コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成

コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成
コンプロットウェア(工房楔・コンプロット4ミニ用カバー)完成

工房楔の銘木万年筆ケースコンプロットは、10本収納のディエーチと4本収納のクアトロがあります。
机上での使用を想定した10本用ディエーチは、開いたまま立てておき仕事に必要なペンを選ぶという、万年筆を使い分ける楽しみを改めて感じさせてくれるものです。
私はコンプロット10(ディエーチ)を使い始めて、万年筆を使うことが更に楽しくなりました。
10本を一度に見渡せるため使うペンが偏らないという効果もあり、それはもしかしたらインクが乾いているのではないかという心配から私を解放してくれる、精神衛生上も大変意義のあることだと思います。

仕事が終わるとコンプロットをパタンと閉じて、引き出しなど収納場所に仕舞っておく。明日の朝またそれを開いて仕事をする。
コンプロットに関する一連の動作が儀式のように思わせてくれるのも、コンプロットが厳選された素材の刳り抜きという、素材の良さを最も生かす技法で作られているからなのかもしれません。

シンプルな加工法である刳り抜き技法は、腕の良さと素材を見る目が物を言う、ごまかしのきかない技法で、自分の仕事に厳しい工房楔の永田さんだからこそ、その大作であるコンプロットを作り上げることができたのではないかと思います。

コンプロット4ミニは携帯できるコンプロットとして、用途や色をコーディネートした4本を持ち出すのにちょうど良い、鞄に入れやすいサイズですが、持ち歩くにはどうしても傷が気になります。

そこで、コンプロット4ミニを持ち歩くためのコンプロットウェアをWRITING LAB.で企画しました。
コンプロットを保護するためのカバーですが、中に入れるコンプロットに見合う上質で素材感のあるものとして、栃木レザーのクリーク革を選んでいます。
手触りや色合い、質感に、革本来のものが感じられ、使い込むと艶を出してくれます。
内装は、出し入れすることによって銘木製のコンプロットを磨く役割もある合成皮革のエクセーヌを使っています。
コンプロット4ミニを引き立て、より使い易く、持ち運び易くしています。

万年筆を使うことを楽しくしてくれるコンプロット、そしてコンプロットをより楽しく使うことができるコンプロットウェアです。

万年筆を入れるケースに更にケースを作ってしまう。
WRITING LAB.では、こういった一見無駄に見えるけれど需要のありそうなものを、シンプルに上質な素材を使って作っていきたいと思っています。
そしてそれは万年筆を使うことをより楽しくしたいという思いからです。

今後も、色々な万年筆を楽しむためのものを作っていきたいと思っています。

⇒WRITING LAB.コンプロットウエア

想いを込めるインクの色

想いを込めるインクの色
想いを込めるインクの色

ペリカンのエーデルシュタインインクに、新色タンザナイトが発売されました。

ペリカンのブルーブラックは落ち着いた紺色で、個人的にはとても好きな色ですが、酸化鉄の作用で紙に定着する昔ながらのブルーブラックなので、インクの出が少なくなることがあります。
アウロラなどの万年筆ではインクの出が極端に少なくなったりしていましたので、ペリカンのブルーブラックはどちらかというと扱いにくいインクのひとつでした。
タンザナイトはブルーブラックの色ですが、従来のブルーブラックとは成分が違うためインクの出が渋くならず、ペリカンの純正インクを使いたいと思っておられた方には待望のインクです。

私も万年筆のインクはたいていブルーブラック系の色を使っています。
黒は書いていて何となくつまらないし、ブルーは私の好みからするとパッと明るすぎる。
夏には特にそうですが、インクの色を何か違うものにしたいと思って、黒やロイヤルブルーにしたりして(あまりインクの色で冒険しない方です)しばらく使ってみたりしますが、すぐにいつものブルーブラックに戻ってしまいます。

何度も書いているかもしれませんが、私は当店オリジナルインクの朔をよく使います。
このインクはくすまないブルーブラック、紺色を目指して作った色で、新月の夜の空をイメージしています。
どの万年筆に入れてもインクの流れが良く、気持ちよく書くことができるので、万年筆のインクの伸びを重視する私にはその特性的にも他に換え難いインクです。

