2020年のペン・ANTOUマルチアダプタブルペン

何か仕事をする時に、その目的を見誤ると上手くいかないということを経験してきました。

商品を企画する時は、お客様の喜ぶ顔をイメージできないと失敗します。

このペンはその仕様やデザインなど目に見えるところよりも、こんなふうにお客様に楽しんでもらいたいというイメージから生まれたのではないかとさえ思えます。それほど優れた企画だと思うし、ペンの業界に風穴を空けた痛快な存在だと思っています。

個人的な話になりますが、今年の、特に前半は休みの日でもあまりどこかに出掛けることをしていませんでした。

半日も家にいるとウズウズして、出掛けずにはおれない私でも、比較的家にいることができたのはANTOU(アントウ)のペンという遊び道具があったからだと思います。

ANTOUというのは、台湾中部 台中近郊にある金属加工業の中小の工場の集まる地区の地名です。

その地元の名前をブランド名にしたシリーズの代表的なペンが、様々な替芯を使うことができるマルチアダプタブルペンです。

私は地名が好きで、その地名が名前になっていることにも想像力が掻き立てられ、その製品を冷静に見ることができなくなってしまいます。地元の路線バスの行き先表示の地名をみているだけでも全然飽きないのは、少々度を越してているのかもしれないけれど。

話をANTOUに戻すと、マルチアダプタブルペンは替芯を先端でつかんでいるため、芯の長さや形に捉われずに使うことができます。その機構には他にも良いことがあって、芯のガタつきがありません。

ボールペンに純正でない芯を入れると、芯の先端部とボールペンの口径に部分に少し遊びが出来て、書く度にカタカタ細かく揺れて気になることがあります。

これが起こらないということは、書くことに集中したいと思う人にとってかなり重要なことです。

このボールペンを手に入れてから、何の芯を入れて使うか、文房具店の筆記具売り場でいろんなペンを見るのが楽しくて仕方ありませんでした。その度にペンを買っては替芯を取り外して、ANTOUに入れて楽しみました。

国が違っても、楽しいと思うことは変わらないのだとこのペンで知りました。

これで何か書かなくても、そうやって自分にとってのベストな替芯を決めるのが楽しく、ペンの楽しみは書くだけではないと教えてくれた。

アントウを使っている人同士でこのペンの話をすると、様々な替芯の情報交換ができて、それも楽しい。

そんなANTOUボールペンCミニに新色が追加されました。

青藍・唐紅・橙の日本の伝統色の3色展開で、日本や台湾のものなら、こういった漢字の色名であってほしいと思います。

ミニは長さが短くなりますので、その分使うことができる替芯に制約がありますが、少し短くなって、そのプロポーションがかわいらしくなりました。

このミニ専用の「シャープペンシル機構」も一緒に発売されました。

ボールペンの替芯と同じようにペンシル機構を先で掴む方法です。

ペンシル機構の発売で、ANTOUがボールペン以外にもさらに幅広い用途で使うことができるようになりました。

ANTOUのペンの存在により、全てのボールペンが、このペンの素材に見える。多くの人に使ってみていただきたい、いい商品だと思っています。

⇒ANTOU(アントウ)TOPページ

優れたペン先を装身するための鞘・こしらえ

マイカルタ・グリーン×カスタム743

日本の万年筆は海外のものと比べると、デザインにあまり個性がないと言われます。黒いプラスチック軸に、オーソドックスなデザインの金クリップがついているものが多い。海外のペンは個性的なデザインのものが目につくので、それらと比べて見ると少々無個性に感じてしまいます。

しかし、それは日本の万年筆の良さが分かっていない感想なのかもしれません。

日本の万年筆は外観という表面的なところに個性を持たせるのではなく、その書き味に個性を持たせていると考えると、非常に奥深い、大人の楽しみのある存在だと思えてきます。

