ル・ボナーさんと590&Co.さんとのプエブロ革のデブペンケース

先日、590&Co.の谷本さんに誘われてお客様のAさんと閉店後に食事に行きました。

谷本さんに言われて気付いたけれど、前に谷本さんと食事をしたのは1年前でした。お店も近いし、文具イベントでもよく会っていたので気付かなかった。

今年は今までの年と違う色々なことが起こって、私なりに気忙しい時間を過ごしていたし、谷本さんも店を移転させたりして、お互い忙しく過ごしていたと思います。そんな中で、会ってゆっくり話していないことに気付きませんでした。だから先日はAさんも交えて、久しぶりにゆっくり食事をしながら楽しく話すことができました。

夕食は1年振りだけど、ル・ボナーの松本さんと3人では2回ほど昼食を一緒にしています。デブペンケースの別注品プエブロとサドルプルアップレザーを作ってもらうための打ち合わせで、谷本さんとル・ボナーさんのお店がある六甲アイランドを訪れました。

1回目の発注ではその需要を少なく見積もり過ぎていたため、590&Co.さんも当店も1日で完売してしまって、多くのお客様から再販のリクエストをいただきました。

すぐに2回目の注文をお願いしましたが、それはかなり思い切った数の注文になりました。谷本さんの「バブル期のおっさんのような発注をしてしまった」という言葉の通り、ものすごい数で、職人さんや松本さんは大変だったと思います。

かなり人気があって売れるものだとは思いますが、両店の在庫が膨大で、プエブロはまだ在庫があります。でもこれは宝物だと思っています。

11月初めに当店に泥棒が入った時、高価な万年筆とともに、プエブロとサドルプルアップレザーのデブペンケースも盗まれていないか気になって、真っ先に確認しました。

万年筆は20本近く盗まれていたけれど、デブペンケースは盗まれていなかった。

よくよく考えてみると、セコムさんが急行するわずかな時間にカサ張るペンケースを盗むはずがないけれど、真っ先に思い付いた自分が可笑しい。

定番のブッテーロ革も乾いた布やブラシをかけたりして丁寧に扱うと、キラキラしたきれいな艶を出してくれるけれど、オイル分の多いプエブロも手入れすると劇的な艶を出してくれます。

表面をヤスリのようなもので擦ってマットな質感に仕上げられている革なので、余計にその艶の出方に驚く人も多いと思います。

ル・ボナーさんやカンダミサコさんの革製品でよく使われている、同じタンナーバタラッシィのミネルヴァボックスも劇的に変わる革で、艶の塊のようになります。グリージョなどは最初緑みのかかったグレーですが、使い込むうちに焦茶色に変化します。もともとは同じ革であるプエブロも変化しないはずがありません。

万年筆を1本ずつ入れる仕切りのついたル・ボナーさんの絞りペンケースも使うけれど、やはり一番使うのはデブペンケースのような、雑多なペンや文房具をたくさん入れて持ち運ぶことができる大きなペンケースです。

そういう日常的によく使うものを普段作らない特別な革で作ったプエブロのデブペンケースは、多くの人に革の面白さを知ってもらうのにすごくいいものだと思っています。

今回が今年最後のペン語りになります。皆様今年一年も読んでくださり、ありがとうございました。次回の更新は1月7日(金)です。良いお年をお迎えください。

⇒ル・ボナー デブペンケース(ペンケースTOP)

自分だけの名品を探して~ウォールエバーシャープ~

色々なものの好みと同じように、服装もカジュアルで自然体なものが好みです。

基本的にジャケットにデニム、革靴という組み合わせが好きで、それぞれどのブランドがいいという決まったものはないけれど、お店やネットで見つけたものが自分の好みに合っていたらそれでいいと思って、こだわりなく必要な時に買っています。

デニムは、こだわりの強い国産メーカーのものよりも、どこかの服飾ブランドのものの方が自分の感覚には近くて、そういうものの中から選んでいました。でも最近は始めから色落ちしていたり、ダメージ加工をされたものが流行しているようで、好みに合わなくなっていました。

