パーカー51~金ペンへのこだわり~

51歳になる記念にパーカー51を買うというお客様がおられて、面白いと思いました。

私は今年53になるので53のつく万年筆があればと思いますが、今のところそんな万年筆はないようです。数字のついた万年筆で、今後私が買えるとすれば、米寿でアウロラ88くらいになってしまいました。

パーカーが自社が40年代から70年代の長きに渡って作った万年筆 51を復刻したのには、昨今の万年筆への反発のようなものを感じます。

最近の万年筆の価格は高くなりすぎました。

その結果、豪華で充実した軸に、価格を抑えるためのスチールペン先が付いているというものが多く発売されてきました。抑えたと言ってもスチールペン先にしては高額に思えるものが多かった。

個人的な感覚ですが、万年筆のペン先は金であって欲しい。お金をかけるのならペン先にお金をかけて、軸や箱はシンプルにして価格を抑えて欲しい。古くからの万年筆愛好家である私たちの世代の人はそんな風に思っていて、ペン先以外が豪華な万年筆を何となく受け入れがたく思っていました。

老舗万年筆メーカーであるパーカーはその空気を察知して、私たちのような万年筆愛好家は、パーカー51のような万年筆を求めていると考えたのではないだろうか。

昨年パーカーの兄弟会社でもあるウォーターマンが、名品エキスパートの18金ペン先仕様を3万円代という価格で発売したのにも、そんな意図があったのかもしれません。

実際、ボディはシンプルで、オーソドックスなデザインで、金のペン先を備えた日本の書き味の良い万年筆が海外でも高く評価されていて、人気があるそうです。

3万円台という、ある程度の年代の人にとって比較的手頃な価格の万年筆でお勧めできるものは、パイロットカスタム743、プラチナブライヤー、セーラープロギアの限定品など、国産万年筆だけになってしまっていましたので、パーカー51やウォーターマンエキスパートの存在は、店にとっても販売の幅が出て大歓迎でした。

人気の万年筆は、装飾があって趣味心をくすぐったり、ファッションの一部になるようなものが多いけれど、違うものがあってもいい。

万年筆が今のパソコンのように仕事の中心だった時代の万年筆、パーカー51は実用本位のシンプルなデザインで、その装飾のなさが今新鮮に見えます。

ペン先の大部分を覆った首軸は、クラシックな印象で、デザイン的に大きな特徴になっていますが、ペン先を保護したり、乾きにくくすることにも貢献していて、実用的な意味もあります。

万年筆が趣味・楽しみの道具である現代、こういう万年筆もあるべきだと思いますし、今まで万年筆の価格を吊り上げ続けてきたメーカーは、きっと厳しい時代になる。

やっと求められていたものを世に出したのだと、パーカー51の発売で思いました。

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ル・ボナー絞りペンケースとペントランク(仮名)

私はル・ボナーさんのペンケースや鞄によって、良い革というものを知りました。

それまで革の良し悪しというのを知らず、革であれば使ううちにいい味が出てくると思っていました。でも実際はただボロボロになってしまう革もあった。

でも13、4年前、万年筆の魅力にハマったル・ボナーの松本さんが作り出した「絞りペンケース」で、ブッテーロ革と出会いました。

ブッテーロ革は、ちゃんと手入れして使い込むと美しい艶が出てきます。それを実感してからは、そればかりを使うようになりました。

手入れと言っても大したことではなく、傷がついたらブラシをかけるとか、たまに乾いた布で軽く磨くだけですが、これだけで革は輝きを取り戻してくれます。

革靴と同じように、むやみにオイルを塗ると革がベタベタして、かえって汚れが付きやすくなってしまいます。そして元々革に含まれている油分と混ざって、固まってしまう。革をダメにするのは大抵ホコリで、それをきれいに払うブラシ掛けが革の手入れとして最も有効ということを知りました。

