自分の色のインク

最近オリジナルインクのCigarをよく使っています。黒に近い緑色が紙の上で変化して、乾くと黄色味を帯びたオリーブ色のようになるインクです。

少し秋っぽいかなと思うこともありますが、少し前からオリーブグリーンの色に急激に惹かれ始めて、気がついたらオリーブ色のものが結構身の回りに集まってきています。

今まで偏って好きな色というのがなかったので、見つかってちょっと喜んでいます。

手紙を書いていて、まだインクが乾かないうちに手が触れてしまって、擦れてしまうことがあります。右利きで縦書きを書くときは特に注意しなくてはいけない。私の場合は、擦れてもあまり気にせずそのまま行ってしまうこともあるけれど。

Cigarは乾くとオリーブ色になりますので、どこからが乾いていなくて、どこまでが乾いているのかすぐに分かりますし、粘度の高いインクは乾きが遅いことが多いですがCigarはそれほど粘度も高くなく、乾きも早いようです。

いつまでも乾かないインクは紙面が汚くなるので避けたい。私にとって乾きの早さも重要です。

以前はお客様へのお手紙に、黒かブルー以外は有り得ないと思っていましたが、もう若くないし、こういう色も許されるかと、徐々に厚かましくなってきました。

インクの色と歳なんて関係ないと思われるかもしれないけれど、私たちの世代が万年筆を始めた頃は、ほとんどのメーカーが基本の3色(ブラック、ブルー、ブルーブラック)しか発売していませんでした。シェーファー、オマスがグレーを発売していたことが珍しかった。あまり売れていなかったけれど、シェーファー、オマスの多色展開は時代を先読みしていたのかもしれません。

当時、インクは万年筆メーカーが自社の製品のために作るもので、インク専業メーカーも少なかった。そんな時代に万年筆を使い出したので、万年筆のインクは3色のうちのどれかという固定観念から抜け出せずに今まで来ました。

でもいろんなインクの色を楽しみながら使う人も多くおられて、最近は薄めの色が流行っていると聞きました。台湾系のインクやエルバンのインクに薄い色のものが多いですが、ガラスペンと合わせると涼しげで、今の季節にいいかもしれません。

台湾は暑いので、日本以上に涼しげなものを好むのかもしれませんが、食べ物の味付けも上品で薄味なものが多いと聞きますので、インクの色も薄いのが台湾風なのかもしれない。

日本風な色として、当店のオリジナルインク冬枯れは12年前に自信を持って世に出しました。文字がはっきり読める範囲で薄くした黒で、当時濃い黒を求める人は多かったけれど、薄い黒を求める人はいなかった。

でも、薄くしたことでノートいっぱいに書いてもうるさくならないし、文字の濃淡が出るし、流れが良くて書き味は良いと、いい効果ばかりでした。黒の濃度の中に、色彩と同じくらいの景色を見出すのが日本風なのかもしれません。

いつの間にか黒の話になりましたが、万年筆は今では仕事で必要なものではなくなって、趣味的な道具だったり、自分の生き方や志向を表すファッションの一部という要素が強くなっています。

だからこそありきたりな色のインクでなく、自分の好きな色、自分を表現する色のインクを使って欲しいと思います。

⇒Pen and message. オリジナルインク(冬枯れ・朔・朱漆・山野草・Cigar)

こだわりに応える国産万年筆

あまり成功していないと思う人もいるかもしれないけれど、自分の服装について考えることが好きで、以前はいろいろな雑誌を見たりして、コーディネートの参考にしたりしていました。

しかし、今ではそういうものを見なくなりました。

インターネットでそういう情報がいくらでも出ていることもあるけれど、それぞれの思惑のもとに誰かが決めたコーディネートよりも、自分で考えて選んだものを好きに組み合わせて着たいと思うようになったからでした。

店ではお客様になるべくリラックスしてもらいたいと思っていますし、自分もいつも自然体で、リラックスしていたい。だからキチンと見える範囲でカジュアルな服装でいたいという、自分の事情に合った組み合わせは自分で見つけないとどこにもない。

