書の万年筆、書のインク

日本の歴史から大陸に興味が移って、井上靖の西域ものを立て続けに読んでいるうちに、西域や中国への興味が湧いてきました。

そういったものを読んでいるうちに、以前習っていた毛筆の練習を再開したりして、「文字を美しく書く」と言うことに興味が向いてきました。

私は気を抜くとすごいクセ字になるのですが、お手本をしっかり見て、なるべく端正な楷書が書けるように練習するのも楽しいと改めて思いました。

練習は筆ペンで始めたけれど、万年筆でもやれるのではないかと思います。

筆で何かを書けるようになるよりも、いつも使う万年筆で美しい楷書が書けるようになれた方が毎日仕事に役立てられます。

ペン習字は、デスクペンの細字や極細で行われていることが多いようです。

それほど小さな文字を書くわけではないのになぜそういう字幅を使うのか。万年筆で筆のようなトメハネハライを表現するのに、細字あるいは極細の方が向いているというの理由ですが、それは何故なのか。考えてみたら、ペンポイントの形状なのではないかと思い当たりました。

細い線、細かい文字を書くために尖らされたペンポイントは、漢字・ひらがなの線の美しさを生みやすいのではないか。

国産の万年筆でも、細字くらいまでは先が尖っていて、極端に言うと矢尻のような形をしているのに、中字以上になると丸くなります。

中細というのは中字と細字の中間の太さですが、ただ単に太さだけの問題ではなく、ペンポイントの形は細字と同じであって欲しいような気がします。

中字になると書き味がヌルヌルして気持ち良く書けるけれど、筆のような筆致を表現するのには丸く、紙にペタッとあたるペンポイントはあまり適していないのかもしれません。だけど書き味を優先するとどうしてもこうなってしまうし、むしろこういうペンもあって欲しい。

ある程度太くて、書き味が良くて、でも毛筆のような文字の形を表現したいという時は、セーラーの長刀研ぎの万年筆が必要になってくるのかもしれません。

長刀研ぎには、中細、中、太という字幅があります。その中でも一番細い中細が、先が鋭く筆文字を意識して書くのに一番適しているように思います。

中細と言っても、長刀研ぎのペン先は普通の研ぎのペン先よりもかなり太いので、心の準備が必要です。

当店でも55,000円の長刀研ぎ万年筆を扱っていますが、ネット販売が禁止されていますので、店舗での販売かメールでの販売となります。ご希望のお客様にはご用意させていただきますので、ぜひお申し付け下さい。

長刀研ぎはプロフィット21がベースになっているレギュラーサイズの万年筆ですが、新しくオーバーサイズのキングプロフィットベースの長刀研ぎ万年筆が発売されました。

ボディ、キャップ、首軸が磨き込まれたエボナイト製で、その艶は漆塗りが施されたように見えるほど磨き込まれています。

レギュラーサイズの長刀研ぎとはかなり違った柔らかいペン先で、万年筆で筆文字を書くためのペン先と言えます。

こういったものを書く時は、黒インクを使って書の気分を盛り上げたい。

通常の黒インクはなかなか濃淡が出にくいのですが、当店オリジナルインク「冬枯れ」は少し薄めの黒になっていて、濃淡が出やすく長刀研ぎとの相性も良いので、文字を書いていても楽しい。当店で開講しているペン習字教室の講師堀谷龍玄先生も愛用してくれていて、書のインクだと思っています。

中国の書聖と言われた人の文字に憧れて万年筆で書道をするのも、本を読むのと同じくらい楽しいと思います。

⇒キングプロフィットエボナイト長刀研ぎ万年筆

⇒Pen and message.オリジナルインク 冬枯れ

クリエーターの世界観

モノを生み出すクリエーターの人は、私たち販売側の人間とは違った思考でそのモノについて長い時間を費やして考え、試行錯誤してその魂の結晶とも言えるモノを生み出しています。

身近なところではカンダミサコさんにそんなクリエーターとしての姿勢を見ることができますし、他のクリエーターの方々の作品と言えるものも扱っています。

アルベルロイの机上用品は、万年筆・ステーショナリー専門誌「趣味の文具箱」の取材をアルベルロイの大西宣彰さんが受けた際、編集部の方から当店のことを紹介されて、そのご縁で取り扱いが始まりました。

