万年筆店の思想が見えるオリジナルのペンケース~ペンレスト兼用万年筆ケース~

万年筆店の思想が見えるオリジナルのペンケース~ペンレスト兼用万年筆ケース~
万年筆店の思想が見えるオリジナルのペンケース~ペンレスト兼用万年筆ケース~

万年筆店にとって、自前のペンケースを持つことは自分たちがどのように万年筆を思っているかを表現することであり、オリジナルの万年筆以上に大切なことだと思うことがあります。
つまりオリジナルのペンケースを見ることで、その店の思想のようなものを見ることができるのではないかと思います。

オリジナルペンレスト兼用万年筆ケースは、当店の万年筆への考えが反映されたペンケースであると、自信を持って言うことができます。
発売を開始して3年が経ちましたが、このペンケースをご理解いただいた多くの方に愛用していただいています。
このペンケースは万年筆を道具としている人のためのケースであり、そのための機能と質を持ち合わせています。
持ち運ぶ時はフタをペンに被せるように閉じてペンが傷つかないようにし、ペンを使っている時はフタをペンの枕のようにしておくことですぐにペンを取り出せる。
ちょっとしたことかもしれませんが、ペンの出し入れを繰り返す時、フタを開かずに取り出すことができるというのは、大変便利だと私も使っていて感じています。
ファーバーカステルクラシックエボニーの万年筆とボールペン、細字用として完璧な万年筆パイロットシルバーンが私の鉄壁のオンタイム3本セットで、ペンレスト兼用万年筆ケースにいつも収まっています。

シュランケンカーフは、柔らかさがないと成り立たない構造の役に立つしなやかさを持ちながらも、型崩れしない強靭さも併せ持っています。
このペンケースが長く愛用できるものであるのは、シュランケンカーフという上質な素材に依るところが大きいかもしれません。
シンプルなデザインですが、実はその被せる革の長さや縫い合わせの幅で開け閉めのしやすさが全く違いましたので、製作してくれているカンダミサコさんの腕の良さと行き届いた丁寧さがあって実現したものであることは言うまでもありません。

当店の万年筆の思想。それは何よりも替え難い大切なものであるけれど、仕事など日常の道具として使われるもの。
そういう万年筆をいつもご提供していきたいと思っていますので、そういう仕舞い方ができるペンケースを作りたかった。

それがペンレスト兼用万年筆ケースの起こりで、40本あまりの万年筆を日々駆使しているヘビーユーザー(?)とも言える当店スタッフKの思い付きがこのペンケースに生かされています。
スタッフKは、かなりズボラ(関西弁で面倒臭がりの意)な性格で、私以上にペンケースのフタの開け閉めが面倒だと思っていました。
ペンを取り出す時面倒でなく、素早くペンを取り出すことができて、持ち運ぶ時誤ってペンを落としたりしないようなペンケースが欲しいと思っていた彼女は、手近にあった布でそんな理想に叶ったペンケースを作って使っていましたが、それがペンレスト兼用万年筆ケースの原型でした。

そこからの試行錯誤があり、機能性とデザイン性を兼ね備えたペンケースとして仕上がっていると思います。

⇒Pen and message.オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース

昭和のビジネスマンの定番 パイロットエリート

昭和のビジネスマンの定番 パイロットエリート
昭和のビジネスマンの定番 パイロットエリート

海外で生まれたもので、日本に入ってきて独自の発展を遂げたものは多くあると思います。

古くは香や茶など、それらはそれをたしなむ芸道になって工芸などを巻き込んで文化になっていきましたし、身近なところでは携帯電話がそれにあたります。
ガラパゴス携帯と揶揄されるように、各メーカー、各キャリア独自の規格で、独自の機能を盛り込んで高機能を追求したものですが、ソフトに共通性がなく、カスタマイズできないので壁に当たっています。

