遊び心を感じさせる万年筆~ピナイダーフルメタルジャケット、アヴァターUR

万年筆メーカーの多くは、昔ながらの仕組みを変えて効率的にモノ作りをするようになり、一社で全てのパーツを作らなくなったと言われています。

例えばペン先はそれだけを作る専門のメーカーがあって、多くのメーカーが同じペン先を付けているということが起こっています。

同じペン先と言っても、ボディのバランスや調整の具合など様々なチューニングが異なるので、書き味が全く同じということではありません。

ペン先を専門の業者が作ることによって、メーカーは投資を少なく抑えることができます。そして万年筆の価格自体も抑えられるので、私たちにとっても悪いことではありません。それが今のモノ作りということになっています。

でも個人的には、万年筆はよく書けて値段が安ければいいというものではなく、何か遊び心を感じさせる存在であって欲しいと思います。

考えてみると多くの万年筆が100年前とほぼ同じ構造をしていて、そこから抜け出せずにいます。伝統を守ることも、私たちが求めていることではあるけれど、そうでないものもあって欲しい。

ペリカンやモンブランや国産の万年筆とは違う、少し変わった万年筆が欲しいという人にお勧めしたいのが、ピナイダーの万年筆です。

ピナイダーは、1774年創業のイタリアフィレンツェの老舗高級ステーショナリーショップが起こりで、そのお店自体フィレンツェという世界の観光地に存在し、多くの著名人がその顧客名簿に名を連ねた輝かしい歴史を持つメーカーです。

しかし、その万年筆は今万年筆に求められているものを具現化した、現代的な万年筆の姿をしています。

一番特長的なのはペン先です。

今の万年筆のトレンドは、筆圧をかけるとフレックスして文字の太さを変えられるペン先で、それは万年筆でカリグラフィのような文字を書きたいという需要から出ています。

ピナイダーのペン先は硬めの14金でありながら、その独特な形状によって筆圧の変化に反応して、フレックスさせて書くことができます。

もともとが薄く柔らかいペン先だと、筆圧をかけた時に線が割れてしまったり、ペン先が開いて戻らなくなってしまいますが、このペン先はちゃんと戻ってくる弾力も持ち合わせています。筆圧を抜いて書くと、普通のペン先のように書けるので、奥深い楽しみのあるペンだと思います。

キャップはマグネット式なので、開け閉めが素早くできてとても便利です。私もそうですが、万年筆を使う人の中には、キャップの開け閉めの早さを気にする人が意外と多いので、ポイントの高い機能です。

そんなピナイダーの定番ラインが今年から代替わりしました。その中の「フルメタルジャケット」と「アヴァターUR」の14金ペン先仕様のものを、当店で扱っています。

フルメタルジャケットは吸入式で、その吸入機構にはちょっとした仕掛けがあります。

尻軸部の小さなダイヤルを回して吸入ピストンを作動させるのですが、回しやすくするために専用のツールが付属しています。そのツールをダイヤル部に被せて回すと、楽に吸入できるようになっています。

フルメタルジャケットは前作のラ・グランデ・ベレッツア同様太軸で、男性の方に好まれそうなものになっていますが、アヴァターURは軸径を細めにして、手の小さな方や女性の方をターゲットにしています。

ボディ素材に美しいマーブル模様のウルトラレジンを使い、華やかな仕上がりです。他にも細くて繊細な模様を彫刻したクリップ、フィレンツェの街並みを表現したキャップリングなど、見所の多い万年筆になっています。

