手を掛けられたステーショナリー

手を掛けられたステーショナリー
手を掛けられたステーショナリー

仕事で台湾に行っていました。
歩き回る旅でしたので荷物は最小限にしたいと思って、確実に機能してくれるものだけを持って行きました。
遊びの要素はなるべく排して、仕事で使うものだけを厳選。
万年筆は飛行機に乗ってもインク漏れしないと信頼しているペリカンを1本だけを持って、メインで使うのはシャープペンシルでした。
芯を何本か入れておいたら、そう簡単になくならないし、事故もない。ハイユニの芯ならヌルヌル気持ち良く書くことができます。
手帳はカンダミサコさんのバイブルサイズに、予め調べておいたことや、出張中のスケジュール、ToDoを書いておいて、原稿も書けるように十分な用紙も補充しました。
いろんなお店を見たりして刺激を受けて、いつもよりたくさんのことを書くだろうと思っていました。
結局、飛行機の中でも、夜部屋に戻ってからも何か書いていて、やはりバイブルサイズくらいのスペースがないといけなかったので、システム手帳としては薄めのカンダさんのバイブルサイズのシステム手帳がちょうどよかった。

台北の文具店は、誠品書店という別格を除くと2つのタイプがありました。
1つは比較的規模が大きい古いタイプの文具店でした。店の中央にレジカウンターがあって、事務用品から万年筆までの文房具一通りを揃えているけれど、陳列は荒っぽく、置いている品物にこだわりは感じられない。その代わり値段は安い。
もうひとつは文具雑貨店とも言える店。店の奥にレジがあり、文具店というよりも文具のある生活を提案しているようなライフスタイルショップでした。個人経営だと思われる小さなお店であることが多かった。

行こうと思って調べておいた良さそうなお店では日本製のステーショナリーがその店の雰囲気を作る役に立っていたし、どのお店でも日本製のステーショナリーに対するリスペクトを感じました。
良さそうなお店の多くは10年以内に作られたようなところがほとんどで、旧来の台湾の文具店とは違った新しい感覚で作られたものでした。その新しい感覚の中心に、日本のライフやツバメノートなどの古くからあるステーショナリーが選ばれているというのは不思議な感じがしなくもなかったけれど、台湾も大量生産、大量消費ではなく、ひとつひとつの値段は高くても、人の手が感じられる良いものを少しずつ使うという考え方も新しいタイプのお店のメッセージだと思いました。

それは当店も同じで、メーカーがその技術力で仕上げた工業製品である万年筆に、ペン先調整という一手間かけることでその万年筆をより書き味の良いものにしている。
今回台湾行きで持って行ったカンダミサコさんのシステム手帳も工房楔のシャープペンシルも、手のかかる良い素材を、手を掛けてよいものに仕上げて長く愛用できるものにする。ただ機能を満たせば良いのではなく、そういうものは値段は少し高くなるけれど、使っていて心地良い、長く愛用できるものだということを伝えたくて店をしている。

そんなことを改めて思い出した台湾への出張でした。

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メーカーを支える中堅万年筆~WATERMANエキスパート~

メーカーを支える中堅万年筆~WATERMANエキスパート~
メーカーを支える中堅万年筆~WATERMANエキスパート~

万年筆メーカーの最上位モデル、フラッグシップモデルは良いに決まっているけれど、一番ポピュラーなモデル、中間クラスの万年筆が本当はそのメーカーを支えているのではないかと思います。
そのメーカーについて語る時に挙げられることは少ないかもしれないけれど、その万年筆を使っている人をよく目にして、印象に残っているのがきっとそういう万年筆なのだと思います。
長く静かに作り続けられてきたそういう万年筆に、ウォーターマンエキスパートがあります。

エキスパートはスチールペン先の普及版の万年筆として、日本で27年も販売されてきたロングセラーモデルです。
ステンレススチールのペン先だということと、ずっと存在し続けていて、何となくあって当たり前の存在になっていましたので、私もこの万年筆について語ることはありませんでした。
しかし、しっかりとしたレギュラーサイズのボディ、曲線を取り入れた程良くエレガントなデザインなどから、ウォーターマンの普及版にして代表的な万年筆だと思っていました。
1883年、世界で最初に現在の万年筆のインクが出る原理となる毛細管現象を取り入れた、ウォーターマンのフラッグシップのペンがどれもあまりピンとこなかったのは、実はこのエキスパートが代表作だったからなのかもしれません。