GAPはファストファッションの代表のようなブランドですが、GAPのデニムの中に、日本のカイハラの生地を使った、リジット(未洗い)でスタンダードな型があるのをネットで見つけて履くようになりました。

最初はカチカチのデニムが、履いては洗うを繰り返すうちに、少しずつ縮んで馴染んでいくのが楽しく、生地がいいので数日続けて履いてもヨレヨレになりません。今はそればかり何枚も買って、毎日履けるようにしています。

その仕様が自分の好みに合っているから選びましたが、雑誌やネットの評価を気にせず、自分で見つけ出せたことが嬉しい。

そういう評判になっていない何でもないものの中から、自分にとっての宝物を見つけることを色々なものでできたらと思っています。

もちろん万年筆でもそういうものを見つけて、紹介していきたいと思います。

ウォール・エバーシャープデコバンドは、皆様に見つけて欲しいと、当店で直接輸入して扱っている万年筆です。

モンブラン149とほぼ同じ大きさのオーバーサイズのボディに、大きなペン先を備えた万年筆で、ゴツゴツとした武骨なデザインは、アメリカ製らしさに溢れています。だけど使い始めると、日本の文字と相性がいい万年筆だとすぐに分かります。

デコバンドのペン先は、とても柔らかいスーパーフレックスニブと、弾力のあるフレキシブルニブの2種類があって、硬い方(といっても充分に柔らかいけれど)のフレキシブルニブは、美しい日本の文字を書くために生まれたのではないかと思えるほど、強弱のついた筆のような文字を書くことができます。

私も気合を入れて手紙を書く時はデコバンドを使いますが、日本の中字に近い字幅も手紙には合っていて、自分なりにいい文字が書ける万年筆だと思っています。

デコバンドは、尻軸を引っ張り出して押し込むことでインクを吸入、排出する機構を備えていて、インクの交換や洗浄も楽なところも気に入っています。

ウォール・エバーシャープにはもうひとつシグネチャーという万年筆があって、デコバンドより一回り小さなレギュラーサイズの万年筆です。

これもデコバンドのフレキシブルニブの動きをコンパクトにしたような、似た良い書き味で、持ち運んで使うなら、シグネチャーの方が使いやすいでしょう。

例えばモンブラン149や146、ペリカンM800、アウロラが良いものであることは、ある程度万年筆に知識があれば誰でも知っていることだし、私も安心してハードに使うことができる万年筆はどれですかと聞かれたら、それらを勧めると思います。

でもウォール・エバーシャープの武骨なデザインながら、繊細で良い書き味を持った万年筆も、それを使う人だけの宝物になるのではないかと思っています。

色々なお店で売っているメジャーな万年筆ではないけれど、使う価値のあるいい万年筆だということを知って欲しいと思っています。

⇒WAHL-EVERSHARP(ウオールエバーシャープ)TOP

長軸万年筆の誘惑~セーラーエボナイト彫刻万年筆~

手紙の楽しさを多くの人に伝えたいという想いを持って発行されているフリーペーパー「ふみぶみ」vol.9が出来上がり、当店にも届いています。

読んでみると、コラムや情報、旅案内など多岐に渡る記事があって、様々な人がこの冊子を支えていることが分かります。発行者のうちだまきさんの手紙を書くことを楽しんでほしいという想いがつまった、読んでいて優しい気持ちになれる冊子です。私も寄稿させていただいていますが、これだけのものを1年に4回も発行しているうちだまきさんの情熱とパワーにいつも感心しています。

「ふみぶみ」は、ご来店いただいたお客様にはお持ちいただけるようにしていますし、WEBショップをご利用いただいた方には、ご希望があれば商品と同梱してお送りしています。

今回ご紹介するような万年筆は、ご自宅でゆっくり手紙を書くということに向いたものだと思います。

最近ではあまり使われなくなり、殆どのものが廃番になってしまいましたが、ペン習字などによく使われる長い軸の万年筆でデスクペンというものがあります。ほとんどがスチールペン先の安めのものが多いですが、妙に書きやすい。

それは長いボディがバランスに影響して、コントロールしやすくなるからだと思います。通常、普通サイズの万年筆がキャップを尻軸に差した方が書きやすく感じるのは重量が増えるからですが、ボディが長くなるだけでも書きやすさにつながるという証明のような万年筆かもしれません。