ブッテーロの絞りのペンケースも、そんなふうにやり過ぎずに手入れをするときれいな艶が出てくるし、深い傷がついてしまった場合でも、硬く絞った布で水拭きするとたいていのものは目立たなくなります。

13年以上作り続けてもう定番になっていますが、このペンケースの構造を松本さんは短期間でよく作り上げられたと思います。

ペンを入れる室の部分は、型を当てて圧力をかける絞り技法で成形されています。ブッテーロの革を2枚重ねて絞ってあるので、室の部分はかなり硬く頑丈です。

ブッテーロを2枚重ねて絞るには特別な機械が必要で、それを持っている職人さんはあまりいませんでした。この13年でその数少ない職人さんが高齢で引退されたため、松本さんが苦心してその技術を実用化されました。その方法を下請けの職人さんに伝えて、今に至っています。

1本差しの絞りのペンケースにストレスなく出し入れできるのは、ペリカンM800やモンブラン146のようなレギュラーサイズの万年筆です。

オーバーサイズの万年筆でも、ペリカンM1000は出っ張りがなく、比較的細目なのでクリップを斜め後ろに回せば入れることができます。モンブラン149になるとリングが太いため入りません。

149で言うと、3本差しの両サイドの室には入れることができます。中央は少しタイトなので、ペリカンM800などのレギュラーサイズがぴったりです。

現在、松本さんは万年筆が10本入る「万年筆のトランク」を企画されていて、先日試作品を見せていただきながら打ち合わせをしました。

芯となる木の枠から作成し、全ての縫製を松本さんが手縫いで仕上げるという今までになかった企画です。

この仕事への取り組みを見ていて、絞りのペンケースを商品化した時のように、松本さんの情熱に火がついたことが分かりました。

皆さんがそれぞれ大切に思っている万年筆だからこそ、大切に使いたいと思う革のケースに入れて持ち運んで欲しい。万年筆を愛してやまない鞄職人の松本さんらしいモノがまた生まれようとしています。

ペントランク(仮名)は6月頃発売の予定です。

業界を華やかにしてくれた「趣味の文具箱」

私たちの仕事は、万年筆やステーショナリーの楽しさを伝えることです。

これまでそれぞれのお店やこの業界に携わる人たちがその努力を続けてきたので、ステーショナリーは私がこの世界に足を踏み入れた時と比べものにならないほど華やかで、多くの人に注目してもらえるものになりました。

その中で、日本で唯一のステーショナリー専門誌「趣味の文具箱」が果たした役割は非常に大きく、この雑誌がなかったら、この業界もどうなっていたか分からないと思っています。

「趣味の文具箱」は、年4回発行されている、万年筆などの筆記具やステーショナリーの専門誌で、新製品情報やお店の紹介、マニアックな使いこなしなど、万年筆やステーショナリーを深く掘り下げた本です。

万年筆やステーショナリーがまだごく一部の人の楽しみだった2005年に突然現れ、ステーショナリーが趣味になり得るということを示して、私たち文具業界にいる者は勇気をもらい、励まされました。

私はこの店を始める直前の2007年のvol.8から執筆陣に加えていただき、細々と記事を書かせていただいてきました。

書いた文章は拙かったと思いますが、万年筆の楽しさを伝えるということを自分なりに考えて毎回書いてきました。お客様に接する第一線である店の人間が書いた記事は、ステーショナリーの現状を伝えるものになればと思っていました。

生まれたばかりの小さな店にとって、日本で唯一の専門誌に店名を載せていただいた効果は大きく、趣味の文具箱を見てご来店して下さる方も多く、本当に有難かった。おかげで当店は今こうして存在できています。

最新刊vol.56では、清水編集長と井浦さんが店に取材に来て下さり、「飛んで行きたい文具店」で紹介していただきました。

取材が一通り終わった後、さまざまなリフィルを使うことができる台湾のアントウのペンの話で大いに盛り上がりました。清水編集長と当店3人が使っているので、使えるリフィルの情報や工夫など、子供の頃のゲームの裏技のように全員が目を輝かせて話していたのが面白かった。この話に井浦さんは入れなくて、持っていないことを悔やんでいたけれど。

