正方形ダイアリー〜システム手帳と綴じ手帳の中間の存在〜

若い頃、手帳を使わないと言う同僚がいました。手帳使わないでどうやってスケジュールを把握するのかと聞くと、「覚えておく」という返事でした。私にとっては、仮に覚えておけたとしても手帳がないということは味気なく、つまらないものに感じたのを覚えています。

それでも彼は仕事ができる人だったから、全ての人に手帳が必要というわけではないらしいとその時思いました。

手帳を書くのはすごく良くて大切なことに思えるけれど、それは人によるというのは読書と似ています。読書は色々な事を考えるきっかけになっているので、私にはそれがない生活は絶対考えられません。

だけど本がなくても常に何か考えている人はいるし、もっと効率よくインスピレーションを得ている人もいます。

話が反れたけれど、私にとって手帳は、自分の代わりにいろんなことを覚えておいてくれて、他に考えないといけないことのために頭を空にしてくれるもの、そして仕事を楽しくしてくれて、良くしてくれる大切な存在です。

自分が使いたいように自由にページレイアウトを作ることができるシステム手帳は、使っていて楽しいものだと思いますが、綴じ手帳も充分仕事を良くしてくれるツールになることを今年は再確認できました。

いろんな使い方があると思いますが、正方形オリジナルダイアリーの私の使い方を申し上げると、月間ダイアリーページに予定を記入して、ウィークリーダイアリーページはto doや記録を書くページにしています。

ウィークリーダイアリー右ページの4分割の余白欄にそれぞれ項目を与えていて、項目名をスタンプで押しています。

私の場合は、取り寄せや別注の記録を書く「ORDER」、書いた原稿を記録する「WRITE」、ネタや覚書を書く「MEMO」としていて、1番下のチェックボックスのついた欄を「THINK」として、考えなくてはならないことを書いています。

システム手帳ならそれぞれの項目にインデックスを立てて、ページを分けることで、時間で進んでいくダイアリーと区別したページ分類になります。

綴じ手帳は、時間という厳然なものがページの進行を支配していますが、その中に自分に必要な各項目が同時に表示されます。

全ての項目を同時に見渡せるのが綴じ手帳の良いところですし、書き込む場合も何箇所ものページをめくって、行ったり来たりする必要がないので、記録を書き込むときその週のページだけを開けておけばいい。書いたものを探すときは時間という分類を手かがりに探せばいいということになります。

そう考えると、面倒臭がりな私には綴じ手帳が合っていると思うし、この手帳で店の普段の仕事が回せているので他を使う気にもなれず、結局ずっとこの手帳を使い続けています。

時間軸でページが進みながらも、システム手帳のように自由に項目が作れるこの正方形ダイアリーも、誰にとっても仕事を良くしてくれる大切なものになり得ると思います。正方形ダイアリーは当店と分度器ドットコム(590&Co.)さん、大和出版印刷さんの共同企画のオリジナル商品で、カバーなども揃えています。

昨年表紙のデザインを一新しましたし、そのまま使うのもいいですが、私は軽く使いたいのでビニールカバーをしています。革やミツロウ紙のカバーなどもありますし、まだHPには掲載できていませんが、手帳に項目を振るための項目用文字スタンプも販売しています。(近日中にホームページでご紹介します)

正方形ダイアリーは使いやすいことはもちろん、色々なアレンジができる楽しみを持った手帳であることにも自信を持っています。

⇒正方形ダイアリー2022年/ウイークリー

⇒正方形ダイアリー2022年/マンスリー

アウロラの書き味の奥深さ

先週末の神戸ペンショーの時は、午後1時から店舗も営業しました。

ペンショーは10時の開場から1、2時間が一番忙しいので、今年はお昼頃までは会場にに立って、午後からは店舗に戻って営業していました。

店舗がペンショー会場から歩いて10分ほどの場所にありますので、ペンショー終わりで当店を訪れて下さるお客様も多く、地元開催の恩恵を受けています。まだ賑わいの余韻のある会場を後にして店に向かう時は、少し寂しい気持ちになりました。

