セーラー工場竣工記念万年筆 貝塚伊吹

前職で、セーラーの呉・天応工場には何度か行ったことがあります。

はじめは上司が同行して、何度目からか一人で行くようになりました。全部上司がお膳立てしてくれていたと思うと、会社でもいろんな人のお世話になっていたことに改めて思い当たります。

それは今も変わっていなくて、面倒をかけている人の数は増えたかもしれません。仕事というのは一人ではできない。特に私はそうなのかもしれません。

私にとっても天応工場は思い出のある場所でした。

戦後まもなくして建てられた三角屋根の木造の工場の中に、最新式と思えるきれいな機械が並んでいる棟もあって、そのアンバランスさが面白かった。

わりとオープンな雰囲気で、取引先の人の訪問を受け入れてきた天応工場に私と同じように思い出のある業界人は多いと思います。

近年、万年筆のお客様の層、売れる万年筆の種類、字幅、売れ筋のインクの色など、様々なことが変って、時代が変ったことを強く感じていますが、セーラー天応工場の建て替えもそれを象徴する出来事かもしれません。

そんな中で、天応工場の建て替えで伐採された敷地内にあった樹木を万年筆にするというのは粋な企画だと思いました。

生産本数が限定100本とかなり少なかった泰山木(タイサンボク)は入荷が少なく、店頭に並ぶことなくなくなってしまいましたが、生産本数500本の貝塚伊吹(カイヅカイブキ)はまだ在庫があります。

日本の木らしく模様が控えめな大人しい印象の木目の貝塚伊吹ですが、使い込むと色が濃くなって、すごみのある艶を出してくれそうな素材です。

セーラーの万年筆でよく使われる両切りタイプのプロフェッショナルギア型の工場竣工記念万年筆ですが、通常のものよりも尻軸が長めになっていることが特長的です。

これはキャップの尻軸への入りを深くして、キャップを尻軸に差した時に全長を適度に短くすることで、重心を中心に寄せる効果があります。

中心に重心のある万年筆は力を入れずに持つことができてコントロールしやすく、長時間の筆記でも疲れにくい。

ペン先の刻印も定番のものと変えています。旧型のプロフィットのフレーム型の刻印を復活させて、セーラーの歴史を感じさせるものになっています。

この効果を狙ったのかどうか分かりませんが、ペン先の刻印は少ない方がペン先は柔らかくなります。今回の限定品工場竣工記念万年筆のペン先の刻印は定番のものよりもシンプルなものになっていて、書き味は柔らかく感じられます。

キラキラした記念の万年筆らしい華やかな装備を凝らしたものではなく、こういった実用的なことも考慮して作られているどちらかと言うと渋い、使うための万年筆を工場竣工記念万年筆として出してくれるところはとてもセーラーらしいと思いました。

天応工場で日本の万年筆の歴史が作り続けられてきたのをこの貝塚伊吹の木は見てきたのだろうと思うと、この万年筆がとても貴重なものに思えます。

⇒セーラー 広島工場竣工記念万年筆 カイヅカイブキ

オーダーの名店「BAGERA」のペンケース

神戸市灘区のオーダー革鞄、革小物の工房バゲラさんのペンケースとレザートレーを扱い始めました。

バゲラの高田さんご夫妻とはもともと顔見知りで、ずっと交流がありました。

15年前、この店を始めたばかりの時にル・ボナーの松本さんに鳥鍋に誘われて行ったことがあったのですが、その時初めてお会いしたのがバゲラの高田和成さんでした。

バゲラさんとの出会いも松本さんがきっかけで、私は松本さんからどれだけ恩恵を受けているのだろうと改めて思います。

バゲラさんとはその後も当店では承れないご要望のお客様をご案内したりして、頻繁ではないけれどやり取りは続いていました。

今年の夏のある日、三宮駅前の百貨店の婦人靴売場で、妻が化粧直しに行ったのでブラブラしていると、女性革職人さんが実演販売をしているのに気付きました。

雰囲気のある職人さんと作品だと思って見ていたら、それはバゲラの高田奈央子さんでした。

オーダーを中心に20年ほどやってこられたバゲラさんですが、ついに自社の世界観を表現した既製品の制作を始められたそうで、その中にペンケースやペントレーなどのステーショナリーもありました。