2月9日に、趣味の文具箱など趣味系の雑誌を多く発行していた枻(エイ)出版社が事業に行き詰まり、民事再生法の手続きをとりました。

お客様方の情報入手の手段や価値観の変化により、出版業界は苦しんでいたのかもしれませんが、趣味の文具箱は他にない唯一無二の存在で、それがなくなるはずがない。

競争のない領域を見出して、存在し続けている趣味の文具箱と当店を私は勝手に重ねて見ていました。その情報を知ってから、趣味の文具箱や清水編集長、井浦さんを失うかもしれないという悲しみのような感情で沈んでいました。

ほどなく連絡があって、受け企業が現れて、趣味の文具箱の継続が決定したそうです。

ひとまずこの業界にとって大切な存在を失わずに済んだ。

時代の流れは逆の方向に向かっているのかもしれないけれど、それと闘える力と存在し続けることができる輝きが、趣味の文具箱にはあると思っています。

今回のことで、大切にしないと失うかもしれないという時代の厳しさを思い知りました。何ひとつ欠けてはいけない。協力し合って、ステーショナリーを盛り上げていかなければいけないと、改めて心に強く思いました。

カンダミサコ~様々な革で作ったペンシース~

カンダミサコさんの商品を当店が扱い始めて11年になります。

ル・ボナーの松本さんに連れられてカンダミサコさんがお店に来られた時、ご紹介いただいたペンシースの取り扱いを即決しました。

松本さんの太鼓判もあったけれど、それまで万年筆を収めるケースというのは重厚なものばかりで、肩の力が抜けていてカジュアルなカンダミサコさんのペンシースがとても新しく思えました。

当時神戸市灘区にある一軒家を借りて工房としていたカンダさんは、修行していた鞄工房から独立したばかりで、まだあまり知られていませんでした。

でもそれから仕事が軌道に乗って、元町に引っ越しをされて工房兼自宅を構えられています。

当店も始めたばかりでしたが、お互いに10年以上仕事を続けてくることができました。

当店で扱っているシステム手帳や他の革製品の多くをカンダミサコさんが作ってくれていて、他のお店にないオリジナリティを手に入れることができています。

当店の雰囲気、目指すものとカンダミサコさんのモノ作りの相性が良かったから今のような関係ができたと思っているし、人間的にも共感できるので、話していて楽しく、何でも言い合えるから長く関係を保ってくることができたのかもしれません。

3年前から、その年限定の革を選んで、期間限定品として様々なものを作るということをしています。今年も企画していますが、昨年の神戸ペンショーではそれとは別に、様々な革を使って1本差しペンシースを作るという実験をしてみました。

お客様の反応も良く、自分たちも面白いと思いましたので、人気があったクードゥーとゴートヌバック、それに追加してダイアリーカバーで使ったミラージュ革で作っていただきました。

クードゥーは、きれいと汚いの間と言えるくらい傷やシミの多い野性味溢れる革で、個体差が激しい革ですが、今はこういう革が求められているのだと実感しています。

ただきれいなものではなく、こういう革を求める人が多いというのは、ステーショナリーがより高い次元のものになってきていることを表していると思っています。

ゴートヌバックは、アパレル系のメーカーが使ってもおかしくないような洗練された美しい革です。当店も一昨年、このゴートヌバックを限定革として使いましたが、何を作ってもサマになる革だと思いました。

ミラージュは、曲げると色が変わるプルアップレザーで、これは完全に私の好みで選んでいます。

トラやムラもありますが、濃い茶色の色合い、ねっとりとした手触り、濃く深いような光沢が何とも言えず好きなので選びました。この革でもいろんなものを作りたいと個人的には思っています。

