LAMYの世界観

LAMYの世界観
LAMYの世界観

万年筆を使うことを懐古趣味のように言われたりすると、何となくカチンとくることがあります。
私たちは昔を懐かしんで万年筆を使っているわけではなく、一番書きやすいと思う筆記具だから万年筆を使っている。
今の筆記具として万年筆を使っているからで、それを懐古趣味だと言う人は文字を書くということについてそれほど真剣に考えていないのではないかと、かなり偏った考えだけど思うのです。

でも万年筆のそのモノ自体のデザインは過去にあったものをリスペクトしたものがほとんどで、この辺りがなかなか複雑です。
老舗の万年筆メーカーならたいてい過去に名品が存在していて、それらを復刻したり、それらのデザインをモチーフとしたりすることが多い。
そして私たちもそれを歓迎しているところがあります。

ある程度日常的に使う万年筆が用途別に揃ったら、ビンテージの万年筆に理想を求めたりする人も多く出てきます。
確かに車も道楽を極めるとクラシックカーに向かう人もおられるようなので、人はある程度そのものを知ると、古いものに気持ちが向かうのかもしれません。
新しい取り組みだと思われているイタリアの限定万年筆も過去の万年筆黄金時代再来を目指したものが中心となっています。

過去をリスペクトすることが多い、万年筆の業界の中でラミーだけは取組み方が違う、提示する世界観が違うように思って、共感しています。
ラミーの最もラミーらしさが表れている万年筆ラミー2000も、発売が開始された1966年当時、はるか未来の2000年を意識していました。

他の万年筆とは全く違うデザインで、そのモノに当時の人は夢やロマンを感じたのだと思っています。
何度かの小変更を受けながらも、ラミー2000はほぼ発売時のデザインそのままで現代に生き残っていて、いまだに過去を感じさせないどころか、ラミーの先を見据えた仕事振りに、自分もこうありたいとお手本に思います。
2000年の記念にラミー2000のオールステンレスタイプが限定発売され、覚えておられる方も多いと思いますが、今年からカタログにオールステンレスタイププリミアステンレスが加わりました。今度は定番モデルということで、細部の違いはあるようです。

私が覚えている範囲では、ペン先と反対側の首軸の仕様が違うのと、ステンレスの手触りが若干シルキーな感じになっているところが違うと思っています。
54gとかなり重量級のボディですが、オールステンレスのボディはとてもキッチリと作られていて、ラミーの工作精度の高さがうかがえて面白い。
ビンテージ万年筆に行く前にこういう、見て、触って楽しめるペンがあることも知ってもらいたいと思いました。

ラミーのペンは様々なインダストリアルデザイナーがデザインしていますが、とてもラミーらしいと思っているのは、従来のペンのデザインに囚われず、機能的にも意味のあるデザインです。

私が最もラミーらしいと思うペン、それはステュディオです。
ステュディオシリーズはカラー、素材、仕上げなどで様々なバリエーションが存在し、ペン先も金とステンレスがありますが、実用最低限のステンレスペン先にこの万年筆らしさ、存在意義を感じます。

飛行機のプロペラをイメージしたというクリップは、接触面が小さく、服に差した時に布地を傷めにくい、デザインだけでなく機能的にも意味のある仕様です。
マットステンレスには、ゴムのグリップがつけられていて、万年筆においてこれは非常に珍しい素材の選択です。

でも金属製のボディが滑って持ちにくいと思う人も多くおられますので、実用ペン、事務用ペンとしては使いやすい仕様なのだと思っています。
ラミーの万年筆、筆記具のバリエーションは本当に豊富で、その全てはなかなかご紹介できませんが、どのモデルも万年筆を使うことは懐古趣味ではないと主張しているような気がします。

⇒ラミー2000プレミエステンレス
⇒ラミーステュディオ

想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~

想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~
想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~

私たちの身のまわりには安く買うことができる大量生産品があります。
それらによって生活が便利でコストのかからないものになった代償として、それらの品の生産国である隣国の塵芥が日本に飛んでくるのはとても皮肉なことだと思います。
本当は自国で作られた、理想を言うなら、ひとつひとつ丁寧な手仕事で作られたものに囲まれて暮らしていきたいと思っているけれど、私たちの暮らしは最早そこには戻ることが出来なくなっているのか。
でも大切に思って、こだわっている筆記具くらいはそういうものを使っていたいと思います。

