ウォール・エバーシャープシグネチャーの書き味に驚きました。
シグネチャーはウォール・エバーシャープが今年発売したレギュラーサイズの万年筆の新製品です。
強烈な個性を持つオーバーサイズ万年筆デコバンドと比べると、地味な印象を持たれるかもしれませんが、シンプルなデザインがバランスよくまとまっていて、良い万年筆だと思います。
冒頭でも書きましたが、シグネチャーは紙に吸い付くような大変良い書き味を持っています。でもそれは18金のペン先、という理由だけではありません。
ペン先の柔らかさとボディの重量のバランスからくるもので、エボナイトのペン芯もその書き味を生み出すのに貢献しています。
シグネチャーという万年筆全てで、この書き味を作り出しています。
デコバンドのように過去のウォール・エバーシャープのデザインを復刻したというものではないけれど、シグネチャーからは1920年代のシェーファーライフタイム、パーカーデュオフォールドのような雰囲気を感じます。
ボディの大きさに対してペン先が大きく、その比率がそれらに近いのかもしれませんし、シンプルで無骨というのが共通するキーワードだと思っています。
それらを一言で言うと「メイドインUSAらしさ」ということになるのかもしれません。
書き味が素晴らしいとか、バランスが良いことも私たちに喜びをもたらしてくれるけれど、何よりもこの万年筆のアメリカ製らしい骨太に感じるところに私たちは惹かれるのだと思います。
多くの万年筆はウォール・エバーシャープとは反対の、繊細でエレガントな仕立てになっていて、現代のペンにおいてウォール・エバーシャープは珍しい存在となっています。
だからこそ当店はそこに思い入れを持って、ウォール・エバーシャープを直接輸入している。
バランスが良くて長時間書いても疲れないとか、ペン先が18金で書き味が良いという機能性や実用性は、万年筆にとって無視できないことですが、そこで終わってはいけない。
私たちに喜びをもたらしてくれたから、万年筆は今まで生き残ることができた。
その万年筆が私たちの心を動かすことを、お客様に伝えなくてはならないと思います。
それは万年筆だけに言えることではなくて、全ての扱うステーショナリーにおいても言えることなのだと思います。
ただ使用に足りる機能性があるだけ、良い素材を使っているだけでは、きっとだめなのだと思います。
そういうものはいくらでもあるし、もしかしたら100円ショップにもあるかもしれません。
機能を高い次元で満たして良い素材を使っている上で、使わなくても持っていたいとか、気分が良くなるという心への作用について、もっと考えなくてはいけないと思うのです。
万年筆をはじめとするステーショナリーは、楽しみという実用よりも少し高い次元のステージに上がろうとしている。
ウォール・エバーシャープシグネチャーもそんな時代の要求に応えることのできる万年筆だと思っています。
⇒WAHL-EVERSHARP・シグネチャークラシックコレクションcbid=2557105⇒WAHL-EVERSHARP・シグネチャークラシックコレクションcsid=1⇒WAHL-EVERSHARP・シグネチャークラシックコレクションpage=2″ target=”_blank”>⇒WAHL-EVERSHARP・シグネチャークラシックコレクション
コンチネンタルペンシース 〜便利で使いやすいものから、持っていて楽しいものへ〜
当店で扱うステーショナリーにおいて、機能性を追究するのもいいけれど、そうじゃないものもあっていいのではないかと思い始めています。
良い革を使ったり、作りの良さにこだわったりすることも機能性から一歩踏み出したものではあると思うけれど、それも機能性の上に成り立っているような気がします。
便利で使いやすいものからはみ出したものを作りたいと思い、ぶ厚い革でコンチネンタルミニ5穴システム手帳をカンダミサコさんに作ってもらいました。
革が馴染むまでの硬いうちは開きにくく閉じにくいですが、コロンとしていて可愛らしい。
このダグラス革は、使い込んだりブラシ掛けなどをすると、劇的に艶が出るとてもいい革ですが、廃番でもう作られていません。
カンダミサコさんが買い占めてくれたものがなくなり次第終了となってしまうことは残念ですが、この革の魅力もあって、「なぜか持っていたいもの」ができたと思います。
