ANTOU(アントウ)ボールペンCミニ新発売

万年筆店がただ書きやすい万年筆だけを売っていればやっていくことができる時代はとっくに終わっていて、私たちは例えば、ゴルフや釣りなどに負けない楽しさを示さなければいけないと思っていました。

今では同業者は手を取り合ってお互い高め合い、相乗効果を狙う同志でなければいけないと思っていて、ライバルはゴルフショップやつり道具屋なのだと認識しなければいけない。

同様に筆記具メーカーも安泰ではありません。筆記具メーカーは、よく書けるペンを作っていれば勝手に売れて、やっていける時代ではなくなっています。よく書けるのは当然で、そこに楽しさがなければいけない。

極端な言い方をすると、多少実用性を無視していても楽しさが提案できれば、世の中に受け入れられるのかもしれません。書きにくいと言っているわけではないけれど、アントウはそんなペンなのだと思います。

キャップがマグネット式なので素早く開け閉めができるとか、替芯を先端の口金で固定しているので、ペン先のブレがなかったり、芯と口金が当たってカチカチ鳴ることがないなど筆記具としての良さを挙げることはできるけれど、このペンが使う人にもたらす楽しみの前には、それらは本当に些細なことに思えます。

アントウは、様々なボールペンの替芯をその長さや形に捉われずに使うことができるのが大きな特長ですが、このペンが創り出しているのは、このペンで使う替芯を探す遊びです。

手帳に使いたいのなら、細く書けて自分の好みの書き味やインクの色を持っているボールペンの芯を探せばいいし、サインペンのように使いたければ太字の水性ボールペンを探せばいい。

アントウのペンを所有した人は文具店の筆記具売場で、様々なペンを試してみて、好みのものを見つけようと時間を忘れて過ごすことになるでしょう。

本国のホームページに載っていましたが、アントウのボールペンに新製品が追加されました。ボールペンCよりも1.5mmほど短く、わずかに細い「ボールペンCミニ」とスタイラスペンを備えた「ボールペンS」です。

当然、ボールペンCの方がミニよりも多くの替芯に対応しますが、ミニの小ささはこの無骨なペンに少しの可愛らしさを与えています。

アントウのペンのボディの内寸をそれぞれ記しておきます。替芯探しのお役に立てればと思います。

・ボールペンC 長さ101mm 直径7.8mm

・ボールペンCミニ 長さ92mm 直径7mm

・ボールペンS 長さ101mm 直径6mm

上記のサイズよりも小さな芯であれば使えるということになります。ただ、一部口金を通らないものもありますのでお気を付け下さい。

私は文具店にいた経験があるので、アントウのペンに入れたい芯をいくつも思い浮かべることができます。お客様と話をしていても、文房具に詳しい人ほどこのペンを面白いと思ってくれるようです。

ただ書くだけのペンは、いくらでも見つけることができます。でもこういう楽しみのあるペンはそうそうあるものではないと、文房具好きなお客様方にお勧めしたいと思います。

⇒ANTOU ボールペンCミニ

⇒ANTOU ボールペンS

原稿用紙

万年筆を使う人なら誰でも考えたことがあると思いますが、私はずっと原稿用紙を上手に使いたいと思ってきました。

そう思ってたまに原稿用紙に向かったり、めったにないけれど向かわざるを得ない状況になった時に、マス目に一文字ずつ収めた自分の文字があまりにもサマになっていなくて幻滅してしまい、それ以降しばらくは原稿用紙に手を出さないということを繰り返しています。

原稿用紙に慣れるためのトレーニングで、原稿用紙に小説などの文章を書き写すということもやりました。文字の美しさを気にせず、原稿用紙のマスのサイズに慣れるためにひたすら名文を書くのはたしかに楽しく、皆様にもお勧めしたい方法です。

私も根気強くやっていればよかったけれど、しばらくしてやめてしまった。

今から思えば、原稿用紙の枠の中に文字を収めようとした時に何らかの気負いを生んで、字が固くなってこなれた感じにならなかったのではないかと思います。

きっと原稿用紙に向かうと小学生の頃の気分を思い出してしまうのだと思う。私の場合それは懐かしさではなく、夏休みの読書感想文とか、テーマが決められた宿題の類いで、意気込むけれどあまり上手くいかなかった時を思い出してしまいます。