その製品を作ることで、どれくらいの利益を生むかを計算されたものよりも、使う人がどれだけ喜びを得られるかを考えて作られたもの。
工房楔の永田さんはひとつひとつのものの木目や木の方向を読んで、それぞれのものが一番良い木目が出るようにモノを作っています。
大きめに切った材をペンに削り出していく時、木目が一番美しくなるところで止めます。
仕上げの磨きもツルツルにしていいもの、ある程度の粗さを残した方が良いと思えるものなど、その材に合った手触りを残したり、磨き上げたりしています。
永田さんは木については語るけれど、こういったことについては、聞かないと教えてくれない。
それが永田さんの美学だと気付いた時、非常に共感しました。
語らないところに、実はこだわっている部分があって、語らない所に一番大切なことがあるのだと教えられたのでした。

工房楔のシャープペンシルは細身で、作り手の理性が感じられる抑えた雰囲気を持っています。
何の変哲もない姿のペンというのは、こういうものを言うのだろうと思いますが、普遍的な誰にでも扱いやすいもの、でも当然大量生産、大量消費を目的としない、一人一人のために作られた優しい気持ちから生まれたもの。
工房楔のシャープペンシルでこれからいつも思い出すであろう大切にしたいエピソードがあります。

医大の受験を控えた関東の高校生の方が、一昨年当店のネットショップで花梨のシャープペンシルを購入して下さいました。
スタッフKが窓口となり、メールで何度かやり取りさせていただいて、当店の姿勢や工房楔の商品について理解していただいた末にシャープペンシルをお送りしました。
数ヵ月後、工房楔のシャープペンシルで受験し、合格することができたと報告してくださいました。

さらに、当店を訪ねるためだけに新幹線に乗ってわざわざ神戸に来て下さいました。
大学1年間で5回ほど神戸に来てくれた彼は、息子より1つ年上なだけで、文字通り息子のように感じられる存在で、他人には思えない。
彼が受験勉強やその後の勉強で酷使していた工房楔のシャープペンシルはヒビ割れし、色も手の汗を吸って変色したものを楔の永田さんがヒビを補修し、磨きなおしてとても美しい姿に生まれ変わらせました。

シャープペンシルがまた新品みたいになった時、エージングが元に戻ってしまったと思う人もいるかもしれないけれど、永田さんはそういうことも理解して、新品のようにしてみせた。
手に入れて、使い込んで、何かあった時修理に出して直してもらう。

ペンはモノでしかないけれど、そこに想いがこもることで、ペンを購入された時のお客様と私共のやり取りなどの記憶が伴い、ただのモノでない、より大切にできるモノに感じられます。
全てのものがそういう想いに応えられるわけではなく、工房楔のシャープペンシルのような味わいを持つようなものがそのひとつなのだと、永田さんに、今は医大生になった彼に教えられたのでした。

⇒工房楔ペンシル・エクステンダーTOPgid=2125793″ target=”_blank”>⇒工房楔ペンシル・エクステンダーTOP

格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター

格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター
格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター

最近、格とか品ということをずっと考えています。

ある物は格が高いか低いか、品を備えているかどうかなど、それは言葉では定義しにくいけれど、何となく感覚的には分かる。
そしてそれは後から取り繕っても簡単には上げることのできないもの。数値や性能だけでは測ることのできないもの。
それが様々な物の格だと思います。
最近よく考えているけれど、ずっと以前から格ということは商品選びにおいて気にしてきました。

一番格下だと思うのは、何かを真似たオリジナリティのないものです。
万年筆というのは、もともと高い美意識を持った人が使いたいと思う物だと思うので、そういう人たちには、下品な気持ちから生まれた格の低いものを使って欲しくないという想いをいつも持っています。

ラミーサファリ・アルスターを、初めて万年筆を使うけれどあまり高いものを最初から買うのは怖いという人に勧めます。
ただ値段が安い万年筆は他にもあるけれど、そういったものに格が備わっているものは少なく、サファリにはそれを感じるからです。
万年筆としては安い値段のサファリですが、他の低価格の万年筆が持っている高い万年筆の代用品的な感じがありません。