定番のシュランケンカーフも、色数がたくさんあってタフで使いやすく、好みの色を見つける楽しみがあります。個性的な革の限定仕様ペンシースも、どんなペンと合わせるか、考えるのを楽しんで欲しいと思います。

ペンシースも10年以上販売してきて、万年筆の世界でも定番的な存在になってきたと感じます。それほどたくさんの方に使っていただいていると思う。

ペンはなるべく何かで保護しておきたい。ペンシースは、常にこの中にペンを入れておいて、使う時だけ取り出す、ペンの洋服のような存在になったと思っています。

⇒カンダミサコ1本差しペンシース 「クゥードゥー」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ゴートヌバック」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ミラージュ」

⇒ペンケースTOP

モンブラン146と龍玄手本集

モンブランマイスターシュテュック149を使い始めて、149と146の違いについて考えるようになりました。

149は太軸で、とても楽に持って書くことができるけれど、どちらかと言うとサラサラっと書く走り書きに向いているのではないかと思います。この万年筆で書くと、私の場合はどうしてもこの万年筆の文字になります。きっと149にはコツのようなものがあって、私はまだそれに気付けていないような気がします。

そして146は、149に比べるとかなりコントロールしやすいので、文字の細部にまで神経を配ってきれいな文字を書くことができる。そのコントロールのしやすさは、細めの字幅でも体感できますが、特に太字で真価を発揮します。

そもそもモンブランの太字は、縦線が太く横線が細いスタブっぽい形状をしています。そのため少しペン先をひねるとインクが出にくいこともありますが、面白い文字が書ける、書いていて楽しいペン先です。146はコントロールしやすく、書く時にペン先を紙に合わせやすいので、より楽しめると思います。

146に限った事ではありませんが、ここぞという時に自分なりにきれいな文字が書ける万年筆に出会えたら、それは幸せなことだと思います。

そういう万年筆との出会いの場でも、当店はありたいと思う。

今は自粛していますが、当店では月に一度、堀谷龍玄先生にペン習字教室をしていただいているので、なるべくきれいな文字を書けるようになりたい。発送する万年筆に添えるために、毎日お客様へ手紙を書いているので特にそう思います。

今まではどうやって書けば自分の文字がサマになって上手く見えるかということばかり考えて、連綿などを入れて書いていたけれど、最近では違った考え方をするようになりました。

なるべく気負わずに、自分らしく書く。その方が読む方に気持ちが伝わるような気がするし、見苦しくないような気がする。何よりも書いている自分がその方がいいと思う。

今では楷書で1文字ずつ、丸っぽい字を書いています。149も<M>を選んだし、最近太めの字幅のものを好んで使っているので、そういうことも文字に表れているのかもしれません。万年筆も、太くてどっしりした文字が書けるペンを多用する傾向にあります。

手紙はそんなふうに書いているけれど、自分のクセを殺して書くペン習字も大切にしています。

先に書いたペン習字教室の堀谷先生とは、もう10年以上という本当に長いお付き合いをさせていただいています。

その先生に監修していただいて、万年筆で書くことを楽しみながらお稽古するための、「龍玄手本集」が完成しました。

このお手本集の特長は、基本的な文字の他に、様々な万年筆を持ち替えてそれぞれのペンの特長を生かしたお手本を収録しているところです。

セーラー長刀研ぎ、ペリカンM1000、M800スタブ研ぎ、ウォール・エバーシャープのフレキシブルニブ、パイロットフォルカンなど、ペン先は知っていても筆致はあまり見る機会がないと思います。そんな特殊ペン先を使って原稿用紙に書いたものもあって、字幅のイメージも出来るし、ぜひ真似したいと思いました。

個人的には地名のお手本があって、これも大いに気に入っているけれど。

様々な万年筆を持っている人、これからいろんな万年筆を使ってみたいと思っている人に参考にしていただけるものになっていて、当店で販売する意義のあるお手本集になったと思っています。