その濃厚な世界観を持った他にはない雰囲気に、一目惚れしました。

バゲラさんの方でもその百貨店のイベントが終わったら当店に声を掛けようと思っておられたそうで、言葉通り2、3週間後打ち合わせに来て下さり、ペンケースをご提案していただきました。

表のフラップはクロコ、ベルト部はオーストリッチ、胴体部分の表と背面はパティーヌ加工したゴート、側面は黒桟革、内側はブッテーロ。

特にゴートは、アンティークな雰囲気を出すためにパティーヌ加工を施すというこだわりで、その革自体も何年も前に限定的に発売された革を、少しずつ大切に使われているそうです。

革それぞれの質感を生かして配置し、全て手縫いで仕上げる。

手縫いも様々な技法が駆使されていて、直角に接する表と側面の革はこま合わせという技法で縫われていて、ジグザグに走るステッチがアクセントになっています。

フラップの背面はシングルステッチで固定されていて、これも良い味を出しています。マニアックなくらい様々な革、様々な技術が凝らされていて、それらがデザインにも生きています。

奇抜にも見える、数種類の革を組み合わせたデザインですが、造りはキッチリしていて甘いところがありません。職人の仕事と作家の表現が両立している、世界観のあるペンケースだと思いました。

ペンを何本も持ち歩くのもいいけれど、大切なペンケースにこれだと決めたペンを1本だけ持って出掛ける。そんな風にペンの扱い方も変えてくれるペンケースです。

もうひとつ、ペントレーもご紹介いたします。

厚い1枚革に土台となる部分をつけたシンプルな構造のトレーは、スムースな革ワルピエ社のエトルスコを揉んで、シボやしわを出してから使っています。そうすることで革の生命力のようなものが起き上がってくると高田和成さんは言われます。

革をきれいなまま使うのではなく、手を加えて馴染ませてから使うのは面白いと思いました。とてもシンプルなトレーですが、机上の雰囲気がこれひとつで贅沢な空間に変わると思います。

15年も前に知り合っていたにも関わらず、今静かに始まったバゲラさんとの仕事。

お互いこの15年の間にいろんなことがあって、今それぞれの店のタイミングが合って動き出したという、不思議な縁のようなものを感じています。

⇒BAGERA(バゲラ)ペンケースL・雲

⇒BAGERA(バゲラ)ペンケースL・夜

⇒BAGERA(バゲラ)レザーペントレイ・黒

⇒BAGERA(バゲラ)レザーペントレイ・茶

B A G E R Aについて(リーフレットより)*

2002年創業。以来一貫してフルオーダーメイドの革製品を制作する神戸の小さなアトリエ。服と靴以外の革製品全般を取り扱います。

「圧倒的に特別なもの」をコンセプトに、個々のカスタマーへの丁寧なヒアリングを元にスケッチや模型で提案。その一点のみをはじめから終わりまで一人が担当し制作します。現在小物で平均半年程度、鞄で1〜2年の納期を頂いています。

こだわりの既製品を2023より始動。

高田 和成

高田 奈央子

共に芸大で建築を学び、その後職人の道へ。

建築から得た構造の大切さを追求する和成と、感性的なモノ作りを得意とする奈央子によってB A G E R Aは作られています。

場所への愛着

店は営業していますが、私は11/28(月)~12/2(金)の間、休みを取って鎌倉へ旅行する予定です。例年通りの遅めの夏休みですが、夏は暑すぎて外に出る気になれず、やっと外を歩くのにいい季節になりました。