アルベルロイの机上用品の完成度は、自然の素材を生かした手仕事の商品とは方向性の違うもので、その隙のない仕上がりの商品も完璧を追究する職人仕事だと思いました。

アルベルロイは、プロダクトデザイナー/空間デザイナーである大西宣彰氏が「極小の家具」というコンセプトでデザインしたステーショナリーです。そのモノがひとつあるだけでその空間の雰囲気を作る、そんな机上用品を目指しています。

余分なものを削ぎ落し、とことんこだわってデザイン・仕上げをしたメイドインジャパンの「机上家具」と、大切な万年筆や手帳を組み合わせることで、緊張感のある空間になる。

ひとつのもので雰囲気を作ることができるものを挙げると、服装では靴や鞄、机上では万年筆だと思っていますが、アルベルロイのオブジェのようなブックエンドやシンプルなペーパーウェイト&ペントレーもそういう存在になるのかもしれません。

アルベルロイの机上用品は、当店で扱っているどちらかと言うと柔らかい印象のステーショナリーとも相性が良いものだと思い、導入させていただきました。

そしてもう一つ、お酒を扱っていないのに「佐野酒店」という変わったブランド名のステーショナリーも扱い始めました。

佐野酒店は、レーザーワークによる木製品を作るブランドで、クリエーターの佐井健太さんが一人でデザインから製作まで行っています。

佐井さんはその頭の中に、懐かしい気持ちにさせるデザインの引き出しを多く持っていて、話していると様々なアイデアが出てきて、何から始めていいのか分からないくらいでした。そんな中、まずオリジナルラベルの木箱入りインク瓶から始めようということになりました。

お客様ご希望の名前や言葉をボトルと木箱にお入れする、オリジナルラベルの木箱入りインクボトルは、古いインク瓶を昔よくあったお酒の木箱のような形の箱にお入れするもので、佐井さんの世界観を表現したものです。

当店のスタッフの名前もさりげなくお酒の名前になって刻印されて、佐井さんのユーモアも込められています。

佐井さんがたまたま仕事で近くに来られた際に当店に立ち寄られて、何気ない話をしているうちに、佐井さんの仕事を知りました。

今まで当店になかった世界観のものですが、私たちの世代なら記憶の片隅にこういう世界があって、懐かしいと思う気持ちがあるのではないか、そして当店のお客様ならこういうものを面白いと思ってくれるのではないかと思いました。

今回ご紹介しましたクリエーターのお二人に共通するのは、どちらも不可侵の世界観を持っていて、それらを大切にしながら販売していきたいと思えるところです。

店というのは本当に有難い場所で、長く営業しているとこういう出会いがやってきてくれる。そしてその縁が仕事になっていくということを改めて感じました。

⇒ALBELROY(アルベルロイ)

⇒佐野酒店(レーザーワーク木製ステーショナリー)

〜クラスを超えた質感〜ファーバーカステルギロシェ

春は年末に次いでペンのプレゼント需要が高まる時で、当店にもそういったものを求めて来られるお客様は多くおられます。

人の異動が例年よりも少ないと言われている今春でも、送別や新生活のプレゼントのご要望はありました。

ご自分のものを買われる場合と違って、贈り物の場合はご予算がはっきりと決まっていることが多く、ご予算の制約の中でペンをご紹介しています。

文具の販売に携わって25年以上この仕事をしていますので、価格ごとにペンを分類する習慣が染みついています。ご予算を言っていただければ、お取り寄せも含めてお勧めしています。

予算と言えば、価格によってペンのクラスは厳然と分けられています。

当然価格が上がるほど良くなっていきますが、それがちゃんと分かるようになっているので、お客様は安心してペンを買うことができる。

でも中には、画像で見たら華やかで高級に見えるけれど、実際に手に取るとそうではなかった、というペンもたまにあります。

そういった価格によるクラスを超えているペンのひとつがファーバーカステルギロシェで、お勧めする機会の多い、大切に思っているペンのひとつです。

しかしコロナ禍の影響か、今春ギロシェが日本に全くなかったのには本当に困りましたので、最近は少しまとめて仕入れるようにしています。

ギロシェは、クラシックコレクションを踏襲した細身でシンプルなデザインで、写真や画像で見ると地味に感じるかもしれませんが、実際手にするとその質感の高さにクラスを超えたものであるということを感じていただけると思います。

