イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて

イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて
イベント 楔の奏でる木の文具展を終えて

イベントの開催を知らずに、当店を訪れたお客様はきっと驚かれたと思います。店の3分の1くらいのスペースを楔のイベントのために木製品で埋め尽くしていたからです。

イベントは4日間で、比較的長めの日程だったと思いますが、終わってみるとやり尽くしたという感慨はなく、1年に1回のお祭りが終わったような、とても寂しい気分になっています。
イベント自体が盛況であるほど終わった時の寂しさがあり、これからまた私たちは別々の場所でそれぞれの仕事を上げていく努力をしていくことになります。
元気のある、明るい雰囲気の永田さんの存在によって、イベントの内容以外でもお客様方に楽しんでいただけたと思っていますし、私たちも楽しく仕事をさせていただきました。
永田さん4日間お疲れ様でした。そしてご来店いただきましたお客様、本当にありがとうございました。

個人的に気に入って、1年越しの想いが叶って使い出すことができたウォールナットのスツール、コンプロットミニと命名された名刺入れ、そして今までになかった希少な素材のペンなど、イベントにはたくさんの新製品があり、非常に楽しく迷うことになった方も多いと思います。

しかし、楔と言えば、趣味の文具箱でも掲載された贅沢な10本用ペンケース、コンプロット10に驚いた方も多いのではないかと思います。
このコンプロット10の登場で、今までひたすら銘木のペンを作ってきた工房楔 永田篤史のイメージが変わったと思っています。
コンプロット10は、ただ銘木で文具を作ったというだけでない、今までになかった新しく作られた価値であり、既にあるものに工夫を凝らしたというものとは全く違う創意によって完成されたものです。
物作りに携わる人にとって、新しい価値を作ることは、ひとつの到達点であり、コンプロット10でそれを成し遂げることができた永田さんの企画の進化を感じています。

コンプロット10の企画を聞いた時に私は成功するのかどうか分かりませんでした。
もしかしたらものすごく販売努力の必要な商品ができてしまうかもしれないと思いましたが、完成して、お客様の反応を見て、コンプロット10の成功を疑いませんでした。

新しくなった楔(永田さん自身は何も変わりませんが)のコンプロット10に続いて発売された新製品は「オリジナルの部品を使った万年筆」で、私は密かに今回のイベントの目玉だと思っていました。

信頼できる大手部品メーカーによる金ペン先を予定していましたが、完成が遅れてたため、今回のイベントには間に合いませんでした。
そこで先に従来のペン先を入れておき、後日差し替えをするということになりました。
ペン先以外の部品、万年筆のベースとなる金具を金属加工職人と共同で全てオリジナルで作った、新型のクローズドエンド万年筆。
大きさ、バランス、破綻のないきれいなボディラインなど、オリジナリティがありながら、どっしりとした様になった出来栄えになっています。

今回のクローズドエンド万年筆に辿り着くまでの試作品をいくつも見てきました。最初は良いのか悪いのか分からないものだったものが少しずつ形を変えていきました。
私たちの見えないところで、永田さんが試行錯誤しながら本当にたくさんの軸を削りながら到達した、もうこれしかないという形になったと思います。

楔の永田さんのように、大メーカーでなくペンを作っている工房は部品メーカーが公に発売するパーツを使ってペンを作らざるを得ません。
ボディはそれぞれの工房のこだわりを素材、形、仕上げなどを加えることが出来ますが、素人目には一緒に見えてしまい、デザインで差別化することが難しいことが、永田さんの不満と焦りになっていました。

このオリジナリティの問題を解決して、万年筆作りをし続けていくためにもオリジナルボディは必要だったのです。
オリジナルの金具は、1つ1つ真鍮やステンレスを削り出して作られていて、その素材感を大切にしたパーツの存在は、楔の万年筆をより格調高いものにしています。

私たちのような店以外でも、全ての仕事においてオリジナリティは非常に大切だと思いますが、それを早くから意識して、素材である木の良さだけに甘えない木工家永田篤史の新たな挑戦に共感しましたし、これからも協力していきたいと思っています。