⇒Pen and message. 「万年筆で書く・龍玄手本集」

デルタの遊び心を感じるキャップ式油性ボールペン

気に入ったボールペンは仕事を楽しくしてくれます。

いつも万年筆をご紹介していますが、書くことを楽しくしてくれるものなら区別せずにご紹介したいと考えています。今回は、ユニットを付け替えると、1本で万年筆にもボールペンにもなる筆記具のご紹介です。

ネットゥーノの「1911コレクション」がその万年筆にもボールペンにもなる筆記具です。

万年筆はスチールペン先で、しっかりした書き味で使いやすいのですが、私はこのペンを敢えてボールペンとしてご紹介します。

このペンは凝った構造のボールペンユニットをつけると、キャップ式の油性ボールペンになります。ちゃんとリフィルを筒に通してセットする仕様で、この一体感や完成度の高さは、もしかしたら不必要なことなのかもしれないけれど、遊び心を感じさせてくれます。

キャップ式の水性ボールペンなら乾燥を防ぐという目的があるので珍しくはありませんが、キャップ式の油性ボールペンということ自体が遊び心があると思います。

回転式やノック式の方がスピーディーに芯を出して使うことができますが、万年筆のようにキャップを回して外し、書き始める方が優雅な感じがしますし、油性ボールペンなのでキャップを開けっ放しにしていても、ペン先が乾かないので小まめにキャップを閉めなくてもいい。

適度な太軸で、このペンなら長時間の筆記も快適に書けそうです。華やかなデザインですが、実用的なものでもあります。

ネットゥーノという名前は、万年筆の歴史の中で、何度も出たり消えたりしてきました。

イタリア、ボローニャにある老舗の万年筆/ステーショナリーの店「ヴェッキエッティ」がオリジナルの万年筆をネットゥーノというブランド名で発売して、それは古く1911年のことだそうです。

ヴェッキエッティのすぐ近くの噴水広場に海王神ネプチューン(イタリア語ではネットゥーノ)像があり、それがネットゥーノの名前の由来になっています。クリップにあしらわれた三又の槍はネプチューン像が掲げている槍がモチーフになっています。

ボディのシルバーのリングには、ボローニャの象徴であるポルティコ(柱廊の歩道)があしらわれています。

もう10年前になりますが、ル・ボナーの松本さん、分度器ドットコムの谷本さんとボローニャを訪ねて、この像を見ました。ヴェッキエッティにも入って、万年筆を買いましたが、今ここでその名前に出会えるとは。

このネットゥーノ1911コレクションは、今はなくなってしまったデルタの雰囲気を感じます。

デルタの元社長ニノ・マリノ氏がネットゥーノのブランド所有者から依頼を受けて製品化したのがこのネットゥーノ1911コレクションで、ニノ・マリノ氏の再起をかけたコレクションでもあります。

デルタは、一時は一世を風靡し、イタリアの名門万年筆メーカーのひとつに数えられるほどでしたが、倒産してしまった。

いろんな事情があったと思いますが、ニノ・マリノ氏の元に元デルタの職人が集まって、デルタらしさに溢れたネットゥーノ1911コレクションをまた作ることができました。

私はニノ・マリノ氏の再起を応援したいと思いました。

個人的な思い入れもあるけれど、このネットゥーノ1911コレクションは、書くこと、仕事をすることを楽しくしてくれる筆記具で、当店はこういうものを紹介したいと思いました。

