書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

私が文具店に就職したのが1992年で、モンブランヘミングウェイが発売された年でした。

それから万年筆の業界は限定品ブームに入っていき、イタリア万年筆の隆盛、1999年のミレニアム企画の盛り上がりなどがあって、いい時代でした。

私もその間は20代~50代で、その齢でそんな時代に居合わせることができたことはとても恵まれたことだったと思います。

古いカタログでその時発売されていたペンを見ると、その時々の記憶が蘇ったり、その時代の雰囲気を思い出したりして、懐かしい気持ちになります。

ペリカンもこの27年間は、特別なものだと思ったのかもしれません。

その黄金時代に発売した限定品、特別生産品を記録した本が発売されました。

27年間でこれだけ多くの限定品を発売していたのだと改めて驚きました。当時、ペリカンの限定品は他のメーカーのものに比べると控えめというか、大人しいものが多い印象でした。でもそこにはペリカンの型を崩さないという安心感があり、揃えたい気持ちにさせるのかもしれません。

ペリカンの限定品発売のペースは今も衰えていなくて、これからも様々な限定品が発売されるのだと思います。

この仕事を始めた頃、数多くのペンに囲まれていたにも関わらず、それらを手に入れたいという欲求はあまり湧きませんでした。

万年筆の仕事は楽しかったけれど、万年筆はあくまで仕事で扱っているものという認識で、自分が買うものではなくお客様に買っていただくものだと思っていました。当時私はペリカンM800とアウロラオプティマの2本を持っていて、それで充分だと思い込んでいたのです。

きっと生活に余裕がなくて、次々といろんなペンを買うことができなかったから、欲しいという気持ちにフタをしていたのかもしれません。

2000年には様々なすごいペンが発売されましたが、ペリカンの限定品1931ホワイトゴールドには心が激しく動かされました。

でも入荷数がとても少なかったし、買えるお金が工面できるあてもありませんでした。諦めるしかなかったけれど、ずっと忘れられませんでした。

それから8年後、この店を始めてしばらくたった頃に、仕入先から回って来た閉店した万年筆売場の在庫リストに1931ホワイトゴールドを見つけた時は、運命だと思いました。

1931ホワイトゴールドが店に来て、一週間ほど悩みました。

店をする人間の鉄則として、自分が一番欲しいと思うモノから売るということを信じているので、これを買ってはいけないのではないかと思いました。

お客様の何人かに声を掛けましたが、皆さん遠慮したのか買う人はいなかったので、結局私が買えることになりました。

今までの自分の人生の中の後悔にひとつだけリベンジできた気がしましたが、このペンを手に入れたことによって、私にとってペンは仕事で扱うだけのものではなく、ロマンを見いだせるものになっていました。

この本を見ていると、若い頃感じようとしなかったロマンを感じて、買っておけばよかったと思うものがいくつも出てくるかもしれないと思います。

過去の限定品を見て、私と同じ時代に生きた万年筆好きな人は、私と同じように、若い頃の気持ちや時代の雰囲気を懐かしく思い出すのだろうと思います。

⇒書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

濃厚な素材感~ミラージュ革とS.Tデュポン/ディフィコッパーボールペン

作り込まれたスマートなものも洗練されていていいですが、濃厚なまでの素材感を感じさせるものに私は魅力を感じます。

いくつかの製品でカンダミサコさんに作っていただいていますが、プルアップレザーのミラージュ革が今私が最も魅力を感じる革です。それらは新しい時から既にコードバンのような美しい艶のある革ですが、使い込むうちにさらに色気のある艶を帯びてきます。

昨年まで、生々しい素材感があって、使い込んだり磨いたりすると劇的にエージングする革ダグラスで様々なものを作ってもらってきましたが、ダグラス革も廃番で入手できなくなってしまいました。