オリジナリティのあるデザインと学童用というターゲットに合わせた全ての仕様。
製品というのはこういう風に作るのだと、この万年筆は同業者や私たちのような販売員にもメッセージを伝えようとしているような万年筆です。
もっと早くサファリの良さを知っていれば良かったと思いますが、品とか格について感覚的でも理解できるようにならなければ、それに気付かなかったのだと思います。
私たちのように万年筆を使ってきたキャリアがある程度あるような人でもサファリは使う理由がある万年筆だと常々思います。

軽いボディとパッチンの勘合式キャップで、丈夫で何でも挟むことができる大型のクリップも備えている。
コートのポケットなどに入れて出先で書く、万年筆での長時間の筆記に疲れたので気分を変えたい。
リングノートのリングに差し込んで持ち歩いたり、カジュアルで何となくアーティスティックな使い方ができると思っています。

新しく発売されたラミーのブルーインク用消しペン「INK-X」もサファリを快適に使う役に立ちます。

万年筆は消すことができないという常識をINK-Xは覆しました。
ブルーのインクに限りますが、白い方のペンが消しペン、消しペンで消した跡には万年筆のインクが乗らないので、反対側のラミーのブルーと同じブルーのペンで書きなおす。
ノートや手帳をきれに保ちたいと言う人にはとても便利で、INK-Xの存在でラミーを使いたいと思っていただけると思います。

当店でサファリ・アルスターを選んでもらう時、まずボディの色を選んでもらいます。
プラスチックのボディで色数が豊富なサファリか、丈夫なアルミボディのアルスターか。
ボディが決まったらEF(極細)、F(細)、M(中)の字幅を試してもらう。
ノートに書くのに使うという人のほとんどはEFになるけれど、FやMの滑らかな書き味も捨て難い。
サファリを調整して販売していると言うと驚く人もおられますが、力を入れなくても紙にペン先を置いただけでインクが出てくれる万年筆らしさを感じてもらいたいし、万年筆を買う楽しさも味わってもらいたい。

万年筆を使われていな方には少し敷居が高く感じられるものを躊躇わず、まず使ってもらいたい。

そんな思いを持ってサファリをいつも勧めています。

⇒LAMY サファリ
⇒LAMY アルスター
⇒LAMY 消しペン「INK-X」

大和出版印刷 芸工大ノート

大和出版印刷 芸工大ノート
大和出版印刷 芸工大ノート

大和出版印刷の武部社長がル・ボナーの松本さんの感化にあって、万年筆の魅力に目覚めた時、店の開店準備中だった私は松本さんに連れられて大和出版印刷さんを訪れました。
武部社長はものすごい勢いで万年筆の魅力にとりつかれていて、大和出版印刷さんが万年筆をより楽しく使うためのノートの開発を始めた時と、当店がオープンしたのが同じ時期だったのは、当店としてはとても恵まれたことでした。
オープンしたばかりの店に、そこでしか買うことができないノートがあるということは、その店にとって非常に大きなセールスポイントだったのです。

大和出版印刷さんがまず製品として世に送り出したのが上製本ノートでした。

職人さんによる卓越した技術による製本と厳選した紙を使用した、当時の大和出版印刷がノートに対して出来得る限りの最高を目指した存在感のあるもので、5250円という価格もインパクトのあるものでした。
相当な決意がないとこのノートを使い始めることができないけれど、今でも着実に売れている大和出版印刷のスタンダードだと思っています。

武部社長と出会う5年前以前に、大和出版印刷の川崎さんが私が当時勤めていた店を訪れてくれていました。

ル・ボナーの松本さんに話を聞いて来てくださったのですが、その時はお互い若く、何かが動き出すものでありませんでした。
でも、お客様の少ないひとつのフロアーにいた私から見ると、松本さんや川崎さんは開かれた外界の華やかな世界の住人に見えて眩しかった。

店を始める前にホームページの制作をお願いしたのが川崎さんで、その後実務に長けた多田さんにバトンタッチしますが、川崎さんが私を訪ねてくれなかったら当店のホームページも完成していなかったと思います。

昨年末から大和出版印刷さんはかなり実験的な試みを始めていて、デザイナー菅原仁氏を迎えて「白罫線ノートCIRO」や「端を折ってチェックするメモ帳オリッシィ」などの製品を作り出しています。
それらの大和出版印刷さんの担当者が川崎さんで、活発に活動されています。

