IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)

IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)
IL Quadrifoglio のイベント開催(1月12日・13日)

独立して仕事をしようとしている人にとって、その人の成功を願って応援してくれる人の存在は必要不可欠です。
人脈を紹介してくれたり、商品を供給してくれたり、あるいは作っているものを扱ってくれたり。
私もそういう人に恵まれて、多岐に渡る分野の人を紹介してもらったし、商品を供給してもらいました。
その応援があったから店を始めることができたし、今もこうして続けていられる。店を始めて5年が経って、応援したいと思う人に出会うことが何度かありました。
それほど力にはなれていなけれど、心から応援したいと思い、ともに良くなっていけたらという想いで一緒に仕事をさせていただいています。

イル・クアドリフォリオの久内さん夫妻にも私は心から彼らの成功を祈って応援したいと僭越ながら思っています。
イル・クアドリフォリオの作品にももちろん魅力がありますが、いつも皆を楽しい気分にさせてくれる明るさ、人柄の良さに周りにいる人たちは楽しい気分にさせられる。

彼らは私が持っていないものを持っていて、とてもまぶしく感じるし、彼らが大好きな仕事でずっと生きていけたらと願っています。
それはWRITING LAB.を一緒に企画している駒村さんも同じ気持ちで、お二人に出会った時、何か一緒にやりたいと思ってWRITING LAB.として話し合って、アイデアを出し合ってできたのがシガーケース型ペンケースSOLOでした。

最近はあまり見なくなりましたが、以前は海外のメーカー数社からも発売されていたシガーケース型のペンケース。でもそれらとは少し雰囲気の違うものが出来上がりました。
幸いSOLOは多くの人に使っていただいていて、イル・クアドリフォリオの名前が万年筆の世界でも知られるきっかけになったと思います。

私も自分にとってとっておきのペンであるオリジナル万年筆「Cigar」を入れて、仕事の日も休みの日もサニーゴールド手帳のネタ帳とル・ボナー3本差しペンケースとともに、ル・ボナーのポーチピッコロに入れて持ち歩いています。

SOLOはCigarには少し大きく、ペリカンM1000やモンブラン149などがちょうど良く収まるサイズですが、そういうことはあまり関係なく、これだけのペンケースに合う万年筆はCigarしかない、あるいはこれだけの万年筆に合うペンケースはSOLOだけだと思っています。

最近、私の場合は書くということは欲望に近いのではないかと考えるようになりました。
書くことが好きという感じではなく、書くことは快感を得られるものだから、書きたくなる。
書くことは文化的な行為だからそれが好きな自分は文化的な人間かもしれないと少し思っていましたが、それは大きな間違いで、自分の書くという行為はとても本能的なものかもしれない。
そして、本能的であるからその行為に上手いも下手もなく、自分にとっての快感をひたすら追い求めて書き続ける。
書くという行為が人間の根源的な欲によるものであったなら、万年筆はその欲による行為をさらに気持ちよくしてくれる道具だということになり、それそれで辻褄が合っていると思いませんか?

欲望による行為である書くということをより気持ち良くしてくれるのが万年筆なら、ペンケースなどその関連するものはそれを演出する、よりムードを高めてくれるものに他ならない。
ただペンを収納するだけの革製の入れ物というだけでは寂しすぎる。

フィレンツェ伝統の絞り技法によるペンケースSOLOは1本しかペンを入れることができない贅沢な仕様で、日本の製品の中では異色な、欲望を美しく演出してくれる種類のものにひとつだと思っています。
もちろんSOLOに続くものも作っていかなければなりませんが、SOLOをベースとした遊びを久内さんたちは始めていて、1月12日、13日のイベントで発表してくれるようです。

2012年のペン語りはこれで最後になります。今年1年も私が欲のままに書いた文章をお読みいただいて、心から感謝しています。
来年は、もう少し読みやすく、良いものにしていきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。

手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース

手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース
手入れのしやすさと丈夫さの魅力 ル・ボナーペンケース

革小物の手入れはなかなか疎かにしがちですが、してみると楽しいものだといつも思っています。
わりとすぐにきれいな艶を取り戻してくれるということも楽しい理由かもしれません。
特にブッテーロ革は、手入れをしているのとしていないのとではその様相は大きく違い、手入れをすることで非常に美しく仕上げることができます。