ミニ5穴システム手帳は、今は品切れ中ですが、ご予約いただきましたら、お渡しできるようにいたします。
ミニ5穴システム手帳と同じ考えで、コンチネンタルペンシース を作ってもらいました。
カンダミサコさんの代表作をベースにして、機能性を無視した当店のオリジナル商品を作ってもらうのはどうだろう?と少し気を使いましたが、ミニ5穴システム手帳と同じように、コロンとした面白いものができたと思っています。
革をかなり厚く使っていますので、外寸を少し大きくしています。
これによりレギュラーサイズのペン以上のペリカンM1000、パイロットカスタム845程度の太さのものも収められるようになりました。
カンダミサコさんのペンシース は、カンダさんが独立して仕事を始めた時からの代表作です。
当店も2周年を過ぎた頃から扱い始めていましたので、カンダさんとはもう10年以上の付き合いになります。
その頃当店もカンダさんも手探りで自分たちの仕事を軌道に載せようとしていました。
私は今だに「軌道に乗るって何?」と思っていて、変わらず余裕もなく働いています。
きっと自分はこんな風に、何かに追われるように、ずっとゆっくりすることなく生きていくような気がしています。
しかしカンダミサコさんは、自分のやり方を確立して、マイペースで地に足のついた活動を続けられています。
カンダミサコさんの力を借りて、当店はまた新たな展開をしようとしていて、それを象徴するのが機能性という常識からはみ出した、コンチネンタルの革製品なのです。
工房楔との出張販売「Pen and 楔 福岡展」
6月8日(土)9日(日) 工房楔の永田さんと福岡に出張販売に行きます。
福岡はすっきりした街の雰囲気や皆様の人柄が温かくて、大切に思っている街です。この出張販売を福岡、九州の人に楽しんでいただけるものにしたいと思っています。
昨年、一昨年の出張販売では連続で豪雨にあって、今年は日程を1ヶ月早めました。
1年前からこの日に予定していたのに福岡でのG20と重なってしまい、福岡市内へのマイカーの乗り入れが出来ないと聞いています。
どうぞ公共交通機関でお越し下さい。
工房楔との共同企画商品のこしらえの長軸タイプは、国産万年筆最高のもののひとつだと思っている「カスタム743」のペン先ユニットをつけることができる万年筆用銘木軸です。
その時々で、永田さんの持っている材で最高のものを使ってもらっています。
良いペン先の書き味と、銘木の景色、質感を味わうことができる当店と工房楔を象徴するオリジナル万年筆です。
このこしらえには別にボールペンユニットをご用意していて、これを装着するとゲルインクの三菱シグノ、ゼブラサラサ、ぺんてるエナージェルや、油性ボールペンの三菱ジェットストリームなどの替え芯を使うことができます。
使いやすい国産のボールペンを、愛着を持って使うことができる軸で使えるようにしたいと思いました。
ただ製作時期によって、こしらえの中にこのボールペンユニットが合わないものがあります。そのためお客様がお持ちのこしらえと実際に合わせてから販売するようにしており、通販はしていません。
こちらのボールペンユニットも福岡に持っていきますので、ぜひお手持ちのこしらえを持って合わせて見て下さい。
銘木をくり抜いて作る、コンプロットの1本用ペンケース「コンプロットウーノ」に当店が独自に輸入しているウォール・エバーシャープデコバンドがピッタリと入ることをご存知の方も多いかもしれません。
オーバーサイズ万年筆の中でも、書き味の特に良いデコバンドの武骨な趣きと、刳り抜きによって素材を厚く使っているコンプロットウーノの組み合わせは、ただサイズが合うというだけでない相性の良さがあります。
こういった遊びの要素が万年筆や銘木製品では大切にしたいことで、私たちはそんな遊びをお客様方にご提案したいと思っています。
コンプロットウーノはデコバンドだけでなく汎用性の高いものなので、特別な万年筆を収めるペンケースとして、お好みの万年筆に合いそうな素材、杢のものを使っていただきたいと思っています。
工房楔の新製品ノック式ボールペンルーチェに、カンダミサコさんの1本差しペンシース を合わて銘木と革の組み合わせを選んだりすることもお勧めしていて、工房楔と当店のコラボイベントとして幅広く楽しんでいただけると思います。
ぜひご来場下さい。
