お手本集がもたらす静かな楽しみ

2021年に第一集を発売した堀谷龍玄先生のペン習字お手本集の続編、「続万年筆で書く龍玄手本集」が完成しました。

先日の代官山の出張販売では、ご購入いただいた方に、特典として「年賀状」か「暑中見舞い」文章のお手本をお渡ししました。

出張販売では初めての試みでしたが堀谷先生も同行して下さいましたので、そのお手本の裏に、その場でご購入された方のお名前を書いていただきました。

楷書、行書、草書の中からお好きな書体を選んでいただいて書かれていましたが、ほとんどの方が楷書を選ばれていたようです。

楷書できっちりと自分の名前を美しく書きたいと思っておられる方が多いことを改めて認識しました。

私も日ごろから、せっかく万年筆を使っているのだから自分にしか読めないような文字ではなく、はっきりとした端正な文字を書きたいと思っています。

それに草書、行書の続け字よりも、整った楷書の文字で自分の名前を書くということが、最も相手に敬意を表明した書体であると思っています。

そんな私の希望もあって、今回の手本集では中国の古典、蘭亭序と九成宮醴泉銘のお手本を載せていただき、書道の気分を味わいながら楷書の練習ができるようにしました。

端正な楷書を書きたいと思った時に、プラチナセンチュリーなどの硬いペン先の万年筆が合っているように思いがちですが、堀谷先生のお手本ではカスタム743フォルカンなどの極端に柔らかいペン先の万年筆で楷書のお手本が書かれています。

楷書だからこそ、フォルカンのような柔らかいペン先で強弱をつけて書くようにするのだということを前回のお手本集で知りました。

美しく文字を書くには、インクも重要です。

堀谷先生は、文字が締まって美しく見えるということで黒インクを勧めておられますが、黒インクの中でも少し薄めの当店オリジナルインク「冬枯れ」を愛用して下さっています。

冬枯れは乾くと少し黒味が引くインクなので、運筆の濃淡が表現でき、筆圧がかかったところは濃く、力を抜いたところは薄くなって文字が生き生きします。冬枯れはペン習字の練習を楽しくしてくれるものでした。

この手本集の原稿書きに使われているのは主にツバメノートの立極太罫ノートで、他にはない太い縦罫線と、滑らかでにじみの少ない自然な書き味を持っています。当店でのペン習字教室では、この2種類のノートを使ってお稽古しています。

ぜひお手本集と冬枯れ、ツバメ立極太罫ノートのセットで美しい文字を書くお稽古を楽しんでいただけたらと思います。

万年筆で美しい文字を書く練習は、静かな楽しい時間を過ごすことができます。それこそが当店がいつも提案したい大人の万年筆の楽しみだと思っています。

⇒「続・万年筆でかく 龍玄手本集」

⇒オリジナルインク「冬枯れ」

⇒ツバメ縦罫ノート(ノートTOP)

S.T.デュポンの伝統とトレンド

万年筆専門店をしているけれど、なるべく世界のことを知るようにして、少しでも広い視野で自分の仕事を展開したいと思っています。

今の当店の在り方がそのような視野の上に成り立っているようには見えないかもしれません。でもただ万年筆のことだけを考えるのではなく、世情を掴んで色々なモノのトレンドを知った上で、それらと自分の信念とのバランスを取って世界の中で万年筆について考えたいと思っています。

そんなふうに考える私にとって、S.T.デュポンのモノ作りは大いに共感できるものです。

S.T.デュポンは、ペンに力を入れて展開するブランドだけど、旅行用トランクに代表される最高級の革製品作りからこの会社が始まったことや、ブランドの中心にライターがあって、ファッションや文化の中でのペンについて追究しているからなのだと思います。

S.T.デュポンの定番にして代表的なペン「ラインD」は、ライターのような塊感のあるしっかりとした作りのペンで、S.T.デュポン伝統の純正漆が施された高級感のあるシリーズです。

