今の時代の流れの中にあるもの〜2020年限定アルランゴート革ローズゴールドM5手帳

ずっと流行というものに背中を向けてやってきました。

万年筆というものにとって流行は無縁なもので、それは自分が追うべきものでないと思っていたからなのかもしれません。自分が扱うべきものは永遠の定番のもので、すぐに廃れて飽きられてしまうようなものには手を出してはいけないと思ってきました。

その気持ちは変わっていないし、そういう店だからお客様は安心して当店でモノを買うことができるのだと思っています。

でもある時から、この分野にも流行がはっきりと存在するようになりました。せっかく今の時代にこの仕事をしているのだから、ずっと使われてきた定番のものと同じように、流行の今の感覚に合ったものも扱っていきたい。そして、追うべき流行と見送るべき流行を見極めて世の中に提案したいと、意識が変わってきました。

そう思うと読む本や聞く音楽なども変わって、古いものよりも、今の時代に生み出されたものの方が自分の感覚にも近いと思うようになりました。

革は様々な条件で、作られなくなるものも多いけれど、新しいものもどんどん作られている。それはアパレルとの絡みも多いからだと思いますが、今の時代の感覚に合った革はたくさんあることを知りました。

一昨年から、その年の限定と決めた大胆な革を使ったステーショナリーをカンダミサコさんに作ってもらっていて、今年はフランスのゴート専門のタンナー、アルランのメタリックゴートレザーを使うことにしました。

当店としてはかなりの冒険をしたと思われるかもしれませんが、万年筆にもその流れが来ているローズゴールドの革を使いたいと思いました。

ナチュラルな感じのものが多いカンダミサコさんですが、この革をいくつかの候補とともに勧めてくれて、意外とすぐこれに決まりました。

M5サイズシステム手帳は、その時の気分で中身をそっくり入れ替えて使うような、ある程度遊びが許されるものだと思っています。

コンチネンタルM5システム手帳で表現した、機能性よりもコロンとしたフォルムや、厚い革の感触を味わう遊びもM5手帳だからこそ実現したと思っていて、今の流行を反映したものを取り入れるのに相応しいアイテムだと思っています。

メタリックゴートレザーは、革に特殊な加工をして表面を箔のような仕上げにしています。かなりしっかりしていて、すぐに表面が剥がれてしまうことはないので、ご安心下さい。

ずっと以前、万年筆が流行を先導していた時代もありました。私が万年筆の仕事に携わるようになってからは、一部の人たちの間で小さな流行はあったかもしれないけれど、万年筆の時間は静かに、淡々と流れていました。

しかし近年では流れが、強く、早くなったことを実感します。

私もその流れを見送り続けるほど齢をとっているわけでもないので、いつまでも新しいものへの好奇心を持っていたいと思っています。

⇒カンダミサコ アルランゴート革・ピンクゴールドM5手帳(2020年モデル)

書くことの楽しさを思い出させてくれるセーラーの万年筆

以前にもいくつかご紹介しましたが、M5システム手帳に合うペンとして、セーラーのプロフェッショナルギアスリムもいいのではないでしょうか。

コンパクトなボディの両エンドを平らにした、ベスト型と言われる長さを切り詰めたような形のペンで、キャップを尻軸につけると持ちやすい長さになり、硬いと言われる14金のペン先は手帳に小さな文字を書くには適した仕様だと思います。

セーラーと言えば、その工場についてよく思い出します。

工場というものはあまり街中に建っているものではないと思うけれど、セーラー万年筆の工場ほど喧騒から離れたところにある工場は少ないのではないかと思います。

呉の小さな漁師町のようなところにあり、こういう立地とセーラーの万年筆の持ち味に関連性があるのではないかと思っています。

それだけセーラーの万年筆には独特な良さがある。

万年筆作りは、変わり続ける世の中の情勢や様々な条件に左右されず、変わらずに良いものを作り続けることができることも大切だと思います。

セーラーがある呉市天応というところはそれが比較的やりやすい場所なのではないかと、あののどかな風景を思い出して勝手に想像しています。

ところでセーラーの万年筆の特長について、私は長い間よくつかめずにいました。

筆記角度を50~60度で、ペン先をひねらずに紙に当てると書き味がとても良いけれど、そこから外れると引っ掛かりを感じる。それは書き方を指定するものだと思っていました。

