真面目に見える変わり者~パイロットジャスタス発売

真面目に見える変わり者~パイロットジャスタス発売
真面目に見える変わり者~パイロットジャスタス発売

パイロットは、姿形は普通でも素人(?)が手を出すと火傷するような過激な性能の万年筆を発売していて、エラボー、フォルカンペン先の万年筆などがそれにあたります。
それは昨年末You Tubeでエラボーを自在に操る動画が紹介された事に端を発します。あの動画は業界に大きな混乱を引き起こしました。

もちろんそれはパイロットのせいではありませんし、万年筆を使っている人の多くは、あのように書くことはできないと思われたのではないでしょうか。
でもあれで多くの人、万年筆を使っていない人が万年筆に対して抱いている幻影のようなものがどんな姿なのか初めて分かりました。

それは「柔らかいペン先への憧れ」です。

万年筆を使ったことがない人は、柔らかいペン先の万年筆がどれだけ実用的に使いにくいか分りませんので、憧れを持っています。
パイロットがそれに少し応えながらも、失望することなく万年筆を使い続けてもらいたいと思ったのかどうかは分かりませんが、今回発売されたジャスタスにひとつの提案があるように思っています。

それがペン先の硬さの調整ができる万年筆パイロットジャスタスの復刻発売です。
20年以上前に作られていたオリジナルのジャスタスは試作的雰囲気のある、変わり種万年筆でしたが、復刻されたものは本格万年筆とも言える、完成度の高いものになっています。
その姿からペン先の硬さを調節することができるマニアックな機能を備えている万年筆にはとても見えないと思います。

キャップトップと尻軸を平らにしたベスト型のボディは堂々とした大型で、ペリカンM800やパーカーデュオフォールドセンテニアルのサイズに近いものになっています。
ボディに刻まれた模様が2種類あって、パイロットがここぞという時にいつも施す網目模様であるネットブラックと前回のオリジナルジャスタスをイメージさせるストライプ模様のストライプブラックがあって、好みが分かれるところです。
ペン先の硬さを変えることができる機能について、様々な使い分けの可能性があります。

万年筆を何本も持っていると自然とそれぞれに役割ができてきて、用途が決まってきます。
手帳用は締まった文字が書ける硬めのペン先のもの、手紙などはゆったりとした流れのある文字が書ける柔らかめのペン先のもの。
ペン先が柔らかくなるとインクの濃淡も出ますので情緒的でもあります。
ペン習字などでもこの機能は有効で、字幅を変えるほどのことではないけれど、少しインク出量を増やしたいという時にダイヤルを回してペン先を柔らかくするとインク出量が多くなります。

ペン先の硬さを変えることができるという機能は、書き味の好みに合わせるだけでなく、書ける文字も変わってきますので、書き手の好みのための機能というだけでもないと思われます。

エラボーがまた発売されるという話だけ聞いていましたので、まさかこんなに精度の高い万年筆が発売されると思いませんでした。
これはペン先の硬さを変えることができなくても十分存在価値のある万年筆です。

でも真面目な姿をしていながら、変わった機能を備えているあたり、エラボーやフォルカンを作っているパイロットらしい万年筆だと思っています。

⇒パイロットJUSTUS(ジャスタス)

WRITING LAB.オリジナルインク2013“ビンテージデニム”

WRITING LAB.オリジナルインク2013“ビンテージデニム”
WRITING LAB.オリジナルインク2013“ビンテージデニム”

万年筆のインクの色はその人の美学というか、標榜する世界観のようなものが表れるものだと思っています。

そこまで大袈裟でなくても、選択できる範囲の中で自分が良いと思うものを選んでいるわけなので、やはりそういうことなのだと思います。
インクの色には本当に人それぞれ好みがあって、こればかりが売れるというものは非常に少なく、ペリカンロイヤルブルー、モンブランロイヤルブルーなどの超定番のものくらいです。