そのウォーターマンエキスパートに金ペン先モデルエキスパートエッセンシャルが発売され、私はすごいことだと歓迎しているけれど、万年筆の業界の中では静かな話題なのかもしれない。
今までスチールペン先で売れていた万年筆を金ペン先にグレードアップして発売するという行為が、現代の万年筆業界の動きに逆行するもので、興味深く思いました。
最近は万年筆の低価格化、金の高騰などの理由からスチールペン先の万年筆が増えています。
しかし、万年筆の書き味の醍醐味は金でないと得られないと思うので、できれば万年筆のペン先は金であって欲しい。だから昨今の業界の動きをつまらなく思っていました。
ウォーターマンエキスパートの金ペン先モデル発売は、そんな杞憂を少し晴らしてくれる、私にとって明るい出来事です。

エキスパートの金ペン先は少し硬めのものですが、金属でドッシリとしたボディとの相性が良く、硬質なスチールペン先とは違う豊かな書き味を持っています。
ウォーターマンを代表する万年筆だと思っているエキスパートの待望の金ペン先モデル。価格も抑えめで、この万年筆で初めて金ペン先を使う人も増えると思いますし、ウォーターマンをこのペンで初めて使う人も増えると思います。


・WATERMANのページが現在ないため、「手紙用品」に入っています

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手帳の風景を作るもの

手帳の風景を作るもの
手帳の風景を作るもの

先日参加しました東京インターナショナルペンショーでは、各出展者はこの催しに来られるお客様に好まれるものにフォーカスした品揃えで、それぞれのお店や会社、クリエーターの世界観を提案されていました。
万年筆店はオリジナルインクとオリジナル万年筆を前面に出しているところが多く、当店のようにペン先調整、万年筆、革製品、木製品、紙製品など色々な商材があるところはありませんでした。
せっかく東京まで行くのだからと何でも売りたい、という気持ちがはやったこともあるし、提案したいことがいくつもあったから、多様な品揃えになってしまった。
ペンショーで当店ができることで、求められていると実感したのは、ペン先調整でした。
店頭ですぐにペン先調整をしているお店が少ないこともありますが、それだけ万年筆の書き味に対して要望のある人が多いのだと感じました。
ペンショー前夜の親睦会で聞いた話では、海外ではペン先調整をするお店はほとんどないということを聞きました。
日本ならではの需要ではなく、ペン先調整に対する需要が海外にもあるのだと知ることができたのは収穫でした。

ペン先調整を施した万年筆の販売の他に、ペンショーのお客様に見せたいと思っていたのが、システム手帳の中身をカスタマイズすることでした。
特にM5サイズのシステム手帳は小さく、ポケットに入る遊び要素の強いシステム手帳だと思っています。
広く売られているアシュフォードのM5リフィルの他に、かなじともこさんがデザインしている「そら文葉」と、当店オリジナルの「Liscio-1紙方眼リフィル」「カンダミサコM5用ペンホルダー」は、手帳を自分仕様にカスタマイズしたいと思っている人に選ばれていたと思います。

私だけかも知れませんが、手帳の表紙を開いた時にすぐ何かを書いた紙が見えるのは何となく白ける気がします。
中表紙のようなものがあって欲しいと思って作ったものが、羊皮紙という紙で作った「デバイダー」でしたが、こういうものが手帳の中の世界を演出するのだと思います。
ちなみにデバイダーは付箋やインデックスなど耳を付けるとインデックスにもなります。

