生活を文化する書く日常のために~オリジナル正方形方眼ノート発売


当店は書くことが楽しくなる筆記具として万年筆を中心に扱っていますが、「書く生活」を多くの人にして欲しいと思っています。
書くことによって毎日にささやかな楽しみや張り合いができると言うと大袈裟かもしれませんが、書く習慣を持つことは、日常生活に役立つだけでなく趣味性も持ち得るものだと思っています。
ペンで紙に書くということは、この店を始めた2007年頃は普通に誰もがしていたことで、私たちのメッセージは当たり前のことを言っているように聞こえていたのかもしれません。

私は若い頃、書くという習慣がありませんでした。
毎日家と職場を往復して、遅い時間でも開いているコンビニの雑誌コーナーで立ち読みすることを楽しみにしていて、今思うともったいない時間の使い方をしていたと思います。
それからしばらくして、仕事でやりたいこと、考え、知ったことを手帳やノートに書くようになりました。
書くようになると、ただ時間に流されて一日が終わっていたのが「自分の時間」になって、明日が来るのが楽しみになりました。

全く同じ場所、同じ仕事をしているのに、書くことをしているだけで毎日がこんなに変わるのかと思い、当時の自分のように毎日をつまらないと感じている人に書くことを知って欲しいと思いました。

最近になって当店のメッセージはもしかしたら意義のあることかもしれないと思い始めました。
ペンで紙に書く機会があった人たちでさえ、書かなくなったと耳にするようになってきました。それについて私は世界の終わりに思えるほど危機感を持っています。

だからオリジナルダイアリーがあるということはとても意義のあることで、書くという文化を持っているとさえ思えるようになってきました。
先日、オリジナルダイアリーと同じ正方形の5ミリ方眼ノートを発売しました。以前から正方形の厚手のノートのご要望を多くいただいており、やっと実現できました。表紙と後ろ表紙はインクノートと共通のデザインにしています。

このノートは144ページでウィークリーダイアリーと同じ厚さなので、革やビニールのダイアリー用カバーを使うことができます。
ノート単体でも使うことができますが、カバーやダイアリーなどと組み合わせて使うとより楽しくなると思います。


正方形サイズはカバーも充実していますが、快適に書くための下敷きもあります。Teriw The Matt(テリューザマット)。硬軟2種類の下敷きを備え、間に切り抜きなどを挟んでおけるポケットを装備しています。
正方形の商品には、そのポケットに正方形の吸取紙が付属しています。

下敷きは書くだけでなく、スタンプを押す時にもとても便利なのでぜひお使いいただきたいと思います。

気付いたら正方形のアイテムが少しずつ増えてきました。

これらのものが皆様の書くきっかけになって、生活を文化する書く日常を持つ人が増えてくれたらと思っています。

*「店主のペン語り」次回の更新は7/10(金)です。

⇒オリジナル正方形5mm方眼ノート 

⇒TeriwTheMatt 

⇒正方形ダイアリー・ノートのページ 

⇒正方形カバーのページ

ロイヤルブルーの刑事手帳とバイブル手帳

今思うと、20~30代の頃は自然に時代を感じることができていたような気がします。今こういう時代だからこれからはこうなっていく、ではどういう方針をとって、店はどうあるべきか、と考えることができました。

それは当時の私の年齢が時代とともに生きている年代だったからで、直感的に未来にも通用する仕事の仕方に気付くことができたのだと思います。だから会社はなるべく夢を持った若い人に仕事を任せて、今後20年、30年と続いていける方針を立てるべきなのではないだろうか。

今まで、時代が変わっても変わらないものをずっと探し求めてきました。

そういうものが本当に価値のあるもので、当店はそういうものだけを扱って、お客様にお届けする店でありたいと思っていました。

だから世間で流行しているものからは敢えて距離を置いていたところがありました。それがこだわりのある店としてのあり方のように思っていたのです。

でもそんな風に難しく考えたりするうちに、選択の幅はどんどん狭くなっていきました。今の時代に最も輝いているものから目を背けてきたし、そういうものの良さを認めようとしていなかったのだと思います。

バブル崩壊期を体験した世代なので、流行に対して警戒心があって、流行とはすぐに廃れて長くは続かないという先入観もあったのだと思います。

変わらないものを追い求めること、見出そうとすることは間違っていないのかもしれないけれど、私たちが持っている古い常識は捨ててからモノを見ないと、今の時代に通用しない、永遠に人の心に届かないモノを売り続けることになってしまう。