それだけそれぞれの人がご自分の個性を反映した色を選ばれているということの裏付けになっています。
インクの色はお店にとっても、自分たちの世界観を表現するにもとても都合の良いもので、多くのお店から本当にたくさんのオリジナルインクが発売されています。
何が都合が良いのかというと、インクの色、名前、ラベルに自分たちのセンスのようなものを込めることができるからで、それぞれのお店のコンセプトに賛同して下さるお客様がそのインクを使われる。
他のお店のオリジナルインクや万年筆メーカーのオリジナルインクではなく、当店のオリジナルインクを使っていると言われると、無条件に嬉しくなります。

昨年からWRITING LAB.でもオリジナルインクを企画しました。
昨年の色“クアドリフォリオ”は革小物、オーダー靴工房IL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)の久内さんたちとWRITING LAB.の出会いを記念したような四つ葉のクローバー色のインクでした。

結果的に明るすぎず暗すぎない緑色で、そういう色を探されていたお客様が多く、多くの方の賛同を得られました。
2012年の色としたにも関わらず、いまだに製作リピートを繰り返すことができています。
今年は、ビンテージのリーバイスとオールデンの靴をメインのワードローブにするRIVER MAILの駒村氏の提案でビンテージリーバイスの色をインクで表現したものを作りました。

デニムと万年筆のインクというあまり組み合わされることのないものですが、万年筆をカジュアルにスマートに使いたいと願うWRITING LAB.らしさが表現できていると思っています。
ビンテージデニムのように濃い藍色でありながら、ムラ感もある。
そんなことがインクで表現できるのかと、製作依頼をしながらも思っていましたが、インクブレンダーの石丸治さんは、濃い藍色なのに濃淡が出るものを本当に作ってくれました。まさにデニムの感じをインクの色で表現されています。
デニムと万年筆とは違う世界のもののように思われますが、万年筆をさりげなくかっこよく使うことを提案したいと思っているWRITING LAB.の目指すものを分りやすく表していると思っています。

ビンテージデニムと例えばオールデンのコードバンの靴がとても良い相性で、行き着く所まで行ったかっこよさなのと同じように、万年筆とデニムの組み合わせにこだわらないこだわりのかっこよさを感じます。

⇒WRITING LAB.オリジナルインク「ビンテージ・デニム」

印刷会社のこだわりCIRO薄型ノート

印刷会社のこだわりCIRO薄型ノート
印刷会社のこだわりCIRO薄型ノート

当店の試し書き用紙がとても書きやすいと言っていただくことが多く、そのたびに言い訳がましく本当に大した紙ではなく、コピー用紙よりも少し良いくらいの紙だと説明しています。
万年筆の書き味を、できる限り誠実に再現してくれる紙というのが基準で、特別に良い紙を使って万年筆の書き味を過大に良くみせようとしている意図はありません。

でも試筆紙を作る時に、大和出版印刷さんから大量の試筆紙候補のサンプルを提供していただき、たくさんの紙の中からコストと照らし合わせながらこの紙を選ぶことができたことは大変恵まれていたと思います。

筆記用紙で良いとされているものは意外と少なく、例えばノートでも結構同じ系統の紙が使われていることが多いのですが、大和出版印刷さんの場合、多くの種類がある印刷用の紙にも知識があります。
印刷に適している紙の中でも、万年筆の筆記に合った紙はいくらでもあるのだと試筆紙選びで思いました。

試筆紙は販売もしていて、少し大判のメモ用紙のような使い方をされている方が多いようです。
確かにアイデアをまとめる時、このような無地の白い紙が一番使いやすい。
加えて言うと、B5サイズはある程度太い万年筆で書くことにおいて最も適したサイズなのではないか、大学ノートがこのサイズなのも当然意味があるのだと再認識しています。
試筆紙がB5サイズなのも万年筆店のこだわりだと思っていただけたら幸いです。

