スタンダードを教えてくれるペン

人が良いと言うモノでも、それが自分にとっても良いモノかどうかは分かりません。

例えば、ネットの記事や雑誌などで良いと言われている革靴をお金を貯めて買っても、それが自分の足の形に合っていなければ自分にとっては良いものではなくなります。

自分の足に合ってすごく良かった、というものは結局自分で見つけるしかない。

でもそうやって見つけたものは、人生の宝物と言えると思います。

日頃万年筆やステーショナリーをお勧めしているのに身も蓋もないと思われるかもしれないけれど、靴や服ほどでなくても、万年筆でも同じことが言えると思います。

万年筆販売のプロとして、ただ良い、と言うのではなく、中身のあるなるべく公平な見解をお伝えしたい。

そのモノを知る時にまずスタンダードを知るべきだと思います。

万年筆もスタンダードと言えるものをまず使って、標準を知ることでもっと自分に合うものを探すことができるかもしれません。

私は万年筆のスタンダードとして、頑なにペリカンM800をお勧めしてきました。これは一般論を言っている訳ではなく、自分がM800をずっと使ってきて実感していることです。

重量も軸径も万年筆の標準的なサイズで、これよりも大きければオーバーサイズ、これよりも小さければ小振りな万年筆と言える。重さもこれ以上であれば重い、これ以下では軽いと言うことができる、本当に基準となるサイズだと思います。

M800に限らずペリカンの特長のひとつに、自社インクはもちろん、他社インクでもスムーズに書けるということが挙げられます。

インクを色々変えて使う人なら経験があるかもしれませんが、それまで気持ち良く書けていた万年筆がインクを変えた途端に書きにくくなったりする。

それはインクの粘度や粒子の大きさとペンとの相性によるものですが、ペリカンは多少の出方の差はあっても気持ち良く書けることが多い。

自由にインクを変えることができて扱いやすいペンと言うことができます。

私もまだ万年筆をペリカンM800を1本しか持っていなかった時、インクを色々入れ変えて使って、インクの性質の違いをつかむことができました。

M800は標準的なサイズだと言いましたが、それまで軽いペンを使っていた人には重く感じられるかもしれません。その場合はキャップを尻軸にはめずに持つと軽くなって、使いやすく感じるかもしれません。

そうやって使っていくうちに、キャップを尻軸にはめてペンの重みで楽に書くという、万年筆ならではの書き方もできるようになっていき、万年筆の書き方も教えてくれるペンでもあるのだと言えます。

お手紙向上委員会が年4回発行している「ふみぶみ」というフリーペーパーがあります。当店でも店頭に置いてお持ち帰りいただけるようにしています。

手紙を書くことを楽しむ人を増やしたいという志を持って発行されている内容の充実した冊子で、現在15号まで発行されています。

私も創刊号から寄稿させていただいていて、毎回好きなことを書いているのですが、ふみぶみの次号、16号でもペリカンについて書きました。

ペリカンはコロナ禍とウクライナ戦争の影響をもろに受けて、製品供給がままならず、かなり苦しんでいました。この三年間、日本中の売場からペリカンの万年筆が消えてしまっていた。

先日ペリカンの親会社が、インドネシアの会社からフランスの会社の変わったという記事が新聞にも出ていました。それでペリカンの状況が良くなって欲しいと思っています。会社が変わっても、変わらずスタンダードを教えてくれ、安心してお客様にお勧めできる万年筆を作って欲しいと願っています。

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