン先の万年筆ならどの万年筆にもこの三角研ぎをしていますので、興味のある方はお申し付け下さい。お持ち込みの万年筆への三角研ぎの場合は10000円(税込)で、当店でお買い上げの万年筆であれば、無料でさせていただきます。
三角研ぎなどの特殊な研ぎはその結果を視覚的に見せることができますが、良い書き味というのは、目に見せることのできない感覚的なものです。それは味に似ているのかも知れず、だから書き味というのかもしれません。
それが当店でできる万年筆の味付けだと思っています。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。