素晴らしく作り込む日本製品のあり方も電化製品では20世紀的であり、個を重んじる21世紀的ではないのかもしれません。
エボナイトの変色を抑えるために漆を塗るという発想から、漆で絵柄を施した蒔絵万年筆も日本で独自に進化し、確固たる地位を築きました。
キャップを閉じている時は短く、キャップを尻軸に差すと長く、筆記しやすい長さになるショートタイプの万年筆も日本で独自に発展した万年筆です。

それらはワイシャツのポケットに差しても底が当たらず、かさ張らず、ビジネスマンたちにとって、とても使いやすいものでした。
タバコの入ったシャツの胸ポケットにショートタイプの万年筆を差していたビジネスマンが多くいたいと想像しています。
このショートタイプの万年筆で、それよりも少し早く登場していた能率手帳に書き込むというのが、できるビジネスマンの定番のスタイルで、どちらも昭和を代表する、高度経済成長を支えたとても機能的な道具だと言えます。

国産各社から発売されていたショートタイプの万年筆で、最も代表的なものはパイロットエリートでした。
エリートが発売されたのが1968年で、今から45年前のことです。
私もエリートと同い年で、このパイロットエリートが復刻されたことに、心がざわめきます。
しっかりとした塗装のアルミのキャップもそのままですし、すべらかでありながらもしっかりとしたキャップの感触もそのまま。14金の大きくしなやかなペン先も健在です。

誰もが万年筆を持っていた時代だからこそ、何本も万年筆を持っている人は少なく、胸ポケットに差したエリートは、手帳書きから手紙など様々な用途に使われていたのではなかとイメージしています。
昨今の万年筆は私たちのような限られた人間には、あって当たり前の道具ですが、大多数の人にとっては特別な近寄り難い特別なものになっています。

でもエリートはそのあり方が違っていて、たくさんの人がそれだけを持っているような、万年筆が気負いのない道具だった時代の名品だと思っています。

⇒パイロット エリート95S

大人の真剣な遊び心

大人の真剣な遊び心
大人の真剣な遊び心

この万年筆は1本ずつ非常に丁寧に作られたものだと思いました。

クッキリとエッジの立った、磨き抜かれたボディ。金張りの3本のキャップリング。トップのホイールに天然石オニキスが奢られたクリップ。
この万年筆のオリジナルは1936年、創業者のアルマンド・シモーネがオマスの陣頭指揮を執っていた時に作られたもので、私は8年ほど前に復刻されたオマスエクストラトランスルーセントを見たのですが、忘れられない万年筆としてずっと頭の片隅に残っていました。
夏になると透明のボディのデモンストレーターが各社から発売されますが、これほどのものを見ることはあまりありません。

このトランスルーセントは、「遊び心のある万年筆を最高の素材を使って作り上げ、実用品を超えた万年筆を作るメーカー」として、その後の私のオマスの印象を決定付けたと言っても過言ではありません。

その後日本代理店の不在により市場から姿を消したオマスの復活を待ち望んでいました。
この万年筆を見て思い付いた印象をキーワードにすると、「作り込む」ということでした。
透明で柄入りの万年筆のボディはもっと価格を抑えることができるアクリルボディでも作ることができます。
でもそれをオマスはしないだろうことは予想がついていて、この辺りにオマスの価値があるように思っています。
今回復刻されたエクストラルーセンスに、当店が選んだペン先は14金のエキストラフレックスニブで、これは往年のオマスに付けられていた非常に柔らかいペン先で、筆圧に気を付けないと引っ掛かりが出てしまいます。
しかしそのボディ同様に書くことを楽しめるものになっていて、遊び心を存分に刺激してくれる万年筆に合ったものになっています。

遊び心を感じさせてくれる万年筆をもう1本。
ビスコンティオペラマスタークリスタルをご紹介いたします。

もちろん明言はされていませんが、この万年筆はシェーファーのトライアンフ型のペン先のついた万年筆へのリスペクトが感じられます。
シェーファーのトライアンフ型ニブは現在作られていませんが、マニアックな仕様が多かったシェーファー独特の仕様のひとつでした。
独特の形のペン先ですが、とても書き味の良いもので、成功していた仕様のひとつでした。