ダグラス革の違う色を使うという選択肢もありましたが、革の色気のようなものを一番感じる色、濃い茶色にこだわりたかった。

ミラージュは、ダグラス革の次の革として当店が選んだ革で、艶の美しさからくる革の色気という点ではダグラス革よりも上だと思っています。

ミラージュ革で作っていただいているものは、1本差しペンシース、バイブルサイズシステム手帳、正方形カバーです。

1本差しペンシースやシステム手帳、正方形カバーの革を丸めた折り返し部分の艶と質感は、眺めたり、さすったりしているだけでも楽しめるほど艶やかです。

タンニンなめしの革のこの艶やかさは、クロムなめしの革にはない魅力だと思っています。

最近は、このミラージュ革と相性が良いと思えるボールペンを手に入れて使っています。

長くファーバーカステルエボニーのボールペンを使ってきましたが、最近S.Tデュポンのディフィボールペン・マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー(以下ディフィコッパー)というボールペンを使い始めました。

生々しい素材感を感じさせる銅を骨格のように使用したこのボールペン、発売された時からずっと気になっていました。

精巧なモノ作りに定評のあるS.Tデュポンが作ったボールペンは、筆記部側に重心を持たせていてバランスが良く、滑らかでヌルヌルとした書き味で有名な油性のディフィ芯を採用しています。

リフィルは金属のチューブを通してセットされていて、内部で芯が遊ぶことなくしっかりとしホールドされる構造で、書くことが楽しいボールペンに仕上がっています。

ディフィのデザインは斬新ですが、シンプルで長いクリップはデュポンの代表作クラシックのデザインを意識しているようにも見えます。新しいデザインのデフィですが、伝統に背を向けたモノではないと感じています。

銅は様々なモノ作りの分野で取り入れられ、その素材感を生かした様々なものがつくられています。昔からある現代の素材だと言えます。

ボールペンが気に入ったモノであると仕事が楽しくなります。ディフィコッパー、新しいデザインの魅力的なペンで、仕事がさらに楽しくなるものだと思います。

以前はこういったモノは男性だけが好むモノでしたが、最近は女性の方も使われるようになってきました。そもそも性別で分ける時代ではとっくになくなっているし、そこに存在するのはどういうモノが好みかという趣向だけだと思うようになりました。

ミラージュ革のステーショナリーも、ディフィコッパーも素材感を生かしたものであることは間違いなく、良い素材とそれを生かす技術があるから、こういうものが生まれたのだと思っています。

⇒S.Tデュポン ディフィボールペン マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー

アメリカの人に寄り添うモノ作り ウォール・エバーシャープ

ウオールエバーシャープ デコバンド
ウオールエバーシャープ シグネチャー

当店が直接輸入しているウォール・エバーシャープのオーナーが変わりました。当店への卸価格も変更になり、以前に比べて価格を下げることが可能になりました。

ご心配いただいたお客様もおられましたが、しばらく当店のWEBショップからウォール・エバーシャープが消えていたのは、オーナー交代による条件などの変更などがあったためです。

新しいオーナーもアメリカの会社で、以前と変わることなく製品が供給されることになりましたので、私たちもホッとしています。

ウォール・エバーシャープは、万年筆コレクターが企画していて、万年筆をよく知る彼らが使いたいと思う理想のスペックが詰め込んでいます。同じアメリカのヌードラーズインクの起こりと似ていて、そんなところにもとても惹かれます。

オーバーサイズ万年筆デコバンドもレギュラーサイズのシグネチャーも、100年以上にも及ぶウォール・エバーシャープの歴史上に存在したデザインを取り入れながら、今の万年筆に求められている要素を持たせた万年筆に仕上がっています。