その時自分にあたぼうの飾り罫原稿用紙があればもっと、 原稿用紙に対して力を抜いて自然体で向かうことができたかも知れません。 といっても今の自分には万年筆がありますので、それだけでもあの頃とはかなり違うけれど。

あたぼうの飾り罫原稿用紙の自由な感じの罫線も気楽な感じでいいし、何よりもインクの伸びが良くて書き味の良い、薄めの紙質が使いやすい。

キンマリSWという紙は、印刷用紙としても聞いたことがありますが、原稿用紙という大量に書く用途に合っていると思います。

原稿用紙はB判が多いですが、飾り罫原稿用紙はA4サイズで、二つ折にして穴を開けると、ルーズリーフやシステム手帳にそのまま綴じることができ、原稿用紙というものの最近の使われ方に合っているように思います。

この原稿用紙のマスの大きさだと国産Mくらいがピッタリの字幅で、気持ち良く書くことができました。あたぼうさんは封筒も発売していますので、この原稿用紙を便箋としても使うことも勧めておられるようです。

昨年、気まぐれを起こして、神戸新聞の公募にエッセイを投稿しました。

残念ながら掲載はされず名前だけが載りましたが、またそういうこともやってみたいと、ふと思いました。

⇒あたぼう 飾り原稿用紙

大きさ合わせ

最近、文房具のサイズや規格など、様々な適合を探すことを楽しんでいます。

どういうことかと言うと、例えばハガキはA6サイズなので、半分に切って穴をあけるとちょうどM5手帳に綴じることができるとか、オリジナル正方形ダイアリーとマルマンクロッキー帳SQサイズは大きさが近いので、一緒に持つのに相性が良いなど、他愛もないことだけど、こういうことを見つけるのが楽しい。

Antou(アントウ)のボールペンの開発者はこの楽しさが分かっていたのかもしれないと思います。アントウはメーカーの垣根を超えて様々な形状のリフィルを使うことができる台湾のボールペンです。その楽しみは奥行きの深いもので、私は休みの日にアントウに入れるための安いペンを色々探したりしています。

アントウほど多様な芯が使えるわけではないけれど、パーカータイプのリフィルを使うボールペンもメーカーを横断して様々な芯を使うことができるので、自分好みの芯を探す楽しみがあります。

パーカータイプの芯のトレンドは、ジェットストリームやデュポン、パーカーなどのイージーフロー芯で、インクの粘度が低く、筆圧をかけずに快適に書くことができるものが中心になっています。

しかし、人によっては滑り過ぎると言われることもありますので、イージーフロー芯だけが良い芯だとは言えないようです。

ペリカン、アウロラ、ファーバーカステルなどは、パーカータイプの芯を使用しますが、イージーフローでない従来の油性ボールペン芯を使用していますので、書き比べてお好みに合う方を選ぶといいと思います。

もちろんただ書ければいいわけではありません。趣味的な要素の高いボールペンになるほどデザインの良さは何よりも大切だし、自然の素材が使われていることはそのデザインの良さに付加価値を与えるものだと思っています。

私の独断と言うほかないかもしれないけれど、当店の革製品などと雰囲気の合うボールペンをいくつか選んでみました。コーディネートで選ぶのも文房具の楽しみだと思います。

当店のオリジナルの革製品コンチネンタルは、野趣味溢れる、磨くとすごい艶が出るダグラス革使用していますが、そのダグラス革同様に使い込むと風合いの出る自然の素材を使ったボールペンです。

アウロライプシロンシルバーボールペンは、スターリングシルバーのボディですが、価格が安めに抑えられています。

高級ボールペンは回転式のものが多いですが、イプシロンはガチッと押すノックタイプで、このワイルドな使用感もまたコンチネンタル的だと思います。太めで握りやすく、アウロラらしいボールペンです。

そしてもう一つ、S.Tデュポン・ディフィブラッシュドコッパーボールペンは銅の素材感があって、他にはないボールペンです。ダグラス革との相性がとても良く、最もコンチネンタル的なボールペンだと思っています。