筒状で、地金はネジを切ってボディに装着する構造になっているほど厚く、表面の刻印が薄く裏側に写るものが多い現代のペン先とは、真逆のものです。
素材の厚さは、万年筆においては良い結果をもたらすことが多く、トライアンフ型ペン先の書き味も良いフィーリングのものでした。

オペラマスタークリスタルのペン先は、素材こそ最近のビスコンティが取り組んでいる新素材のうちのひとつクローム18というものが使われていますが、とても厚く、ネジが切られている構造は同じで、書き味もシェーファーのものに近いと思いました。
ペンポイントは少し上に反ったような形状をしていて、これによりペン先を開きやすくし、弾力のある書き味に仕上げています。

このペンポイントの恩恵は変化のある美しい日本字を書く役にも立っています。

ペン先に装着して、ストローのようにして吸入させることができる、シュノーケルデバイスはインクが少なくなったボトルインクも楽々と吸入させることができるものです。
引き上げておいた尻軸を軸に戻すように押し込むことで、大量のインクを一気に吸い上げる劇的な「ダブルタンクパワーフィラー吸入」とともにインク吸入の儀式を厳かなイベントにしてくれる演出をしてくれます。

これをいかに格好良く所作するのかも、大人の遊び心なのかもしれません。

*画像の万年筆はオマスの「エクストラルーセンスリミテッドエディション」です。


インクの話

インクの話
インクの話

子供の頃から天邪鬼で、親の言うこと、特に母親の言うことの反対のことばかりしていました。
母が焦れば焦るほど私は勉強の嫌いな子供になっていきました。
そんな子供だったのに、万年筆ではいつも両親が使っていたものを思い出しますし、インクの色は二人が使っていたインク、父のパイロットブルーブラック、母のモンブランブルーブラックがいまだに万年筆のインクの色のイメージになっていて、真似するつもりはないのに、私がいつも使ってしまうインクの色はいつもブルーブラックになっています。

季節によってインクの色を変えたいとか、用途によってインクを変えたいと思うけれど、私の使い分けはいつも使う紙に対して、同じブルーブラックでインクの性質を使い分けるオイルのような使い方になってしまうのです。

私がインクの色の冒険をしないのは、絵心のなさも影響しているのではないかと思っています。
いろんな色で書きたいという欲求があまりありません。
でも様々な色のインクで書かれているノートを見るときれいだと思いますし、自分もそんな風にノートを彩りたいと思います。
もしかしたらすぐに戻ってしまうかもしれないけれど、ブルーブラック以外のカラーインクを使うようにしたいと思いました。

私のようなカラーインクとの付き合い方に、エルバンは容量が少なくてちょうどいいと思っています。
エルバンが良いと思う理由はもちろん量だけでなく、その色とストーリーのある名前のセンスがいいと思っています。
当店でもオリジナルインクを発売していますが、ストーリーとかセンスを大切にしたいと思っています。

そう言いながら、いつもブルーブラックのインクを入れて万年筆を買っていただいた方に硬い手紙を書いているペリカンの万年筆に「ビルマの琥珀」を入れてみました。
とても柔らかい発色で書いたばかりの時、少しビチャビチャした印象を受けるけれど、乾くとしっかりと発色してくれる不思議な質感。
ビチャビチャした感じは、万年筆の詰まりにくさに貢献しているように思い、どの万年筆に入れても安心して使うことができるインクという、エルバンの定評を裏付けています。

エルバンは1670年から続いているメーカーで、創業343年という、ファーバーカステルの252年を超える文具業界では老舗中の老舗で、340周年の時1670という名前のメモリアルインクを発売して大好評を博しましたが、その1670インクを復刻発売しています。
オーシャンとカーマインの2色がメモリアルインクとして発売されていました。
オーシャンはエルバンには珍しく強めの色合のブルー。カーマインはオレンジ色に近い赤色で、もちろんどちらの色も従来のトラディショナルインクにはない色になっています。