服装の中心は靴だと思っている。靴に合わせて服が決まると言っても言い過ぎではなく、私にとっては服装のこだわりどころです。

靴はそれなりのものを買うと、底を張り替えたり、修理に出したりすることで、かなり長い期間履き続けることができるけれど、服は消耗品だと思っています。

値段の高いものをどんなに大切に使っても、インクを飛ばしてダメにしてしまったり、擦り切れたり、気分が合わなくなっていく。がんばって良いモノを揃えるよりも、こだわりどころではない部分はファストファッションのものを取り入れたりして組み合わせるようになりました。

きっと多くの人が私と同じように思って、ファストファッションを取り入れていると思います。

文房具にも同じことが言えます。

こだわらない部分は100均などの文具売り場で選んだものを活用して、こだわる部分にはお金をかけるという人は多いでしょう。私の服装で言うところの靴にあたる部分がきっと万年筆などの筆記具にあたるのだと思います。

使い込んで育てながら、修理しながら、長い期間、もしかしたら生涯使っていくものだから、こだわる人は良いものを選んで欲しい。

でも最近ファストファッションのような万年筆が増えてきたと思っています。デザインは良いけれど、素材や作りがあまり良いとは言えないようなものが増えてきた。それらは万年筆を使う人を増やすきっかけにはなるけれど、そういうものばかりになってしまうのはつまらない。

華やかなデザインも良いけれど、金ペン先の書き味を味わうことが万年筆の醍醐味で、その奥の深い楽しみを多くの人に知ってもらいたいと思っています。

いろんな時世から、売れるものの単価が下がり、万年筆の単価が下がることも仕方ないことなのかもしれない。そんな状況において日本のメーカーの万年筆は、万年筆のファストファッション化と戦えるものだと思っています。

日本のメーカーはデザインをオーソドックスなものにして、14金のペン先を装備した万年筆を1万円代から選べるようにしています。そして、それ以上の価格帯のものを選べば、さらに良い書き味が得られるようになっています。

1万円代で金ペン先を備えた万年筆の代表的なものは、プラチナセンチュリーです。

弾力が強めの硬い14金のペン先を備えていて、その特長は一定のインクの濃さで揃った文字を書くことに特化しているというところにあります。つまり手帳にきれいな揃った文字を書くことに適していて、今の時代の万年筆のあり方に合致しています。

逆に柔らかいペン先のモノを使いたいと思う時は、パイロットやセーラーの2万円のものを選ぶと期待通りの書き味が得られます。

パイロットカスタム742は豊富なペン先バリエーションがあり、硬さも選べるほどです。書き味の良い万年筆を使いたいと思っている人はまずカスタム742をお勧めします。他には、セーラープロフィット21はそのペンポイントの研ぎのせいか、味のある文字を書くことができると思っています。書くことが楽しくなる万年筆の筆頭だと思います。

こうしてメーカーを横断して国産の万年筆について考えると、その書き味だけでも様々な個性があることが分かりますし、それぞれに深い味わいがあります。

もしかしたらこれは大人の渋い万年筆の楽しみなのかもしれないけれど、私は面白いと思う。

低価格で、私たちのこだわりに応えてくれる国産の万年筆を大切に思っています。

⇒プラチナ萬年筆 センチュリー

⇒パイロット カスタム742

⇒セーラー プロフィット21

手帳で遊ぶ~コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ発売~

持っているだけで嬉しい手帳を作りたいと思いました。それが今の時代の手帳のあり方のような気がしました。

それを実現するのに、革の種類にこだわって珍しい革を使う方法もあるし、色や形に凝る方法もあるのかもしれません。

当店は、ダグラス革という野趣味があってブラシや布で磨くと強烈な艶を出す革を使って、質感を楽しめる、厚みを持たせたコロンとした形の小さな手帳でそれを実現しました。

それがコンチネンタルM5システム手帳です。

最初に作ったものは11mmリングでしたが、今回は13mmリングにし、それに合わせて全体のサイズも見直しました。

リングの直径にすると2mmの違いですが、挟める紙の枚数が30枚以上多くなります。

紙面のサイズが小さい手帳なので、どうしても枚数が増えることになります。リング径を大きくすることで、持っているだけで嬉しいこの手帳をより使いやすいものにしてくれましたし、よりぶ厚く、コロンとしたフォルムになって、個性が強調されたと思います。