万年筆は一人の時間、休みの時間を楽しくしてくれるものだと思いますが、ボールペンは仕事の時間を楽しくしてくれるものだと思います。

他のものとのコーディネートを考えながら、ボールペンも気に入ったものをこだわって使っていただきたいと思っています。

⇒AURORA イプシロンシルバー ボールペン

⇒S.T.Dupont ディフィブラッシュドコッパ―ボールペン

日常を楽しむ

十年前、ル・ボナーの松本さんと分度器ドットコムの谷本さんと、ボローニャを中心としたイタリア中部の街を旅しました。

週末だったと思います。街の中心にある広場のようなところに、割とドレスアップした人たちが集まって立ち話をしたり、ベンチに座ったりしていました。同じような服装で自転車に乗り、同じところを行ったり来たりする年配の男性もいました。

皆、用事があって集まっているという訳ではないけれど、いつもの週末を思い思いに楽しもうとしていることが旅行者の私たちにも分かりました。

どこか特別なところに行ったり、高級なレストランに行くことだけが楽しむことではない。自分が着たい服を着て、広場に出て行くだけで、繰り返しの毎日や平凡な週末が楽しいと思える時間になる。

イタリアの人はそうやって普段の時間を楽しもうとしていることを知りました。

コロナウイルス禍で、私たちは今までのようにどこかに出掛けにくくなってしまって、この状況がいつまで続くか分かりません。ただ何の楽しみもなく過ごしていても心は晴れないから、いつもいる場所で楽しめるようにする必要があります。

万年筆は家での静かな時間を楽しむのにとてもいいものだと思うし、例えば近所に、生活に必要なものを買い物に行く時、胸ポケットに愛用の万年筆を差して出掛けるだけでも、普通の日常が楽しいものになるのではないかと思います。

平凡な庶民の日常を貴族のように過ごすイタリアの人たちを見て、美しいイタリアの万年筆が生み出される背景が見えたような気がしました。

アウロラのあるトリノには行っていないけれど、トリノに住む人の日常もそれほど変わらないのではないか、広場に集まる人たちのスーツの胸ポケットにはポケットチーフの代わりにアウロラの万年筆が差してあるのではないかと思います。

昨年100周年を迎えたアウロラから、定番万年筆オプティマの新色アランチョとビオラが発売されました。

アランチョは、みずみずしい果実を思わせるオレンジ色です。限定万年筆ソーレで大切に使ってきた太陽の色をとうとう定番品として解禁しました。

ビオラは、惑星シリーズ「ネブローザ」で大好評を博した、大人の色気漂う紫色です。

限定品で人気があった色を定番品に追加したことで、100周年のメモリアルイヤーを終えたアウロラが、今後定番品を腰を据えて販売していくという意思表明をしたのだと私は捉えています。

毎日使うことができる信頼性があり、その書き味は味わい深く、使うごとに甘さを増していく。そしてキャップを閉めると意外と短くなるので、胸ポケットに差してもちょうど良く収まってくれる。

私が万年筆を使い始めたばかりの若い頃、このオプティマに憧れていました。そしてやっと手に入れてから、この万年筆によって自分が身を置く小さな日常の中で楽しみながら生きることを知ったような気がします。

⇒AURORA オプティマ ヴィオラ

⇒AURORA オプティマ アランチョ

今の時代の流れの中にあるもの〜2020年限定アルランゴート革ローズゴールドM5手帳

ずっと流行というものに背中を向けてやってきました。

万年筆というものにとって流行は無縁なもので、それは自分が追うべきものでないと思っていたからなのかもしれません。自分が扱うべきものは永遠の定番のもので、すぐに廃れて飽きられてしまうようなものには手を出してはいけないと思ってきました。

その気持ちは変わっていないし、そういう店だからお客様は安心して当店でモノを買うことができるのだと思っています。

でもある時から、この分野にも流行がはっきりと存在するようになりました。せっかく今の時代にこの仕事をしているのだから、ずっと使われてきた定番のものと同じように、流行の今の感覚に合ったものも扱っていきたい。そして、追うべき流行と見送るべき流行を見極めて世の中に提案したいと、意識が変わってきました。

そう思うと読む本や聞く音楽なども変わって、古いものよりも、今の時代に生み出されたものの方が自分の感覚にも近いと思うようになりました。

革は様々な条件で、作られなくなるものも多いけれど、新しいものもどんどん作られている。それはアパレルとの絡みも多いからだと思いますが、今の時代の感覚に合った革はたくさんあることを知りました。