ペリカンのスタンダードインク4001はエルバンのインクと並んで定評のあるインクで、万年筆売場のほとんどが試し書き用にペリカンのロイヤルブルーを採用しているところがそれを裏付けています。
ペリカンロイヤルブルーは、しっかりと水洗いすると万年筆に残りにくいですが、万年筆に吸入させて使うと、乾きの早さが際立っていて、とても使いやすいインクです。

ペリカンのインクのボトルをゴージャスにして、よりインク出をスムーズにしたものが、エーデルシュタインインクです。
エーデルシュタインインクは、毎年限定インクを発売していて、インク・オブ・ザ・イヤー2013はアンバーです。私が色インクとして選んだエルバン「ビルマの琥珀」と同じ系統の色ですが、温かみがある色で間違いなく人気が出る色だと思っています。

なるべく色インクを楽しむようにしたいと思っていて、皆様のお手元に色インクで書かれた私からの手紙が届く日がいずれ来るかもしれません。

ペン先調整雑感

ペン先調整雑感
ペン先調整雑感

ペン先調整はどういう時にしたらいいのですか?とよく聞かれます。

包丁のように刃が鈍くなって切れ味が悪くなったら研ぐというものではなく、書きにくいと思われたらその時にペン先調整に出されることをお勧めしますが、書きやすいと思っているものを調整に出す必要は全くないと思います。

でもそれでは、自分はどこまでを求めたらいいのかという何か哲学的な話になりますので、そんな時は一度拝見させていただいて、調整する余地があれば調整し、正常な状態で、調整の必要がなければ調整せずにお返しするようにしています。

万年筆をより書きやすくするペン先調整は、こんな風にしたら完璧という正解があるわけではありません。
ペン先の状態には、正常という野球で言うとストライクゾーンのようなものはありますが、その万年筆を使われる人によって好みがあって、ストライクゾーンの中でどのようにすれば気に入っていただけるかを模索する作業もまた、ペン先調整です。

特にインクの出方の調整はどのようなインクを使うか、どんな紙に書くか、筆圧は強い方か弱い方かなどを考慮して調整することによって、よりお好みに合ったもの、理想の万年筆に近付けることができると思います。
そういう理由で、当店で万年筆調整を依頼される場合は、インクは入れたままで、いつも使われる紙をお持ちいただくと万全です。

私はペン先調整をするのがすごく好きで、書けなかったり、書きにくかったりした万年筆が自分の手によってその役割を全うすることができるようになった時、本当に嬉しくなります。
それはペン先調整を始めてから今まで、ずっと変わりません。
でもやればやるほど難しさが見えてきて、ペン先調整をするようになったばかりの頃の方が、何も考えずに簡単だと思っていたようなところがあります。

ペン先調整はペンポイントをルーペで見ると誰の調整かサインがしてあると思えるくらいに個性が表れるもので、おそらく調整師によって美学のようなものがあるのだと思います。
私にも理想の形のようなものがあって、全てのペン先をその理想の形になるようにしたいと思っているところがあります。
でも例えば店を始めたばかりの6年前よりも今の方が断然経験値は上がっているので、当時の自分の仕事を見ると、きっとまた違うものが見えるように思います。

そして、万年筆のペン先調整をペン先の研ぎと考えてしまうのは、私はあまり賛同できないところがあります。
ペンポイントを削らなくても書きやすくなるペン先はたくさんあるし、削れば削るほど、ペンポイントの寿命は短くなっていきますので、削る量をなるべく少なくするのが、良いペン先調整だと思っています。
それでも書き味の良い万年筆に出会った時、その研ぎがどのようになっているのか気になって、ルーペですぐに見たいと思います。
昔の万年筆、特にドイツのものは、丁寧に研がれているものが多く、そんな仕事を参考に、今の万年筆に反映できないかを、いつも考えています。