凝り固まった古い価値観を捨てて、今の時代にどう寄り添えるのかを考えていきたいと思いました。

刑事手帳はM5手帳をいつもポケットに入れて、メモ帳のように使っていただけたらと思い、企画しました。

なるべくリフィルに近いサイズまで表紙を小さくして、リング径も細いものにしました。ラインナップもゴート茶利革とオーガニックオイルドレザーが選べます。

そんな中、華やかな色も欲しいというスタッフの声もあって、製作してくれているレンマの藤原さんの助言で、色数の多いエプソンレザーの中から「ロイヤルブルー」と「トープ」が出来上がりました。

エプソンレザーは、エージングをしない代わりに、最初のきれいな状態で長く使えて丈夫で傷つきにくく手触りも良い、洗練された印象の革です。

この革が加わったことで、刑事手帳も少し違った印象になったと思いました。

ロイヤルブルーではバイブルサイズのシステム手帳も企画しました。ロイヤルブルーにブラウンのクロコベルトを合わせて、上品で華やかなものになっています。

私たちが届けたいのは書くことがある生活で、それを楽しむためのものを販売しています。

だから様々なお客様のお好みに合うものをご用意しなければ、その提案は限られた人の心にしか届きません。

私たちの世代は染み付いている固定観念を捨てないと、今の時代、もっと先の時代にフィットするものを見出すことが出来ず、どんどん時代遅れになってしまうと危機感を持っています。

⇒刑事手帳(M5手帳)

⇒バイブルサイズシステム手帳TOP

大容量タンクのロマン〜九星堂カカリ未研磨ペン先

自営業なので、自分がやめようと思うまで仕事を続けることができます。

ただ、その前にお客様から求められなくなったり、健康を損なったらできなくなります。

私としては、周囲から見て痛々しく思われるまで続けたいとは思っていないけれど、先のことは自分でコントロールできるようでできないことの方が多い。

今57歳なので、もう少しは続けられるとは思っていますが。

始めたばかりの頃は自分の仕事は一生続くと思ってやってきたけれど、なかなか先々のことは考えられませんでした。その時その時を積み重ねてきて、気がついたら今になっていました。そんなことではいけなかったのかもしれないけれど、あまり先のことを考えると疲れてしまわないだろうか。

先のことを考える。例えばこの「店主のペン語り」の原稿は毎週書くから、一年で50本書かないといけないとか、出張販売は毎月行っているから、来月も再来月も準備して荷物を発送して、店開きして・・などと考えるとやはり疲れてしまいます。

原稿は楽しみながら書きたいと思っていますので、自分を信じて、その時々で書きたいことを書くようにしています。

出張販売は体力的に大変な仕事なので、先々のことを考え過ぎずその時その時完全燃焼して、日常業務に戻りリセットして次に臨むということをしてきました。

それが楽しみながら長く続けるコツだと思っています。

年金や保険というのは仕事ができなくなった時にはきっと有り難いものなのだと思いますが、自分に先々のことを考えさせます。

あと何年で満期になるから仕事をしなくても生きていけるということを考えてしまうのではなく、あればラッキーくらいに思うようにしたい。

とても恵まれたことだと思いますが、いつもその時その時に新しい出会いに恵まれてきました。それはいつも周りにいてくれる人や新たな出会いによってもたらされましたが、九星堂さんとは日本の万年筆が値上げをし始める直前に、あるお客様の紹介で日本で最初に取り扱うことができるようになりました。

独特の機構、ポンプピストン吸入機構を備えて、無機質にも見える現代的なデザインでありながら、柔らかい自然なカーブを持った造形。

マニア心をくすぐる人気のある万年筆で、九星堂を扱っていることが当店の特長になっています。

今当店にある九星堂カカリは、ペンポイントが未研磨の球のままで、お客様のお好みの研ぎに仕上げてお渡しするというものです。

未研磨なので、当店オリジナル万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985と同じ種類の研ぎをカカリにもすることができます。