東京インターナショナルペンショーに間に合うようカンダミサコさんが作ってくれた、ブッテーロの1枚革で作ったペンホルダーも自慢の1品でした。
良い革を使ったかっこいいペンホルダーなので、多くの人に使っていただきたいと思っています。
試作を重ねて少しずつ完成形に近付けていったカンダミサコさんのクリエイティビティーが発揮された、シンプルだけどオリジナリティのあるペンホルダーで、ペリカンM400くらいの太さまでなら、スムーズに出し入れできます。
また、M5手帳にペンを合せて持つ場合、長さ12cmくらいまでのペンが合うと思っています。当店は、ペリカンM400を細字研ぎ出し加工を施したものを販売していて、M5手帳と大変相性の良い組み合わせです。
このペンホルダーは、ペンと手帳を結び付け、手帳の世界を作ってくれるもので、東京でも多くの人に見てもらいたいと思っていました。
おかげさまで多くの方に実際ごらんいただき、今回持って行った商品の中ではよく売れていたと思います。
やっとホームページにも更新しましたので、ぜひご覧下さい。

⇒カンダミサコ「M5手帳用 ペンホルダー」

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革表紙のメモ~携帯用の試筆紙としても~

革表紙のメモ~携帯用の試筆紙としても~
革表紙のメモ~携帯用の試筆紙としても~

良い革を切り放しただけのものを表紙にしたメモ帳、「サマーオイルメモノート」というものを以前作っていて、それをリニューアルしました。
メモ帳の台となる革はその厚みと手触りの良さから、以前と変わらずにサマーオイル革を厚いまま使っていますが、表革をより用途に合った革に変更しています。
美しい艶が出て色変化も激しい。エージングが劇的な革のひとつ、ミネルバボックスを使用しています。
ミネルバボックスは程よく柔らかく色気のある革。タンニンなめしの良い香りがして、この革がイタリアで作られた革だということがわかる気がします。
メモ帳としてこれで充分だと今までは思っていたけれど、次にメモを作るならどうしても中紙に切り取り線を入れて、書き終わった紙を楽に切り取れるようにしたいと思っていました。
切り取り線は村井製本所さんが誇るマイクロカットミシンの技術によって、切り取るのが快感に思えるほどスムーズに切り取れるし、切った紙もギザギザしていません。
200枚の紙は天のりで束ねています。
メモ用の紙は沢山の枚数が束ねてあるほど安心感があっていいですが、携帯するには薄い方が良くて、好きな厚さに割って革の表紙に挟んでおけるようにしました。

これは手元に置いて何でも書けるメモ帳ですが、携帯用の試筆紙としても提案したい。
お店で万年筆を買うときだけでなく、万年筆を趣味としている人の中には、人の万年筆を試し書きさせてもらう機会のある人も多いと思います。
そういう時にもきっと役立つものではないかと思っています。
ちょっと試し書きするのに、いつも使っているダイアリーに書くのも嫌だし、人前に出すものなので、ちょっとこだわりのあるものを出したい。
手渡されたペンを硬いテーブルの上にそのまま置かず、この革表紙の上に一旦置くようにしたい。そういう相手への心遣いも、革表紙のメモは表現できます。

そして試し書きする時に何を書いていいのか分からず、名前や住所を書いてしまうことが多いという人も少なからずおられると思います。
そういう時に参考にしてもらいたいと思い、当店で月1回ペン習字教室を開催して下さっている堀谷龍玄先生に小説の一節を楷書で書いてもらいました。
替紙に1枚ずつお付けしています。
4種類のお手本があって、それぞれの部分は完全に私の好みで選んでいます。
メモ帳という仰々しくすると使いにくくなるものでも、使い込むと馴染んでくる上質な革の素材であってほしい。そういう声が多くて再び作り始めたシンプルな革表紙のメモ。
こういうものが一番使いやすいと私も思っています。

*カンダミサコ「革表紙のメモ」

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M5リフィル 「そら文葉」発売

M5リフィル 「そら文葉」発売
M5リフィル 「そら文葉」発売

システム手帳リフィル筆文葉のデザイナーかなじともこさんが当店から独立して、智文堂という屋号で活動されています。
商品の製作の他、ご自身でオフ会を開催されたり、当店でイベントをしていただいたり、外部イベントに一緒に参加していただいています。

