ペンを撮る

素人ながらもホームページの写真にはこだわっています。

店を始めたばかりの時はこだわる知識も余裕もなかったし、写真の重要さに気付いていなかったのかもしれません。

必要だったから写真を撮り続けていましたが、お客様方の影響もあって徐々にこだわるようになって、カメラもレンズもそれなりのものを揃えて撮るようになりました。

プロの人に言われたことがありますが、北向きの当店には午前中とてもいい光が入ります。

その光の中で撮った写真は、たまに私の腕でもとても良い出来栄えになります。楽しくていつまでも撮っていられます。ペンを撮っていて困ることはペンを撮る時に転がるという問題です。

何か固定するものを使いたいけれど、店によくあるアクリル製のペンの枕は、木の机の上では写真が何となく白けるようでなるべく使いたくない。

そんな時あればいいなと思っていSMOKE(スモーク)の加藤さんに作ってもらったのが、ウォールナット製のペンの枕です。ご自分のペンを撮ってSNSに上げたりする人は多く、そういう人にもぜひ使ってもらいたいと思いました。

加藤さんにはペンテーブルやブロッター“パゴダ”を作っていただいているので、その端材を活用できたところにも価値があると思っています。

写真を撮らない人でも小さくてシンプルなペン置きは便利な存在で、ペンケースに入れておいて出先で使うことができます。

もうひとつ本格的なペントレイを作ってもらいました。適度な間隔を取ってペンの取りやすさも考えた3本用ペントレイです。

オーバーサイズのペン、例えばモンブラン149などならペンの3分の1くらいが溝に沈むようになっているので転がる心配がありません。

そういうものが机上にあるとペンの決まった置き場所になっていいし、3本置けるというのはとても実用的です。

スモークの加藤さんは均一的に色の揃ったウォールナットよりも、色の濃い所と薄い所のあるような変化のある素材をあえて選んで使っています。そいうものの方が面白いし、自然だからと言われます。

私も加藤さんの言葉に強く共感します。

せっかくの自然素材なので均一さをそこに求めるのではなく、そこに景色を見るのが大人の感性なのではないかと個人的には思っています。

加藤さんの木製品は、寡黙なその人以上に雄弁にいろんなことを語っているような気がします。

⇒SMOKE(スモーク)3本ペントレイ

⇒SMOKE(スモーク)ペンの枕

インクがたくさん入るペン

ページ数の多い分厚い文庫本は得したような気がして嬉しい。

それは早く小説の結末を知りたいという逸る気持ちと、少しでも長くその物語の中に浸っていられるというジレンマを引き起こすけれど、小説を同じ選ぶならなるべく厚い本を選んで、長く読んでいたいと思う。

それと同じ感覚だと思いますが、メモ帳も紙がたくさん束ねられた分厚いものに安心感を覚えます。分厚いメモ帳を一気に使えるはずはないのに、メモが減って薄くなってくると心細く、寂しくなります。

そしてこれも同じ感覚で、できればインクがたくさん入るペンを持ちたいと思います。インクがたくさんその中に入っているということが安心感になる。

私の使用頻度が最も高い万年筆、ファーバーカステルクラシックを使っていてよく思うのは、この万年筆にパイロットのコンバーター70が使えたらいいのにということです。

ファーバーカステルについているヨーロッパタイプのコンバーター、カートリッジインクは私にとっては容量が少なく、すぐにインクがなくなってしまう印象があります。ヨーロッパタイプのコンバーターよりたくさんのインクを吸入することができる、コンバーター70が使えたらいいのにと、インクがなくなるたびに思っています。

しかしコンバーター70はパイロットの独自規格のコンバーターで、パイロットの万年筆でしか使うことができません。

万年筆を使う人の中には、インクの吸入も楽しい作業だと言う人もいるけれど、私のようにインクがたくさん入って欲しいと思っている人も多いので、大容量への憧れもジレンマなのだと思います。