大和出版印刷さん企画の紙製品にB判のものが今までありませんでしたが、このたびB5サイズの薄型ノートを含む新製品 CIRO+が発売になりました。

中紙は大和出版印刷が万年筆用の紙として開発したリスシオ1紙を使用し、白罫線を施しています。
白罫線は非常にユニークな存在で、デザイン性や話題性が先行していますが、書こうと思った時に光の反射で罫線を認識できてガイドとなり、書いたものを読むとき罫線が見えないので、紙面が美しいという実用的な面も持っています。
特に色インクを使った万年筆の文字を美しくしてくれるのではないかと思います。
今回罫線の白にもこだわって、純粋に白い色のインクを探し求めて垂水区のインク会社のものを初めて採用しています。

表紙にも大和出版印刷ならではのこだわりが発揮されていて、屈曲強度のある商品パッケージによく使われる気包紙を未塗装で使っています。
紙の生の質感を感じていただきたいという狙いもあり、手触りに味わいのある表紙のノートになっています。
さらに糸綴じの製本にもこだわっています。
綴じ糸を見せているノートが多く発売されるようになっていますが、どれもステッチが斜めになっています。
これは紙製品を綴じるミシンの構造、製法上仕方ないのですが、CIRO真直ぐ揃ったステッチを実現するため、大和出版印刷が古くから付き合いのある製本所の工夫で裁縫用のミシンでステッチを通しました。

印刷会社の総力を結集して、マニアックだと思えるほどにこだわって作られたノートが、発売されました。

⇒神戸派計画(大和出版印刷)CIRO+(シロ・プラス)

関連するものもこだわりたい渋い正解 ペリカンM800茶縞限定発売

関連するものもこだわりたい渋い正解 ペリカンM800茶縞限定発売
関連するものもこだわりたい渋い正解 ペリカンM800茶縞限定発売

ペリカンの存在はいつも応援したくなるような同性の友達のように感じられます。
ものすごくキレがあって、洗練されているカッコいい存在ではないけれど、一生懸命生きているのはよく分かるので、なるべく付き合っていきたいと思わせる。
そして私たちが万年筆のいつも期待しているクラシックさ、渋さをいつも忘れずにいるところが、ペリカンから目が離せない理由なのでしょう。

ペリカンが満を持してM800茶縞を限定発売しました。
以前500や400の定番品として存在していて、その後M400として限定復刻されたりしていました。
茶縞がペリカンの理想の縞模様だと言われることがあって、その理由は抑制の効いた渋さのようなものだと考えると、茶縞にペリカンらしさを見る人も多いかもしれません。
M800は、もう何度も書いてきたし、多くの人が言っていることだけど、最も理想的なプロポーションを持った万年筆で、太くもなく細くもない、重くもなく軽くもない。
ある程度万年筆を使ってきて、M800を愛用している人ならその良さはよくご存知だと思います。

当店は初めて万年筆を使おうと思う人もよく来店されます。

予算などが許せば必ずお勧めするのがペリカンM800で、他のペンと書き比べてもその違いは、初めて万年筆を書いた人でもよく分かるようで、M800に決着することが非常に多いし、正しい選択だと思います。
万年筆で文字を書いていきたいと思った時に、最も理想的なバランスを持った万年筆だと言われているM800から使い始めてみるのがいいと、自分自身の経験からも思います。
ペリカンは縞模様を中心としてカラーバリエーションが豊富で、色の好み、中に入れるインクの色でボディカラーを選択するのだと思うけれど、この茶縞に合う当店で用意できるものを考えてみました。
M800茶縞に入れるインクとして、茶色を選択してももちろんいいけれど、ボディ同様に少し枯れた感じの出るものとして、当店オリジナルインクCigarをおすすめしたいと思います。

Cigarはタバコに葉の色をイメージしたもので、書いたばかりの時は緑色で、乾くと枯れていくように茶色になります。
しぶい茶縞のイメージに合うのではないかと思っています。
M800は胸ポケットに差して携帯するのではなく、ペンケースに入れて持ち運び、机に向かって使うタイプの万年筆なので、机の上で使うものとの組み合わせを考えたい。
工房楔のペントレイなどの机上用品も合うと思いますし、カンダミサコのデスクマットもM800を机上で使うのに、役に立ってくれるのではないかと思いました。

