書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

私が文具店に就職したのが1992年で、モンブランヘミングウェイが発売された年でした。

それから万年筆の業界は限定品ブームに入っていき、イタリア万年筆の隆盛、1999年のミレニアム企画の盛り上がりなどがあって、いい時代でした。

私もその間は20代~50代で、その齢でそんな時代に居合わせることができたことはとても恵まれたことだったと思います。

古いカタログでその時発売されていたペンを見ると、その時々の記憶が蘇ったり、その時代の雰囲気を思い出したりして、懐かしい気持ちになります。

ペリカンもこの27年間は、特別なものだと思ったのかもしれません。

その黄金時代に発売した限定品、特別生産品を記録した本が発売されました。

27年間でこれだけ多くの限定品を発売していたのだと改めて驚きました。当時、ペリカンの限定品は他のメーカーのものに比べると控えめというか、大人しいものが多い印象でした。でもそこにはペリカンの型を崩さないという安心感があり、揃えたい気持ちにさせるのかもしれません。

ペリカンの限定品発売のペースは今も衰えていなくて、これからも様々な限定品が発売されるのだと思います。

この仕事を始めた頃、数多くのペンに囲まれていたにも関わらず、それらを手に入れたいという欲求はあまり湧きませんでした。

万年筆の仕事は楽しかったけれど、万年筆はあくまで仕事で扱っているものという認識で、自分が買うものではなくお客様に買っていただくものだと思っていました。当時私はペリカンM800とアウロラオプティマの2本を持っていて、それで充分だと思い込んでいたのです。

きっと生活に余裕がなくて、次々といろんなペンを買うことができなかったから、欲しいという気持ちにフタをしていたのかもしれません。

2000年には様々なすごいペンが発売されましたが、ペリカンの限定品1931ホワイトゴールドには心が激しく動かされました。

でも入荷数がとても少なかったし、買えるお金が工面できるあてもありませんでした。諦めるしかなかったけれど、ずっと忘れられませんでした。

それから8年後、この店を始めてしばらくたった頃に、仕入先から回って来た閉店した万年筆売場の在庫リストに1931ホワイトゴールドを見つけた時は、運命だと思いました。

1931ホワイトゴールドが店に来て、一週間ほど悩みました。

店をする人間の鉄則として、自分が一番欲しいと思うモノから売るということを信じているので、これを買ってはいけないのではないかと思いました。

お客様の何人かに声を掛けましたが、皆さん遠慮したのか買う人はいなかったので、結局私が買えることになりました。

今までの自分の人生の中の後悔にひとつだけリベンジできた気がしましたが、このペンを手に入れたことによって、私にとってペンは仕事で扱うだけのものではなく、ロマンを見いだせるものになっていました。

この本を見ていると、若い頃感じようとしなかったロマンを感じて、買っておけばよかったと思うものがいくつも出てくるかもしれないと思います。

過去の限定品を見て、私と同じ時代に生きた万年筆好きな人は、私と同じように、若い頃の気持ちや時代の雰囲気を懐かしく思い出すのだろうと思います。

⇒書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」