革を厚い状態で使っていますので、はじめはなかなか自然に閉じず、使いにくいと思われるかもしれませんが、そんなことよりも革の質感とこのフォルムを大切にしたかった。

実用性に目をつむることは店としてなかなか勇気の要ることだけど、賛否両論あるこういうものを世に問うことはなかなか面白い試みだと密かに思っていました。

コンチネンタルシリーズに使っているダグラス革は、廃番になっていて、残り全てを買い占めてくれた革作家カンダミサコさんの在庫もあと数枚になってしまいました。

今すぐになくなるわけではないけれど、あと1年くらいで使い切ってしまうと思います。

M5システム手帳のサイズに合ったペンを探し、カンダミサコのM5システム手帳用ペンホルダーに入れて、一緒に持ち運ぶことも、この手帳の楽しみのひとつです。

工房楔の限定商品ルーチェコルタは、この手帳、ペンホルダーにピッタリのペンのひとつです。ノック式ボールペン ルーチェペンの太さをほぼそのままに、長さを120mm以内にしたもので、コロンとした形はコンチネンタルM5システム手帳にピッタリです。

ルーチェコルタは素材違いで何本も持っていたくなります。金具の残りが残り少ないので、ぜひ早めにお選び下さい。

手帳遊びをもう一つ。当店オリジナルのM5システム手帳用Liscio-1リフィルは万年筆で極上の書き味が得られるリフィルとしてぜひお使いいただきたい。小さな手帳に極上の書き味って?と思われるかもしれないけれど、私たちはどんな時も妥協せず極上の書き味を味わっていたい。それが遊び心だと思います。

このリフィルはシンプルな4mm方眼罫ですが、このサイズの紙に書く文字の大きさを考え抜いた方眼のサイズになっていますので、実は非常に使いやすいものになっています。

仕切りとして使うディバイダー、かなじともこさんがデザインしているそら文葉リフィルなど、M5システム手帳を遊ぶものを色々ご用意しています。

⇒コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ

⇒カンダミサコM5システム手帳用ラップ型ペンホルダー

突き詰めた革の形~カンダミサコバイブル手帳用ペンホルダー


元町も県庁より山側に上がると、静かで美しい住宅街になります。

こんなところに店を構えることができたらいいなと思って歩くこともありますが、駅から離れてしまうのと少し坂がきつくなるので難しいのかもしれません。

でも暮らすにはとても良いところだと思います。

そんな街の片隅にカンダミサコさんの工房があって、カンダさんも私たちと同じように、仕事に情熱を燃やしながら静かにマイペースに暮らしています。

当店の革製品の多くはカンダさんによるもので、その独創的でセンスのいい仕事に私たちも惚れこんでいます。

このたびカンダさんが独特な形状の、バイブルサイズシステム手帳用のペンホルダーを作りました。

そのペンホルダーは、システム手帳につけていない状態だと一見どう使うのか分からない形をしています。でもいざ手帳にセットしてみると、ペンのサイズを選ばないペンホルダーであり、書くべきところをすぐに開くことができるページファインダーであることが分かります。もしかしたら、もっと他にも使い方があるかもしれません。

かなじともこさんの筆文葉リフィルのように、どうやって使いこなすかを問いかけているような商品でもあります。

ペンホルダーの付いていないカンダさんのバイブルサイズシステム手帳で使うことをイメージしていますが、もちろんバイブルサイズであれば何ら問題なく使うことができます。

25mmリングを装備した厚手のマルセシステムバインダーにつけると、持ち出さず書斎やオフィスでの使用をイメージしているこのバインダーが持ち出して使いたいと思わせる機動力を得たような気がします。

上質な革ブッテーロを薄く剝いて、曲げやすく、挟むペンのクリップを傷めないようにしています。むしろ薄く剝くことで柔らかさが出て、 ハリのある滑らかなブッテーロ革の質感が活きている気がします。