当店だけでなく万年筆の業界を元気にしてくれそうなペリカンの限定万年筆M800茶縞が発売になりました。

カンダミサコブッテーロデスクマット

カンダミサコブッテーロデスクマット
カンダミサコブッテーロデスクマット

当店のお客様が万年筆を試し書きされる席には、カンダミサコさんのデスクマットを置いています。
もう2年半以上経っているので、大した手入れもしていないのに、艶が出て色も変化しています。
デスクマットの素材であるブッテーロの特長がまさにそうで、使えば使うほど艶が出て、色が変化してくれる。
ル・ボナーさんもカンダミサコさんもこのブッテーロ革をよく使われます。

成牛の革を植物タンニンでなめしたブッテーロ革は使い込んだ時のエージングが美しい革で、手を入れれば入れるほどそれに応えてくれる。
革用の布やブラシで磨くと光沢が出て色が濃くなり、水で濡らして固く絞った布で水拭きするとネットリとした表情を見せます。
私はブッテーロをブラシ掛けするのが好きで、キラキラしたツブが立ったような銀面を見せてくれます。
この革独特の香りは革の中で一番良いと思っていますが、これは好みが分かれるところでしょうか。
そんなところに惹かれて革職人さんたちはブッテーロ革を多用するのかもしれません。

不定期ですが、年何回かはカンダミサコさんにデスクマットを製作してもらっています。
一番表面の部分の銀面、中間の床、滑り止めのフェルトの3層構造になっていて、端が反り上がってくることの対策としていたり、A4用紙より一回り大きいサイズで大きすぎず、私たちの机環境に合ったものだと思っています。

発売後3年近く経っていて、売れ筋の色が絞られてきましたので、今年は限定色としてパープルを作ってみました。
ウォールナットなどの濃い色の机にとても合うのではないかと思っています。

シュランケンカーフの豊富なカラーバリエーションをフルに使ったペンシースで3年少し前に始まったカンダミサコさんとの仕事。

カンダさんは今まで会ったことがある革職人さんとのイメージとはあまりにも違っていて、小柄で物静かな雰囲気を持った女性だと思っていました。
でも一緒に仕事をするうちに、芯の強い、とても頑固な職人らしいところのある人だということに気付き、それが丁寧で美しい仕事に表れていることが分かりました。

カンダさんが神戸の鞄工房バゲラさんから独立して4年近くになります。
カンダミサコという名前は急速に浸透して、全国でも知られる存在になっているし、大丸百貨店からは年3回もイベントへの参加を依頼されています。
丁寧な仕事を心掛け、ご自分のスタイルに合ったものだけを少しずつ増やしていき、今の地位を短い期間で獲得した。
それは自分のことのように嬉しいし、そんなカンダさんの歩みを比較的近くで見ていられることができたことも誇らしく思っています。

カンダミサコさんだけでなく、当店にはル・ボナー松本さん、工房楔の永田さん、イル・クアドリフォリオの久内さんたち職人さんが夢を持ち込んでくれる。
そしてこちらの夢もその技術やアイデアで実現してくれます。

カンダミサコさんのデスクマットもそんなもののひとつです。
シンプルなものだけど、奥深い仕様へのこだわりがあって、それはブッテーロの革のように時間が経つごとに、使い込むごとに喜びをもたらしてくれる。
良いものの条件だと思います。

カンダミサコ デスクマット

LAMYの世界観

LAMYの世界観
LAMYの世界観

万年筆を使うことを懐古趣味のように言われたりすると、何となくカチンとくることがあります。
私たちは昔を懐かしんで万年筆を使っているわけではなく、一番書きやすいと思う筆記具だから万年筆を使っている。
今の筆記具として万年筆を使っているからで、それを懐古趣味だと言う人は文字を書くということについてそれほど真剣に考えていないのではないかと、かなり偏った考えだけど思うのです。

でも万年筆のそのモノ自体のデザインは過去にあったものをリスペクトしたものがほとんどで、この辺りがなかなか複雑です。
老舗の万年筆メーカーならたいてい過去に名品が存在していて、それらを復刻したり、それらのデザインをモチーフとしたりすることが多い。
そして私たちもそれを歓迎しているところがあります。

