万年筆雑感~太字へのお誘い

おじさんになると、年代や性別でその好みを決めつけてしまうことがありますが、大抵それは正しくないことが多いので、改めなければと思います。やはり思い込みは一番良くなくて、いつもニュートラルな状態でいないといけない。

例えば、もう革も金具もなくなって作れなくなってしまいましたが、コンチネンタルM5手帳は、自分と同じくらいの年代の男性に、素材感のある革を厚く使った、「書かなくても持っているだけで楽しい手帳」として作りましたが、販売してみると女性のお客様が多く購入されていました。

そして売れ筋の万年筆の字幅は、私たちが若い頃20年以上前では、売筋はM、女性はFかEFでした。

でも最近は男女ともにFやEFを好まれるように変わってきたように思っていましたが、男女で分けるところも時代遅れだし、海外のM以上の字幅、国産でいうと太字以上を使いたいと思われる人も多く、いろいろな自分の中のデータも時代に合わなくなっていて、修正しなくてはいけないと思います。

太めの字幅を使う醍醐味は、湧きだすように潤沢なインク出でヌルヌルと書けるところだと思います。そしてそんなインク出では小さな文字や細部まで表現された美しい文字を書くのは難しいけれど、自分が太字で書きたいと思う文字は、そういう文字ではない。

自分の書きたい文字を書くための万年筆なので、用途によって字幅を変える必要はないのかもしれません。文字がつぶれてもいいからM5手帳にも太字で書くのもありだと思います。

そういう使い方をするなら、ドイツの万年筆のB以上の字幅がいい。

国産やイタリアのペンもよく書けるけれど、ドイツのペンのBの豪快なインク出には及ばないし、縦線が太く、横線が細目のドイツらしい線の形もそういう文字に合っています。ペリカンやモンブランのB以上になると期待通りの文字が書けると思っていますし、ペリカンのBBなら尚いいかと思います。

手帳にきれいな文字を書くことばかりに気をとられて、細字ばかりを見ていたけれど、万年筆の書き味は太くなればなるほど快感と思えるほど良くなっていく。

たまにはまた太字の万年筆でヌルヌルとした書き味を味わいながら、インクを大量に消費するのもいいのではないでしょうか。

日本の万年筆には微妙な書き味の違いがあって、それを感じ分けることは繊細な感覚を持った私たち日本人らしい万年筆のあり方で、それは世界に誇れるものだと思います。

私は日本の万年筆の書き味の良さを知っているから、ペン先調整でどの万年筆も日本の万年筆のような良い書き味に整えたいと思うし、そういう気持ちはブレずに持ち続けていたい。

新型コロナの影響でそれは滞っているけれど、人の行き来もモノのやり取りも境界線がなくなった現代において、モノ作りのお国柄は失われつつあっても、万年筆にはまだちゃんとあります。いくら国をまたいで行き来しても、その人のアイデンティティは変わらない。

万年筆のお国柄が失われないのは、万年筆がその人のアイデンティティを表現する道具だからなのかもしれません。

⇒Pelikan M800

⇒モンブラン 149

江田明裕さんのガラスペン

当店で扱っている作家さんが有名になって、多くのお店が扱うようになったりすることがあると嬉しくなります。

最近ではあちこちのお店で取り扱われるようになりましたが、早い段階で当店が扱わせていただいた幸運に恵まれて、その方の努力が実を結んで広く知られるようになっていった。そういうものを扱えていたことが嬉しい。

あまり多くのお店で扱われていない作家さんに出会ったら、お店側としてはなるべく自分の店だけで独占して他所に出ないようにすることが多いけれど、作家さんのためにはそんなことをしてはいけないと考えます。

店は自店のことだけを考えていてはいけない。お互い良くなっていくことを考えて、お互いに高め合えるようにしていくべきだと思います。競わなければならない感情はあるけれど、そう思ってなるべく実践してきました。