他に似ているもののないこのペンホルダーはとてもシンプルですが、いくつもの試作を経て実際使ってみながら、やっとたどりついた形です。

多くの人に使ってもらっていて、名作だと私は思っているカンダミサコさんのM5サイズ手帳用のペンホルダーも、こうやって少しずつ修正して、丁寧に作り込んでいって、あの独特だけどスムーズな形ができたことを思い出しました。

丁寧で正確なステッチが施されたシステム手帳やペンケースとはまた違った、シンプルに革のカットだけで機能性を作り出している、カンダミサコさんのモノ作り。

新作のバイブルサイズシステム手帳用ペンホルダーが出来上がりました。

⇒カンダミサコ バイブルサイズシステム手帳用ペンホルダー

パイロットキャップレス(Vanishing point)

パイロットはキャップレスを海外でVanishing pointという名前で発売していて、万年筆ファンの間ではVPと呼ばれたりして、その存在は定着しています。

ペン先が収納できる万年筆は他にもあって、有名なところではスティピュラ「ダヴィンチ」、ラミー「ダイアログ3」などがあります。

好みは分かれるところかもしれませんが、デザインとしてそれらのペンは素晴らしかったし、ペン先が乾いて使いこなしに苦労したとしても、使いたいと思わせる魅力がありました。

それらは製品としての完成度よりも、作品として魅力のあるものだという言い方ができるのかもしれません。

万年筆の世界には、使い勝手や利便性に優れたものよりも、使いこなしにコツが要るものや、一手間かけないといけないけれどデザインが素晴らしいものが好まれる風潮があるのかもしれません。 

そして今は高級品よりも、スチールペン先でデザインの良い低額なものが主流になっています。

しかし日本の万年筆はその範疇に入りません。

使いやすくて書き味が良く、シンプルでオーソドックスなデザインが日本の万年筆の特徴です。そういうモノ作りは今の流れからは外れているのかもしれないけれど、それを支持する人は海外にもたくさんおられます。

私は日本のメーカーの「作品」という作り込みの甘さも許される言葉に甘えない、製品としての完成度の高い万年筆を作り続けていることを誇りに思っていて、パイロットキャップレスは日本の万年筆らしい万年筆だと思います。

高い精度でインクを乾きにくくした構造を持ち、実用品として使いやすいペン先が収納できる万年筆。キャップの開閉から解放されているということを考えると、一番実用的な万年筆なのかもしれません。

キャップレスの最新作で、キャップレスの60年以上の歴史の集大成と言えるのが、キャップレスLSです。

インクが乾かない信頼の機構をさらに進化させて、手に伝わるフィーリングにもこだわり、その感触で上質さを表現しています。

そのノックの感触は性能の良いオイルの働きによるもので、静かにノックすることができ、静かに滑らかにペン先を収納することができます。このLSはキャップレスが実用性だけでない、さらに高い次元のモノ作りに到達したものだと思っています。

キャップレスを快適に使うには、私はカートリッジインクで使うことをお勧めします。それでインク漏れのトラブルは回避できるし、書き味も良くなるからです。手帳などの用途で、細かく、書き味よく使うことができるのはF(細字)で、これがキャップレスに合った字幅ですが、大きな文字を書かれるのなら、さらに書き味の良いM(中字)もいいでしょう。

日本のこだわりのモノ作りは、その需要を捉えられず、今苦しんでいるのかもしれません。

たしかに良いものを作ったら、宣伝しなくても認められる時代は終わったのかもしれず、それはきっといろんな需要が生まれてきたからだと思います。

でも良いもの、クオリティの高いものが求められなくなったわけではなく、万年筆においては日本でしか表現できないモノ作りがされていると思います。これからもそれを続けてもらいたいし、続けてもらえるように我々販売店も日本の万年筆の良さを伝えていこうと思っています。