ペンショー会場の「北野工房のまち」はトアロード沿いにあって、かなり山手になるけれどNHKの神戸放送局もほど近い、神戸の街らしい場所だと思います。

そういう場所に比べると、当店のある元町駅山側はこの辺りならではの風情はあるけれど、静かで落ち着いていて華やかさはありません。だけどこの雰囲気が気に入っています。

万年筆やステーショナリーを華やかなものにしたいという想いと、暮らしに溶け込んだ日常のものにしたいという思いがあります。相反する考えですが、そういう万年筆のあり方に合った当店の立地ではないかと思っています。

日常の中にある、自然体で使うものである万年筆を特別良い書き味を持ったものにするというのが、当店の使命です。書き味という、数値や言葉でなかなか表すことができない、つかみどころのないものを追い求めています。

例えばパイロット、セーラー、プラチナ国産万年筆メーカーの書き味の違いについて、味わって論じ合えたら楽しいと思います。

アウロラは、自分の経験や技術を総動員してその書き味を作ってみると、奥深い書き味を持っていると思います。

インク出が多くなくていい。ヌラヌラは少しでいい。硬い柔らかいという基準だけでない、書き味の良さはどこから来るのか、ペン先の硬さとボディの重量のバランスも大いにあるのかもしれませんが、エボナイトのペン芯を使用しているということも書き味の良さに貢献しているのかもしれません。そこがモンブラン、ペリカンとの一番分かりやすい違いだからです。

エボナイトは、型を使用して大量生産するプラスチックと違い、1つずつ削り出して加工しなくてはいけないので、手間がかかり大量生産には向かない素材です。限定品でも何千本とか一万数千本作る大きなメーカーではエボナイトのペン芯は採用できないのかもしれません。

しかしエボナイトのペン芯は、ペン先調整時のペン先との合わせが調整をする際にやりやすく、ペンポイントをいい感じで閉じることができます。ペンポイントが閉じていたら、滑らかないい書き味に仕上げることができるし、ペン先とペン芯がピッタリと合っていればインク出も良い。こうなったら、書き味が悪いわけはない。あとは18金なら柔らかめのしなりを感じながらも、しっかりとした腰のある書き味になりますし、14金なら滑らかさを感じる硬めの書き味のコントロールしやすいペン先になります。

また、インクが馴染んで時間が経つごとに、ペン先に馴染んでくれるのもエボナイトのペン芯の特長で、長く使うほど書き味が良くなっていきます。

アウロラの自然の偉大なる作用をテーマにしたアンビエンテシリーズは、限定品ではありますが、アウロラの特長が最大限に発揮された、見ていても書いても楽しめる最高の万年筆のひとつだと思います。

今発売中のツンドラは、個人的にそのテーマが好みで気になる万年筆ですが、永久凍土を表現した薄いブルーとブラウンのアウロロイドはアウロラの書き味同様、味わい深い仕上がりになっています。

ジャングルをイメージしているジュングラは、アウロラとしては珍しいコントラストの強めの色で、力強さのようなものを感じさせてくれる。

限定品のため、なくなってしまうとそ後から手に入れることが難しくなってしまうのが惜しいところですが、シリーズの中でご自分にとって理想的な色が発売された時には、ぜひ手に入れて欲しい万年筆です。

⇒限定品 アンビエンテ・ツンドラ

⇒限定品 アンビエンテ・ジュングラ

万年筆で字を書く楽しみ

11月20日・21日開催の神戸ペンショーに参加します。私は昼頃まで会場にいますが、それから徒歩10分の店に戻り、店を開けます。*店舗の営業は両日とも13時からになりますので、お気をつけ下さい。

神戸ペンショーで販売するものは

・蓮見恭子先生の新作小説「メディコ・ペンナ」

・ル・ボナーデブペンケース サドルプルアップレザー・プエブロ

・aun ガラスペン

・新作オリジナルインク虚空、稜線(金ラメ・銀ラメ)

