特別注文のデブペンケース

今年の1月末、590&Co.の谷本さんに、ル・ボナーさんのデブペンケースで別注を一緒に作らないかと誘われて、ル・ボナーさんのお店を訪ねました。

ル・ボナーの松本さんはちょくちょく当店に寄ってくれるけれど、私が六甲アイランドのお店にお邪魔するのは本当に久し振りでした。懐かしい親戚の家を訪ねるような感覚で、松本さんと奥様のハミさんと娘さんの3人が揃うお店を訪れました。

デブペンケースは当店も開業当時からずっと販売させていただいてきたけれど、今まで別の革で作りたいと言ったことはありませんでした。

それは松本さんが作り続けているブッテーロとシュランケンカーフで満足していたということもあります。

ル・ボナーの松本さんには尊敬のような、親しみのようなそして労りを持った親へのような感情を抱いています。

仕事でもいつも関わっていたいけれど、あまり面倒はかけないようにしたい。長年で積み重ねられた松本さんの仕事のペースを乱したくないし、なるべく松本さんの気乗りしないことはさせたくないと思っていました。

そういった想いもあって、松本さんに別注品を作って欲しいと言うことははばかられていました。

仕事にこういった感情を持ち込むのはおかしいと思う人もいるかもしれませんが、仕事仲間とかそういったもので割り切れないほど松本さんのことを大切に思っています。それは谷本さんに対しても同じで、だからこそ仕事以外でも一緒に何かしたいと思う。

590&Co.の谷本さんはなかなかの甘え上手で、私と同い年なのに本当に可愛げがあります。皆に愛されていて、谷本さんに頼まれたら聞いてあげたくなります。どんなやり取りがあったのか分からないけれど、オリジナル仕様の話は松本さんと谷本さんの間ですでに決まっていて、私もそこに便乗させてもらえることになりました。

590&Co.仕様のデブペンケースはプエブロ革で、同じバダラッシィ・カルロ社のミネルヴァボックス革同様、激しいエージングをすることで人気のある流行の革です。時流に鋭く反応する谷本さんらしい選択で、実際あっという間に売り切れてしまいました。

当店仕様のデブペンケースは、サドルプルアップレザーです。

こげ茶色の艶々とした濃厚な風合いで、ベルギーのタンナーマシュア社の名革です。ヨーロッパ産の成牛のショルダー革の銀面をすって毛羽立たせてから、それを潰して滑らかに仕立てる独特の製法で、この艶々の革目が生まれます。

デブペンケースの別注を作ると考えた時に、何の迷いもなくこの姿が浮かびましたし、その理想通りに出来上がってきました。

流行とは全く関係のない選択ですが、とてもいいものが出来たと思っています。

仕切りのついたペンケースもいいですが、このデブペンケースのような仕切りのない大容量のペンケースは、細々とした文房具をまとめて入れるものとしても持っていたい。そして傷をつけたくないペンなどは、カンダミサコさんの1本差しペンシースに入れてからデブペンケースに入れると、安心して使うことができます。

サドルプルアップレザー仕様は、大人のためのペンケースという趣がさらに強くなって、当店のお客様には喜んでいただけるものになったと思います。

⇒特別注文品 ル・ボナー デブ・ペンケース/サドルプルアップレザー

~スマートに対抗する趣~ カンダミサコポケットウォレット

個人的な感覚ですが、以前よりも電車の中で本を読む人が増えたように思います。

少し前までは探してもなかなか見つからなかったけれど、今は周りを見るだけで数人は見つけることができる。

多くの人はスマホを見ていて、本を読む人は少数派だから目立つのだと思いますが、その数少ない本を読む人を見つけると、何となく同志を見つけたような、何の本読んでるの?と話しかけたくなるような嬉しい気持ちになります。

紙の本を読んでいるからどうだ、というわけではないけれど、紙の本を読む人には、読む人の美意識のような、矜持のようなものがあるような気がします。多くの人はスマホを見ているけれど、自分は紙の本を読んでいるというこだわりを感じなくもない。

でもスマホで本を読んでいる人もいて、それが現代の本を読むということなのだと考えると、紙の本にこだわり過ぎるのはただの時代遅れな人間になってしまうのだろうか。

私は「電車の中で本を読むかどうか」という話と近い感覚だと思っているけれど、キャッシュレス決済やスマホ決済を使うか、現金で払うか、というのにもそれぞれの美意識が存在していると思います。