ファーバーカステルは銘木やスターリングシルバーをボディ素材にしたクラシックコレクションのイメージもあって、高級で趣味的なイメージがあります。ギロシェはクラシックコレクションの入り口であり、実用に特化したシリーズということかもしれません。

ギロシェもクラシックコレクションも、天冠やクリップのデザインが美しく、キャップリングのない細身で、システム手帳などのペンホルダーにも入れやすいペンです。

特にバイブルサイズとのバランスが良く、手帳用のペンと言えばペリカンM400とともにこのギロシェをイメージします。

良いペンはたくさんあるけれど、私は若い人にもこのギロシェに興味を持ってもらいたいと思っています。

ギロシェという、デザインも質感も優れたペンから広がって、これに合う革製品に興味を持ち、さらに上のクラスのクラシックコレクションにランクアップしていく。もちろんギロシェの実用性が気に入ったのなら、このペンを使い続けてもいい。

ファーバーカステルギロシェは、美しいデザインのペンを手にする楽しさ、このペンを中心としたモノへのこだわりの広がりを教えてくれる存在だと思っています。

⇒ファーバーカステル TOP

反骨のアウロラ・美しい限定万年筆アンビエンテギアッチャイオ

このコロナ禍で、多くの万年筆メーカーが以前のように万年筆を供給できなくなっています。そんな状態でもアウロラだけが変わらずにペンを作り続け、更に新しく限定品も発売して、日本に届けてくれています。

この状況下で、アウロラだけがなぜ変わらない仕事ができているのか。

もちろんコミュニケーションを欠かさず、商品を確保し続けている日本代理店の努力は相当なものだと思いますが、アウロラが部品の多くを自社で作っていることが大きく関係していると思います。

こんな状況になる前から、アウロラは全ての部品を自社で作っています。だからこそ、発売してから何十年経ったペンでも直すことができる。そのことを誇りにしていましたが、それが現在のように世の中の動きが止まった時にも強味になりました。

自社で全てのパーツを作るということは、もしかしたら効率の悪いモノ作りの仕方で、様々なバリエーションの製品を作るのには無駄が多いのかもしれません。

イタリアの多くのモノ作り企業の在り方に、私はいつも主流のものに対する反骨心のようなものを感じています。

大きな動きやその時代に主流となっているものがあったとしても、それに流されずに自分たちの信じた道を行く。

いつの時代も正解なんてないけれど、今は特に世の中が混乱していて様々な意見があり、先の見通しが立たない状況です。

そんな世の中においては、自分たちの信じた道を行くということが正解なのだと、アウロラの姿勢から学ぶことができます。

私たちは今の状況で起っていること、戸惑ったことを、世界が元に戻った時に忘れてしまうかもしれません。しかし、それではいけないのだと思います。今感じていることを覚えておいて、それを評価できる時に声を上げなければならない。

今のアウロラの活躍を万年筆の歴史の一つとして覚えておいて、この状況が過去になった時、知らない世代に伝えたいと思っています。

アウロラが限定品の新たなシリーズをスタートさせました。

地球環境をテーマに、守らなければならない様々な自然の姿をテーマにした限定品で、第1回目のアンビエンテ・ギヤッチャイオは「氷河」です。

青み掛かった白い氷河を、この万年筆は軸の色で表現しています。

このモデルは、他のアウロラのペンよりもスターリングシルバーのパーツを多く使っているため、40グラムの重さがあります。そして18金ペン先の柔らかさが伝わりやすい、厚みを感じる豊かな書き味をしています。

首軸に氷河をイメージした線が施され、氷河をイメージしたフレグランスを纏わせたブックレットがセットされるという凝った仕掛けになっています。

これは私の持論ですが、多くの筆記具の中から万年筆を選んで使っている人は、多くの人と同じようにすることに懐疑的で、流行や大きな動きに対して反骨心のようなものを持っている。そして自分のスタイルを持っている人だと思っています。だからこそ万年筆を使うのだと思います。

アウロラはそういう人の心にピッタリと合う仕事をする万年筆メーカーだとずっと思ってきましたが、今回のコロナ禍でも、やはり私たちの心を掴む仕事の仕方をしていたと思いました。