*パイロット キャップレスLS

ペン先調整

最近はずっとペン先調整に追われています。ほとんどが配送でのやり取りで、順に調整して、1週間~10日くらいでなるべくお返しするようにしています。

ペン先調整のご依頼が多いのは万年筆店として正しいことだし、たくさんの調整のご依頼をいただいて追われることは、本当に有難いことだと思っています。

ペン先調整をしてお金をいただくようになって13年になります。始めた頃に比べたら技術は向上していて、それはテクニックだけでなく、それ以上に意識の変化やアイデアなどの気付きのようなものがあったことが大きいと思っています。

ペン先調整は、今も感謝している各メーカーの何人もの先生方に教えてもらって始めたけれど、それからはお客様から教えられ、自分で気付きながら、ゆっくりと進んできました。

テキストや先生のいないペン先調整もそうですが、仕事において気付くということは本当に大切なことで、気付きが自分の今までのやり方を否定するものであったとしても、それは実行してみるべきだと思います。ペン先調整においても、仕事においても、今よりも未熟だった時の自分のこだわりはすぐさま捨て去る切り替えの早さはどんな仕事においても必要なことだと思う。

ただ、配送でお送りいただいた万年筆のペン先調整の方針は最初から変わっていなくて、シンプルにペン先を正しい状態に整えることだと思っています。

段差があって食い違っていれば揃えて、ペンポイントの左右の大きさが違っていれば同じにして、ペン先とペン芯が離れていれば密着させる。正しい形にペン先を整えるのなら書いているところを見なくてもできるので、配送でのやり取りでも対応できるし、調整自体それで十分だと思っています。

もちろん筆記角度を合わせたり、特別な研ぎを注文されたり、それ以上の調整を言われることもよくありますが、それにも対応しています。

正しい形にペン先を整えるだけで万年筆は驚くほど気持ち良く書けるようになります。

そこから使われる人がご自分の書き方で慣らしていけばいい。正しく整ったペン先はもっと書き味の良い万年筆にすぐになっていくでしょう。

配送でやり取りした万年筆のペンポイントを撮影したものを当店のホームページの「NIB WORKS」 というページに載せています。

ペンポイントをこうやってデジタル顕微鏡で撮影するようになったのは、美しいペンポイントをただルーペで見ることが好きで、皆様にも見ていただきたいと思って始めたことだったけれど、自分のペン先調整にも役立っています。

自分が調整したペンポイントを拡大撮影すると、第三者の冷静な目で見ることができます。撮影する時に違和感を覚えて、やり直したこともありました。

それぞれの万年筆を、それぞれの万年筆のあるべき姿としてペン先を正しい形に整えるペン先調整には、個性とか、自分の理想を表現したいという欲求を抑える理性が一番必要なものだと今は思うようになりました。

ペン先調整を仕事として考えると、本当に奥が深くて、底無し沼のような怖さがある。そこに入ってしまうと他は何も見えなくなってしまう。それだけを延々とやってしまいます。

でも私たちの仕事はそれだけでは成り立たないし、視野を広く持たないと良い仕事はできないと思っています。

私は若い時にペン先調整だけをする環境にいなかったので、本当に良かったと思います。だから今自分のペン先調整を冷静に見ることができるし、他のこととのバランスを取りながらやっていられるのだと思います。

*NIB WORKS

世界恐慌を生き抜いたWAHL-EVERSHARP・デコバンド


万年筆の見所というか、楽しみ方は様々あります。それは人によって、そのペンによって違うけれど、ウォール・エバーシャープのデコバンドは、その見所をいくつも備えた万年筆だと思っています。

デザインはウォール・エバーシャープの1920年代のものを受け継いでいて、それをオーバーサイズ化しています。そのクラシックでゴツゴツしたデザインは、今の万年筆が滑らかなデザインの新幹線だとしたら、デコバンドは蒸気機関車のようなデザインをしています。

1920年代は好景気だったと言われた時代。アメリカの万年筆業界にとってもウォール・エバーシャープにとっても黄金時代で、美しく、凝った万年筆が多く発売されていた時代でした。これは資料を読んでの想像になりますが、時代が違うとはいえ、1929年に始まった世界恐慌に突入してもなお、新製品を発売し続けたから各社生き残ったのだと思う。