スマホ決済がかなり普及した上に、こんなご時世で外出する機会も減り、財布が売れにくくなっていると言われています。

たしかに財布がなくても、ICOKA(ICカード乗車券)や決済アプリがスマホに入っていれば、どこに行くのにも困ることはありません。

財布にお札と小銭とクレジットカード、定期入れにICOKAとバスカードを入れて持ち歩いて、それで充分やっていくことができていて、これ以上の便利さを必要としていないと言うと、さすが時代遅れな気もします。

だけど何でもスマホひとつで管理するとなると、失くしたりしたときのリスクも大きいと思いますし、コンビニでアメを買うだけで速やかに決済することもないかと、そこまでの必要性を感じていないというのが、私を含めた従来決済派の言い分だと思います。

でも、お金やクレジットカードは財布に、ICOKAやバスカードは定期入れに、という人の言い分のひとつに、モノとしての趣きがスマホと財布とでは大きく違うということがあります。何でも効率的であることが全てではないと思う。

個人的には、スマホよりも愛用の革のウォレットを出して買い物したり、改札を通ったりする方が楽しいような気がしてしまう。

こういうものが繰り返しの毎日に楽しみを与えてくれて、日常生活を張りのあるものにしてくれるのではないかと思います。

⇒カンダミサコ Pocket Wallet

鮫革のバイブルサイズシステム手帳

以前、カンダミサコさんが新作の革製品を納品して下さった時に、「出来ましたね!」と言ったところ「出来たのではなく、作ったんです」とにこやかに注意されたことがありました。

もちろんカンダさんが苦労して作り上げてくれていることは理解しているつもりでしたが、作り手の苦労を本当に理解しているのかと思うと、全く分かっていないのだと思う。

作家さんは私たちが考えるよりずっと長く真剣に素材に向き合い、製品を作り出していて、そのひとつひとつが彼らの時間と魂と引き換えに生み出されています。私の言葉がそれを軽く見ているように聞こえたから、カンダさんが笑いながらそんなことを言ったのだと思います。

いずれにしても当店のステーショナリーが他所の店と違うものになっているのは、カンダさんをはじめとする革職人さんの存在が大きく、当店になくてはならないものになっています。

当店とカンダミサコさんとの取り組みで、その年の革を決めて、1年間はその革で様々なものを作る試みをしています。今年で4年目になり、今年の革は鮫革(シャーク)です。

昨年は、ピンクゴールドのアルランメタリックゴートレザーという女性好みの革をでしたので、趣の違うものをやってみてはどうかというカンダさんからの提案もあって、そうすることにしました。

シャークは丈夫で独特の模様があり、いつか作っていただきたいと思っていた好きな革です。

先日発売した「長寸用万年筆ケース」がシャーク最初の商品になりました。

カンダミサコさんのシステム手帳は、ベルトもペンホルダーもないとてもシンプルなデザインですが、実は特殊な構造になっていて、180度平らに開きます。このシンプルな中に使いやすい工夫がある仕様が、とても気に入っています。

バイブルサイズのシステム手帳は、特に用途を決めると使い勝手の良いサイズだと思います。横書きすると1行が短くなるので、長文を書くより箇条書きをする方が使いやすく、私は調整の記録用として使っていますし、ダイアリーとしても使いやすいと思います。

シャークは硬そうなイメージがありますが、実際は柔らかく手触りの良い革です。システム手帳に向いている革だと思いました。カンダさんがお勧めしてくれた理由が分かります。

個体差が大きく、天然素材なので模様は1つずつ違うし、同じ色でも個体によって染まり方が違ってきます。

今回は同色の革を選んで仕入れてもらって、長寸用万年筆ケースとバイブルサイズのシステム手帳にしてもらいました。

次は同色でも少し違う色の革になると思いますが、今年はシャークで引き続き他のものも作っていきたいと思っています。

⇒カンダミサコ シャーク革・バイブルサイズシステム手帳(2021年モデル)

⇒Pen and message. 長寸用万年筆ケース シャーク革

アウロラ88テッラ~太陽系を巡る旅の終わり~

少し前から、今まで使っていたブルーブラックのインクから違う色に変えたいと思い、暇さえあればインク色見本帳を見ていました。その中で目に留まったローラー&クライナーのスカビオサとパイロット色彩雫の紫式部を選んで使っています。