川崎さんはご自身の母校である神戸芸術工科大学の学生さんたちからデザインを募集してノートを製作するという企画も立ち上げました。
16種類の表紙のノートたちは文具メーカーではあまりない自由な感覚でデザインされていて、当店も年明けから店頭に出していますが、女性のお客様の反応がとても良く、当店にとっても、大和出版印刷さんにとっても、とても良いことだと思っています。

私も原稿書きで使っている万年筆での書き味を追究したリスシオ紙を使用したノートをベースに、綴じ糸を表紙と合わせた色糸にして、装いの全く違うものになっています。

芸大生の皆さんがデザインしたという話題性やデザインのユニークさは感じていましたが、このノートがお客様方に支持されるかどうか、正直私には分かりませんでした。

でもいつものことですが、お客様方の方が私よりもずっと先に行っていて、このノートの良さを認めてくれた。
神戸芸工大の学生さんや川崎さんにも一本取られたと思ったノートをご紹介したいと思いました。

⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧cbid=2557537⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧csid=3″ target=”_blank”>⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧

シガーケース型ペンケースSOLO新作

シガーケース型ペンケースSOLO新作
シガーケース型ペンケースSOLO新作

1本差しのペンケースを突き詰めれば専用ケースということになるのだと思います。
それがペンを1本だけ収納するということであり、ペンケースがただペンを収納する入れ物ではなく、万年筆で書くということ、持つということを演出するものに昇華したひとつの形なのではないかと思いました。

シガーケース型ペンケースSOLOにアウロラオプティマやドルチェビータ専用のものを作ってはどうかというアイデアは、IL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)の久内淳史さんがSOLOでもっと遊んだらどうなるかという、WRITING LAB.の駒村さんからのお題で思い付いたアイデアでした。

久内さんは当店と関わる前からアウロラの万年筆を持っていたし、最近もデルタの美しい万年筆トスカーナを手に入れていて、実は万年筆にとても興味を持っています。
私のようにいつも万年筆で何かを書くことを考えているタイプとは違い、万年筆をいかにかっこよく演出できるかを考えるのに最適な人なのかもしれないと、イタリアでの修行で、靴作りの技術やセンスだけでなくイタリア人のライフスタイルも身に着けた彼を見ながら思います。

きっと万年筆を1本だけ入れるペンケースとはどういうことかを考えて、自分ならこういうものが欲しいというものを考えてくれたのだと思います。

アウロラの万年筆のプロポーションが私も以前からとても好きでした。
太さはペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズの万年筆くらいあるけれど、丈が短めになっている。
実際の寸法よりも太く見えるキャップを閉じた姿。
そういったプロポーションはモノとしてとても魅力があります。

愛らしいキャップを閉じた状態のアウロラですが、そのボディの短さのせいで、ペンケースに入れると全体が沈んでしまい、取り出しにくいと思った経験のある人はたくさんいると思いますし、球形のクリップが意外と膨らんだ突起のようになっていることにも思い当たる人は多いと思います。

それらのアウロラの特長的なサイズを収めることができるペンケースSOLOが、先日のイベントでお披露目となりました。

アウロラのマーブル模様を模したパティーヌ技法による色つけは、中に入っている万年筆を予感させるもので、面白いアイデアだと思いますし、出っ張ったクリップはクリップを通す切り込みで対応しています。

アウロラは昨年末、名作ダンテをカラーリングを変えて復刻させたダンテインフェルノや、久々に新色として使いされたオプティマブラックパールなど話題性もあり、面白いコラボレーションだと思いました。

同時にクリップの出っ張りが邪魔でSOLOに入らなかったドルチェ・ビータミディアム用や、パイソンやリザード革を使ったシリーズなどが生まれました。
シガーケース型ペンケースSOLOがシンプルな単色のモデルからイル・クアドリフォリオの特長がやセンスが表れたものへと発展し始めています。

