ヌードラーズインク 自由なアメリカの万年筆文化の象徴

ヌードラーズインクは、東海岸のマサチューセッツ州で生まれた比較的新しいインクメーカーです。

ヌードラーズインクの名前は、趣味でナマズを取る人達のことを「ヌードラーズ」と呼ぶことに由来しています。

ナマズ取りたちは、裸に近い恰好で沼に入り、底のナマズの穴に手を入れてナマズを引きずり出して取っているそうですが、ヌードラーズインクの創業者がナマズ取りの名人だったため、ヌードラーズインクと命名したそうです。

ヌードラーズインクは、乾きが早く、にじみがほとんどないという使いやすい性能の他に、ラベルにpH Neutralと表記されているように、万年筆に優しい中性インクであることを特長としています。

その特性は色ごとに違っていて、その中でも耐水性、耐退色性の強いバーナンキブラック、54thマサチューセッツはサラサラしたインクで、太字では極端に太くなりますので、極細や細字などの万年筆での使用をお勧めします。

私は54thマサチューセッツも使っていますが、文字が太くなるので専ら細字に入れて手帳書き用にしています。保存性の強さは手帳書きには強みですし、乾きが早く、詰まりにくそうなところも気に入っています。

万年筆好きな人が、自分の大切な万年筆を傷めず、しかも紙を選ばずに使いやすいインクを作りたいと考えて開発したインクがヌードラーズインクで、たくさんの量が入って安価であるというコストパフォーマンスの高さも、万年筆を使う人のためのインクであるというポリシーが表れています。

最近は少量で薄い色のインクが最近多く見受けられます。それらは今のインクの使い方、今のお客様が求めているものなのかもしれないけれど、ヌードラーズインクはその性能、コストパフォーマンスの高さからメインで大量に使うインクに相応しい。

ヌードラーズインクの面白味は、そのラベルにもあって、それぞれの色からイメージしたものが自由に描かれていて、それを見ているのも楽しく、ただ実用本意なだけではないと思います。

万年筆を使う人にとって理想的な特長を持ちながら、価格を抑えたヌードラーズインクからはアメリカの素朴で良心的な物作りを感じます。

万年筆文化は、ヨーロッパの貴族たちだけのものではない。

肩の力を抜いて、書くことを自然体で楽しむアメリカの万年筆文化の象徴がヌードラーズインクだと思っています。

⇒ヌードラーズ ファウンテンペンインク

ツイスビー~台湾の勢いを象徴するメーカー~

先週、ツイスビージャパンさんと巡回筆店(じゅんかいペンショップ)2021 in 福岡を共同開催しました。

緊急事態宣言中の開催になってしまい告知も不十分でしたが、ご来店いただきました九州のお客様、誠にありがとうございました。今回の催しを歓迎して下さる雰囲気と良い出会いがあって、良かったと思います。毎年恒例のものにしたいと思っておりますので、またよろしくお願いいたします。

一昨年の10月一人で台湾に行きました。活気があってエネルギッシュな台北、南国らしい趣のある台南。2つの都市を訪れただけでしたが、台湾が大好きになりました。

日本に帰ってからも台湾の雰囲気を感じたいと思い、台湾が舞台の日本人が書いた小説を何冊も読みました。特にNHKのドラマにもなった吉田修一氏の「路」は自分の青春時代の中心だった1990年代から現代までの話ということもあって、その時代の雰囲気まで感じられて、お気に入りの小説でした。

最近は台湾の小説では必ずその名が挙がる「自転車泥棒」を読みました。時間、空間、世界観を落ち着いた文体ながら縦横無尽にジャンプする読み応えのある、面白い小説でした。

1895年から1945年まで日本の統治下にあった台湾には、まだその名残があって、台湾の昔について語られる時、日本を避けることはできない。

私にも遠い親戚に終戦まで台湾に居た人がいるし、台湾で生まれた人もいる。そんな実は身近だった国台湾に惹かれたのも必然だったのかもしれません。

そんなふうなので、台湾の筆記具メーカーツイスビーにも特別な思い入れがあって、ツイスビージャパンさんとは、お互いに良くして行く関係を築きたいと思ってきました。その中で実現したのが巡回筆店でした。