それは何かの味を感じるのに近く、刀の刀身の微妙な形や刃文の違いを味わうような感覚に近いのかもしれない。

それだけではないけれど、日本の万年筆の在り方は刀と近いと思っています。

私も常に、ペン先を書き味良く調整しながらも、ペンポイントが美しい姿になるように調整したいと思っていて、それは万年筆を刀のような存在に近づけたいという想いがあるからです。

国産万年筆では、パイロットカスタム743の書き味は特に素晴らしいと思っています。

当店でもし万年筆を何かお勧めして下さいと言われたら、まずカスタム743FMをお勧めします。その中でも最も様々な用途に使うことができて、書き味も良いFMをお勧めすることが多い。

カスタム743は他の多くの万年筆と同じく、黒い樹脂軸に金色のパーツがついていて、デザインに個性的なところはありません。

しかし粘りがありながらも柔らかい、極上の書き味のペン先がついています。この万年筆はこのペン先だけで、完成していると言ってもいいかもしれません。

カスタム743を見ていると、黒金のこのメーカー仕様の軸が刀の保管時に使う白鞘のように思えます。良いペン先には刀のこしらえのように、それに見合った装身をさせてやりたい。

国産の万年筆を、そのペン先の性能に見合った立派な軸に収めたいというのが、工房楔の永田さんに当店オリジナルで作ってもらった万年筆銘木軸こしらえの始まりです。

今回のこしらえは、工房楔の永田氏が木ではなく、マイカルタに挑戦したという点でも面白い存在です。

マイカルタはコットン(パッカーウッドは木)をフェノール樹脂で固めたもので、その手触りは革に近いものですが、非常に硬く、丈夫な素材です。

工房楔の永田氏はこの硬いマイカルタのために、刃物の刃をいくつもダメにしながら、木を削る何倍もの時間をかけて削り、こしらえを作ってくれました。二度と作らない、というのが作り上げた永田氏の感想でもあります。

滑りにくい独特な手触り、重量感、時間の経過とともに馴染んでいく光沢と、触り心地。

マイカルタはナイフのハンドルや銃のグリップにも使われてきた素材で、木とはまた違うタフな魅力がこの素材にはあります。

⇒Pen and message.オリジナル 万年筆軸・こしらえ

いつかは149~その後~

先日(10/23)いつかは149」というタイトルで、お客様のNさんと交わした、自分たちがそれぞれの目標を達成したらモンブラン149を買おうという約束について書きました。

モンブラン149がそういうことに相応しい万年筆だと思っていたからしていた約束だけど、結構反響があって、色々な人が色々な話をしてくれました。

お客様のSさんは、同感だけど今すぐに買いなさいと言ってくれた。

仕事についていろんなことを教えてくれる小児科医のOさんは学生の時に、それに見合った人間になるために、自分を高めてくれるものとして149を使い始めた。

Hさんは高校の時に、私も知っている近くの文具店で手に入れた149を学校でも使って、先生に驚かれた。

約束を交わしたNさんは、10月23日の文章を読まないだろうと思っていたけれど、何かに誘われるように普段は見ない当店のホームページを見てそれを読んだそうで、すぐに店に来てくれました。不思議なこともあると思いました。