⇒万年筆用銘木軸「こしらえ」cbid=2557546⇒万年筆用銘木軸「こしらえ」csid=1″ target=”_blank”>⇒万年筆用銘木軸「こしらえ」
*Pen and 楔 福岡展2019*
6月8日(土)11時~18時 9日(日)11時~16時 ギャラリートミナガ(福岡市中央区大名2-10-1)
お待たせしないように、万年筆のご購入やお持込みのペン先調整などは、ご予約を承っています。
メール(pen@p-n-m.net)か電話(078-360-1933)にて、お申し付け下さい。
ウォール・エバーシャープ シグネチャー新発売
調整の応援販売をさせていただいたKA-KU奈良店は、大和西大寺というあまり観光客は降りない、地元の人が利用する駅の近くのショッピングセンターの中にあります。
当然ショッピングセンターのお客様も周辺の住宅地から来ていて、普段着で気軽に訪れるお店という感じ。
こういう地元に根差した所だからこそ、万年筆を使いたいと思っている人に万年筆を使ってもらえるような活動をしたい。
調整の応援販売はモノを買ってもらう為というよりは、万年筆を使う人を増やすために行っています。
万年筆を日常的に使ってもらえるようになるのなら、どの万年筆でもその人の気に入ったものを使ってもらえたらそれでいいけれど、当店が独自に輸入しているウォール・エバーシャープをその人の唯一の万年筆として使ってもらえたら素敵だと思います。
オーバーサイズのデコバンドはその書き味も使用感も良くて、ある程度万年筆を使った人ならその良さはすぐに分かるけれど、今まで万年筆を使っていなかった人には少しハードルが高いものだと思います。
だから初めて万年筆を使うという人にはデコバンドはお勧めしていませんでした。
しかし、このたびオーバーサイズのデコバンドに対して、標準的なサイズのレギュラーサイズのシグネチャーが発売になりました。
デコバンド同様無骨な雰囲気をもっている、古き良きアメリカ製らしい万年筆です。
1920年代のアメリカの万年筆、シェーファーライフタイムやパーカーデュオフォールド。それらは何の装飾もない万年筆ですが、ペン先が大きく分厚いという共通点のある無骨な魅力の万年筆です。
故障する要素がどこにもなく、もし吸入ゴムチューブが破れても汎用品のもので直すことができる。
古いハーレーダビッドソンのオートバイがどこかの荒野で故障しても、自分で直すことができるようにシンプルな構造を採用しているという話を聞いたことがありますが、それと同じ思想をウォール・エバーシャープに感じます。
初めて万年筆を使う人にとってウォール・エバーシャープというメーカーは絶対に知られていないと確信を持って言えるけれど、他のペンと比べてもらえばその違いを感じられる。何か厚みを感じるたくましさのような魅力がデコバンドにもシグネチャーにもあって、私はこれがウォール・エバーシャープの他社にはない魅力だと思っています。
シグネチャーのボディサイズは標準的なサイズですが、ペン先は大きく、存在感があります。
書き味は18金の大きなペン先の恩恵もあって、柔らかく、上質さを感じる書き味を持っています。日本人はあまりしないけれど、ウォール・エバーシヤープのホームページではFからMにフレックスさせて書くことができるとしています。
太さの感覚的にはペリカンのMくらい、日本のメーカーで言うと太字くらいの感覚になのかもしれません。漢字を書く国の人には少し細めに研ぎ出した方が日常的には使いやすいと思いますので、ご要望があれば細字に研ぎ出してご用意致します。
シグネチャー、ウォール・エバーシャープを使いたいと思っている人に、よりその世界に入りやすい待望のペンが出ました。
*全て揃ってからご案内する予定でしたが、6月に遅れている商品がございます。
ラインナップは全てご紹介しておりますので、サイトもご覧下さい。
⇒ウォールエバーシャープ シグネチャークラシックコレクションcbid=2557105⇒ウォールエバーシャープ シグネチャークラシックコレクションcsid=1⇒ウォールエバーシャープ シグネチャークラシックコレクションpage=2″ target=”_blank”>⇒ウォールエバーシャープ シグネチャークラシックコレクション
偉大なる無名品
当店のような個人店において大切なことは、自分のやりたいようにすることだと分かってきました。