台湾にはエネルギッシュな勢いのようなものと、控えめで繊細なセンスの両極端のものが同居していて、それが特長だと思っています。

ツイスビーはエネルギッシュな台湾を象徴していて、日本や欧米の万年筆メーカーなら勧めないようなこと、万年筆を使用者自身が分解して、吸入ピストンにグリースを塗るようなことを提案していて、万年筆の業界の常識をひっくり返そうとしています。

万年筆は今は完全に趣味のものだとツイスビーは考えていて、趣味のものである以上メーカーはどうしたら万年筆を楽しめるかを考えないといけない。何も触れないよりも自分で分解できる方が楽しいに決まっている。

当店が主に扱っているツイスビーの万年筆は、ECOとダイヤモンド580です。どちらもピストン吸入式で、チャプチャプするほどたくさんのインクを吸入することができます。

ダイヤモンド580の方が柔らかい書き味、ECOは硬めの書き味で、キャラクターが違っているのでどちらも持つ意義がある。

ツイスビーはその価格から万年筆を使い始めたばかりの人が選ぶ万年筆だと思われますが、趣味としての万年筆を提案しているだけあって、ある程度万年筆を使ってきた人でも楽しむことができます。

エネルギッシュな台湾を代表するツイスビーについて書きましたが、繊細な台湾センスを表現しているものも、今後紹介していきたいと思います。

個人的には、台北、台南以外の台湾の土地もいずれ訪れたいと思っています。

⇒TWSBI(ツイスビー)TOP

クレオ・スクリベントの危機に強いモノ作り

コロナ禍のような世界的にイレギュラーなことが起こった時、物流を生かして社外部品を多用していたモノ作りは立ち行かなくなってしまって、効率的なモノ作りの脆さを露呈してしまいました。

万年筆の業界も多くの企業が効率性を重視していたため同様なことが起こっているのか、商品の欠品が相次いで起こっています。

しかしそんな他社の状況を尻目に、今までと何ら変わらずに製品を作り続けている会社もあります。

そんな会社のひとつが、ほとんどのパーツを自社で作っているアウロラです。

アウロラの製品の供給は、コロナ禍以前の状態と変わることなく行われていて、限定品を発売するスピードも衰えることがありません。

当初は、家族経営のアウロラはコロナウイルスにも負けない結束力を持っているからだと思っていたけれど、それだけでは説明がつかない。

やはり自社一貫生産していることが強みになっているようです。

仕事というのは本当に、何が正解か短期では分からないと思います。

以前から万年筆の生産であまり効率を追究してほしくないと思っていたけれど、現代のモノ作りからは効率が悪いとされていたアウロラの、自社で全てのパーツを製造するという強みをここで見せつけられました。

効率的な物作りをする会社が多いドイツにも、一貫生産にこだわる会社があります。第二次世界大戦直後に創業したクレオ・スクリベントは、旧東ドイツにありました。

社会主義経済においてモノを作るということは、世界を相手にする競争力を培いにくいように思いますが、東西ドイツ統一後は、その技術力から西側のペンブランドのOEM生産を多く引き受けていました。

それは台湾のツイスビーがヨーロッパのペンブランドの製造を担当していたこと、そしてそれで力をつけて、自社ブランドの筆記具を成功させたことによく似ています。

クレオ・スクリベントは今もOEM生産をしていて、その傍ら自社ブランドのペンを作っています。そのため新製品の発表もゆっくりしたペースですが、クレオらしい他のメーカーとは一味違うペンを作っています。

クレオ・スクリベントの万年筆では、ナチュラアンボイナバールやスクリベントゴールド、リネアアルトなどのハイクラスなものが注目されますが、クラシックという、実用に特化したとても渋いペンを作っています。