あの時Nさんは校長になったら149を買うと言っていた。今は教頭先生をしていて、校長になるための勉強を149でしようと考え直して、買いに来てくれたのでした。

Nさんはいつもキャップを尻軸につけて、ペンのかなり後ろを持って書きます。

かなり大きい149はその書き方に向いています。学生の時はラグビーの選手で、教師になってからも監督を長くしていたNさんの手に、149はよく合っていました。

約束した時、私は何を成したら149を買うかを言わなかったことをNさんは覚えていました。

私はこの店を立派な万年筆店にしたいと今も思っていて、それを象徴するものとして、149を「今」手に入れようと思いました。

Nさんのようにペンの後ろを持って書かないけれど、私ならキャップをつけずに書いてちょうどいいくらいなのではないかと思いました。

最近太めの万年筆の書き味の良さ、インクの濃淡の味わいを伝えたいと思っているので、<M>を選びました。私の用途に149の<B>はさすがに太すぎる。

濃淡が出て、でも日常の用途にも使うことができる、この万年筆に合うインクとして選んだのが、二人とも当店のオリジナルインク冬枯れだったのも面白かった。

私はウォール・エバーシャープデコバンドのフレキシブルニブを愛用していますが、このペンだけとても大きくて、私の持っているペンの中では異色の存在でした。

そんなデコバンドの相方となるペンを探していたので、149をデコバンドとセットで使いたいと思いました。

普通の万年筆と比べると柔らかいペン先のデコバンドと、対照的な硬めのペン先の149で、それぞれ足りないものを補い合って、極端な話デコバンドと149さえあれば、自分の全ての用途はこの2本で済むと思いました。気分によっていろんな万年筆を使いたいという気持ちはそれでは済まないので、結局いろんなペンを持ち替えながら使うことになるとは思うけれど。

2020年は、日本にとって輝かしい年になるはずでしたが、変な年になってしまった。

波乱に富むであろう新しい時代2020年代のはじまりに相応しい象徴的な年だったのだと思うけれど、この149を持って、2020年代を乗り切りたいと思いました。

⇒モンブラン149

新しい世代の万年筆観

万年筆は金ペンであってほしいというこだわりを捨てることができなかったために、TWSBI(ツイスビー)を真剣に扱うのが遅れてしまった。

仕入先の株式会社酒井さんにご協力いただき、神戸ペンショーでは毎回ツイスビーを販売していたけれど、店舗ではあまり扱えていませんでした。

でも最近来店される若いお客様方に教えてもらったり、今年の神戸ペンショーでのお客様の反応を見ていて、真剣に扱うべきだと思いました。

若い人や、インクの好きな女性のお客様が、同じくらいの値段なら金ペンの黒金国産万年筆よりも、デザインが楽しそうなツイスビーを選ばれています。若い人は金ペンにこだわっているわけではないので、私が金ペンにこだわっても、時代から取り残されていくだけなのかもしれない。

それが今起こっている現実で、せっかく今の時代に万年筆店をやっているのだから、時代を反映して今のモノも扱うべきだと思います。

それはラメの入ったシマーリングインクや、強烈に光るシーンインクに対しても同じことが言えます。

頑固な店主のこだわりを貫くのも店のあり方としていいのかもしれないけれど、私は当店を平成の遺物にしたくないと思っています。

そう思ったきっかけは昨年10月台南ペンショーの視察のために訪れた台北で文具店を何軒も見て回ったことが大きく影響しています。

どの店も新しい感覚でステーショナリーを扱っていて、12年間私が自分の店の中で奮闘している間に時代は確実に変わっていることを実感しました。

時代から遅れたくないと思いましたし、それを取り入れることで店もリフレッシュされて、長く続くことができる気がしました。

ツイスビーはECOとダイヤモンド580を扱っています。

どちらも軸内でインクがチャプチャプするくらい大量のインク(2ml)を吸入することができるピストン吸入式の万年筆です。

特にダイヤモンド580は、ヨーロッパで古くから作られている万年筆の良いところを参考にしていて、バランスの良い万年筆に仕上がっています。

ECOは今までの万年筆の価値観とは違い、分解用の赤いスパナが付属するなど遊び心に溢れていて、万年筆を気どりのない日常的なものにしてくれます。

万年筆がファッションであるヨーロッパとは違い、万年筆で字を書くことを楽しむ土壌が台湾にはあって、その感覚は日本においての万年筆のあり方に近いような気がします。

万年筆の新しい流れが、アジアを中心に起こっていることの象徴がツイスビーの万年筆なのです。

ペリカンのカジュアルな万年筆も1つご紹介いたします。

ペリカンM205ストーングレー。毎年発売されるインクオブザイヤーと色を合わせて発売される、比較的手に入れやすい価格の限定品で、このシリーズのステンレスペン先の書き味は素晴らしい。