・智文堂システム手帳リフィル(デザイナーかなじともこさんも参加されます)

・佐野酒店 手帳用項目スタンプ・マッチ箱スタンプ

・カンダミサコシステム手帳(バイブル・M5サイズ)と手帳用ペンホルダー(バイブル・M6・M5)*M6サイズは新商品です。

・オリジナル正方形ダイアリー、ノート

・限定製作シャーク革オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース

などです。

ペンショーという場所で販売したいもの、当店として話題性のあるもの、新しいものを選んでいます。

毎日静かな店でひっそりと仕事していると、ペンショーというのは賑やかで、晴れやかな場所に思えます。来場されるお客様はもちろん、私たち店の人間にとっても非日常の特別な場所と時間。

そんな特別な時間とはかけ離れた、静かな日常にも愛着を持っています。

毎日の暮らしのサイクルの中でのささやかな楽しみは、本を読むことと字を書くことです。一日の終わりや休みの日にそんな時間を過ごすことができたら、充実した気持ちになれます。

私のような人は多くいると思うけれど、本はテレビを観るのと同じ娯楽だと思っているし、字を書くのも同じように楽しい。

趣味と娯楽のある静かな生活を送ることができたら、きっと私は何の不満もなく生きていけるのだと思います。

文字を書く楽しみの中に、1文字ずつその形を気にしながら書くというものがあって、何かのために書くわけではなく生産性のないものですが、これがとても楽しい。

万年筆を使う人には美しい文字に憧れを持っている人が多いと思いますが、私も実は中国の楷書の達人のような文字に憧れがあります。

誰もが感心してくれるような文字を書くことができないけれど、手紙においては書く文字によって、相手への尊敬と謙虚な気持ちを表現できたらと思い、一画一画を楷書で丁寧に書くようにしていて、きっとこれが今の自分らしい文字なのだと思っています。

でもやはり、トメハネハライをきちんと使った端正な文字への憧れは常にあるので、年末年始の休みに写経をして字の練習をしたいと思っています。

写経は筆でするものだけど、万年筆でしてみるのも面白いと思います。トメハネハライがきれいに書けて、始筆と終筆の線が鋭くきれいな万年筆としてはセーラーの長刀研ぎ万年筆が代表的な存在です。

長刀研ぎ万年筆で鋭い線が書けるのは、そのペン先の研ぎの形状によるところですが、セーラーの万年筆はたいていトメハネハライをきれいに表現しやすいようなペン先の研ぎになっています。もしかしたらセーラーの万年筆作りにおける思想なのかもしれません。

当店では、金ペン先限定になりますが、お客様のご希望でペン先を三角研ぎに仕上げることもあります。

Mくらいのペン先だと、多くのメーカーでは書き味は良いけれど、サインペンで書いたような変化のない線になってしまいます。

そういう万年筆を立てると細く、寝かせると太く書ける三角研ぎにすると、筆致が出て線に変化が出せる万年筆になります。

特にペン習字をされている方には好評な研ぎで、長刀研ぎより線が細いのもポイントのようです。

三角研ぎも長刀研ぎ万年筆も、文字の形を気にしながら一画一画気をつけて書く万年筆での書道に向いた、書くことを楽しむことにつながるペン先の仕上げです。

年賀状のシーズンでもありますし、年末年始の万年筆のある静かな時間を楽しく過ごすためにもこういう研ぎの万年筆で字を練習するのもいいと思います。

⇒セーラー 長刀研ぎ万年筆

万年筆業界に必要だったこと 小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」

神戸の万年筆店を舞台にした小説について蓮見恭子先生からお話を伺った時、何も読んでいないのに万年筆の業界にとって素晴らしいことが起ころうとしているような気がしました。