オーバーサイズ万年筆のデコバンドには、スーパーフレックスニブとフレキシブルニブという2種類のペン先があります。

スーパーフレックスニブはかなり柔らかいペン先で、紙にペンを置く自重でペン先が開くほど柔らかく、コントロールしながら書く必要があるほどです。

フレキシブルニブは他の万年筆に比べると柔らかいですが、コシがあってコントロールしやすい適度な柔らかさです。

実用的にこの万年筆を使う方には、フレキシブルニブの方が使いやすく、字幅に合った文字が書けます。またボディの重量とも合っていてお勧めです。

カートリッジ2本分程度の2mml以上のインクを一気に吸入するニューマチック吸入機構も備えている、ウォール・エバーシャープの代表的な万年筆です。

今回特にシグネチャーの価格が変更になって、18金の大きなペン先を備えながら、同等のモンブラン146、ペリカンM800よりも安くなりました。

シグネチャーにもデコバンド同様にエボナイトのペン芯が採用されていて、大きなペン先とのバランスが良く、とても良い書き味の万年筆です。

当店がウォール・エバーシャープにこだわるのは、100年の伝統を継承しているハンドメイドの匂いのするアメリカ製らしい、無骨なデザインを持ちながら、使う人の気持ちに寄り添ったモノ作りが感じられるからです。

万年筆を使う人が、こんな万年筆を使いたい、と作りあげた万年筆がウォール・エバーシャープデコバンドとシグネチャーです。

⇒ウォールエバーシャープ TOP

ネタ帳に使いたいMUCU革表紙ノート

通勤などの移動中の乗り物の中で多くの人がしているように、私も何もしないでいると時間がもったいないような気がして、本を読んだりスマホを見て過ごしています。

でもそういったことを一切せず、ボーッと考える時間も必要だとよく思います。

あるテーマについて考えをまとめる必要がある時、繰り返しそのことを集中して考えて、自分の頭の中に既にあるものにたどり着く作業は、私が最も好きな時間ですが、それはボーッと考えるのとは少し違います。

テーマを決めず、ただボーッと想いが巡るままに考えていると、時々思いがけない発想が浮かぶことがあります。

一片のキーワードだったり、とりとめもない言葉だったりするそういうものは、今すぐ何かの形にはならないかもしれないけれど、きっといつの日か何かのヒントになるのだと思っています。

そんなものを集める専用のネタ帳があってもいいと思います。

ネタ帳に使うのは、例えばシステム手帳のようにバラバラになるものではなく、シンプルな綴じノートの方が時系列でその中に存在し続けてくれますので、合っていると思います。

毎日使うわけではなし、長い文章を書いてどんどん消費していくものではないので、ある程度良いものを使いたい。でも中身は草稿でラフに書くものなので、バランスが難しい気がしていました。

そんな時、MUCUの革表紙ノートを新たに仕入れました。

使い込んだ風合いが出てくれる、タンニンなめしの革表紙のリングノートで、使い終わったらMUCUさんに送ると、書き込んだものは別で綴じて、革表紙の方には新しい紙をセットして送り返してくれます。そうすることで使い込んで風合いが出た革表紙を引き続き使うことができます。

自分が書いたものを送るのはちょっと、という方は、リングを広げて中身を外し、革表紙だけMUCUさんに送ればノートにしてもらうこともできます。

このノートに合う使い道をずっと考えていましたが、いつも鞄に入っていて、長い期間継続して使うネタ帳のような使い方がいいのではないかと思いました。

実は14年前の創業時、MUCUの革表紙ノートを扱っていました。

雑誌でこのノートを見て、その素材感を生かしたシンプルなノートに一目惚れして、東京のMUCUさんの工房まで行って扱わせていただけるようになりました。

当時の革表紙ノートの中紙はわら半紙のような紙になっていて、切りっ放しの革表紙と雰囲気も合ってMUCUの世界観を表現していました。でも万年筆のインクとなるとどうしてもにじむので、難しいものがありました。