ステンレスなのに柔らかく、ちゃんとペリカンの書き味が感じられます。万年筆ならではの柔らかい書き味がステンレスペン先で味わえるお勧めのカジュアルな万年筆です。

時代は変わっています。

いつまでも古い価値観にしがみついて、自分が良いと思うものだけを世に問い続けることにこだわっても、忘れられていくだけなのかもしれない。

それよりも今の感覚のモノと自分ができることをミックスして世に問う方が楽しく、前向きな生き方のような気がします。

⇒ダイヤモンド580スモークローズゴールドⅡ

⇒ECOホワイトローズゴールド

⇒M205ムーンストーン

万年筆雑感~太字へのお誘い

おじさんになると、年代や性別でその好みを決めつけてしまうことがありますが、大抵それは正しくないことが多いので、改めなければと思います。やはり思い込みは一番良くなくて、いつもニュートラルな状態でいないといけない。

例えば、もう革も金具もなくなって作れなくなってしまいましたが、コンチネンタルM5手帳は、自分と同じくらいの年代の男性に、素材感のある革を厚く使った、「書かなくても持っているだけで楽しい手帳」として作りましたが、販売してみると女性のお客様が多く購入されていました。

そして売れ筋の万年筆の字幅は、私たちが若い頃20年以上前では、売筋はM、女性はFかEFでした。

でも最近は男女ともにFやEFを好まれるように変わってきたように思っていましたが、男女で分けるところも時代遅れだし、海外のM以上の字幅、国産でいうと太字以上を使いたいと思われる人も多く、いろいろな自分の中のデータも時代に合わなくなっていて、修正しなくてはいけないと思います。

太めの字幅を使う醍醐味は、湧きだすように潤沢なインク出でヌルヌルと書けるところだと思います。そしてそんなインク出では小さな文字や細部まで表現された美しい文字を書くのは難しいけれど、自分が太字で書きたいと思う文字は、そういう文字ではない。

自分の書きたい文字を書くための万年筆なので、用途によって字幅を変える必要はないのかもしれません。文字がつぶれてもいいからM5手帳にも太字で書くのもありだと思います。

そういう使い方をするなら、ドイツの万年筆のB以上の字幅がいい。

国産やイタリアのペンもよく書けるけれど、ドイツのペンのBの豪快なインク出には及ばないし、縦線が太く、横線が細目のドイツらしい線の形もそういう文字に合っています。ペリカンやモンブランのB以上になると期待通りの文字が書けると思っていますし、ペリカンのBBなら尚いいかと思います。

手帳にきれいな文字を書くことばかりに気をとられて、細字ばかりを見ていたけれど、万年筆の書き味は太くなればなるほど快感と思えるほど良くなっていく。

たまにはまた太字の万年筆でヌルヌルとした書き味を味わいながら、インクを大量に消費するのもいいのではないでしょうか。

日本の万年筆には微妙な書き味の違いがあって、それを感じ分けることは繊細な感覚を持った私たち日本人らしい万年筆のあり方で、それは世界に誇れるものだと思います。

私は日本の万年筆の書き味の良さを知っているから、ペン先調整でどの万年筆も日本の万年筆のような良い書き味に整えたいと思うし、そういう気持ちはブレずに持ち続けていたい。

新型コロナの影響でそれは滞っているけれど、人の行き来もモノのやり取りも境界線がなくなった現代において、モノ作りのお国柄は失われつつあっても、万年筆にはまだちゃんとあります。いくら国をまたいで行き来しても、その人のアイデンティティは変わらない。

万年筆のお国柄が失われないのは、万年筆がその人のアイデンティティを表現する道具だからなのかもしれません。

⇒Pelikan M800

⇒モンブラン 149

江田明裕さんのガラスペン

当店で扱っている作家さんが有名になって、多くのお店が扱うようになったりすることがあると嬉しくなります。

最近ではあちこちのお店で取り扱われるようになりましたが、早い段階で当店が扱わせていただいた幸運に恵まれて、その方の努力が実を結んで広く知られるようになっていった。そういうものを扱えていたことが嬉しい。

