家に帰って夜机に向かうと、まず正方形のウィークリーダイアリーにその日1日の行動記録を書くことから始めます。
その日何をして、誰が来て何を依頼されたかを、細かい字で箇条書きにしておきます。それが後々役に立ったということが、今まで何度もありました。
お客様が万年筆を購入するという特別なことをされる店として当店を選んで下さったことを、その華々しい出来事を誰も見ていなかったとしても、私だけはその場に立ち会っている。お客様とその万年筆との出会いを立会人である私がこの手帳にちゃんと記録しておくことが、ささやかですがお客様のお気持ちに応えることだと思っています。
記録を書くためには、時刻と出来事、できればお客様のお名前もメモしておかなくてはいけません。お客様と話しながら、調整の合間に素早くメモできるように、ジョッターをいつも傍らに置いています。
そして筆記具も素早く書き始められるものが必要です。
急いでいる時はノック式のボールペンなど、すぐに書き出せるペンがあるとついつい手が伸びてしまいます。やはり万年筆のキャップを回して開けて書き出すというのは悠長な行為なのかもしれません。
万年筆を愛用する者として、それくらいの心の余裕がなくてどうすると思わなくもないし、そんなに急いでいるのなら万年筆を使わなければいいということになりますが、書ける文字の美しさや書き味などを考えると、忙しい仕事の時間でもやはり万年筆で書きたいと思います。
そしてそれを解消したのがパイロットキャップレスです。
キャップレスはある程度万年筆に知識のある人なら誰もが知っている万年筆で、その名の通り「キャップのない」ノック式の万年筆です。
キャップを開けるという動作をなくした画期的な万年筆で、最早万年筆の中のひとつの種類というよりも、「キャップレス」という種類の万年筆と言えるほど、独特で大きな存在です。
キャップレスを買いに来た人に他のペンはお勧めしにくいけれど、万年筆を買いに来た人にキャップレスをお勧めすると、喜ばれることもあります。
キャップレスにも様々な種類があって、その特長をご説明します。
最も携帯性に優れたキャップレスがキャップレスデシモです。他のものよりも軽く細めで、ポケットや手帳のペンホルダーにも差しやすい、携帯性に特化した作りになっています。
キャップレスでも万年筆らしい書き味を味わいたいという方には、キャップレス、キャップレスLS、キャップレスストライプ、キャップレス絣、キャップレス木軸など重量のあるものをお勧めします。
重量感があるので18金ペン先の柔らかさが感じられ、どっしりとした安定感があって、筆記バランスも優れています。
キャップレスの中でも、金トリムでブラックのモデルだけ<FM>(中細)の字幅が設定されていて、メモ書きにとても使いやすい太さです。
キャップレスLSは、キャップレスの機能性に上質さを加味したモデルです。
軸の握り心地の良さ、ゆっくりペン先を格納するアクション、さらにペン先を繰り出す際のノック音も無くして、今まで実用品に徹していたキャップレスがこのLSで優雅さも併せ持ちました。
かなりのバリエーションを持つようになったキャップレスシリーズ。
素早く書きたいという欲求から生まれたもので間違いはないと思いますが、そこに相手を待たせたくないという日本的な思いやりが込められている、日本らしさについて思わずにはいられない万年筆だと思います。