オマス本社工場のあるイタリアボローニャに、不安いっぱいで訪ねた私たちを満面の笑顔で迎えてくれた、オマスのエグゼクティブ韓国人のブライアン・リー氏が私にとってオマスの顔であり、イメージになっています。
イタリアの会社なのに韓国人の彼にオマスを感じたのは、彼自身が取り仕切るそのオマスという会社について、自信満々に、時にはライバル会社の悪口も言いながら説明するリー氏の、オマスが好きでたまらないという姿勢が、ドライなビジネスの世界に似つかわしくないように感じたからでした。
そんな彼が未発表の新製品について現物を見ながら説明をしてくださいましたが、その中に「アルテイタリアーナ・ミロード・クルーズ」もありました。
きれいな色のボディとスマートなデザインで、女性に向けた新しいモデルということで紹介されました。
しかしオマス本来の魅力は、軽くて、大き過ぎないボディと柔らかい書き味だと思っていますので、このクルーズのコレクションは、堂々とゴージャスになった新生オマスの中にありながら、旧来のオマスの魅力に近いものなのだと思っています。
実際クルーズは、オマスの予言通り、万年筆を使い慣れた女性たちから絶大に支持されています。
大きく重く、堂々としたオマスのサイズは多くの女性にはどうしても大きく感じられ敬遠されがちですが、クルーズのサイズなら使いやすいと思ってもらえるようです。
万年筆を使い慣れていない、初めて万年筆を使うという方、女性だけでなく男性にも使っていただきたい万年筆で、これからお勧めしていきたい万年筆のひとつです。
クルーズの実用面についてご説明しますと、ペン先は14金、あまり大きくはありませんがどの個体を試しても柔らかすぎず、良いフィーリングのものが付いています。
インク吸入機構は、カートリッジ、コンバーター両用式で、伝統的に吸入式が多かったオマスの中にあってよりカジュアルに万年筆を楽しみたいという希望にもかなったものになっています。
外出先での使用が多い方にも両用式は便利ですし、それが選択肢の多いヨーロッパサイズ(ペリカン、モンブラン、ウォーターマンなど多数のメーカーが対応)のカートリッジに対応しているとなれば尚更です。
創業時のオマスのペンは、アルマンド・シモーネがその才能を存分に発揮したアイデアルなものが大変多く、それらは今復刻しても人気が出そうなものばかりです。
現在のオマスは機構的にはより安定したオーソドックスなものを採用していますが、まだまだ独特のものを持っていて、他の多くのメーカーが意識しなくても似てしまうという、デザインにおいてのモンブラン的なペンデザインの方程式を採用していないところにオマスの独特のデザインの秘密があるのかもしれません。
完璧に思われるモンブラン方程式を使わなくても美しいペンを作り出すことができるということをオマスは証明しています。
訪問終了後、小さな本社屋の玄関で私たちと一緒にこっそりタバコを吸うエリートらしからぬ、リー氏の姿に遠くヨーロッパで会った隣国人の身近さも手伝って、この万年筆が重なります。