あまり多くのお店で扱われていない作家さんに出会ったら、お店側としてはなるべく自分の店だけで独占して他所に出ないようにすることが多いけれど、作家さんのためにはそんなことをしてはいけないと考えます。

店は自店のことだけを考えていてはいけない。お互い良くなっていくことを考えて、お互いに高め合えるようにしていくべきだと思います。競わなければならない感情はあるけれど、そう思ってなるべく実践してきました。

ただ言い方は悪いですが、商品のイメージと合わないお店では扱われたくないので、もし作家さんに聞かれたら正直に意見を言うようにしています。私は自分の店がその作家さんのイメージを良くする努力をしているので、勝手な話ですが他所の店を見る目は厳しい。

当店にガラスペンを納めてくれているaun(アウン)の江田明裕さんは、私が倉敷に行った時にたまたまその工房にたどりついて作品を購入したことが始まりで、その後店でも扱うようになりました。

すでにしっかりした工房兼店舗をお持ちで、地元の文具店に作品を納めたり個展をされたりしていたのですが、私は勉強不足で存じ上げませんでした。

江田さんのガラスペンで私がぜひ扱いたいと思ったのは、その書き味の良さに感動したからでした。 こんなに優しく、滑らかに、でもガラス独特のサラサラと紙と触れる感触を感じながら書けるガラスペンがあるのかと思い、万年筆店である当店でぜひ取り扱いたいと思いました。

最初はシンプルなラインナップでしたが、今では様々なデザイン、カラーバリエーションが増えて、その旺盛な製作欲に感心します。 インクブームもあって、インクをより簡単に楽しめるガラスペンが注目されるようになったのだと思います。インクを変える時、万年筆はその都度洗浄しないといけないのですが、ガラスペンならサッと洗い流すことができます。

最近はラメ入りのシマーリングインクも結構ありますが、そういったインクにはガラスペンがぴったりです。 インクがガラスペンに頑固にこびりついた時は、極細毛の柔らかい歯ブラシでこすっていただくと、きれいに取り除くことができます。

万年筆を愛用している方も時にはガラスペンでいろんな色のインクを楽しんでいただけた らと思います。大量生産品では作り得ない、1本ずつ書き味を調整されたガラスペンを楽しんで欲しい。

当店も江田さんのガラスペンを神戸ペンショーに持って行くけれど、たくさんの本数を準備していますので、ペンショー後になりますがホームページに更新できると思います。

ガラスペンはネットショップでも人気です。 ネット販売というと事務的なやりとりのように思われるかもしれないけれど、ちょっとした言葉のやり取りで、ネット販売も店舗での販売と同じように感じていただけると思います。

当店では発送の際に、一筆箋で一言添えるようにしています。ガラスペンだと興味をお持ちの方が多いのか、手紙に使ったインクの問い合わせが来ることもあります。

これからもっとネット販売の比率は上がっていくと思いますが、お客様と店が心を通わすきっかけに、江田明裕さんのガラスペンも一役買ってくれています。

⇒江田明裕氏作 ガラスペン (入荷分は12月に更新予定です) 

自信のレイアウト・オリジナルダイアリー

手帳が好きなので、なるべく多くの冊数を同時進行して使いたいと思っています。

今までは色々使いたいという思いに蓋をして、1冊にまとめようとしていました。でも何冊もの手帳を鞄いっぱいに入れて、それぞれに役割を与えて楽しみながら使いこなしている古くからのお客様であるOさんの姿を見て、自分も使いたいものを自由に使おうと思いました。

手帳は1冊にまとめるよりも、複数の冊数をそれぞれに役割を割り振った方が上手く行くということは何となく思っていたけれど、Oさんの姿がそれの後押しになった。

いくつもの手帳に役割を与えて使うシステムについて考えるといくらでも考えていられるけれど、そろそろ来年の手帳の組み合わせについて決めてもいい時期になっています。

日付入りの手帳の理想は、見開きでたくさんの日数を見渡すことができるものだと思っていますが、たくさんの日数を見渡せるようになるほど、1日ごとの書けるスペースが小さくなるというジレンマがあり、このバランスを取らなくてはいけません。