6月に発売されました趣味の文具箱vol.50にも紹介されたり、インスタグラムで発信している記事も多くの人に見てもらえるようになって、かなじさんの知名度が上がってきているのを私も実感しています。
かなじさんが手帳リフィルのデザインを仕事にするきっかけになれたことを、とても誇りに思っています。私たちもかなじさんに負けないように、ともに高め合えるよう活動したいと思います。
そういう刺激を与えてくれる、その人に見られて恥ずかしくない仕事をしていたいと思える相手が齢とともに増えていく。
何歳になっても楽しみながら、ともにあがき続けていきたい。

話を戻すと、かなじともこさんがM5システム手帳リフィル「そら文葉(そらもよう)」を発売しました。
先日当店で開催しました「智文堂PopUpStore」でお披露目しましたが、お客様方の反応は非常によかったと思います。
女性のお客様が多く、その中の一人であるシステム手帳の作り手のカンダミサコさんは、自分用に作ったシステム手帳を使うのをそら文葉の発売まで待って、買いに来てくれました。

バイブルサイズリフィル筆文葉もそうですが、M5リフィルそら文葉は、このリフィルの使いこなしを使い手に考えさせるところがあります。
何も考えずに使わせてくれず、使い手に工夫を要求するというイメージ。
それは書き味から快感が得られて、いつまでも書いていたいと思わせてくれる、当店オリジナルの「Liscio-1リフィル」の対極にあるものだと思えて面白い。
自分の手帳の用途、実情にどの罫線が合っているか、そしてどのようにレイアウトして使うか。正解は自分にしか分からないけれど、かなじさんから出されたクイズに答えるような感覚になります。
パズルを解くように、古い常識に捉われている硬い頭を柔らかくして使いこなす。それを考える作業が実は一番楽しくて、手帳を使いこなす楽しみの大きな部分を占めていることをかなじさんは伝えたいのだと思います。

私も自分なりにそら文葉の使いこなしを考えている途中ですが、フレックスダイアリーはミニ5穴システム手帳を1日1ページとして使っている私にとっては、とても使いやすいと思ったリフィルのひとつです。
フレックスダイアリーと4つ折りカレンダーを組み合わせると、半年のスケジュールと1日1ページやウィークリーと合わせて見ることができる。
この小さな紙面に無限の可能性が、楽しめる要素があるようにさえ思えます。

そら文葉の用紙は筆文葉とは違っていて、少し薄めの紙になっています。挟める枚数に制約の多いミニ5穴システム手帳で使いやすいようになっていますが、書き味はかなり良いと言えます。
どこにでもある普通のものでなく、それに惹かれる人は少ないけれど、その良さが分かった人にはより楽しんでもらえる。
少ない人数をターゲットにしているからこそできるモノ作り。この店でしか手に入らないものをなるべく作ったり、売ったりしていきたいと、私たちは思っています。

*智文堂「そら文葉」
*智文堂「4つ折りカレンダー」

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⇒2018.1.19「筆文葉吹き寄せパック~風物のデザイン~新発売」
⇒2019.4.19「頭を空っぽにする筆文葉リフィル」

オリジナルダイアリー2020年完成しました

オリジナルダイアリー2020年完成しました
オリジナルダイアリー2020年完成しました

毎年発売していますオリジナルダイアリー2020年版が出来上がりました。

最近システム手帳の趣味性の追究ばかりしてきましたが、時系列が分類のルールのダイアリーにおいて、綴じ手帳の優位性は否定しようがない。
ウィークリーダイアリーにはマンスリーダイアリーもあって、予定とToDoを管理して、記録も書ける道具として、これ1冊で全く不足のない完璧なダイアリーだと思っています。
マンスリーダイアリーは薄型で、壁掛けカレンダーのようでパッと見て分かりやすい仕様です。
システム手帳と併用しながら、スケジュールだけをこのマンスリーダイアリーで管理するという使い方にも重宝します。

もしかしたら私だけかもしれないけれど、仕事をもっと良くしたいと思った時に手帳の仕組みを変えたくなります。
せっかく考えて効率的に組んだ手帳の仕組みを全てクリアーにしてゼロから始めることは、もしかしたら無駄な行為なのかもしれないけれど、いつまでも一緒でいいものなんて特に仕事においてはあるはずがない。
時が流れるのとともに仕事の仕方や内容は変化して、気分も変わる。手帳はそれを反映しているものなのだと思っています。