当店で扱っている万年筆でインクが大量に入る万年筆の三巨頭は、パイロットカスタム823とビスコンティホモサピエンスの品々、そしてツイスビーECOでしょう。

前者2つはプランジャー式の吸入機構を備えています。プランジャー式吸入機構は、尻軸を引っ張り上げて、押し込むことで、一気に大量のインクを吸入します。

カートリッジ2,3本分のインクを吸入しますので、吸入作業の回数は半分以下になります。私たちの願いを叶えてくれながらも、ジレンマを強くします。

ツイスビーECOやダイヤモンドが装備しているピストン吸入機構も大量のインクを吸入することができ、吸入したインクがタンクの中でチャプチャプしているのが見えて嬉しい万年筆です。

台湾のメーカーは万年筆を使う人のこうあって欲しいというところを上手く突いてきます。それはツイスビーもレンノンツールバーも同じかもしれません。

レンノンツールバーのオーパス88リン・ユンは、スポイトでインクを注入するという、より原始的な(?)インキ止め方式の万年筆です。

インキ止めというのは、戦前、戦後の日本の手作り万年筆の多くが採用していたインク供給方式で、こういう万年筆を見ると私は古臭さを感じてしまいますが、オーパス88はインキ止め方式を採用しながらも洗練された爽やかな万年筆に仕上がっています。

インキ止め万年筆は、ボディ全体がインクタンクになりますので、インクをたくさん入れたいという人の気持ちを満足させてくれるでしょう。

最近、ラメの入ったシマーリングインクが多く発売されています。

当店もオリジナルインク稜線金ラメ、銀ラメを発売していて、あくまでもガラスペン用としていますが、スタッフがオーパス88(M)に入れてみたところ、1か月ほど経ちますが詰まらずにちゃんとラメがペン先から出てくれています。首軸を外してスポイトでインクを入れるので、ラメ入りでも入れやすく洗いやすいのも良いところです。

しかし、これはメーカーは絶対に止めて欲しいとしている自己責任での使用になります。

インクがたくさん入る万年筆にロマンを感じてしまうのは、不思議な感覚ですが、やはり厚い本を喜ぶ感覚に近いのだと思います。

⇒レンノンツールバー TOP

590&Co.さんとの出張販売

今の時点で確定している出張販売のスケジュールを公開しました。(⇒出張販売スケジュール)

今だに続くコロナ禍での生活にも、気付けば慣れてきた。でも仕事の立場上遠出を控えなくてはいけない方も多くて、何となく不自由に感じられていることが多いのではないでしょうか。

そういう方々のためにも、また出張販売に出ることにしました。

店の仕事を淡々とこなすのも楽しいと思い始めていました。外に出ない生活が当たり前になっていて、家と店を往復する日常も良いものだと思っていたけれど、このまま店の中にいると仕事が決まった中で回るだけのような気がして、焦りのようなものを感じ始めていました。やはり色々なお客様に会って、刺激を受けたい。

どうせなら1年かけて、日本中を巡るくらいのことをしたいですが、店での仕事もありますので月1回くらいのペースになっています。

2月に590&Co.の谷本さんと晩御飯に行った時に、一緒に出張販売をしてみようかという話になりました。

谷本さんのことは、前職の時に取引先の人から「レストランを経営していた人が分度器ドットコムというステーショナリーのWEBショップを立ち上げた」と教えてもらったことがあり、密かにすごい人だと思っていました。

最近では2軒目の590&Co.まで立ち上げられて、やりたいことが次々と溢れてくるようです。

知り合ったのはこの店を始めた頃で、先ほどの取引先の方の紹介で分度器さんのオフィスを見学させてもらった時からでした。

ル・ボナーの松本さんとともにヨーロッパに買い付け旅行に行ったこともあるし、長い付き合いになります。色々な人と知り合ったり疎遠になったりを繰り返してきたけれど、谷本さんとはずっと続いています。