これだけ見るべきところの多い、趣向を凝らした万年筆であるピナイダーは、気持ち良く書くだけではない多くの楽しみを持った万年筆なのです。

⇒ピナイダーTOPへ

~オリーブグリーンの小物~サファリファースト発売

今まで特定の色が好きだったことはなく、色に対してこだわりを持ったこともありませんでした。

でも数年前からオリーブグリーン、いわゆる深緑色に惹かれるようになって、服は買わないまでも、ちょっとした小物などにオリーブグリーンを選ぶようになりました。

好きな色があるというのは楽しいものです。

ショーウインドーを眺めていても、そこにあるモノがオリーブグリーンというだけで欲しくなるので、お店を見て歩くのが以前より楽しくなりました。

丈夫な布製の鞄を作る、アメリカのフィルソンというメーカーがあります。

アラスカのゴールドラッシュに向かう人たちのための衣類、靴などの装備を販売していたカナダのお店が発祥のアウトドア用品メーカーです。

カチコチの厚い布と厚い革製の丈夫なハンドルのついたアウトドアのイメージの鞄ですが、荷物をたくさん入れることができるし、普段の自分の服装にも違和感がないと思って、店の行き帰りに使っていました。

アメリカ製のものが好きで使い出したけれど、このフィルソンの鞄のオリーブグリーンが、私がこの色を好きになったきっかけだと思います。

毎年の恒例となっているラミーサファリの限定色がファーストモデルの色を復刻して発売されると聞いて、自分の唯一好きだと言える色なのでぜひ欲しいと思いました。

サファリは1980年に、その名前から連想できるように「アウトドアでの筆記具」というイメージで、グリーンとテラコッタを発売しました。

当時はそのコンセプトが受け容れられなかったのか、あまりにもそのデザインが斬新過ぎたのか、大して売れなかったそうです。

その後、ブラックとホワイトや複合筆記具などがモデルに追加されましたが、サファリが爆発的に売れるようになるのは、2000年頃まで待たなければいけなかったと記憶しています。

私も使っていましたが、マニアの間では静かに広まっていた、当時はモールスキンと呼ばれていたモレスキンのノートが一般的に売れるようになった頃とほぼ同時期で、こだわったノートに書く筆記具として、手軽に買える万年筆としてサファリが注目されたのだと思います。

でもその時には、既にグリーンもテラコッタも世の中からなくなっていました。

今ではアウトドアの雰囲気を持ったモノをインドアで使うことに違和感を持つことはないので、初代サファリはあまりにも早すぎた、時代を先取りし過ぎたペンだったと言えるけれど、ラミーという会社自体、そんなところのあるメーカーだと思います。

今回のサファリファーストは、万年筆とボールペンを初代サファリの復刻ボックスにセットしたものを中心に仕入れました。

私と同じようにオリーブグリーンに惹かれる人も多いと思いますし、初代のものよりも少しキレイめに微妙に色変更されているテラレッドも魅力があり、ぜひセットで手に入れて欲しいと思います。

⇒LAMY サファリファースト(LAMY TOPへ)

アウロラの最初の100年を記念する万年筆 チェント・アニベルサリオ レジーナ

久し振りに再度山の展望台から神戸の街を見下ろしてみました。

散歩で登ってくる人も多いその山は、三宮、元町の街並みがはっきりと見えるくらいの近さにあります。日本の都市でこんな間近に山から見下ろせる街は少ないのではないだろうか。

神戸で仕事をしてきた私は、こんな小さな街の狭い範囲で右往左往してきたのだと思うと、自分の存在の小ささを思わずにはいられません。

インターネット上にペンにまつわることを書いて、それを仕事の一部にするようになって、20年ほどになります。

万年筆やステーショナリー、そして「書くこと」。自分が唯一できることを仕事にして生きていられることは、本当に幸運なのだと思います。

私はこれしかできないから、これからも自分が良いと思ったもののことを書いて、皆さんにも楽しんでもらおうと思います。それが多くの人の心に届けばいいけれど。

自分の楽しみを届ける方法は時代とともに変化していて、文章を読んでもらうという私の方法は古くなりつつあるような気がします。でも自分の扱っているものはペンなので、まず自分が書いていなければ説得力がありません。私自身が書く者だから、私の言葉を聞いてくれるお客様もおられるのだろうと思っています。