*画像は久内氏製作のオーダー靴と、同革で作られたSOLO「タピーロ」です
⇒SOLOはこちらから

~古いデザインを現代のメカニズムで~ ペリカンM101Nリザード

~古いデザインを現代のメカニズムで~ ペリカンM101Nリザード
~古いデザインを現代のメカニズムで~ ペリカンM101Nリザード

様々なご意見、ご見解があると思いますが、ビンテージの万年筆には魅力を感じるけれど、安心して使うことができないと、どうしても思ってしまいます。

それは万年筆でなくても、例えばトヨタ2000GTがデザインそのままで、現代のエンジンなどのメカニズムで復刻したらとても人気が出ると思うように、古いデザインにはとても魅力を感じるけれど、それを道具として使いたいと思った時には、中身は新しい方が安心して使うことができるということになります。

そんなお客様が多くおられたのだと思いますし、ペリカン自身もその需要を確信したのでしょう、2000年頃の100シリーズの限定復刻からペリカンは自社の往年のモデルを限定品として復刻しています。
2000年に復刻された1931ホワイトゴールドには心奪われて手に入れて使っていますが、最もよく使う万年筆のひとつです。

ビンテージの万年筆の魅力に柔らかい書き味というものがありますが、復刻された1931ホワイトゴールドは硬めのペン先がついています。
これを嫌って、オリジナルのペン先と交換したりしている人もいますが、私はこの硬さの中にも素材の良さからくる味のようなものを感じて、書き味にも魅了されています。

古いデザインをそのままに現代のメカニズムで復刻する限定品のシリーズは、2003年の1931トレド以降途絶えていましたが、2011年にM101Nトータスシェルブラウンが発売されました。
コンパクトで紳士の小品的趣きのある100シリーズに対して、101N シリーズは1937年に100をさらに使いやすくするために大型化されたもので、さすがに握りやすく、軽く使いやすい万年筆だと思いました。

定番のスーベレーンとは違うペン先のフィーリングも柔らかめで、軽い101N のボディと合っています。

トータスシェルブラウンに続いて、今年M101Nリザードが発売されます。
キャップ、ボディ全面のリザード(トカゲ)柄は独特の存在感があります。
海外ではコブラ柄と言われることもあり、巳年にこの柄の万年筆が発売されるのは、偶然なのか、それとも蒔絵など東洋の美に理解のあるペリカンが意図して発売を今年に合わせたのか。

万年筆店店主の割には所有する万年筆が20本というのはあまり多い方ではないと思います。
それは私がコレクションとして、万年筆を所有しているのではなく、手紙やノート、手帳書き、原稿書きなどの用途があって、実用のものとして全てを使っているからなのだと自分で思っています。

万年筆を使い始めて20年くらい経って、気持ちが動いたもの、この万年筆ならどんなものが書けるのだろう。きっと自分の仕事を良くしてくれるだろうというように、新たな万年筆への好奇心が芽生えたものだけを手に入れてきたのが20本でした。
そんな20本の中にペリカンの万年筆が4本あります。
数ある万年筆メーカーの中で、これは比率的に多いと思いますが、それはペリカンが限定品であってもコレクションのためのものではなく、実用心を刺激する万年筆をいつも作っているからなのだと思います。

ペリカンは3月にM800茶縞を発売します。こちらのご予約は、メール penandmessage@goo.jpにてお申込みください。

IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)

IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)
IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)

独立して仕事をしようとしている人にとって、その人の成功を願って応援してくれる人の存在は必要不可欠です。
人脈を紹介してくれたり、商品を供給してくれたり、あるいは作っているものを扱ってくれたり。
私もそういう人に恵まれて、多岐に渡る分野の人を紹介してもらったし、商品を供給してもらいました。
その応援があったから店を始めることができたし、今もこうして続けていられる。店を始めて5年が経って、応援したいと思う人に出会うことが何度かありました。
それほど力にはなれていなけれど、心から応援したいと思い、ともに良くなっていけたらという想いで一緒に仕事をさせていただいています。

イル・クアドリフォリオの久内さん夫妻にも私は心から彼らの成功を祈って応援したいと僭越ながら思っています。
イル・クアドリフォリオの作品にももちろん魅力がありますが、いつも皆を楽しい気分にさせてくれる明るさ、人柄の良さに周りにいる人たちは楽しい気分にさせられる。

彼らは私が持っていないものを持っていて、とてもまぶしく感じるし、彼らが大好きな仕事でずっと生きていけたらと願っています。
それはWRITING LAB.を一緒に企画している駒村さんも同じ気持ちで、お二人に出会った時、何か一緒にやりたいと思ってWRITING LAB.として話し合って、アイデアを出し合ってできたのがシガーケース型ペンケースSOLOでした。