それはペンポイントの研ぎの形がそのようになっているからですが、その研ぎは書き味のためだけではないのかもしれないと、セーラーの万年筆を使い込んでみて思いました。

セーラープロフィット21という超定番の、セーラーで最も標準的な万年筆を使ってみて気付くのは、どの万年筆よりも自分なりにきれいな文字が書けるということでした。

パイロットは、どんな方向にも同じように滑らかにペンが走り、気持ち良く文字を書くことができる万年筆が多い。その性能はすごいと思うけれど、書ける文字や書き味という、味の点では、セーラーにより深い味わいを感じます。

その味は書くことが単純に楽しいという、私たちが万年筆を使いたいと思う原点のようなものを思い出させてくれるものでした。

それは14金のペン先でも、スチールペン先の安価なものでも同じで、それぞれがちゃんとセーラーの味を持っているように思いました。

セーラーの味はペン先の研ぎに由来するものだと思っていますが、ボディの太さや重さ、バランスなども関係するのかもしれません。

万年筆にはいろんな楽しみ方があって、微妙な書き味の違いを楽しむのもまた万年筆ならではものです。その言葉で言い表しにくい曖昧なものを捉えることも、大人の万年筆の楽しみ方だと思っています。

⇒セーラー プロフェッショナルギアスリム

⇒セーラー プロフィット21

小さなペンを揃える

カンダミサコM5システム手帳用ラップ型ペンホルダーを使えば、M5手帳をペンケースのように使えるのではと思い立って、前に使っていた11mmリングのコンチネンタルシステム手帳をペンケースとして使っています。

13mmリングの新しいコンチネンタルM5は紙をパンパンに挟んで毎日の記録に使っています。

そうしないといけない理由はないけれど、小さなペンを集めてM5手帳をミニペン用ペンケースとするのが楽しいし、13mmリングのコンチネンタルに紙をたくさん挟んで太らせるのが楽しい。

このペンケースに見立てた手帳に入る資格のあるペンは、M5手帳と長さが同じくらいか、それより短いものでないといけないので、非常に限られます。

ペリカンM300はミニサイズで、その資格が十分にある、このペンケースの中では主役クラスの遊び心たっぷりのペンです。しかし先日、残念ながらペリカンがM300の廃番を宣言しました。

小さなサイズなのにペリカンスーベレーンのアイデンティティである、緑色の縞模様とピストン吸入機構を備えている上に、小指の爪先しかないような小さなペン先なのに柔らかい書き味を持っていたのは驚くべきことだと思っていました。

フォルム、プロポーションはM800と変わらない、そのまま縮小したような姿にペリカンのユーモア見ていました。

定番万年筆でこれほど趣味性を感じさせる万年筆は他になかったと思います。

こういうものをペリカンという大きな会社が定番モデルとして作っていることに、何か奥行きのようなものを感じていました。でも採算がとれなくなっていたのでしょうか、廃番は何か時代の流れを感じて寂しくなりました。

そのニュースが流れて、当店に在庫のあるM300は完売してしまいました。新たに入ってくるものはありませんので、当店にあるM300は委託販売のものが数本だけになってしまいました。こちらは撮影を進めていますので、近日中にホームページでご紹介致します。

ひとつ大きいサイズのM400はミニペンというカテゴリーに入らないかもしれませんが、125mmという長さは他の万年筆に比べると短く、M5手帳にもいいサイズです。

M400がちょうどいいのなら他にもまだまだ合いそうなものはありそうなので、これからも短いペンの逸品をご紹介していきたいと思っています。

個人的には大きなペンが好きなのですが、大きさを揃えて持つ面白さを知ってから、M5手帳に近い長さのものを探すようになりました。揃える楽しみがミニペンにはあって、それは書かなくても、書く前から探すだけでも楽しいもう一つのペンの遊び方のような気がしています。

長刀(なぎなた)研ぎ~美しい研ぎの形~

最近はペン先の研ぎについて書くことが多くなっていますが、少しずつ共感を得られるように書き続けたいと思っています。

万年筆のペン先の研ぎにはこだわりたいと思っていて、ルーペでペンポイントを見た時、あるいは拡大写真を撮った時、それが美しくあって欲しい。

ほとんどの人が気にしない部分で、言われてみないと、もしかしたら言われてもわからないかもしれないけれど、研ぎの美しさはその書き味にきっと影響を及ぼしているはずなのです。