でも革表紙のノートは進化していて、中紙も万年筆のインクと相性の良いものに変更されています。

この14年の間に色々な良いものを見る機会があって、取り扱ってきましたが、今見てもMUCUの革表紙ノートは変わらずに輝いて見えました。

ヌードラーズのインクもそうでしたが、自分が万年筆やステーショナリーに夢中だった原点を思い出させてくれるものに、久しぶりに再会しました。

⇒MUCU革表紙のノート・Lサイズ

⇒MUCU革表紙のノート・Sサイズ

ヌードラーズインク 自由なアメリカの万年筆文化の象徴

ヌードラーズインクは、東海岸のマサチューセッツ州で生まれた比較的新しいインクメーカーです。

ヌードラーズインクの名前は、趣味でナマズを取る人達のことを「ヌードラーズ」と呼ぶことに由来しています。

ナマズ取りたちは、裸に近い恰好で沼に入り、底のナマズの穴に手を入れてナマズを引きずり出して取っているそうですが、ヌードラーズインクの創業者がナマズ取りの名人だったため、ヌードラーズインクと命名したそうです。

ヌードラーズインクは、乾きが早く、にじみがほとんどないという使いやすい性能の他に、ラベルにpH Neutralと表記されているように、万年筆に優しい中性インクであることを特長としています。

その特性は色ごとに違っていて、その中でも耐水性、耐退色性の強いバーナンキブラック、54thマサチューセッツはサラサラしたインクで、太字では極端に太くなりますので、極細や細字などの万年筆での使用をお勧めします。

私は54thマサチューセッツも使っていますが、文字が太くなるので専ら細字に入れて手帳書き用にしています。保存性の強さは手帳書きには強みですし、乾きが早く、詰まりにくそうなところも気に入っています。

万年筆好きな人が、自分の大切な万年筆を傷めず、しかも紙を選ばずに使いやすいインクを作りたいと考えて開発したインクがヌードラーズインクで、たくさんの量が入って安価であるというコストパフォーマンスの高さも、万年筆を使う人のためのインクであるというポリシーが表れています。

最近は少量で薄い色のインクが最近多く見受けられます。それらは今のインクの使い方、今のお客様が求めているものなのかもしれないけれど、ヌードラーズインクはその性能、コストパフォーマンスの高さからメインで大量に使うインクに相応しい。

ヌードラーズインクの面白味は、そのラベルにもあって、それぞれの色からイメージしたものが自由に描かれていて、それを見ているのも楽しく、ただ実用本意なだけではないと思います。

万年筆を使う人にとって理想的な特長を持ちながら、価格を抑えたヌードラーズインクからはアメリカの素朴で良心的な物作りを感じます。

万年筆文化は、ヨーロッパの貴族たちだけのものではない。

肩の力を抜いて、書くことを自然体で楽しむアメリカの万年筆文化の象徴がヌードラーズインクだと思っています。

⇒ヌードラーズ ファウンテンペンインク

ツイスビー~台湾の勢いを象徴するメーカー~

先週、ツイスビージャパンさんと巡回筆店(じゅんかいペンショップ)2021 in 福岡を共同開催しました。

緊急事態宣言中の開催になってしまい告知も不十分でしたが、ご来店いただきました九州のお客様、誠にありがとうございました。今回の催しを歓迎して下さる雰囲気と良い出会いがあって、良かったと思います。毎年恒例のものにしたいと思っておりますので、またよろしくお願いいたします。

一昨年の10月一人で台湾に行きました。活気があってエネルギッシュな台北、南国らしい趣のある台南。2つの都市を訪れただけでしたが、台湾が大好きになりました。

日本に帰ってからも台湾の雰囲気を感じたいと思い、台湾が舞台の日本人が書いた小説を何冊も読みました。特にNHKのドラマにもなった吉田修一氏の「路」は自分の青春時代の中心だった1990年代から現代までの話ということもあって、その時代の雰囲気まで感じられて、お気に入りの小説でした。

最近は台湾の小説では必ずその名が挙がる「自転車泥棒」を読みました。時間、空間、世界観を落ち着いた文体ながら縦横無尽にジャンプする読み応えのある、面白い小説でした。