原稿を書く時、私はまずノートに下書きします。

考えながらパソコンに直打ちする人もいるし、その方が早く書けるという人もいるけれど、私にはできない。

ゆっくりああでもない、こうでもないと無駄な下書きを何ページも書いて、その中から抜き出したものをパソコンに打ち込みながら推敲しています。

ノートに書くということは、電車の中でも公園のベンチでもすることができて、場所や時間を決めずに書くことができるというのも、私に合っていた。

当時は万年筆をペリカンとアウロラの2本しか持っていなかったけれど、こういう原稿を書き始めたばかりのとき、アウロラオプティマをよく使っていました。

アウロラの万年筆はどれもそうですが、オプティマはキャップを閉めると短くなって、Yシャツのポケットでも差しやすくなります。書く時は持ちやすい長さになり、太さも充分にあって、意外に思われるかもしれませんが、実用的で、非常に使いやすいサイズの万年筆です。

硬めのペン先も様々なシチュエーションで書くのに適していて、いつどこで書いても同じように書けました。

私の印象では、日本の万年筆の方が繊細な印象を受けます。同じ条件で書かないとその時々で書き味が違うように感じられます。

その代わり条件が合えば、極上の書き味を味わわせてくれるものもあるのが日本の万年筆だと思っています。

いつ書いても同じように書けるアウロラのそんなタフさも気に入っていて、当時それほど知名度の高くなかったこのイタリアの万年筆メーカーの良さをたくさんの人に知ってもらいたいと思いました。

その時アウロラは、80周年を迎えていました。細かい模様を彫刻した総シルバーの80周年万年筆を発売していて、数年後にアウロラの名を有名にした85周年レッドを発売することになります。そして20年後の一昨年アウロラは100周年記念万年筆チェント・アニベルサリオ・レジーナを発表し、昨年発売しました。

スターリングシルバーにギロシェ模様を彫刻して、エナメル塗装を施して滑らかに仕上げたボディや細部の繊細な細工。

80周年万年筆の力強さも85周年万年筆の華やかさも兼ね備えて、気品さえも漂わせている。アウロラの魅力を出し尽くした、できることは全てやったと思える完璧な万年筆です。

⇒AURORA チェント・アニベルサリオ・レジーナ

当店らしい万年筆とステーショナリーの提案~ファーバーカステルクラシックコレクション~

ファーバーカステルは今年創業260年を迎えました。

万年筆をルーツとする高級筆記具メーカーの歴史は長くても百数十年ですが、ファーバーカステルは鉛筆製造業が起こりなので、長い歴史を持っています。

会社が長い歴史を重ねるには同じことをやり続けていてはいけない。それぞれの時代のニーズを捉えながら、オリジナリティのあるものを世界に示していく必要があります。

ファーバーカステルの伯爵コレクションクラシックは、伝統を踏まえながらも革新的なシリーズで、貴族たちの粋なアクセサリーだった豪華な鉛筆ホルダーをベースにデザインされた、筆記具の偉大な発明だと思っています。

書くための黄金バランスを持った万年筆はたくさんあり、それらの多くは似たデザインになってしまいますが、このデザインは違っています。

多くのメーカーがひしめく「書くための筆記具」というところで勝負せず、独自の筆記具のあり方を示したと思います。元々のルーツが違うということもあるのかもしれないけれど、会社としての戦略だったと思っていて、大いに学ぶべきところだと思います。

上手くクラシックさを表現したデザインだけど、ノスタルジーのような緩さは感じられず、現代に生きる筆記具という趣がファーバーカステルにはあり、惹かれていました。

スプリングを仕込んだ可動域が大きく、丈夫なクリップ。半回転で開き、スピーディーに書き始めることができるキャップネジなどの機能的な装備もちゃんと備わっています。

他のメーカーの場合はたいてい万年筆だけで満足するけれど、ファーバーカステルクラシックコレクションは万年筆とボールペン、ボールペンとシャープペンシルなど、セットで持ちたくなります。