オリジナルダイアリーは、当店と大和出版印刷さんそして分度器ドットコムさんの3社の共同企画で作り始めて、今年で10年になります。
自分たちが理想とする万年筆で書くためのダイアリーを作ろうと、印刷や製本の技術のある大和出版印刷さんと、アイデア豊富で感性の鋭い分度器ドットコムの谷本さん、そして当店の3社で今も作り続けています。
今まで3社の意地と、特に大和出版印刷さんのおかげで続けてくることができましたが、毎年昨年よりも良いものを作りたいと思って作ってきました。
作り上げて、出来たと思ったら違うところが気になり、毎年少しずつ手を加えながら、改良しながら今の姿になった。
10年かけて熟成してきたレイアウト、見やすいフォント、万年筆のインクを弾かない印刷、1年間使い通すことができる強度と平らに開く製本技術、書き味の良い用紙。
手帳の趣味性とか、面白さというものを超越したところにオリジナルダイアリーはあると思っています。
今では様々なフォーマットのダイアリーが存在するけれど、オリジナルダイアリーのフォーマットは奇をてらったように見えず、よくあるものに見えるかもしれません。
しかし、ウィークリーもマンスリーダイアリーも他のどれにも似ていなくて、これを使い始めた人にとって代わるものはないと思えるはずです。

これを使う人の仕事や生活を支えるものとして、より愛着を持てる存在になって欲しいと思い、今回はSkyWindさんにオリジナルダイアリー用ミツロウ引きカバーを作ってもらっています。それは9月末完成予定ですので、またご報告します。

⇒オリジナル正方形ダイアリーTOPへcbid=2557112⇒オリジナル正方形ダイアリーTOPへcsid=1″ target=”_blank”>⇒オリジナル正方形ダイアリーTOPへ

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旅の装備に

旅の装備に
旅の装備に

旅の場数をこなすうちに装備が充実してきます。
車内でどう過ごすか、移動中に取り出したいものは何かなど、旅の間の自分の行動がわかってくるので、それに合わせたものが揃ってきました。
最近は、次の東京インターナショナルペンショーにも持って行くペン先調整用の機械を入れて運ぶものを何とかしたいと思っています。
今はホームセンターで買った機械運搬用のアルミケースをカートにベルトで縛り付けて使っていますが、結構な手間が掛かるうえに飛行機に乗る度外さなければならず、時間がもったいないと思えて来ました。
今欲しいのは、軍用にも使われているペリカン社の大型で車輪付きのプラスチックケースです。万年筆のペリカンとは別のイギリスの会社ですが、中身を保護してくれる丈夫なケースを作る会社として有名です。

調整機をカートで引いていくため、自分の着替えなどはリュックを背負うしかなく、なるべく荷物は少なくしようと心掛けています。
でもどんなに荷物を減らしても、万年筆は持って行きたい。万年筆のない出張先のホテルでの時間は寂しすぎる。
私にとって万年筆は無理してでも持って行くものなので、結果ぎゅうぎゅうのリュックの中に押し込むことになってしまいます。
そういう時に安心感があるのはル・ボナーの絞りペンケースやイル・クアドリフォリオのシガーケース型ペンケースSOLOです。

ル・ボナーの松本さんもイル・クアドリフォリオの久内さんも旅好きな人なので、どちらのペンケースも実体験に基づいて生まれたのかもしれません。
私が乗るような国内線の飛行機では万年筆のインクが漏れるということが少ないと思いますが、多くの人の証言から、ペリカンM800はインクが漏れない万年筆として知られてもいいのではないかと思いました。

多くの万年筆を使うようになって、個性的なものを知るようになると、万年筆の超定番であるペリカンM800は少し面白味に欠けると思い始めるのかもしれません。
でも、丈夫でトラブルが少なく道具としての安心感は抜群で、先程のペリカンケースとの共通点があります。
万年筆としては大きく感じることもあるM800ですが、特に意識することなく握っても、自然に手にフィットするバランスの良さは他に代わるものはないと思います。
荷物が多くて万年筆を1本しか持って行くことができないという時、私ならル・ボナーやイル・クアドリフォリオのペンケースにM800を入れて、ぎゅうぎゅうの荷物に押し込むだろう。
趣味的な面白い万年筆も良いけれど、丈夫で信頼性の高い超実用的な万年筆もご紹介していきたいと思っています。
私の単独の出張販売は今年はほぼ終わりましたが、他のイベントもありますのでご案内させていただきます。