これは私の勝手な印象というか、思い込みですが、ブルーブラックのインクはどれも夜をイメージしています。
モンブランの古典的なインク、ブルーブラックも最近ミッドナイトブルーという名前に変更しましたし、エルバンとカランダッシュはブルーナイトという色があります。
ブルーブラックとは言っていないけれど、オマスのブルーは他のメーカーのブルーよりも色が濃く、イタリアの夜の空をイメージさせます。

インクの色というのは、作り手も使い手も、想いを込めるととても良い物に感じられて、そこがとても面白いと思っています。

⇒Pen and message.オリジナルインク「朔」
⇒Pelikan エーデルシュタインインク「タンザナイト」

万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの

万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの
万年筆と万年筆を使う心に彩りを与えるもの

どんな小さなものでも丁寧な手仕事が妥協なく施されている。
カンダミサコさんが作る革製品からは、センスの良さとともに、技術の素晴らしさと意外にも思えるストイックさを感じます。

万年筆を愛用すればするほど、使い慣れれば慣れるほど、万年筆を丁寧に扱いたいと思う心は強くなって、すでに使い倒して小傷がたくさんついている万年筆でも良い革のケースに収めたいと思う。
万年筆を使っている人は使い慣れたノートを革のカバーに収めたいと思う人が多く、当然万年筆も革のケースに収めたいという気持ちが強い。
でも万年筆を収める革のペンケースは重厚で、いかにも万年筆を入れるという感じのものばかりです。
特に女性のお客様に軽く爽やかに万年筆を収納するものと言われると、困ってしまうほどそれらは決まりきった形のものばかりでした。

当店ではカンダミサコさんのペンシースをお勧めすると、女性だけでなく、男性のお客様方の心もつかめる確率が高い。
カンダミサコさんのペンシースの特長は1本だけをサッと収めることができながら、クリップを通す場所が内部にあり、脱落することがない。
そしてそのクリップを通す場所は、片方は入口すぐから始まっていますし、反対側入口から奥まった所から始まります。

例えばペリカンのようにクリップからキャップトップの距離が短い万年筆とモンブランマイスターシュテュックのようにクリップからトップが長い万年筆とでは、差し込む方向を変えることで、ペリカンならM800まで、モンブランなら146までを収めることができます。

しなやかで手触りが良いのに傷が付きにくく、非常に扱いやすい素材であるシュランケンカーフは、カラーバリエーションが多く、必ず好みの色、用途に合う色を見つけることができます。
万年筆のボディの色やインクの色とペンシースの色をコーディネートしてもいいし、ペリカンやモンブランのように軸色がベーシックな場合、インクの色や他の身の回りのものとコーディネートした色のペンシースに収めると、万年筆が夏らしく華やぎます。

ル・ボナーのデブペンケースに万年筆と他の文房具を一緒に入れて持ち歩くとき、ペンシースに万年筆を収めると、万年筆に傷が付き防止になる。
なるべく荷物を軽くしたい夏には特に役立つ小物だと思います。
とても便利なものだけど、機能性だけでなく、万年筆や万年筆を使う心に彩りを与えてくれるものが、カンダミサコさんの丁寧な手仕事によるペンシースです。

⇒カンダミサコ1本差しペンシース

仕事に役立つもの

仕事に役立つもの
仕事に役立つもの

私が本屋さんで長時間棚の間をさ迷うのは、本が好きだということもありますが、一番大きな理由は自分の仕事をもっと良くするための知識を与えてくれたり、自分の思考を深めてくれる本を探すということです。

私が本を読むのは、いつも何かの答えを探しているところがあります。
仕事の答えを直接書いていなくても、私自身がその内容から連想してヒントにすることができればそれでいいので、どんな本がそれにあたるのかは自分でも全部読んでみるまで分かりません。
実際「思考の整理学」「文章の書き方」や「無言の前衛」などのように直接自分にヒントを授けてくれる本にはめったに出会えないと思うけれど、それでも時間があれば本屋さんの棚の間をさ迷いたくなります。
その辺り一帯に発見されていない鉱脈があるくらいに思っていて、その鉱脈を掘り当てるために棚の間をさ迷う。

年末に手帳売場でさんざん立ち読みして、厳選して使い出した手帳を違うものに換えたくなるのは今頃なのではないかと思います。
手帳をシーズン中に換えたくなる理由は、今使っている手帳に原因があるのではなく、手帳を換えると自分の仕事がもっと良くなるのではないかと思ってしまうからです。