同い年で気が合うということもあるけれど、私は何よりも谷本さんの仕事の才能や目端が利くところを尊敬しています。

そんなおじさん二人の出張販売ですが、当店と590&Co.さんとの共同出張販売なら喜んでくれるお客様も多いと思うし、何よりも自分たちが面白いと思いました。

合同出張販売の名前を“&”としました。

両店名に&があるし、当店と590&Co.さんとの&、お客様と私たちの&、人と人との繋がりを表す記号。この企画はまさに様々なつながりから生まれたものだと考えるとピッタリなネーミングで、このコンセプトとネーミングは谷本さんの頭の中に密かにあったようでした。

開催場所についていろいろ探してみましたが、横浜という場所に思い当った時に、&の最初の開催場所にピッタリだと思いました。

私たちのお客様もたくさんおられるし、横浜の方がはるかに大きな街ですが、神戸に近い雰囲気を持った街だと思っています。

私の息子が初めて一人暮らしを始めたのが横浜市伊勢佐木町で、「& in横浜」 の会場も伊勢佐木町の駅の近くなので様子が分かっているし、交通の便も良いので来てもらいやすいと思います。

出張販売の品揃えを考えると自分の店の弱いところがよく見えてしまいますが、最近は充実してきたと思っています。

オリジナルインクはずっと販売してきた8色の他に、昨年新たに3色追加しました。神戸ペンショーで完売してからしばらく品切れしていましたが、再入荷しました。

「虚空」は、机から目を上げてふと見た何もない空の色を表現した色でした。その時井上靖の”天平の甍”を読んでいて、仏教的なものに惹かれる気分でもあったのかもしれないけれど、色のイメージを表した名前だと思うし、力の抜けた自然体な良い色だと思います。比較的乾きが早くて、にじみの少ない扱いやすいインクです。

「稜線」には金ラメ入りと銀ラメ入りがあります。

私が普段見る山はいつも町から見上げたイメージなので、幼いころ母の実家でよく見ていた、四方山に囲まれた信州の風景が思い出されます。朝日が差してきた頃銀色に輝く稜線、夕日に照らされ金色に染まった稜線という、郷愁の景色を連想させるインクができたと思います。

今回から「稜線・銀ラメ入り」はラメの量をかなり増量しました。

私は横浜での出張販売「&」の後、札幌、東京での出張販売を続けますが、久し振りの旅を楽しみにしています。

⇒オリジナルインク虚空・稜線(金ラメ入り)・稜線(銀ラメ入り)

SMOKEブロッター「パゴダ」

オリジナルインク・虚空や、ローラー&クライナーのパーマネントブルーのような薄めで紙に馴染みやすい色のインクが好きです。他には、ヌードラーズのネイビーも好きでよく使います。

ネイビーは最近の流行とは違ってかなり濃い色のインクで、書き味も良くなり万年筆で書いている醍醐味が味わえます。だけど海外のM以上のペンで使うと、紙によってはなかなか乾かないということがあります。

乾きが遅いというのは、濃い色のインクの常で、インクが紙に収まるのを待つ心の余裕が万年筆を使う者の心得なのかもしれないけれど、そんな悠長なことを言っていられる時ばかりでもありません。

当店はネット販売の発送業務と店舗営業を同時にしているので、来客の合間にネットのお客様へのお礼状を書くことが殆どなので、乾きは早くあってほしいと思います。

世の中には「吸取紙」というものがあって、その名の通りインクを吸い取るための紙です。紙の状態のまま使ってもいいですし、ブロッターという器具にセットして使うと、より使いやすく机上での見栄えもします。

お客様からのリクエストも多いのですが、ブロッターにはこだわりがあって、当店ででしか扱っていないブロッターがあります。

時計作家ラマシオンの吉村恒保さんにお願いして作っていただいたのは、アサメラという質量の高い木で作ったブロッターです。これはサイズも大きめで、重量感と圧倒的な存在感を持っています。