ル・ボナーの松本さんから教わりましたが、油分を多く含んでいるブッテーロ革にはオイルを加える必要はなく、ブラシ掛けか革用の布で磨く。あるいは傷が激しく目立ってきたら濡らした布を堅く絞って水拭きするというのが適したお手入れの仕方です。

私が最近気に入っているのは革用のブラシを掛けることで、ブラッシングすることで光を帯びたキラキラした粒が立ったような表面になりとてもきれいです。
ブラシ掛けでも布で磨いても傷が消える、あるいは目立たなくなるのもブッテーロの特長です。
ブッテーロの革質はコシがあって、張りが出るので厚く使えば丈夫な革製品を作ることができるというところもあり、その良さを生かしたもののひとつにル・ボナーの3本差しと1本差しのペンケースがあります。
万年筆が好きになったからこのペンケースを作ることができたのか、このペンケースを作りたいから万年筆に傾倒していったのか分らないけれど、万年筆好きの鞄職人として有名なル・ボナーの松本さんが鞄作りでも持ち続けているこだわりで作ったペンケースです。

全部分厚めのブッテーロ革を背中合わせに2枚重ねに貼り合せていますので、かなり硬く中のペンを保護してくれる頑丈な構造になっています。
フラップ部も最初は硬めで、馴染むのに少し時間がかかるけれど、それは頑丈さの表れだと私は好感を持っています。
ペンケースには様々なものがあって、ギュウギュウとたくさんの荷物がひしめく鞄の中に安心して放り込めるのはこのペンケースだけだと思っていて、持ち運び用のペンケースとして頑丈さと手入れのしやすさを持った安心して使うことができるものです。

3本差しならペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズのものまで、1本差しにはドルチェビータピストンフィリング、モンブラン149、ペリカンM1000などのオーバーサイズのものまで収納することができます。
このペンケースが発売されて5年が経ち、それは当店が開店した年月と重なります。
開店したばかりで、オリジナル商品や特徴に乏しかった当店において、このペンケースは六甲アイランドのル・ボナーさんか当店にしか置いていない言わばオリジナル商品で、このペンケースを目指して当店に来られたお客様も少なくありませんでした。
ル・ボナーさんにとってこのペンケースはなくても困らないものだったけれど、当店にとってはこれがない状態は考えられないものだった。
開発にお金や労力もかなりかかっているし、希少な絞り技法を有する職人さんも探さなければいけなかったはずだけど、松本さんはそんなことを何も言わずただ嬉しそうにこのペンケースを紹介してくれて、全色1つずつ貸してくれました。

当店はこのペンケースと共に歩んで来たところがあり、個人的にもとても思い入れのあるもので、それらのことを私は忘れてはいけないといつも思っています。

⇒ル・ボナーステーショナリートップgid=2125743″ target=”_blank”>⇒ル・ボナーステーショナリートップ

寒さに強い万年筆

寒さに強い万年筆
寒さに強い万年筆

若い頃、家の中がなぜかいつも寒かった記憶があります。
ファンヒーターやエアコンなど便利に使える暖房器具がなく、暖をとるものはコタツが中心だったからなのか、石油ストーブがいつも空だったのか、忘れてしまったけれど。
その反動からか、暖房が必要以上に、あるいは暑いくらいに焚かれていないと心細くなるという性質になってしまいました。
暖房をつけない家では風邪をひきにくい体が丈夫な子供になるかもしれませんが、変なところにその反動がくるのだと自分で分析しています。
寒さが苦手なのは私だけでなく万年筆もですが、寒さに強い万年筆の話です。

万年筆で一番やっかいで、ほとんど唯一のトラブルとも言えるものが、インク漏れです。
最近ではペン芯やボディの構造がしっかり設計されたものが多くなっていますので、書いていて自然にポタリとインクが落ちる、夏目漱石が癇癪を起こしたと言われているようなことは起こりにくくなっています。
しかし、冬にはまた違う理由でインクが漏れる状態に近いことが起こります。
開けるたびにキャップの中にインクが付いているとか、ペン先の根元辺りにたくさんのインクが滲んでいるというようなご相談を集中して受けるのが、冬の間や冬が終わったばかりの時です。