だけど自分のやりたいことを見つけ出して、それを実行することは意外と難しく、勇気の要ることだと思っています。
かと言って他の誰かの考えで商売は上手くいかないし、他の誰かの考えを実行したいとは思わない。それが許されている自分はきっと恵まれているのだと思います。
お客様方にお勧めするものも、自分が良いと思っているもの、好きなものを勧めたいと思っていて、これはどのメーカーとも利害関係のない、独立した存在の当店だから許されることなのだと思っています。
一流品という言葉に違和感を覚えます。
それは誰もが知っているブランド品であることが多く、書籍などではそれだけが唯一良いもののように書かれていることがあります。
しかし他にも良いものはあるし、もっと上質なものもたくさんあります。
最近日本の歴史に興味を持って、関連する本を読んだり、考えたりすることがあります。歴史の殆どは、ほんの一部の日本の表面的な部分を動かしていた為政者について書かれています。大多数の存在である庶民はきっと例えば中大兄皇子が蘇我入鹿を殺害して権力を手中におさめたことなど知らないし、関係がない。
それらは日本の歴史ではなく、日本のほんの一部の人の権力闘争の歴史で、一流品という言葉でそれが良いものの全てとすることに近いニュアンスを感じる。
一流品と言われている誰もが知っているものよりも、あまりたくさんの人は知らないけれど、自分でその良さを見出して好む方が、私には趣味が良いように思える。
そういうものを一流品に対して、けっして二流品ではない。無名品と言えばいいのだろうか。
当店は偉大なる無名品、私たちの日常に取り入れることのできる無名品を揃える店でいようと、誇りを持って思います。
当店で扱っている革製品、木製品など職人さんたちのものはもちろんそうですが、考えてみると万年筆メーカーのものはほとんどが無名品であるような気がします。
万年筆を使わない人で、モンテグラッパ、ビスコンティ、ピナイダーを知っている人は少ないのではないでしょうか。
無名品と考えた時に私はまずアウロラのことを思い浮かべます。
一般にその名は知られていないけれど、この万年筆に強く惹かれるファンがいる。しっかりとした構造の実用的な万年筆を作っているペンファクトリー。
私たちが生活の中に取り入れてもおかしくならない、自然で抑制の利いた華やかさ。
アウロラのペン先は硬めで、F以下なら細かい文字も書きやすいので漢字を書く国でも使いやすいと思っています。
インクが切れた時に発動できるリザーブタンクは、とても便利な機能で、実際に万年筆が使われるシチュエーションに合っている。
アウロラは実際に使われる生活を思い描いて作られている、偉大なる無名品だと思っています。
⇒AURORA(アウロラ)TOPcbid=2557105⇒AURORA(アウロラ)TOPcsid=2″ target=”_blank”>⇒AURORA(アウロラ)TOP
⇒AURORA・限定品88サトゥルノ(画像の万年筆)
静かな暮らしから生まれるオリジナリティ~カンダミサコの革製品~
小さな店ですが、今までお客様以外の方でもいろんな人と関わって仕事してきました。その中で長く関係を続けられる人もいれば、そうでない人もいます。
仲良しグループというつもりはなく、お互い高め合える人と一緒に仕事をしたいと思っています。
そんな中でカンダミサコさんとは長く一緒に仕事してくることができて、とても助けられています。
カンダさんは当店と同じ元町で工房兼自宅を構えられていて、犬の散歩の途中やお昼ご飯を買いに行く途中で納品に来てくれたりする距離にいます。
カンダさんもこの場所で、静かにマイペースな生活をされている。
その仕事に惚れ込んでいるけれど、カンダさんのそんな生き方のペースがきっと当店と合っていて、長く協力し合えているのだと思います。
私たちは自分たちの静かな生活を守るために常に何かを創り出そうとしている。
変わらない暮らしをするためには仕事の永続性が必要で、そうするためには変わり続ける必要があるということが分かるようになってきました。
その仕事において一番大切なことはオリジナリティだということも、今までやってきて分かりました。
私たちが表現したいオリジナリティは奇抜で、奇想天外なことではなく、静かな生活の中から生まれた、自分たちの考えが生み出すものだと認識していて、それはカンダさんと変わらないのかもしれません。