最近研ぎにこだわったペン先が少なくなってしまい、とても残念です。

研ぎの美しさを捨てた場合、 ペン先からインクが出て文字が書く機構自体は変わらなくても、書き味の質が違うものになっているのではないかと思います。研ぎにこだわってよく調整された万年筆の書き味には潤いがあって、書いていて気持ちが良い。 ルーペで見える景色はもちろん雲泥の差です。

いつまでもそれを味わっていたいと思える書き味を持っているけれど、研ぎが適当な万年筆の書き味は、強引に例えるなら棒にインクをつけたような書き味で潤いがない。その差は万年筆を使った事が無い人にでも分かると思います。

ペン先調整は、書けなかったりインクが途切れたりする万年筆を書けるようにするだけでなく、書き味に潤いを与えることも重要な役割です。

ペンポイントの形はメーカーによって本当に様々で、それぞれの特長的な書き味を作っています。

ペン先を調整するようになって様々なメーカーのペンポイントをルーペで見ましたが、最も美しいと思っていたもののひとつにセーラーの長刀(なぎなた)研ぎがあります。

ペンを寝かせて書くと太く、立てて書くと細く書ける。そのような書き分けができるのは日本の文字を美しく書くためであり、その良い書き味でさえ美しい文字を書くという結果の次についてきたものに過ぎません。

長刀研ぎのペンポイントの形を私は墨を含んだ筆のようだと思っています。根元がふっくらとしていて、先端に行くほど鋭くなっていく。

最先端はペンポイントの腹側と背中側の線が合流して点になっていて、その精密さに、ペンポイントにも図面があるのではないかと思えるほど、美しくデザインされています。

長刀研ぎは筆記角度によって太さが変わりますので、字幅はかなり立てて書いた時の一番細い線で表記されています。長刀研ぎのFM(中細)の場合、立てて書いた線が中細の太さです。立てずに書くと太字くらいにはなりますので、思ったより太いと思われるかも知れません。

セーラー長刀研ぎ万年筆は、ネットでの販売が禁止されていますので、店頭での販売だけになっています。当店にも少し在庫がありますので、興味のある方はメール(pen@p-n-m.net)でお問い合わせ下さい。

今の時代にネット販売をしないなんて、と少し思いますが、店頭で試し書きしてから購入してもらいたいというセーラーのこだわりの表れなのだと理解しています。

自分の色のインク

最近オリジナルインクのCigarをよく使っています。黒に近い緑色が紙の上で変化して、乾くと黄色味を帯びたオリーブ色のようになるインクです。

少し秋っぽいかなと思うこともありますが、少し前からオリーブグリーンの色に急激に惹かれ始めて、気がついたらオリーブ色のものが結構身の回りに集まってきています。

今まで偏って好きな色というのがなかったので、見つかってちょっと喜んでいます。

手紙を書いていて、まだインクが乾かないうちに手が触れてしまって、擦れてしまうことがあります。右利きで縦書きを書くときは特に注意しなくてはいけない。私の場合は、擦れてもあまり気にせずそのまま行ってしまうこともあるけれど。

Cigarは乾くとオリーブ色になりますので、どこからが乾いていなくて、どこまでが乾いているのかすぐに分かりますし、粘度の高いインクは乾きが遅いことが多いですがCigarはそれほど粘度も高くなく、乾きも早いようです。

いつまでも乾かないインクは紙面が汚くなるので避けたい。私にとって乾きの早さも重要です。

以前はお客様へのお手紙に、黒かブルー以外は有り得ないと思っていましたが、もう若くないし、こういう色も許されるかと、徐々に厚かましくなってきました。

インクの色と歳なんて関係ないと思われるかもしれないけれど、私たちの世代が万年筆を始めた頃は、ほとんどのメーカーが基本の3色(ブラック、ブルー、ブルーブラック)しか発売していませんでした。シェーファー、オマスがグレーを発売していたことが珍しかった。あまり売れていなかったけれど、シェーファー、オマスの多色展開は時代を先読みしていたのかもしれません。

当時、インクは万年筆メーカーが自社の製品のために作るもので、インク専業メーカーも少なかった。そんな時代に万年筆を使い出したので、万年筆のインクは3色のうちのどれかという固定観念から抜け出せずに今まで来ました。