鎌倉のどこかに目的があったわけではなかったけれど、鎌倉の町中を歩いてみたいと思いました。

観光名所に行くわけでもなく、ただ他所の町を歩いてお店があれば入ってみるというのが私の旅のやり方で、文房具屋さんを見つけたら必ず立ち寄っています。

行き先が決まったら、その町にまつわる本を読みます。今は以前読んだ「ツバキ文具店」を読み返して、落ち着いた鎌倉での暮らしに思いを馳せています。

ツバキ文具店の主人公、鳩子さんの日常にも憧れますが、自分の、元町での当店の日常にも愛着を持っています。

いつも何軒かの決まったお店に晩御飯を食べに行くので、すっかり顔見知りになっているお店、のんびりした街の雰囲気。営業前によく近所を歩きますが、それは健康維持のためだけではありません。愛着を持って暮らせる街に居られることは幸せで、恵まれたことだと思います。私はおめでたい性格なので、きっとどこに住んでも愛着を持って生きているのだと思うけれど。

地名がついた万年筆が好きです。それはきっと地元の山陽バスの行き先表示を見ても楽しめるほど地名萌えする性質だからなのかもしれないけれど、できれば自分に関連のある地名を冠したモノがあれば手に入れたいと思うし、地名のついた万年筆を手に入れたらその場所について知りたいと思います。

アウロラの「神秘の旅」という限定万年筆のシリーズがあって、先日第2弾のボルテッラが発売されました。

ボルテッラの街は、緩やかな丘陵と渓谷が連なるトスカーナ地方の一際高い崖の上にある城塞都市で、中世の面影を今も残しています。アラバスター(雪花石膏)の産地で、アラバスターを使った彫刻など芸術作品に溢れた街としても有名です。

ボルテッラの万年筆も、そんな街の中世から歴史を刻んできたイメージ、アラバスターの質感のイメージを軸色に表現したクラシカルな仕上がりになっています。

落ちついた感じのする乳白色の軸に、ローズゴールドフィニッシュされた金属パーツが上品で、3000年近くもの歴史があるボルテッラという街そのものだと思います。ボルテッラに行ったことのある人にはぜひ手に入れていただきたいし、この万年筆でボルテッラを知った人は、この街の歴史などについて調べるとより愛着を持ってこの万年筆を使えると思います。

手に入れた万年筆に地名が付いていたら、その土地や周辺の場所に興味の対象が広がるだろうし、毎日がより楽しくなります。

万年筆は書くためだけのものではないと常々思っています。

⇒アウロラ 限定品万年筆 Viaggio Segreto(ヴィアッジオセグレート) Volterra(ヴォルテッラ)

*次回の店主のペン語りは、12月9日(金)更新です

美しい文字を書くための三角研ぎ

先週末に、神戸ペンショーが行われました。

今年10回目となる神戸ペンショーは、毎年少しずつ規模が大きくなって、毎年1000人もの来場者数を記録するようになっています。

これも運営の方々の努力によるものだと思います。運営の方々はボランティアで神戸ペンショーの計画から実行まで、事故が起こらないように努力してくれています。だから私たちはお客様の応対、販売活動に専念することができて、お客様もペンショーを楽しむことができる。このペンショーに参加できていることをありがたく思っています。

規模が大きくなって注目されるようになった神戸ペンショーを運営することは、想定外の苦労や難しい問題もあると思いますが、頭の下がる想いです。本当にお疲れ様でした。

ペンショーのようにたくさんのお店が集まるイベントでは、当店らしさということについていつも考えることになります。

ペンショーのお客様の傾向を見て、そこに合わせた品揃えにしようとしていたけれど、それは本来当店が目指している姿とは少し違うと最近思い始めました。一度原点に戻る必要を感じています。

当店はペン先調整をして万年筆を販売する店で、お客様にもそれを望まれていると思うし、そうあるべきだと思いますので、今後は今までより打ち出して行きたいと思います。

最近時間があれば、辞書から気になった言葉をM6手帳に書き出して、その意味を書いています。

言葉は太めに、意味は小さめに。日本語らしく縦書きで書きます。

なぜそんなことを始めたかというと、言葉をもっと知りたいと思ったのと、知らない言葉の中に座右の銘を見つけられたら、面白いと思いました。

狂言師安東伸元先生が、会津弥一の書から「獨往(どくおう)」という言葉を私に教えてくれました。誰も行かない道を草をかき分けながらゆっくり進む印象がこの言葉にはあり、自分の目指す姿だと思いました。座右の銘にしていますが、他にもこのような座右の銘にできる言葉を見つけたい。