ただ言い方は悪いですが、商品のイメージと合わないお店では扱われたくないので、もし作家さんに聞かれたら正直に意見を言うようにしています。私は自分の店がその作家さんのイメージを良くする努力をしているので、勝手な話ですが他所の店を見る目は厳しい。

当店にガラスペンを納めてくれているaun(アウン)の江田明裕さんは、私が倉敷に行った時にたまたまその工房にたどりついて作品を購入したことが始まりで、その後店でも扱うようになりました。

すでにしっかりした工房兼店舗をお持ちで、地元の文具店に作品を納めたり個展をされたりしていたのですが、私は勉強不足で存じ上げませんでした。

江田さんのガラスペンで私がぜひ扱いたいと思ったのは、その書き味の良さに感動したからでした。 こんなに優しく、滑らかに、でもガラス独特のサラサラと紙と触れる感触を感じながら書けるガラスペンがあるのかと思い、万年筆店である当店でぜひ取り扱いたいと思いました。

最初はシンプルなラインナップでしたが、今では様々なデザイン、カラーバリエーションが増えて、その旺盛な製作欲に感心します。 インクブームもあって、インクをより簡単に楽しめるガラスペンが注目されるようになったのだと思います。インクを変える時、万年筆はその都度洗浄しないといけないのですが、ガラスペンならサッと洗い流すことができます。

最近はラメ入りのシマーリングインクも結構ありますが、そういったインクにはガラスペンがぴったりです。 インクがガラスペンに頑固にこびりついた時は、極細毛の柔らかい歯ブラシでこすっていただくと、きれいに取り除くことができます。

万年筆を愛用している方も時にはガラスペンでいろんな色のインクを楽しんでいただけた らと思います。大量生産品では作り得ない、1本ずつ書き味を調整されたガラスペンを楽しんで欲しい。

当店も江田さんのガラスペンを神戸ペンショーに持って行くけれど、たくさんの本数を準備していますので、ペンショー後になりますがホームページに更新できると思います。

ガラスペンはネットショップでも人気です。 ネット販売というと事務的なやりとりのように思われるかもしれないけれど、ちょっとした言葉のやり取りで、ネット販売も店舗での販売と同じように感じていただけると思います。

当店では発送の際に、一筆箋で一言添えるようにしています。ガラスペンだと興味をお持ちの方が多いのか、手紙に使ったインクの問い合わせが来ることもあります。

これからもっとネット販売の比率は上がっていくと思いますが、お客様と店が心を通わすきっかけに、江田明裕さんのガラスペンも一役買ってくれています。

⇒江田明裕氏作 ガラスペン (入荷分は12月に更新予定です) 

自信のレイアウト・オリジナルダイアリー

手帳が好きなので、なるべく多くの冊数を同時進行して使いたいと思っています。

今までは色々使いたいという思いに蓋をして、1冊にまとめようとしていました。でも何冊もの手帳を鞄いっぱいに入れて、それぞれに役割を与えて楽しみながら使いこなしている古くからのお客様であるOさんの姿を見て、自分も使いたいものを自由に使おうと思いました。

手帳は1冊にまとめるよりも、複数の冊数をそれぞれに役割を割り振った方が上手く行くということは何となく思っていたけれど、Oさんの姿がそれの後押しになった。

いくつもの手帳に役割を与えて使うシステムについて考えるといくらでも考えていられるけれど、そろそろ来年の手帳の組み合わせについて決めてもいい時期になっています。

日付入りの手帳の理想は、見開きでたくさんの日数を見渡すことができるものだと思っていますが、たくさんの日数を見渡せるようになるほど、1日ごとの書けるスペースが小さくなるというジレンマがあり、このバランスを取らなくてはいけません。

紙を大きくしていくとこの問題を解決できるけれど、持ち運びの邪魔になったり、限られた机のスペースで使いにくくなります。

オリジナルのダイアリーはA5サイズの縦を少しだけ短くした正方形で、持ち運びやすさと書き込めるスペースのバランスがちょうどいいと思っています。

特にマンスリーは、スケジュールを確認するのにかなり使いやすい。

来年は正方形ダイアリーのマンスリーを全ての手帳のターミナルのような存在で使い、いかに1ページにたくさんの情報を書き込めるかということに挑戦しながら、使いたいと思っています。

