若い頃は実用書やビジネス書など、何かのためになりそうな本ばかり読んでいました。昼食代を浮かせては本を買って、それを自分へのささやかな投資にしていた。
それらを読むことで自分の仕事が良くなると信じていたし、いずれそれらが自分の血となり肉となると思っていました。実際に仕事に対する考え方や心の持ちようなどは、本から教わったこともあると思います。
その頃からだいぶ齢をとって、今ではもっと幅広いジャンルの本を読むようになりました。小説も読むようになって、読書を今まで以上に楽しんでいます。
通勤時間は集中して本が読める大切な時間で、片道1時間弱のこの時間を楽しみにしています。電車の中でスマホで音楽を聴いたり、映画を観たりするのと同じように、読む人によって見える情景の違う「本」というエンターテイメントを楽しんでいます。
通勤で読むのは文庫本や新書が中心なので、内容や厚みに合わせていくつか持っている文庫本カバーを選んで使っています。
本が好きな人ならきっと私と同じようにブックカバーを取り替えて使うだろうと思って、厚み調整のついていない嵌めころしタイプの文庫カバーを作りました。その方がピッタリ合ったら持ち心地も良いし、見た感じもかなりスマートになります。
イメージしたのは少し厚め、2センチ程度の厚みの本がピッタリ合うようにしています。きっと皆さんのお手元にも合う本があると思いますが、身近なところで言うと新潮文庫の司馬遼太郎の「関ヶ原」などがピッタリです。
他にも例えば厚みの合う文庫サイズのノートを探してみると、本革ノートにもなります。
製作してくれた若い職人さんは、持ち心地の良さを狙ってなるべくステッチが外側を通るようにしてくれています。その方が文庫本とカバーの一体感が増しますし、細かく正確なステッチはブックカバーにより端正な趣を与えてくれています。
最近は、文庫本でも栞のついていない本があります。読み始めてしまってから困ることがあって、そういう経験から今回は栞も作っていただきました。ブッテーロの端材で作った栞は、ブックカバーの内側と同じ素材なので、統一感もあってセットしておきたくなります。
革で商品を企画すると、端材でも何か作れないかと考えます。周りにいる職人さんたちはそういう意識を持って取り組んでおられる方が殆どです。端材なので作れるものには限界があるけれど、大切な資源を無駄にすることなく使いたいと思っています。
サドルプルアップレザーは、滑らかな手触りとタフな質感を併せ持った革でとても気に入っています。実用と美しさを兼ね備えた、理想の文庫カバーができたと思っています。