ペリカン、アウロラは尻軸へのキャップの収まりが良く、抜けにくいので使いやすいと思いますし、パイロットシルバーンも尻軸のキャップが抜けにくい万年筆で、バランスの優れた万年筆だと思います。

だけどデスクペンはキャップを尻軸に差さなくてもボディが長いので、キャップが抜ける心配もいりません。胸ボケットに差して持ち運ぶ携帯性を考えなければ、ボディは長い方が使いやすいのではないかと思っています。

それを実現した万年筆が発売されました。

セーラーエボナイト彫刻万年筆は、ボディが長く、尻軸にキャップをはめる必要のないバランスを持った万年筆です。

家の書斎でゆっくり書き物をする時に使うというコンセプトで作られていますので、この万年筆は持ち運ぶということは考えず、家のペン皿に寝かせて置いておく万年筆なのかもしれません。

長軸エボナイトボディは、艶消し加工や模様が彫刻されているものがあり、渋みのある和のテイスト、筆と万年筆の中間のような趣を持ったものに仕上がっています。

私は時間ができたら、文字の形を気にしながらゆっくり写経でもしたいと常々思っていますが、そんな使い方をしてみたい万年筆です。

付属しているインクもそんな万年筆の使われ方を意識していて、彫刻の柄の違いによって、それぞれ微妙に違う色の黒インクが付いています。

万年筆の趣味と一口に言っても、いろんな楽しみ方があります。

美しい万年筆を愛でながら、ボディの色とインクのコーディネートを楽しむ、書き味を味わいながらゆっくり文字を書くなど、人によってそれは様々です。

この万年筆は、21金のペン先の柔らかな書き味を楽しみながら文字を書く楽しみをもたらしてくれる、万年筆で文字を書く豊かな時間をイメージさせてくれるものになっています。

⇒セーラー エボナイト彫刻万年筆「夜霞」「夜光」「夜風」

正方形ダイアリー〜システム手帳と綴じ手帳の中間の存在〜

若い頃、手帳を使わないと言う同僚がいました。手帳使わないでどうやってスケジュールを把握するのかと聞くと、「覚えておく」という返事でした。私にとっては、仮に覚えておけたとしても手帳がないということは味気なく、つまらないものに感じたのを覚えています。

それでも彼は仕事ができる人だったから、全ての人に手帳が必要というわけではないらしいとその時思いました。

手帳を書くのはすごく良くて大切なことに思えるけれど、それは人によるというのは読書と似ています。読書は色々な事を考えるきっかけになっているので、私にはそれがない生活は絶対考えられません。

だけど本がなくても常に何か考えている人はいるし、もっと効率よくインスピレーションを得ている人もいます。

話が反れたけれど、私にとって手帳は、自分の代わりにいろんなことを覚えておいてくれて、他に考えないといけないことのために頭を空にしてくれるもの、そして仕事を楽しくしてくれて、良くしてくれる大切な存在です。

自分が使いたいように自由にページレイアウトを作ることができるシステム手帳は、使っていて楽しいものだと思いますが、綴じ手帳も充分仕事を良くしてくれるツールになることを今年は再確認できました。

いろんな使い方があると思いますが、正方形オリジナルダイアリーの私の使い方を申し上げると、月間ダイアリーページに予定を記入して、ウィークリーダイアリーページはto doや記録を書くページにしています。

ウィークリーダイアリー右ページの4分割の余白欄にそれぞれ項目を与えていて、項目名をスタンプで押しています。

私の場合は、取り寄せや別注の記録を書く「ORDER」、書いた原稿を記録する「WRITE」、ネタや覚書を書く「MEMO」としていて、1番下のチェックボックスのついた欄を「THINK」として、考えなくてはならないことを書いています。

システム手帳ならそれぞれの項目にインデックスを立てて、ページを分けることで、時間で進んでいくダイアリーと区別したページ分類になります。

綴じ手帳は、時間という厳然なものがページの進行を支配していますが、その中に自分に必要な各項目が同時に表示されます。

全ての項目を同時に見渡せるのが綴じ手帳の良いところですし、書き込む場合も何箇所ものページをめくって、行ったり来たりする必要がないので、記録を書き込むときその週のページだけを開けておけばいい。書いたものを探すときは時間という分類を手かがりに探せばいいということになります。