漆の温かでピッタリと手に吸い付くような質感は、金属軸の冷たさを補って余りあるもので、最高の組み合わせに思えます。

カチッと気持ち良くはまるキャップに表れている精度の高い作りも魅力で、このラインDこそ最もデュポンらしいペンだと思っています。

しっかりとした作りと高級感を両立したラインDによって、S.T.デュポンが古き佳きモノ作りのハートを今も持ち続けていることが分かります。

当店は「万年筆店」として皆さまに認識されていると思いますが、書くことが楽しくなるボールペンも私なりに見つけ出して揃えておきたいと思っています。

数は少ないけれど、決定的な力をもつボールペンは何かとよく考えていて、最近私が注目しているのはディフィのシリーズです。

ラインDのモノ作りとは少し違った、その時々のトレンドを取り入れて変化していくディフィシリーズは、このペンのデザインの変遷を追いかけているだけで面白い。

発売当初は、デザインは良いけれど少しクセがあって、書くことに慣れるまで少し時間が必要でした。

しかし、ディフィミレニアムというシリーズになり、オーソドックスな握り心地になりました。

細く長いクリップは使いやすいし、まだ世界でも一般的ではなかったイージーフローボールペン芯を真っ先に採用したのも、このディフィでした。

ディフィを追いかけることで世界のモノ作りを知ることができると思っています。

伝統を守り、S.T.デュポンらしく進化するラインDと、トレンドに合わせて次々に変化するディフィ。

2つのデュポンは良いペンだと思いますし、モノとしての面白みもあるペンだと思っています。

⇒S.T.デュポン TOP

*来週は代官山に出張販売中のため、次回更新は7月21日(金)です。

バゲラシステム手帳とペンケース~夜Ⅱ・庭~

バゲラのペンケースは、私たちや革製品に詳しい当店のお客様方にも、相当なインパクトを与えた作品でした。

同じような形のペンケースは他にもあるかもしれませんが、革の組み合わせやステッチの使い方など、ひとつの造形作品のような印象を持ちます。そしてそのセンスこそが、このペンケースのオリジナリティだと思いました。

ペンケースの次は何を作りましょうか、と高田さんが聞いてくれましたので、それならバイブルサイズのシステム手帳を、と答えました。

ペンケースと同じようにシステム手帳は大切に思っている人が多く、バゲラさんのペンケースのようなシステム手帳を望んでいる人は自分以外にもいるはずだという確信がありました。

そしてペンケースとセットで持ちたくなるシステム手帳が完成し、今年の3月から販売を開始していますが、やはり気に入って下さる方が多くおられます。

「夜Ⅱ」は、「夜」というコンセプトのシステム手帳に使っていた高田さん秘蔵の革がなくなってしまいましたので、革を変えて「夜Ⅱ」として新たに作っていただいたものです。

牛革のヌバックを揉んで風合いを出したものをメインに、ペンホルダーにはパイソン、ベルトとベルトループには斑の大きく違うクロコを使って、濃厚な夜の雰囲気を纏ったものになっています。全て手縫いで作られていて、一筆書きのように通されたシングルステッチが景色になっています。

「庭」のコンセプトでもバイブルサイズのシステム手帳とペンケースが出来上がりました。

アンティーク風にパティーヌ加工したアンティークゴートをメインに、ベルトはクロコ、ベルトループには渋い色のオーストリッチ、ペンホルダーはパイソンの革を使用しています。

エキゾチックレザーを贅沢に使いながらも自然の中にあるような色彩にまとめられていて、草花と土の庭の風景がイメージできるものになっています。

大量生産品ではなく、限りのある革を使って1つ1つ時間をかけて作っているため、1つのコンセプトで多くても10数冊しか作ることができません。

途中からバゲラさんのシステム手帳とペンケースにシリアルナンバーを目立たないところに入れてもらうようにしています。

バゲラの高田さんご夫妻が出来上がるたびに持参してくれるひとつひとつのものとの出会いは私たちにとっても特別です。

お花やお菓子を持ってきて下さることもあって、出来上がった作品を納めてくれる時間自体が特別なものになっています。

バゲラの革製品はひとつずつ特別な想いと時間を経て、お客様の手元に渡る。

ひとつひとつの時間と想いを刻んだシリアルナンバーはこういうものにこそ合っていると思います。

当店は自分たちの仕事と気持ちのペースに合ったモノに出会えたと思っています。

⇒バゲラ~革製品オーダー専門店TOP

ペリカンM800グリーンデモンストレーター発売

モンブランとペリカンはよく比べられて語られることが多いと思います。

世界にはたくさんの万年筆があるけれど、この2つの会社に関してだけは、売上が1位と2位というわけではないのに、ペリカン派とモンブラン派に分かれて論争されている。・・と言うとさすがに大げさだけど、お客様と話をしていると両派に分かれる気がしています。