そんな姿勢を私はこれからの何年も続くであろう厳しい時代を生き抜くお守りにしたいと思いました。

ウォール・エバーシャープはアメリカのペンなので変な言い方なのかもしれないけれど、デコバンドこそ日本の文字を美しく書くのに最適な万年筆ではないかと思っています。筆圧の変化に鋭く反応してくれる柔らかいペン先で、文字は筆で書いたように濃淡や強弱が出て、勢いを持ちます。

私は字が下手だけど、デコバンドで書いた自分の文字が一番好きで、こんな私の文字さえ良く見せてくれるデコバンドの力にいつも感心します。毛筆はコントロールが難しいけれど、18金ペン先は筆ほどの扱いにくさはないので、書くことを楽しく感じる心の余裕を持たせてくれます。

アルファベットを書くカリグラフィのテクニックでこの万年筆を使う場合、相当大きくフレックスさせることもあるようですが、日本人はペン先を大きく開かせて書くことを好まない人が多いという話を聞いたことがあります。

たしかにFのペン先を筆圧をかけて開かせてBBくらいの太さまで書くようなことを私たちは好みません。デコバンドはそこまで力を入れてペン先を開かせなくても、充分に線に抑揚をつけることができます。

デコバンドのペン先には字幅の種類がなく、2種類の書き味のペン先、スーパーフレックスニブとフレキシブルニブがあります。この2種類のペン先の違いは、柔らかさの違いです。

スーパーフレックスニブはそっと紙にペン先を置いた瞬間からその柔らかさを感じるペン先で、より柔らかい書き味、多めのインク出を楽しむ仕様です。フレキシブルニブはしっかりとしたバネ感があり、太めの線を表現するには少し筆圧をかける必要がありますが、スーパーフレックスニブよりも扱いやすいペン先です。

また、柔らかさを感じるためにはボディの重量も大きく関係していて、軽すぎるとその柔らかさを感じにくい。デコバンドはボディだけの重量でも44gあり、ペン先の柔らかさを活かしています。

インク吸入はゴムチューブの力によって行われますが、このゴムチューブは頑丈な真鍮のカバーによって覆われていて、この構造がデコバンドの重さの理由になっています。

ちなみにゴムチューブは長年使って吸入量が少なくなってきたり、吸入しなくなった時は当店で交換することができます。消耗部品の交換を日本国内でできるということはお預かりする期間を短くすることができて、修理費用を安く抑えるメリットになっています。

タフな仕様のデコバンドのくびれのない円筒形ボディは実際のサイズよりも大きく見えますが、モンブラン149とほぼ同じサイズで、充分実用でお使いいただけると思っています。

ウォール・エバーシャープデコバンド、書斎や仕事場のデスクにあって、書くものに合わせてモンブラン149、ペリカンM800などと使い分けたい万年筆です。

⇒ WAHL-EVERSHARP・デコバンド万年筆

WAHL-EVERSHARP・シグネチャー

久しぶりに、WHAL-EVERSHARPの万年筆が入荷しました。

アメリカの外出制限はかなり厳しくて、ウォール・エバーシャープ社長のシドさんも週2回しかオフィスに行くことができず、出荷までにかなり時間がかかってしまいました。

苦しい時期の発注だったけれど、当店が日本で唯一扱っているお店なので何とか手配したかった。アメリカのコロナウイルス禍は日本よりも酷い状態だと聞いているけれど、修理品のやり取り、細かい発注の調整など丁寧に応対してくれているので助かっています。

シドさんとは、言葉は違うし、メールのやり取りしかしていないけれど、ウォール・エバーシャープの万年筆を扱っていく者同士の連帯感のようなものができてきたような気がしています。