最近はあまり見なくなりましたが、以前は海外のメーカー数社からも発売されていたシガーケース型のペンケース。でもそれらとは少し雰囲気の違うものが出来上がりました。
幸いSOLOは多くの人に使っていただいていて、イル・クアドリフォリオの名前が万年筆の世界でも知られるきっかけになったと思います。

私も自分にとってとっておきのペンであるオリジナル万年筆「Cigar」を入れて、仕事の日も休みの日もサニーゴールド手帳のネタ帳とル・ボナー3本差しペンケースとともに、ル・ボナーのポーチピッコロに入れて持ち歩いています。

SOLOはCigarには少し大きく、ペリカンM1000やモンブラン149などがちょうど良く収まるサイズですが、そういうことはあまり関係なく、これだけのペンケースに合う万年筆はCigarしかない、あるいはこれだけの万年筆に合うペンケースはSOLOだけだと思っています。

最近、私の場合は書くということは欲望に近いのではないかと考えるようになりました。
書くことが好きという感じではなく、書くことは快感を得られるものだから、書きたくなる。
書くことは文化的な行為だからそれが好きな自分は文化的な人間かもしれないと少し思っていましたが、それは大きな間違いで、自分の書くという行為はとても本能的なものかもしれない。
そして、本能的であるからその行為に上手いも下手もなく、自分にとっての快感をひたすら追い求めて書き続ける。
書くという行為が人間の根源的な欲によるものであったなら、万年筆はその欲による行為をさらに気持ちよくしてくれる道具だということになり、それそれで辻褄が合っていると思いませんか?

欲望による行為である書くということをより気持ち良くしてくれるのが万年筆なら、ペンケースなどその関連するものはそれを演出する、よりムードを高めてくれるものに他ならない。
ただペンを収納するだけの革製の入れ物というだけでは寂しすぎる。

フィレンツェ伝統の絞り技法によるペンケースSOLOは1本しかペンを入れることができない贅沢な仕様で、日本の製品の中では異色な、欲望を美しく演出してくれる種類のものにひとつだと思っています。
もちろんSOLOに続くものも作っていかなければなりませんが、SOLOをベースとした遊びを久内さんたちは始めていて、1月12日、13日のイベントで発表してくれるようです。

2012年のペン語りはこれで最後になります。今年1年も私が欲のままに書いた文章をお読みいただいて、心から感謝しています。
来年は、もう少し読みやすく、良いものにしていきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。

手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース

手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース
手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース

革小物の手入れはなかなか疎かにしがちですが、してみると楽しいものだといつも思っています。
わりとすぐにきれいな艶を取り戻してくれるということも楽しい理由かもしれません。
特にブッテーロ革は、手入れをしているのとしていないのとではその様相は大きく違い、手入れをすることで非常に美しく仕上げることができます。

ル・ボナーの松本さんから教わりましたが、油分を多く含んでいるブッテーロ革にはオイルを加える必要はなく、ブラシ掛けか革用の布で磨く。あるいは傷が激しく目立ってきたら濡らした布を堅く絞って水拭きするというのが適したお手入れの仕方です。

私が最近気に入っているのは革用のブラシを掛けることで、ブラッシングすることで光を帯びたキラキラした粒が立ったような表面になりとてもきれいです。
ブラシ掛けでも布で磨いても傷が消える、あるいは目立たなくなるのもブッテーロの特長です。
ブッテーロの革質はコシがあって、張りが出るので厚く使えば丈夫な革製品を作ることができるというところもあり、その良さを生かしたもののひとつにル・ボナーの3本差しと1本差しのペンケースがあります。
万年筆が好きになったからこのペンケースを作ることができたのか、このペンケースを作りたいから万年筆に傾倒していったのか分らないけれど、万年筆好きの鞄職人として有名なル・ボナーの松本さんが鞄作りでも持ち続けているこだわりで作ったペンケースです。