ファーバーカステルクラシックをセットで持つのに最も合っていると思っているものがカンダミサコさんの2本差しペンシースです。

最近、自然な風合いをそのまま残した革クードゥーで2本差しペンシースを作ってもらっていますが、これとクラシックのサイズと素材感がよく合っています。

ピタリと入るだけでなく、速やかにペンを出し入れすることができるペンシースになので、仕事の場面など相手を待たせたくない時にも使えて、機能的でもあります。

ファーバーカステルクラシックの木軸は、楽器を製作した時に出る端材を利用しています。もちろん端材と言っても高級素材で、本来なら捨てられてしまうものを、そのセンスと技術で一級品に仕立てています。

いくらお金を積んだからといって、限られた地球の資源を貪り尽くしていいはずはない。私たちは地球を同じ状態、あるいはもっと良くして子供たちの世代に引き継がなければいけない。自分たちの楽しみで使う趣味の道具だからこそ、そういう配慮は大切だと思う。

そういったことも含めて、ファーバーカステルクラシックコレクションは長く愛用したい筆記具だと思い、カンダさんの2本差しペンシースに入れて、私も毎日使い続けています。

10年以上使った私のファーバーカステルは、ペン先も柔らかくこなれてきて、思い通りにインクの出る、書いていて楽しい万年筆になっています。

デザインが良くていつも持っていたいペンと、それを組み合わせて使うことでそのペンがもっと使いやすく、モノとしての魅力をさらに高めてくれるステーショナリーを提案することが当店の価値だと思っています。

ペンを販売するだけでなく、作り手や自分たちの販売者のメッセージも伝えたいというのが、当店の名前の由来ですが、それに相応しい仕事をこれからもしていきたいと思っています。

⇒ファーバーカステルTOP

立場に合った手帳の使い方~オリジナル正方形ダイアリー~

手帳という存在が好きで、いろいろなものを使ってみたいという好奇心が常にあります。だけど毎日使っているダイアリーを違うものに変えて、現状上手く回っているサイクルが狂ってしまうのが怖い。

私の場合、正方形ダイアリーで毎日の仕事のことは完全に網羅できていて、ここに書いておけばミスすることがないという仕組みが出来上がっているからです。

今年から表紙のデザインを変えたこともあって、透明カバーをして使っていますが、今はさらに好きな地図柄の紙を足したりして、自分仕様にして楽しんでいます。(当店では正方形ダイアリー用の透明カバーもご用意しています)

新たに採用した中紙も、万年筆のインクがにじまず、裏抜けせず、気持ち良く書けるので、書くことが楽しい。さらに個人的に、このダイアリーに押すためのスタンプも別注しました。

でもふと思います。

今の自分の手帳の使い方は、一人の人間の仕事としての手帳の使い方、一担当者としての手帳の使い方から抜け出せていないのではないか。

店主という私の立場としてはもっと空間的にも、時間的にも視野の広い手帳の使い方をしなければいけないとも思います。

いつまでも最前線で、自分が納得できる仕事をしたいと思ったから自分の店を始めた。

しかし、様々な状況が変わってきていて、今の自分の立場はそんな自己満足ではいけないということも感じています。

この言い方が今の世に合っているのかどうか分からないけれど、天下を取る人は広い視野を持っていて、自分を柔らかく保って、自分と考えの違う人も包み込むことができる。

スケールの大きな人と話をすると一番の違いはそこだとはっきりと分かります。

でも自分は、自分の信念を曲げずに突っ張ることしかできない。それが手帳の使い方に表れている。もっと違う手帳の使い方を私はしないといけないのだと思います。

私はその使い方で、自分の度量の狭さに直面していて、こう申し上げるのも何ですが、今年使い始めたダイアリーが今一つだと思っておられる方は、正方形のダイアリーをぜひ試して欲しいと思います。