正方形のマンスリーダイアリーは、予定も書き込めながら他のことも書き込む余地のある自信のレイアウトで、このレイアウトを生み出した10年前の自分たちを褒めたいと言うとあまりにも手前味噌過ぎるかもしれないけれど、他にない、使いやすいレイアウトです。

全てのスケジュールをマンスリーダイアリーで管理して、M5手帳をそら文葉のフレックスダイアリーや当店オリジナルのLiscio-1紙方眼リフィルを1日1ページとして使って、毎日の細々としたToDoを管理したい。

そしてその日一日のまとめを正方形のウィークリーダイアリーに記録して、数年後に2021年について調べた時に分かりやすくしておきたい。

オリジナルダイアリー用にカンダミサコさんに作っていただいたミラージュ革の正方形カバーは、ダグラスとの革質の違いか、ウィークリーダイアリーを入れると少しきつめになっています。

ダイアリーを入れていると革が伸びてピッタリとフィットするけれど、内側にペンホルダーを備えた意図はゆったりラフに使えるというものだったので、薄いマンスリーダイアリーをミラージュカバーに入れた時のくったりした感じの方が当初のイメージでした。

ミラージュ革で今後も色々作るかを考えていますが、もともとの艶や張りがありながら、使い込むと馴染んだ艶が出るエージングもする、しっかりとしたいい革だと思います。

万年筆という、歴史あるメーカーの作る魅力的なプロダクツがあって、これにどんな革を組み合わせるかということが店の個性だと思っています。

マンスリーダイアリーにミラージュカバーを付けて、ファーバーカステルクラシックコレクションなどをペンホルダーに挟んで使えたら、中身を書かなくてもそれで満足してしまいそうです。

*2021年正方形ダイアリー・マンスリー 

*2021年正方形ダイアリー・ウイークリー

*正方形ダイアリー用カバーミラージュ革

AURORAカレイドスコーピオルーチェブルー

アウロラの限定品、カレイドスコーピオルーチェブルーが860本限定で発売されました。

アウロラの限定品は、ペン先に18金を装備して、ジャンルで言うと下記のシリーズに分かれます。

1)オプティマをべースにして、旧タイプのキャップリングを使用した往年のアウロラをイメージした365シリーズ

2)バランス型の88をベースにした太陽系の惑星をテーマにしたシリーズ

3)金属パーツにスターリングシルバーを驕り、首軸にもスターリングシルバーを採用したオチェアーノのシリーズ

今回のカレイドスコーピオは、1のオプティマ型ですが、首軸にもボディと同素材のアウロロイドを使用し、特別感の強い華やかな仕上がりになっていて、新たな限定品のシリーズになっています。

カレイドスコーピオ(万華鏡)の名の通り、幻想的なアウロロイドの模様は、流行の薄めのインクにも相性の良い色合いだと思っています。

アウロラの書き味はカリカリした、鉛筆のような書き味と言われることもありますが、私は良いバランスに調整されたアウロラの書き味は柔らかい肉にナイフを入れるような、滑らかで、柔らかさを感じるものだと思っています。