ウォール・エバーシャープの万年筆は、レギュラーサイズのシグネチャー、オーバーサイズのデコバンド、スリムなスカイラインという3つのラインナップがあります。

今回は、シグネチャーについて書きたいと思います。

ウォール・エバーシャープに興味を持たれて、使いたいと思って下さった方にまずお使いいただきたいのが、多くの方に扱いやすいサイズの「シグネチャー」です。

レギュラーサイズのボディは、M800など他のレギュラーサイズの万年筆とほぼ同じですが、軸径が少し太いので、頼もしく感じられます。

内部に金属パーツを多用しているので、重量は36gあります。ボディ重量が書き味に与える影響は大きく、軽すぎるとペン先のしなりが感じられなくなります。重量はペン先の柔らかさを引き出すひとつの要素だと言えます。

ボディに対して、ペン先が大きく見えるアンバランスさも面白く、ペン先の小さな金ペンの万年筆が多くなっている中、異色の存在だと思います。

書くときに、ペン先がフワッとペンの重さを受け止めてわずかに広がり、インクが出る。

大きくは動かないけれど、筆圧に応じて細かく動く柔らかいペン先とペン先に密着したエボナイト製のペン芯がシグネチャーの特長で、それらのこだわりの素材のペン先が生み出す優しく甘い書き味にうっとりとします。

ボディカラーも豊富で、それぞれに金と銀(ロジウム)金具が選べます。ブラックとローズのボディはエボナイト製です。エボナイトは紫外線を浴び続けるとマットな質感に変わる特性がありますが、それも革や木のように、エージングしてきたと思うと、愛着が出てきます。

モザイクの美しいカラー軸はアクリルレジン製で、さすがにそれらはエージング変化しませんのでいつまでもきれいなままで使うことがきます。

クリップや装飾、尻軸に刻印された「MADE IN USA」の文字も小さく控えめに仕上がっていて、自己主張のはっきりしていそうなアメリカの印象とは少し違う美意識が感じられます。

ペリカンM800、M1000、アウロラ88クラシック、オプティマ、ファーバーカステルクラシック、モンブラン149など一通りの万年筆を使ってきて、次をどうするかと考えている方、最初の本格的な万年筆だけど、あまり人が持っていないものを使いたいと思っている方にも、ウォール・エバーシャープシグネチャーも使っていただきたいと思っています。

⇒WAHL-EVERSHARP・シグネチャー

新作発売・M5手帳リフィル「そら文葉」

M5サイズのシステム手帳は今の手帳のひとつのあり方だと思っていて、今年も引き続きM5手帳もお勧めしていきたいと思っています。いつもポケットに入れておける手帳らしいサイズと、たくさんの量を書かなくても楽しめて、気負わずに使っていただけるものだと思っています。

グラフィックデザイナーかなじともこさんが制作しているシステム手帳リフィルは、バイブルサイズの「筆文葉(ふでもよう)」と、M5サイズの「そら文葉(そらもよう)」です。それぞれのサイズの特長に合わせた紙を使用して、今までになかった独特の世界観を表現しています。

そら文葉の用紙は、M5サイズという厚みにも制約のある本体を考慮して、少し薄めでありながら万年筆のインクでも裏抜けしない用紙を採用しています。

薄いというと平滑でつるつるとした紙をイメージしますが、そら文葉リフィルの用紙は、書き応えのあるニュアンスのある紙が使われていて、書き味を楽しむことができます。このあたりの選択も、かなじさんの洗練されたセンスが感じられます。

そしてそら文葉の新作「月」「風(ゆらぎ罫)」「窓(吟詠罫)」「飛行機(集計罫)」と、今年7月から来年6月までの4つ折りカレンダーが発売になりました。

筆文葉もそら文葉も機能を限定するものではなくて、自分が書きたい情報の形がどのリフィルならレイアウトできるか選んで、自由に使うように仕向けられています。

手帳本来の機能というよりも、そのページの中に自分を表現するためのキャンバスの役割をするリフィルだと言うこともできて、ページを作ることを楽しむリフィルがかなじさんがデザインするシステム手帳リフィルです。

私は一目見て使いたいと思った「飛行機」を早々に入手して、欲しいと思っているものを書き出してみました。本、音楽、靴、ステーショナリー、楽器など、興味を持ったもの、いつか手に入れたいと思うもの。ウェブサイトを見たり、YouTubeで観たりして気になったものもここに書いていきます。