どうせ書くならできるだけ美しくトメハネハライを利かせて、筆文字のように書きたい。

そういう文字を書くのに、キレのある文字が書ける三角研ぎが合っているのではないかと思います。

私が三角研ぎと言っているものはものは、他の調整士さんがやっているものと少し違うかもしれません。

最初は教科書通りの形で始めたけれど、お客様の要望を聞いてやっているうちに少しずつ変わっていき仕上がった形です。この研ぎで美しい日本字が書きやすく、書き味もヌルヌルと気持ちよく書くことができます。

立てて書くと細字くらいにはなりますので、文字の太さを変えて使うこともできます。

小さなペンポイントの僅かな研ぎの違いで、文字がこんなに変わるのは不思議な気がしますが、例えばペン先にたてよこ差があまりないアウロラに三角研ぎをしてみると、キレのある文字が書けるようになります。

完売してしまいましたが、タレンタムデダーロには、セーラー長刀研ぎのような研ぎを施したカーシブニブというものがありました。そのカーシブニブより細い線も書けるイメージです。

三角研ぎはもともとの字幅が太いものから研ぎ出した方が細い線と太い線の差が出てこの研ぎらしさがでますので、太めのものをベースに作ります。そこで、まずはタレンタムデダーロに三角研ぎを施したものを作ってみました。

1本研ぎあげるのに結構時間がかかるのでたくさんは作れないけれど、常に何かの三角研ぎなど、特別な調整を施した万年筆が店にあるようにしたいと思っています。

日本に万年筆が入って来て、多くの人が使うようになった戦前から、万年筆の調整士たちは様々な研ぎを生み出しました。

私たちがやっていることも100年ほどの日本の万年筆の歴史の中で行われてきたことの繰り返しだけど、今求められていることなのだと思います。

⇒限定品 タレンタム デダーロブルー 三角研ぎ

パイロットカスタム〜一生ものの万年筆のご提案~

インクの魅力にハマってガラスペンやスチールペン先の万年筆を使っている人も、いずれ長く使うことができる金ペン先の万年筆に興味を持たれると思います。

若い人の中には、金ペン先の万年筆を買うなら一生ものの万年筆を選びたいという方もおられて、若い頃の自分とは違う堅実な考え方に頼もしく思ったりします。

一生ものとして考えると、飽きのこないデザインや色を選ぶということもありますが、修理のしやすさも条件の一つになると思います。例えば限定品などでは、アウロラ、モンテグラッパなどイタリアメーカーの一部に例外はありますが、ある程度年数が経つと部品がなくなり修理できなくなることがあります。

修理のことも考えると、一生ものには定番品から選ぶことをお勧めします。どんなモノでも長く使うとどこかが壊れることがありますが、修理すればまた使うことができる。私も10年以上使っている万年筆は、修理に出したことがあるものがほとんどです。

万年筆は高価なものなので、長く憧れて、資金を貯めて手に入れるということが普通だと思います。定番品だと、それを目指して貯金できます。

長く作り続けられている定番品は、多くの人が使い、その価値を

歴史が証明していると考えています。それは限定品にはない定番品の大きな価値だと思います。

今はこんなご時世なので、国産の生涯使うことができる万年筆に目を向けたい。

パイロットの定番カスタムシリーズも長く使うことができる万年筆です。カスタムシリーズの中で、カスタム742とカスタム743の違い、特長をお話しいたします。

カスタム742と743は同じボディなので、ペン先の違いということになります。*同じボディでも「キャップリングの刻印に黒塗りがされているかいないか」「キャップ上部、尻軸のリングが幅広かそうでないか」などのわずかな違いはあります。