ペン先調整をする万年筆販売店として営業しているので、完璧な状態のペン先をお客様にお渡しする気持ちでいますが、日を追うごとに自分の中での完璧な状態は変化していて、まだまだ行き着いたという感じはありません。
おそらくこれからもずっと追究し続けるのだと思っています。

初めての万年筆選びに

初めての万年筆選びに
初めての万年筆選びに

このペン語りの中で数回に一度、初めて万年筆を使う人に向けてお伝えしていきたいと思います。
万年筆を使い慣れている方には必要のない情報ですが、身近に万年筆を使ってみたいと思われている方がいて、何か勧めたいと思っておられる方はぜひ参考にしていただきたいと思います。
そして、これから万年筆を買って使いたいと思っておられる方も参考になればと思います。
もちろん他にも良い万年筆がありますし、ご自分が使いたいというものが他にある時は、その気持ちを優先していただきたいと思います。

万年筆を初めて使ってみたいと思って当店にご来店される方は、実は皆様が想像されているよりもきっと多いと思います。
気に入った万年筆が見つかって、その万年筆をこれから使おうとされているお客様を店から送り出す時、万年筆を使われる人がこれでまた一人増えたと、私は初心を思い出します。

初めて万年筆を選ぶ時に何を基準に選べばいいかというのはよく聞かれる質問ですが、お好みのデザインで選べばいいですよ、とよく言っていました。
それももちろん間違ったことではないけれど、お好みのデザインが分らないから聞かれているということに、私たち販売員は気付くべきでした。

例えば初めてちゃんとした、そして趣味としての革靴を買おうとしている時に、それはもちろん普段の服装でも違うと思いますが、オールシーズン、晴雨関係なく履くことができる定番的なものとして、トリッカーズやパラブーツを勧めてくれる人がいたらとても感謝したと思います。
そういう靴は、その後靴が増えていってお気に入りの一番手ではなくなったとしても、履かなくなることは絶対になく、履き慣らした味をその靴は醸し出してくれて、特別な存在になる。

万年筆でもそういったものがあって、使い続けることでどの万年筆にも替え難い良い書き味を持ちますので、それを使わなくなることは避けたい。
その世界を少し知るとあまりにも定番的でオーソドックスな選択で面白くないかもしれませんが、万年筆でのトリッカーズやパラブーツを紹介したいと思います。
用途がはっきりしていて、書く機能だけを追い求めるということでしたら国産の2万円クラスの万年筆がその資源の全てがペン先に注がれていると言っても過言ではない特異な存在として、ここでは外しています。

書き味やボディのデザインなどの外見的なオリジナリティ、インクの交換なども含めた万年筆全てを楽しむことができるものをいつも使って欲しいと思っています。
インクの性質によって書き味や性能の違いがあまり出ない、優れたペン芯を持った扱いやすいものとして、やはりペリカンを初めて使う万年筆としてお勧めしてしまいます。
ペリカンはそれぞれのモデルの用途を理解していると、どれも存在価値のあるもので、後にどんな素晴らしい万年筆を手に入れたとしても使わなくなることがないと思っています。

M300、M1000はかなり趣味性に偏った特殊な存在なのでここでは外しますが、M400、M600、M800の3種類を初めて使う万年筆としてお勧めします。
他に万年筆が手に入った時にそれぞれ適した用途(胸ポケットに差して携帯するM400、机上用としてペンケースに入れて持ち歩くM800、そのどちらにも使いやすいM600)に徹して使うようにすればいい。

字幅はEF(極細)をお勧めします。
日本のメーカーのEFはかなり細く、手帳用としても細いくらいですが、海外のメーカー、特にドイツのメーカーのペン先はかなり太めなので、EFを選択してノート書きにちょうど良く使うことができます。
インク出が多く、少し太くなるけれど手帳にも使えないわけではなく、手紙や葉書などノートより大きな文字も書くことができて、用途も広いと思います。
ペリカンのこれらの万年筆は、どんなに万年筆を長く、たくさん使っている人でも愛用の1本に入っている使い続ける価値のあるもので、なるべく早く使い始めて、数年後には自分の書き癖のついた書きやすい万年筆を手にしていて欲しいと思います。

