綴り屋の世界観

出張販売は旅に出られるということと、他所の街のお客様と親交を深めることができるということもあって、個人的にも当店としてもなくてはならない大切なイベントになっています。

昨年から590&Co.の谷本さんと共同開催の出張販売を始めましたし、今年からは当店の森脇も出張販売に同行するようになりましたので、今までの一人旅とは違う、賑やかな旅になっています。

しかし絶対に失敗できない、というプレッシャーはどうしてもあって、初日が始まるまでの緊張感は何度経験しても軽くなることがありません。

短期決戦でもある出張販売では、何か話題になるものをと思って、色々多めに仕入れたり、新しいものを企画しようとしたりします。

出張販売に出ることで外に意識が向いてしまうと思っていたけれど、むしろ店の活性化にもつながることだと考えるようになりました。

たった数日のイベントで大量に仕入れたものを完売することはないので、イベントが終わったら店での話題商品になると思っていますし、外に出て仕事をするのは、自店について客観視するいい機会になっていると思います。

先日の代官山のイベントでは、綴り屋さんのアーチザンコレクションという斬新なデザインの万年筆に人気が集中したため、それ以外のものはほぼ持ち帰ってきました。

例えば出発直前に綴り屋さんから託された「月夜」の漆塗りのシリーズは、綴り屋さんと同じ塩尻市の塗り師小坂進氏が手掛けられたものですが、綴り屋さんが表現したかった極限まで削ぎ落としたようなシンプルな世界観に沿った表現がされているように思います。

螺鈿の潔いまでのシンプルさは月夜というシンプルな造形の万年筆にこそ合うものだと思いましたし、石目や溜塗も、その深みのある仕上がりをいつまでも見ていたくなります。

もうひとつの名品「漆黒の森」は、書くための道具である万年筆の機能を追究した、綴り屋さんの万年筆の中でも最も渋い万年筆だと私は思っています。

金属をなるべく使わないようにして作られた軸は、太めなデザインであるにも関わらず20グラムもありません。この軽さには柔らかいペン先が合うと思いました。

当店の仕様では、パイロットの14金のペン先を調整して取り付けています。

「漆黒の森」は、当店の万年筆の品揃えの中でも定番的に持っておいて、多くのお客様にお勧めしたいものだと思っています。

アーチザンコレクションで新しい可能性の扉を開いた、綴り屋さんの万年筆。独特の雰囲気があって、当店はその世界観に共感していて、大切にしたいと思っています。

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