⇒ネットゥーノ 1911コレクション

好みの中心にいる万年筆~アウロラ88ゴールドキャップ

良い万年筆とは人によってそれぞれで、これが一番というものは絶対にありません。

人がブログやSNSなどで良いと言っていることは関係なく、自分がいいと思うものを自分の好みで見定めるべきだと思っています。

それは、私が当店を始めた時から一番伝えたいと思って、発信し続けてきたメッセージでもあります。

例えば私が考える良い万年筆の基準は、「使う人の心に影響を及ぼして、生き方をも変えるようなモノであること」です。

良い靴を履くようになると、その日の自分の行動や天気を今まで以上に気にかけたり、足の運びや所作が丁寧になったり、服装にもこだわりを持つようになります。それと同じように、良い万年筆はその人の他のステーショナリーや持ち物を始め、書く文字など、美意識を作りモノの好みや行動に影響を及ぼすのではないかと思います。

私の場合アウロラ88クラシックは、自分のモノに対する好みを完全にひっくり返してしまった万年筆でした。

黒ボディに金キャップという、万年筆では最も力強いと思う配色。工業デザイナーマルツェロ・ニッツォーリが1940年代終わりに8の文字をモチーフにデザインした丸く滑らかでありながら力強いフォルム。

それを使い始めて、ブルーブラックやブラックのインクを使いたいと思うようになったし、革製品なら、洗練された光沢のあるクローム鞣しの革よりも、タンニン鞣しのオイリーな革を好むようになりました。何よりそれらがこの万年筆に合うと思ったからです。

そうやって一つの万年筆を中心として、モノの好みに統一性がとれてくる。それはきっと服装や鞄などにも広がっていくのだと思います。こういう現象を何と言うのか分かりませんが、私の場合は88クラシックが自分の好みの中心にいることは確かです。

最近こういう存在のモノ自体が少なくなったけれど、金キャップに黒いボディは大人の男性のための万年筆だと思っていました。

多くの人が若い時は、おそらく30代くらいまでは金よりも銀色の金具の万年筆を好み、洗練された色のあるものに惹かれるのではないでしょうか。

アウロラ88クラシックが大人の男性のためのペンと思ったのはそのためで、ある程度年齢を経た男性がこの万年筆に惹かれることが多い。

といっても最近は、男性のためのモノ、女性のためのものという表現をすること自体時代遅れになっているので、決して女性が使ってはいけないと言っているわけではありません。

その時の人とのやり取りなど思い出や、自分だけのストーリーがあるものは何物にも代え難い大切なものになります。そういう万年筆は手放すことができない。

値段などは関係なく、自分の想いが、その万年筆を私にとって良いモノにしています。万年筆は、そんな想いを象徴したモノとしていつも持っていられるものだと思います。

いつか手に入れたいと長く憧れて、自分がそれを使うのに相応しい年齢になってついに手に入れることができたと思える万年筆は、あるうちに買わないといけない限定品ではなく、必然的に長く存在し続けている定番品になります。そんな万年筆をもっと紹介したい。