カスタム742は少し大き目の10号のペン先で、ボディとのバランスが良く、穂先の長さも適度なので、寝かせて書くことを意識しなくても自然に書くことができます。厚みを感じる柔らかな書き味で、カスタム743より742の柔らかい書き味を好まれる方もおられます。

カスタム743にはさらに大きな15号ペン先がついています。

大きなペン先ですが、カスタム743の方がカスタム742よりも少し硬めの弾力があるので、長時間ハードに筆記する人にはカスタム743の方が安心感があるかもしれません。

弾力が強く粘りがあるということは、硬筆習字などで筆圧をかけて「トメ・ハネ・ハライ」を表現する書き方にも向いています。

カスタム742とカスタム743の違いは、単に価格やグレードではなく、用途や好みが違いますので、目的によって使い分ければいいということになります。

どちらも書き味の良いペンですが、私が一番優れていると思っているのは、基本的な構造の精密さです。

ペン先の密閉性が高く、インクを入れたままで放っておいても、純正カートリッジなら1年でもペン先が乾かないという話も聞くほどで、カスタムシリーズの基本構造の良さを表したエピソードだと思います。

「いつ書いても普通に書ける」ということも、安心して使うことができる大切な要件で、長く愛用することにおいてとても大切なことだと思います。

⇒パイロット カスタム742

⇒パイロット カスタム743

サドルプルアップの革製品

11月12日(土)13日(日)に神戸ペンショーが開催されます。

このペンショーは当店にとって一年最後のイベントで、出張販売の締めくくりになっています。当店の徒歩圏内でペンショーが開催されて、出店できるということは、とてもありがたいことだと思っています。

当店も神戸ペンショーを盛り上げる役に立ちたいと思っています。

ペンショーなどイベントにはどの店も限定品のようなネタを用意して来られて、それも楽しみの一つになっています。

イベントに合わせて新商品を作るのは難しいけれど、今回意識して作っていただいたのが、1本差しのレザーケースMサドルプルアップレザーです。

個人的に、タフなもの、丈夫で厚みのある革が好きで、もともと馬の鞍に使われるサドルプルアップレザーは、とても好きな革です。

当店ではサドルプルアップレザーの代表的なタンナー、ベルギーのマシュア社のものを使用しています。少し前にはル・ボナーさんにもサドルプルアップレザーでデブペンケースを作ってもらいましたし、オリジナル商品を作って下さっている職人さんにも、M6システム手帳やメモジョッターなどを作ってもらいました。

ギラギラした光沢と、しっとりとした手触りが魅力の濃厚な質感の革です。1枚仕立てのこのレザーケースにも張りのあるサドルプルアップはよく合っていると思っていて、良いものができたと思っています。

サドルプルアップは男性が好むものだと思っていましたので、最初革を決める時少し勇気が要りました。でも作ってみると、革好きの女性のお客様にも好まれるということが分かりました。

最近サドルプルアップレザーのもので使っていてこれはすごく良いものだと思っているのは、文庫本カバーです。

2センチ程の厚手の文庫本のためのカバーを作ろうと思い、両サイド固定式の専用カバーを作りましたが、革にハリがあるせいか薄めの文庫本を入れても収まりよく使えることが分かりました。

電車の中で本を読む人は少数派だけどおられます。

大切に思っている本を読むことをより楽しくするために、サドルプルアップレザーを使ってみていただきたいと思います。

私が今思っているのはこの文庫本カバーを手帳カバーにできないかということで、サイズの合うノートを探したいと思っています。

最近ズボンのベルトを買いました。服で隠れる部分なのでどうしても後回しになっていたし、不本意なものしか持っていませんでした。そこで思い切ってセレクトショップで見かけた気に入ったベルトを買うことにしました。

私の感覚からするとかなり高価なものでしたが、着けるのが嬉しくて、何か毎日が楽しい。買ってよかったと思いました。

 当店が企画・販売するものはどれも、繰り返しの日常を楽しくしてくれるものになって欲しい。サドルプルアップの革製品を使うことで、皆様の毎日がより楽しいものになってくれたらと思います。