全部分厚めのブッテーロ革を背中合わせに2枚重ねに貼り合せていますので、かなり硬く中のペンを保護してくれる頑丈な構造になっています。
フラップ部も最初は硬めで、馴染むのに少し時間がかかるけれど、それは頑丈さの表れだと私は好感を持っています。
ペンケースには様々なものがあって、ギュウギュウとたくさんの荷物がひしめく鞄の中に安心して放り込めるのはこのペンケースだけだと思っていて、持ち運び用のペンケースとして頑丈さと手入れのしやすさを持った安心して使うことができるものです。

3本差しならペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズのものまで、1本差しにはドルチェビータピストンフィリング、モンブラン149、ペリカンM1000などのオーバーサイズのものまで収納することができます。
このペンケースが発売されて5年が経ち、それは当店が開店した年月と重なります。
開店したばかりで、オリジナル商品や特徴に乏しかった当店において、このペンケースは六甲アイランドのル・ボナーさんか当店にしか置いていない言わばオリジナル商品で、このペンケースを目指して当店に来られたお客様も少なくありませんでした。
ル・ボナーさんにとってこのペンケースはなくても困らないものだったけれど、当店にとってはこれがない状態は考えられないものだった。
開発にお金や労力もかなりかかっているし、希少な絞り技法を有する職人さんも探さなければいけなかったはずだけど、松本さんはそんなことを何も言わずただ嬉しそうにこのペンケースを紹介してくれて、全色1つずつ貸してくれました。

当店はこのペンケースと共に歩んで来たところがあり、個人的にもとても思い入れのあるもので、それらのことを私は忘れてはいけないといつも思っています。

⇒ル・ボナーステーショナリートップgid=2125743″ target=”_blank”>⇒ル・ボナーステーショナリートップ

寒さに強い万年筆

寒さに強い万年筆
寒さに強い万年筆

若い頃、家の中がなぜかいつも寒かった記憶があります。
ファンヒーターやエアコンなど便利に使える暖房器具がなく、暖をとるものはコタツが中心だったからなのか、石油ストーブがいつも空だったのか、忘れてしまったけれど。
その反動からか、暖房が必要以上に、あるいは暑いくらいに焚かれていないと心細くなるという性質になってしまいました。
暖房をつけない家では風邪をひきにくい体が丈夫な子供になるかもしれませんが、変なところにその反動がくるのだと自分で分析しています。
寒さが苦手なのは私だけでなく万年筆もですが、寒さに強い万年筆の話です。

万年筆で一番やっかいで、ほとんど唯一のトラブルとも言えるものが、インク漏れです。
最近ではペン芯やボディの構造がしっかり設計されたものが多くなっていますので、書いていて自然にポタリとインクが落ちる、夏目漱石が癇癪を起こしたと言われているようなことは起こりにくくなっています。
しかし、冬にはまた違う理由でインクが漏れる状態に近いことが起こります。
開けるたびにキャップの中にインクが付いているとか、ペン先の根元辺りにたくさんのインクが滲んでいるというようなご相談を集中して受けるのが、冬の間や冬が終わったばかりの時です。

万年筆のインクタンク内がインクで満たされていれば問題ありませんが、インクが減っていて、インクタンクの中にインクと空気両方が入っている場合、冷たい外気に冷やされたタンク内の空気が暖房と手の温もりによって温められて膨張して、インクを押し出します。
これはどの万年筆でも起こりうることですが、ペン芯の設計が新しいと起こりにくいし、ボディが比較的太めのものでは起こらないことが多いと言われています。
どんな万年筆でも、冬場に万年筆を持ち運ぶ時はなるべくペン先が上に向くように固定して、ちょっとしたショックでペン先やペン先の根元に滲んでいるインクが落ちないようにする工夫はされた方がいいと思います。

素材から見た場合、冬でもインク漏れがしにくい万年筆は、ボディが木製やエボナイト製の万年筆です。
それらは温度の伝わり方が緩やかなので、インクタンクの中が急に冷えたり、温まったりしにくい。外気温を内部に伝えにくいので、万年筆内部の温度がある程度安定していると言われていて、同じサイズのボディで木製とエボナイト両方の素材を揃えた2本の万年筆をご紹介します。

パイロットカスタム845はエボナイト素材に漆塗りのボディの万年筆です。
上記の理由で万年筆のボディに適した素材であるエボナイトですが、紫外線や熱、乾燥の影響で変色しやすいという欠点があります。
これを解消したのが、エボナイトに独自の仕上げをして漆を塗るという技術です。
パイロットはこれを80年以上前に確立していて、万年筆に使ってきました。
エボナイトのボディに漆を塗った延長線に蒔絵の万年筆があったと思うと、その発明が日本の万年筆を世界に知らしめたのだと言えます。