情報はどんどん流れていき、次々と新しいものを知ることになりますので、本当に気になったものはこうやって書き留めておかないと分からなくなってしまいます。

仕事のことばかり書いてある手帳の中に、自分の好きなものばかりを書いたページがあることが嬉しい。内容が充実して枚数が増えたら、別の1冊に独立させればいい。

何冊も同時に平行して使う。それがサイズの小さなM5手帳の使い分けなのだと思っています。

かなじさんのリフィルは、スタンプや色鉛筆などで手を加える余地も残されていて、自分らしくカスタマイズすることができます。それぞれのリフィルを見ていると自分ならどうやって使おうかと、いろいろイメージが膨らみます。仕事でも使うことができますが、趣味のページにぜひそら文葉リフィルを使っていただきたいと思っています。

磨くと艶が出るダグラス革を使用した、当店オリジナルのM5サイズシステム手帳コンチネンタルが長く品切れしていますが、リニューアルして現在製作していただいてます。

革を厚く使ったコロンとした手帳ですが、リングサイズを太くしてさらにコロンとさせて、たくさんの用紙を挟むことができる仕様になる予定です。

出来上がりましたら、当店ホームページに掲載しますので楽しみにお待ち下さい。

⇒智文堂「そら文葉」(M5サイズシステム手帳リフィル)

⇒智文堂「筆文葉」(バイブルサイズシステム手帳リフィル)

ペン習字のお稽古

毎月当店でペン習字教室の講師をして下さっている堀谷龍玄先生から、ペン習字のお手本が届きました。ホームページ(https://www.p-n-m.net/?mode=f9)に掲載しておりますので、よろしければ練習してみて下さい。先生はB5サイズの縦罫ノート(ツバメN3021)を使われています。

私はできるのなら万年筆できれいな文字を書きたいと思うし、文字の形を気にしながらゆっくり文字を書く時間は楽しく、贅沢な時間だと思っています。

お手本なしで字を書くとどうしてもクセが出てしまって、いくらゆっくり気をつけて書いてもきれいな字を書く練習にはなりにくい。こういう先生のお手本があって、それに似せて書こうとすることでクセがなくなってきます。

それでは自分らしい文字ではないと言う人もいるけれど、文字にはまず基本の正しい形があって、それを書けるようになったら、自分らしさは自然に加わってくるものなのかもしれないと思います。

堀谷先生は当店オリジナルで発売しています革表紙のメモの替紙(https://www.p-n-m.net/?pid=146902010)にも、文学の名作を題材にしたお手本を書いて下さっていますので、そちらもぜひご覧下さい。

堀谷先生は比較的硬めのペン先の万年筆を使われていて、運筆のスピードを変えて文字に強弱つけています。

ゆっくり書くと強い線、早く書くとシャープな線が出ているように思うけれど、そんな単純なものではないのかもしれません。

でも初心者では硬いペン先でこれだけ文字に表情を出すのは難しいのかもしれません。柔らかすぎるとインクが常にたくさん出てコントロールが難しくなりますので、適度な硬さと少しの柔らかさのあるペンが良いように思います。

筆圧に応じて、多少ペン先は開く方がいいので適度な柔らかさは必要ですが、戻りは早い方がいいので適度な硬さもまた必要です。

パイロットなら、SF、SFMなどの軟ペンよりも、F、FM。プラチナならSFあたりです。セーラーのF、FMも適していると思います。ペリカンM800のEF、アウロラFも使いやすいかもしれません。

ペン習字を楽しく書くにはインクも重要です。色はなぜか黒の方が、こういうお稽古には合っていて、文字がきれいに見えます。

インクの濃度も重要です。あまりにも濃くて、黒いインクでは濃淡が出ません。パイロットの黒でもいいし、さらに薄めの当店オリジナルインク冬枯れもペン習字では冴えを見せてくれます。

堀谷先生のお勧めは冬枯れで、先生は長年冬枯れインクを使い続けて下さっています。

万年筆は欧米から入ってきた筆記具ですが、美しいとされる文字を追究して練習する心は東洋の書道のもので、こういう万年筆のあり方にも私は惹かれます。