ある程度日常的に使う万年筆が用途別に揃ったら、ビンテージの万年筆に理想を求めたりする人も多く出てきます。
確かに車も道楽を極めるとクラシックカーに向かう人もおられるようなので、人はある程度そのものを知ると、古いものに気持ちが向かうのかもしれません。
新しい取り組みだと思われているイタリアの限定万年筆も過去の万年筆黄金時代再来を目指したものが中心となっています。

過去をリスペクトすることが多い、万年筆の業界の中でラミーだけは取組み方が違う、提示する世界観が違うように思って、共感しています。
ラミーの最もラミーらしさが表れている万年筆ラミー2000も、発売が開始された1966年当時、はるか未来の2000年を意識していました。

他の万年筆とは全く違うデザインで、そのモノに当時の人は夢やロマンを感じたのだと思っています。
何度かの小変更を受けながらも、ラミー2000はほぼ発売時のデザインそのままで現代に生き残っていて、いまだに過去を感じさせないどころか、ラミーの先を見据えた仕事振りに、自分もこうありたいとお手本に思います。
2000年の記念にラミー2000のオールステンレスタイプが限定発売され、覚えておられる方も多いと思いますが、今年からカタログにオールステンレスタイププリミアステンレスが加わりました。今度は定番モデルということで、細部の違いはあるようです。

私が覚えている範囲では、ペン先と反対側の首軸の仕様が違うのと、ステンレスの手触りが若干シルキーな感じになっているところが違うと思っています。
54gとかなり重量級のボディですが、オールステンレスのボディはとてもキッチリと作られていて、ラミーの工作精度の高さがうかがえて面白い。
ビンテージ万年筆に行く前にこういう、見て、触って楽しめるペンがあることも知ってもらいたいと思いました。

ラミーのペンは様々なインダストリアルデザイナーがデザインしていますが、とてもラミーらしいと思っているのは、従来のペンのデザインに囚われず、機能的にも意味のあるデザインです。

私が最もラミーらしいと思うペン、それはステュディオです。
ステュディオシリーズはカラー、素材、仕上げなどで様々なバリエーションが存在し、ペン先も金とステンレスがありますが、実用最低限のステンレスペン先にこの万年筆らしさ、存在意義を感じます。

飛行機のプロペラをイメージしたというクリップは、接触面が小さく、服に差した時に布地を傷めにくい、デザインだけでなく機能的にも意味のある仕様です。
マットステンレスには、ゴムのグリップがつけられていて、万年筆においてこれは非常に珍しい素材の選択です。

でも金属製のボディが滑って持ちにくいと思う人も多くおられますので、実用ペン、事務用ペンとしては使いやすい仕様なのだと思っています。
ラミーの万年筆、筆記具のバリエーションは本当に豊富で、その全てはなかなかご紹介できませんが、どのモデルも万年筆を使うことは懐古趣味ではないと主張しているような気がします。

⇒ラミー2000プレミエステンレス
⇒ラミーステュディオ

想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~

想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~
想いに応えられるもの ~工房楔シャープペンシル~

私たちの身のまわりには安く買うことができる大量生産品があります。
それらによって生活が便利でコストのかからないものになった代償として、それらの品の生産国である隣国の塵芥が日本に飛んでくるのはとても皮肉なことだと思います。
本当は自国で作られた、理想を言うなら、ひとつひとつ丁寧な手仕事で作られたものに囲まれて暮らしていきたいと思っているけれど、私たちの暮らしは最早そこには戻ることが出来なくなっているのか。
でも大切に思って、こだわっている筆記具くらいはそういうものを使っていたいと思います。

その製品を作ることで、どれくらいの利益を生むかを計算されたものよりも、使う人がどれだけ喜びを得られるかを考えて作られたもの。
工房楔の永田さんはひとつひとつのものの木目や木の方向を読んで、それぞれのものが一番良い木目が出るようにモノを作っています。
大きめに切った材をペンに削り出していく時、木目が一番美しくなるところで止めます。
仕上げの磨きもツルツルにしていいもの、ある程度の粗さを残した方が良いと思えるものなど、その材に合った手触りを残したり、磨き上げたりしています。
永田さんは木については語るけれど、こういったことについては、聞かないと教えてくれない。
それが永田さんの美学だと気付いた時、非常に共感しました。
語らないところに、実はこだわっている部分があって、語らない所に一番大切なことがあるのだと教えられたのでした。

