昨年末にモンブラン149を買いました。
以前このペン語りで、10数年前にお客様のNさんと「目標を達成したら149を買おう」と約束していたけれど、結局二人とも目標を達成するために149を買ったという話をしました。
私はその149には一切ペン先を調整せず、書くことで馴らしていこうと思いました。
自分が持っているアウロラオプティマやペリカンM800は、使い続けて3年くらい経ったある日、突然劇的に書きやすくなりました。モンブラン149でそれをまた経験したい。そこで自分の理想とする書き味や状態ではなかったけれど、そのまま使っていました。
でもそれから2か月ほど経って、急にストレスを感じ始めました。
149はやはり潤沢にスルスルとインクが出て欲しいし、Mなので紙に筆記面が点ではなく、面でピタリと当たってほしい。
それは私の万年筆の好みというか、149に求めるイメージで、それが強すぎて育てる時間が待てなくなってしまったのでした。
去年辺りから、毎日ペン先調整に追われています。
それは万年筆店のあるべき姿で、とても有難いことです。店舗で接客もしながら進めていますので、最初は2週間だったのが徐々に長くなって今は1か月程期間を頂戴しています。
少しでも早くお客様の万年筆をお返ししなければと思うと、自分の万年筆を調整する心の余裕はありませんでした。だけどペン先調整士の万年筆が書きにくいのでは、その仕事が疑われるかもしれないとふと思いました。
調整しているとよく分かりますが、149のペン先の70年代のものは、柔らかいけれど粘っこい感じがあって、筆圧の強弱で文字の太さを変えて書きたい人に向いています。そして80年代~90年代にかけては、ペン先は徐々に硬くなっていきます。
現在の149のペン先は50年代のように薄くはないけれど、柔らかい方だと思います。ペン先が柔らかめなので、インク出はあまり極端に少なくできませんが、ある程度のコントロールはできます。
ペン先調整を始めて20年ほどになり、店を始めて日々ペン先調整をしていますので、昔よりもペン先に多くのものが見えるようになったと思います。ペン先調整は特に力や反射神経の要るものではなく、そこにある色々なことに気付けるかどうかだと思うので、意識を持って続ける限り上達し続けることができると思っています。
自分が気付いたことは共有していきたいと思っていますが、人生の色々なことと同じように言葉では伝わりにくく、経験しないと分からないかもしれません。
そして149を自分の理想通りに仕上げて使い始めると、アイデアをざっと書いたりするラフな使い方をするの万年筆になっています。そんな風に使うなら<B>でもよかったかもしれない。とにかく格段に書くのが楽しくなりました。
以前は仕事で手書きをする機会、万年筆で書く機会もまだあったし、個人的にもノートにとりとめなく色々なことを書いていました。だけど、私のような仕事をしていても書く量は格段に少なくなってしまった。
その使用量ではわずかな引っ掛かりなら取れるけれど、理想の状態にまで仕上げるのは幻想になってしまったかもしれないと思っています。