⇒オリジナル レザーケースM・サドルプルアップ

新しく取り入れた風~2種類の正方形ノートカバー

手帳が好きで、いろんなサイズのものを使っています。毎日持ち歩いている鞄は、何冊もの手帳のおかげでかなり重くなっています。

10月に入ってかなり楽になりましたが、真夏は直射日光の下、第2神明を越える高丸大橋を渡ってバス停まで行くのが辛かった。

荷物を軽くしたいということもありますが、やはり仕事用の手帳はなるべく1冊にまとめた方がいいのではないかと思い始めています。

システム手帳も趣味や用途に分けて使えばいいのだろうけれど、あくまでもメインの綴じ手帳があっての話なのかもしれません。

また原点に立ち戻って、正方形のダイアリーの活用について考えていきたいと思っています。

いつも何か刺激を受けるので、休みの日には乙仲通りをぶらぶらと歩いて、目についたお店に入ります。お店の入れ替わりも激しいけれど古くからのお店もあって、新旧のお店が入り混じるエネルギーを感じる場所です。

創業して15年が経ち、当店に新しい風を取り入れたいと思った時、自然に足は乙仲通りに向いていました。

オリジナル正方形ダイアリーをもっと多くの人に使ってもらいたいと思って、正方形ダイアリー用のカバーを製作してくれるところを探していました。

当店から真っ直ぐ南におりた、乙仲通りにある帆布バックのお店clueto(クルート)さんに布製カバーをお願いしました。cluetoさんは女性向けのバッグを作られているお店で、ずっと以前から知っていました。

全くの畑違いの当店からの依頼に最初は驚かれていましたが、何度かお邪魔して試作をしていただくうちに形が仕上がっていきました。

cluetoさんのカジュアルなカバーは、今まで当店になかったテイストのもので、女性のお客様に使っていただけるものだと思っています。

色展開も6色あり、初回は受注製作となります。神戸ペンショーの終了する11/13(日)までの受注で年内のお渡しが可能です。

そしてもうひとつは、昨年から当店のオリジナルシステム手帳やジョッターを作ってくれている職人さんの革カバーです。

ミネルヴァリスシオという革を使ったベルト付きの本格的なカバーで、彼らしい端正なものができました。

ペンホルダーには、薄いマンスリーダイアリーを入れるならペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆も入り、厚いウィークリーダイアリーを入れるならファーバーカステルクラシックくらいの細めのペンが入ります。

しっかりした万年筆で手帳を書きたい人、革好きの方にも気に入ってもらえると思います。

ミネルヴァリスシオは今流行している革プエブロのベースとなっている革で、この革の表面を擦ってマットな質感にしたものがプエブロです。

ミネルヴァリスシオは滑らかな表面で、プエブロのような劇的な変化をして艶が出てきます。

私もそれなりに齢をとったけれど、15年経つといろんなものが形骸化してきます。ネットではなく足で探した実はすごく身近にいた方々の力を借りて、少しずつ姿を変えて立ち続けたいと思っています。

⇒clueto(クルート)正方形ノートカバー(受注製作予約受付中)

⇒正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・オルテンシア

⇒正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・ナポリ

正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・コニャック

小さなリングノート

ペンショーや出張販売、週末はお客様がおられるので、店にとってはもっとも華やかな時間です。でもそれ以外の時間は準備や蓄積の時間で、店の仕事は地味な仕事の積み重ねで成り立っています。どんな仕事よりも大切な仕事は掃除と片付けだし、年に数回の棚卸しも店を管理する上でやらなくてはならない地味な大仕事です。

店の在庫をチェックして、ネットショップとの誤差をチェックしたりということも日常的にしないといけません。そういった仕事の上に万年筆のペン先調整や販売活動が成り立っています。

毎日の地味な仕事の時に決まって書き込む小さなメモ帳があればとても便利で、役に立つと思います。

ダイアリーやシステム手帳のような立派なものはこの場合使いにくく、気にせずに何でも書き込んでおけるものがいい。そしてそうやって書き込んだものは後で見返して役に立つことがあるので、残しておけるノート形式のものがいい。