どちらもドイツの老舗メーカーで、現在もハードな仕様にも耐えうる良い万年筆を作っています。

しかし2つの会社が辿ってきた道はあまりにも違っていて、対照的にさえ思えます。

モンブランは早い段階でファッションブランドの傘下に入って、筆記具のメーカーと言うよりもファッションブランドと言える存在になっています。

ペリカンはあくまでも文具メーカーであり、多くの一般ステーショナリーや学童用万年筆も作っています。

モンブランが目指す万年筆のあり方はファッションのアイテムにもなる万年筆で、ペリカンは文房具の中のひとつとしての万年筆を示してきました。

私たちはもしかすると、モンブランというブランドに対してエリートの象徴を見て、対するペリカンに庶民性を見ているのかもしれません。

ペリカンの定番モデルには、縞模様やクリップにあしらわれたくちばしなど遊び心があって、シンプルで真面目な雰囲気のモンブランとは少し違います。大人の余裕のようなものが感じられて、惹かれる方も多いと思います。

勝手に庶民の象徴に祭り上げてしまったペリカンですが、その使用感は万年筆の王道と言えるものだと思っています。

今のペリカンの最も代表的な万年筆「スーベレーンM800」は、硬すぎないガッシリしたペン先と適度な重量感のある万年筆で、最もリラックスして自然に書ける万年筆の筆頭だと思っています。

何も気にせず書くことに集中できる万年筆は、モンブランで言えば149ですが、ペリカンはそんな万年筆を149の半分の価格で作っています。

コロナ禍の影響はペリカンにも強く作用して、一時は全く流通していない状況が続いていましたが、今年になってやっと戻ってきました。

やはりペリカンのない万年筆売場は寂しいし、万年筆のお手本だと信じているM800を皆様にお勧めできないのは不本意でした。

定番モデルも少しずつ揃うようになってきましたが、最近の話題は限定生産品M800グリーンデモンストレーターです。

M800の縞模様は、生産の効率化・耐久性の向上を目指して透明部分がブラックに変更され、インク残量が見えなくなりました。インク残量を確認しながら万年筆を使いたい人にはM800グリーンデモンストレーターの発売はとても有難いと思いますし、何よりも大量のインクの存在を感じながら書く安心感を味わわせてくれます。

万年筆は豊かでラグジュアリーな雰囲気を味わえるモノが多く、その部分に憧れる人も多いかもしれません。しかしペリカンは万年筆は書くための道具、筆記具であることを常に忘れず、自分の手を動かして仕事している我々庶民のものであり続けようとしているように思います。

⇒Pelikan M800グリーンデモンストレーター

ペンスポット・ボルトアクションボールペン「gate811」

私が車の免許を取るために自動車学校に行っていた時は、ミッション車が標準的で、オートマチック車に乗れる時間はわずかでした。オートマは操作がとても楽で、ミッションのようにクラッチ操作をミスしても、ロデオのようにノッキングすることがないので、その時間を楽しみにしていました。

でも乗っていた車は2台目までミッション車で、それは運転を楽しむというよりも、オートマよりも値段が安いから、そして燃費が良かったからでした。

オートマの性能がそれほど良くなかったのかもしれませんが、ミッション車に乗るのが普通の時代でした。

しかし、気がついたらオートマ車がほとんどで、ミッション車の方が珍しいくらいになっていました。

車を走らせるために変速レバーをガチャガチャと動かしたり、渋滞の時はクラッチを調整する足が疲れるミッション車が当たり前だったのに、今ミッション車は趣味で乗る車になっている。

書くことも似たような状況かもしれません。

昔はパソコンなんて職場になく、商品を発注するにも紙に手書きをしてファックスを送らないといけなかった。何かする時は手書きをするということが普通でした。その時はもっときれいな書面でファクスを送りたいから、活字にしたいと思っていたし、はじめて自分が書いた文章をプリンターで印刷した時は、別人が書いたようにきれいで、とても嬉しかった。