そう考えると、面倒臭がりな私には綴じ手帳が合っていると思うし、この手帳で店の普段の仕事が回せているので他を使う気にもなれず、結局ずっとこの手帳を使い続けています。

時間軸でページが進みながらも、システム手帳のように自由に項目が作れるこの正方形ダイアリーも、誰にとっても仕事を良くしてくれる大切なものになり得ると思います。正方形ダイアリーは当店と分度器ドットコム(590&Co.)さん、大和出版印刷さんの共同企画のオリジナル商品で、カバーなども揃えています。

昨年表紙のデザインを一新しましたし、そのまま使うのもいいですが、私は軽く使いたいのでビニールカバーをしています。革やミツロウ紙のカバーなどもありますし、まだHPには掲載できていませんが、手帳に項目を振るための項目用文字スタンプも販売しています。(近日中にホームページでご紹介します)

正方形ダイアリーは使いやすいことはもちろん、色々なアレンジができる楽しみを持った手帳であることにも自信を持っています。

⇒正方形ダイアリー2022年/ウイークリー

⇒正方形ダイアリー2022年/マンスリー

アウロラの書き味の奥深さ

先週末の神戸ペンショーの時は、午後1時から店舗も営業しました。

ペンショーは10時の開場から1、2時間が一番忙しいので、今年はお昼頃までは会場にに立って、午後からは店舗に戻って営業していました。

店舗がペンショー会場から歩いて10分ほどの場所にありますので、ペンショー終わりで当店を訪れて下さるお客様も多く、地元開催の恩恵を受けています。まだ賑わいの余韻のある会場を後にして店に向かう時は、少し寂しい気持ちになりました。

ペンショー会場の「北野工房のまち」はトアロード沿いにあって、かなり山手になるけれどNHKの神戸放送局もほど近い、神戸の街らしい場所だと思います。

そういう場所に比べると、当店のある元町駅山側はこの辺りならではの風情はあるけれど、静かで落ち着いていて華やかさはありません。だけどこの雰囲気が気に入っています。

万年筆やステーショナリーを華やかなものにしたいという想いと、暮らしに溶け込んだ日常のものにしたいという思いがあります。相反する考えですが、そういう万年筆のあり方に合った当店の立地ではないかと思っています。

日常の中にある、自然体で使うものである万年筆を特別良い書き味を持ったものにするというのが、当店の使命です。書き味という、数値や言葉でなかなか表すことができない、つかみどころのないものを追い求めています。

例えばパイロット、セーラー、プラチナ国産万年筆メーカーの書き味の違いについて、味わって論じ合えたら楽しいと思います。

アウロラは、自分の経験や技術を総動員してその書き味を作ってみると、奥深い書き味を持っていると思います。

インク出が多くなくていい。ヌラヌラは少しでいい。硬い柔らかいという基準だけでない、書き味の良さはどこから来るのか、ペン先の硬さとボディの重量のバランスも大いにあるのかもしれませんが、エボナイトのペン芯を使用しているということも書き味の良さに貢献しているのかもしれません。そこがモンブラン、ペリカンとの一番分かりやすい違いだからです。

エボナイトは、型を使用して大量生産するプラスチックと違い、1つずつ削り出して加工しなくてはいけないので、手間がかかり大量生産には向かない素材です。限定品でも何千本とか一万数千本作る大きなメーカーではエボナイトのペン芯は採用できないのかもしれません。

しかしエボナイトのペン芯は、ペン先調整時のペン先との合わせが調整をする際にやりやすく、ペンポイントをいい感じで閉じることができます。ペンポイントが閉じていたら、滑らかないい書き味に仕上げることができるし、ペン先とペン芯がピッタリと合っていればインク出も良い。こうなったら、書き味が悪いわけはない。あとは18金なら柔らかめのしなりを感じながらも、しっかりとした腰のある書き味になりますし、14金なら滑らかさを感じる硬めの書き味のコントロールしやすいペン先になります。