でもいろんなインクの色を楽しみながら使う人も多くおられて、最近は薄めの色が流行っていると聞きました。台湾系のインクやエルバンのインクに薄い色のものが多いですが、ガラスペンと合わせると涼しげで、今の季節にいいかもしれません。

台湾は暑いので、日本以上に涼しげなものを好むのかもしれませんが、食べ物の味付けも上品で薄味なものが多いと聞きますので、インクの色も薄いのが台湾風なのかもしれない。

日本風な色として、当店のオリジナルインク冬枯れは12年前に自信を持って世に出しました。文字がはっきり読める範囲で薄くした黒で、当時濃い黒を求める人は多かったけれど、薄い黒を求める人はいなかった。

でも、薄くしたことでノートいっぱいに書いてもうるさくならないし、文字の濃淡が出るし、流れが良くて書き味は良いと、いい効果ばかりでした。黒の濃度の中に、色彩と同じくらいの景色を見出すのが日本風なのかもしれません。

いつの間にか黒の話になりましたが、万年筆は今では仕事で必要なものではなくなって、趣味的な道具だったり、自分の生き方や志向を表すファッションの一部という要素が強くなっています。

だからこそありきたりな色のインクでなく、自分の好きな色、自分を表現する色のインクを使って欲しいと思います。

⇒Pen and message. オリジナルインク(冬枯れ・朔・朱漆・山野草・Cigar)

こだわりに応える国産万年筆

あまり成功していないと思う人もいるかもしれないけれど、自分の服装について考えることが好きで、以前はいろいろな雑誌を見たりして、コーディネートの参考にしたりしていました。

しかし、今ではそういうものを見なくなりました。

インターネットでそういう情報がいくらでも出ていることもあるけれど、それぞれの思惑のもとに誰かが決めたコーディネートよりも、自分で考えて選んだものを好きに組み合わせて着たいと思うようになったからでした。

店ではお客様になるべくリラックスしてもらいたいと思っていますし、自分もいつも自然体で、リラックスしていたい。だからキチンと見える範囲でカジュアルな服装でいたいという、自分の事情に合った組み合わせは自分で見つけないとどこにもない。

服装の中心は靴だと思っている。靴に合わせて服が決まると言っても言い過ぎではなく、私にとっては服装のこだわりどころです。

靴はそれなりのものを買うと、底を張り替えたり、修理に出したりすることで、かなり長い期間履き続けることができるけれど、服は消耗品だと思っています。

値段の高いものをどんなに大切に使っても、インクを飛ばしてダメにしてしまったり、擦り切れたり、気分が合わなくなっていく。がんばって良いモノを揃えるよりも、こだわりどころではない部分はファストファッションのものを取り入れたりして組み合わせるようになりました。

きっと多くの人が私と同じように思って、ファストファッションを取り入れていると思います。

文房具にも同じことが言えます。

こだわらない部分は100均などの文具売り場で選んだものを活用して、こだわる部分にはお金をかけるという人は多いでしょう。私の服装で言うところの靴にあたる部分がきっと万年筆などの筆記具にあたるのだと思います。

使い込んで育てながら、修理しながら、長い期間、もしかしたら生涯使っていくものだから、こだわる人は良いものを選んで欲しい。

でも最近ファストファッションのような万年筆が増えてきたと思っています。デザインは良いけれど、素材や作りがあまり良いとは言えないようなものが増えてきた。それらは万年筆を使う人を増やすきっかけにはなるけれど、そういうものばかりになってしまうのはつまらない。

華やかなデザインも良いけれど、金ペン先の書き味を味わうことが万年筆の醍醐味で、その奥の深い楽しみを多くの人に知ってもらいたいと思っています。

いろんな時世から、売れるものの単価が下がり、万年筆の単価が下がることも仕方ないことなのかもしれない。そんな状況において日本のメーカーの万年筆は、万年筆のファストファッション化と戦えるものだと思っています。

日本のメーカーはデザインをオーソドックスなものにして、14金のペン先を装備した万年筆を1万円代から選べるようにしています。そして、それ以上の価格帯のものを選べば、さらに良い書き味が得られるようになっています。

1万円代で金ペン先を備えた万年筆の代表的なものは、プラチナセンチュリーです。

弾力が強めの硬い14金のペン先を備えていて、その特長は一定のインクの濃さで揃った文字を書くことに特化しているというところにあります。つまり手帳にきれいな揃った文字を書くことに適していて、今の時代の万年筆のあり方に合致しています。