でも仕事ではコンピューターに打ち込みすることが当たり前になって、手書きの書類を見ることはほとんどなくなりました。

気が付いたら手書きをしなくても生活は成り立つようになっていて、日常的に手書きをする人は、好きで書く人・書くことが趣味だと言える人がほとんどになっていました。

私もそうですが、書くことが好きな人は万年筆だけでなく、どんな筆記具を使ってでも書いていたいものです。

むしろたまにボールペンを使ったりするのも気分が変っていいと思いますし、仕事中は私でも万年筆よりもボールペンの方が使いやすいと思います。

だから当店はボールペンも提案したいと思います。

時計作家のラマシオンの吉村恒保さんが作るボールペン ペンスポットgate811が久し振りに入荷しました。

ハンドメイドの時計やジュエリーの製作もしながらなのでなかなか出来上がらず、前回から1年近くの月日が過ぎてしまいました。以前軸中央にあったリングがなくなって、継ぎ目のない一体型構造にモデルチェンジしています。

芯を出す時は、車のシフトレバーを操作するようにノックして芯を出します。そして芯を交換する時はレバーを取り外します。

全てのパーツが吉村さんの時計作りのように1つずつ削り出して作られていることを知ると、このボールペンがいかに手間を掛けて作られているか分かります。

適合する芯は、絶妙な滑らかさを誇るパイロットアクロインクボールペン芯が使われていて、吉村さんはよく分かっている方だなと思います。

小振りなサイズはM5手帳のペンホルダーに収まることを意識したからですが、このサイズ感がこのペンを小気味のいいものにしていると思います。

ミッション車を思わせるボールペンgate811は、私たちの時代のミッション車ではなく、趣味で乗るスポーツカーのシフトゲートを思わせるものであることは言うまでもありません。

⇒真鍮ボルトアクションボールペン Gate811

オマスの精神を受け継ぐASC(アルマンドシモーニクラブ)

ASCのペンを扱い始めました。

老舗であり、マニア受けするペンを作っていたオマスが2016年に廃業して、セルロイドなどの部材を引き継いだのがASCの創業者カルタ・ジローニ氏でした。

本当はオマスの名前も引き継ぎたかったそうですが契約の関係で叶わず、ブランド名をオマスの創業者の名前をもらいアルマンド・シモーニクラブとしました。

ちなみにOMASという名前もオフィチーナ・メカニカ・アルマンドシモーニの頭文字をとったものです。

カルタ・ジローニ氏をそこまで駆り立てたのは、他のメーカーとは一味違う、尊敬に値する万年筆メーカーオマスへの愛情だったのでしょう。

ASCはアメリカの会社で、メイドインイタリーのオマスとは違う、各部品を専門業者で製作する分業による現代のペン作りをしています。しかし、オマスへの愛情、イタリアのペンへの憧れには変わりなく、オマス愛を隅々まで行き渡らせたゴージャスなペンを世に送り出しています。

ASCのペンはオマスのペン作りの精神を受け継いだメーカーだと分かるのは、それぞれのペンの書き味の味わい深さから窺うことができます。

柔らかいペン先にエボナイトのペン芯の書き味は、大量生産品では出せないいい味を持っています。

スチールペン先の最も安価なスタジオシリーズでも、そのデザインのまとまりの良さ、透明感のある素材を使ったその姿はオマスのペンを彷彿とさせます。

ボローニャシリーズは、まとまりの良いデザインをセルロイドを使って高級感を与えたオマスらしいASCならではのシリーズで、非の打ち所のない完璧な仕上がりの代表的なシリーズです。