シーズン中に手帳を換えると写し換えないといけないこともありますし、中途から始まったり、終わったりしているので、記録として意味を成さなくなると、今まで何度も後悔しているので最近はしなくなりました。

でも手帳を換えたいと思うのも、本を探す心も似ていて、自分の仕事をもっと良くしたいという気持ちに端を発しています。

万年筆をいろいろ使いたいと思うのも、本や手帳と同じように自分の仕事がもっと良くなるのではないかと期待するからなのではないかと思います。
実は私もそのように考えていて、本と同じように万年筆も自分への投資だと本当に思っています。
でも仕事が楽しくなったり、モチベーションが上がったりすることを考えると、正真正銘、自分への投資だと思います。

本や手帳には、これが誰にでも絶対正解だと言えるものがなく(強いて言えば古くから読まれている古典の類は正解に違いないのでしょうが)、それは人によって違うと思いますが、万年筆には誰にとっても正解だと言えるものがあります。

ペリカンM800は書くことにおいて正解だと言える万年筆のひとつだと思います。
良い万年筆の証拠ですが、既にお持ちの方もたくさんおられて今更お勧めするのもどうかと思いますが、書いていて何のストレスも感じない、何も気にならないというのがM800の特長ではないでしょうか。

M800は軸が重くて太いので使いにくいという人も中にはおられますが、もう少しだけ我慢してM800を使ってみていただきたいと思います。
突然大きいと思っていたM800が手にしっくりくる日が必ず来ます。

細くて軽い軸のペンに慣れていた手が万年筆に慣れてきたというのは、そういうことなのだと思います。

書くことにおいて完璧なバランスを持った万年筆は必ず仕事の助けになってくれて、これによってアイデアが浮かんだり、ヒントをもらったりすることはないかもしれませんが、頭に思い浮かんだことを一気に文章にするような時に必ず助けになると思います。
自分の回転の悪い頭が少しでもよく回るように、浅墓な考えが少しでも深くなるように何でもしたいと思っていて、それが本だとか、手帳や万年筆だと思っています。

道具で自分の仕事が良くなるというのは幻想なのかもしれませんし、そうでないのかもしれない。
しかし、少なくともそれによって、仕事が快適になったり、効率が上がったりはします。
書いていて何も気にならない、まったくストレスがないというM800のような万年筆は良い道具が満たすべき唯一の要件をしっかりと満たしていて、それで十分ではないのかと思えます。

当店ではペリカンM400、M600、M800、M1000のペン先を全て揃えています。
一番合いそうなM800をぜひお選びに来て下さい。

⇒Pelikan M800

ペンレスト兼用万年筆ケース

ペンレスト兼用万年筆ケース
ペンレスト兼用万年筆ケース

定番として作ったオリジナル商品を、再生産する度に少しずつ仕様を変えて作りこんでいく作業がとても好きです。

もちろん最初に作った時にこれで完璧だと思って発売するわけですが、自分も使いながら改良したい所を探しています。それを直して、より完全な状態にする。
終わりのない永遠に続く作業なのかもしれないけれど、ロングセラーの万年筆も問題箇所を直したり、顧客の声を反映させたりしながら今の形になっているのだと思うと、1回生産だけの限定品よりも定番品の方が修正が重ねられている分、魅力的に感じたりします。

当店のオリジナル商品、ペンレスト兼用万年筆ケースはあまり修正箇所が見られず、実用部分では全く変更を加えずに今に至っています。
でも革の供給の問題で革を変えたり、色を変えたり、内張りやステッチの色を変えたりはしていて、より良いものを目指しています。

しばらくの間品切れしていましたペンレスト万年筆ケースの黒が再入荷しました。
鮮やかできれいな色が揃うシュランケンカーフの中にあって、黒は異色の存在。
でもあえて黒を選ぶということが贅沢に感じられますし、自分で使い込んでみると、黒の良さが分かってきます。

シュランケンカーフの黒を選んだのは、なるべく地味で、ビジネスシーンでも気後れすることなく使っていただけるものを作りたいと思ったからで、内装もダークブルーにしました。
今回は少しだけ華やかなものとして、ワインカラーの内装のものも作ってもらいました。
この万年筆ケースは、お仕事での使用において完璧な機能性を持っていると自信を持っています。
鞄の中やポケットの中に入れている時はフラップを被せて、ペンが脱落したり、傷がつかないようにする。
フラップを枕のようにペンの後ろにまわすとペンがすぐに取り出せるようにできます。
薄いのでジャケットのポケットにも入れることができますが、モンブラン149やペリカンM1000くらいの太い万年筆も収納することができる。
万年筆を仕事の道具として使いこなすのに役立つペンレスト兼用万年筆ケースは私にとっても仕事での必需品で、仕事用のシルバーン、赤インク専用のシェーファー、カステルのボールペンを入れて日々使っています。

⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース

WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”

WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”
WRITING LAB.シガーケース型ペンケース“SOLO”

休みの日やちょっと出掛けたりする時の男の持ち物はそんなに多くない。
カフェでの時間があったり、電車の中で時間を持て余して、何か書き物をするかもしれないと思って大判のノートを持ち歩いたり、読むかもしれない単行本を持ち歩くというイレギュラーはあっても、決まって持って出るのは財布、携帯、手帳、万年筆の4点セットだと思います。

ル・ボナーのポーチピッコロに財布、携帯、手帳とともにSOLOに万年筆を1本入れて持ち歩くようになりました。

1本だけ、たとえ使わなくても自分を象徴するような、自分の代表的な万年筆を持って出るということが潔いのかもしれないと思うようになりました。
使う予定のない万年筆は持って出ない方がカッコいい。

このペンケースSOLOは、兵庫区和田岬の工房“IL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)”の久内ご夫妻が作っています。
フィレンツェでご主人の淳史さんは靴工房で、奥様の夕夏さんはフィレンツェ伝統のしぼり技法の革小物工房でそれぞれ修行されましたが、夕夏さんが修行していた工房ではシガーケースも作っていました。

昨年ベラゴの牛尾さんに久内さんご夫妻を紹介していただいて、当店でお会いした時に万年筆に関連したものを作ろうという話になり、シガーケース型のペンケースを作ることになりました。
そこから試行錯誤が始まり、久内さんは2度程試作品を作って下さいました。
シガーも万年筆もそれほど変わらず、コロナサイズのシガーなどは大きめの万年筆(例えばペリカンM1000など)とほぼ同じサイズですが、最大の違いはその重さでした。

シガーを入れても問題なくても、万年筆を入れると自然と胴が下がって抜けてしまう。
蓋と胴の合いの強さをコントロールする精度がお二人の仕事に要求されましたが、木型を修正して、勝手に抜けることなく、手で引っ張ると良い具合に抜けるように仕上げて下さいました。

ペンケースSOLOの最大の特長は、ムラ感のある色気のある色合いだと思っています。
ナチュラル色の革に顔料で色を重ねていくフィレンツェ伝統のパティーヌ技法によってそれは仕上げられています。
定番色は5色ありますが、今後この色で様々なものを企画していきたいと思っています。

SOLOペンケースに入る万年筆は、ペリカンM1000、モンブラン146、ペリカンM800よりも細いものです。アウロラ88、オプティマなどは、クリップの出っ張りが大きく少しきつい感じです。

受注生産で納期は3週間いただいていますが、先日のイベント用に作成して頂いたものが少量ありますので、「要在庫確認」となっているものはすぐにお送りできます。ぜひご覧下さい。

⇒シガーケース型ペンケース”SOLO”

ドイツらしさの主流 ラミー2000

ドイツらしさの主流 ラミー2000
ドイツらしさの主流 ラミー2000

仕事が終わってホッと一息ついた一人の時間、自分にとって柱となる万年筆はどれだろうと、常時インクを通している13本の万年筆を見ながら考えています。

それはこの中にあるのか、それとも敢えて欠けたままに10年以上放っているあの万年筆なのか。
あの万年筆とは何なのかはまだ言えないけれど。
そんなふうに個人的なものとして万年筆について考えるのは、実は楽しい悩みなのです。
自分にとっての1本も決めることができない私とは違って、自分にとっての1本をはっきり持っている人は結構いるのだと、皆様のお話をお伺いしていて知りました。

それはもしかしたら万年筆を売る側の人間である私と、買う側である皆様との立場の違いに関係があるのかもしれません。
やはり売る側の人間としては個人的な好き嫌いは交えず、公平に全てのメーカーの万年筆を見なくてはいけないという気持ちが無意識のうちに働いていて、個人的な万年筆でさえも序列をつけてはいけないと思っているからなのだと思うようになりました。