逆に柔らかいペン先のモノを使いたいと思う時は、パイロットやセーラーの2万円のものを選ぶと期待通りの書き味が得られます。

パイロットカスタム742は豊富なペン先バリエーションがあり、硬さも選べるほどです。書き味の良い万年筆を使いたいと思っている人はまずカスタム742をお勧めします。他には、セーラープロフィット21はそのペンポイントの研ぎのせいか、味のある文字を書くことができると思っています。書くことが楽しくなる万年筆の筆頭だと思います。

こうしてメーカーを横断して国産の万年筆について考えると、その書き味だけでも様々な個性があることが分かりますし、それぞれに深い味わいがあります。

もしかしたらこれは大人の渋い万年筆の楽しみなのかもしれないけれど、私は面白いと思う。

低価格で、私たちのこだわりに応えてくれる国産の万年筆を大切に思っています。

⇒プラチナ萬年筆 センチュリー

⇒パイロット カスタム742

⇒セーラー プロフィット21

手帳で遊ぶ~コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ発売~

持っているだけで嬉しい手帳を作りたいと思いました。それが今の時代の手帳のあり方のような気がしました。

それを実現するのに、革の種類にこだわって珍しい革を使う方法もあるし、色や形に凝る方法もあるのかもしれません。

当店は、ダグラス革という野趣味があってブラシや布で磨くと強烈な艶を出す革を使って、質感を楽しめる、厚みを持たせたコロンとした形の小さな手帳でそれを実現しました。

それがコンチネンタルM5システム手帳です。

最初に作ったものは11mmリングでしたが、今回は13mmリングにし、それに合わせて全体のサイズも見直しました。

リングの直径にすると2mmの違いですが、挟める紙の枚数が30枚以上多くなります。

紙面のサイズが小さい手帳なので、どうしても枚数が増えることになります。リング径を大きくすることで、持っているだけで嬉しいこの手帳をより使いやすいものにしてくれましたし、よりぶ厚く、コロンとしたフォルムになって、個性が強調されたと思います。

革を厚い状態で使っていますので、はじめはなかなか自然に閉じず、使いにくいと思われるかもしれませんが、そんなことよりも革の質感とこのフォルムを大切にしたかった。

実用性に目をつむることは店としてなかなか勇気の要ることだけど、賛否両論あるこういうものを世に問うことはなかなか面白い試みだと密かに思っていました。

コンチネンタルシリーズに使っているダグラス革は、廃番になっていて、残り全てを買い占めてくれた革作家カンダミサコさんの在庫もあと数枚になってしまいました。

今すぐになくなるわけではないけれど、あと1年くらいで使い切ってしまうと思います。

M5システム手帳のサイズに合ったペンを探し、カンダミサコのM5システム手帳用ペンホルダーに入れて、一緒に持ち運ぶことも、この手帳の楽しみのひとつです。

工房楔の限定商品ルーチェコルタは、この手帳、ペンホルダーにピッタリのペンのひとつです。ノック式ボールペン ルーチェペンの太さをほぼそのままに、長さを120mm以内にしたもので、コロンとした形はコンチネンタルM5システム手帳にピッタリです。

ルーチェコルタは素材違いで何本も持っていたくなります。金具の残りが残り少ないので、ぜひ早めにお選び下さい。

手帳遊びをもう一つ。当店オリジナルのM5システム手帳用Liscio-1リフィルは万年筆で極上の書き味が得られるリフィルとしてぜひお使いいただきたい。小さな手帳に極上の書き味って?と思われるかもしれないけれど、私たちはどんな時も妥協せず極上の書き味を味わっていたい。それが遊び心だと思います。