今の万年筆の業界にとって最も必要なことはこういうことではないかと思いました。

万年筆はただの書くための道具ではなく、使う人それぞれが自分の万年筆にロマンを感じながら持つものだと思っているので、小説の存在によって、万年筆が持つロマンに気付く人が増えるはずだと思いました。

自分の愛用の万年筆をこの小説の中で見つけられる人もいると思うし、人によっては小説に出てくる万年筆を手に入れたいと思うでしょう。

私もこの小説に出てくるどの万年筆も欲しいと思ってしまったし、テクニカルアドバイザーとして関わらせていただいた記念に何か形に残したいと思っています。

蓮見先生からこの小説のテクニカルアドバイザーにとご依頼があった時、誇らしく思う気持ちと、責任の重大さに恐ろしくもなりましたが、迷うことなく受けさせていただきました。

小説家の先生が書いたパソコン打ち出しの下書きや、ゲラ刷りの状態の原稿を読ませていただいたのは初めてだったし、今回の仕事を通して作家という自分の筆一本で生きている人のすごさを感じました。蓮見先生は普通の主婦が作家になったとご自身で言われるけれど、やはり普通の人ではないと思いました。

私は万年筆という使う人がそのものに思い入れを持って使う唯一無二の存在のものを、ペン先調整を施してさらに特別なものにする自分の仕事が好きで、いつまでもやっていたいと思っているけれど、この小説によって今まで以上に自分の仕事に誇りを持つことができました。

私はその時々に行きたいと思う方へ向かった結果、今の仕事をしています。だから偉そうなことを言える立場ではないけれど、この本を読んだたくさんの若い人が万年筆の調整士というものに興味を持って、なりたいと思ってくれることを望んでいます。この小説はそんな役割も果たすのではないか、この仕事が夢のあるものだと思ってもらえるのではないかとも思っています。

若い調整士が増えたら競合が増えて大変だけど、それも万年筆の業界のさらなる活性化につながるだろう。

今回ご紹介した小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」が出来上がった意義は大きく、さまざまな効果があると思っています。

⇒小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」

書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

私が文具店に就職したのが1992年で、モンブランヘミングウェイが発売された年でした。

それから万年筆の業界は限定品ブームに入っていき、イタリア万年筆の隆盛、1999年のミレニアム企画の盛り上がりなどがあって、いい時代でした。

私もその間は20代~50代で、その齢でそんな時代に居合わせることができたことはとても恵まれたことだったと思います。

古いカタログでその時発売されていたペンを見ると、その時々の記憶が蘇ったり、その時代の雰囲気を思い出したりして、懐かしい気持ちになります。

ペリカンもこの27年間は、特別なものだと思ったのかもしれません。

その黄金時代に発売した限定品、特別生産品を記録した本が発売されました。

27年間でこれだけ多くの限定品を発売していたのだと改めて驚きました。当時、ペリカンの限定品は他のメーカーのものに比べると控えめというか、大人しいものが多い印象でした。でもそこにはペリカンの型を崩さないという安心感があり、揃えたい気持ちにさせるのかもしれません。

ペリカンの限定品発売のペースは今も衰えていなくて、これからも様々な限定品が発売されるのだと思います。

この仕事を始めた頃、数多くのペンに囲まれていたにも関わらず、それらを手に入れたいという欲求はあまり湧きませんでした。

万年筆の仕事は楽しかったけれど、万年筆はあくまで仕事で扱っているものという認識で、自分が買うものではなくお客様に買っていただくものだと思っていました。当時私はペリカンM800とアウロラオプティマの2本を持っていて、それで充分だと思い込んでいたのです。

きっと生活に余裕がなくて、次々といろんなペンを買うことができなかったから、欲しいという気持ちにフタをしていたのかもしれません。

2000年には様々なすごいペンが発売されましたが、ペリカンの限定品1931ホワイトゴールドには心が激しく動かされました。

でも入荷数がとても少なかったし、買えるお金が工面できるあてもありませんでした。諦めるしかなかったけれど、ずっと忘れられませんでした。

それから8年後、この店を始めてしばらくたった頃に、仕入先から回って来た閉店した万年筆売場の在庫リストに1931ホワイトゴールドを見つけた時は、運命だと思いました。