1895年から1945年まで日本の統治下にあった台湾には、まだその名残があって、台湾の昔について語られる時、日本を避けることはできない。

私にも遠い親戚に終戦まで台湾に居た人がいるし、台湾で生まれた人もいる。そんな実は身近だった国台湾に惹かれたのも必然だったのかもしれません。

そんなふうなので、台湾の筆記具メーカーツイスビーにも特別な思い入れがあって、ツイスビージャパンさんとは、お互いに良くして行く関係を築きたいと思ってきました。その中で実現したのが巡回筆店でした。

台湾にはエネルギッシュな勢いのようなものと、控えめで繊細なセンスの両極端のものが同居していて、それが特長だと思っています。

ツイスビーはエネルギッシュな台湾を象徴していて、日本や欧米の万年筆メーカーなら勧めないようなこと、万年筆を使用者自身が分解して、吸入ピストンにグリースを塗るようなことを提案していて、万年筆の業界の常識をひっくり返そうとしています。

万年筆は今は完全に趣味のものだとツイスビーは考えていて、趣味のものである以上メーカーはどうしたら万年筆を楽しめるかを考えないといけない。何も触れないよりも自分で分解できる方が楽しいに決まっている。

当店が主に扱っているツイスビーの万年筆は、ECOとダイヤモンド580です。どちらもピストン吸入式で、チャプチャプするほどたくさんのインクを吸入することができます。

ダイヤモンド580の方が柔らかい書き味、ECOは硬めの書き味で、キャラクターが違っているのでどちらも持つ意義がある。

ツイスビーはその価格から万年筆を使い始めたばかりの人が選ぶ万年筆だと思われますが、趣味としての万年筆を提案しているだけあって、ある程度万年筆を使ってきた人でも楽しむことができます。

エネルギッシュな台湾を代表するツイスビーについて書きましたが、繊細な台湾センスを表現しているものも、今後紹介していきたいと思います。

個人的には、台北、台南以外の台湾の土地もいずれ訪れたいと思っています。

⇒TWSBI(ツイスビー)TOP

クレオ・スクリベントの危機に強いモノ作り

コロナ禍のような世界的にイレギュラーなことが起こった時、物流を生かして社外部品を多用していたモノ作りは立ち行かなくなってしまって、効率的なモノ作りの脆さを露呈してしまいました。

万年筆の業界も多くの企業が効率性を重視していたため同様なことが起こっているのか、商品の欠品が相次いで起こっています。

しかしそんな他社の状況を尻目に、今までと何ら変わらずに製品を作り続けている会社もあります。

そんな会社のひとつが、ほとんどのパーツを自社で作っているアウロラです。

アウロラの製品の供給は、コロナ禍以前の状態と変わることなく行われていて、限定品を発売するスピードも衰えることがありません。

当初は、家族経営のアウロラはコロナウイルスにも負けない結束力を持っているからだと思っていたけれど、それだけでは説明がつかない。

やはり自社一貫生産していることが強みになっているようです。

仕事というのは本当に、何が正解か短期では分からないと思います。

以前から万年筆の生産であまり効率を追究してほしくないと思っていたけれど、現代のモノ作りからは効率が悪いとされていたアウロラの、自社で全てのパーツを製造するという強みをここで見せつけられました。

効率的な物作りをする会社が多いドイツにも、一貫生産にこだわる会社があります。第二次世界大戦直後に創業したクレオ・スクリベントは、旧東ドイツにありました。

社会主義経済においてモノを作るということは、世界を相手にする競争力を培いにくいように思いますが、東西ドイツ統一後は、その技術力から西側のペンブランドのOEM生産を多く引き受けていました。

それは台湾のツイスビーがヨーロッパのペンブランドの製造を担当していたこと、そしてそれで力をつけて、自社ブランドの筆記具を成功させたことによく似ています。

クレオ・スクリベントは今もOEM生産をしていて、その傍ら自社ブランドのペンを作っています。そのため新製品の発表もゆっくりしたペースですが、クレオらしい他のメーカーとは一味違うペンを作っています。