万年筆のインクタンク内がインクで満たされていれば問題ありませんが、インクが減っていて、インクタンクの中にインクと空気両方が入っている場合、冷たい外気に冷やされたタンク内の空気が暖房と手の温もりによって温められて膨張して、インクを押し出します。
これはどの万年筆でも起こりうることですが、ペン芯の設計が新しいと起こりにくいし、ボディが比較的太めのものでは起こらないことが多いと言われています。
どんな万年筆でも、冬場に万年筆を持ち運ぶ時はなるべくペン先が上に向くように固定して、ちょっとしたショックでペン先やペン先の根元に滲んでいるインクが落ちないようにする工夫はされた方がいいと思います。

素材から見た場合、冬でもインク漏れがしにくい万年筆は、ボディが木製やエボナイト製の万年筆です。
それらは温度の伝わり方が緩やかなので、インクタンクの中が急に冷えたり、温まったりしにくい。外気温を内部に伝えにくいので、万年筆内部の温度がある程度安定していると言われていて、同じサイズのボディで木製とエボナイト両方の素材を揃えた2本の万年筆をご紹介します。

パイロットカスタム845はエボナイト素材に漆塗りのボディの万年筆です。
上記の理由で万年筆のボディに適した素材であるエボナイトですが、紫外線や熱、乾燥の影響で変色しやすいという欠点があります。
これを解消したのが、エボナイトに独自の仕上げをして漆を塗るという技術です。
パイロットはこれを80年以上前に確立していて、万年筆に使ってきました。
エボナイトのボディに漆を塗った延長線に蒔絵の万年筆があったと思うと、その発明が日本の万年筆を世界に知らしめたのだと言えます。

カスタム845の大型の18金のペン先は、バネのような弾力があって、高い筆圧でハードに書かれる方でも安心して使うことができるもので、この万年筆が趣味の道具だけではない酷使にも耐える実用の道具であるということ物語っています。

同じペン先を備えた万年筆にカスタム一位があります。
カスタム845と同じプロポーションの万年筆ですが、こちらはイチイの木を圧縮して、目の詰まったものにしており、強度の確保と、手触り良くし、汚れが染み込みにくくしています。
表面加工をしていない自然の木の触感のままなので、使い込んだり、磨いたりして艶を出していく、育てるような楽しみも併せ持ったものになっています。

万年筆には厳しい季節である冬を難なく乗り越えることができる、おそらく実用的には国産最高峰の実力を備えたカスタム845とカスタム一位。
国産ということは、品質的には世界に通用することを誰もが確信していて、国産の万年筆について、特にパイロットについては私たちは顧みないといけないと思うようになりました。

冬だけでなく、1年中愛用していただきたい2本の万年筆からは、メイドインジャパンの誇りが感じられます。

⇒パイロット カスタム845

考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」

考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」
考えの断面を記す「サニーゴールド手帳」

手帳には黄金バランスがあって、縦:横が2:1になっているものがそれだと思っています。
そのサイズ感から考えるとAやBの規格のサイズは少し横幅が広すぎる。あるいは縦が短すぎる。
片手で持って、立ったまま書くことができる、手の平に収まる横幅でないといけないので、あまり大きすぎないものがいい。
横幅10cmくらいのものが理想で、縦は20cmということになります。
最近そんな手帳の黄金バランスを持った手帳が少なくなっているような、あったとしてもあまり顧みられていないような気がしています。

例えば文庫本サイズのノートが非常に多くなっていますが、これは縦横比が2:1ではありませんので、手帳というよりも小型のノートということに(私に言わせれば)なります。
他にも惹かれる理由はありますが、理想的な手帳の黄金バランスを持っているということで、ライフのサニーゴールド手帳はずっと気になっていました。

ライフのハードカバーノートや手帳、日記帳の装丁の強さ、平らに開く機能にも絶対的な信頼を寄せています。
そういった基本的な仕様を持った量産品でライフに勝るものはないと思っているほどです。

お客様の大和座狂言事務所のK女史の3年連用日記を見せていただいて、ライフの製本の強さに驚きました。
3年連用日記を3年間毎日欠かさずつけられて、たくさんの切り抜きなどを貼って倍以上の厚さに膨らんでいるにも関わらず、製本にまったく乱れが生じていませんでした。
これなら3年どころか、5年でも、もしかしたら10年でも使うことができるかもしれないと思いました。
合成皮革の表紙も、安い革を使うくらいなら合皮の方が丈夫で良いものを作ることができる、というライフのポリシーがあって使われていることを聞いたことがあります。