スカビオサは、その名前の響きが好きなのと、褪せたような紫色が今の気分に合っている気がしました。酸化鉄が含まれている古典インクで、書いたものの保存性も高い。

古典インクは万年筆に入れるとたいていインク出が少し渋くなって、ヌルヌルとした書き味ではなくなりますが、私はあまり気にしません。

それよりもインク出が渋くなったことで、インクの濃淡が今まで以上に出るので気に入って使っています。

紫式部はパイロットなので、インクがよく出るようになるだろうと思っていましたが、意外にもインク出は控えめで、紙に適度に沈みます。私にとっては初めての、ピンクにブルーを混ぜたような爽やかなパープルです。

こうしてインクを探しているうちにいろんな色を見ましたが、万年筆のインクはやはりブルー系が多く、好む人も多いようです。

その趣向に合わせてか、ブルー軸の万年筆も多く作られているような気がします。そして今までここまで青い万年筆はなかった、と思ったのが「アウロラ88テッラ(地球)」です。

惑星シリーズとして太陽系の惑星を巡っていたアウロラの長い旅も、地球に帰ってきたというストーリー。

地球が太陽系の中でも極端に青い、異色の星であると言われているように、この88テッラも他の万年筆と見比べるとかなり趣を異とするものに見えます。

88シリーズでは初めてですが、首軸とボディが同じマーブル模様のブルーのアウロロイドが使われています。

万年筆の金属パーツといえば、ゴールドかシルバーでしたが、88テッラはペン先も含めて濃い青に仕上げられています。これはアウロラの万年筆ではおそらく初めてのことだと思いますが、これがかなりこの万年筆を精悍な印象に仕立てています。

アウロラは太陽系の惑星というテーマで、それらの星の美しさを万年筆というキャンバスで表現してきましたが、テッラは今までの万年筆とは違う、太陽系における地球のような存在の万年筆に仕立てられています。

コロナ禍で、意気消沈しているメーカーが多い中、アウロラは今までと変わらずに、むしろ今まで以上に活発に活動しています。万年筆の世界を面白くしようと努力している。コロナ禍であっても、私たちができる社会貢献は、やはり自分の仕事を全うすることだとアウロラを見て改めて思いました。

⇒AURORA テッラ(地球)万年筆

アンチエリート~モンブランへの想い

若い時に自分で初めて買った万年筆はペリカンM800で、その次はアウロラオプティマでした。

モンブランを避けていたのは、当時の「モンブランが万年筆の王道である」という雰囲気が何となく苦手だったからだと思います。

この性格は子供の頃からで、圧倒的に強いもの、誰もが良いというものに反発を覚えて、背中を向けてきました。例えば関西人なら分かると思いますが、ナイターを観ていても必ず巨人の対戦相手を応援するというアンチ巨人ファンでした。

でも考えてみると、自分が嫌だと思って反発するのはそれを一番だと認めているということなのかもしれず、自分はそれに強い憧れのような気持ちを持っているから反発するのではないか、と思い当りました。

万年筆を知っていくうち、当時の巨人と阪神のようにモンブランと他社の間にそんな力の差はなく、ただお酒の銘柄程度の違い、ということが分かってきました。

そう言いながらもモンブランへの反発の気持ちがなくなったわけでもなかったので、私の中では最近までモンブランはこの世の中に存在しないものとしてきたのでした。

でも結局、前にこのペン語りで書いた(2020年10月23日、12月11日)きっかけがあって、モンブラン149を使い始めました。そうして自分のものになった時、武骨なまでにシンプルな仕様が自分のモノの好みに合って、王道のモノだとして制止していた気持ちが決壊してしまいました。

モンブラン149と146という、王道中の王道の万年筆を扱うようになって、長年抑え続けていた想いが溢れてしまった。

すでにモンブランでは在庫がないようですが、他所の店で見たり、お客様が持っているのを見せてもらったことはあって、すごく良いデザインだと思っていたヘリテイジルージュアンドノワールコレクションが入荷しました。