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175年の歴史を踏まえたペリカンの決意表明

175年の歴史を踏まえたペリカンの決意表明
175年の歴史を踏まえたペリカンの決意表明

ペリカン175周年ジュビリーペンが発売になっています。
世界238本、日本国内15本というとても希少性の高いものになっています。
ペリカンの創立記念モデルなので、もっとたくさん作ってもいいのではないかと思いますが、希少性を重視したのでしょうか。

当店は今創立5年半ほどで、ペリカンの175年という歴史と比べようのない新しさですが、それでもそれなりに色々な出来事や分かれ道などがあり、今に至っています。そしてそのことは全て私の誇りになっています。
ペリカンの前回の創業記念モデル170周年が発売されたのは、この店を始めて半年程経った頃でした。
何となく向かっていく方向にかすかな光が見え始めた頃に、ペリカンから170周年記念万年筆を発売するという案内がありました。
定番モデルマジェスティを総金張りにして、天冠に3つのダイヤモンドをあしらったモデル。
170周年記念万年筆はとてもゴージャスに見えました。
それは書くということをもっと楽しくしてくれる、書き味の良い筆記具という、今まで私が持ってきた万年筆の価値観を遥かに超えたものでした。
店を始めたばかりの余裕のない時ということもありましたが、それよりも私の視野の狭さ、了見の小ささから170周年はこの店には必要ないとして見送ってしまいました。

それから月日が流れて、書く道具という側面以外の万年筆の魅力について考えるようになってから、その存在を受け容れることができず、遊び心を持って万年筆を見ることができなかったことと、170周年を見送ったことが重なり、後悔となって心にいつまでも残っていました。
そういったこともあって、ペリカンの創業175周年の万年筆は見送ることなく、仕入れたいと思いました。

今年発売された限定品M101リザードのボディ、キャップにキャップトップとボディエンドをスターリングシルバーにして、天冠には170周年同様3つのダイヤモンドを埋め込んでいます。
特別仕様の18金のペン先の書き味は金属パーツのために増した重量のせいもあるのか、大変良い書き味を持っています。

今から75年前、ペリカンの100周年の年に華々しく発売したモデル100Nの中の異色の万年筆101Nリザードを現代風にアレンジしたものがM101Nジュビリーペンです。
顧客から期待されているその歴史を尊重した物作りに応える、そしてそれらを踏まえて新しいものを生み出していくというペリカンの姿勢、決意が感じられる、メッセージ性の高いものだと解釈しています。

老舗ペリカンの175周年という大変長い歴史を記念するラグジュアリーな1本は、万年筆はペン先だけではない、ボディの装飾や造形などの設えを含めた、その全体を作品としてとらえて楽しむこと、そして背景についても考えさせられる。
そして周辺のものとの取り合わせにもこだわる文化なのだと語りかけてくれているように私には思えます。

カンダミサコミニペンシース

カンダミサコミニペンシース
カンダミサコミニペンシース

どんな業界にも才能のある人というのは当然いて、そういう人は地道にその地位に登っていくのではなく(ご本人はもちろん努力されていますが)、ある日突然脚光を浴びて、有名になっていくものだということを、たびたび目にしてきました。
私の身近にいる人では、カンダミサコさんがそれに当てはまると思っています。彼女をサポートする旦那さんの企画力、マネージメント力も相当に才能が感じられて、強力な力になっています。
カンダさんをル・ボナーの松本さんから紹介していただいて、ペンシースを扱い始めてから4年くらいしか経っていませんが、今では大丸百貨店でのイベントに年数回定期的に声が掛かり、出ればお客様が集まるほどの知名度を持った人になりました。
一緒に仕事をしている人がそうやって成功して、有名になっていくのを見るのはとても嬉しいし、関わりのある人が成功していくことは当店としても非常に大きなメリットがあると、少し厭らしい考えだけど、思ったりします。