一昨年から、その年の限定と決めた大胆な革を使ったステーショナリーをカンダミサコさんに作ってもらっていて、今年はフランスのゴート専門のタンナー、アルランのメタリックゴートレザーを使うことにしました。

当店としてはかなりの冒険をしたと思われるかもしれませんが、万年筆にもその流れが来ているローズゴールドの革を使いたいと思いました。

ナチュラルな感じのものが多いカンダミサコさんですが、この革をいくつかの候補とともに勧めてくれて、意外とすぐこれに決まりました。

M5サイズシステム手帳は、その時の気分で中身をそっくり入れ替えて使うような、ある程度遊びが許されるものだと思っています。

コンチネンタルM5システム手帳で表現した、機能性よりもコロンとしたフォルムや、厚い革の感触を味わう遊びもM5手帳だからこそ実現したと思っていて、今の流行を反映したものを取り入れるのに相応しいアイテムだと思っています。

メタリックゴートレザーは、革に特殊な加工をして表面を箔のような仕上げにしています。かなりしっかりしていて、すぐに表面が剥がれてしまうことはないので、ご安心下さい。

ずっと以前、万年筆が流行を先導していた時代もありました。私が万年筆の仕事に携わるようになってからは、一部の人たちの間で小さな流行はあったかもしれないけれど、万年筆の時間は静かに、淡々と流れていました。

しかし近年では流れが、強く、早くなったことを実感します。

私もその流れを見送り続けるほど齢をとっているわけでもないので、いつまでも新しいものへの好奇心を持っていたいと思っています。

⇒カンダミサコ アルランゴート革・ピンクゴールドM5手帳(2020年モデル)

書くことの楽しさを思い出させてくれるセーラーの万年筆

以前にもいくつかご紹介しましたが、M5システム手帳に合うペンとして、セーラーのプロフェッショナルギアスリムもいいのではないでしょうか。

コンパクトなボディの両エンドを平らにした、ベスト型と言われる長さを切り詰めたような形のペンで、キャップを尻軸につけると持ちやすい長さになり、硬いと言われる14金のペン先は手帳に小さな文字を書くには適した仕様だと思います。

セーラーと言えば、その工場についてよく思い出します。

工場というものはあまり街中に建っているものではないと思うけれど、セーラー万年筆の工場ほど喧騒から離れたところにある工場は少ないのではないかと思います。

呉の小さな漁師町のようなところにあり、こういう立地とセーラーの万年筆の持ち味に関連性があるのではないかと思っています。

それだけセーラーの万年筆には独特な良さがある。

万年筆作りは、変わり続ける世の中の情勢や様々な条件に左右されず、変わらずに良いものを作り続けることができることも大切だと思います。

セーラーがある呉市天応というところはそれが比較的やりやすい場所なのではないかと、あののどかな風景を思い出して勝手に想像しています。

ところでセーラーの万年筆の特長について、私は長い間よくつかめずにいました。

筆記角度を50~60度で、ペン先をひねらずに紙に当てると書き味がとても良いけれど、そこから外れると引っ掛かりを感じる。それは書き方を指定するものだと思っていました。

それはペンポイントの研ぎの形がそのようになっているからですが、その研ぎは書き味のためだけではないのかもしれないと、セーラーの万年筆を使い込んでみて思いました。

セーラープロフィット21という超定番の、セーラーで最も標準的な万年筆を使ってみて気付くのは、どの万年筆よりも自分なりにきれいな文字が書けるということでした。

パイロットは、どんな方向にも同じように滑らかにペンが走り、気持ち良く文字を書くことができる万年筆が多い。その性能はすごいと思うけれど、書ける文字や書き味という、味の点では、セーラーにより深い味わいを感じます。

その味は書くことが単純に楽しいという、私たちが万年筆を使いたいと思う原点のようなものを思い出させてくれるものでした。

それは14金のペン先でも、スチールペン先の安価なものでも同じで、それぞれがちゃんとセーラーの味を持っているように思いました。

セーラーの味はペン先の研ぎに由来するものだと思っていますが、ボディの太さや重さ、バランスなども関係するのかもしれません。

万年筆にはいろんな楽しみ方があって、微妙な書き味の違いを楽しむのもまた万年筆ならではものです。その言葉で言い表しにくい曖昧なものを捉えることも、大人の万年筆の楽しみ方だと思っています。