1931ホワイトゴールドが店に来て、一週間ほど悩みました。

店をする人間の鉄則として、自分が一番欲しいと思うモノから売るということを信じているので、これを買ってはいけないのではないかと思いました。

お客様の何人かに声を掛けましたが、皆さん遠慮したのか買う人はいなかったので、結局私が買えることになりました。

今までの自分の人生の中の後悔にひとつだけリベンジできた気がしましたが、このペンを手に入れたことによって、私にとってペンは仕事で扱うだけのものではなく、ロマンを見いだせるものになっていました。

この本を見ていると、若い頃感じようとしなかったロマンを感じて、買っておけばよかったと思うものがいくつも出てくるかもしれないと思います。

過去の限定品を見て、私と同じ時代に生きた万年筆好きな人は、私と同じように、若い頃の気持ちや時代の雰囲気を懐かしく思い出すのだろうと思います。

⇒書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

濃厚な素材感~ミラージュ革とS.Tデュポン/ディフィコッパーボールペン

作り込まれたスマートなものも洗練されていていいですが、濃厚なまでの素材感を感じさせるものに私は魅力を感じます。

いくつかの製品でカンダミサコさんに作っていただいていますが、プルアップレザーのミラージュ革が今私が最も魅力を感じる革です。それらは新しい時から既にコードバンのような美しい艶のある革ですが、使い込むうちにさらに色気のある艶を帯びてきます。

昨年まで、生々しい素材感があって、使い込んだり磨いたりすると劇的にエージングする革ダグラスで様々なものを作ってもらってきましたが、ダグラス革も廃番で入手できなくなってしまいました。

ダグラス革の違う色を使うという選択肢もありましたが、革の色気のようなものを一番感じる色、濃い茶色にこだわりたかった。

ミラージュは、ダグラス革の次の革として当店が選んだ革で、艶の美しさからくる革の色気という点ではダグラス革よりも上だと思っています。

ミラージュ革で作っていただいているものは、1本差しペンシース、バイブルサイズシステム手帳、正方形カバーです。

1本差しペンシースやシステム手帳、正方形カバーの革を丸めた折り返し部分の艶と質感は、眺めたり、さすったりしているだけでも楽しめるほど艶やかです。

タンニンなめしの革のこの艶やかさは、クロムなめしの革にはない魅力だと思っています。

最近は、このミラージュ革と相性が良いと思えるボールペンを手に入れて使っています。

長くファーバーカステルエボニーのボールペンを使ってきましたが、最近S.Tデュポンのディフィボールペン・マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー(以下ディフィコッパー)というボールペンを使い始めました。

生々しい素材感を感じさせる銅を骨格のように使用したこのボールペン、発売された時からずっと気になっていました。

精巧なモノ作りに定評のあるS.Tデュポンが作ったボールペンは、筆記部側に重心を持たせていてバランスが良く、滑らかでヌルヌルとした書き味で有名な油性のディフィ芯を採用しています。

リフィルは金属のチューブを通してセットされていて、内部で芯が遊ぶことなくしっかりとしホールドされる構造で、書くことが楽しいボールペンに仕上がっています。

ディフィのデザインは斬新ですが、シンプルで長いクリップはデュポンの代表作クラシックのデザインを意識しているようにも見えます。新しいデザインのデフィですが、伝統に背を向けたモノではないと感じています。

銅は様々なモノ作りの分野で取り入れられ、その素材感を生かした様々なものがつくられています。昔からある現代の素材だと言えます。

ボールペンが気に入ったモノであると仕事が楽しくなります。ディフィコッパー、新しいデザインの魅力的なペンで、仕事がさらに楽しくなるものだと思います。

以前はこういったモノは男性だけが好むモノでしたが、最近は女性の方も使われるようになってきました。そもそも性別で分ける時代ではとっくになくなっているし、そこに存在するのはどういうモノが好みかという趣向だけだと思うようになりました。