工房楔のシャープペンシルは細身で、作り手の理性が感じられる抑えた雰囲気を持っています。
何の変哲もない姿のペンというのは、こういうものを言うのだろうと思いますが、普遍的な誰にでも扱いやすいもの、でも当然大量生産、大量消費を目的としない、一人一人のために作られた優しい気持ちから生まれたもの。
工房楔のシャープペンシルでこれからいつも思い出すであろう大切にしたいエピソードがあります。

医大の受験を控えた関東の高校生の方が、一昨年当店のネットショップで花梨のシャープペンシルを購入して下さいました。
スタッフKが窓口となり、メールで何度かやり取りさせていただいて、当店の姿勢や工房楔の商品について理解していただいた末にシャープペンシルをお送りしました。
数ヵ月後、工房楔のシャープペンシルで受験し、合格することができたと報告してくださいました。

さらに、当店を訪ねるためだけに新幹線に乗ってわざわざ神戸に来て下さいました。
大学1年間で5回ほど神戸に来てくれた彼は、息子より1つ年上なだけで、文字通り息子のように感じられる存在で、他人には思えない。
彼が受験勉強やその後の勉強で酷使していた工房楔のシャープペンシルはヒビ割れし、色も手の汗を吸って変色したものを楔の永田さんがヒビを補修し、磨きなおしてとても美しい姿に生まれ変わらせました。

シャープペンシルがまた新品みたいになった時、エージングが元に戻ってしまったと思う人もいるかもしれないけれど、永田さんはそういうことも理解して、新品のようにしてみせた。
手に入れて、使い込んで、何かあった時修理に出して直してもらう。

ペンはモノでしかないけれど、そこに想いがこもることで、ペンを購入された時のお客様と私共のやり取りなどの記憶が伴い、ただのモノでない、より大切にできるモノに感じられます。
全てのものがそういう想いに応えられるわけではなく、工房楔のシャープペンシルのような味わいを持つようなものがそのひとつなのだと、永田さんに、今は医大生になった彼に教えられたのでした。

⇒工房楔ペンシル・エクステンダーTOPgid=2125793″ target=”_blank”>⇒工房楔ペンシル・エクステンダーTOP

格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター

格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター
格を備えたもの ラミーサファリ/アルスター

最近、格とか品ということをずっと考えています。

ある物は格が高いか低いか、品を備えているかどうかなど、それは言葉では定義しにくいけれど、何となく感覚的には分かる。
そしてそれは後から取り繕っても簡単には上げることのできないもの。数値や性能だけでは測ることのできないもの。
それが様々な物の格だと思います。
最近よく考えているけれど、ずっと以前から格ということは商品選びにおいて気にしてきました。

一番格下だと思うのは、何かを真似たオリジナリティのないものです。
万年筆というのは、もともと高い美意識を持った人が使いたいと思う物だと思うので、そういう人たちには、下品な気持ちから生まれた格の低いものを使って欲しくないという想いをいつも持っています。

ラミーサファリ・アルスターを、初めて万年筆を使うけれどあまり高いものを最初から買うのは怖いという人に勧めます。
ただ値段が安い万年筆は他にもあるけれど、そういったものに格が備わっているものは少なく、サファリにはそれを感じるからです。
万年筆としては安い値段のサファリですが、他の低価格の万年筆が持っている高い万年筆の代用品的な感じがありません。

オリジナリティのあるデザインと学童用というターゲットに合わせた全ての仕様。
製品というのはこういう風に作るのだと、この万年筆は同業者や私たちのような販売員にもメッセージを伝えようとしているような万年筆です。
もっと早くサファリの良さを知っていれば良かったと思いますが、品とか格について感覚的でも理解できるようにならなければ、それに気付かなかったのだと思います。
私たちのように万年筆を使ってきたキャリアがある程度あるような人でもサファリは使う理由がある万年筆だと常々思います。