アウロラ88クラシックは、そんな風に思うのに相応しい、自分の好みの中心にいて、影響を及ぼす、今では希少な万年筆だと思います。

⇒アウロラ88クラシック

手帳をきっちり書く

若い頃仕事が面白くなかった。

一日は長く、ただ店に立って時間が過ぎることばかり考えていて、自分はこんなふうにあと40年近くも生きていくのかと思うと気が遠くなりました。

でも根が単純なせいもあって、シンプルに考え方を変えてみたら、同じだった毎日が変化したのです。

それは本当にシンプルなことで、楽をしようと思わず、前向きに、積極的に仕事に取り組もうと考えました。

仕事が「やらされるもの」から「自分で見つけて楽しみながらするもの」になったら、同じ職場、同じ時間なのに急に自分の周りが明るくなりました。

その気持ちは手帳の書き方にも表れていて、手帳を楽しみながら書くようになり、手帳の使い方を自分で考えてきっちりきれいに書けたら、充実感を感じるようになりました。

当時は万年筆をまだ使っていなかったので、安いボールペンの中で書き味が好きなものを使っていたけれど、万年筆で書くようになって、手帳を書くことがさらに楽しくなった。

どんな手帳でも、そのフォーマットを自分流に使いこなす工夫が必要です。

それができるようになると、手帳はとても大切な仕事のツールとなって、仕事を楽しくしてくれるものになると思っています。

正方形オリジナルダイアリーは、自分なりの工夫がしやすいダイアリーです。

ダイアリーは予定を書くものだけど、その多くはToDoを書くものだと思います。

ウィークリーダイアリーを例にとります。

その日に完結できる短期のToDoはそれぞれの日付欄に書けばいいし、1週間でするようなToDoは右ページ日曜日下の4分割のどれかをそれに当てます。

右ページの4分割のスペースがこのダイアリーの特長で、私はこの4分割にそれぞれ専用の項目にしたいと思い、「ORDER・WRITE・THINK・WORK・MEMO」のゴム印をハンコ屋さんで作ってもらって、それぞれの項目に押しています。

「ORDER」は、お客様からいただいた注文内容を書いておき、納期の連絡など忘れないようにします。

「WRITE」は、その週に書かなければいけない原稿。

「WORK」は、具体的な作業。

「MEMO」はそのままで、覚えておきたいことを書きます。

1つ多いですが、THINKは、右ページ一番下のチェックボックス付きの項目をその場所にしていて、その週に結論を出さないといけないことを書きます。

こんな風に使うようになったら、他に代わるものがなく、毎年並んでいく背表紙を見るのも楽しくなります。

仕事を楽しくするためのダイアリー、仕事を楽しんでいることを象徴するダイアリーに、正方形オリジナルダイアリーをぜひ試していただきたいと思います。

*正方形オリジナルダイアリー2021年・ウイークリー

*正方形オリジナルダイアリー2021年・マンスリー

2020年のペン・ANTOUマルチアダプタブルペン

何か仕事をする時に、その目的を見誤ると上手くいかないということを経験してきました。

商品を企画する時は、お客様の喜ぶ顔をイメージできないと失敗します。

このペンはその仕様やデザインなど目に見えるところよりも、こんなふうにお客様に楽しんでもらいたいというイメージから生まれたのではないかとさえ思えます。それほど優れた企画だと思うし、ペンの業界に風穴を空けた痛快な存在だと思っています。

個人的な話になりますが、今年の、特に前半は休みの日でもあまりどこかに出掛けることをしていませんでした。

半日も家にいるとウズウズして、出掛けずにはおれない私でも、比較的家にいることができたのはANTOU(アントウ)のペンという遊び道具があったからだと思います。

ANTOUというのは、台湾中部 台中近郊にある金属加工業の中小の工場の集まる地区の地名です。

その地元の名前をブランド名にしたシリーズの代表的なペンが、様々な替芯を使うことができるマルチアダプタブルペンです。

私は地名が好きで、その地名が名前になっていることにも想像力が掻き立てられ、その製品を冷静に見ることができなくなってしまいます。地元の路線バスの行き先表示の地名をみているだけでも全然飽きないのは、少々度を越してているのかもしれないけれど。

話をANTOUに戻すと、マルチアダプタブルペンは替芯を先端でつかんでいるため、芯の長さや形に捉われずに使うことができます。その機構には他にも良いことがあって、芯のガタつきがありません。

ボールペンに純正でない芯を入れると、芯の先端部とボールペンの口径に部分に少し遊びが出来て、書く度にカタカタ細かく揺れて気になることがあります。

これが起こらないということは、書くことに集中したいと思う人にとってかなり重要なことです。

このボールペンを手に入れてから、何の芯を入れて使うか、文房具店の筆記具売り場でいろんなペンを見るのが楽しくて仕方ありませんでした。その度にペンを買っては替芯を取り外して、ANTOUに入れて楽しみました。