作家シリーズなどの限定品をずっと見ていて、モンブランの自社の過去のペンを現代的にアレンジするセンスがすごいことは分かっていました。

このヘリテイジも、1900年代はじめの頃のモンブランのデザインを復活させたペンで、細身の軸ですがずっしりとした重さがあって、大きな赤地のホワイトスター、スネーククリップがサマになっています。

ファーバーカステルを万年筆とボールペン、あるいはペンシルとセットで持ちたくなる数少ないペンだと思ってきましたが、このヘリテイジルージュアンドノワールも万年筆とボールペンもそうだと思いました。

少し細めのヘリテイジもカステル同様、カンダミサコさんの2本差しペンシースにピッタリ合って、このペンシースによってセットで持つ喜びがより強くなります。

私が王道のものに反発を覚えるのは、きっとそれを王道だからという理由だけで理解せずに持てはやす風潮があるからで、自分はそうはなりたくないという気持ちが王道への反発につながっていたのだと、今なら分析することができます。

モンブランは特別な存在のブランドではないけれど、やはり魅力がある。私はやっと反発せずにそれが言える、感情を超えて分別のある考えができる齢になったということなのかもしれません。

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フォーマルな万年筆

5/3(月祝)、店は営業していますが、私は息子の結婚式に出席するためにお休みすることになっています。

本当は昨年のゴールデンウィークに式を挙げる予定でしたが、緊急事態宣言が出たこともあり延期することにしました。

結局今年もあまり変わらない状況になってしまいましたが、両家数名だけでの結婚式なので、ホテル側とも相談して行うことになりました。

私は新郎の父ということになりますので、身内だけではありますがお約束の挨拶をしないといけません。自分らしいと思って可笑しかったのは、その挨拶を考えるよりも先に、息子の結婚式の記念になるものを自分に買いたいと思ったことでした。

そのものを使う度に、これは息子の結婚式の時に買ったものだと思えるものを買いたいと思い、どうせならいい靴を買って記念にしようと考えました。結婚式に履いて、普段も履いて、その時に履いた靴だと思いたい。

ただ結婚式で履く靴には決まりがあり、特に新郎の父はモーニングを着るので、よりフォーマル度が強い。

靴は内羽根式のストレートチップというのがフォーマルな靴の中でも一番格式が上だということになっていて、新郎の父はそれを履くことがマナーになっています。その場を大切に思っている気持ち、結婚する二人、相手の親御さんに対する礼を表すためにもそれを守りたいと思いました。

普段のカジュアルな服装にも何とか合わせて履こうと思って、その形の靴についてしばらく研究していましたが、やはり私の普段の服装には合わないと思い直し、前から持っていた冠婚葬祭用のリーガルを履くことにしました。

わざわざ買わなくても持っていたのですが、上手くいきませんでした。

靴にはこのように厳格なデザインによる線引きがありますが、万年筆ではどうだろうかとふと思いました。

万年筆において正式と言われることはないと思いますが、結婚式などのフォーマルな場ではあまり派手なものよりも、定番品のようなシンプルなものが合っていると思います。それは服装と同じなのかもしれません。

オーバーサイズは目立ちすぎるし、レギュラーサイズでも普通のボールペンやシャープペンよりは大きく感じます。その辺りを考慮すると、レギュラーサイズよりも小さめのペンの方が慎み深さを表しているようで、フォーマルに合っていると思います。具体的に言うと、ペリカンM600、M400、ファーバーカステルクラシック、クレオスクリベントゴールドなどがこれにあたると思います。

ファーバーカステルクラシックなどはこういうフォーマルな場に相応しい抑えた高級感があるように思います。もちろん合わせるペンシースは黒です。

繰り返しますが、万年筆においてフォーマル、カジュアルはそれほど厳格ではなくて、どちらかと言うと個人のセンスが表れるところだと思います。

だからこそ、礼の気持ちを表現した自分なりの万年筆選びしたいと、結婚式を口実にした万年筆を選びをしてもいいのかもしれません。

⇒ファーバーカステルTOP

⇒クレオスクリベントTOP

オーバーサイズロマン

ペリカンM800やモンブラン146のような計算され尽くした、高い次元で均整のとれたレギュラーサイズの万年筆もいいですが、万年筆好きの欲望を形にしたようなオーバーサイズの万年筆にどうしようもなく魅力を感じます。