クレオ・スクリベントの万年筆では、ナチュラアンボイナバールやスクリベントゴールド、リネアアルトなどのハイクラスなものが注目されますが、クラシックという、実用に特化したとても渋いペンを作っています。

デザインはとてもシンプルで、万年筆が実用品だった時代の名残を色濃く持っている、クレオ・スクリベントらしいペンだと思います。

太すぎない軸径、軽い重量、バランスの良さなど、シャープペンシルやボールペンを使うように、気負わず、自然体で使うことができる。

クラシックパラディウムは、本来スチールペン先仕様の万年筆ですが、EFのみ価格はそのままで14金ペン先が装備されているコストパフォーマンスの高い万年筆です。

万年筆の生産は世界のトレンドからは離れたところにあって、マイペースでやっていて欲しいと思うけれど、クレオ・スクリベントはそれを実践している会社なのだと思います。

クレオ・スクリベントはあまり目立つ存在ではないけれど、世界が危機に直面しても、たくましく生き残っていける万年筆メーカーだと思っています。

⇒クレオ・スクリベントTOPへ

大人のスタンプ

私の万年筆の原点は、手帳に書くというところから始まりました。

若い時から手帳が好きでした。20代の頃は立ち仕事だったこともあって、スーツの内ポケットに入る能率手帳のようなものを使っていました。

夜一人の時間に、そこにスケジュールや覚書、データなど、仕事を回すために必要なことをきれいに書けたら嬉しかった。

最初はボールペンから始まり、それが水性ボールペンになり、万年筆になっていきました。こんなに気持ちよく、きれいに書けるペンがあるなんて知らなかった。

私にとって細字の万年筆が手帳を一番きれいに書ける筆記具で、後から読み返した時にとても読みやすく、インクの雰囲気もあって、ページ全体の出来が全く違っていました。

手帳がきれいに、きっちり書けたら仕事がとても楽しくなりましたし、これを書く時間も楽しくて仕方なかった。

手帳を書くだけで、自分の時間の大半を費やしている仕事が楽しくなるということは、毎日が楽しくなるということで、そんな幸せなことはないと思った。

自分がそんな風に思っていたので、より多くの人にも同じように感じて欲しいと思いました。ささやかな願いですが、そのために私はこの仕事を続けています。

手帳のページを楽しくしてくれるものは、万年筆だけでなく、スタンプを押すという方法もあると、システム手帳リフィルの筆文葉・そら文葉を使ってみて初めて知りました。

智文堂のかなじさんが作るリフィルはシンプルで余白があり、自分で手を入れる余地が残されています。

それらにスタンプを押して、自分らしいページを作りあげていく。そんな作業が楽しいということにも、長く手帳を使ってきたけれど気付きませんでした。

日付や曜日のスタンプなどを使って、M5サイズの1日1ページのリフィルを自作して、365日欠かさず使っています。

実はもっと色々なスタンプを使って見たかったけれど、50歳を過ぎたおじさんが使ってもいいと思えるスタンプを見つけられませんでした。

大人の男性でも気後れすることなく使うことができるようなスタンプを作りたいと思い、当店にクラシカルなデザインの文具を収めてくれている、佐野酒店の佐井健太さんに相談しました。

佐井さんは、アールヌーヴォー調、アールデコ調などの絶妙なクラシックさを持ったものをデザインしてくれて、スタンプにしてくれました。

窓枠のようなスタンプは、切手を貼るスペースを作る切手枠ですが、ノートや手帳のタイトル枠にもなります。

L字形のスタンプは、ページの余白に押すとフレームのようにすることができる、手帳用を意識したものです。

今は、性別や年代に関わらずだれでもスタンプで気軽に手帳を楽しめる時代だと思います。殺風景な手帳のページがそれだけでぐっと手を掛けた感じになって、ますます良いアイデアが浮かぶかもしれません。