⇒セーラー プロフェッショナルギアスリム

⇒セーラー プロフィット21

小さなペンを揃える

カンダミサコM5システム手帳用ラップ型ペンホルダーを使えば、M5手帳をペンケースのように使えるのではと思い立って、前に使っていた11mmリングのコンチネンタルシステム手帳をペンケースとして使っています。

13mmリングの新しいコンチネンタルM5は紙をパンパンに挟んで毎日の記録に使っています。

そうしないといけない理由はないけれど、小さなペンを集めてM5手帳をミニペン用ペンケースとするのが楽しいし、13mmリングのコンチネンタルに紙をたくさん挟んで太らせるのが楽しい。

このペンケースに見立てた手帳に入る資格のあるペンは、M5手帳と長さが同じくらいか、それより短いものでないといけないので、非常に限られます。

ペリカンM300はミニサイズで、その資格が十分にある、このペンケースの中では主役クラスの遊び心たっぷりのペンです。しかし先日、残念ながらペリカンがM300の廃番を宣言しました。

小さなサイズなのにペリカンスーベレーンのアイデンティティである、緑色の縞模様とピストン吸入機構を備えている上に、小指の爪先しかないような小さなペン先なのに柔らかい書き味を持っていたのは驚くべきことだと思っていました。

フォルム、プロポーションはM800と変わらない、そのまま縮小したような姿にペリカンのユーモア見ていました。

定番万年筆でこれほど趣味性を感じさせる万年筆は他になかったと思います。

こういうものをペリカンという大きな会社が定番モデルとして作っていることに、何か奥行きのようなものを感じていました。でも採算がとれなくなっていたのでしょうか、廃番は何か時代の流れを感じて寂しくなりました。

そのニュースが流れて、当店に在庫のあるM300は完売してしまいました。新たに入ってくるものはありませんので、当店にあるM300は委託販売のものが数本だけになってしまいました。こちらは撮影を進めていますので、近日中にホームページでご紹介致します。

ひとつ大きいサイズのM400はミニペンというカテゴリーに入らないかもしれませんが、125mmという長さは他の万年筆に比べると短く、M5手帳にもいいサイズです。

M400がちょうどいいのなら他にもまだまだ合いそうなものはありそうなので、これからも短いペンの逸品をご紹介していきたいと思っています。

個人的には大きなペンが好きなのですが、大きさを揃えて持つ面白さを知ってから、M5手帳に近い長さのものを探すようになりました。揃える楽しみがミニペンにはあって、それは書かなくても、書く前から探すだけでも楽しいもう一つのペンの遊び方のような気がしています。

長刀(なぎなた)研ぎ~美しい研ぎの形~

最近はペン先の研ぎについて書くことが多くなっていますが、少しずつ共感を得られるように書き続けたいと思っています。

万年筆のペン先の研ぎにはこだわりたいと思っていて、ルーペでペンポイントを見た時、あるいは拡大写真を撮った時、それが美しくあって欲しい。

ほとんどの人が気にしない部分で、言われてみないと、もしかしたら言われてもわからないかもしれないけれど、研ぎの美しさはその書き味にきっと影響を及ぼしているはずなのです。

最近研ぎにこだわったペン先が少なくなってしまい、とても残念です。

研ぎの美しさを捨てた場合、 ペン先からインクが出て文字が書く機構自体は変わらなくても、書き味の質が違うものになっているのではないかと思います。研ぎにこだわってよく調整された万年筆の書き味には潤いがあって、書いていて気持ちが良い。 ルーペで見える景色はもちろん雲泥の差です。

いつまでもそれを味わっていたいと思える書き味を持っているけれど、研ぎが適当な万年筆の書き味は、強引に例えるなら棒にインクをつけたような書き味で潤いがない。その差は万年筆を使った事が無い人にでも分かると思います。

ペン先調整は、書けなかったりインクが途切れたりする万年筆を書けるようにするだけでなく、書き味に潤いを与えることも重要な役割です。

ペンポイントの形はメーカーによって本当に様々で、それぞれの特長的な書き味を作っています。

ペン先を調整するようになって様々なメーカーのペンポイントをルーペで見ましたが、最も美しいと思っていたもののひとつにセーラーの長刀(なぎなた)研ぎがあります。

ペンを寝かせて書くと太く、立てて書くと細く書ける。そのような書き分けができるのは日本の文字を美しく書くためであり、その良い書き味でさえ美しい文字を書くという結果の次についてきたものに過ぎません。