デザインはとてもシンプルで、万年筆が実用品だった時代の名残を色濃く持っている、クレオ・スクリベントらしいペンだと思います。

太すぎない軸径、軽い重量、バランスの良さなど、シャープペンシルやボールペンを使うように、気負わず、自然体で使うことができる。

クラシックパラディウムは、本来スチールペン先仕様の万年筆ですが、EFのみ価格はそのままで14金ペン先が装備されているコストパフォーマンスの高い万年筆です。

万年筆の生産は世界のトレンドからは離れたところにあって、マイペースでやっていて欲しいと思うけれど、クレオ・スクリベントはそれを実践している会社なのだと思います。

クレオ・スクリベントはあまり目立つ存在ではないけれど、世界が危機に直面しても、たくましく生き残っていける万年筆メーカーだと思っています。

⇒クレオ・スクリベントTOPへ

大人のスタンプ

私の万年筆の原点は、手帳に書くというところから始まりました。

若い時から手帳が好きでした。20代の頃は立ち仕事だったこともあって、スーツの内ポケットに入る能率手帳のようなものを使っていました。

夜一人の時間に、そこにスケジュールや覚書、データなど、仕事を回すために必要なことをきれいに書けたら嬉しかった。

最初はボールペンから始まり、それが水性ボールペンになり、万年筆になっていきました。こんなに気持ちよく、きれいに書けるペンがあるなんて知らなかった。

私にとって細字の万年筆が手帳を一番きれいに書ける筆記具で、後から読み返した時にとても読みやすく、インクの雰囲気もあって、ページ全体の出来が全く違っていました。

手帳がきれいに、きっちり書けたら仕事がとても楽しくなりましたし、これを書く時間も楽しくて仕方なかった。

手帳を書くだけで、自分の時間の大半を費やしている仕事が楽しくなるということは、毎日が楽しくなるということで、そんな幸せなことはないと思った。

自分がそんな風に思っていたので、より多くの人にも同じように感じて欲しいと思いました。ささやかな願いですが、そのために私はこの仕事を続けています。

手帳のページを楽しくしてくれるものは、万年筆だけでなく、スタンプを押すという方法もあると、システム手帳リフィルの筆文葉・そら文葉を使ってみて初めて知りました。

智文堂のかなじさんが作るリフィルはシンプルで余白があり、自分で手を入れる余地が残されています。

それらにスタンプを押して、自分らしいページを作りあげていく。そんな作業が楽しいということにも、長く手帳を使ってきたけれど気付きませんでした。

日付や曜日のスタンプなどを使って、M5サイズの1日1ページのリフィルを自作して、365日欠かさず使っています。

実はもっと色々なスタンプを使って見たかったけれど、50歳を過ぎたおじさんが使ってもいいと思えるスタンプを見つけられませんでした。

大人の男性でも気後れすることなく使うことができるようなスタンプを作りたいと思い、当店にクラシカルなデザインの文具を収めてくれている、佐野酒店の佐井健太さんに相談しました。

佐井さんは、アールヌーヴォー調、アールデコ調などの絶妙なクラシックさを持ったものをデザインしてくれて、スタンプにしてくれました。

窓枠のようなスタンプは、切手を貼るスペースを作る切手枠ですが、ノートや手帳のタイトル枠にもなります。

L字形のスタンプは、ページの余白に押すとフレームのようにすることができる、手帳用を意識したものです。

今は、性別や年代に関わらずだれでもスタンプで気軽に手帳を楽しめる時代だと思います。殺風景な手帳のページがそれだけでぐっと手を掛けた感じになって、ますます良いアイデアが浮かぶかもしれません。

⇒佐野酒店(レーザーワーク木製ステーショナリー)TOP 

MOLTE PENNE~松本さんからの贈り物~

ル・ボナーの松本さんは、時々様子を見に当店を訪れてくれます。

それは創業時から変わらず、一ヶ月に一度の時もあれば、何カ月も空くこともあるけれど、いつも木曜日の開店前後に「ど~も」と言いながら入って来られます。

ブログ「ル・ボナーの一日」やフェイスブックからも人柄が伝わると思いますが、松本さんが入ってくると店の雰囲気がパッと明るくなります。仕事でのシリアスな一面ももちろん知っているけれど、華やかな存在感がそう感じさせるのだと思います。