⇒佐野酒店(レーザーワーク木製ステーショナリー)TOP 

MOLTE PENNE~松本さんからの贈り物~

ル・ボナーの松本さんは、時々様子を見に当店を訪れてくれます。

それは創業時から変わらず、一ヶ月に一度の時もあれば、何カ月も空くこともあるけれど、いつも木曜日の開店前後に「ど~も」と言いながら入って来られます。

ブログ「ル・ボナーの一日」やフェイスブックからも人柄が伝わると思いますが、松本さんが入ってくると店の雰囲気がパッと明るくなります。仕事でのシリアスな一面ももちろん知っているけれど、華やかな存在感がそう感じさせるのだと思います。

何気ない話をするだけで、松本さんにはそんなつもりはないかもしれないけれど、いつも色々なことを教えてもらっています。時には心配をかけていることも分かっていて、それは出会って15年経った今でも変わらずで、申し訳なく思っています。

松本さんが当店に立ち寄った後、元町駅前のかつ丼の店「吉兵衛」に行くのを楽しみにしていると聞いて、私も一緒に行くようになりました。

吉兵衛は以前働いていた会社の近くにもあったので、よく行っていました。当時はご飯大盛り&とんかつダブルも普通に食べられたけれど、今は二人とも普通盛りで満足している。

今年になって、私は自分自身の心の狭さと器の小ささから取引先を失うことがありました。そんなとき、松本さんが万年筆店には必要だろうと、革のコレクションケース 「ペントランク」の製作に動き出してくれました。

途中何度も試作品を見せてもらったり、電話で進捗状況を聞いたりしていましたが、問題点や難しいところを松本さんなりに解決しながら、少しずつ形になって行きました。

このペントランクに松本さんのたくさんのの時間と労力が注がれていることが分かっていましたので、当初の完成予定は過ぎていたけれど、私には催促することはとてもできませんでした。

今思うと、ようやく第1ロットが完成した時、全て手縫いで作るこのペントランクの製作は、65歳の松本さんの体力と集中力を激しく消耗させることにご自身で気付かれたのだと思います。そして、1点ずつ全て手作業で仕上げるしかない商品を量産するのは難しいと判断され、当店への納品をためらわれておられたのだと思います。

その話を聞いて、カンダミサコさんが後を引き継いでもいいと言ってくれて、ル・ボナー松本さんプロデュース、カンダミサコさん製作のペントランク「MOLTE PENNE(モルトペンナ)」の商品化が決まりました。

松本さんが製作した第1ロットと、半額で販売するその前段階の試作品は、現在店頭で販売中で、9月24日~26日の「巡回筆店2021福岡」でも販売する予定です。

カンダミサコさんが作るものからネットショップに掲載していきたいと思っており、それは10月末から11月掲載の予定です。

店に来ていただける方、福岡の出張販売に来ていただける方にはぜひ見ていただきたいと思います。遠方の方はネットショップ掲載までお待ちいただくことになり申し訳ないですが、数が限られていて少ないこと、それぞれハンドメイドの味が濃いことなどもあり、実際に見ていただきたいと判断しました。

 革製で軽く丈夫なので持ち運びも楽で、旅に愛用の10本の万年筆持っていきたくなるケースです。

このMOLTE PENNEは、松本さんからの大きな贈り物だと思っています。

*MOLTE PENNE(モルトペンナ)・・・ブッテーロ革・価格:110,000(税込)/エレファント革・価格:165,000円(税込)

好きなシステム手帳リフィル

フォルクスワーゲンのPOLOに10年乗っています。

10年も乗るとあちこち故障するようになって、去年エンジンの4気筒のうちの1つが動かなくなったし、今年の7月には別の1気筒が止まってしまった。

4つのうち1つが動かなくてもパワーが25%落ちるだけだと思うけれど、小さな車の25%は大きく、前に進むのがやっとという状態でした。

ミッション車のように細かくシフトチェンジしてスピードに乗せてあげないと流れについていけないし、振動と騒音もすごかった。ふと大学生の頃乗っていた25万円で買った4速ミッションの中古の軽自動車を思い出しました。