また、インクが馴染んで時間が経つごとに、ペン先に馴染んでくれるのもエボナイトのペン芯の特長で、長く使うほど書き味が良くなっていきます。

アウロラの自然の偉大なる作用をテーマにしたアンビエンテシリーズは、限定品ではありますが、アウロラの特長が最大限に発揮された、見ていても書いても楽しめる最高の万年筆のひとつだと思います。

今発売中のツンドラは、個人的にそのテーマが好みで気になる万年筆ですが、永久凍土を表現した薄いブルーとブラウンのアウロロイドはアウロラの書き味同様、味わい深い仕上がりになっています。

ジャングルをイメージしているジュングラは、アウロラとしては珍しいコントラストの強めの色で、力強さのようなものを感じさせてくれる。

限定品のため、なくなってしまうとそ後から手に入れることが難しくなってしまうのが惜しいところですが、シリーズの中でご自分にとって理想的な色が発売された時には、ぜひ手に入れて欲しい万年筆です。

⇒限定品 アンビエンテ・ツンドラ

⇒限定品 アンビエンテ・ジュングラ

万年筆で字を書く楽しみ

11月20日・21日開催の神戸ペンショーに参加します。私は昼頃まで会場にいますが、それから徒歩10分の店に戻り、店を開けます。*店舗の営業は両日とも13時からになりますので、お気をつけ下さい。

神戸ペンショーで販売するものは

・蓮見恭子先生の新作小説「メディコ・ペンナ」

・ル・ボナーデブペンケース サドルプルアップレザー・プエブロ

・aun ガラスペン

・新作オリジナルインク虚空、稜線(金ラメ・銀ラメ)

・智文堂システム手帳リフィル(デザイナーかなじともこさんも参加されます)

・佐野酒店 手帳用項目スタンプ・マッチ箱スタンプ

・カンダミサコシステム手帳(バイブル・M5サイズ)と手帳用ペンホルダー(バイブル・M6・M5)*M6サイズは新商品です。

・オリジナル正方形ダイアリー、ノート

・限定製作シャーク革オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース

などです。

ペンショーという場所で販売したいもの、当店として話題性のあるもの、新しいものを選んでいます。

毎日静かな店でひっそりと仕事していると、ペンショーというのは賑やかで、晴れやかな場所に思えます。来場されるお客様はもちろん、私たち店の人間にとっても非日常の特別な場所と時間。

そんな特別な時間とはかけ離れた、静かな日常にも愛着を持っています。

毎日の暮らしのサイクルの中でのささやかな楽しみは、本を読むことと字を書くことです。一日の終わりや休みの日にそんな時間を過ごすことができたら、充実した気持ちになれます。

私のような人は多くいると思うけれど、本はテレビを観るのと同じ娯楽だと思っているし、字を書くのも同じように楽しい。

趣味と娯楽のある静かな生活を送ることができたら、きっと私は何の不満もなく生きていけるのだと思います。

文字を書く楽しみの中に、1文字ずつその形を気にしながら書くというものがあって、何かのために書くわけではなく生産性のないものですが、これがとても楽しい。

万年筆を使う人には美しい文字に憧れを持っている人が多いと思いますが、私も実は中国の楷書の達人のような文字に憧れがあります。

誰もが感心してくれるような文字を書くことができないけれど、手紙においては書く文字によって、相手への尊敬と謙虚な気持ちを表現できたらと思い、一画一画を楷書で丁寧に書くようにしていて、きっとこれが今の自分らしい文字なのだと思っています。

でもやはり、トメハネハライをきちんと使った端正な文字への憧れは常にあるので、年末年始の休みに写経をして字の練習をしたいと思っています。

写経は筆でするものだけど、万年筆でしてみるのも面白いと思います。トメハネハライがきれいに書けて、始筆と終筆の線が鋭くきれいな万年筆としてはセーラーの長刀研ぎ万年筆が代表的な存在です。

長刀研ぎ万年筆で鋭い線が書けるのは、そのペン先の研ぎの形状によるところですが、セーラーの万年筆はたいていトメハネハライをきれいに表現しやすいようなペン先の研ぎになっています。もしかしたらセーラーの万年筆作りにおける思想なのかもしれません。