オーバーサイズの万年筆の魅力は、大きなペン先だということは間違いありませんが、余裕のあるサイズからくるオーバースペックではないかと思います。

モンブラン149であれば「肉厚なボディとペン先によるタフな仕様」で、使っている時の安心感はその性能をいっぱいまで使っていない私でも分かりますし、握っている時の塊感のようなものも嬉しい。

私はウォールエバーシャープのデコバンドを149の対の万年筆としていますが、デコバンドは149とは対照的で、じっくり書きたくなるような、趣味的な万年筆です。重量があって、大きく柔らかいペン先の書き味の良さがより一層感じられます。意外にもきれいな文字が書ける、コントロールしやすいペンでもあります。

今やオーバーサイズ万年筆では定番のモンテグラッパエキストラ1930は、大きなペン先とボディのサイズが何とも言えず美しい万年筆です。粘りを持たせたペン先の書き味は上質で、クラシックな印象のセルロイドのボディとともに、落ち着きと上質さを感じさせる大人のイタリアの万年筆だと思います。

セーラーの限定万年筆紅炎は、ボディに真紅の積層エボナイトを使い、長刀研ぎ仕様のキングプロフィットペン先を装備して、書くことの楽しみを追究しています。オーバーサイズのうま味を生かした限定万年筆と言えます。

こうやってオーバーサイズの万年筆をひとつずつ紹介していくとよく分かるけれど、当店にあるものだけでも良いものが揃っていると思います。

魅力のあるオーバーサイズの万年筆で困ることは、それらを収納するペンケースが少ないということです。

使っているペンはどんなものでも、硬い机の上にコツンとそのまま置くのではなく、柔らかいものの上に置きたいと思います。神経質に、絶対に傷がついて欲しくないわけではありませんが、何となく置く場所は選びます。

オーバーサイズの万年筆をすぐに使える態勢にしておくために、カスタム漆のような特大サイズの万年筆も収納することができる長寸ペンケースを、カンダミサコさんに作ってもらっています。

今回は、シャークの革で作ってもらいました。

昨年はアルランローズゴールド革を2020年限定の革として使いました。コロナ禍という、普段と違う時間を過ごした年の革として、力と明るさをくれるような革で良かったと思います。

今年の状況もあまり変わっていませんので、普段カンダミサコさんがあまり使わないシャークを今年の限定革として、いろいろなものを作りたいと思います。

カンダさんは最近、様々なエキゾチックレザーで定番のものを作るという挑戦をされていますが、全て限定製作品になります。

シャークの革は柔らかくて丈夫ということもありますし、革に模様があって、シンプルな形のこのペンケースに合っていると思います。

何か書き出す時に、このペンケースからペンを取り出して、キャップを外して書き始める。オーバサイズの万年筆を一連の所作のように使えるペンケースだと、作っていただくたびに思っています。

⇒オリジナル長寸用万年筆ケース・シャーク革

遊び心を感じさせる万年筆~ピナイダーフルメタルジャケット、アヴァターUR

万年筆メーカーの多くは、昔ながらの仕組みを変えて効率的にモノ作りをするようになり、一社で全てのパーツを作らなくなったと言われています。

例えばペン先はそれだけを作る専門のメーカーがあって、多くのメーカーが同じペン先を付けているということが起こっています。

同じペン先と言っても、ボディのバランスや調整の具合など様々なチューニングが異なるので、書き味が全く同じということではありません。

ペン先を専門の業者が作ることによって、メーカーは投資を少なく抑えることができます。そして万年筆の価格自体も抑えられるので、私たちにとっても悪いことではありません。それが今のモノ作りということになっています。

でも個人的には、万年筆はよく書けて値段が安ければいいというものではなく、何か遊び心を感じさせる存在であって欲しいと思います。

考えてみると多くの万年筆が100年前とほぼ同じ構造をしていて、そこから抜け出せずにいます。伝統を守ることも、私たちが求めていることではあるけれど、そうでないものもあって欲しい。

ペリカンやモンブランや国産の万年筆とは違う、少し変わった万年筆が欲しいという人にお勧めしたいのが、ピナイダーの万年筆です。

ピナイダーは、1774年創業のイタリアフィレンツェの老舗高級ステーショナリーショップが起こりで、そのお店自体フィレンツェという世界の観光地に存在し、多くの著名人がその顧客名簿に名を連ねた輝かしい歴史を持つメーカーです。