私の師匠の中の一人にラミー2000が自分の持っているものの中で最高のペンだと言う人がいます。
ヘミングウェイやビンテージの逸品を含めて100本にも届こうという人の最高のペンがラミー2000だと言われた時、それは話のネタなのではないかと思ってしまいましたが、どうも本当のようです。
2万数千円の価格のラミー2000が数万円、中には10万円以上にもなる万年筆よりも良いというのをその人なりのジョークなのだと思ったのです。

ラミー2000が悪いペンだと言っているのでは決してありません。
ラミー2000は1966年に誕生した万年筆で、2000年まで通用するペンとしてラミーがまさに社運を賭けて発売した万年筆でした。
ほとんどの万年筆メーカーが社内でデザインしたものを製品化するのが一般的でしたが、ラミー2000では、当時新進気鋭だった工業デザイナーだったゲルトハルト・ミューラーを起用しました。
2000の名に偽りなく、当時最も先進的なデザインで、今もまだ最もユニークな存在の万年筆です。
ラミー2000が最高の万年筆だと言った先ほどの方は「非常にドイツ的な万年筆やな。」とラミー2000を評しています。

ペリカン、モンブランもとてもドイツらしい万年筆だと思われていますし、私もそう思っていますが、ペン先が大きなクラシックスタイルの万年筆が多くラミー2000のドイツらしさと、他のクラシックスタイルのドイツらしさとはかなり方向が違っています。
シンプルで一切の装飾のないモノトーンのラミー2000は1940年代に起こったバウハウス運動の流れを汲んだデザインで、戦後のデザインだと言えます。
それに対して、ペリカン、モンブランのクラシックな万年筆のデザインは戦前のデザインと言えるのではないかと思います。

万年筆以外の製品では、私たちはラミー2000のようにモノトーンでシンプルなものをドイツらしいと思っていたはずです。
しかし最もドイツの万年筆らしいと思われているペリカン、モンブランはそうではなく、万年筆が他の世界とズレがあることに気付きました。
ラミー2000は異端なのではなく、最もドイツ的なデザインの主流を体現している万年筆だったのです。

その方のラミー2000は1975年に手に入れてずっと愛用しているとのことで、ペン先のイリジュウムは見事に美しく平らにすり減っていました。

⇒ラミー2000

勝負万年筆のケース

勝負万年筆のケース
勝負万年筆のケース

勝負万年筆を作りなさいとある人がアドバイスしてくれました。

その言葉にどんな根拠があってどんな意図があるのかは別として、それはなるほどと思い当たることがありました。
常用している13本の万年筆は字幅の細いものだけに手帳用という役割はありますが、どれを使うかというのはその時の気分次第で、どの万年筆が13本の万年筆の中の主役なのかはっきりしていませんでした。

そんな万年筆への対し方は色々な事への反省であって、ひとつひとつのことに対して、自分の意図や狙いを明確に伝えてはっきりさせなくてはいけない。
その第1歩が勝負万年筆を作るということなのだと思いました。
勝負万年筆というと、万年筆1本だけ持って出るという状況で選ばれるべきもので、ただ気持ちよく書けるということだけでなく、自分の精神的な支えになってくれる杖のような役割も担っているはずです。

万年筆を持って出るというふうに考えた時に、私は旅に出るということを考えます。長期間の旅に出る時に私がその1本だけを持って出ようと思うものは、インクがたくさん入って、タフな性能を持った大きな万年筆です。

ペリカンM1000、モンブラン149、デルタピストンフィリングなどの万年筆は、大きいけれど私は自宅の机のみで使おうとは思わない。
小さなペンは携帯に向いていてポケットに差し易いけれど、小さいので作りが繊細です。それに対して大きなペンはインクはたくさん入るし、頑丈にできている。そして何よりも守り刀然としている。

支えてくれるだけでなく、自分の身を守ってくれる短刀に近い存在が前記の大きな万年筆です。
そしてそういった勝負万年筆は胸ポケットに差したりするものではなく、ペンケースに収めて持ち出すことは、皆様感覚的に分かっていただけると思います。