当店では、金ペン先限定になりますが、お客様のご希望でペン先を三角研ぎに仕上げることもあります。

Mくらいのペン先だと、多くのメーカーでは書き味は良いけれど、サインペンで書いたような変化のない線になってしまいます。

そういう万年筆を立てると細く、寝かせると太く書ける三角研ぎにすると、筆致が出て線に変化が出せる万年筆になります。

特にペン習字をされている方には好評な研ぎで、長刀研ぎより線が細いのもポイントのようです。

三角研ぎも長刀研ぎ万年筆も、文字の形を気にしながら一画一画気をつけて書く万年筆での書道に向いた、書くことを楽しむことにつながるペン先の仕上げです。

年賀状のシーズンでもありますし、年末年始の万年筆のある静かな時間を楽しく過ごすためにもこういう研ぎの万年筆で字を練習するのもいいと思います。

⇒セーラー 長刀研ぎ万年筆

万年筆業界に必要だったこと 小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」

神戸の万年筆店を舞台にした小説について蓮見恭子先生からお話を伺った時、何も読んでいないのに万年筆の業界にとって素晴らしいことが起ころうとしているような気がしました。

今の万年筆の業界にとって最も必要なことはこういうことではないかと思いました。

万年筆はただの書くための道具ではなく、使う人それぞれが自分の万年筆にロマンを感じながら持つものだと思っているので、小説の存在によって、万年筆が持つロマンに気付く人が増えるはずだと思いました。

自分の愛用の万年筆をこの小説の中で見つけられる人もいると思うし、人によっては小説に出てくる万年筆を手に入れたいと思うでしょう。

私もこの小説に出てくるどの万年筆も欲しいと思ってしまったし、テクニカルアドバイザーとして関わらせていただいた記念に何か形に残したいと思っています。

蓮見先生からこの小説のテクニカルアドバイザーにとご依頼があった時、誇らしく思う気持ちと、責任の重大さに恐ろしくもなりましたが、迷うことなく受けさせていただきました。

小説家の先生が書いたパソコン打ち出しの下書きや、ゲラ刷りの状態の原稿を読ませていただいたのは初めてだったし、今回の仕事を通して作家という自分の筆一本で生きている人のすごさを感じました。蓮見先生は普通の主婦が作家になったとご自身で言われるけれど、やはり普通の人ではないと思いました。

私は万年筆という使う人がそのものに思い入れを持って使う唯一無二の存在のものを、ペン先調整を施してさらに特別なものにする自分の仕事が好きで、いつまでもやっていたいと思っているけれど、この小説によって今まで以上に自分の仕事に誇りを持つことができました。

私はその時々に行きたいと思う方へ向かった結果、今の仕事をしています。だから偉そうなことを言える立場ではないけれど、この本を読んだたくさんの若い人が万年筆の調整士というものに興味を持って、なりたいと思ってくれることを望んでいます。この小説はそんな役割も果たすのではないか、この仕事が夢のあるものだと思ってもらえるのではないかとも思っています。

若い調整士が増えたら競合が増えて大変だけど、それも万年筆の業界のさらなる活性化につながるだろう。

今回ご紹介した小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」が出来上がった意義は大きく、さまざまな効果があると思っています。

⇒小説「メディコ・ペンナ〜万年筆よろず相談〜」

書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

私が文具店に就職したのが1992年で、モンブランヘミングウェイが発売された年でした。

それから万年筆の業界は限定品ブームに入っていき、イタリア万年筆の隆盛、1999年のミレニアム企画の盛り上がりなどがあって、いい時代でした。

私もその間は20代~50代で、その齢でそんな時代に居合わせることができたことはとても恵まれたことだったと思います。

古いカタログでその時発売されていたペンを見ると、その時々の記憶が蘇ったり、その時代の雰囲気を思い出したりして、懐かしい気持ちになります。

ペリカンもこの27年間は、特別なものだと思ったのかもしれません。

その黄金時代に発売した限定品、特別生産品を記録した本が発売されました。

27年間でこれだけ多くの限定品を発売していたのだと改めて驚きました。当時、ペリカンの限定品は他のメーカーのものに比べると控えめというか、大人しいものが多い印象でした。でもそこにはペリカンの型を崩さないという安心感があり、揃えたい気持ちにさせるのかもしれません。