軽いボディとパッチンの勘合式キャップで、丈夫で何でも挟むことができる大型のクリップも備えている。
コートのポケットなどに入れて出先で書く、万年筆での長時間の筆記に疲れたので気分を変えたい。
リングノートのリングに差し込んで持ち歩いたり、カジュアルで何となくアーティスティックな使い方ができると思っています。

新しく発売されたラミーのブルーインク用消しペン「INK-X」もサファリを快適に使う役に立ちます。

万年筆は消すことができないという常識をINK-Xは覆しました。
ブルーのインクに限りますが、白い方のペンが消しペン、消しペンで消した跡には万年筆のインクが乗らないので、反対側のラミーのブルーと同じブルーのペンで書きなおす。
ノートや手帳をきれに保ちたいと言う人にはとても便利で、INK-Xの存在でラミーを使いたいと思っていただけると思います。

当店でサファリ・アルスターを選んでもらう時、まずボディの色を選んでもらいます。
プラスチックのボディで色数が豊富なサファリか、丈夫なアルミボディのアルスターか。
ボディが決まったらEF(極細)、F(細)、M(中)の字幅を試してもらう。
ノートに書くのに使うという人のほとんどはEFになるけれど、FやMの滑らかな書き味も捨て難い。
サファリを調整して販売していると言うと驚く人もおられますが、力を入れなくても紙にペン先を置いただけでインクが出てくれる万年筆らしさを感じてもらいたいし、万年筆を買う楽しさも味わってもらいたい。

万年筆を使われていな方には少し敷居が高く感じられるものを躊躇わず、まず使ってもらいたい。

そんな思いを持ってサファリをいつも勧めています。

⇒LAMY サファリ
⇒LAMY アルスター
⇒LAMY 消しペン「INK-X」

大和出版印刷 芸工大ノート

大和出版印刷 芸工大ノート
大和出版印刷 芸工大ノート

大和出版印刷の武部社長がル・ボナーの松本さんの感化にあって、万年筆の魅力に目覚めた時、店の開店準備中だった私は松本さんに連れられて大和出版印刷さんを訪れました。
武部社長はものすごい勢いで万年筆の魅力にとりつかれていて、大和出版印刷さんが万年筆をより楽しく使うためのノートの開発を始めた時と、当店がオープンしたのが同じ時期だったのは、当店としてはとても恵まれたことでした。
オープンしたばかりの店に、そこでしか買うことができないノートがあるということは、その店にとって非常に大きなセールスポイントだったのです。

大和出版印刷さんがまず製品として世に送り出したのが上製本ノートでした。

職人さんによる卓越した技術による製本と厳選した紙を使用した、当時の大和出版印刷がノートに対して出来得る限りの最高を目指した存在感のあるもので、5250円という価格もインパクトのあるものでした。
相当な決意がないとこのノートを使い始めることができないけれど、今でも着実に売れている大和出版印刷のスタンダードだと思っています。

武部社長と出会う5年前以前に、大和出版印刷の川崎さんが私が当時勤めていた店を訪れてくれていました。

ル・ボナーの松本さんに話を聞いて来てくださったのですが、その時はお互い若く、何かが動き出すものでありませんでした。
でも、お客様の少ないひとつのフロアーにいた私から見ると、松本さんや川崎さんは開かれた外界の華やかな世界の住人に見えて眩しかった。

店を始める前にホームページの制作をお願いしたのが川崎さんで、その後実務に長けた多田さんにバトンタッチしますが、川崎さんが私を訪ねてくれなかったら当店のホームページも完成していなかったと思います。

昨年末から大和出版印刷さんはかなり実験的な試みを始めていて、デザイナー菅原仁氏を迎えて「白罫線ノートCIRO」や「端を折ってチェックするメモ帳オリッシィ」などの製品を作り出しています。
それらの大和出版印刷さんの担当者が川崎さんで、活発に活動されています。