このダイアリーの紙面をご自分の仕事や生活サイクルに当てはめてみて、ご自分の立場に合った使いこなしについて、考えて工夫してみて欲しいと思います。

私も今の自分の立場に合ったこのダイアリーの使い方を考え出したい。

正方形オリジナルダイアリーは、柔軟に、いろんな使い方を受け止めてくれる、度量の大きなダイアリーだと思っています。

*Pen and message.オリジナル商品TOP

モンブラン149の調整

昨年末にモンブラン149を買いました。

以前このペン語りで、10数年前にお客様のNさんと「目標を達成したら149を買おう」と約束していたけれど、結局二人とも目標を達成するために149を買ったという話をしました。

私はその149には一切ペン先を調整せず、書くことで馴らしていこうと思いました。

自分が持っているアウロラオプティマやペリカンM800は、使い続けて3年くらい経ったある日、突然劇的に書きやすくなりました。モンブラン149でそれをまた経験したい。そこで自分の理想とする書き味や状態ではなかったけれど、そのまま使っていました。

でもそれから2か月ほど経って、急にストレスを感じ始めました。

149はやはり潤沢にスルスルとインクが出て欲しいし、Mなので紙に筆記面が点ではなく、面でピタリと当たってほしい。

それは私の万年筆の好みというか、149に求めるイメージで、それが強すぎて育てる時間が待てなくなってしまったのでした。

去年辺りから、毎日ペン先調整に追われています。

それは万年筆店のあるべき姿で、とても有難いことです。店舗で接客もしながら進めていますので、最初は2週間だったのが徐々に長くなって今は1か月程期間を頂戴しています。

少しでも早くお客様の万年筆をお返ししなければと思うと、自分の万年筆を調整する心の余裕はありませんでした。だけどペン先調整士の万年筆が書きにくいのでは、その仕事が疑われるかもしれないとふと思いました。

調整しているとよく分かりますが、149のペン先の70年代のものは、柔らかいけれど粘っこい感じがあって、筆圧の強弱で文字の太さを変えて書きたい人に向いています。そして80年代~90年代にかけては、ペン先は徐々に硬くなっていきます。

現在の149のペン先は50年代のように薄くはないけれど、柔らかい方だと思います。ペン先が柔らかめなので、インク出はあまり極端に少なくできませんが、ある程度のコントロールはできます。

ペン先調整を始めて20年ほどになり、店を始めて日々ペン先調整をしていますので、昔よりもペン先に多くのものが見えるようになったと思います。ペン先調整は特に力や反射神経の要るものではなく、そこにある色々なことに気付けるかどうかだと思うので、意識を持って続ける限り上達し続けることができると思っています。

自分が気付いたことは共有していきたいと思っていますが、人生の色々なことと同じように言葉では伝わりにくく、経験しないと分からないかもしれません。

そして149を自分の理想通りに仕上げて使い始めると、アイデアをざっと書いたりするラフな使い方をするの万年筆になっています。そんな風に使うなら<B>でもよかったかもしれない。とにかく格段に書くのが楽しくなりました。

以前は仕事で手書きをする機会、万年筆で書く機会もまだあったし、個人的にもノートにとりとめなく色々なことを書いていました。だけど、私のような仕事をしていても書く量は格段に少なくなってしまった。

その使用量ではわずかな引っ掛かりなら取れるけれど、理想の状態にまで仕上げるのは幻想になってしまったかもしれないと思っています。

⇒モンブラン マイスターシュテュック149

パーカー51~金ペンへのこだわり~

51歳になる記念にパーカー51を買うというお客様がおられて、面白いと思いました。

私は今年53になるので53のつく万年筆があればと思いますが、今のところそんな万年筆はないようです。数字のついた万年筆で、今後私が買えるとすれば、米寿でアウロラ88くらいになってしまいました。

パーカーが自社が40年代から70年代の長きに渡って作った万年筆 51を復刻したのには、昨今の万年筆への反発のようなものを感じます。

最近の万年筆の価格は高くなりすぎました。

その結果、豪華で充実した軸に、価格を抑えるためのスチールペン先が付いているというものが多く発売されてきました。抑えたと言ってもスチールペン先にしては高額に思えるものが多かった。