誰かから聞いたり、本などを読んだりして感じ入った話、あるいは突然頭の中に浮かんだ考えの芽などを今までダイアリーの片隅に書いていました。
それは時系列で並んでいて、後から探すことも可能ですが、時間の経過とともにダイアリーの中に埋もれてしまうような気がしてもったいないと思っていました。
そういった何かのヒントになる、自分にとってとても大切な言葉や考えの断片を書く専用の手帳、ネタ帳のようなものを作ろうと思った時にサニーゴールド手帳を使いたいと思いました。

1ページが30行になっていて、5行ごとに太い罫線が引かれている、1ページが6つに分割されている独特の罫線は、フリーダイアリーとしても使うことができるように工夫された罫線ですが、ちょっとした考えの断片を書くのにちょうどいい間隔でした。
紙質もとても良く、にじみや裏抜けがまったくありません。
今この手帳の罫線を少しずつ埋めていくことが楽しくて仕方なく、一冊埋めつくしたら、自分にとってとても大切なものになるだろうと思います。
でも44年も生きてきたのだから、もっと早く始めたらよかったのにとも思うけれど。

⇒ライフ「サニーゴールド手帳」

カンダミサコA5ノートカバー(Pen and message.オリジナル仕様)

カンダミサコA5ノートカバー(Pen and message.オリジナル仕様)
カンダミサコA5ノートカバー(Pen and message.オリジナル仕様)

本当に良いノートカバーができたと思いました。
表はシボのあるシュランケンカーフ、内側は手触りの良いブッテーロ革で、とことんこだわった妥協のないものになっていて、皆様にお伝えでき喜びを感じています。
ただノートをカバーするだけのものだけど、素材にこだわって、丁寧に作られたものがこんなに美しいカーブを持ち、程よい重みと張りによる使う喜びを演出してくれるものかと、気付かされた一品です。

シュランケンカーフは、キメが細かく柔らかいカーフを薬品で縮れさせることで、緊密なシボのある硬めの傷に強い革に加工したもので、長く美しく使うことができながら、その使用に馴染んでくれる素材です。
内側のブッテーロは返しをサイズいっぱいにとって、前後ろの両表紙をしっかりさせる下敷き的な役割を持たせて筆記しやすくしています。

このしっかりした表紙の恩恵は思った以上に大きく、立ったままなど不安定な状態はもちろん効果を発揮しますが、机に向かっている時でも書きやすさを感じていただけると思います。
ペンホルダーやベルトなど、カバーを作る時に装備したくなる特長となるものを排したことで、そのカバーして書くという基本性能の高さとそのものの良さが強調されています。
良いものはやはり、シンプルであるということが絶対的な条件なのだと思いました。

このA5サイズノートカバーはカンダミサコさんがもともと作っていたものですが、その形をシュランケンカーフにした当店オリジナル仕様になっています。

厚手のノート、ライフのノーブルノートを収めるために作られたものですが、エイ出版が理想のノートを追究したSOLAシリーズの紙表紙のノートとダイアリーも収納することができます。
こういった革製品はバラバラの色や素材で持つよりも、トータルで揃えたものを持ちたい。少しずつ揃えていく喜びがある方が楽しいと私は思っているので、当店オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース、A7メモカバーと同色、同素材にしています。

ペンレスト兼用万年筆ケースは、当店スタッフ久保が手製で作って自分で使っていたものがそのまま形で商品化したものですが、本当に多くの方に愛用していただいています。
机上で使う時は、フタをペンの枕のようにしてすぐ取り出せる状態にでき、持ち運ぶ時はフタを閉じてペンを保護しながら脱落も防止できるという二通りの使い方ができます。
万年筆を使われている方々の実際の使用に合った便利なものということで、ご愛用いただいているのだと思っています。

A7メモカバーは、多くがちょっとした言葉の断片だったり、一言だけだったりするアイデアの素であるメモをスマートにとれる、ポケットにコンパクトに収めることができるもので、コクヨなどのA7サイズのメモ帳を収めることができます。
発色の良い色もラインナップに加えていますが、あえて黒にこだわって革の表情を唯一の模様としたところに、このシリーズの実用を追究したものの、誇りある選択を感じていただければ嬉しく思います。