紙を大きくしていくとこの問題を解決できるけれど、持ち運びの邪魔になったり、限られた机のスペースで使いにくくなります。

オリジナルのダイアリーはA5サイズの縦を少しだけ短くした正方形で、持ち運びやすさと書き込めるスペースのバランスがちょうどいいと思っています。

特にマンスリーは、スケジュールを確認するのにかなり使いやすい。

来年は正方形ダイアリーのマンスリーを全ての手帳のターミナルのような存在で使い、いかに1ページにたくさんの情報を書き込めるかということに挑戦しながら、使いたいと思っています。

正方形のマンスリーダイアリーは、予定も書き込めながら他のことも書き込む余地のある自信のレイアウトで、このレイアウトを生み出した10年前の自分たちを褒めたいと言うとあまりにも手前味噌過ぎるかもしれないけれど、他にない、使いやすいレイアウトです。

全てのスケジュールをマンスリーダイアリーで管理して、M5手帳をそら文葉のフレックスダイアリーや当店オリジナルのLiscio-1紙方眼リフィルを1日1ページとして使って、毎日の細々としたToDoを管理したい。

そしてその日一日のまとめを正方形のウィークリーダイアリーに記録して、数年後に2021年について調べた時に分かりやすくしておきたい。

オリジナルダイアリー用にカンダミサコさんに作っていただいたミラージュ革の正方形カバーは、ダグラスとの革質の違いか、ウィークリーダイアリーを入れると少しきつめになっています。

ダイアリーを入れていると革が伸びてピッタリとフィットするけれど、内側にペンホルダーを備えた意図はゆったりラフに使えるというものだったので、薄いマンスリーダイアリーをミラージュカバーに入れた時のくったりした感じの方が当初のイメージでした。

ミラージュ革で今後も色々作るかを考えていますが、もともとの艶や張りがありながら、使い込むと馴染んだ艶が出るエージングもする、しっかりとしたいい革だと思います。

万年筆という、歴史あるメーカーの作る魅力的なプロダクツがあって、これにどんな革を組み合わせるかということが店の個性だと思っています。

マンスリーダイアリーにミラージュカバーを付けて、ファーバーカステルクラシックコレクションなどをペンホルダーに挟んで使えたら、中身を書かなくてもそれで満足してしまいそうです。

*2021年正方形ダイアリー・マンスリー 

*2021年正方形ダイアリー・ウイークリー

*正方形ダイアリー用カバーミラージュ革

AURORAカレイドスコーピオルーチェブルー

アウロラの限定品、カレイドスコーピオルーチェブルーが860本限定で発売されました。

アウロラの限定品は、ペン先に18金を装備して、ジャンルで言うと下記のシリーズに分かれます。

1)オプティマをべースにして、旧タイプのキャップリングを使用した往年のアウロラをイメージした365シリーズ

2)バランス型の88をベースにした太陽系の惑星をテーマにしたシリーズ

3)金属パーツにスターリングシルバーを驕り、首軸にもスターリングシルバーを採用したオチェアーノのシリーズ

今回のカレイドスコーピオは、1のオプティマ型ですが、首軸にもボディと同素材のアウロロイドを使用し、特別感の強い華やかな仕上がりになっていて、新たな限定品のシリーズになっています。

カレイドスコーピオ(万華鏡)の名の通り、幻想的なアウロロイドの模様は、流行の薄めのインクにも相性の良い色合いだと思っています。

アウロラの書き味はカリカリした、鉛筆のような書き味と言われることもありますが、私は良いバランスに調整されたアウロラの書き味は柔らかい肉にナイフを入れるような、滑らかで、柔らかさを感じるものだと思っています。