・9/15(日)「智文堂・Pop Up Store」:当店開催・終日
システム手帳リフィル筆文葉のデザイナーかなじともこさんが、リフィルの販売をします。イベント限定の商品や、新作のM5システム手帳リフィルもお披露目します。

・9/28(土)29(日)「工房楔イベント」:当店開催・終日(最終日は18時まで)
工房楔の永田篤史さんがこの日のために作りためた木製品の販売をします。
かなり多くの木製品を一度に見ることができる春秋恒例のイベントです。永田さんは最近デザインがシャープになって、さらに洗練されてきました。そんな新作の販売も始まります。

・10/5(土)6(日)東京インターナショナルペンショー
このイベントは私とスタッフ全員で参加します。当店のオリジナル商品、新商品もご用意しています。会場ではペン先調整も承りますので、ご希望の方はメールかお電話でご予約下さい。
*期間中準備を含め10/4~7は実店舗は閉店しておりますのでご注意下さい。

・11/23(土)24(日)神戸ペンショー
当店の近くで開催される地元での大きなペンショーで、リラックスした雰囲気の楽しめるイベントです。

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⇒2010.7.16「旅の装備 ル・ボナーのペンケース」
⇒2014.7.18「旅の仕度」

ヨーロッパの匂いのするモノたち

ヨーロッパの匂いのするモノたち
ヨーロッパの匂いのするモノたち

過去2回の札幌での出張販売は、集客・売上ともに苦しく、札幌では当店は受け入れられないのかもしれないと思い始めていました。
でもその一方では来て下さるお客様のお顔が思い出され、札幌での出張販売をやめるとなると辛い決断になると思いました。
一度決めた街なので、何とか札幌での当店の出張販売の形を作りたい。
だから今回は、後がないという決意を持って臨みました。

すると今年の札幌の雰囲気は違っていました。
座ってゆっくり世間話をしながら、ペン先調整やお探しの商品をお申し付けいただいたりするのはいつもの当店のスタイルですが、何となく札幌での形が出来上がっていました。
本州との季節や気温の違い、都市間の距離感の違い、先日札幌市内に出没したヒグマの話など、万年筆やステーショナリー以外の話で大いに盛り上がり、本当に楽しい時間を過ごすことができた。
初めて札幌らしい形ができ始めていることを実感しました。

札幌の出張販売の会場は、北晋商事さんが運営されているギャラリーを使わせていただいています。
北晋商事の金社長は、写真趣味が高じてヨーロッパの古いオリジナルプリント写真を収集されています。それらは全て鑑定されたもので、歴史的にも貴重なものです。
そこはそれらを展示するためのギャラリーで、3年前から始められたそうです。
そんな歴史的にも価値のある作品に囲まれている環境は、出張販売の場所としてとても贅沢な空間です。
一枚一枚いくら時間かけて見ていても見飽きない作品がある札幌の出張販売。
福岡や東京とはまた違ったものになっていて、それぞれの街での出張販売の形があることを実感しました。

北晋商事さんは、代表的なところではローラーアンドクライナー、KWZ、ダイヤミンなどのインク、クレオスクリベントの筆記具など、ヨーロッパの手作りの雰囲気が残っている製品を扱われています。
大メーカー、大ブランドのペンも良い思うけれど、完璧に工業化・オートメーション化された製品よりも、人の手が感じられるものを扱いたいといつも思っているので、当店ではローラーアンドクライナー、KWZのインクと、クレオスクリベントの万年筆を販売しています。
北晋商事さんは日本のインクブームのきっかけになった会社のひとつだと思っていて、今も新しい海外のインクを日本に次々と紹介されています。