*初回発注数があまりにも少なかったため、受注製作ということになり、カンダさんの製作日程との都合でお渡しが2月以降になっています。
誠に申し訳ないのですが、ご予約で承りますのでメールでお申し付け下さい。
どうぞよろしくお願い致します。


⇒A7メモカバー(Pen and message.オリジナル仕様)
⇒ペンレスト兼用万年筆ケース

WRITING LAB.革製インクケース「CADDY(キャディ)」発売

WRITING LAB.革製インクケース「CADDY(キャディ)」発売
WRITING LAB.革製インクケース「CADDY(キャディ)」発売

こういうものを作ってみたいと思っていました。

ライティングラボで、イル・クアドリフォリオに依頼していたインクケースが出来上がりました。
昨年末のシガーケース型ペンケースSOLOについてライティングラボとイル・クアドリフォリオの久内さんご夫妻と話し始めた時には、インクケースのアイデアは生まれていたので、何度か奥様の夕夏さんが試作品を作ってくれていました。

このインクケース作り込みの途中で、久内さんご夫妻はボローニャに革の買い付けに行かれたのですが、そのイタリア行きが、インクケースの完成においてとても重要だったことが、お二人の話から分かりました。

たまに更新される久内さんたちのフェイスブックやブログ
http://ilquadrifoglio.blog53.fc2.com/ では、カフェでポーズを決める、私は外見も中身もほとんどイタリア人だと思う久内さんの様子ばかりを見ていましたが、実はしっかりフィレンツェの師匠の元もお二人は訪ねていて、夕夏さんはペンケースSOLOやインクケースの試作を見てもらって、アドバイスを受けて来られたのです。

そして、お二人がイタリアから帰ってくると、最終の試作から飛躍的な進歩をとげた完成度の高いインクケースが出来上がっていました。
なくても全く困らないものだからこそ、完成度を追究して、美しいものを作って欲しいと思っていました。
爆発的に売れるものではないかもしれないけれど、これは自信を持ってお勧めできるものだと誇らしく思っています。
中に入れるインクは、当店オリジナルインクやWRITING LAB.オリジナルインク クアドリフォリオなどです。

クアドリフォリオのインクの名前を決めた時は、その場に久内さんたちもおられて、お二人を含めた全員一致でこの名前に決まりました。
イタリア行きで久内さんたちは、仕事の意欲をさらに高めてきたようで、作ってみたいと思うものもたくさんイメージすることができたそうです。

資金がなくなるまで革や金具、道具を買い込むことができたイタリア旅行は、久内さんご夫妻とベラゴの牛尾さん、有名靴職人のSさんという4人での旅で、かなりハードスケジュールだったそうです。

2年前にル・ボナーの松本さん、分度器ドットコムの谷本さんとともに行ったヨーロッパ旅行のように、疲れても楽しい旅行だったと想像しています。

知り合って1年になり、久内さんたちのことが少しは理解できてきた、久内さんと夕夏さんの面白さがやっと分かってきたような気がしています。

久内さんはずっと何か気の利いたことを話していて、頭がいつもフルパワーで回転している。それに対して、夕夏さんはとても無口で、何か内に秘めているようなミステリアスな印象を受けます。
でも実はそれほどシリアスなことを考えている訳ではない息抜きの名人で、私と同じ人種。
そんなお二人の作る物をまだまだ揃えたいと思っています。

私が久内さんにオーダーした靴も仕上がってきて、これから履き込んで久内さんに報告して、靴作りに役立てていただきたいし、私の2足目を作っていただけることがあればそれにも役立ててより完璧なものを目指したい。
お二人と当店、そしてWRITING LAB.とのお付き合いはまだまだ続きます。

⇒WRITING LAB.革製インクケース「CADDY」

大和出版印刷「orissi (オリッシィ)」 発売

大和出版印刷「orissi (オリッシィ)」 発売
大和出版印刷「orissi (オリッシィ)」 発売

ドップリとその世界の中にいると、一方向からしか物事を見なくなってしまい固定観念に囚われてしまうことは、今まで何度も経験してきました。

でも意識的に見方を変えるようにしても、それにはなかなか訓練が必要なことだと常々思っています。
私たちに与えられた材料は限られていて、それを同じ切り口から切っているとマンネリ化してくる。
でも同じ素材でも切り口を変えると新しいものになる、それが今回新しく大和出版印刷が神戸派計画というブランド名で発売したメモ帳「orissi」(オリッシィ)を見て改めて思いました。

orissiは買い物メモに特化したメモ帳です。
その特長は見てお分かりいただけるようにページ左側のギザギザです。
このギザギザは罫線の高さと合わせてあって、書いたリストのものを買い物カゴに入れたら(購入したら)、ペンで消しこんでいくのではなく、左の山を折っていく。
出先でペンを持っていなくても、印をつけることができるという、たいていはペンを持っている私たちには思いつかないアイデアが込められています。