国が違っても、楽しいと思うことは変わらないのだとこのペンで知りました。

これで何か書かなくても、そうやって自分にとってのベストな替芯を決めるのが楽しく、ペンの楽しみは書くだけではないと教えてくれた。

アントウを使っている人同士でこのペンの話をすると、様々な替芯の情報交換ができて、それも楽しい。

そんなANTOUボールペンCミニに新色が追加されました。

青藍・唐紅・橙の日本の伝統色の3色展開で、日本や台湾のものなら、こういった漢字の色名であってほしいと思います。

ミニは長さが短くなりますので、その分使うことができる替芯に制約がありますが、少し短くなって、そのプロポーションがかわいらしくなりました。

このミニ専用の「シャープペンシル機構」も一緒に発売されました。

ボールペンの替芯と同じようにペンシル機構を先で掴む方法です。

ペンシル機構の発売で、ANTOUがボールペン以外にもさらに幅広い用途で使うことができるようになりました。

ANTOUのペンの存在により、全てのボールペンが、このペンの素材に見える。多くの人に使ってみていただきたい、いい商品だと思っています。

⇒ANTOU(アントウ)TOPページ

優れたペン先を装身するための鞘・こしらえ

マイカルタ・グリーン×カスタム743

日本の万年筆は海外のものと比べると、デザインにあまり個性がないと言われます。黒いプラスチック軸に、オーソドックスなデザインの金クリップがついているものが多い。海外のペンは個性的なデザインのものが目につくので、それらと比べて見ると少々無個性に感じてしまいます。

しかし、それは日本の万年筆の良さが分かっていない感想なのかもしれません。

日本の万年筆は外観という表面的なところに個性を持たせるのではなく、その書き味に個性を持たせていると考えると、非常に奥深い、大人の楽しみのある存在だと思えてきます。

それは何かの味を感じるのに近く、刀の刀身の微妙な形や刃文の違いを味わうような感覚に近いのかもしれない。

それだけではないけれど、日本の万年筆の在り方は刀と近いと思っています。

私も常に、ペン先を書き味良く調整しながらも、ペンポイントが美しい姿になるように調整したいと思っていて、それは万年筆を刀のような存在に近づけたいという想いがあるからです。

国産万年筆では、パイロットカスタム743の書き味は特に素晴らしいと思っています。

当店でもし万年筆を何かお勧めして下さいと言われたら、まずカスタム743FMをお勧めします。その中でも最も様々な用途に使うことができて、書き味も良いFMをお勧めすることが多い。

カスタム743は他の多くの万年筆と同じく、黒い樹脂軸に金色のパーツがついていて、デザインに個性的なところはありません。

しかし粘りがありながらも柔らかい、極上の書き味のペン先がついています。この万年筆はこのペン先だけで、完成していると言ってもいいかもしれません。

カスタム743を見ていると、黒金のこのメーカー仕様の軸が刀の保管時に使う白鞘のように思えます。良いペン先には刀のこしらえのように、それに見合った装身をさせてやりたい。

国産の万年筆を、そのペン先の性能に見合った立派な軸に収めたいというのが、工房楔の永田さんに当店オリジナルで作ってもらった万年筆銘木軸こしらえの始まりです。

今回のこしらえは、工房楔の永田氏が木ではなく、マイカルタに挑戦したという点でも面白い存在です。

マイカルタはコットン(パッカーウッドは木)をフェノール樹脂で固めたもので、その手触りは革に近いものですが、非常に硬く、丈夫な素材です。

工房楔の永田氏はこの硬いマイカルタのために、刃物の刃をいくつもダメにしながら、木を削る何倍もの時間をかけて削り、こしらえを作ってくれました。二度と作らない、というのが作り上げた永田氏の感想でもあります。

滑りにくい独特な手触り、重量感、時間の経過とともに馴染んでいく光沢と、触り心地。

マイカルタはナイフのハンドルや銃のグリップにも使われてきた素材で、木とはまた違うタフな魅力がこの素材にはあります。

⇒Pen and message.オリジナル 万年筆軸・こしらえ