カカリは大量のインクを吸入することができるので、太字の三角研ぎでも、インク切れを気にせずに書き続けることができます。

ある資料でインク1滴で葉書の宛名程度の大きさの文字(中字)なら450文字、1ccで10300字書くことができることを知りました。

九星堂カカリには3.5ccのインクが入り36050文字かけることになります。

本当にそれだけのインクが入る必要があるのかとも思いますが、大量のインクを吸入するというのは万年筆を使う人のひとつのロマンなのだと思います。

万年筆が実用の道具かと聞かれると、そうだと言うけれど、実用だけではない様々なロマンがあって、それを言いながら万年筆を使う人を増やすというのが私が仕事を続けるロマンなのだと思います。

⇒九星堂TOP

うるしの話~ペリカンM1000螺鈿万年筆「星屑」

5月に早めの夏休みをとらせていただいて、金沢に行ってきました。

金沢の国立工芸館にはよく行っていて、今回も行ってきました。

国立工芸館の中に蒔絵師で人間国宝の松田権六先生の工房が移築されていて、中に入れないですが間近で見ることができます。

小さな空間に、全てのものが手に届くかのように機能的に配置されていると思えるもので、まさに茶室のような工房です。

工房もいつまでも見ていることができましたが、松田先生のパイロットエリートのデラックス版と思われる金キャップの万年筆と能率手帳のような小さなビジネス手帳も展示されていて、文具好きにはこれも見ものだと思いました。
手帳には松田先生が毎日1つ新しいデザインを考案するということを自身に課していたことを裏付けるように図案がブルーブラックのインクで、覚書とともに1日1つ描かれていました。

松田先生のような大家になっても常に新しいものを生み出そうとする努力を怠らずにやっていて、私たちも当然見習わないといけない姿勢です。

その根底には松田先生がデザイン案を生み出すこと、蒔絵を描くことが好きで楽しむ心があるのだと思っています。
一生涯長く仕事を続けるには、その仕事が好きで努力し続けることが苦ではないと難しいのではないか。


松田権六先生の著書「うるしの話」(岩波文庫)をかなり以前に読みました。私の蒔絵の知識は「うるしの話」から得たものばかりですが私のような予備知識のない者でも読みやすい本でした。
漆の樹液の話から始まり、蒔絵の技法まで、分かりやすく解説したその本は絶版になってしまっていて入手が難しくなっています。本当にもったいない。
希少な本ですが、ペリカンM1000螺鈿「星屑」をお買い上げいただきましたお客様に古本になりますがプレゼントさせていただきます。

ペリカンM1000螺鈿星屑は漆黒に塗り立てた軸に細かく砕いた鮑の貝殻を紛筒で蒔いて磨き上げることで仕上がっています。
螺鈿に鮑の貝を使うようになったのは、安土桃山時代以降、本阿弥光悦、尾形光琳ら、琳派の人たちが始めたそうです。

それまで使われていた琉球近海でとれる夜光貝ではなく、魚屋の片隅でもどこにでもある鮑の貝殻で素晴らしい作品を作り始めたそうです。
当時日本は戦国時代と言われる時代で、平和を願う気持ちを多くの人たちが持っていたのではないか。もしかしたら戦乱の時代で夜光貝が手に入りにくくなっていたのかもしれません。

特別ではないどこにでもあるもので、美しい作品を生み出していたその時の琳派の姿勢を松田先生は高く評価していました。

鮑の貝殻を金粉のように使うことに、世界じゅうで争いが起きて、金の高騰や様々な物資不足の今の時代の漆芸の姿として、意義のあることのように思い、メッセージ性のある作品だと思っています。
蒔絵、螺鈿などの伝統工芸は時が流れても変わらないものだと私たちは思ってしまいますが、長い年月続けてきたものだからこそ、その時代を映すフレッシュなものでなければならない。だから松田先生は新しい図案を生み出す努力を常にしていたのだと思います。

この万年筆の蒔絵を担当した加賀蒔絵の流れを汲む宝舟会はこのペリカンM1000螺鈿星屑でそれを体現したように私には思えます。
螺鈿を伝統的なやり方で張り付けるのではなく、砕いて蒔く。
螺鈿らしいギラギラした派手さはないけれど、抑えた美意識のようなものを感じさせる万年筆だと思っていて、松田権六先生の名著を添えるのに相応しい万年筆だと思っています。

ペリカンM1000螺鈿万年筆「星屑」