ローラーアンドクライナーのインクの素朴な形の瓶、時代を感じさせるシンプルなデザインのラベル、そして発色の良さや紙への定着の良さなどに優れたインクの質。
インクメーカーはたくさんあるけれど、ドイツの片田舎で作られているローラーアンドクライナーは良質なインクを作るトップメーカーのひとつだと言えます。
KWZインクは色数豊富で、万年筆やインクが好きな人の立場でインクを作っていて、絶妙なラインナップの色を揃えています。

それらのインクは当店でもなるべく全色ご用意するようにしています。
クレオスクリベントの天然木をボディに使用したナチュラシリーズは、素材の入手が難しく製作数が少ないためなかなか在庫できないのですが、できる限り取り扱っていきたい。
北晋商事さんが扱っている製品は、世界やヨーロッパを代表する主流の製品ではないけれど、ヨーロッパの田舎の風景が見えるような素朴で、ハンドメイドを感じられ、ヨーロッパの匂いも一緒に運んでくれるような製品ばかりです。

私たちは、たいていいつも変わらない毎日を繰り返しています。でも私はそれに愛着を感じて愛おしく思っている。そんな生活にしっくりくるのは、温かみを感じることのできる素朴なもので、札幌のイベントでの時間はそれらのヨーロッパの片田舎で作られているものについて見直す時間にもなりました。

⇒CLEO SKRIBENT(クレオ・スクリベント)cbid=2557105⇒CLEO SKRIBENT(クレオ・スクリベント)csid=8″ target=”_blank”>⇒CLEO SKRIBENT(クレオ・スクリベント)
⇒ローラー&クライナ-ボトルインク
⇒カウゼットインク

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趣味クオリティを広める

趣味クオリティを広める
趣味クオリティを広める

私たちのように万年筆やステーショナリーを専門的に扱う、お客様の趣味的要望に応えようとする店の課題は、自分たちのしていることを趣味の世界以外の一般の人にも、存在や価値観を知らせることだと思っています。
自分たちが扱っている実用を遥かに超えたクオリティのステーショナリーを使うと、どれだけ気分が良いかということを知ってもらうこと。
それを知らなければ、きっと今使っているものを不満に思うことはないけれど、良いものを知ると今まで使っていた普及品的なもののクオリティでは楽しいと思わなくなります。
その辺りのことを広めるように努力して、自分たちの面白いを伝えるようにしなければいけない。

それはペン先調整も同じです。
きっと多くの人は万年筆のペン先を調整できるということを知りません。
自分が買ったペンが書きにくかったり、書けなかったりしたら、ペン先を交換するしかないと思っている人が多い。
これは持論ですが、万年筆の構造をしていたものなら、ペン先をちゃんと調整したら、金ペンは金ペンの、鉄ペンは鉄ペンなりに書きやすくなる。極端な言い方をするとどんなものでも書きやすくなると思っています。
それだけルイス・エドソン・ウォーターマンが発明した、毛細管現象によってインクがペン先まで伝わる構造は優れているということだと思います。

もちろんはじめから100%のポテンシャルを発揮できている万年筆も中にはあって、それはペン先調整の必要がありません。
よくどんな時にペン先調整をしたらいいのかと聞かれますが、書きにくいと思うペンだけをお持ち下さいと言います。
皆様自分のお持ちのペンが正しい状態かどうか気にされるけれど、ご自分が書きにくいと思っているのであれば、その万年筆のペン先がいくら教科書通り正しくても調整の余地があります。
そういうことができるのが万年筆の良いところで、正解かどうかよりも、自分に合っているかどうかの方が大切です。こういう曖昧な要素があって、パーソナルな仕様が優先される側面が万年筆にはあるので、私はペン先調整を仕事にしたい、そして自分にできると考えました。

きっと何でも理詰めできっちりと考える人にはその人の、美的感覚・芸術的感覚に優れた人にはその人のやり方があるのだと思いますが、私は言葉を交わしたり、そのペン先をルーペで見て使う人の意向を汲み取るようにしたい。
そういうペン先調整を何というか分からないけれど、対話型のペン先調整といつも自分では思っています。
こうやって調整したペン先の書き味を知ってもらえるようにしていかなければ、万年筆もペン先調整も一部の趣味で使う人だけのものになってしまいます。
一般的な人への広がりがないと、後世に残すことができないのではないかと思うことがあります。

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