カスタム845の大型の18金のペン先は、バネのような弾力があって、高い筆圧でハードに書かれる方でも安心して使うことができるもので、この万年筆が趣味の道具だけではない酷使にも耐える実用の道具であるということ物語っています。

同じペン先を備えた万年筆にカスタム一位があります。
カスタム845と同じプロポーションの万年筆ですが、こちらはイチイの木を圧縮して、目の詰まったものにしており、強度の確保と、手触り良くし、汚れが染み込みにくくしています。
表面加工をしていない自然の木の触感のままなので、使い込んだり、磨いたりして艶を出していく、育てるような楽しみも併せ持ったものになっています。

万年筆には厳しい季節である冬を難なく乗り越えることができる、おそらく実用的には国産最高峰の実力を備えたカスタム845とカスタム一位。
国産ということは、品質的には世界に通用することを誰もが確信していて、国産の万年筆について、特にパイロットについては私たちは顧みないといけないと思うようになりました。

冬だけでなく、1年中愛用していただきたい2本の万年筆からは、メイドインジャパンの誇りが感じられます。

⇒パイロット カスタム845

考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」

考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」
考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」

手帳には黄金バランスがあって、縦:横が2:1になっているものがそれだと思っています。
そのサイズ感から考えるとAやBの規格のサイズは少し横幅が広すぎる。あるいは縦が短すぎる。
片手で持って、立ったまま書くことができる、手の平に収まる横幅でないといけないので、あまり大きすぎないものがいい。
横幅10cmくらいのものが理想で、縦は20cmということになります。
最近そんな手帳の黄金バランスを持った手帳が少なくなっているような、あったとしてもあまり顧みられていないような気がしています。

例えば文庫本サイズのノートが非常に多くなっていますが、これは縦横比が2:1ではありませんので、手帳というよりも小型のノートということに(私に言わせれば)なります。
他にも惹かれる理由はありますが、理想的な手帳の黄金バランスを持っているということで、ライフのサニーゴールド手帳はずっと気になっていました。

ライフのハードカバーノートや手帳、日記帳の装丁の強さ、平らに開く機能にも絶対的な信頼を寄せています。
そういった基本的な仕様を持った量産品でライフに勝るものはないと思っているほどです。

お客様の大和座狂言事務所のK女史の3年連用日記を見せていただいて、ライフの製本の強さに驚きました。
3年連用日記を3年間毎日欠かさずつけられて、たくさんの切り抜きなどを貼って倍以上の厚さに膨らんでいるにも関わらず、製本にまったく乱れが生じていませんでした。
これなら3年どころか、5年でも、もしかしたら10年でも使うことができるかもしれないと思いました。
合成皮革の表紙も、安い革を使うくらいなら合皮の方が丈夫で良いものを作ることができる、というライフのポリシーがあって使われていることを聞いたことがあります。

誰かから聞いたり、本などを読んだりして感じ入った話、あるいは突然頭の中に浮かんだ考えの芽などを今までダイアリーの片隅に書いていました。
それは時系列で並んでいて、後から探すことも可能ですが、時間の経過とともにダイアリーの中に埋もれてしまうような気がしてもったいないと思っていました。
そういった何かのヒントになる、自分にとってとても大切な言葉や考えの断片を書く専用の手帳、ネタ帳のようなものを作ろうと思った時にサニーゴールド手帳を使いたいと思いました。

1ページが30行になっていて、5行ごとに太い罫線が引かれている、1ページが6つに分割されている独特の罫線は、フリーダイアリーとしても使うことができるように工夫された罫線ですが、ちょっとした考えの断片を書くのにちょうどいい間隔でした。
紙質もとても良く、にじみや裏抜けがまったくありません。
今この手帳の罫線を少しずつ埋めていくことが楽しくて仕方なく、一冊埋めつくしたら、自分にとってとても大切なものになるだろうと思います。
でも44年も生きてきたのだから、もっと早く始めたらよかったのにとも思うけれど。

⇒ライフ「サニーゴールド手帳」