しかし、その万年筆は今万年筆に求められているものを具現化した、現代的な万年筆の姿をしています。

一番特長的なのはペン先です。

今の万年筆のトレンドは、筆圧をかけるとフレックスして文字の太さを変えられるペン先で、それは万年筆でカリグラフィのような文字を書きたいという需要から出ています。

ピナイダーのペン先は硬めの14金でありながら、その独特な形状によって筆圧の変化に反応して、フレックスさせて書くことができます。

もともとが薄く柔らかいペン先だと、筆圧をかけた時に線が割れてしまったり、ペン先が開いて戻らなくなってしまいますが、このペン先はちゃんと戻ってくる弾力も持ち合わせています。筆圧を抜いて書くと、普通のペン先のように書けるので、奥深い楽しみのあるペンだと思います。

キャップはマグネット式なので、開け閉めが素早くできてとても便利です。私もそうですが、万年筆を使う人の中には、キャップの開け閉めの早さを気にする人が意外と多いので、ポイントの高い機能です。

そんなピナイダーの定番ラインが今年から代替わりしました。その中の「フルメタルジャケット」と「アヴァターUR」の14金ペン先仕様のものを、当店で扱っています。

フルメタルジャケットは吸入式で、その吸入機構にはちょっとした仕掛けがあります。

尻軸部の小さなダイヤルを回して吸入ピストンを作動させるのですが、回しやすくするために専用のツールが付属しています。そのツールをダイヤル部に被せて回すと、楽に吸入できるようになっています。

フルメタルジャケットは前作のラ・グランデ・ベレッツア同様太軸で、男性の方に好まれそうなものになっていますが、アヴァターURは軸径を細めにして、手の小さな方や女性の方をターゲットにしています。

ボディ素材に美しいマーブル模様のウルトラレジンを使い、華やかな仕上がりです。他にも細くて繊細な模様を彫刻したクリップ、フィレンツェの街並みを表現したキャップリングなど、見所の多い万年筆になっています。

これだけ見るべきところの多い、趣向を凝らした万年筆であるピナイダーは、気持ち良く書くだけではない多くの楽しみを持った万年筆なのです。

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~オリーブグリーンの小物~サファリファースト発売

今まで特定の色が好きだったことはなく、色に対してこだわりを持ったこともありませんでした。

でも数年前からオリーブグリーン、いわゆる深緑色に惹かれるようになって、服は買わないまでも、ちょっとした小物などにオリーブグリーンを選ぶようになりました。

好きな色があるというのは楽しいものです。

ショーウインドーを眺めていても、そこにあるモノがオリーブグリーンというだけで欲しくなるので、お店を見て歩くのが以前より楽しくなりました。

丈夫な布製の鞄を作る、アメリカのフィルソンというメーカーがあります。

アラスカのゴールドラッシュに向かう人たちのための衣類、靴などの装備を販売していたカナダのお店が発祥のアウトドア用品メーカーです。

カチコチの厚い布と厚い革製の丈夫なハンドルのついたアウトドアのイメージの鞄ですが、荷物をたくさん入れることができるし、普段の自分の服装にも違和感がないと思って、店の行き帰りに使っていました。

アメリカ製のものが好きで使い出したけれど、このフィルソンの鞄のオリーブグリーンが、私がこの色を好きになったきっかけだと思います。

毎年の恒例となっているラミーサファリの限定色がファーストモデルの色を復刻して発売されると聞いて、自分の唯一好きだと言える色なのでぜひ欲しいと思いました。

サファリは1980年に、その名前から連想できるように「アウトドアでの筆記具」というイメージで、グリーンとテラコッタを発売しました。

当時はそのコンセプトが受け容れられなかったのか、あまりにもそのデザインが斬新過ぎたのか、大して売れなかったそうです。

その後、ブラックとホワイトや複合筆記具などがモデルに追加されましたが、サファリが爆発的に売れるようになるのは、2000年頃まで待たなければいけなかったと記憶しています。

私も使っていましたが、マニアの間では静かに広まっていた、当時はモールスキンと呼ばれていたモレスキンのノートが一般的に売れるようになった頃とほぼ同時期で、こだわったノートに書く筆記具として、手軽に買える万年筆としてサファリが注目されたのだと思います。