オマスの三角形の断面を持つ衝撃作360を現代流にアレンジしたのがトリアンゴロです。

360はシンプルな装飾のほとんどないペンでした。三角形というインパクトのある姿に装飾は必要なかったのでしょう。

トリアンゴロは、透明なセルロイドを使って細部を洗練させた、ゴージャスでインパクトのある姿のペンに仕上がっています。

当店もオマスへの愛情は強かった。

オリジナル万年筆を作ったり、イタリアの本社を訪ねたりするほど力を入れていましたので、オマスの廃業は当店にとってもショックな出来事でした。

私がオマスを知ったのは、1990年代でした。

他社がしていない木軸のペンにも積極的に取り組んでいましたし、イタリアの上質な革を使ったペンケースも作っていました。

ほとんどのブランドが、黒、青、ブルーブラックのインクしか作っていない時代に、様々なカラーインクを発売していました。

他のメーカーの一歩も二歩も先を行っていた、取り組み方が全く違うメーカーで、それがオマスらしさになっていました。

私は主に万年筆を扱っていますが、昔からインクはもちろん革製品についても、万年筆と組み合わせて考える習慣があり、今思うとオマスの影響かもしれないと思います。

そうやってオマスの影響を受けて、オマス愛を持っている業界関係者はたくさんいるだろう。

今でもオーバーサイズのパラゴンの書き味を覚えています。ライバルはモンブラン、と自信満々で言ったオマスのCEOの言葉に、味のあるパラゴンの筆記感が重なりました。

私たちに影響を与えた万年筆メーカーオマスはASCのペンの中に生きていると信じています。

⇒ASC(アルマンドシモーニクラブ)TOP

アントウ~よく書けるだけではないもの~

自分の仕事において書くことはとても重要です。

自分がどういうことを考えて万年筆などの商品を販売しているのかを伝えることで、それに共感してくれたお客様が店に来て下さると思うと命綱と言っても言い過ぎではない。

週1回更新のこのコーナーも開店2年目から始めて15年になりますが、続いているのも命懸けだからです。もちろん好きでやっているということもあるけれど。

何か書こうとすると、私の場合は何らかの刺激がないとなかなか書くことができません。

その刺激を得るために本を読んだり、休みの日どこかに出掛けて行きます。

本を読むこともただ好きでしていることですが、何かを考えるきっかけになったり、行動のきっかけになります。

出掛けることはもっと刺激になって、お店を見たり、店員さんの接客を受けるだけでも大いに刺激を受けて、自分の店や仕事について考えることにつながります。 

だからコロナ禍で出掛けて行くことが憚られて、休みの日に神戸市内どころか家の周りにしか出て行けなかった時は本当に苦しかった。

店は暇で通勤電車もガラガラなので体は楽でしたが、自分が空っぽになっていく気がした日々でしたので二度と戻りたくない。

コロナ禍の只中、アントウのマルチアダプタブルボールペンを扱い始めました。

アントウのペンは、口金だけで芯を固定する仕様なので、油性、水性、ゲルインクなど市販されているボールペン芯のほとんどを使用することができます。

全員がすぐにアントウを手に入れて、アントウのペンに入れるリフィル探しを始めました。

アントウに入りそうな芯のボールペンや芯だけを買ってきて、いろいろ入れ替えて使ってみて、自分にとって最高の組み合わせを見つける。

そしてその発見を同じアントウを使う人と情報交換する遊びが楽しかった。

筆記具はよく書ければその機能を十分に果たしている良い製品だと言えるけれど、もはやよく書けるだけではいけない時代になっていることを実感しました。

日本のゲルインクボールペンの書き味はとても気に入っているけれど、外装がチープで嫌だと私たちは長い間思ってきて、それらの芯をいかに良い軸で使うかということを考えてきました。

今は作っていないけれど、今までそういったものも商品として提案したこともありました。

アントウは芯を探して遊ぶこともできる、もっと先を行っているペンでした。

よく書けることは当然として、そこから広がる遊びや人を幸せにするものがないといけない。当店はそういうものを扱っていかないといけないと思いました。

もしかしたら、アントウの遊びが楽しいと思う人は少数派なのかもしれないけれど、少数派でもその楽しさが分かってくれる人には最高のペンになる。

コロナ禍はできれば経験しなくてもいい、私たちにとって空白の3年間だったかもしれないけれど、アントウのペンを知ったことは自分の仕事において大変な収穫だったと思い、今でも大切に思っています。

⇒ANTOU(アントウ)

バゲラの松ぼっくり(pinecone)

あると便利なものは100円ショップなどにもたくさんあって、それが100円で買えることが有難くもあり、モノを売る側としては恐ろしくもあります。

私たちはそういったお店が商品化しないようなものを、お客様に提案しなくてはいけません。

ではどういうものを扱っていけばいいのか。

最近使い始めたもので、持っているだけでただ嬉しく、何とか自分の生活の中に溶け込まそうと思っているものが「ファーバーカステルのパーフェクトペンシル」で、差別化になる商品のひとつだと思います。