ハンドル部分が大きな球形で、握るととても気持ち良く、意味もなく握っていたくなります。アサメラの質感はかなり締まっていて、艶が出てくれそうです。

もうひとつ、最近出来上がったブロッターはスモークの加藤亘さんに作っていただいた「パゴダ」です。

家具職人である加藤さんが、個性を活かしたものを作りたいと試作を繰り返して作り上げた、かなり特長的な形をした意欲作です。机の上のシンボルのような存在になるのではないかと思います。

家具で多用する安定感抜群の素材ウォールナットは、派手な模様はないものの、味わい深い通好みの素材です。個体によって色味の違いがあって、それがこのブロッターの箱に表れていて、面白い味になっていると思います。

パゴダを収める箱は、指物の技術「相鉤の逆留め」という凝った作りになっていて、家具職人らしい取り組みをしてくれていて、こういうところが加藤さんの木製品面白味の一つだと思っています。

パゴダはブロッターに付いている天板(紙を押さえる板)のない仕様ですので、柄入りの吸い取り紙などを使うと映えて、面白い効果を出してくれます。

パゴダと同様、ユニークな形の5本用ペンスタンドペンテーブルは長く作っていただいているものですが、最近認知され始めたのか、よく売れるようになってきました。

ペンテーブルにペンを5本立てている様子は見ていても楽しいものですし、よく使うペンがすぐ手に取れるところに立ててあるのはとても便利です。机上の景色作りと実用性を兼ね備えた、他にないものだと思っています。

ブロッターもペンスタンドもなくても困らないものなのかもしれないけれど、あると万年筆を使うことがもっと楽しくなって、机上の時間が味わい深いものになると思っています。

⇒SMOKE ブロッター パコダ

⇒SMOKE 5本ペンスタンド ペンテーブル

長く使い続けるためのオーソドックスなデザイン オリジナルM6システム手帳

どんなものでも、奇抜なデザインよりオーソドックスなデザインに惹かれます。

振り返って考えると、手元に置いて長く使っているものは、奇をてらわないオーソドックスなデザインのものが多い。それらはスタンダードと呼ばれるものです。

様々な分野にスタンダードと呼べるものはあるけれど、そういうものをよく見て、なるべくそういうものを持ちたいと思います。

長く使い続けられている永遠不変なスタンダードは、万年筆やステーショナリーにも多く存在しています。

他にはないオリジナリティも必要だけれど、良い素材、良い作りでスタンダードと呼ばれるに値するものを形にしていきたいと思うようになりました。

先日発売したM6システム手帳がその第一弾です。

スタンダードとなるものの条件として、オーソドックスで無理のないバランスの良いデザインと考えました。そういうものは安心感があるし、いつも手に取りたくなります。

より幅広い層の人たちに使ってもらいたくて、オーソドックスなデザインで野性味と濃厚な味わいのある素材サドルプルアップレザーと、洗練されたスマートな革シュランケンカーフをご用意しました。

製作してくれた若い職人さんは、それぞれの革の雰囲気に合うようにそれぞれのベルトの形状を変えるなど、細かい所まで独自の工夫を取り入れて楽しみながら作ってくれたのも嬉しかった。

M6システム手帳は、仕事でバリバリ手帳を使う人のバイブルサイズと、筆記面が小さく趣味性が高いM5サイズの中間に位置した、ある程度の筆記面の大きさと携帯しやすいコンパクト感のある程よいサイズです。

このM6システム手帳をオーソドックスなデザイン・上質な革で作ることで、いつも持っていたくなる、長く使えるものが出来たと思います。

これらの手帳にはより革を楽しんでいただけるように、サドルプルアップレザー仕様には同素材の、シュランケンカーフにはブッテーロのペーパーリフターを最初からセットして、表紙を開けた時にすぐに中のリフィルが見えないようにしました。

他にも、ペンホルダー・ページファインダーを同革で作っていただきました。こういうものがプラスチックでなく革であることは、手帳にこだわりのある方には嬉しいものだと思います。