個人的な感覚ですが、万年筆のペン先は金であって欲しい。お金をかけるのならペン先にお金をかけて、軸や箱はシンプルにして価格を抑えて欲しい。古くからの万年筆愛好家である私たちの世代の人はそんな風に思っていて、ペン先以外が豪華な万年筆を何となく受け入れがたく思っていました。

老舗万年筆メーカーであるパーカーはその空気を察知して、私たちのような万年筆愛好家は、パーカー51のような万年筆を求めていると考えたのではないだろうか。

昨年パーカーの兄弟会社でもあるウォーターマンが、名品エキスパートの18金ペン先仕様を3万円代という価格で発売したのにも、そんな意図があったのかもしれません。

実際、ボディはシンプルで、オーソドックスなデザインで、金のペン先を備えた日本の書き味の良い万年筆が海外でも高く評価されていて、人気があるそうです。

3万円台という、ある程度の年代の人にとって比較的手頃な価格の万年筆でお勧めできるものは、パイロットカスタム743、プラチナブライヤー、セーラープロギアの限定品など、国産万年筆だけになってしまっていましたので、パーカー51やウォーターマンエキスパートの存在は、店にとっても販売の幅が出て大歓迎でした。

人気の万年筆は、装飾があって趣味心をくすぐったり、ファッションの一部になるようなものが多いけれど、違うものがあってもいい。

万年筆が今のパソコンのように仕事の中心だった時代の万年筆、パーカー51は実用本位のシンプルなデザインで、その装飾のなさが今新鮮に見えます。

ペン先の大部分を覆った首軸は、クラシックな印象で、デザイン的に大きな特徴になっていますが、ペン先を保護したり、乾きにくくすることにも貢献していて、実用的な意味もあります。

万年筆が趣味・楽しみの道具である現代、こういう万年筆もあるべきだと思いますし、今まで万年筆の価格を吊り上げ続けてきたメーカーは、きっと厳しい時代になる。

やっと求められていたものを世に出したのだと、パーカー51の発売で思いました。

⇒パーカー51(パーカーTOPへ)

ル・ボナー絞りペンケースとペントランク(仮名)

私はル・ボナーさんのペンケースや鞄によって、良い革というものを知りました。

それまで革の良し悪しというのを知らず、革であれば使ううちにいい味が出てくると思っていました。でも実際はただボロボロになってしまう革もあった。

でも13、4年前、万年筆の魅力にハマったル・ボナーの松本さんが作り出した「絞りペンケース」で、ブッテーロ革と出会いました。

ブッテーロ革は、ちゃんと手入れして使い込むと美しい艶が出てきます。それを実感してからは、そればかりを使うようになりました。

手入れと言っても大したことではなく、傷がついたらブラシをかけるとか、たまに乾いた布で軽く磨くだけですが、これだけで革は輝きを取り戻してくれます。

革靴と同じように、むやみにオイルを塗ると革がベタベタして、かえって汚れが付きやすくなってしまいます。そして元々革に含まれている油分と混ざって、固まってしまう。革をダメにするのは大抵ホコリで、それをきれいに払うブラシ掛けが革の手入れとして最も有効ということを知りました。

ブッテーロの絞りのペンケースも、そんなふうにやり過ぎずに手入れをするときれいな艶が出てくるし、深い傷がついてしまった場合でも、硬く絞った布で水拭きするとたいていのものは目立たなくなります。

13年以上作り続けてもう定番になっていますが、このペンケースの構造を松本さんは短期間でよく作り上げられたと思います。

ペンを入れる室の部分は、型を当てて圧力をかける絞り技法で成形されています。ブッテーロの革を2枚重ねて絞ってあるので、室の部分はかなり硬く頑丈です。

ブッテーロを2枚重ねて絞るには特別な機械が必要で、それを持っている職人さんはあまりいませんでした。この13年でその数少ない職人さんが高齢で引退されたため、松本さんが苦心してその技術を実用化されました。その方法を下請けの職人さんに伝えて、今に至っています。