万年筆店を営む者として、いかに多くの人に万年筆を使っていただこうかと日頃考えていますので、こういうペンがないことが前提のものは絶対に思いつきません。
でも実際、買い物に出た時にペンを持っていることはもしかしたら少ないのかもしれません。
メモ帳を仕事で使うことばかり考えてきましたが、もっと日常に使えるものも必要だと思います。また、万年筆を愛用されている旦那さんがペンに興味のない奥様にお土産で買って帰っていただけるものが当店にあってもいいと思っていましたので、当店のお客様とはターゲットが全く違うけれど、この orissi とても面白い思っています。

万年筆でとても書きやすいリスシオ・ワン紙を使用した製品を発売して、紙製品メーカーとして名前が知れ渡り始めた大和出版印刷が、メーカーとしてさらなる魅力作りを図ってデザイナー菅原仁氏に協力を仰ぎ、生まれたのが「神戸派計画」というブランドです。

先に発売されたリスシオ・ワン紙を使用した実験的な試みの白罫線のノート「CIRO」に続いて発売されたのが、これも実験的な試みだと思うけれど、ペンを持ち歩かない人がターゲットになっている「orissi」。

常に前に進むことを考える大和出版印刷の姿勢が現れている企画で、私個人としては、切り口を変えて考えることを改めて思い出させてくるれものだと思いました。

⇒神戸派計画「折ってチェックするメモorissi(オリッシィ)」

River Mail マンスリーダイアリーカバー ~ISHIBE KOJI~

River Mail マンスリーダイアリーカバー ~ISHIBE KOJI~
River Mail マンスリーダイアリーカバー ~ISHIBE KOJI~

仕事の方法を選択する時に、感覚的に好きな方を選びたいけれどそれはあくまでも感覚的なものだから、それを選択する理由を人に上手に説明できない。
理論的だったり、数字の裏付けがあったりの常識的な正論に対して、こちらの方が好きだからということを言い出せずにいました。

それはあまりにも子供っぽい、幼稚な思考だと自分の中の常識的な部分がブレーキをかけていたのだと思います。
でも中年と言われる年齢になって、面の皮が厚くなったのかもしれないけれど、好きだからという感覚的決断でも堂々としていようと思えるようになりました。
理論的に正しかったり、数字的な裏付けがあったとしても、そんな選択は誰もがすることだし、そのロジックが自分たちに当てはまるとは限らない。
それなら自分の感覚で判断した方が、失敗しても後悔しないのではないかと思います。

京都山科のRiver Mailの駒村氏と一緒にWRITING LAB.を始めたのもそんなただ一緒に何かしたいと思ったからという、まるで友達付き合いの始まりのような感じでした。
二人が組む理由を営業的なメリットやインディアンジュエリーとステーショナリーの融合などと説明をつけようと一応は努力はしたけれど、何か白々しい感じがする。
何せ始まりは「何となく合いそうだった」というものだったので。
今はそれも堂々と言えるけれど、始めたばかりの頃は何かお客様に説明しないといけないのではないかと思ったりしていたのです。

駒村氏は、当店、分度器ドットコム、大和出版印刷が共同で企画したオリジナルリスシオワンマンスリーダイアリーをWRITING LAB.の革封筒の中に薄いダイアリーを書類と一緒に入れたり、ベルルッティのブリーフケースに入れたり、ボロボロの手提げ紙袋に入れて使っています。

本当はウィークリーダイアリーやデイリーダイアリー、全てを使っていただきたいけれど、マンスリーダイアリーだけを愛用されている方は、多いと思っています。
あの薄さは荷物にならなくてとてもいいし、紙面のサイズはそれなりに大きく、薄さに対しての情報量が多いのです。
予定をチェックする時に見開き1か月のカレンダータイプはとても便利だと思います。
マンスリーダイアリーの愛用者の駒村氏が、自分が使いたいという理由でベラゴの牛尾さんに依頼して完成したのが、リスシオワンマンスリーダイアリー専用カバー ISHIBE KOJI です。