リングノートだと折り返して開きっぱなしにして作業することができるので、こういった用途にはより向いていると思います。

そんな小さなリングノートはいくらでもあるけれど、少し良いものを使いたい。

Kデザインワークスの革表紙ノートは、A5とA6サイズのリングノートで、表紙の素材が柔らかい革でできています。使い切ったら表紙はそのままで中身を入れ替えてくれるサービスもあります。

本当に日常的によく使うものなので、贅沢な感じもするけれどこれくらいこだわってもいいのではないかと思います。

書いた後、切り離せるメモ帳も時には便利です。

切り離したメモを手帳に挟んでおいて後で転記したり、人に伝言を渡したりする。こういうメモは間違いのないようにするためのものだからケチってはいけない。どんどん使って、どんどん切り離したい。

当店が以前から作り続けている、革表紙のメモというものがあります。

土台にはとても厚くて硬いサマーオイル革を、表紙には柔らかくてめくりやすいミネルヴァボックスの革を使用しています。適材適所の革を使ったメモ帳です。

革表紙のメモの紙は試筆紙と同じものを使っているので、実は万年筆でも使いやすい。

ミネルヴァボックスはエージングする革で、使い込むと劇的に艶が出ます。

革を切りっ放しただけの縫製のないシンプルなメモは、カンダミサコさんが作ってくれています。鞄職人で、10本用ペンケース「モルトペンネ」も作られているカンダミサコさんがこのメモ帳の革を切ってコバを磨いてくれていると思うと、もったいないような気もします。

先日この革表紙のメモがお客様との筆談でとても役に立ちました。革製の上質な感じが丁寧な気がしました。手話ができたらもっと良かったのだけど、筆談も楽しかった。

ダイアリーとかシステム手帳などは華やかな存在だけど、一番よく使うのは筆記具を気にせずに書けるこういうメモ帳なのかもしれません。

日常的に使うものに少し良いものをご提案したいと思います。

⇒Pen and message.革表紙のメモ

⇒MUCU革表紙リングノートSサイズ

⇒MUCU革表紙リングノートLサイズ

ドーフィン革レザーケース・Mサイズ登場

流行のものは仕入れたらすぐに売り上げになってくれるのでとても有難いですが、確保するのがとても難しい。無視はできないけれど、そういうものばかりを追いかけていたくない。

そういう流行のものは来年も需要があるかどうか分からないので、なるべく無いものとして営業できたらと思います。

でもやはり、売れた時に喜びを感じるのは自分たちで考えたオリジナル商品です。形にするまでには時間も労力もかかるけれど、これほど楽しいことはないと思います。

そういうオリジナル商品と、古くから販売されているメーカーの定番万年筆や筆記具と合わせて提案するのが当店の王道のパターンになっています。それは既存の定番品に改めて注目してもらえるように、15年間当店なりに試行錯誤して取り組んできたことでもあります。

当店オリジナルの1本差しペンケースで、レザーケースSというものがあります。細めで、ボールペンを入れるのにちょうどいいサイズです。

私はペンケースに収める時、ペンのクリップが広がらないよう、なるべくなら何も挟みたくない。上着のポケットなどに安心して挟むことができるペンは、クリップにつなぎ目がない無垢の素材で、スプリングが仕込まれているファーバーカステル伯爵コレクションくらいです。

伯爵コレクションのクリップの効果は絶大で、本当によくできていると思いますが、そういうボールペンばかりではありません。

愛用のボールペンをこのケースに入れて、クリップで挟まずにポケットに入れて持ち運びたい、それは美しい形がいい、と考えてまずレザーケースSを企画しました。Sは通常よりスリムなサイズ感のために敢えてSと最初から付けました。

そのレザーケースに、太軸の万年筆も入れることができるMサイズを作りました。

レザーケースMはモンブラン149がピッタリ入るサイズですが、底が閉じてある形状なのでモンブラン146、ペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆もしっかりホールドしてくれます。

