ずっと流行というものに背中を向けてやってきました。
万年筆というものにとって流行は無縁なもので、それは自分が追うべきものでないと思っていたからなのかもしれません。自分が扱うべきものは永遠の定番のもので、すぐに廃れて飽きられてしまうようなものには手を出してはいけないと思ってきました。
その気持ちは変わっていないし、そういう店だからお客様は安心して当店でモノを買うことができるのだと思っています。
でもある時から、この分野にも流行がはっきりと存在するようになりました。せっかく今の時代にこの仕事をしているのだから、ずっと使われてきた定番のものと同じように、流行の今の感覚に合ったものも扱っていきたい。そして、追うべき流行と見送るべき流行を見極めて世の中に提案したいと、意識が変わってきました。
そう思うと読む本や聞く音楽なども変わって、古いものよりも、今の時代に生み出されたものの方が自分の感覚にも近いと思うようになりました。
革は様々な条件で、作られなくなるものも多いけれど、新しいものもどんどん作られている。それはアパレルとの絡みも多いからだと思いますが、今の時代の感覚に合った革はたくさんあることを知りました。
一昨年から、その年の限定と決めた大胆な革を使ったステーショナリーをカンダミサコさんに作ってもらっていて、今年はフランスのゴート専門のタンナー、アルランのメタリックゴートレザーを使うことにしました。
当店としてはかなりの冒険をしたと思われるかもしれませんが、万年筆にもその流れが来ているローズゴールドの革を使いたいと思いました。
ナチュラルな感じのものが多いカンダミサコさんですが、この革をいくつかの候補とともに勧めてくれて、意外とすぐこれに決まりました。
M5サイズシステム手帳は、その時の気分で中身をそっくり入れ替えて使うような、ある程度遊びが許されるものだと思っています。
コンチネンタルM5システム手帳で表現した、機能性よりもコロンとしたフォルムや、厚い革の感触を味わう遊びもM5手帳だからこそ実現したと思っていて、今の流行を反映したものを取り入れるのに相応しいアイテムだと思っています。
メタリックゴートレザーは、革に特殊な加工をして表面を箔のような仕上げにしています。かなりしっかりしていて、すぐに表面が剥がれてしまうことはないので、ご安心下さい。
ずっと以前、万年筆が流行を先導していた時代もありました。私が万年筆の仕事に携わるようになってからは、一部の人たちの間で小さな流行はあったかもしれないけれど、万年筆の時間は静かに、淡々と流れていました。
しかし近年では流れが、強く、早くなったことを実感します。
私もその流れを見送り続けるほど齢をとっているわけでもないので、いつまでも新しいものへの好奇心を持っていたいと思っています。