夏は、特に8月は日本的なものに惹かれます。日本について考える機会が多い月だからだと思います。
原爆によって多くの方が亡くなった日。終戦記念日、お盆など、私たちが日本の過去や亡くなった人たちについて考える機会の多い月です。
外は暑くてカンカン照りなのに、どちらかというと内省的な気持ちになる様々なことを振り返る月だと思っています。
そんな月に、手紙や原稿を黒インクで縦書きして、万年筆を愛用する者なりのやり方で日本的な心を大切にしたいと思います。
冬枯れのインクは書いた後に黒味がスッと紙に沈む薄めの黒なので、ノートいっぱいに書いても暑苦しくならず、今の季節に使う黒としてちょうどいいと思います。名前も涼し気です。
インクの宣伝になってしまったけれど、日本の万年筆について考えたかった。
日本は万年筆王国だと思っています。
良質な万年筆を作る3つのメーカーが健在だから。
それぞれのメーカーの違いは、私は書き味の個性だと思っています。パイロットは筆圧の強弱によりインクの濃淡の出る仕様になっているし、セーラーはスイートスポットをはっきりとさせた仕上げで正しい書き方で書くととても気持ちよく書けます。プラチナはインクの出が一定で、筆圧が変わってもインク出に影響を受けずに均一に書けると思います。
それぞれのメーカーの特長はバラバラですが、共通して目指しているのはきれいな文字を書くことです。思想の違いはあるけれど、国産3社で優劣はなく、書き味の違いのみ存在すると思っています。
国産3社の100年の歴史は日本の近代文房具の歴史そのもので、老舗文具店の歴史もそれと重なる。これだけ長い間、生産と販売の仕組みが続いてきたことはすごいことだと思うし、業界の努力によるものだと思います。
当店はたった10年の歴史しかないけれど、この10年で学習したことは、自分たちのスタイルを変えたくなければ新たな顧客を探し続けなければならないし、同じ顧客に対して商売していきたければ自分たちが変わらなければならない。それだけモノの移り変わりが早いと実感しました。
私も自分のやり方を変えたくないけれど、そんな危機感をずっと持っています。
それにあてはめて考えると、国産3社と販売店などが100年間同じ形態で続いていることは奇跡に近い。
日本という閉ざされた国土にいると世界の動きは感じにくいし、これは私の勝手な思い込みかもしれないけれど、日本の万年筆、文房具が更に100年、200年と永遠に続いて欲しいと思っているからこそ、何も変わらない業界に焦りを感じています。