カンダさんと仕事を始めた最初がペンを1本だけ収納するペンシースで、これは今もたくさん売れる、当店に来ていただく理由にもなるものです。
筒型のとてもシンプルな構造で、パリッとしたものが多い万年筆関連のものの中で、そういった肩の力が抜けた印象を受けるところもカンダさんの作る革製品の一貫した特長になっています。

ペンシースは、この表現が万人に通用するものかどうか分らないけれど、最も標準的なプロポーションを持つ万年筆であるペリカンM800が無理なくピッタリと収まるサイズになっています。
レギュラーサイズの万年筆は収めることができて、汎用性があって、とても使い易い。
でもカンダさんのペンシースを使う人はもっと可愛らしいペン、例えばペリカンM300のようなミニペンにも合わせたいのではないかと思い、当店オリジナル仕様としてミニサイズのペンシースを作っていただきました。

ペリカンM300シリーズ、アウロラミニオプティマシリーズ、デルタドルチェビータミニ、パイロットレガンス89Sなどを収めることができます。

ペリカンの限定品M101リザードも上下1mmずつほど出てしまいますが、これは収まっていると言って差し支えないだろうと思っています。
普通サイズのペンシース同様に傷に強く、とても使いやすく発色のきれいな革、シュランケンカーフを使用しています。
当店とカンダさんとの企画、A7サイズの小さなメモカバー、A5サイズノートカバーなどと色を合わせていて、揃いで持てるようにしています。
ミニペンは机上で使うよりも、外に持ち出して使うべきものだと思っていますので、そんな使い方に役立つのが、カンダミサコミニペンシースだと思います。

文房具での遊び

文房具での遊び
文房具での遊び

ラミーサファリの2013年限定色ネオンが発売されました。

私は知りませんでしたが、蛍光色が今のトレンドカラーとのことです。
私の感覚では蛍光色というと、昭和バブルの頃を思い出させるものですが、あれから25年ほど経つわけなので、流行色も一巡りしてもおかしくないのかもしれません。
当時活発に活動していた遊びサークルの子たちはよく蛍光色の服を着ていました。
レコードと本とドライブの日々を送っていた自分よりも彼らは時代の波に乗っているように見えていて、蛍光色の服、日に焼けた肌、太い眉、長い髪、何か胸がキュンと痛くなります。

文房具は好きな仕事をもっと楽しくしてくれるものだと思っていて、文房具が好きな人は自分の仕事が好きな、とても幸せな人だと思います。
仕事の中に遊びの要素を付け足してくれるものが、好きなものを選んで使う文房具で、それは会社から支給されるものでは得られないことをもたらしてくれます。
ゴールデンウィーク中も自分の仕事の中に、新たに何らかの文房具を導入しようとあれこれ考えておられた方も多いのではないでしょうか。
それは確かに仕事だけど、その頭の働きは新しい遊びを考えるものに似ています。

私もいつもスケジュール、ToDo管理のリスシオダイアリーを柱に、一番大切に思っているノートのシステムについて考えています。
どうすればもっと自分の仕事が良くなるか、どうすればもっと荷物が少なくなるか、そして何よりもどうすればもっと楽しいか。
スケジュール管理は綴じ手帳が向いているし、複数の企画を同時に進行させて管理するには、システム手帳やテーマごとの薄いノートが向いている。
そんなことはいつまでも考えることができるのです。

万年筆も、特にサファリも立派な文房具で仕事に使うことができる、遊び道具だと言うと賛同してくれる人も多いと思います。
サファリの良いところは、すでに語り尽くされて、私も語り尽くしているけれど、考え抜かれた実用性を持ちながら、オリジナリティに溢れているところだと思っています。

