最近はずっとペン先調整に追われています。ほとんどが配送でのやり取りで、順に調整して、1週間~10日くらいでなるべくお返しするようにしています。
ペン先調整のご依頼が多いのは万年筆店として正しいことだし、たくさんの調整のご依頼をいただいて追われることは、本当に有難いことだと思っています。
ペン先調整をしてお金をいただくようになって13年になります。始めた頃に比べたら技術は向上していて、それはテクニックだけでなく、それ以上に意識の変化やアイデアなどの気付きのようなものがあったことが大きいと思っています。
ペン先調整は、今も感謝している各メーカーの何人もの先生方に教えてもらって始めたけれど、それからはお客様から教えられ、自分で気付きながら、ゆっくりと進んできました。
テキストや先生のいないペン先調整もそうですが、仕事において気付くということは本当に大切なことで、気付きが自分の今までのやり方を否定するものであったとしても、それは実行してみるべきだと思います。ペン先調整においても、仕事においても、今よりも未熟だった時の自分のこだわりはすぐさま捨て去る切り替えの早さはどんな仕事においても必要なことだと思う。
ただ、配送でお送りいただいた万年筆のペン先調整の方針は最初から変わっていなくて、シンプルにペン先を正しい状態に整えることだと思っています。
段差があって食い違っていれば揃えて、ペンポイントの左右の大きさが違っていれば同じにして、ペン先とペン芯が離れていれば密着させる。正しい形にペン先を整えるのなら書いているところを見なくてもできるので、配送でのやり取りでも対応できるし、調整自体それで十分だと思っています。
もちろん筆記角度を合わせたり、特別な研ぎを注文されたり、それ以上の調整を言われることもよくありますが、それにも対応しています。
正しい形にペン先を整えるだけで万年筆は驚くほど気持ち良く書けるようになります。
そこから使われる人がご自分の書き方で慣らしていけばいい。正しく整ったペン先はもっと書き味の良い万年筆にすぐになっていくでしょう。
配送でやり取りした万年筆のペンポイントを撮影したものを当店のホームページの「NIB WORKS」 というページに載せています。
ペンポイントをこうやってデジタル顕微鏡で撮影するようになったのは、美しいペンポイントをただルーペで見ることが好きで、皆様にも見ていただきたいと思って始めたことだったけれど、自分のペン先調整にも役立っています。
自分が調整したペンポイントを拡大撮影すると、第三者の冷静な目で見ることができます。撮影する時に違和感を覚えて、やり直したこともありました。
それぞれの万年筆を、それぞれの万年筆のあるべき姿としてペン先を正しい形に整えるペン先調整には、個性とか、自分の理想を表現したいという欲求を抑える理性が一番必要なものだと今は思うようになりました。
ペン先調整を仕事として考えると、本当に奥が深くて、底無し沼のような怖さがある。そこに入ってしまうと他は何も見えなくなってしまう。それだけを延々とやってしまいます。
でも私たちの仕事はそれだけでは成り立たないし、視野を広く持たないと良い仕事はできないと思っています。
私は若い時にペン先調整だけをする環境にいなかったので、本当に良かったと思います。だから今自分のペン先調整を冷静に見ることができるし、他のこととのバランスを取りながらやっていられるのだと思います。