カンダさんは私よりもずっと歳下だけど、それらのことはすでにちゃんと分かっていて、マイペースで仕事を続けられていて、すごいと思っています。
シュランケンカーフやダグラス革のコンチネンタルのシステム手帳が定番品という位置付けで、その他に毎年革の種類を変えて作ってもらっているものがあります。
昨年はカンダさんが秘蔵していた革クラシコバッファローでシステム手帳を作りましたが、今年はアルランゴートヌバックを使ったシステム手帳をバイブルサイズとミニ5穴サイズで作っていただきます。
アルラン社はフランスのゴート専門のタンナーです。丈夫でしっかりとした山羊革の銀面をバフ掛けして起毛させ、柔らかく滑らかな手触りに仕上げています。
山羊革の特長を生かしながら、繊細な手触りを加えた仕上げに、さすが山羊革を知り尽くしたタンナーによる革だと思いました。
今年の手帳にとカンダさんが勧めてくれた革で、こんな革を使った手帳を見たことがなかったけれど、すごいものができたと喜んでいます。
ホームページに発売後あっという間に品薄になってしまいましたが、また製作していただく予定です。
そして、アルランゴートヌバックほど派手な存在ではないけれど、システム手帳用の下敷きも作っていただきました。
ブッテーロの革を薄く漉いて作られた革下敷きは、裏側も滑らかで書きやすくなっています。さりげない小物だけど、デザインやいつもと違うロゴにも気配りが感じられる。
手帳を楽しむためのこういう小物にもカンダミサコさんらしいオリジナリティが感じられて、気に入っています。
⇒バイブルサイズシステム手帳用革下敷き
⇒M5サイズシステム手帳用革下敷き
日本人の万年筆観
昭和から平成に変わった時、19歳という若さのせいか、ただ元号が変わっただけと無関心でいました。でもあと数日で迎える今回は感慨のようなものを感じていて、今の時代の雰囲気を覚えておきたいと思っています。
それは終わろうとしている平成を懐かしむというよりも、次に変わろうとしている時代への興味の方が大きい。
私が19歳で始まった時と終わろうとしている今とでは、世の中はコンピュータとインターネットの普及で目に見えて変わりました。
これからの時代はどうなっていくのか、平成の始まりの時に想像できなかったように、これから世の中がどう変わっていくのか私には分からない。
しかし、万年筆がなくならないことは分かります。
もちろん万年筆がなくなると仕事上困るので、なくならないようにする努力はしようと思っているけれど。
これからの未来は、過去と現在の延長線上にあるのではないことは私にも何となく分かるので、昔の話が参考になるかどうかは分からないけれど、物事を考える時に歴史を踏まえて考えるべきだと誰かが言っていた。
20世紀のはじめに日本に万年筆が海外から入ってきて、それがなぜ定着したのかを考えると、少なくとも日本では万年筆はなくならないと思えます。
当時万年筆は世界中に広がったと思われますが、多くの国では使われなくなっていて、欧米ではごく一部の人の貴族的で高尚な趣味の道具として存在しています。
でも、日本では違う。
使うのは一部の人なのかもしれないけれど、日本においての万年筆はもっと生活に根差したもののように思えます。
当時の日本人は新しいものに敏感だったから万年筆に飛びついたのではなく、それを受け入れる素地をすでに持っていた。万年筆は日本人の道具観、モノに心を投影するような感覚に合ったのだと想像しています。
それは筆記具を重要視する日本人の筆記具観と言っていいのかもしれません。
世界の人が自分の万年筆をどのように見ているのか分からないけれど、日本人の万年筆に対する考えはユニークなのかもしれない。
始まりは欧米から輸入された万年筆ですが、これからの時代はこの万年筆を愛用する日本人の筆記具観を逆輸出する時代なのかもしれない。
私は夢と希望を持って次の時代の万年筆を見ています。
頭を空っぽにする筆文葉リフィル
変な考え方なのかもしれませんが、いつも頭の中を空っぽにしておきたいと思っています。
得た情報や知識などは頭の中に置いておかず、紙に代わりに覚えておいてもらいたい。
そのためにミニ5穴のシステム手帳にメモしたり、膨大な量になってしまっているけれど、バイブルサイズのものに記録しておいて、必要な時に見返せるようにしています。