中紙には、智文堂の波文葉リフィルの書き味・使用感がおすすめです。手帳用紙というと薄くてツルツルした手触りの紙質のものが多いですが、智文堂さんの紙は書き味に心地よい手応えがあって、紙質も丈夫なので安心して筆圧をかけることができます。

智文堂さんのリフィルの罫線は、変化のあるこだわったものが多いですが、難しく考えずに普通の方眼や横罫と同じように使えばいいのだと思います。

デザイナーのかなじともこさんが波文葉を発売したので、当店もM6システム手帳に目が向いて今回の企画につながりました。

今回のM6システム手帳製作で目指した、オーソドックスなデザインによるスタンダードステーショナリーコンセプトで王道のデザインのいいものができました。今後も同じコンセプトで色々なモノを企画したいと思っています。

⇒オリジナルM6システム手帳 サドルプルアップレザー

⇒オリジナル DRAPE M6サイズシステム手帳 シュランケンカーフ

時計作家が作るボールペン

ラマシオンの吉村恒保さんが作った時計を毎日着けています。

夕焼けの空を見てきれいだと思った時に、ふと時間を確かめるために見たくなる時計を作りたい、と吉村さんは雑談の中で言われていたことがあります。

多くの人がスマホで時間を確認する時代、時計作家としての時計の存在意義と吉村さんの童心を伴ったダンディズムを表した言葉だと思いました。

私は文字盤の造形からか、針の指す向きによっての景色の違いを感じさせてくれる時計だと思っています。それぞれの時間に心象風景を見出す、感傷的な私に合っている時計だと思います。

もう2年以上着けているけれど、いまだにその印象は変わっておらず、新鮮な気持ちで文字盤を見ることができる。いい時計だと思う。

吉村さんは柔軟で創作欲旺盛な人で、ル・ボナーの松本さんと知り合って、ベルトのバックルも作るようになりました。

当店では吉村さんの時計も扱っているけれど、当店と関わるようになったことがきっかけでボールペンを作り始めました。

M5手帳と合わせて持てるような小振りなボールペンで、こだわりのある良いものがないという私の見解に応えて、小さなボールペンを開発してくれました。

ただ小さくてよく書けるだけでなく、メカ好きの遊び心をくすぐる仕掛けのあるボールペンです。

「ボルトアクションボールペンgate811」と名付けられたそのボールペンは、車のシフトゲートをイメージした機構で、ギアチェンジをするようにレバーを操作して芯をノックして出します。

替芯の交換は、レバーを替芯交換用のゲートに入れて、天ビスを外して、シフトレバーを引き抜くと内部パーツが外れて、替芯が表れます。

これらの細かなパーツやボディは、時計の部品と同じように一つずつ金属から削り出して作られています。

時計作家さんだけあって、とても精密に作られたそれらのパーツの組み合わせでできているボールペンはシンプルなデザインにまとめられています。

替芯は滑らかで自然な書き味のパイロットのBRFN-30を使っていて、実用性にもこだわって作られています。デザイン性だけでなく、正確さを要求される時計の世界で生きてきた吉村さんにとっては当たり前のことなのかもしれません。早くも吉村さんの作る次作のペンも楽しみです。

*gate811の真鍮仕様は現在品切れしていますが3月中旬再入荷いたします。ご予約承っております(こちらのお問い合わせフォームからどうぞ)

*真鍮ボルトアクションボールペン Gate811 ロジウム仕上げ

*真鍮ボルトアクションボールペン Gate811(予約受付中)

小さな店の生き方

また小説関ヶ原(司馬遼太郎著)を読んでいます。

大きな勢力が西と東に分かれたことで、大多数の小さな勢力は自国の継続を願って得だと思う方につき、ほんの一部の武将が正義という理想のもとに信じた側につく。

戦国末期の淘汰の時代、力の大きな者はさらに大きくなり、力のない者は大きな者に吸収されていきました。それは今の時代にも全ての分野で起っていることで、関ヶ原が競争社会の縮図だと言われるところだと思います。