石塀小路は、京都高台寺近くのとてもきれいに整えられた雰囲気のある小道で、この京都らしい家並み、石畳の石塀小路はとても京都らしい場所だと思います。

ベラゴ牛尾さんがとても手間がかかると嫌がったダブルステッチ、薄く表情が出る程度に留められたパティーヌ技法による色付けなど、とても上品なものに仕上がっていて、アパレルの業界に身を置いてきた駒村氏のセンスと、もともと繊細で美しい作品を作ってきた牛尾さんの技術が融合した、ぜひ使ってみたいと思わせてくれるものになっています。

マンスリーダイアリーを愛用してくださっている方のためのカバー ISHIBE KOJI、私の企画ではないけれど私も誇りに思っているカバーに仕上がっています。

木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ

木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ
木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ

様々な考え方があると思いますが、万年筆と人との関わりを、仕事道具と趣味的な遊びの道具と生き様を反映するものという3つに分けて私は考えています。
人それぞれ万年筆に求めるものが違っていて、だから選ばれる万年筆が違ってくる。
木の万年筆は趣味的な遊びの道具だと思っています。
それは磨いて艶を出す楽しみをまず第一に思い描くからです。
最初はなかなか光らないけれど、我慢して磨き込むうちに少しずつ艶が出てきて、気が付くとピカピカになっている。

もちろん実用的な効用も木のボディにはあります。
寒くなってくると、万年筆のインク出が多くなってきたとか、キャップの中にインクがついているという相談を受けることが多くなります。
冷たい外気の中にあった万年筆が温かい室内に入った時にインクタンクの中の空気が温まり、膨張してインクを押し出そうとします。
現代の万年筆のペン芯は、その溢れそうになるインクを受け止めるようになっていますが、どうしてもインクの出は多くなってしまいます。

また持ち運び時のショックで、空気膨張によってペン芯に溜まったインクがキャップ内に落ちてしまうこともあります。
一番多い万年筆のボディの素材、アクリルやプラスチックは熱を伝えやすいのは否めず、エボナイトや木は熱伝導率が低く、万年筆内の温度が変わりにくいと言われています。
セーラーの伝統のある万年筆のシリーズ、銘木シリーズがこの時期に復活したのは、木の温かみを冬の方が感じやすいということもあると思いますが、冬のインク出量の変化対策に木のボディが有効だということも理解してのタイミングなのだと思っています。

この万年筆の用途は、細字のみの設定、勘合式のパッチンキャップ、小型のボディなどから手帳やメモに書くための万年筆。
ポケットにいつも差していて、一番手が触れる機会の多いペンを使うほどに味わいの出る木で作りたいというセーラーの意図があります。
旧銘木シリーズは中字のみのペン先、大きく重ため(28g)のボディで、ゆったりと机に向かって書くイメージだったので、万年筆が一番よく使われるシーンの時代による変化に合わせたコンセプトの変更です。

木の万年筆は趣味的な遊び道具と申し上げましたが、銘木シリーズは趣味的な部分とポケットに差して、メモなどの使い易いという仕事道具としての機能性を兼ね備えたものになっています。
オマスコイーバは、最近では見られなくなってしまった遊び心のある面白い限定万年筆で、こういうものが久し振りに発売されたと、個人的にはとても喜んでいます。

面白い木目のボディはジリコテウッドで、その色合い、サイズもコロナサイズの葉巻そのものです。
ジリコテウッドのボディとバーメイル(スターリングシルバーに金張り)の金属部を持つボディは遊び心に溢れていますが、箱も凝っています。
葉巻のヒュミドール(保管庫)として使うことができるように、湿度計が内蔵されていて、鍵までついています。
この万年筆は間違いなく趣味的な遊びの要素を持った万年筆だと言えますが、イタリアの万年筆にはそのような余暇を楽しむような、仕事から離れたところで使うような万年筆、仕事中であっても遊び心を忘れないようなものが多く存在します。
イタリア製の万年筆に、多くの人がそれを期待したからだと思いますが、きっとイタリア人のライフスタイルが反映されたものなのではないかと思っています。
長い昼休み仕事場から家に帰って食事の後何か書き物をする時、週末日本のようなレジャー施設のないイタリアでは家で過ごす時間も長く、そういった時間をより楽しむためのもの。
そのようなイタリアでの生活も思い描くことができるのが、イタリア製の限定万年筆で、オマスコイーバはその期待に応えた万年筆です。
どちらの万年筆もそれぞれのメーカー、社運を賭けた勝負に出たものだと思うけれど、万年筆の世界を遊び心のあるものにしたいという願いがこもったものであるような気がして仕方ありません。