その故障を直したと思ったら、8月には坂道発進する時にブレーキを離して、アクセルを踏むまでのタイムラグで後ろにツーと下がるようになった。

ミッションの車ならその覚悟もあるからいいけれど、オートマ車でこれは怖い。妻が怖がって直すまで車に乗ってくれなくなった。

先日それも修理して、妻の機嫌も直り車もよく走ってくれています。

こういった車の故障や修理のことは、日付と走行距離とともに智文堂の「そら文葉・飛行機リフィル」に記録しています。

今年は本の当たり年で、1月からずっと夢中になって読める本に出会っているので、暇さえあれば本を読んでいます。改めて、自分が歴史小説や軍記ものが特に好きなのだと気付きました。

最近は司馬遼太郎の「項羽と劉邦」を読み終えて、人の器について考えさせられました。何でも完璧にできると思っている人は、様々な器の人が周りにいてもそれに気付かず、それぞれの適性に応じて用いることが少ない。その才能やリーダーシップに惹かれてついてきてくれる人はいても、助けてあげたいと思ってくれる強い器が集まらない。つまりそのグループはリーダーの能力を超えるものにはなりません。

どんな人も受け容れる度量の大きな人や、大きな空の器のような人には、様々な才能を持った器が集まって、その人を助けてくれる。こういうグループには無限の可能性があるということになります。でもそう思うと自分には、完璧さも度量の大きさもないから困ってしまう。

ストーリーもすごく面白いけれど、そんな「人の器」について考えさせられた本でした。

いろいろ調べて買って読んだ本なので、記録しておきたいと思い、それにも飛行機リフィルを使っています。

飛行機リフィルを使っているのは、飛行機という旅をイメージさせてくれるワンポイントがあって、心が癒されるからです。若い時では考えられなかったけれど、こういう少し可愛らしいもの、ワンポイントあるものも使ってみたいと思うようになってきました。

智文堂のリフィル、バイブルサイズの筆文葉もM5サイズのそら文葉も、その多くは書くことを楽しむための趣味のリフィルだと思っています。

線を色鉛筆などで引き足したり、スタンプを押したりして、工夫しながら使う余地がこのリフィルにはあって、好きなことを書いて、ページを仕上げること自体を楽しむようにできています。

智文堂のカレンダーリフィル(バイブル・M5)もその形式ですが、2つ折り、3つ折りなどの折りたたみ式のリフィルにも惹かれます。

アシュフォードの2つ折りメモも1枚の紙に倍の情報量を書くことができるので愛用しています。

他にも一昨年から扱い始めた、あたぼうのジャバラ式ダイアリーじゃばらんだは、12カ月分のブロック式カレンダーが片面6カ月ずつ表裏で1年になっていて、広げると半年を見渡すことができます。

いちいちページをめくらなくても違う月を見ることができるメリットは大きく、ユニークだけどオーソドックスなレイアウトの使いやすいダイアリーリフィルだと思います。

小さなサイズの手帳の中にそのサイズを超えたサイズの紙があるということが嬉しくて、折り畳み式のリフィルが好きなのだと思います。

私も同じだけど、システム手帳ユーザーの不思議は、ページをめくることや、リングを開いてリフィルを移し替える手間を惜しむところだと思っています。

リングを開けてページを移し替えることができるのがシステム手帳のメリットで、それを惜しむのは、万年筆ユーザーがキャップを開ける手間を惜しんで、勘合式キャップを探し求めたり、パイロットキャップレスを使い出す気持ちに似ていると思います。

車の故障に関しては、POLOが故障しやすいのではなく、走行距離が少ないからといって私が点検に出すのを怠っていたせいだと今は反省しています。

*智文堂 そら文葉「飛行機」

*あたぼう じゃばらんだ・2022年ダイアリー