でも万年筆の業界においては、私たちのような力のない小さな存在でも生きる場所があるのではないかと思います。

品揃えの多い大きな店を好む人もいれば、小さなお店でそのお店の品揃えを楽しむという人もいます。お店に対してお客様は様々な好みがあって、自分が買いたいと思えるお店で買われているのだと思います。

小さな存在でも万年筆の世界で生きていくことができると思ったから、私は万年筆を扱うこの小さな店を始めようと思えたし、続けてくることができました。

当時それを理論的に考えることはできなかったけれど、それまでの経験で直感が働いたのだと、今なら説明できます。

関ヶ原でも、勝たないまでも力の小さな小大名がそれぞれの考え方を持っていて、信念を貫く面白い存在として描かれています。それは所領の小ささからくる自由さかもしれません。

当店のような小さな店にも、理想を追うことができる自由さ、気楽さがあります。業績は良いにこしたことはないけれど、それほど大きな売り上げを狙わなくてもいいので、一般的にならずに自分たちが良いと思うもの、面白いと思うものだけを扱うことができます。

万年筆と上質な革を使った革製品とのコーディネートもそのひとつで、当店の特長だと思っています。

画像にありますが、カンダミサコさんに作ってもらっている長寸用万年筆ケースとセーラーエボナイト彫刻万年筆の組み合わせは、侍の刀を思わせるようで気に入っています。そしてイルクアドリフォリオさんが作っているペンケースDUEトリムドロッソは、全体が黒でコバの部分にだけ赤を使っているので、黒のモンブラン149を2本入れるとものすごくかっこいい。

こういう異なるブランドを組み合わせたコーディネートは、楽しみながら今後も続けていきたいと思っています。

当店の強みであり特長なのはやはりペン先調整だと思いますが、最近ペン先調整の需要の高さをより感じています。

ペン先調整のために来店されるお客様、全国から送られてくる万年筆の多さで、いかに多くの人が万年筆に対してこうあって欲しいという希望を持っているかということを感じています。

お店の仕事もありますので一日に数本しかできないため、お送りでの調整依頼の場合、現在一ヶ月ほどお待たせしています。

私は一人一人の書かれるところをイメージしながら、そして書きやすくなった万年筆を使って喜ぶお顔を想像しながらペン先調整をします。

そういうことができるのも当店のような小さな店の強みだと思っています。

当店も独自の考え方を持って、自由に生きるユニークな存在でありたいと思っています。

⇒長寸用万年筆ケース・シュランケンカーフ(ブラック)

⇒WRITING LAB. IL Quadrifoglio (イル・クアドリフォリオ)シガーケース型ペンケース・ Due(ドゥエ)ネロ×トリムドロッソ

理想のシステム手帳をつくる

試作品まで完成して、納品を待っている新しいシステム手帳があります。

昨年、智文堂のかなじともこさんがM6サイズシステム手帳リフィル 波文葉(なみもよう)を発売されました。万年筆でも書ける紙に淡いブルーの罫線もきれいで、かなじさん独特のページの景色になる罫線のリフィルです。当店もそれに合わせてM6手帳本体を作りたいと思いました。

お願いできる職人さんを探していたけれど、忙しい時期でもありなかなか見つかりませんでした。

そんな頃、休日妻とブラブラと街を歩いていると革製品を作っている工房に行き当たり、若い職人さんと出会いました。その辺りの話はまたいずれお話ししますが、改めて連絡してお会いする約束をしました。

まだ作ってもらえるか分からなかったけれど、作ってほしいもののスケッチを持って、後日工房にお邪魔しました。

どんなものを作りたいかなどお話しすると、すぐに試作を作ってくれることになりました。私よりも一回り以上若い人たちは、明るくやる気に満ち溢れていて、様々な提案をしてくれる。話していて本当に楽しかった。