ミラージュ革のステーショナリーも、ディフィコッパーも素材感を生かしたものであることは間違いなく、良い素材とそれを生かす技術があるから、こういうものが生まれたのだと思っています。

⇒S.Tデュポン ディフィボールペン マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー

アメリカの人に寄り添うモノ作り ウォール・エバーシャープ

ウオールエバーシャープ デコバンド
ウオールエバーシャープ シグネチャー

当店が直接輸入しているウォール・エバーシャープのオーナーが変わりました。当店への卸価格も変更になり、以前に比べて価格を下げることが可能になりました。

ご心配いただいたお客様もおられましたが、しばらく当店のWEBショップからウォール・エバーシャープが消えていたのは、オーナー交代による条件などの変更などがあったためです。

新しいオーナーもアメリカの会社で、以前と変わることなく製品が供給されることになりましたので、私たちもホッとしています。

ウォール・エバーシャープは、万年筆コレクターが企画していて、万年筆をよく知る彼らが使いたいと思う理想のスペックが詰め込んでいます。同じアメリカのヌードラーズインクの起こりと似ていて、そんなところにもとても惹かれます。

オーバーサイズ万年筆デコバンドもレギュラーサイズのシグネチャーも、100年以上にも及ぶウォール・エバーシャープの歴史上に存在したデザインを取り入れながら、今の万年筆に求められている要素を持たせた万年筆に仕上がっています。

オーバーサイズ万年筆のデコバンドには、スーパーフレックスニブとフレキシブルニブという2種類のペン先があります。

スーパーフレックスニブはかなり柔らかいペン先で、紙にペンを置く自重でペン先が開くほど柔らかく、コントロールしながら書く必要があるほどです。

フレキシブルニブは他の万年筆に比べると柔らかいですが、コシがあってコントロールしやすい適度な柔らかさです。

実用的にこの万年筆を使う方には、フレキシブルニブの方が使いやすく、字幅に合った文字が書けます。またボディの重量とも合っていてお勧めです。

カートリッジ2本分程度の2mml以上のインクを一気に吸入するニューマチック吸入機構も備えている、ウォール・エバーシャープの代表的な万年筆です。

今回特にシグネチャーの価格が変更になって、18金の大きなペン先を備えながら、同等のモンブラン146、ペリカンM800よりも安くなりました。

シグネチャーにもデコバンド同様にエボナイトのペン芯が採用されていて、大きなペン先とのバランスが良く、とても良い書き味の万年筆です。

当店がウォール・エバーシャープにこだわるのは、100年の伝統を継承しているハンドメイドの匂いのするアメリカ製らしい、無骨なデザインを持ちながら、使う人の気持ちに寄り添ったモノ作りが感じられるからです。

万年筆を使う人が、こんな万年筆を使いたい、と作りあげた万年筆がウォール・エバーシャープデコバンドとシグネチャーです。

⇒ウォールエバーシャープ TOP

ネタ帳に使いたいMUCU革表紙ノート

通勤などの移動中の乗り物の中で多くの人がしているように、私も何もしないでいると時間がもったいないような気がして、本を読んだりスマホを見て過ごしています。

でもそういったことを一切せず、ボーッと考える時間も必要だとよく思います。

あるテーマについて考えをまとめる必要がある時、繰り返しそのことを集中して考えて、自分の頭の中に既にあるものにたどり着く作業は、私が最も好きな時間ですが、それはボーッと考えるのとは少し違います。

テーマを決めず、ただボーッと想いが巡るままに考えていると、時々思いがけない発想が浮かぶことがあります。

一片のキーワードだったり、とりとめもない言葉だったりするそういうものは、今すぐ何かの形にはならないかもしれないけれど、きっといつの日か何かのヒントになるのだと思っています。