このリフィルはシンプルな4mm方眼罫ですが、このサイズの紙に書く文字の大きさを考え抜いた方眼のサイズになっていますので、実は非常に使いやすいものになっています。

仕切りとして使うディバイダー、かなじともこさんがデザインしているそら文葉リフィルなど、M5システム手帳を遊ぶものを色々ご用意しています。

⇒コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ

⇒カンダミサコM5システム手帳用ラップ型ペンホルダー

突き詰めた革の形~カンダミサコバイブル手帳用ペンホルダー


元町も県庁より山側に上がると、静かで美しい住宅街になります。

こんなところに店を構えることができたらいいなと思って歩くこともありますが、駅から離れてしまうのと少し坂がきつくなるので難しいのかもしれません。

でも暮らすにはとても良いところだと思います。

そんな街の片隅にカンダミサコさんの工房があって、カンダさんも私たちと同じように、仕事に情熱を燃やしながら静かにマイペースに暮らしています。

当店の革製品の多くはカンダさんによるもので、その独創的でセンスのいい仕事に私たちも惚れこんでいます。

このたびカンダさんが独特な形状の、バイブルサイズシステム手帳用のペンホルダーを作りました。

そのペンホルダーは、システム手帳につけていない状態だと一見どう使うのか分からない形をしています。でもいざ手帳にセットしてみると、ペンのサイズを選ばないペンホルダーであり、書くべきところをすぐに開くことができるページファインダーであることが分かります。もしかしたら、もっと他にも使い方があるかもしれません。

かなじともこさんの筆文葉リフィルのように、どうやって使いこなすかを問いかけているような商品でもあります。

ペンホルダーの付いていないカンダさんのバイブルサイズシステム手帳で使うことをイメージしていますが、もちろんバイブルサイズであれば何ら問題なく使うことができます。

25mmリングを装備した厚手のマルセシステムバインダーにつけると、持ち出さず書斎やオフィスでの使用をイメージしているこのバインダーが持ち出して使いたいと思わせる機動力を得たような気がします。

上質な革ブッテーロを薄く剝いて、曲げやすく、挟むペンのクリップを傷めないようにしています。むしろ薄く剝くことで柔らかさが出て、 ハリのある滑らかなブッテーロ革の質感が活きている気がします。

他に似ているもののないこのペンホルダーはとてもシンプルですが、いくつもの試作を経て実際使ってみながら、やっとたどりついた形です。

多くの人に使ってもらっていて、名作だと私は思っているカンダミサコさんのM5サイズ手帳用のペンホルダーも、こうやって少しずつ修正して、丁寧に作り込んでいって、あの独特だけどスムーズな形ができたことを思い出しました。

丁寧で正確なステッチが施されたシステム手帳やペンケースとはまた違った、シンプルに革のカットだけで機能性を作り出している、カンダミサコさんのモノ作り。

新作のバイブルサイズシステム手帳用ペンホルダーが出来上がりました。

⇒カンダミサコ バイブルサイズシステム手帳用ペンホルダー

パイロットキャップレス(Vanishing point)

パイロットはキャップレスを海外でVanishing pointという名前で発売していて、万年筆ファンの間ではVPと呼ばれたりして、その存在は定着しています。

ペン先が収納できる万年筆は他にもあって、有名なところではスティピュラ「ダヴィンチ」、ラミー「ダイアログ3」などがあります。

好みは分かれるところかもしれませんが、デザインとしてそれらのペンは素晴らしかったし、ペン先が乾いて使いこなしに苦労したとしても、使いたいと思わせる魅力がありました。

それらは製品としての完成度よりも、作品として魅力のあるものだという言い方ができるのかもしれません。

万年筆の世界には、使い勝手や利便性に優れたものよりも、使いこなしにコツが要るものや、一手間かけないといけないけれどデザインが素晴らしいものが好まれる風潮があるのかもしれません。 

そして今は高級品よりも、スチールペン先でデザインの良い低額なものが主流になっています。

しかし日本の万年筆はその範疇に入りません。

使いやすくて書き味が良く、シンプルでオーソドックスなデザインが日本の万年筆の特徴です。そういうモノ作りは今の流れからは外れているのかもしれないけれど、それを支持する人は海外にもたくさんおられます。

私は日本のメーカーの「作品」という作り込みの甘さも許される言葉に甘えない、製品としての完成度の高い万年筆を作り続けていることを誇りに思っていて、パイロットキャップレスは日本の万年筆らしい万年筆だと思います。

高い精度でインクを乾きにくくした構造を持ち、実用品として使いやすいペン先が収納できる万年筆。キャップの開閉から解放されているということを考えると、一番実用的な万年筆なのかもしれません。

キャップレスの最新作で、キャップレスの60年以上の歴史の集大成と言えるのが、キャップレスLSです。

インクが乾かない信頼の機構をさらに進化させて、手に伝わるフィーリングにもこだわり、その感触で上質さを表現しています。

そのノックの感触は性能の良いオイルの働きによるもので、静かにノックすることができ、静かに滑らかにペン先を収納することができます。このLSはキャップレスが実用性だけでない、さらに高い次元のモノ作りに到達したものだと思っています。