ペンケースはペンを収納して、保護しながら持ち運ぶものですが、ただ入れ物だけの役割かというとそうではないと思います。
入れ物だとすると、最小限の大きさで最大本数の万年筆を持ち運べることがその性能になりますが、それだけではない。
自分がいかにその万年筆を大切に思っているか、そのペンケースから万年筆を取り出す所作から、自分が最も大切に思っている、書くという行為は始まっている。そういう時のペンケースは1本差しでなければならないと思いました。
それはそうで、自分の勝負万年筆が他の万年筆と一緒に入っていたら可笑しいような気がして、主役にはそれなりの場所を用意しなくてはいけない。

現在勝負万年筆を収めたいと思うペンケースをイル・クアドリフォリオの久内(きゅうない)さんが作ってくれて、6月2日(土)にお披露目予定です。

昨年末から、WRITING LAB.として久内さんたちと打ち合わせをしていて、かなり時間がかかりましたが、色々試行錯誤して下さり出来上がりました。
シガーケースタイプの1本差しペンケースで、フィレンツェ伝統のブセット(熱ゴテ)による絞り技法に、パテーヌ(色付け)したペンケースは、美しい光沢と滑らかな手触りに仕上がっています。

文字入れや特別色のオーダーもでき、それぞれの勝負万年筆に合った仕様にできるところも面白いと思っています。

*画像はサンプル画像です。入荷しましたらホームページでご案内させていただきますので楽しみにお待ち下さい。

刀匠 藤安将平の卓上小刀

刀匠 藤安将平の卓上小刀
刀匠 藤安将平の卓上小刀

私たち物作りや販売に携わる人間は、常にこういうものを見て、その姿形だけでなく、物作りの作法を肝に命じておかなければならないと思っています。

私たち販売者が作法に則ったものをお客様に紹介ければ、作法は失われていきます。
世の中何でもありで、常識にとらわれてはいけないという言い方もありますが、それは時勢など移り変わるものに対してで、物作りに対しては外してはいけない道理がありますし、守らなくてはいけない作法があります。

それらは明文化されているわけではありませんが、日本人が皆潜在的に持っている、そのDNAに刷り込まれているものなのかもしれません。

作法の姿形を知るのに伝統工芸のものは良いお手本になってくれます。それらを見ることによって、身近に置くことによって、無作法なことをしないようにしたいと思っています。
私たちは刀鍛冶の仕事をすごいと思うし、日本刀に美しさや芸術性を認めて良いイメージを持っています。

誰もが素晴らしいと思うけれど、最も生活から遠いもののひとつが日本刀だと思いますし、私も刀匠という仕事の人が存在していることにリアリティを持てませんでした。
でもその仕事を知って、後世に伝え残していかなければいけない技術だと思いました。

この卓上小刀は、正倉院にも保管されている刀子(とうす)をルーツに持つ、武士が刀とともに携帯した小柄小刀の刀身を短くし、現代でも持ち歩けるようにしたものです。
刀身は鋼の中の厳選された部分である玉鋼(たまはがね)。
朴の木(ホウノキ)の鞘の鯉口部分(鞘の入り口)は花梨、柄頭は櫨(ハゼ)、柄は黒柿の真黒と全てに最高の素材が使われています。

こういった行き届いたものを見て、触ることは万年筆を知ることにも繋がると思いました。

例えば本体を鞘に仕舞う時、コクンと鞘が本体をつかむような感触がわずかに手に伝わりますが、これはキャップの締まり具合のお手本になる。
切りやすい刃物ならカッターナイフの方が簡単に手軽に切れるかもしれませんし、手入れも刃を折って捨てるだけです。
でも何度も例えば紙を切ってコツがつかめてくると、切れ方に「味」があることが分かります。
この味を知ると今まで使っていたものがとても味気のないものに感じられる。

書きやすい筆記具ならいくらでもあるし、万年筆の中にも手軽に簡単に気持ち良く筆記できるものがあります。
でもそれらの中でも味を持っているものはどれくらいあるのだろうかと考えます。
実用的な理由があって使われる素材や製法など、万年筆作りでも考えなければならないものだと思います。

この小刀は、福島県の刀匠藤安将平(ふじやすまさひら)が鋼の鍛錬から鞘の設えまでの全ての仕事をしたもので、日本刀の技術、素材をそのままに、文房具としての刃物に仕立てたものになっています。

藤安刀匠は、人間国宝・宮入行平の高弟で、師の遺志であった日本刀が最も優れていた室町時代以前の刀「古刀」の再現を目指して日々作刀に打ち込まれています。

池波正太郎氏は「万年筆は現代人の刀だ」と言った。腰にある刀によってその武士の品格を見られたように、持っている万年筆によってその人の品格を見られる世の中であって欲しいと思うのは、万年筆店だからこその願いなのかもしれません。