コンピューターは壊れたり、停電したら役に立たないし、今までいろんなマシンやデバイスが発売されては消えていったので、永遠のものでないことは経験で知っています。
頭を空っぽにしてどうしたいかと言うと、大したことを考えるわけではないけれど、考えるために空けておきたい。
店の企画や書く文章、店の未来、そして関わってくれている人たちのこと。
なるべく何もせず、考える時間を作りたいと思っています。
何かを覚えておく領域と考える領域は違うのかもしれないけれど、学生時代勉強をさぼっていたので小さなメモリしかない私の脳では、頭の中にあるものを引っ張り出そうとする行為が、考えることを妨げてしまいます。
筆文葉リフィルのシステム手帳リフィルは、そのために考えられたフォーマットだと思っています。横罫、方眼、水玉のそれぞれのフォーマットをそれぞれの情報の形、情報の引き出し方に合わせて選べばいい。
情報を分類する。その分類した情報がサイズや形式がまちまちな場合は方眼罫が向いているし、形式が同じで箇条書きで書けそうなものなら横罫がスッキリとします。
情報のサイズがある程度小さいものなら、水玉リフィルがとても使いやすいと思います。
また、フォーマットのある手帳やノートは記録だけのものではなく、考えるための道具になります。
マンスリーダイアリー、ウィークリーダイアリーはその代表的なものです。
それらはスケジュールを書きこんで、予定が重ならないようにするためのものですが、そういう受身の使い方だけでなく、何かを考える方向を見定めるのにも役に立ちます。
例えば私の場合、出張販売があります。
日程は決まっていて、そこから逆算していつまでに何をするか、何を決めるかを見定めることができる。
これらは単純に計画を立てるということなのかもしれないけれど、それは紙媒体だからできることだと思っています。
自分の仕事をもっと良くしたいといつも思います。
最近探しているのは、頭の中にバラバラにある事柄を関連付けてひとつの文章にしたり、企画にしたりするのに役立つフォーマットです。
今その作業はただノートに向ったり、放置したりしてひらめくのをひたすら待つ。
ノートやシステム手帳のリフィル、ダイアリーはそんな期待をいつも抱かせてくれて、それらの使いこなしについて考えることは、なかなか上手くいきませんが楽しい作業となっています。
ピナイダー〜今の時代が求めている万年筆を形にしてみせたエキスパートの仕事〜
オマス、デルタが姿を消したイタリアから、このまま万年筆メーカーがひとつずつなくなっていくのではないかと一時期心配していました。
万年筆を作り出す国が日本とドイツだけになってしまったら、万年筆はただの書き心地が良いだけの筆記具になってしまう。
万年筆はイタリアのメーカーが作り出すものがあってこそ面白い存在でいられると思っています。
やはりイタリアは不景気に苦しんでいるのかと思っていた時に、ピナイダーという新しい万年筆が生まれました。
ピナイダー自体は1744年から存在するステーショナリーの世界では老舗として知られていましたが、万年筆の世界では無名でした。
そのピナイダーがビスコンティの創業者の一人ダンテ・デル・ベッキオ氏を「ペンエキスパート」に招き、新しい万年筆を作りました。
万年筆が好きな人の心をくすぐる仕様を押さえていて、さすがビスコンティで30年間万年筆の仕事をしてきた人だと思いました。
ビスコンティでの経験が生かされているところもあるけれど、ダンテ氏のその感性がフレッシュなことに驚きます。
羽根ペンをモチーフにしたクリップ、梨地加工のキャップリング、マグネットの力で閉まるキャップ構造、ただ透けているだけではない見せるための内部機構を持つデモンストレーター。
そして最大の特長である、ペン先メーカーボックと共同開発したペン先。
それは独特の形で、筆圧の加減により、フレックスさせることができて、弾力が強めの地金によって開いたペン先の戻りが早くなっています。
当店がウォール・エバーシャープを日本で独自に扱うようになって知ったことは、世界の万年筆ユーザーはフレックスさせて書くことができる万年筆を求めているということでした。そういったものは今よく売れているドイツ製の万年筆にはなく、パイロットエラボーやフォルカンペン先のような一部の万年筆でしか量産されていない。