ペンケースというより、ケースもペンの一部として考えて、ケースから取り出すところから書くための所作と考えています。

このケースには、張りがあって丈夫なドーフィンという革を使っていますが、この革の裏が適度に柔らかく毛足が長めなこともあって、ペンを適度にホールドしています。

最近は、使い込むと艶が出て変化していくタンニン鞣しの革が流行していますが、ドーフィンのようなクロム鞣しの革は傷がつきにくく、いつまでも美しく使うことができます。そして一番違う点は、クロム鞣しの革は銀を黒く変色させないところです。

ドーフィンという今まで文具系ではあまり使われなかった革を使ったというのも天邪鬼な当店らしいと思います。流行から外れるけれど、定番の革として、ドーフィンレザーのような素材も使っていきたい。

こういうものを発売することができるのも、私たちの考えに賛同してくれて、几帳面に、手間を惜しまず美しい仕事を心掛けてくれている職人さんの腕があるからで、心から有難いと思っています。

⇒Pen and message. レザーケースMドーフィンレザー

⇒Pen and message. レザーケースSドーフィンレザー

ラマシオンの時間を演出する時計

10月5日、6日は、狂言師安東伸元先生のお通夜、告別式でした。奥さまと一緒に当店で万年筆を買いに来て下さってからもう10数年、人生の師としてお世話になって来ました。

お通夜では奥様、お嬢様のご好意で、かなり早い時間から会場の大阪市北区の光明寺で、先生の謡が流れる中、先生の傍で皆さんと先生の思い出を語り合いながら時間を過ごしました。

前日までの気温が嘘のように涼しく、開け放たれた窓から気持ちいい風が入ってきました。お通夜が始まる前に黄色い陽の光が本堂の中に差し込んできました。

お通夜も葬儀も安東先生が生前に演出を決められていて、最期の場面まで舞台人として演じきった偉大な狂言師の最終幕を私たちは観たのでした。

私の腕にはラマシオンの時計があって、こういう時に意味もなく自分の時計を見たくなります。そしてこの場面と自分の時計の文字盤の景色を重ね合わせて、いつまでも大切な記憶としてこの時計で時間を確認するたびに思い出すのだと思います。

時計作家ラマシオンの吉村さんは寡作の人で、全てのパーツを削り出して作っているボルトアクションボールペンも本業の時計も、なかなか数多くは入荷しません。ボールペンはパーツひとつひとつをハンドメイドで作っているし、時計も全て1点もので、仕方がないけれどお店としては少し物足りない。

待望のラマシオンの時計が久々に入荷しました。

私は時計に凝る方ではないけれど、ラマシオンの時計を3年ほど前から着けています。

ラマシオン吉村さんの時計は吉村さんがグラフィックデザイナーだったということもあるのか、文字盤がデザイン的で1枚の絵を、風景画を腕につけているような感覚になります。

時間を確認するたびにその景色を見る。日常の中の普通の時間にも趣を与えてくれるような、自分の1秒1秒の時間を人生の1コマにしてくれるような感覚をこの時計に感じます。

私の時計は機械式で、1週間に1度1分くらいを修正する程度です。丸1日着けていなくても動くパワーリザーブを持っていますので、充分実用的なムーブメントだと思います。

ムーブメントはシチズンミヨタのもので、これは万年筆のシュミットのペン先と同じくらい時計の世界ではメジャーなものです。信頼性が高く、そう簡単に壊れるものではないし、もちろん修理も可能です。

クォーツ式はセイコーのものを使っているので、時間修正の必要もありません。

でもこれらの時計の価値はそのデザインにあり、派手すぎず、それを着けている人だけが密かに手に入れることができる文字盤の景色だと思います。

自分の人生の時間を自分で演出して生きていたいと、安東先生の生き方を垣間見て思うようになりました。ラマシオンの時計はそんな時間の小道具になるのではないかと思います。

*ラマシオン吉村さんの時計の製作風景動画

 オリジナル腕時計をハンドメイド。神戸の万年筆専門店” pen and message ”の腕時計です。 – YouTube

*ラマシオン時計 TOP