でも私は真剣に、万年筆は我々現代人の刀で、我々の文化的作業である書くということをいかに大切にしているかを表す道具で、精神的には武士の刀と大きく離れてはいないと思っています。

万年筆店に刀鍛冶が作った小刀がある理由はそんな願いと、物作りの作法のお手本を身近に置いておきたいというところなのです。

粋な文房具

粋な文房具
粋な文房具

意外に感じる人もいるかもしれませんし、上手くいかないこともあるけれど、実は粋でありたいと思っています。
非常に曖昧な概念で、これが粋なのですとなかなか具体的な指し示せるものではありませんので、深く考えると哲学的な話にさえなってしまうかもしれません。

でも私が目指す粋ということをなるべく簡単な言葉で言い換えるなら、少し違うかもしれないけれどスマートでありたいというところでしょうか。
いろいろ誤解を受けたり、たまに天邪鬼と言われるけれど、それは粋でありたいという気持からだったのです。

「粋の構造」(九鬼 周造著岩波文庫)。妙な図形が描かれた表紙に、そしてその題名に惹かれて読んだ本でした。
「粋の構造」は粋という言葉を精神的に、感覚的に、外見的に定義していて、その本によると粋というのは日本語独特の言葉であって、外国にはそれに近い意味合いの言葉はありますが、しっくり当てはまる言葉がないそうです。
日本語の粋は「iki」であって、どんな言葉にも言い換えることができないのです。

赤瀬川原平氏の「無言の前衛」からの引用ですが、粋と似た存在の言葉に「渋い」という感覚がありますが、渋いという感覚もその言葉も他の言語に当てはめることができないそうです。
物の在り方、美的感覚を表現した言葉である「渋い」は粋と同じではないけれど、非常に近いところもあるのだと、日本人には感覚的に分かるようです。
渋いという美的感覚は茶道の世界で最も大切にされた感覚だと思いますが、もちろんそれ以前から存在した感覚で、日本人の精神性にだけ存在するものなのです。
生き方や態度、物腰は粋でありたいと思っているのと同じように、自分が持つものも粋な物を持ちたいと思っていますし、何か物を作る時、粋という言葉を大切にしたものを作りたいと思っています。

粋なものというのは、これもまた具体的に表現することのできないものですが、例えばWRITING LAB.で作ったサマーオイルメモノートは粋を目指したものだと思います。
装飾のない素材を切り取っただけの設えですが、その素材には実は良質で手触りの良い丁寧に作られた革が使われている、そしてそんな誰も使っていないこのメモ帳を使うことが粋だと私は思っています。

私たちが最も大切にしている書くということを粋にこなすためのものを作りたいと思ったのです。
サマーオイルメモノートのようにシンプルで飾り気がないけれど実は良い素材を使っている、強いこだわりを持って作られているけれど、こだわっていないように見せる感覚は、粋という言葉からイメージされる物を作ろうとする時に1つの大切な要素になると思います。

木の杢を愛でる感覚も粋な心持ちからくるものだと思っています。
全て整っていて、個体差のない工業製品ではなく、ひとつひとつが違っていて自分なりの見立てをして、虫食いさえ景色と見て楽しむ。

工房楔の銘木カッターナイフ。
文房具として当たり前のものであるカッターナイフを木で仕立てる。
しかもただの木ではなく、杢の美しい銘木を纏わせる。
文房具にこだわる人なら、このカッターナイフの粋さ加減を理解してくれると思っています。

それぞれの素材によって、木目が違い、杢の出方も違う。使い込んだり、丹念に磨いたりしたときの艶の出方もそれぞれ違いますので、ある特定の素材を自分のものとしてそればかりを集めたり、様々な素材の違いを楽しむために様々なものをコレクションしたりと、それぞれの人が自分なりの楽しみ方を杢に持っている。
自分なりの楽しみ方、向かい合い方をそれぞれの人が持っているというのは、杢も万年筆も同じかもしれません。

万年筆を使う、書くことを大切にする心も粋だと私は思っていますし、粋に万年筆と付き合っていきたいと思っています。

⇒WRITING LAB. サマーオイルメモノート
⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)cbid=2557546⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)csid=5″ target=”_blank”>⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)