今回の限定品は同じ色のボールペンも320本限定で製作されています。

アウロラのボールペンは、汎用性の高いパーカータイプの芯を使いますので、お好みの書き味の芯を入れることができます。

パーカータイプと呼ばれる芯の規格は、パーカーが最初に採用して、今も使われていることから業界内でそう呼ばれています。

モンブラン、ウォーターマン、カランダッシュ、シェーファーと国産各社は独自規格の芯を使っているのに対し、パーカータイプは選択肢の多さで競争力の高さを持っています。

三菱はジェットストリームという、インクの粘度の低い軽い書き味のボールペンで世界を席巻しましたが、ジェットストリームにもパーカータイプのものが存在します。

筆圧の高い方は、粘度が高い従来のボールペン芯の方が使いやすいと言われる方も多いので、ペリカンやアウロラの芯を使われるといいのではないでしょうか。

アウロラは、このカレイドスコーピオのシリーズをしばらく継続するそうで、次のモデルはピンク色を基調にしたものになります。

他の分野と同じようにペンの業界も今年は動きが止まってしまいました。

それは働いている人の安全を確保するという、已むに已まれぬ理由があるためで、特に欧米は深刻な状態になっている。

日本でも疫病を恐れないわけではないですが、このままとどまってじっとしていていいのかという、焦りのようなものも多くの人が感じ始めているように思います。

そろそろ経済を動かさなくてはならない。アウロラは比較的早い段階から、コロナウイルスに負けずに、工場を操業させているというメッセージを発信していました。

そして多くの万年筆メーカーが沈黙を守っている中、予定よりも遅れたとはいえ、アウロラは新しい限定品のシリーズを発売してきました。

そんなアウロラの不屈の精神の表れが、このカレイドスコーピオだと思っています。

⇒AURORA カレイドスコーピオ万年筆

⇒AURORA カレイドスコーピオボールペン

大人のシャープペンシル ペリカンD400

若い頃、この仕事に携わる前の万年筆を使い始めたばかりの頃は、書くものは何でも万年筆で書いていました。

万年筆を使うようになって書くことがより楽しくなったので、無理やりにでも万年筆を使いたかった。

その時はいつも万年筆のことを考えていたので、ペン先が付いていて、万年筆の形をしているものなら何でも欲しかったし、万年筆というキーワードの入った本なら何でも買っていました。

その時に一気に入り込んだ世界に今もしがみついているけれど、その時の頑なさが自分の未来を作ったのかもしれないと思うことがあります。

今は少し引いて考えられるようになって、自分は書くこと自体が好きだったのだと思い返すことができたし、筆記具も用途に応じて使うと、より書くことを楽しめると思うようになりました。

それでも万年筆は自分にとって、単なる筆記具以上の存在ではあるけれど。

自分の仕事の内容を考えるとペンシルの方が合うと思うものが結構あることに気付いて、シャープペンシルもよく使うようになりました。

国産のシャープペンシルは安価ですが面白いものが多く、片っ端から使ってみていましたが、最近はペリカンD400というシャープペンシルが一芸に秀でた国産シャープペンシルと対極をなす、バランスがとれた大人のシャープペンシルだと使い始めて思いました。

オーソドックスでありながら、くちばしのクリップや天冠の小さなロゴなどのアイデンティティは示されていて、分かる人にはペリカンだと分かるこのさりげなさも良いと思います。

海外のものは芯の繰り出しが回転式のものが多いですが、D400はノック式で、子供の頃から使っているものと同じで馴染みがあり、これがシャープペンシルでは一番使いやすい機構だと思っています。

もうひとつ芯の太さの問題があります。

海外のものは0.7ミリの芯を使うものが標準ですが、私のように手帳に小さな文字で下書きを書く場合には太すぎて、やはり0.5ミリの方が使いやすい。

当店でも、ペリカンのシャープペンシルは、0.5ミリと0.7ミリを選ぶことができます。

芯は国産のものが圧倒的に、滑らかに柔らかく、気持ち良く書くことができると思っています。

私は三菱鉛筆のハイユニの2Bと4Bを使っていて、シャープペンシルを使う人には必ず勧めていますが、既に使われている方も多いと思います。

ダイアリーやバイブルサイズの手帳など、記録するものは万年筆で書いて、後からでも読みやすいように書くのですが、自分が最も楽しんでいる休みの日や昼間に考えたことを原稿ノートに書く下書きはシャープペンシルで書きます。