日本人は、ペン先を傷めないようにフレックスさせて書かないと聞いたことがあります。
たしかにその文字の性質から大きな抑揚は必要ないかもしれません。
でも軽い筆圧で書いてもこのペン先は微妙なニュアンスに応えてくれるし、書き味の良さも味わえて、金ペン先の良さを活かしきったものだと思います。
ペンエキスパートダンテ・デル・ベッキオ氏は、ただ美しいだけでなく、今の時代が求めている理想的な万年筆を、イタリア流のやり方で作り上げた。
万年筆の新しいものの多くがスチールペン先の低価格帯が中心となって、万年筆を使う人の裾野が広がったと言われています。
それは万年筆の業界としては良いことなのかもしれませんが、万年筆の全てがそういうものになってしまうことは奥行きを失うことに繋がります。
スチールペン先の万年筆で万年筆の面白さを知った人が、もっと良いものを使ってみたいと思った時に、ちゃんと良いものが用意されていないといけない。
たしかに価格の安い万年筆を揃えておけば、今はたくさんのお客様が来てくれて、インクも買ってくれるかもしれない。それらを横目に、やせ我慢することがあったとしても当店は良い万年筆を守り続けたいと思っています。
ピナイダーもまた当店が守るべき万年筆だと思っています。
⇒ピナイダーTOPページcbid=2557105⇒ピナイダーTOPページcsid=4″ target=”_blank”>⇒ピナイダーTOPページ
工房楔のペンシルエクステンダー
私の書くことの多くは原稿など何かの下書きで、清書でないことがほとんどです。
下書きは自分だけ読めればいいので薄い色のインクでもいいと気付いて、台湾のレンノンツールバーのインクを使ったりしています(2019.3.7「薄い色のインク」参照)が、ペンシル系の筆記具も見直して使っています。
原稿などは、ペンを持ったまま手を止めて考えることが多いので、本当はあまり長時間手を止めているとペン先が乾いてしまう万年筆は向かないのかもしれません。
鉛筆などの方が原稿の下書きには向いているのかもしれないと思い、使うことが多くなりました。
だんだん用途に合ったものを無理せずに使うようになったのかもしれません。
シャープペンシルの芯は100円のものから海外のものなら1000円近くまでするものまで様々なものがあります。
三菱鉛筆の300円クラスのものがもし見つかればぜひお試しいただきたいと思いますが、シャープペンシルの芯の100円、200円の違いはこんなにあるのだと、その滑らかな書き味が忘れられなくなる思います。
それは鉛筆でも言えることで、国産の滑らかで柔らかな書き味は他の国の鉛筆を圧倒していると思っています。
その鉛筆をリフィルとする工房楔のペンシルエクステンダーをご紹介したいと思います。
イベントなどで聞いたお客様の声をモノ作りに反映させる姿勢を持つ永田さんは、このペンシルエクステンダーをはじめ、0.5mm、0.7mmペンシル、2mmドロップ式、ノック式の芯ホルダーなどペンシル系のものを多く扱っていて、いかにペンシル系の筆記具を愛用する人が工房楔のペンを使いたいと思っていることが分かります。
工房楔のペンは、以前はパーツメーカーのものをよく使っていましたが、今ではオリジナルのパーツを使ったものの方が多くなっています。
オリジナルパーツを使う理由は、他の誰も使っていないものを作るというオリジナリティの追究ですが、より理想に近い、より良いものを作りたいという姿勢の表れでもあります。
ペンシルエクステンダーもオリジナルの金具を使っています。
エクステンダーは雫型のタイプと、鉛筆が長くても使うことができるトゥラフォーロがありますが、当店ではどちらも真鍮の金具を使ったものを仕入れています。
真鍮パーツは当たりが柔らかく、回転させる部分のあるエクステンダーの場合、動きが滑らかでフィーリングが心地よい。
鉛筆はそれだけでも手軽でいいものですが、上質な素材を使った鉛筆をリフィルとして使うエクステンダーの上質な使い心地も知ってもらいたいと思います。
先日のイベントで仕入れたエクステンダーとトゥラフォーロを更新していますので、ぜひご覧下さい。
*工房楔(せつ)トゥラフォーロ・エクステンダーcbid=2557546*工房楔(せつ)トゥラフォーロ・エクステンダーcsid=7″ target=”_blank”>*工房楔(せつ)トゥラフォーロ・エクステンダー