キャップレスを快適に使うには、私はカートリッジインクで使うことをお勧めします。それでインク漏れのトラブルは回避できるし、書き味も良くなるからです。手帳などの用途で、細かく、書き味よく使うことができるのはF(細字)で、これがキャップレスに合った字幅ですが、大きな文字を書かれるのなら、さらに書き味の良いM(中字)もいいでしょう。

日本のこだわりのモノ作りは、その需要を捉えられず、今苦しんでいるのかもしれません。

たしかに良いものを作ったら、宣伝しなくても認められる時代は終わったのかもしれず、それはきっといろんな需要が生まれてきたからだと思います。

でも良いもの、クオリティの高いものが求められなくなったわけではなく、万年筆においては日本でしか表現できないモノ作りがされていると思います。これからもそれを続けてもらいたいし、続けてもらえるように我々販売店も日本の万年筆の良さを伝えていこうと思っています。

*パイロット キャップレスLS

ペン先調整

最近はずっとペン先調整に追われています。ほとんどが配送でのやり取りで、順に調整して、1週間~10日くらいでなるべくお返しするようにしています。

ペン先調整のご依頼が多いのは万年筆店として正しいことだし、たくさんの調整のご依頼をいただいて追われることは、本当に有難いことだと思っています。

ペン先調整をしてお金をいただくようになって13年になります。始めた頃に比べたら技術は向上していて、それはテクニックだけでなく、それ以上に意識の変化やアイデアなどの気付きのようなものがあったことが大きいと思っています。

ペン先調整は、今も感謝している各メーカーの何人もの先生方に教えてもらって始めたけれど、それからはお客様から教えられ、自分で気付きながら、ゆっくりと進んできました。

テキストや先生のいないペン先調整もそうですが、仕事において気付くということは本当に大切なことで、気付きが自分の今までのやり方を否定するものであったとしても、それは実行してみるべきだと思います。ペン先調整においても、仕事においても、今よりも未熟だった時の自分のこだわりはすぐさま捨て去る切り替えの早さはどんな仕事においても必要なことだと思う。

ただ、配送でお送りいただいた万年筆のペン先調整の方針は最初から変わっていなくて、シンプルにペン先を正しい状態に整えることだと思っています。

段差があって食い違っていれば揃えて、ペンポイントの左右の大きさが違っていれば同じにして、ペン先とペン芯が離れていれば密着させる。正しい形にペン先を整えるのなら書いているところを見なくてもできるので、配送でのやり取りでも対応できるし、調整自体それで十分だと思っています。

もちろん筆記角度を合わせたり、特別な研ぎを注文されたり、それ以上の調整を言われることもよくありますが、それにも対応しています。

正しい形にペン先を整えるだけで万年筆は驚くほど気持ち良く書けるようになります。

そこから使われる人がご自分の書き方で慣らしていけばいい。正しく整ったペン先はもっと書き味の良い万年筆にすぐになっていくでしょう。

配送でやり取りした万年筆のペンポイントを撮影したものを当店のホームページの「NIB WORKS」 というページに載せています。

ペンポイントをこうやってデジタル顕微鏡で撮影するようになったのは、美しいペンポイントをただルーペで見ることが好きで、皆様にも見ていただきたいと思って始めたことだったけれど、自分のペン先調整にも役立っています。

自分が調整したペンポイントを拡大撮影すると、第三者の冷静な目で見ることができます。撮影する時に違和感を覚えて、やり直したこともありました。

それぞれの万年筆を、それぞれの万年筆のあるべき姿としてペン先を正しい形に整えるペン先調整には、個性とか、自分の理想を表現したいという欲求を抑える理性が一番必要なものだと今は思うようになりました。

ペン先調整を仕事として考えると、本当に奥が深くて、底無し沼のような怖さがある。そこに入ってしまうと他は何も見えなくなってしまう。それだけを延々とやってしまいます。

でも私たちの仕事はそれだけでは成り立たないし、視野を広く持たないと良い仕事はできないと思っています。

私は若い時にペン先調整だけをする環境にいなかったので、本当に良かったと思います。だから今自分のペン先調整を冷静に見ることができるし、他のこととのバランスを取りながらやっていられるのだと思います。

*NIB WORKS