原稿は、頭の中で考えて一気にノートに書いて、パソコンで清書したら終わりという書き方をしていましたが、バインダー式の手帳のページに、タイトルや大まかな内容だけを書いておいて、そこへ書き足していくというやり方をするようになりました。そうやって時間だけでもかけた方が、自分として少しはマシなものが書けるのではないかと思っています。

私にとって、万年筆は表現、清書の道具。シャープペンシルは考える道具で、地味な存在だけど、そんな陰の仕事を支えてくれる良いものと出会えたと思っています。

⇒Pelikan D400ペンシル(0.5mm/0.7mm)

いつかは149

「いつかはクラウン」という言葉が、古いトヨタのコピーにありました。

単純にいつかクラウンを買ってやる、というものではなく、30代40代は分相応なカローラに乗って、社会的に乗ってもいいと認められる地位や年齢になってきたら世間的にやっとクラウンに乗ることを許される。そういう古い日本人的な慎み深さや分相応をわきまえた、シンプルだけど奥行きのある言葉だと思います。

当時の人はいくらクラウンが買えるお金があったとしても、自分がクラウンに相応しいかどうかを気にしていた。それが堅実な生き方というものなのかもしれません。

世の中をそういう風潮にした、自動車メーカーとしては勇気のいるメッセージで、これが文化を作るということだと思う。今ではどんな車でもローンや他の方法で乗ることもできるし、車でその人の格を推し量る時代ではなくなりました。

万年筆においてクラウンにあたるものは、モンブラン149だと思ってきました。

149は特別な機能を備えた万年筆ではない普通の万年筆ですが、格のようなものを感じさせます。

多くの作家がそのタフな仕様を信頼して、自分の仕事を書き記すために愛用したというエピソードもたくさんあって、いつかは149に見合った仕事をしたいと思わせてくれる。古い考え方かもしれないけれど、そういう万年筆ではないかと思います。

10年くらい前に、同年代の古くからのお客様Nさんと自分がどんな立場になったら149を買うかという話をしたことがあり、Nさんは校長になったら149を手に入れたいと言っていました。

肝心な自分が何と言ったかを忘れてしまったけれど、50歳になったら、あるいは店を10年続けることができたら、のどちらかだったと思う。

その時は40代になったばかりで、まだまだ先の話だと思っていたけれど、気がついたらどちらの基準もクリアしていました。

でも今の自分が、当時思った149を手に入れるに相応しい人間なのかは分からない。そうなるように努力はしてきたけれど、変化のない平坦な道を歩いてきて、劇的に何かが変わったというものもありません。私たちの仕事は、自分で自分を評価したり、自分で自分の仕事を作るので、何かをやり遂げたと自分で思った時がタイミングなのではないかと思う。

モノを手にするのにわきまえるという考えなどなくなった今では、若い人が149を手に入れることに対してまだ早すぎるとは思いません。とっくにそういう時代ではなくなっています。

ただ、私とNさんの間において、149はそういうものだったというだけの話です。

Nさんとそういう話をした当時、当店は149、モンブランを扱っていませんでした。でもNさんとの約束を守るためにも149だけは扱えるようになりたいと思っていました。

当店は万年筆ではモンブランも他の万年筆と同じようにペン先調整して販売しています。

長年使い込んで良い書き味に馴らしていくのがメーカーの意図なのだと思いますが、少し調整をして、最初から滑らかに書けるようにしてから使い込んでいくのが、今の時代の万年筆の馴らし方なのかもしれません。

自分のために149を調整する日はいつになるのか分からないし、わきまえるのもいい加減にしないと、使い込む時間がなくなってしまいそうです。

⇒モンブラン149