今回の限定品は同じ色のボールペンも320本限定で製作されています。

アウロラのボールペンは、汎用性の高いパーカータイプの芯を使いますので、お好みの書き味の芯を入れることができます。

パーカータイプと呼ばれる芯の規格は、パーカーが最初に採用して、今も使われていることから業界内でそう呼ばれています。

モンブラン、ウォーターマン、カランダッシュ、シェーファーと国産各社は独自規格の芯を使っているのに対し、パーカータイプは選択肢の多さで競争力の高さを持っています。

三菱はジェットストリームという、インクの粘度の低い軽い書き味のボールペンで世界を席巻しましたが、ジェットストリームにもパーカータイプのものが存在します。

筆圧の高い方は、粘度が高い従来のボールペン芯の方が使いやすいと言われる方も多いので、ペリカンやアウロラの芯を使われるといいのではないでしょうか。

アウロラは、このカレイドスコーピオのシリーズをしばらく継続するそうで、次のモデルはピンク色を基調にしたものになります。

他の分野と同じようにペンの業界も今年は動きが止まってしまいました。

それは働いている人の安全を確保するという、已むに已まれぬ理由があるためで、特に欧米は深刻な状態になっている。

日本でも疫病を恐れないわけではないですが、このままとどまってじっとしていていいのかという、焦りのようなものも多くの人が感じ始めているように思います。

そろそろ経済を動かさなくてはならない。アウロラは比較的早い段階から、コロナウイルスに負けずに、工場を操業させているというメッセージを発信していました。

そして多くの万年筆メーカーが沈黙を守っている中、予定よりも遅れたとはいえ、アウロラは新しい限定品のシリーズを発売してきました。

そんなアウロラの不屈の精神の表れが、このカレイドスコーピオだと思っています。

⇒AURORA カレイドスコーピオ万年筆

⇒AURORA カレイドスコーピオボールペン

大人のシャープペンシル ペリカンD400

若い頃、この仕事に携わる前の万年筆を使い始めたばかりの頃は、書くものは何でも万年筆で書いていました。

万年筆を使うようになって書くことがより楽しくなったので、無理やりにでも万年筆を使いたかった。

その時はいつも万年筆のことを考えていたので、ペン先が付いていて、万年筆の形をしているものなら何でも欲しかったし、万年筆というキーワードの入った本なら何でも買っていました。

その時に一気に入り込んだ世界に今もしがみついているけれど、その時の頑なさが自分の未来を作ったのかもしれないと思うことがあります。

今は少し引いて考えられるようになって、自分は書くこと自体が好きだったのだと思い返すことができたし、筆記具も用途に応じて使うと、より書くことを楽しめると思うようになりました。

それでも万年筆は自分にとって、単なる筆記具以上の存在ではあるけれど。

自分の仕事の内容を考えるとペンシルの方が合うと思うものが結構あることに気付いて、シャープペンシルもよく使うようになりました。

国産のシャープペンシルは安価ですが面白いものが多く、片っ端から使ってみていましたが、最近はペリカンD400というシャープペンシルが一芸に秀でた国産シャープペンシルと対極をなす、バランスがとれた大人のシャープペンシルだと使い始めて思いました。

オーソドックスでありながら、くちばしのクリップや天冠の小さなロゴなどのアイデンティティは示されていて、分かる人にはペリカンだと分かるこのさりげなさも良いと思います。

海外のものは芯の繰り出しが回転式のものが多いですが、D400はノック式で、子供の頃から使っているものと同じで馴染みがあり、これがシャープペンシルでは一番使いやすい機構だと思っています。

もうひとつ芯の太さの問題があります。

海外のものは0.7ミリの芯を使うものが標準ですが、私のように手帳に小さな文字で下書きを書く場合には太すぎて、やはり0.5ミリの方が使いやすい。

当店でも、ペリカンのシャープペンシルは、0.5ミリと0.7ミリを選ぶことができます。

芯は国産のものが圧倒的に、滑らかに柔らかく、気持ち良く書くことができると思っています。

私は三菱鉛筆のハイユニの2Bと4Bを使っていて、シャープペンシルを使う人には必ず勧めていますが、既に使われている方も多いと思います。

ダイアリーやバイブルサイズの手帳など、記録するものは万年筆で書いて、後からでも読みやすいように書くのですが、自分が最も楽しんでいる休みの日や昼間に考えたことを原稿ノートに書く下書きはシャープペンシルで書きます。