川崎さんはご自身の母校である神戸芸術工科大学の学生さんたちからデザインを募集してノートを製作するという企画も立ち上げました。
16種類の表紙のノートたちは文具メーカーではあまりない自由な感覚でデザインされていて、当店も年明けから店頭に出していますが、女性のお客様の反応がとても良く、当店にとっても、大和出版印刷さんにとっても、とても良いことだと思っています。

私も原稿書きで使っている万年筆での書き味を追究したリスシオ紙を使用したノートをベースに、綴じ糸を表紙と合わせた色糸にして、装いの全く違うものになっています。

芸大生の皆さんがデザインしたという話題性やデザインのユニークさは感じていましたが、このノートがお客様方に支持されるかどうか、正直私には分かりませんでした。

でもいつものことですが、お客様方の方が私よりもずっと先に行っていて、このノートの良さを認めてくれた。
神戸芸工大の学生さんや川崎さんにも一本取られたと思ったノートをご紹介したいと思いました。

⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧cbid=2557537⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧csid=3″ target=”_blank”>⇒リスシオ紙を使った紙製品一覧

シガーケース型ペンケースSOLO新作

シガーケース型ペンケースSOLO新作
シガーケース型ペンケースSOLO新作

1本差しのペンケースを突き詰めれば専用ケースということになるのだと思います。
それがペンを1本だけ収納するということであり、ペンケースがただペンを収納する入れ物ではなく、万年筆で書くということ、持つということを演出するものに昇華したひとつの形なのではないかと思いました。

シガーケース型ペンケースSOLOにアウロラオプティマやドルチェビータ専用のものを作ってはどうかというアイデアは、IL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)の久内淳史さんがSOLOでもっと遊んだらどうなるかという、WRITING LAB.の駒村さんからのお題で思い付いたアイデアでした。

久内さんは当店と関わる前からアウロラの万年筆を持っていたし、最近もデルタの美しい万年筆トスカーナを手に入れていて、実は万年筆にとても興味を持っています。
私のようにいつも万年筆で何かを書くことを考えているタイプとは違い、万年筆をいかにかっこよく演出できるかを考えるのに最適な人なのかもしれないと、イタリアでの修行で、靴作りの技術やセンスだけでなくイタリア人のライフスタイルも身に着けた彼を見ながら思います。

きっと万年筆を1本だけ入れるペンケースとはどういうことかを考えて、自分ならこういうものが欲しいというものを考えてくれたのだと思います。

アウロラの万年筆のプロポーションが私も以前からとても好きでした。
太さはペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズの万年筆くらいあるけれど、丈が短めになっている。
実際の寸法よりも太く見えるキャップを閉じた姿。
そういったプロポーションはモノとしてとても魅力があります。

愛らしいキャップを閉じた状態のアウロラですが、そのボディの短さのせいで、ペンケースに入れると全体が沈んでしまい、取り出しにくいと思った経験のある人はたくさんいると思いますし、球形のクリップが意外と膨らんだ突起のようになっていることにも思い当たる人は多いと思います。

それらのアウロラの特長的なサイズを収めることができるペンケースSOLOが、先日のイベントでお披露目となりました。

アウロラのマーブル模様を模したパティーヌ技法による色つけは、中に入っている万年筆を予感させるもので、面白いアイデアだと思いますし、出っ張ったクリップはクリップを通す切り込みで対応しています。

アウロラは昨年末、名作ダンテをカラーリングを変えて復刻させたダンテインフェルノや、久々に新色として使いされたオプティマブラックパールなど話題性もあり、面白いコラボレーションだと思いました。

同時にクリップの出っ張りが邪魔でSOLOに入らなかったドルチェ・ビータミディアム用や、パイソンやリザード革を使ったシリーズなどが生まれました。
シガーケース型ペンケースSOLOがシンプルな単色のモデルからイル・クアドリフォリオの特長がやセンスが表れたものへと発展し始めています。

*画像は久内氏製作のオーダー靴と、同革で作られたSOLO「タピーロ」です
⇒SOLOはこちらから