今まで特に新規開拓をしてきませんでしたが、開店して15年、そろそろこういう人たちとも仕事をして刺激をもらうべきだと思いました。

神戸は街の規模の割に革職人さんが多くいる場所だと感じますが、何気なく入ったお店で出会えるなんて、幸運だったと思います。

ガラスペンの作家さんを探していた時も、倉敷を旅行中にたまたま新しくできていたお店に入ったら、ガラスペンの作家aunの江田明裕さんのお店だったということもありました。やはり街を歩くということは私の仕事において大切なことなのだと思います。

試作品まで仕上がっているM6サイズシステム手帳は、均整の取れたオーソドックスな形をしています。そして革は長く使える良いものを選びました。M6サイズをこれから使ってみようと思う人にも、すでにお使いの人にも使っていただける上質な手帳です。

M6サイズシステム手帳の特長は、持ち歩きしやすい適度な大きさと、必要なことは書き込める紙面の大きさを両立しているところで、仕事用の手帳としてもお使いいただけると思います。

私はM6に長期に渡る事項の覚え書き、年間、月間、週間、1日のダイアリーを挟んで日々使っています。長期の覚え書き、というのは既製では存在しないので自分で線を引いて作りました。

これ一冊で自分の仕事も暮らしも円滑に回すことができる箇条書き日記を加えて、スケジュールと日記だけを書く手帳にしています。

バイブルサイズシステム手帳、M5サイズシステム手帳どちらもそれぞれの良いところがありますが、M6サイズシステム手帳は仕事や暮らしを円滑にする役に立てるものだと思います。

製品が完成しましたら、またご報告いたします。

智文堂 M6システム手帳リフィル・TOPへ波文葉(なみもよう)

大人の女性のためのステーショナリー・アンティークレースノート

コロナ禍になってから休みの日はあまり遠くに出掛けなくなりました。

私は用心していればいいのではないかと思うけれど、妻が県外に出たがらなくなったので、たいていは三宮・元町の店を回るか、地元で過ごしています。

そんな休日なので家に帰る時間もわりと早く、ダイニングテーブルでそれぞれ好きなことをする。そんな静かな時間の過ごし方にも慣れて、楽しめるようになりました。今思うと、休日だからでかけなくてはいけないと、忙しく過ごしすぎていたのかもしれません。

どこかに出掛けてお店など見ることは、考えるきっかけになったり、刺激になってインスピレーションが湧くことがよくあって、仕事にとっても必要な休日の過ごし方でした。

でも今は狭い行動範囲での生活が続いているので、本を読んだり、近くの歩いたことのない道を歩くことで考えるきっかけにしたり、刺激を受けたいと思っています。

ダイニングテーブルでの午後の時間はそれぞれ手帳を書いていることが多くて、スタンプを押したりして手帳をカスタマイズするのが、妻と唯一話が合う共通の楽しみになっています。

私たちの年代になると、子供さんのおられるご家庭なら子供が手を離れて、夫婦二人だけの静かな休日を過ごしている人は多いのではないかと思います。

自分たちのような静かな時間を過ごしている人たちのための、特に同年代の女性のためのステーショナリーもなるべく揃えたいと思っています。

少し前から若い女性のお客様がインクやガラスペンなどを買いに来てくれるようになったけれど、もう少し大人の同年代くらいの女性のお客様が平日の昼間に来てくれるようになったら理想的だと思っています。

自分たちのような静かな時間を過ごしている人のダイニングテーブルの上に、アウロラやフェリスホイールプレスのインクなどがあって欲しいし、システム手帳やノートを書くことも楽しんでもらいたい。

アウロラは軽めのものが多くて女性でも使いやすいし、何よりデザインが華やかで美しい。それは大人の女性に気に入ってもらえると思っています。フェリスホイールプレスのインクボトルのデザインはそんなアウロラによく合っています。

そんな雰囲気によく似合う、大和出版印刷さんのアンティークレースノートが入荷しています。

18世紀ベルギーフランダース地方で作られた繊細なレースの柄をノートに印刷したもので、淡いグレーの表紙、パステルブルーの罫線やレースの模様など、今までのノートではあまり見られなかったデザインです。