ペリカンの限定品発売のペースは今も衰えていなくて、これからも様々な限定品が発売されるのだと思います。

この仕事を始めた頃、数多くのペンに囲まれていたにも関わらず、それらを手に入れたいという欲求はあまり湧きませんでした。

万年筆の仕事は楽しかったけれど、万年筆はあくまで仕事で扱っているものという認識で、自分が買うものではなくお客様に買っていただくものだと思っていました。当時私はペリカンM800とアウロラオプティマの2本を持っていて、それで充分だと思い込んでいたのです。

きっと生活に余裕がなくて、次々といろんなペンを買うことができなかったから、欲しいという気持ちにフタをしていたのかもしれません。

2000年には様々なすごいペンが発売されましたが、ペリカンの限定品1931ホワイトゴールドには心が激しく動かされました。

でも入荷数がとても少なかったし、買えるお金が工面できるあてもありませんでした。諦めるしかなかったけれど、ずっと忘れられませんでした。

それから8年後、この店を始めてしばらくたった頃に、仕入先から回って来た閉店した万年筆売場の在庫リストに1931ホワイトゴールドを見つけた時は、運命だと思いました。

1931ホワイトゴールドが店に来て、一週間ほど悩みました。

店をする人間の鉄則として、自分が一番欲しいと思うモノから売るということを信じているので、これを買ってはいけないのではないかと思いました。

お客様の何人かに声を掛けましたが、皆さん遠慮したのか買う人はいなかったので、結局私が買えることになりました。

今までの自分の人生の中の後悔にひとつだけリベンジできた気がしましたが、このペンを手に入れたことによって、私にとってペンは仕事で扱うだけのものではなく、ロマンを見いだせるものになっていました。

この本を見ていると、若い頃感じようとしなかったロマンを感じて、買っておけばよかったと思うものがいくつも出てくるかもしれないと思います。

過去の限定品を見て、私と同じ時代に生きた万年筆好きな人は、私と同じように、若い頃の気持ちや時代の雰囲気を懐かしく思い出すのだろうと思います。

⇒書籍「Pelikan Limited and Special Editions 1993-2020」

濃厚な素材感~ミラージュ革とS.Tデュポン/ディフィコッパーボールペン

作り込まれたスマートなものも洗練されていていいですが、濃厚なまでの素材感を感じさせるものに私は魅力を感じます。

いくつかの製品でカンダミサコさんに作っていただいていますが、プルアップレザーのミラージュ革が今私が最も魅力を感じる革です。それらは新しい時から既にコードバンのような美しい艶のある革ですが、使い込むうちにさらに色気のある艶を帯びてきます。

昨年まで、生々しい素材感があって、使い込んだり磨いたりすると劇的にエージングする革ダグラスで様々なものを作ってもらってきましたが、ダグラス革も廃番で入手できなくなってしまいました。

ダグラス革の違う色を使うという選択肢もありましたが、革の色気のようなものを一番感じる色、濃い茶色にこだわりたかった。

ミラージュは、ダグラス革の次の革として当店が選んだ革で、艶の美しさからくる革の色気という点ではダグラス革よりも上だと思っています。

ミラージュ革で作っていただいているものは、1本差しペンシース、バイブルサイズシステム手帳、正方形カバーです。

1本差しペンシースやシステム手帳、正方形カバーの革を丸めた折り返し部分の艶と質感は、眺めたり、さすったりしているだけでも楽しめるほど艶やかです。

タンニンなめしの革のこの艶やかさは、クロムなめしの革にはない魅力だと思っています。

最近は、このミラージュ革と相性が良いと思えるボールペンを手に入れて使っています。

長くファーバーカステルエボニーのボールペンを使ってきましたが、最近S.Tデュポンのディフィボールペン・マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー(以下ディフィコッパー)というボールペンを使い始めました。