原稿は、頭の中で考えて一気にノートに書いて、パソコンで清書したら終わりという書き方をしていましたが、バインダー式の手帳のページに、タイトルや大まかな内容だけを書いておいて、そこへ書き足していくというやり方をするようになりました。そうやって時間だけでもかけた方が、自分として少しはマシなものが書けるのではないかと思っています。

私にとって、万年筆は表現、清書の道具。シャープペンシルは考える道具で、地味な存在だけど、そんな陰の仕事を支えてくれる良いものと出会えたと思っています。

⇒Pelikan D400ペンシル(0.5mm/0.7mm)

いつかは149

「いつかはクラウン」という言葉が、古いトヨタのコピーにありました。

単純にいつかクラウンを買ってやる、というものではなく、30代40代は分相応なカローラに乗って、社会的に乗ってもいいと認められる地位や年齢になってきたら世間的にやっとクラウンに乗ることを許される。そういう古い日本人的な慎み深さや分相応をわきまえた、シンプルだけど奥行きのある言葉だと思います。

当時の人はいくらクラウンが買えるお金があったとしても、自分がクラウンに相応しいかどうかを気にしていた。それが堅実な生き方というものなのかもしれません。

世の中をそういう風潮にした、自動車メーカーとしては勇気のいるメッセージで、これが文化を作るということだと思う。今ではどんな車でもローンや他の方法で乗ることもできるし、車でその人の格を推し量る時代ではなくなりました。

万年筆においてクラウンにあたるものは、モンブラン149だと思ってきました。

149は特別な機能を備えた万年筆ではない普通の万年筆ですが、格のようなものを感じさせます。

多くの作家がそのタフな仕様を信頼して、自分の仕事を書き記すために愛用したというエピソードもたくさんあって、いつかは149に見合った仕事をしたいと思わせてくれる。古い考え方かもしれないけれど、そういう万年筆ではないかと思います。

10年くらい前に、同年代の古くからのお客様Nさんと自分がどんな立場になったら149を買うかという話をしたことがあり、Nさんは校長になったら149を手に入れたいと言っていました。

肝心な自分が何と言ったかを忘れてしまったけれど、50歳になったら、あるいは店を10年続けることができたら、のどちらかだったと思う。

その時は40代になったばかりで、まだまだ先の話だと思っていたけれど、気がついたらどちらの基準もクリアしていました。

でも今の自分が、当時思った149を手に入れるに相応しい人間なのかは分からない。そうなるように努力はしてきたけれど、変化のない平坦な道を歩いてきて、劇的に何かが変わったというものもありません。私たちの仕事は、自分で自分を評価したり、自分で自分の仕事を作るので、何かをやり遂げたと自分で思った時がタイミングなのではないかと思う。

モノを手にするのにわきまえるという考えなどなくなった今では、若い人が149を手に入れることに対してまだ早すぎるとは思いません。とっくにそういう時代ではなくなっています。

ただ、私とNさんの間において、149はそういうものだったというだけの話です。

Nさんとそういう話をした当時、当店は149、モンブランを扱っていませんでした。でもNさんとの約束を守るためにも149だけは扱えるようになりたいと思っていました。

当店は万年筆ではモンブランも他の万年筆と同じようにペン先調整して販売しています。

長年使い込んで良い書き味に馴らしていくのがメーカーの意図なのだと思いますが、少し調整をして、最初から滑らかに書けるようにしてから使い込んでいくのが、今の時代の万年筆の馴らし方なのかもしれません。

自分のために149を調整する日はいつになるのか分からないし、わきまえるのもいい加減にしないと、使い込む時間がなくなってしまいそうです。

⇒モンブラン149

2021年オリジナルダイアリー

一年に数回、店を始めた頃から現在までのダイアリーを見返さなくてはいけないことがあります。探している事柄を見つける度に良かったと思い、何でもきちんと書いておかなくてはいけないと思う。

