タフな道具としての万年筆

ペン先が柔らかくて書き味を楽しめるもの、書いていること自体が楽しいと思える万年筆もいいけれど、タフな道具としての万年筆のあり方に万年筆に惹かれる原点のようなものがあって、そういうものも持っていたいと思います。

いざという時、とにかく書かなければいけない時に、書くことに集中できる万年筆の代表的なものがモンブラン149とペリカンM800だと思っています。

オーバーサイズの149とレギュラーサイズのM800を同列で比較するのは不思議な感じがするかもしれないけれど、モンブランはオーバーサイズの大きさが自然に握れる万年筆だと考え、ペリカンはレギュラーサイズをそう考えたのだと思います。そういう点で、この2本の万年筆は同じ方向性にある万年筆だと思っています。

どちらも書くということだけを突き詰めた硬いタフなペン先と、自然に持てて書くことに集中できる、慣れると代わりが利かないほど馴染むバランスの良い万年筆です。

同じモデルであっても、万年筆は時代を得て少しずつ変化しています。

技術の進歩によって効率的なもの作りがされるようになって、素材は扱いやすく大量生産に向いた素材に変わり、技術もより効率の良いものに変化しています。柔らかいペン先も少しずつ硬いものに変わってきています。

それは万年筆を使う人のノスタルジーから言うと寂しいことだけど、仕方ないことなのだと思います。昔ながらの物作りが理想だったとしても、例えば万年筆が今の10倍の値段になったら誰も買わなくなってしまう。

モンブランは部品点数の少なさから、さすがに効率よく作られているように見受けられ、今の物作りの最先端を行っていると思います。

個体差が少なく、どれも同じように問題なく書ける。だけど、そのままではどこか味気ない。

ペリカンは手間のかかる縞模様を今も作り続けていて、ほとんど変わらない値段で販売しているのはすごい企業努力だと思うし、好感が持てる。

ペン先の状態に関しては、若干個体差が多く、インクの出の多い少ない、書き味の良し悪しにバラつきがある。

現代の物作りでも、ペン先の調整はきっとどうにもならない。

当店は書き味をより潤いのあるものに、そして一番良い状態にすることが今の時代に万年筆店をさせてもらっていることの使命だと思っています。

文豪のように猛烈に文字を書くこともできる2本の万年筆。

モンブランはそのブランドイメージから何となくエリート的な、ステイタスシンボルとしての万年筆のイメージを持ち、ペリカンには少しマニアックな文房具の延長としての万年筆の印象を持っています。私はエリート的なものへの反発心から、ペリカンに好感を持っているのは、昔の、巨人に対しての阪神フアンの心境と同じなのかもしれない。

でも、モンブラン149はステイタスシンボルというだけのものでは決してないし、ペリカンM800は趣味のものというよりも毎日使う完璧な仕事の道具だと思っていて、物作りが変化してもそれに変わりはない。

私たちが万年筆で書きたいと思った原点を振り返った時、こういう万年筆を求めていたのではないかと思い出すもの。

生産工程が変化しても変わらず存在し続けている書くための機能を突き詰めた2本の万年筆。

当店は現代の万年筆に足りないものを少しだけ足して、この2本の万年筆がいつまでも書くことにおいて完璧な機能を備えた万年筆であり続ける手伝いをしたいと思っています。

⇒モンブラン マイスターシュトゥック149

⇒ペリカン M800万年筆