長刀研ぎのペンポイントの形を私は墨を含んだ筆のようだと思っています。根元がふっくらとしていて、先端に行くほど鋭くなっていく。

最先端はペンポイントの腹側と背中側の線が合流して点になっていて、その精密さに、ペンポイントにも図面があるのではないかと思えるほど、美しくデザインされています。

長刀研ぎは筆記角度によって太さが変わりますので、字幅はかなり立てて書いた時の一番細い線で表記されています。長刀研ぎのFM(中細)の場合、立てて書いた線が中細の太さです。立てずに書くと太字くらいにはなりますので、思ったより太いと思われるかも知れません。

セーラー長刀研ぎ万年筆は、ネットでの販売が禁止されていますので、店頭での販売だけになっています。当店にも少し在庫がありますので、興味のある方はメール(pen@p-n-m.net)でお問い合わせ下さい。

今の時代にネット販売をしないなんて、と少し思いますが、店頭で試し書きしてから購入してもらいたいというセーラーのこだわりの表れなのだと理解しています。

自分の色のインク

最近オリジナルインクのCigarをよく使っています。黒に近い緑色が紙の上で変化して、乾くと黄色味を帯びたオリーブ色のようになるインクです。

少し秋っぽいかなと思うこともありますが、少し前からオリーブグリーンの色に急激に惹かれ始めて、気がついたらオリーブ色のものが結構身の回りに集まってきています。

今まで偏って好きな色というのがなかったので、見つかってちょっと喜んでいます。

手紙を書いていて、まだインクが乾かないうちに手が触れてしまって、擦れてしまうことがあります。右利きで縦書きを書くときは特に注意しなくてはいけない。私の場合は、擦れてもあまり気にせずそのまま行ってしまうこともあるけれど。

Cigarは乾くとオリーブ色になりますので、どこからが乾いていなくて、どこまでが乾いているのかすぐに分かりますし、粘度の高いインクは乾きが遅いことが多いですがCigarはそれほど粘度も高くなく、乾きも早いようです。

いつまでも乾かないインクは紙面が汚くなるので避けたい。私にとって乾きの早さも重要です。

以前はお客様へのお手紙に、黒かブルー以外は有り得ないと思っていましたが、もう若くないし、こういう色も許されるかと、徐々に厚かましくなってきました。

インクの色と歳なんて関係ないと思われるかもしれないけれど、私たちの世代が万年筆を始めた頃は、ほとんどのメーカーが基本の3色(ブラック、ブルー、ブルーブラック)しか発売していませんでした。シェーファー、オマスがグレーを発売していたことが珍しかった。あまり売れていなかったけれど、シェーファー、オマスの多色展開は時代を先読みしていたのかもしれません。

当時、インクは万年筆メーカーが自社の製品のために作るもので、インク専業メーカーも少なかった。そんな時代に万年筆を使い出したので、万年筆のインクは3色のうちのどれかという固定観念から抜け出せずに今まで来ました。

でもいろんなインクの色を楽しみながら使う人も多くおられて、最近は薄めの色が流行っていると聞きました。台湾系のインクやエルバンのインクに薄い色のものが多いですが、ガラスペンと合わせると涼しげで、今の季節にいいかもしれません。

台湾は暑いので、日本以上に涼しげなものを好むのかもしれませんが、食べ物の味付けも上品で薄味なものが多いと聞きますので、インクの色も薄いのが台湾風なのかもしれない。

日本風な色として、当店のオリジナルインク冬枯れは12年前に自信を持って世に出しました。文字がはっきり読める範囲で薄くした黒で、当時濃い黒を求める人は多かったけれど、薄い黒を求める人はいなかった。

でも、薄くしたことでノートいっぱいに書いてもうるさくならないし、文字の濃淡が出るし、流れが良くて書き味は良いと、いい効果ばかりでした。黒の濃度の中に、色彩と同じくらいの景色を見出すのが日本風なのかもしれません。

いつの間にか黒の話になりましたが、万年筆は今では仕事で必要なものではなくなって、趣味的な道具だったり、自分の生き方や志向を表すファッションの一部という要素が強くなっています。