何か書く時に、鉛筆である必要は全くありません。便利さで言うなら、ボールペンの方が滑らかに濃く書けるし、削らなくてもいつも同じ太さで書くことができます。

鉛筆であるパーフェクトペンシルは当然使うと丸くなって減っていくので、削らなくてはいけません。

高価な鉛筆なので、キャップ兼エクステンダーの中に仕込まれている鉛筆削りでさえ、私はもったいなくて使えず、肥後守でいつも芯を尖らせています。

なぜそんなことまでしてパーフェクトペンシルを使うのかというと、そうすることが楽しいからです。

実用性とか、便利さを考えるとパーフェクトペンシルを使う理由はどこにもなく、世界で一番高価な鉛筆は100円ショップの商品から一番遠いところにあるものだと改めて思います。

鉛筆という文房具の中でもチープで基本的なものを、ただ持っているだけで嬉しい、何とか自分の生活に取り入れたいと大人に思わせる、遊び心に溢れたものに作り変えたパーフェクトペンシルの考案者、先代のファーバーカステル伯爵は遊びの達人だったのだと想像できます。

神戸の革製品オーダー専門店BAGERA(バゲラ)さんのPinecone(松ぼっくり)というモノが当店に入荷しました。

バゲラさんのペンケースを扱い始めてからすっかり魅了されていて、バゲラさんのホームページをくまなく見ていて見つけたものでした。

ものすごく個性的で、アクが強くて、でもコロンとしていてかわいいもの。

これを財布として持ち歩いて、中からカードや小銭を出して買い物をしたい。自動販売機でコーヒーを買うだけでも楽しくなるものだと思いました。

お札は折りたたまないと入らないし、カードも多くはきっと入らない。

でも何とか使って、自分の生活に取り入れたい。これが似合うかっこいい大人になりたいと思わせてくれるもの。それがバゲラさんのPineconeです。

Pineconeはバゲラの高田奈央子さんが、鞄を作ったときなどに出る珍しい革やもう手に入らない革の端材を集めた箱(宝箱と呼ばれています)の中から、イマジネーションのままに組み合わせて作られています。

ペンケースやシステム手帳同様、全て手縫いで、異素材の革を貼り合わせて、継いで作られる、小さいけれど存在感のあるもの。

Pineconeの話をしている時、実は5年前に出来上がったばかりのPineconeを高田さんから見せてもらっていたことが分かりました。すっかり忘れていたけれど、高田さんに言われて思い当たりました。

今ならそのPineconeを手放すことはしないと思うけれど、その時はそうしませんでした。

5年前の私にはPineconeの存在の意味が分からず、この良さを見る目ができていなくて、良いけれど高いですねで終わっていたのかもしれない。恥ずかしいことだと思いました。

きっと今が当店がこのPineconeを扱うのに相応しいタイミングで、それまで待っていてくれたバゲラさんに感謝しています。

⇒BAGERA(バゲラ)Pinecone

Craft Aの万年筆 ”Outfit”

木軸ペンで人気のあるクラフトAさんの万年筆Outfitの取り扱いを始めました。

クラフトAの津田さんのことは、590&Coの谷本さんから聞いて十数年前から知っていましたし、イベント会場などではよく顔を合わせていました。

ハンドメイドの木軸ペンが、今のように人気が出るかなり以前から木軸ペンを作り続けて、自分の信じた道を淡々と歩んでこられました。それが世の中に認められて人気が出たことには「こうなると思わなかった」と言われていて、変わらない自然体な人柄に好感を持ちました。

そのモノを当店で扱う時に、私は縁や出会いのような無理のないタイミングを大切にしています。

同じ兵庫県を拠点にしていて行き交うこともあったけれど、今まで津田さんとはそのタイミングが合わなかった。

多く流通していない個性的なペンを求めていた当店と、万年筆専門店で自作の万年筆を販売したいという津田さんとのタイミングが今合ったということなのだと思います。

津田さんが当店にたくさんの万年筆を持って来て下さって、その中から選ばせていただきました。

クラフトAさんの万年筆は、それをあえて懲りすぎずに道具のように仕立てているところが個性だと思っています。シンプルな寸胴型のデザインには潔ささえ感じます。

キャップは軽いアルミ製、首軸は重い真鍮製になっていますので、ネジが切ってある尻軸にキャップをはめて固定して書いても、リアヘビーにならずにバランス良く使うことができます。太い軸は細かな操りやすさよりも、長時間楽に書くことを狙っていると思われる、どっしりとした大らかな持ち心地の万年筆です。