システム手帳でも、綴じの手帳でもいい。しっかり書いておかないと記録としてのダイアリーは後で役に立たない。

時系列で調べることを考えると、綴じの手帳の方が散逸しにくく、探し易いのかもしれません。今回は綴じの手帳としてオリジナルダイアリーをお勧めしたいと思います。

もう11年作り続けている定番商品です。

手帳というよりもA5サイズの長辺を少し短くした158ミリ×158ミリの正方形サイズで、記録として書いておくためのスペースを確保しつつ携帯性も考慮した大きさです。あまり大きくなると机の上で広げにくくなりますし、色々な事情を忖度した使いやすいサイズだと思っています。

今回の2021年のダイアリーは大きくリニューアルしましたので、ご紹介させていただきます。

まず表紙のデザインを変更しました。

11年間同じ表紙を愛着を持って使っていましたが、改めて今の感覚でデザインし、紙もシックで質感のあるものを使用しました。

中紙は万年筆の書き味や、にじみ、裏抜けしにくさにこだわって選んだ、ダンデレード紙に変更しました。にじみのない正確なインク乗りと柔らかい書き味を楽しんでいただけます。

罫線のレイアウトは変更していませんが、フォントをタイプライター文字にして、少しクラシックな印象にしました。やや骨太で温かみのある書体は存在感もあり、遊び心も感じられる紙面になったと思います。

私は正方形ダイアリーのウイークリーをM5システム手帳とバイブルサイズのシステム手帳と併用しています。使い方としては、1日1ページで使っているM5手帳の情報を清書して、数年後に見返しても分かるようにすることと、スケジュール、ToDoの管理です。

ウィークリーページの右側土日下のフリーの記入欄は4分割とチェックボックス付きの欄があって、その週にする自分の仕事を項目別に書いています。項目はORDER、WORK、WRITE、MEMO、THINKで、それぞれゴム印を作って押しています。

シックで、少しマニアックな感じの表紙をそのままでお使いいただいてもいいですが、今年も革のカバーを作りました。

革は、残り少なくなったダグラス革を裏張りなしで、薄めに使って仕上げています。

カバーの内側にペンホルダーを装備していて、手帳用には太めのペリカンM800くらいまでのサイズにも対応できるようにしています。

オリジナルダイアリー同様、革カバーも自分たちならこう使うという主張を込めた、少しラフに仕事の道具として使っていただける仕様にしています。

オリジナルダイアリーも、作り始めて11年たって、当時と今とでは世の中は大きく変わりました。オリジナルダイアリーもそのままで良いわけはなく、今の感覚に合わせて、使ってみたいと思ってもらえるようにする必要がありました。モデルチェンジさせて新しいスタートをきりたかった。

今使って下さっている方に迷惑は掛けられないけれど、変えられるところは全て変えたいと思い、出来上がったものが来年版のダイアリーです。

少し遅くなったけれど、システム手帳とともに使い分けてお使いいただきたいと思っています。

*オリジナル正方形ダイアリー(正方形ダイアリー/ノートTOPへ)

*コンチネンタル正方形ダイアリーカバー

A5システムバインダーの受注製作

私にとってシステム手帳やダイアリーは清書するもので、後からちゃんと読めるように自分なりにキチンと書くものなので、それらに走り書きをすることはありません。

原稿の下書きや打ち合わせのメモ書きなどにはA5サイズのルーズリーフを使っていて、これはノート代わりの使い方なのかもしれません。

文字の形を気にせず、太めの万年筆や4BのペンシルでA5サイズのルーズリーフに書くと、伸び伸び書けて気持ちがいい。穴の数の違いはありますが、6穴のA5システム手帳とルーズリーフの役割はそれほど変わらないので、ノート的に使うこともできます。

私と同じようにバイブルサイズとA5サイズを使い分けている人は多くて、M5やバイブルがあるのだから、A5サイズのシステム手帳も作ってほしいという声はありました。

そんなとき、カンダミサコさんからA5サイズのシステムバインダーを受注製作で受け付けませんかという提案があり、期間限定で始めて見ることにしました。10月末まで受け付けをして、12月中にお渡しすることにしました。