⇒アウロラ限定万年筆 アンビエンテ・ギアッチャイオ

特別注文のデブペンケース

今年の1月末、590&Co.の谷本さんに、ル・ボナーさんのデブペンケースで別注を一緒に作らないかと誘われて、ル・ボナーさんのお店を訪ねました。

ル・ボナーの松本さんはちょくちょく当店に寄ってくれるけれど、私が六甲アイランドのお店にお邪魔するのは本当に久し振りでした。懐かしい親戚の家を訪ねるような感覚で、松本さんと奥様のハミさんと娘さんの3人が揃うお店を訪れました。

デブペンケースは当店も開業当時からずっと販売させていただいてきたけれど、今まで別の革で作りたいと言ったことはありませんでした。

それは松本さんが作り続けているブッテーロとシュランケンカーフで満足していたということもあります。

ル・ボナーの松本さんには尊敬のような、親しみのようなそして労りを持った親へのような感情を抱いています。

仕事でもいつも関わっていたいけれど、あまり面倒はかけないようにしたい。長年で積み重ねられた松本さんの仕事のペースを乱したくないし、なるべく松本さんの気乗りしないことはさせたくないと思っていました。

そういった想いもあって、松本さんに別注品を作って欲しいと言うことははばかられていました。

仕事にこういった感情を持ち込むのはおかしいと思う人もいるかもしれませんが、仕事仲間とかそういったもので割り切れないほど松本さんのことを大切に思っています。それは谷本さんに対しても同じで、だからこそ仕事以外でも一緒に何かしたいと思う。

590&Co.の谷本さんはなかなかの甘え上手で、私と同い年なのに本当に可愛げがあります。皆に愛されていて、谷本さんに頼まれたら聞いてあげたくなります。どんなやり取りがあったのか分からないけれど、オリジナル仕様の話は松本さんと谷本さんの間ですでに決まっていて、私もそこに便乗させてもらえることになりました。

590&Co.仕様のデブペンケースはプエブロ革で、同じバダラッシィ・カルロ社のミネルヴァボックス革同様、激しいエージングをすることで人気のある流行の革です。時流に鋭く反応する谷本さんらしい選択で、実際あっという間に売り切れてしまいました。

当店仕様のデブペンケースは、サドルプルアップレザーです。

こげ茶色の艶々とした濃厚な風合いで、ベルギーのタンナーマシュア社の名革です。ヨーロッパ産の成牛のショルダー革の銀面をすって毛羽立たせてから、それを潰して滑らかに仕立てる独特の製法で、この艶々の革目が生まれます。

デブペンケースの別注を作ると考えた時に、何の迷いもなくこの姿が浮かびましたし、その理想通りに出来上がってきました。

流行とは全く関係のない選択ですが、とてもいいものが出来たと思っています。

仕切りのついたペンケースもいいですが、このデブペンケースのような仕切りのない大容量のペンケースは、細々とした文房具をまとめて入れるものとしても持っていたい。そして傷をつけたくないペンなどは、カンダミサコさんの1本差しペンシースに入れてからデブペンケースに入れると、安心して使うことができます。

サドルプルアップレザー仕様は、大人のためのペンケースという趣がさらに強くなって、当店のお客様には喜んでいただけるものになったと思います。

⇒特別注文品 ル・ボナー デブ・ペンケース/サドルプルアップレザー

~スマートに対抗する趣~ カンダミサコポケットウォレット

個人的な感覚ですが、以前よりも電車の中で本を読む人が増えたように思います。

少し前までは探してもなかなか見つからなかったけれど、今は周りを見るだけで数人は見つけることができる。

多くの人はスマホを見ていて、本を読む人は少数派だから目立つのだと思いますが、その数少ない本を読む人を見つけると、何となく同志を見つけたような、何の本読んでるの?と話しかけたくなるような嬉しい気持ちになります。

紙の本を読んでいるからどうだ、というわけではないけれど、紙の本を読む人には、読む人の美意識のような、矜持のようなものがあるような気がします。多くの人はスマホを見ているけれど、自分は紙の本を読んでいるというこだわりを感じなくもない。