軸に使う銘木は、シンプルな寸胴型のボディと硬質な印象のキャップによって、その魅力が引き立てられています。

材によって多少の価格の違いはありますが、比較的リーズナブルな価格に抑えられていると思います。価格の大きな違いは、ペン先の素材です。

よりリーズナブルなものはステンレスのシュミット製のペン先が使われています。

硬いけれど、一定のインク出でブレのない均一な線が書けるのはステンレスペン先ならではで、さすが老舗のシュミットだけあって、滑らかな書き味を持っています。手帳に細かい文字を書くのに適したペン先だと思いました。

私は良いペンは金ペン先であって欲しいという思いがあって、これはと思うものにJOWO製の14金ペン先をつけていただきました。

金ペン先の柔らかな書き心地は重量のあるクラフトAの万年筆に合わせるとよりその柔らかさが強調されて、気持ち良く書けるものになりました。

クラフトAの木のペンには、自分で塗って艶を出していく楽しみを感じていただくための「手入れ用オイル」が付属していて、クラフトAの津田さんの木のペンへの考え方が表れています。

当店はこういう世界観を持ったものを扱いたいと思っています。

(5/8~12まで不在のため、来週のペン語りはお休みさせていただきます。次回投稿は5/19です)

⇒Craft A TOP

万年筆のフォルム

綴り屋の「漆黒の森」という万年筆を見て、万年筆のフォルムについて考えました。

綴り屋さんの万年筆の一番の特長は、これ以上ないと思わせる軸のラインの美しさにあると思っています。

キャップやボディの絶妙な膨らみ具合と、キャップトップあるいは尻軸の角から頂点への角度、キャップとボディのわずかな段差など見所が多く、見ていて飽きることがありません。

強いて言えば2000年以前、ルイ・ヴィトンの傘下に入る前の古いオマスがこれに近い姿をしていたかもしれませんが、綴り屋さんの方がより全体的にボリュームがあって、魅力を感じます。

これがたくさんの万年筆を研究して計算して作られたものなら、綴り屋の鈴木さんには何千本という万年筆コレクションがあるに違いないけれど、きっとそんなことはなくて、非常に高い美的感覚を持っているのだと思います。

でもきっと若い頃の私では、綴り屋さんの万年筆の良さが分からなかっただろうと思います。

今までたくさんのペンを見て、触れる機会に恵まれてきました。そして目が養われてきて、このペンの良さに気付けた。今出会えてよかったと思っています。

素材の良さや、デザインの華やかさも万年筆の楽しみですが、フォルムにその美しさを見出すのも製作者の意図を汲むようなところがあり、それがモノを理解するということなのだと思います。

フォルムの美しい万年筆としてはアウロラ88も挙げられます。

キャップトップの丸み、軸の膨らみ方、キャップとボディの段差の少なさなど。個人的な見解ですが、似た形のバランス型(両エンドが丸い万年筆)の万年筆の中で最も美しいフォルムをしていると思っています。

1940年代に生み出されて、今も美しいと思えるフォルムを持つアウロラ88は、万年筆の古典と言えるのかもしれません。

フォルムの美しさとは少し違うかもしれませんが、ドイツの万年筆は直線を基調として堂々としたデザインのものが多いのではないでしょうか。

ファーバーカステルクラシックは、直線的なシャープなデザインの中にクラシックな意匠が盛り込まれていて、独特ないいデザインだと思います。

この万年筆は1990年代に登場した万年筆で、歴史あるモデルではありませんが、クラシックさを感じるのは古いペンシルカバーから着想を得たデザインだからなのだと思います。

オーソドックスに見えますが、ペリカンも直線的な軸とエンド処理に丸みを持たせて温かみのある独自のデザインをしています。

私たちにとってペリカンは多くの人が持っていて、特に目新しいものではないかもしれませんが、そのデザインは飽きのこない深みのあるものと言える。こういうものを日常の道具にしたいと思える万年筆です。

ひとつひとつ挙げたらキリがないけれど、長さ10数センチ、太さ数10ミリの小さな棒なのに、色々な形の違いがあってそれを見るのが楽しい。

様々な万年筆に自分なりの美を見出して使う。万年筆は、それぞれの人の美意識を表すものであって欲しいと思います。

⇒綴り屋(TOP)

⇒AURORA88