表革は丈夫なシュランケンカーフ、内革は艶の出るブッテーロです。

リング径は携帯性と使い勝手のバランスが良い16mm径で、色はシルバーかゴールドをお選びいただけます。ただしゴールド金具のご注文が多い場合は、メッキ加工の都合でゴールド金具のみ1月にズレ込む可能性があります。

同じものをまとめてたくさん作る量産ではなく、ご注文のものをひとつずつ製作するパターンオーダーという形になり、いくつものパターンの中からお好きな色を選んでいただいてお作りすることができます。

バイブルサイズ、M5サイズの金具を独特な方法で固定する平らに開く仕様はA5サイズでも採用しており、紙を綴じたままでの書きやすさはさすがです。

A5サイズのメリットは、紙が大きく伸び伸び書けることに加えて、A4サイズの書類を2つ折りにしてそのまま綴じられる、ファイル的な使い方ができることもあります。このあたり変形サイズであるバイブルサイズにはない使い勝手の良さだと思います。

A5サイズも、システムバインダー、システム手帳の範疇に入るものなのかもしれませんが、バイブルサイズなどの手帳らしいサイズのものとは違う用途があると思っています。

*受注生産 カンダミサコ A5システムバインダー(期間限定:2020.10.31受付まで)

オーソドックスなペンケースの形・コンプロット~コンプロット2(ドゥーエ)

先週末、今年1回しかできなかった工房楔イベントが終わりました。

コロナウイルス感染防止策として、人数制限・時間制限のあるイベントになってしまいましたが、今回実際に行ってみると、コロナウイルス禍中でなくてもこういう形態に変わるべきだったのだと思いました。

今までは開店前の店頭に行列ができて、開店と同時に一気にお客様方が店内に入り、店がいっぱいになる。

目的のものがあるお客様は、誰よりも先にそれを確保しなければいけないという状態でしたから、今から思うとあまりにも平成的な(前時代的な)イベントの運営方法だったかもしれない。

時間の制約はあるけれど、皆様が永田さんの話を聞きながらゆっくり選ぶことができた今回のイベントの形はこれからも続けていくつもりです。

ステイホームの期間、家にいることが多くなったためか、少し前から良いシャープペンシルが小学生から高校生までの人たちの興味の対象になっていました。

それで流れができていたのか分からないけれど、今は木製のシャープペンシルがブームになっていて、工房楔のシャープペンシルも若い人たちから注目されるようになっていました。

その只中でのイベントの開催ということもあり、今回はわざわざ遠くから若いお客様が親御さんとイベントに来られているのが目立ちました。

イベントで工房楔さんが持って来られたたくさんのものの中から厳選して仕入れました。今回はコンプロット2をご紹介いたします。

コンプロット2を待っておられた方も多いと思います。

コンプロット10も6、4も同じペンケースではありますが、持ち運ぶということを考えるとどうしても大きく、重くなってしまい、鞄に入れて持ち運ぶのは少し大変です。

コンプロット2は、持ち運びもできる軽さとコンパクトさがあり、これなら毎日持ち運ぶのも現実的なサイズです。しかも開いて机の上に置くと蓋の部分もちょうどいいペン皿のように使うことができます。

コンプロット2には、ノーマルサイズとロングがあります。

ノーマルサイズのコンプロット2でもオーバーサイズのモンブラン149やペリカンM1000、そしてウォールエバーシャープデコバンドは隙間なく収納することができます

ノーマルサイズで長さ149ミリ幅20ミリのペンが入りますので、充分なサイズだと言えます。ちなみにロングには、長さ161ミリ幅20ミリのペンまでが収納可能で、パイロットカスタム漆をイメージして作られたようです。

コンプロット2を重い順に列挙します。 

黒檀ロング(230g)、花梨ロング(181gと168.8g)、楓ロング(147g)、ホンジュラスローズウッド(210g)、キングウッド(188g)、楓(140.8gと139.4g)、花梨(144g)、花梨紅白(131g)、ハワイアンコア(126g)