そんなものを集める専用のネタ帳があってもいいと思います。

ネタ帳に使うのは、例えばシステム手帳のようにバラバラになるものではなく、シンプルな綴じノートの方が時系列でその中に存在し続けてくれますので、合っていると思います。

毎日使うわけではなし、長い文章を書いてどんどん消費していくものではないので、ある程度良いものを使いたい。でも中身は草稿でラフに書くものなので、バランスが難しい気がしていました。

そんな時、MUCUの革表紙ノートを新たに仕入れました。

使い込んだ風合いが出てくれる、タンニンなめしの革表紙のリングノートで、使い終わったらMUCUさんに送ると、書き込んだものは別で綴じて、革表紙の方には新しい紙をセットして送り返してくれます。そうすることで使い込んで風合いが出た革表紙を引き続き使うことができます。

自分が書いたものを送るのはちょっと、という方は、リングを広げて中身を外し、革表紙だけMUCUさんに送ればノートにしてもらうこともできます。

このノートに合う使い道をずっと考えていましたが、いつも鞄に入っていて、長い期間継続して使うネタ帳のような使い方がいいのではないかと思いました。

実は14年前の創業時、MUCUの革表紙ノートを扱っていました。

雑誌でこのノートを見て、その素材感を生かしたシンプルなノートに一目惚れして、東京のMUCUさんの工房まで行って扱わせていただけるようになりました。

当時の革表紙ノートの中紙はわら半紙のような紙になっていて、切りっ放しの革表紙と雰囲気も合ってMUCUの世界観を表現していました。でも万年筆のインクとなるとどうしてもにじむので、難しいものがありました。

でも革表紙のノートは進化していて、中紙も万年筆のインクと相性の良いものに変更されています。

この14年の間に色々な良いものを見る機会があって、取り扱ってきましたが、今見てもMUCUの革表紙ノートは変わらずに輝いて見えました。

ヌードラーズのインクもそうでしたが、自分が万年筆やステーショナリーに夢中だった原点を思い出させてくれるものに、久しぶりに再会しました。

⇒MUCU革表紙のノート・Lサイズ

⇒MUCU革表紙のノート・Sサイズ

ヌードラーズインク 自由なアメリカの万年筆文化の象徴

ヌードラーズインクは、東海岸のマサチューセッツ州で生まれた比較的新しいインクメーカーです。

ヌードラーズインクの名前は、趣味でナマズを取る人達のことを「ヌードラーズ」と呼ぶことに由来しています。

ナマズ取りたちは、裸に近い恰好で沼に入り、底のナマズの穴に手を入れてナマズを引きずり出して取っているそうですが、ヌードラーズインクの創業者がナマズ取りの名人だったため、ヌードラーズインクと命名したそうです。

ヌードラーズインクは、乾きが早く、にじみがほとんどないという使いやすい性能の他に、ラベルにpH Neutralと表記されているように、万年筆に優しい中性インクであることを特長としています。

その特性は色ごとに違っていて、その中でも耐水性、耐退色性の強いバーナンキブラック、54thマサチューセッツはサラサラしたインクで、太字では極端に太くなりますので、極細や細字などの万年筆での使用をお勧めします。

私は54thマサチューセッツも使っていますが、文字が太くなるので専ら細字に入れて手帳書き用にしています。保存性の強さは手帳書きには強みですし、乾きが早く、詰まりにくそうなところも気に入っています。

万年筆好きな人が、自分の大切な万年筆を傷めず、しかも紙を選ばずに使いやすいインクを作りたいと考えて開発したインクがヌードラーズインクで、たくさんの量が入って安価であるというコストパフォーマンスの高さも、万年筆を使う人のためのインクであるというポリシーが表れています。

最近は少量で薄い色のインクが最近多く見受けられます。それらは今のインクの使い方、今のお客様が求めているものなのかもしれないけれど、ヌードラーズインクはその性能、コストパフォーマンスの高さからメインで大量に使うインクに相応しい。