だからこそありきたりな色のインクでなく、自分の好きな色、自分を表現する色のインクを使って欲しいと思います。

⇒Pen and message. オリジナルインク(冬枯れ・朔・朱漆・山野草・Cigar)

こだわりに応える国産万年筆

あまり成功していないと思う人もいるかもしれないけれど、自分の服装について考えることが好きで、以前はいろいろな雑誌を見たりして、コーディネートの参考にしたりしていました。

しかし、今ではそういうものを見なくなりました。

インターネットでそういう情報がいくらでも出ていることもあるけれど、それぞれの思惑のもとに誰かが決めたコーディネートよりも、自分で考えて選んだものを好きに組み合わせて着たいと思うようになったからでした。

店ではお客様になるべくリラックスしてもらいたいと思っていますし、自分もいつも自然体で、リラックスしていたい。だからキチンと見える範囲でカジュアルな服装でいたいという、自分の事情に合った組み合わせは自分で見つけないとどこにもない。

服装の中心は靴だと思っている。靴に合わせて服が決まると言っても言い過ぎではなく、私にとっては服装のこだわりどころです。

靴はそれなりのものを買うと、底を張り替えたり、修理に出したりすることで、かなり長い期間履き続けることができるけれど、服は消耗品だと思っています。

値段の高いものをどんなに大切に使っても、インクを飛ばしてダメにしてしまったり、擦り切れたり、気分が合わなくなっていく。がんばって良いモノを揃えるよりも、こだわりどころではない部分はファストファッションのものを取り入れたりして組み合わせるようになりました。

きっと多くの人が私と同じように思って、ファストファッションを取り入れていると思います。

文房具にも同じことが言えます。

こだわらない部分は100均などの文具売り場で選んだものを活用して、こだわる部分にはお金をかけるという人は多いでしょう。私の服装で言うところの靴にあたる部分がきっと万年筆などの筆記具にあたるのだと思います。

使い込んで育てながら、修理しながら、長い期間、もしかしたら生涯使っていくものだから、こだわる人は良いものを選んで欲しい。

でも最近ファストファッションのような万年筆が増えてきたと思っています。デザインは良いけれど、素材や作りがあまり良いとは言えないようなものが増えてきた。それらは万年筆を使う人を増やすきっかけにはなるけれど、そういうものばかりになってしまうのはつまらない。

華やかなデザインも良いけれど、金ペン先の書き味を味わうことが万年筆の醍醐味で、その奥の深い楽しみを多くの人に知ってもらいたいと思っています。

いろんな時世から、売れるものの単価が下がり、万年筆の単価が下がることも仕方ないことなのかもしれない。そんな状況において日本のメーカーの万年筆は、万年筆のファストファッション化と戦えるものだと思っています。

日本のメーカーはデザインをオーソドックスなものにして、14金のペン先を装備した万年筆を1万円代から選べるようにしています。そして、それ以上の価格帯のものを選べば、さらに良い書き味が得られるようになっています。

1万円代で金ペン先を備えた万年筆の代表的なものは、プラチナセンチュリーです。

弾力が強めの硬い14金のペン先を備えていて、その特長は一定のインクの濃さで揃った文字を書くことに特化しているというところにあります。つまり手帳にきれいな揃った文字を書くことに適していて、今の時代の万年筆のあり方に合致しています。

逆に柔らかいペン先のモノを使いたいと思う時は、パイロットやセーラーの2万円のものを選ぶと期待通りの書き味が得られます。

パイロットカスタム742は豊富なペン先バリエーションがあり、硬さも選べるほどです。書き味の良い万年筆を使いたいと思っている人はまずカスタム742をお勧めします。他には、セーラープロフィット21はそのペンポイントの研ぎのせいか、味のある文字を書くことができると思っています。書くことが楽しくなる万年筆の筆頭だと思います。

こうしてメーカーを横断して国産の万年筆について考えると、その書き味だけでも様々な個性があることが分かりますし、それぞれに深い味わいがあります。

もしかしたらこれは大人の渋い万年筆の楽しみなのかもしれないけれど、私は面白いと思う。

低価格で、私たちのこだわりに応えてくれる国産の万年筆を大切に思っています。

⇒プラチナ萬年筆 センチュリー

⇒パイロット カスタム742

⇒セーラー プロフィット21