でもその時には、既にグリーンもテラコッタも世の中からなくなっていました。

今ではアウトドアの雰囲気を持ったモノをインドアで使うことに違和感を持つことはないので、初代サファリはあまりにも早すぎた、時代を先取りし過ぎたペンだったと言えるけれど、ラミーという会社自体、そんなところのあるメーカーだと思います。

今回のサファリファーストは、万年筆とボールペンを初代サファリの復刻ボックスにセットしたものを中心に仕入れました。

私と同じようにオリーブグリーンに惹かれる人も多いと思いますし、初代のものよりも少しキレイめに微妙に色変更されているテラレッドも魅力があり、ぜひセットで手に入れて欲しいと思います。

⇒LAMY サファリファースト(LAMY TOPへ)

アウロラの最初の100年を記念する万年筆 チェント・アニベルサリオ レジーナ

久し振りに再度山の展望台から神戸の街を見下ろしてみました。

散歩で登ってくる人も多いその山は、三宮、元町の街並みがはっきりと見えるくらいの近さにあります。日本の都市でこんな間近に山から見下ろせる街は少ないのではないだろうか。

神戸で仕事をしてきた私は、こんな小さな街の狭い範囲で右往左往してきたのだと思うと、自分の存在の小ささを思わずにはいられません。

インターネット上にペンにまつわることを書いて、それを仕事の一部にするようになって、20年ほどになります。

万年筆やステーショナリー、そして「書くこと」。自分が唯一できることを仕事にして生きていられることは、本当に幸運なのだと思います。

私はこれしかできないから、これからも自分が良いと思ったもののことを書いて、皆さんにも楽しんでもらおうと思います。それが多くの人の心に届けばいいけれど。

自分の楽しみを届ける方法は時代とともに変化していて、文章を読んでもらうという私の方法は古くなりつつあるような気がします。でも自分の扱っているものはペンなので、まず自分が書いていなければ説得力がありません。私自身が書く者だから、私の言葉を聞いてくれるお客様もおられるのだろうと思っています。

原稿を書く時、私はまずノートに下書きします。

考えながらパソコンに直打ちする人もいるし、その方が早く書けるという人もいるけれど、私にはできない。

ゆっくりああでもない、こうでもないと無駄な下書きを何ページも書いて、その中から抜き出したものをパソコンに打ち込みながら推敲しています。

ノートに書くということは、電車の中でも公園のベンチでもすることができて、場所や時間を決めずに書くことができるというのも、私に合っていた。

当時は万年筆をペリカンとアウロラの2本しか持っていなかったけれど、こういう原稿を書き始めたばかりのとき、アウロラオプティマをよく使っていました。

アウロラの万年筆はどれもそうですが、オプティマはキャップを閉めると短くなって、Yシャツのポケットでも差しやすくなります。書く時は持ちやすい長さになり、太さも充分にあって、意外に思われるかもしれませんが、実用的で、非常に使いやすいサイズの万年筆です。

硬めのペン先も様々なシチュエーションで書くのに適していて、いつどこで書いても同じように書けました。

私の印象では、日本の万年筆の方が繊細な印象を受けます。同じ条件で書かないとその時々で書き味が違うように感じられます。

その代わり条件が合えば、極上の書き味を味わわせてくれるものもあるのが日本の万年筆だと思っています。

いつ書いても同じように書けるアウロラのそんなタフさも気に入っていて、当時それほど知名度の高くなかったこのイタリアの万年筆メーカーの良さをたくさんの人に知ってもらいたいと思いました。

その時アウロラは、80周年を迎えていました。細かい模様を彫刻した総シルバーの80周年万年筆を発売していて、数年後にアウロラの名を有名にした85周年レッドを発売することになります。そして20年後の一昨年アウロラは100周年記念万年筆チェント・アニベルサリオ・レジーナを発表し、昨年発売しました。

スターリングシルバーにギロシェ模様を彫刻して、エナメル塗装を施して滑らかに仕上げたボディや細部の繊細な細工。

80周年万年筆の力強さも85周年万年筆の華やかさも兼ね備えて、気品さえも漂わせている。アウロラの魅力を出し尽くした、できることは全てやったと思える完璧な万年筆です。

⇒AURORA チェント・アニベルサリオ・レジーナ