でもスマホで本を読んでいる人もいて、それが現代の本を読むということなのだと考えると、紙の本にこだわり過ぎるのはただの時代遅れな人間になってしまうのだろうか。

私は「電車の中で本を読むかどうか」という話と近い感覚だと思っているけれど、キャッシュレス決済やスマホ決済を使うか、現金で払うか、というのにもそれぞれの美意識が存在していると思います。

スマホ決済がかなり普及した上に、こんなご時世で外出する機会も減り、財布が売れにくくなっていると言われています。

たしかに財布がなくても、ICOKA(ICカード乗車券)や決済アプリがスマホに入っていれば、どこに行くのにも困ることはありません。

財布にお札と小銭とクレジットカード、定期入れにICOKAとバスカードを入れて持ち歩いて、それで充分やっていくことができていて、これ以上の便利さを必要としていないと言うと、さすが時代遅れな気もします。

だけど何でもスマホひとつで管理するとなると、失くしたりしたときのリスクも大きいと思いますし、コンビニでアメを買うだけで速やかに決済することもないかと、そこまでの必要性を感じていないというのが、私を含めた従来決済派の言い分だと思います。

でも、お金やクレジットカードは財布に、ICOKAやバスカードは定期入れに、という人の言い分のひとつに、モノとしての趣きがスマホと財布とでは大きく違うということがあります。何でも効率的であることが全てではないと思う。

個人的には、スマホよりも愛用の革のウォレットを出して買い物したり、改札を通ったりする方が楽しいような気がしてしまう。

こういうものが繰り返しの毎日に楽しみを与えてくれて、日常生活を張りのあるものにしてくれるのではないかと思います。

⇒カンダミサコ Pocket Wallet

鮫革のバイブルサイズシステム手帳

以前、カンダミサコさんが新作の革製品を納品して下さった時に、「出来ましたね!」と言ったところ「出来たのではなく、作ったんです」とにこやかに注意されたことがありました。

もちろんカンダさんが苦労して作り上げてくれていることは理解しているつもりでしたが、作り手の苦労を本当に理解しているのかと思うと、全く分かっていないのだと思う。

作家さんは私たちが考えるよりずっと長く真剣に素材に向き合い、製品を作り出していて、そのひとつひとつが彼らの時間と魂と引き換えに生み出されています。私の言葉がそれを軽く見ているように聞こえたから、カンダさんが笑いながらそんなことを言ったのだと思います。

いずれにしても当店のステーショナリーが他所の店と違うものになっているのは、カンダさんをはじめとする革職人さんの存在が大きく、当店になくてはならないものになっています。

当店とカンダミサコさんとの取り組みで、その年の革を決めて、1年間はその革で様々なものを作る試みをしています。今年で4年目になり、今年の革は鮫革(シャーク)です。

昨年は、ピンクゴールドのアルランメタリックゴートレザーという女性好みの革をでしたので、趣の違うものをやってみてはどうかというカンダさんからの提案もあって、そうすることにしました。

シャークは丈夫で独特の模様があり、いつか作っていただきたいと思っていた好きな革です。

先日発売した「長寸用万年筆ケース」がシャーク最初の商品になりました。

カンダミサコさんのシステム手帳は、ベルトもペンホルダーもないとてもシンプルなデザインですが、実は特殊な構造になっていて、180度平らに開きます。このシンプルな中に使いやすい工夫がある仕様が、とても気に入っています。

バイブルサイズのシステム手帳は、特に用途を決めると使い勝手の良いサイズだと思います。横書きすると1行が短くなるので、長文を書くより箇条書きをする方が使いやすく、私は調整の記録用として使っていますし、ダイアリーとしても使いやすいと思います。

シャークは硬そうなイメージがありますが、実際は柔らかく手触りの良い革です。システム手帳に向いている革だと思いました。カンダさんがお勧めしてくれた理由が分かります。

個体差が大きく、天然素材なので模様は1つずつ違うし、同じ色でも個体によって染まり方が違ってきます。

今回は同色の革を選んで仕入れてもらって、長寸用万年筆ケースとバイブルサイズのシステム手帳にしてもらいました。

次は同色でも少し違う色の革になると思いますが、今年はシャークで引き続き他のものも作っていきたいと思っています。

⇒カンダミサコ シャーク革・バイブルサイズシステム手帳(2021年モデル)