当店に来られる大人の女性のお客様にはぜひ使っていただきたいノートです。

万年筆のインクではにじみや裏抜けがあって、ゲルインクのボールペンやペンシルなどの方が合っているけれど、ヌードラーズインクのブラックやプラチナブルーブラックなどのにじまず裏抜けしない強者インクなら使うことができます。

健康のために万歩計の歩数を気にしながらなるべく歩くようにしたり、代謝が落ちていることを実感して食べる量を減らしているような同年代の人の生活に、万年筆ほどピッタリ合うものはないのではないかと思っています。きっと万年筆でモノを書くという静かな楽しみは、その生活の中にすんなりと定着するだろうと思っています。

当店は今後もこういうものにも力を入れていきたいと思っています。

→Antique lace note book

ひと味違う限定万年筆〜セーラー万年筆限定品プロフェッショナルギア2021-21〜

万年筆に求めるもの。私の場合は、使いたいと思わせてくれるデザインや佇まい、つまりモノとしての魅力です。そして書き味が良くないとせっかく手に入れても結局使わなくなるので、書き味が良いというのは絶対条件です。

書き味が良いというのは、ペン先の硬い・柔らかいに関係なく滑らかに書けるということで、そうでないと愛用する気にはなれません。万年筆は長く使い込んで自分の手に合っていくと言われていますが、最初が良い状態である方が早いに決まっている。

万年筆の書き味を良くするのは私の仕事で、それぞれの万年筆の正しい状態にしてあげれば、ペン先の素材に関係なくどれも滑らかに書けるようになると思っています。その正しい状態が書き慣らすスタートに立った状態です。

万年筆が正しい状態になって、滑らかに書けるようになった上で、それぞれの万年筆の書き味が存在していて、それはペン先の素材や形状、ボディのバランスなどで違ってきます。

メーカーごとのその書き味の違いを味わうということも私は伝えていきたい。

昨年セーラー万年筆が発売した「2021-21」は、セーラー万年筆のアイデンティティとも言える21金のペン先を2021年にちなんで発売した1500本限定の万年筆で、21金の書き味の味わい深さを改めて再認識してもらいたいという想いで作られました。

セーラー万年筆は、2020年に大手文具メーカープラスの傘下に入り、それまで経営的に苦しかった状態を脱し、様々な万年筆を次々と発売するようになりました。

コーポレートカラーもブルーから「セーラーブルー:黎明」と名付けられたブルーブラックのような色に変更され、会社の新たな歴史の幕開けを印象付けています。

その新たなコーポレートカラーであるセーラーブルーとキラキラ光る加工がされたボディの2021-21は、ペン先にもこだわっています。

そもそも、万年筆のペン先は刻印が多くなるほど硬くなっていきます。だから刻印が少ないスッキリとしたペン先は柔らかい。

良い例がパイロットカスタム742、743のフォルカンのペン先です。それが慣れが必要なほど極端に柔らかいのは、ペン先サイドの切り込みや薄さとともに、刻印を必要最小限にしているからです。

セーラー万年筆の2021-21も、大きくデザインされた21の文字や21金表示はレーザーで描かれていて、字幅表記のみ刻印で、非常に刻印の少ないペン先になっています。そのため書き味も定番品よりも柔らかい。

ペン先にも限定品としての価値が持たせてあって、かなりこだわりが感じられる限定万年筆です。面白いものだと思い飛びついて発注しましたが、年が変わっても在庫があると聞いて、さらに仕入れました。

セーラーの万年筆は、ペンポイントの研ぎの形状から、美しい文字が書ける万年筆だと思っています。そのセーラーでさらに違う書き味を持ったこの万年筆を、できるだけ多くの方にご紹介したいと思っています。

⇒プロフェッショナルギア万年筆 2021-21K Limited Edition