持ち運びの参考のために重さを列挙しましたが、重い木の目の詰まった硬さも魅力がありますし、磨き込んだ時の艶の出方も魅力がありますので、重さだけで判断することはできないけれど、参考になるかもしれません。

私がペンケースに合った素材だと思っている軽めの楓ちぢみ杢はすごい杢が出ているものが選べたと思っていますが、艶が出やすく模様が華やかな花梨も人気があるし、結局好みということになります。

銘木の自然の模様がその板面に表現されているコンプロットの中で、最も筆箱らしいオーソドックスなペンケースコンプロット2。これにどんなオーバーサイズの万年筆を2本入れて旅に出ようかと考えることが楽しくなるペンケースです。

⇒工房楔・Complotto-2(コンプロット・ドゥーエ)

手帳のコーディネート

ステーショナリーも上質なものになるほど、実用の要素は薄れ、趣味、ファッションに寄っていくものだと思います。だから高価な万年筆に値段分のスペックだけを求めるのは野暮だと思う。

それくらいの万年筆になると、用途ではなく、自分の心に作用するものだと思います。その万年筆がただ鞄の中に、ペンケースの中にあると思えるだけで嬉しくて元気になれるような、心に作用するもの。必要な用途があって持っているのではなく、心に作用して何故か持っていたいと思えるものを扱っていたいと思います。

ただそのモノに直感的に惹かれて思い切って手に入れてみたら、ものすごく書き味が良かったというものが、私が目指す当店の万年筆のあり方ですし、万年筆以外のものでも同じようにしたい。

値段の高いものが書きにくいということは許されない。

書き味などフィーリングの良さへの要求は、趣味の方が実用で使うものよりも高いものが求められている気がします。人は自分が好きなものだからこそより良いものを求めるのかも知れない。趣味も満足させるクオリティを私たちは提供しなければいけない。

先日発売した、オリジナルのM5手帳、アルランゴートのローズゴールド革は、硬そうに見えるかもしれませんが、実はしなやかで手触りが気持ち良い。手に触れることが多い手帳にも合った、質感の良い革です。

この革をカンダミサコさんに見せていただいた時、これで何か作りたいと思いました。

女性に向けてということはもちろん意識していたけれど、素敵な男性が選ばれることもあって、この革の選択は間違っていなかったと思っています。

この手帳とアシュフォードの小口ローズゴールドのリフィルの組み合わせは、キマり過ぎなくらい完璧なコーディネートですが、もうひとつ組み合わせて持ちたい筆記具が限定発売されました。

カランダッシュエクリドールXSローズゴールドボールペンです。

M5手帳のペンホルダーに収めるためにあるような、かなり短めのボールペンです。このモデルは定番でしたが、数年前に廃番になり、姿を消していました。そのモデルがローズゴールド張りで再販されたというのは、やはり今のM5手帳の盛り上がりが理由なのかもしれません。

このローズゴールドのエクリドールXSボールペン、偶然とはいえこのアルランローズゴールドのM5手帳にためにあるようなものだと思いました。

小口ローズゴールドのリフィルを入れたこの手帳のペンホルダーに、ローズゴールドのエクリドールが差さっている。これ以上のコーディネートはなく、完璧に仕上がっていると思います。

手帳の中身をきれいに工夫しながら書くのも楽しく、趣味にもなることだと思いますが、ここまでくると中に何も書かず、ただ持ち歩くだけでも楽しい気分になる。

もちろん書いても楽しいですが、形を完璧に整えて持っているだけで嬉しいものも当店は提案したい。

当店は書き味の良い万年筆を追究しているから、こだわって調整した万年筆を販売しているけれど、こういう使わなくても嬉しい気分になる、遊びの、趣味のものもどんどん扱いたいと思っています。

⇒カランダッシュエクリドールXSローズゴールドボールペン

M5手帳、アルランゴートのローズゴールド革