⇒Pen and message. 長寸用万年筆ケース シャーク革

アウロラ88テッラ~太陽系を巡る旅の終わり~

少し前から、今まで使っていたブルーブラックのインクから違う色に変えたいと思い、暇さえあればインク色見本帳を見ていました。その中で目に留まったローラー&クライナーのスカビオサとパイロット色彩雫の紫式部を選んで使っています。

スカビオサは、その名前の響きが好きなのと、褪せたような紫色が今の気分に合っている気がしました。酸化鉄が含まれている古典インクで、書いたものの保存性も高い。

古典インクは万年筆に入れるとたいていインク出が少し渋くなって、ヌルヌルとした書き味ではなくなりますが、私はあまり気にしません。

それよりもインク出が渋くなったことで、インクの濃淡が今まで以上に出るので気に入って使っています。

紫式部はパイロットなので、インクがよく出るようになるだろうと思っていましたが、意外にもインク出は控えめで、紙に適度に沈みます。私にとっては初めての、ピンクにブルーを混ぜたような爽やかなパープルです。

こうしてインクを探しているうちにいろんな色を見ましたが、万年筆のインクはやはりブルー系が多く、好む人も多いようです。

その趣向に合わせてか、ブルー軸の万年筆も多く作られているような気がします。そして今までここまで青い万年筆はなかった、と思ったのが「アウロラ88テッラ(地球)」です。

惑星シリーズとして太陽系の惑星を巡っていたアウロラの長い旅も、地球に帰ってきたというストーリー。

地球が太陽系の中でも極端に青い、異色の星であると言われているように、この88テッラも他の万年筆と見比べるとかなり趣を異とするものに見えます。

88シリーズでは初めてですが、首軸とボディが同じマーブル模様のブルーのアウロロイドが使われています。

万年筆の金属パーツといえば、ゴールドかシルバーでしたが、88テッラはペン先も含めて濃い青に仕上げられています。これはアウロラの万年筆ではおそらく初めてのことだと思いますが、これがかなりこの万年筆を精悍な印象に仕立てています。

アウロラは太陽系の惑星というテーマで、それらの星の美しさを万年筆というキャンバスで表現してきましたが、テッラは今までの万年筆とは違う、太陽系における地球のような存在の万年筆に仕立てられています。

コロナ禍で、意気消沈しているメーカーが多い中、アウロラは今までと変わらずに、むしろ今まで以上に活発に活動しています。万年筆の世界を面白くしようと努力している。コロナ禍であっても、私たちができる社会貢献は、やはり自分の仕事を全うすることだとアウロラを見て改めて思いました。

⇒AURORA テッラ(地球)万年筆

アンチエリート~モンブランへの想い

若い時に自分で初めて買った万年筆はペリカンM800で、その次はアウロラオプティマでした。

モンブランを避けていたのは、当時の「モンブランが万年筆の王道である」という雰囲気が何となく苦手だったからだと思います。

この性格は子供の頃からで、圧倒的に強いもの、誰もが良いというものに反発を覚えて、背中を向けてきました。例えば関西人なら分かると思いますが、ナイターを観ていても必ず巨人の対戦相手を応援するというアンチ巨人ファンでした。

でも考えてみると、自分が嫌だと思って反発するのはそれを一番だと認めているということなのかもしれず、自分はそれに強い憧れのような気持ちを持っているから反発するのではないか、と思い当りました。

万年筆を知っていくうち、当時の巨人と阪神のようにモンブランと他社の間にそんな力の差はなく、ただお酒の銘柄程度の違い、ということが分かってきました。

そう言いながらもモンブランへの反発の気持ちがなくなったわけでもなかったので、私の中では最近までモンブランはこの世の中に存在しないものとしてきたのでした。

でも結局、前にこのペン語りで書いた(2020年10月23日、12月11日)きっかけがあって、モンブラン149を使い始めました。そうして自分のものになった時、武骨なまでにシンプルな仕様が自分のモノの好みに合って、王道のモノだとして制止していた気持ちが決壊してしまいました。

モンブラン149と146という、王道中の王道の万年筆を扱うようになって、長年抑え続けていた想いが溢れてしまった。

すでにモンブランでは在庫がないようですが、他所の店で見たり、お客様が持っているのを見せてもらったことはあって、すごく良いデザインだと思っていたヘリテイジルージュアンドノワールコレクションが入荷しました。