ヌードラーズインクの面白味は、そのラベルにもあって、それぞれの色からイメージしたものが自由に描かれていて、それを見ているのも楽しく、ただ実用本意なだけではないと思います。

万年筆を使う人にとって理想的な特長を持ちながら、価格を抑えたヌードラーズインクからはアメリカの素朴で良心的な物作りを感じます。

万年筆文化は、ヨーロッパの貴族たちだけのものではない。

肩の力を抜いて、書くことを自然体で楽しむアメリカの万年筆文化の象徴がヌードラーズインクだと思っています。

⇒ヌードラーズ ファウンテンペンインク

ツイスビー~台湾の勢いを象徴するメーカー~

先週、ツイスビージャパンさんと巡回筆店(じゅんかいペンショップ)2021 in 福岡を共同開催しました。

緊急事態宣言中の開催になってしまい告知も不十分でしたが、ご来店いただきました九州のお客様、誠にありがとうございました。今回の催しを歓迎して下さる雰囲気と良い出会いがあって、良かったと思います。毎年恒例のものにしたいと思っておりますので、またよろしくお願いいたします。

一昨年の10月一人で台湾に行きました。活気があってエネルギッシュな台北、南国らしい趣のある台南。2つの都市を訪れただけでしたが、台湾が大好きになりました。

日本に帰ってからも台湾の雰囲気を感じたいと思い、台湾が舞台の日本人が書いた小説を何冊も読みました。特にNHKのドラマにもなった吉田修一氏の「路」は自分の青春時代の中心だった1990年代から現代までの話ということもあって、その時代の雰囲気まで感じられて、お気に入りの小説でした。

最近は台湾の小説では必ずその名が挙がる「自転車泥棒」を読みました。時間、空間、世界観を落ち着いた文体ながら縦横無尽にジャンプする読み応えのある、面白い小説でした。

1895年から1945年まで日本の統治下にあった台湾には、まだその名残があって、台湾の昔について語られる時、日本を避けることはできない。

私にも遠い親戚に終戦まで台湾に居た人がいるし、台湾で生まれた人もいる。そんな実は身近だった国台湾に惹かれたのも必然だったのかもしれません。

そんなふうなので、台湾の筆記具メーカーツイスビーにも特別な思い入れがあって、ツイスビージャパンさんとは、お互いに良くして行く関係を築きたいと思ってきました。その中で実現したのが巡回筆店でした。

台湾にはエネルギッシュな勢いのようなものと、控えめで繊細なセンスの両極端のものが同居していて、それが特長だと思っています。

ツイスビーはエネルギッシュな台湾を象徴していて、日本や欧米の万年筆メーカーなら勧めないようなこと、万年筆を使用者自身が分解して、吸入ピストンにグリースを塗るようなことを提案していて、万年筆の業界の常識をひっくり返そうとしています。

万年筆は今は完全に趣味のものだとツイスビーは考えていて、趣味のものである以上メーカーはどうしたら万年筆を楽しめるかを考えないといけない。何も触れないよりも自分で分解できる方が楽しいに決まっている。

当店が主に扱っているツイスビーの万年筆は、ECOとダイヤモンド580です。どちらもピストン吸入式で、チャプチャプするほどたくさんのインクを吸入することができます。

ダイヤモンド580の方が柔らかい書き味、ECOは硬めの書き味で、キャラクターが違っているのでどちらも持つ意義がある。

ツイスビーはその価格から万年筆を使い始めたばかりの人が選ぶ万年筆だと思われますが、趣味としての万年筆を提案しているだけあって、ある程度万年筆を使ってきた人でも楽しむことができます。

エネルギッシュな台湾を代表するツイスビーについて書きましたが、繊細な台湾センスを表現しているものも、今後紹介していきたいと思います。

個人的には、台北、台南以外の台湾の土地もいずれ訪れたいと思っています。

⇒TWSBI(ツイスビー)TOP