当店はペン先調整をする万年筆店で、書きやすいと思える万年筆を販売しています。
一口にペン先調整と言っても、色々なやり方、考え方があると思いますが、当店の場合は、なるべく手を入れないようにしたいという考え方を基本としています。
使用中の万年筆が書きにくいということで、調整してほしいというご依頼(持込調整)は有り難いことにとても多く、お送りいただいて調整する場合1週間ほどお待ちいただくことになってしまっています。
持込調整の場合、ご不満な点がはっきりしていますので、そのご不満点を解消できるようにしますが、「何か書きにくい」という曖昧な、感覚的なご不満にも対応したいと思っていて、感覚的な言葉でのやり取りでの調整は、ペン先を通してお客様と感覚の擦り合わせをするようで、なかなか楽しい作業です。
持込調整で、ご来店もしくはお送りいただく場合は、インクを入れたままにしていただきたいと思います。
その方がインク出のチェックもできるし、そのインクに合った、より精度の高いセッティングに近付けることができると思っています。
新品のものに関しては、入荷してきた万年筆がはじめから書きやすければ何も手を加えず、ルーペでチェックしたら、そのまま店に並べています。
チェック項目は、左右のペン先の食い違い、寄り、ペン先ペン芯の離れです。
何でもかんでも調整しているわけではなく、調整は使われる方の考え方や要望に合わせてすることだと思っているので、新品のもののペン先を削って並べておくことはなく、お客様が決まってからその方のご意向に添ったものに仕上げています。
ペン先調整において、ペンポイントを削る量はなるべく少ない方がいいと思っていますので、最小限の削りで、使っていくうちに最大の効果が出るように調整することがペン先調整をする者の腕だと思っています。
何も希望を言われずに調整する場合は、少し筆記面に当たりをつけてお渡ししていますが、それで充分快適に使うことができる万年筆になります。
それで充分だと思う人もおられるし、もっとやってもらって結構という方もおられて本当にそれぞれで、ご要望があれば何研ぎにでも仕上げるようにしています。でも基本的には削り過ぎないように心掛けています。
ペン先調整をしている万年筆店という言葉は、宣伝文句にもなるけれど、一方では何か先入観を持たれる言葉なのではないかと思うことがあります。
「ペン先調整=削りまくる」と思われるのは心外で、無闇矢鱈に何でも削り取ってしまう人間だと思われたくない。
ペン先調整以外でも言えることだけど、そこにあるものをなるべく大切に生かす人間でありたいといつも思っている。
どこまで調整したら気持ちよく書きことができるか、その万年筆が適切な状態になるかを察知して、やり過ぎないことはペン先調整をする者の必須のスキルであると思います。
特に資格がないこの業界では、今までそれが充分でなかったから先入観を持たれることになってしまったと、私たちペン先調整をする人間は反省して、理性的な仕事をしなければいけないと思っています。