1本差しの絞りのペンケースにストレスなく出し入れできるのは、ペリカンM800やモンブラン146のようなレギュラーサイズの万年筆です。

オーバーサイズの万年筆でも、ペリカンM1000は出っ張りがなく、比較的細目なのでクリップを斜め後ろに回せば入れることができます。モンブラン149になるとリングが太いため入りません。

149で言うと、3本差しの両サイドの室には入れることができます。中央は少しタイトなので、ペリカンM800などのレギュラーサイズがぴったりです。

現在、松本さんは万年筆が10本入る「万年筆のトランク」を企画されていて、先日試作品を見せていただきながら打ち合わせをしました。

芯となる木の枠から作成し、全ての縫製を松本さんが手縫いで仕上げるという今までになかった企画です。

この仕事への取り組みを見ていて、絞りのペンケースを商品化した時のように、松本さんの情熱に火がついたことが分かりました。

皆さんがそれぞれ大切に思っている万年筆だからこそ、大切に使いたいと思う革のケースに入れて持ち運んで欲しい。万年筆を愛してやまない鞄職人の松本さんらしいモノがまた生まれようとしています。

ペントランク(仮名)は6月頃発売の予定です。

業界を華やかにしてくれた「趣味の文具箱」

私たちの仕事は、万年筆やステーショナリーの楽しさを伝えることです。

これまでそれぞれのお店やこの業界に携わる人たちがその努力を続けてきたので、ステーショナリーは私がこの世界に足を踏み入れた時と比べものにならないほど華やかで、多くの人に注目してもらえるものになりました。

その中で、日本で唯一のステーショナリー専門誌「趣味の文具箱」が果たした役割は非常に大きく、この雑誌がなかったら、この業界もどうなっていたか分からないと思っています。

「趣味の文具箱」は、年4回発行されている、万年筆などの筆記具やステーショナリーの専門誌で、新製品情報やお店の紹介、マニアックな使いこなしなど、万年筆やステーショナリーを深く掘り下げた本です。

万年筆やステーショナリーがまだごく一部の人の楽しみだった2005年に突然現れ、ステーショナリーが趣味になり得るということを示して、私たち文具業界にいる者は勇気をもらい、励まされました。

私はこの店を始める直前の2007年のvol.8から執筆陣に加えていただき、細々と記事を書かせていただいてきました。

書いた文章は拙かったと思いますが、万年筆の楽しさを伝えるということを自分なりに考えて毎回書いてきました。お客様に接する第一線である店の人間が書いた記事は、ステーショナリーの現状を伝えるものになればと思っていました。

生まれたばかりの小さな店にとって、日本で唯一の専門誌に店名を載せていただいた効果は大きく、趣味の文具箱を見てご来店して下さる方も多く、本当に有難かった。おかげで当店は今こうして存在できています。

最新刊vol.56では、清水編集長と井浦さんが店に取材に来て下さり、「飛んで行きたい文具店」で紹介していただきました。

取材が一通り終わった後、さまざまなリフィルを使うことができる台湾のアントウのペンの話で大いに盛り上がりました。清水編集長と当店3人が使っているので、使えるリフィルの情報や工夫など、子供の頃のゲームの裏技のように全員が目を輝かせて話していたのが面白かった。この話に井浦さんは入れなくて、持っていないことを悔やんでいたけれど。

2月9日に、趣味の文具箱など趣味系の雑誌を多く発行していた枻(エイ)出版社が事業に行き詰まり、民事再生法の手続きをとりました。

お客様方の情報入手の手段や価値観の変化により、出版業界は苦しんでいたのかもしれませんが、趣味の文具箱は他にない唯一無二の存在で、それがなくなるはずがない。

競争のない領域を見出して、存在し続けている趣味の文具箱と当店を私は勝手に重ねて見ていました。その情報を知ってから、趣味の文具箱や清水編集長、井浦さんを失うかもしれないという悲しみのような感情で沈んでいました。