書店の理想と書皮

書店の理想と書皮
書店の理想と書皮

WRITING LAB.の活動を一緒にしている駒村さんの山科のお店River Mailから、以前駒村さんの伯父さんとお母さんがされていた本屋さんのブックカバー 書皮(しょひ)が出てきました。
River Mailは10年ほど前に閉店したその本屋さん「本のこまむら」を改装してできたインディアンジュエリー/ステーショナリーのお店で、京阪電車京津線四宮駅から南すぐの場所にあります。

今昔の面影を偲ぶのは難しいけれど、四宮駅から南方向に四宮商店街があって、道の両側に商店が軒を連ねていました。
「本のこまむら」ができたのは昭和40年代前半で、商店街も賑やかに人が行き来していたそうです。
小さな駅、小ぢんまりとした商店街に、四宮神社があり、山が近くに見える京都と大津という都市に挟まれた田舎町の風情が感じられる町が四宮です。

「本のこまむら」の書皮にはおもしろい逸話があります。
オープンの告知に配ったチラシの中に伯父さんは長新太さんが「星の牧場」という絵本で描いた絵を入れました。
そのチラシがどう廻ったのか分かりませんが、東京におられた長さんの知るところとなり、長さんから絵を無断で使っていることを指摘する手紙が届きました。
伯父さんは長さんに参考書、百科事典や絵本の子供の本中心の本屋を成功させたいと長さんに夢を語り、それに共感した長さんが絵を書皮に使うことを承諾してくれました。

その話を駒村さんから聞いて、伯父さんの情熱、それを意気に感じた長さんの心の広さ、その時代のおおらかさ全てに心を打たれました。

私たちが高校生くらいの頃までは、たくさんの本屋さんがありましたが、様々な娯楽が出来て本を読む人が減り、コンビニができてジワジワと減っていきました。
とどめはインターネットで、安く、早く本を買うことができるようになったことで、個人経営の本屋さんが激減しました。

個人経営の本屋さんそれぞれに理想があって、それを目に見える形で表現したのが書皮で、お客はその書皮を纏った本に誇りを持って、例えば電車の中で鞄の中から取り出す。
世の人の大半はいつしかどこで買ったという誇りのようなものを持たなくなって、店の提案ではなく、インターネットの情報や人気投票というランキングで本を選ぶようになって、少しでも安くて早い本を読むようになりました。

こだわりがあって提案のある個性的な本屋さんで本を選ぶ機会を逸したのは、私たちがそういう本屋さんを利用しなくなったのが原因で、私も大変後ろめたく思うのです。
本のカバーで最も使いやすいのは、本屋さんが掛けてくれる書皮で、何の出っ張りもなくて、手の収まりが良い。

余談ですが、書皮を片側のページだけ表紙にはめて、反対側は巻き込むだけで客に渡す本屋さんが多くなりました。
時間がかかるし、ハードカバーなどは特に手間なのも分かるけれど、私は両側の表紙にしっかりと書皮を通してもらいたいと思います。
学生時代垂水東口の本屋さんで4年間アルバイトをしていたけれど、書皮はかならず両側の表紙に通してお客様にお渡ししていました。

話は戻りますが、誇りを持って使うことができる書皮が私の周りに少なくなって、それではとWRITING LAB.で革で書皮を作ろうということになりました。
栃木レザーの上質な、色合いもWRITING LAB.らしい色気のあるクリーク革を極限まで剝いて、薄くしたものを張り合わせています。
反対側は本の厚みによって折り目を入れる場所が異なりますのでフリーにしています。
折りたい所に指で少量の水をつけて折っていただくと折り目がつきやすく、ついた折り目も水をつけて押さえていただくと消えやすくなります。
上質な革をあえて薄く紙のように使うのは、とても贅沢な使い方ですが、革を使うことでしか、個性的な本屋さんのこだわりの書皮に代わるものを作ることは不可能だと思いました。

ブックカバーとは少し違う素材感をぜひ試してみて下さい。