生々しい素材感を感じさせる銅を骨格のように使用したこのボールペン、発売された時からずっと気になっていました。

精巧なモノ作りに定評のあるS.Tデュポンが作ったボールペンは、筆記部側に重心を持たせていてバランスが良く、滑らかでヌルヌルとした書き味で有名な油性のディフィ芯を採用しています。

リフィルは金属のチューブを通してセットされていて、内部で芯が遊ぶことなくしっかりとしホールドされる構造で、書くことが楽しいボールペンに仕上がっています。

ディフィのデザインは斬新ですが、シンプルで長いクリップはデュポンの代表作クラシックのデザインを意識しているようにも見えます。新しいデザインのデフィですが、伝統に背を向けたモノではないと感じています。

銅は様々なモノ作りの分野で取り入れられ、その素材感を生かした様々なものがつくられています。昔からある現代の素材だと言えます。

ボールペンが気に入ったモノであると仕事が楽しくなります。ディフィコッパー、新しいデザインの魅力的なペンで、仕事がさらに楽しくなるものだと思います。

以前はこういったモノは男性だけが好むモノでしたが、最近は女性の方も使われるようになってきました。そもそも性別で分ける時代ではとっくになくなっているし、そこに存在するのはどういうモノが好みかという趣向だけだと思うようになりました。

ミラージュ革のステーショナリーも、ディフィコッパーも素材感を生かしたものであることは間違いなく、良い素材とそれを生かす技術があるから、こういうものが生まれたのだと思っています。

⇒S.Tデュポン ディフィボールペン マットブラックコンポジット&ブラッシュコッパー

アメリカの人に寄り添うモノ作り ウォール・エバーシャープ

ウオールエバーシャープ デコバンド
ウオールエバーシャープ シグネチャー

当店が直接輸入しているウォール・エバーシャープのオーナーが変わりました。当店への卸価格も変更になり、以前に比べて価格を下げることが可能になりました。

ご心配いただいたお客様もおられましたが、しばらく当店のWEBショップからウォール・エバーシャープが消えていたのは、オーナー交代による条件などの変更などがあったためです。

新しいオーナーもアメリカの会社で、以前と変わることなく製品が供給されることになりましたので、私たちもホッとしています。

ウォール・エバーシャープは、万年筆コレクターが企画していて、万年筆をよく知る彼らが使いたいと思う理想のスペックが詰め込んでいます。同じアメリカのヌードラーズインクの起こりと似ていて、そんなところにもとても惹かれます。

オーバーサイズ万年筆デコバンドもレギュラーサイズのシグネチャーも、100年以上にも及ぶウォール・エバーシャープの歴史上に存在したデザインを取り入れながら、今の万年筆に求められている要素を持たせた万年筆に仕上がっています。

オーバーサイズ万年筆のデコバンドには、スーパーフレックスニブとフレキシブルニブという2種類のペン先があります。

スーパーフレックスニブはかなり柔らかいペン先で、紙にペンを置く自重でペン先が開くほど柔らかく、コントロールしながら書く必要があるほどです。

フレキシブルニブは他の万年筆に比べると柔らかいですが、コシがあってコントロールしやすい適度な柔らかさです。

実用的にこの万年筆を使う方には、フレキシブルニブの方が使いやすく、字幅に合った文字が書けます。またボディの重量とも合っていてお勧めです。

カートリッジ2本分程度の2mml以上のインクを一気に吸入するニューマチック吸入機構も備えている、ウォール・エバーシャープの代表的な万年筆です。

今回特にシグネチャーの価格が変更になって、18金の大きなペン先を備えながら、同等のモンブラン146、ペリカンM800よりも安くなりました。

シグネチャーにもデコバンド同様にエボナイトのペン芯が採用されていて、大きなペン先とのバランスが良く、とても良い書き味の万年筆です。

当店がウォール・エバーシャープにこだわるのは、100年の伝統を継承しているハンドメイドの匂いのするアメリカ製らしい、無骨なデザインを持ちながら、使う人の気持ちに寄り添ったモノ作りが感じられるからです。

万年筆を使う人が、こんな万年筆を使いたい、と作りあげた万年筆がウォール・エバーシャープデコバンドとシグネチャーです。

⇒ウォールエバーシャープ TOP