ほどなく連絡があって、受け企業が現れて、趣味の文具箱の継続が決定したそうです。

ひとまずこの業界にとって大切な存在を失わずに済んだ。

時代の流れは逆の方向に向かっているのかもしれないけれど、それと闘える力と存在し続けることができる輝きが、趣味の文具箱にはあると思っています。

今回のことで、大切にしないと失うかもしれないという時代の厳しさを思い知りました。何ひとつ欠けてはいけない。協力し合って、ステーショナリーを盛り上げていかなければいけないと、改めて心に強く思いました。

カンダミサコ~様々な革で作ったペンシース~

カンダミサコさんの商品を当店が扱い始めて11年になります。

ル・ボナーの松本さんに連れられてカンダミサコさんがお店に来られた時、ご紹介いただいたペンシースの取り扱いを即決しました。

松本さんの太鼓判もあったけれど、それまで万年筆を収めるケースというのは重厚なものばかりで、肩の力が抜けていてカジュアルなカンダミサコさんのペンシースがとても新しく思えました。

当時神戸市灘区にある一軒家を借りて工房としていたカンダさんは、修行していた鞄工房から独立したばかりで、まだあまり知られていませんでした。

でもそれから仕事が軌道に乗って、元町に引っ越しをされて工房兼自宅を構えられています。

当店も始めたばかりでしたが、お互いに10年以上仕事を続けてくることができました。

当店で扱っているシステム手帳や他の革製品の多くをカンダミサコさんが作ってくれていて、他のお店にないオリジナリティを手に入れることができています。

当店の雰囲気、目指すものとカンダミサコさんのモノ作りの相性が良かったから今のような関係ができたと思っているし、人間的にも共感できるので、話していて楽しく、何でも言い合えるから長く関係を保ってくることができたのかもしれません。

3年前から、その年限定の革を選んで、期間限定品として様々なものを作るということをしています。今年も企画していますが、昨年の神戸ペンショーではそれとは別に、様々な革を使って1本差しペンシースを作るという実験をしてみました。

お客様の反応も良く、自分たちも面白いと思いましたので、人気があったクードゥーとゴートヌバック、それに追加してダイアリーカバーで使ったミラージュ革で作っていただきました。

クードゥーは、きれいと汚いの間と言えるくらい傷やシミの多い野性味溢れる革で、個体差が激しい革ですが、今はこういう革が求められているのだと実感しています。

ただきれいなものではなく、こういう革を求める人が多いというのは、ステーショナリーがより高い次元のものになってきていることを表していると思っています。

ゴートヌバックは、アパレル系のメーカーが使ってもおかしくないような洗練された美しい革です。当店も一昨年、このゴートヌバックを限定革として使いましたが、何を作ってもサマになる革だと思いました。

ミラージュは、曲げると色が変わるプルアップレザーで、これは完全に私の好みで選んでいます。

トラやムラもありますが、濃い茶色の色合い、ねっとりとした手触り、濃く深いような光沢が何とも言えず好きなので選びました。この革でもいろんなものを作りたいと個人的には思っています。

定番のシュランケンカーフも、色数がたくさんあってタフで使いやすく、好みの色を見つける楽しみがあります。個性的な革の限定仕様ペンシースも、どんなペンと合わせるか、考えるのを楽しんで欲しいと思います。

ペンシースも10年以上販売してきて、万年筆の世界でも定番的な存在になってきたと感じます。それほどたくさんの方に使っていただいていると思う。

ペンはなるべく何かで保護しておきたい。ペンシースは、常にこの中にペンを入れておいて、使う時だけ取り出す、ペンの洋服のような存在になったと思っています。

⇒カンダミサコ1本差しペンシース 「クゥードゥー」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ゴートヌバック」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ミラージュ」

⇒ペンケースTOP