作家シリーズなどの限定品をずっと見ていて、モンブランの自社の過去のペンを現代的にアレンジするセンスがすごいことは分かっていました。

このヘリテイジも、1900年代はじめの頃のモンブランのデザインを復活させたペンで、細身の軸ですがずっしりとした重さがあって、大きな赤地のホワイトスター、スネーククリップがサマになっています。

ファーバーカステルを万年筆とボールペン、あるいはペンシルとセットで持ちたくなる数少ないペンだと思ってきましたが、このヘリテイジルージュアンドノワールも万年筆とボールペンもそうだと思いました。

少し細めのヘリテイジもカステル同様、カンダミサコさんの2本差しペンシースにピッタリ合って、このペンシースによってセットで持つ喜びがより強くなります。

私が王道のものに反発を覚えるのは、きっとそれを王道だからという理由だけで理解せずに持てはやす風潮があるからで、自分はそうはなりたくないという気持ちが王道への反発につながっていたのだと、今なら分析することができます。

モンブランは特別な存在のブランドではないけれど、やはり魅力がある。私はやっと反発せずにそれが言える、感情を超えて分別のある考えができる齢になったということなのかもしれません。

⇒モンブラン TOPへ

フォーマルな万年筆

5/3(月祝)、店は営業していますが、私は息子の結婚式に出席するためにお休みすることになっています。

本当は昨年のゴールデンウィークに式を挙げる予定でしたが、緊急事態宣言が出たこともあり延期することにしました。

結局今年もあまり変わらない状況になってしまいましたが、両家数名だけでの結婚式なので、ホテル側とも相談して行うことになりました。

私は新郎の父ということになりますので、身内だけではありますがお約束の挨拶をしないといけません。自分らしいと思って可笑しかったのは、その挨拶を考えるよりも先に、息子の結婚式の記念になるものを自分に買いたいと思ったことでした。

そのものを使う度に、これは息子の結婚式の時に買ったものだと思えるものを買いたいと思い、どうせならいい靴を買って記念にしようと考えました。結婚式に履いて、普段も履いて、その時に履いた靴だと思いたい。

ただ結婚式で履く靴には決まりがあり、特に新郎の父はモーニングを着るので、よりフォーマル度が強い。

靴は内羽根式のストレートチップというのがフォーマルな靴の中でも一番格式が上だということになっていて、新郎の父はそれを履くことがマナーになっています。その場を大切に思っている気持ち、結婚する二人、相手の親御さんに対する礼を表すためにもそれを守りたいと思いました。

普段のカジュアルな服装にも何とか合わせて履こうと思って、その形の靴についてしばらく研究していましたが、やはり私の普段の服装には合わないと思い直し、前から持っていた冠婚葬祭用のリーガルを履くことにしました。

わざわざ買わなくても持っていたのですが、上手くいきませんでした。

靴にはこのように厳格なデザインによる線引きがありますが、万年筆ではどうだろうかとふと思いました。

万年筆において正式と言われることはないと思いますが、結婚式などのフォーマルな場ではあまり派手なものよりも、定番品のようなシンプルなものが合っていると思います。それは服装と同じなのかもしれません。

オーバーサイズは目立ちすぎるし、レギュラーサイズでも普通のボールペンやシャープペンよりは大きく感じます。その辺りを考慮すると、レギュラーサイズよりも小さめのペンの方が慎み深さを表しているようで、フォーマルに合っていると思います。具体的に言うと、ペリカンM600、M400、ファーバーカステルクラシック、クレオスクリベントゴールドなどがこれにあたると思います。

ファーバーカステルクラシックなどはこういうフォーマルな場に相応しい抑えた高級感があるように思います。もちろん合わせるペンシースは黒です。

繰り返しますが、万年筆においてフォーマル、カジュアルはそれほど厳格ではなくて、どちらかと言うと個人のセンスが表れるところだと思います。

だからこそ、礼の気持ちを表現した自分なりの万年筆選びしたいと、結婚式を口実にした万年筆を選びをしてもいいのかもしれません。

⇒ファーバーカステルTOP

⇒クレオスクリベントTOP