そして、何本も持っていたいと思えるところ。
中に入れたインクの色によって、ボディの色を選ぶような、カラーペンのような使い方ができるところもサファリらしいところです。
蛍光イエローのサファリと聞いて、すでにピンと来て、実践している人もいるかもしれませんが、サファリネオンを蛍光マーカーに使うことができるのではないかと、お客様から提案していただきました。

これは自己責任でやってもらいたいと思いますが、サファリネオンにコンバーターを付けて、ペリカンの蛍光イエローのインク ハイライターインクを入れるというものです。
ハイライターインクは万年筆のインクにしては強い発色を持っていて素晴らしいですが、どうしても万年筆に色が付着しやすく、残ってしまいます。
ハイライターインクには、ハイライターインク専用に何か用意しなければいけない。
サファリネオンはまさにピッタリの万年筆です。
吸入式のペリカンにハイライターインクを使うのは少し抵抗がありますが、サファリなら惜しげもなく使うことができる。何なら定規をペン先に当てて線を引いても構わない。
金ペンの万年筆でこれをやると、定規と接触したところだけ擦り減って、悲惨なことになってしまいます。
本を読んで自分の仕事をもっと良くしようとするのと同じように、文房具や万年筆にお金を使うのも自分への投資に違いない。

文房具や万年筆は仕事の中に遊びの頭を持ち込ませてくれるもので、それはもしかしてとても貴重なものなのかもしれないと思います。



*あくまでも自己責任でお願いします。

ペリカンM300の粋

ペリカンM300の粋
ペリカンM300の粋

上着を着ている時は内ポケットがあって、そこに手帳とペンを入れています。
ペンケースも持ち歩いていますが、すぐにメモを取りたいと思う瞬間は突然やってくるので、いつも手近なところにペンと手帳があって欲しいのです。

上着を着なかったり、収納スペースを増やすためにもシャツには胸ポケットがあって欲しいし、ポケットは口の部分が補強された丈夫なものであって欲しい。
今年はまだ涼しいけれど、暖かくなって上着のいらない季節になるとよくベストを着ます。
ベストの良いところは暑い季節に上着を着ずして、何となくちゃんとして見える、お客様に対して失礼のない格好に見えるところです。
マイルス・デイビスの影響か何か忘れましたが、ブルックスブラザーズで服をオーダーすることが長年の夢で、ジャケットまでは作るお金がなかったので、以前ベストをオーダーして今も着ています。
とても気に入っていて、1年中着ていたいと思うほどです。

気に入っているベストですが、わずかな問題があります。それはポケットです。
ベストにもたいてい胸と両腹にポケットがついていますが、それはとても浅いものです。
普通のペンでも、例えばペリカンM400くらいのものでも底が当たってしまうので、多くの万年筆はベストのポケットに差すことができません。
万年筆の両端を平らにした万年筆をベスト型と言うのは、浅いベストのポケットにも入るということでそう呼ばれていましたが、ベスト型で少なくとも私のベストの胸ポケットに差すことができるのはペリカンのM300くらいで、これは昨年も使ったネタですが、ベストとM300の組み合わせをぜひ試していただきたいと思います。

M300はペリカンの万年筆の中で最も遊び心を感じさせてくれる万年筆で、これだけ小さなものなのに、他の普通サイズの万年筆、特にM800とほぼ同じプロポーションを持っていて、そういうところに茶目っ気を感じます。
M300の遊び心はその書き味にもよく表れています。
ペリカンの最も大きなペン先を持つ万年筆M1000がとても柔らかい、とろけるような書き味を持っていることは知られていますが、M300も実はM1000同様にとても柔らかい書き味を持っています。

それらは例えば早いスピードで書き続けるには適さないかもしれないけれど、一文字ずつ味わいながら書きつけることができる。
手帳に一文字ずつ丁寧に文字をしたためていくのに合ったものなのです。
ペリカンの真面目な遊び心に溢れた万年筆M300とベストの季節がやってきまし
た。

⇒ペリカンM300