何気ない話をするだけで、松本さんにはそんなつもりはないかもしれないけれど、いつも色々なことを教えてもらっています。時には心配をかけていることも分かっていて、それは出会って15年経った今でも変わらずで、申し訳なく思っています。

松本さんが当店に立ち寄った後、元町駅前のかつ丼の店「吉兵衛」に行くのを楽しみにしていると聞いて、私も一緒に行くようになりました。

吉兵衛は以前働いていた会社の近くにもあったので、よく行っていました。当時はご飯大盛り&とんかつダブルも普通に食べられたけれど、今は二人とも普通盛りで満足している。

今年になって、私は自分自身の心の狭さと器の小ささから取引先を失うことがありました。そんなとき、松本さんが万年筆店には必要だろうと、革のコレクションケース 「ペントランク」の製作に動き出してくれました。

途中何度も試作品を見せてもらったり、電話で進捗状況を聞いたりしていましたが、問題点や難しいところを松本さんなりに解決しながら、少しずつ形になって行きました。

このペントランクに松本さんのたくさんのの時間と労力が注がれていることが分かっていましたので、当初の完成予定は過ぎていたけれど、私には催促することはとてもできませんでした。

今思うと、ようやく第1ロットが完成した時、全て手縫いで作るこのペントランクの製作は、65歳の松本さんの体力と集中力を激しく消耗させることにご自身で気付かれたのだと思います。そして、1点ずつ全て手作業で仕上げるしかない商品を量産するのは難しいと判断され、当店への納品をためらわれておられたのだと思います。

その話を聞いて、カンダミサコさんが後を引き継いでもいいと言ってくれて、ル・ボナー松本さんプロデュース、カンダミサコさん製作のペントランク「MOLTE PENNE(モルトペンナ)」の商品化が決まりました。

松本さんが製作した第1ロットと、半額で販売するその前段階の試作品は、現在店頭で販売中で、9月24日~26日の「巡回筆店2021福岡」でも販売する予定です。

カンダミサコさんが作るものからネットショップに掲載していきたいと思っており、それは10月末から11月掲載の予定です。

店に来ていただける方、福岡の出張販売に来ていただける方にはぜひ見ていただきたいと思います。遠方の方はネットショップ掲載までお待ちいただくことになり申し訳ないですが、数が限られていて少ないこと、それぞれハンドメイドの味が濃いことなどもあり、実際に見ていただきたいと判断しました。

 革製で軽く丈夫なので持ち運びも楽で、旅に愛用の10本の万年筆持っていきたくなるケースです。

このMOLTE PENNEは、松本さんからの大きな贈り物だと思っています。

*MOLTE PENNE(モルトペンナ)・・・ブッテーロ革・価格:110,000(税込)/エレファント革・価格:165,000円(税込)

好きなシステム手帳リフィル

フォルクスワーゲンのPOLOに10年乗っています。

10年も乗るとあちこち故障するようになって、去年エンジンの4気筒のうちの1つが動かなくなったし、今年の7月には別の1気筒が止まってしまった。

4つのうち1つが動かなくてもパワーが25%落ちるだけだと思うけれど、小さな車の25%は大きく、前に進むのがやっとという状態でした。

ミッション車のように細かくシフトチェンジしてスピードに乗せてあげないと流れについていけないし、振動と騒音もすごかった。ふと大学生の頃乗っていた25万円で買った4速ミッションの中古の軽自動車を思い出しました。

その故障を直したと思ったら、8月には坂道発進する時にブレーキを離して、アクセルを踏むまでのタイムラグで後ろにツーと下がるようになった。

ミッションの車ならその覚悟もあるからいいけれど、オートマ車でこれは怖い。妻が怖がって直すまで車に乗ってくれなくなった。

先日それも修理して、妻の機嫌も直り車もよく走ってくれています。

こういった車の故障や修理のことは、日付と走行距離とともに智文堂の「そら文葉・飛行機リフィル」に記録しています。

今年は本の当たり年で、1月からずっと夢中になって読める本に出会っているので、暇さえあれば本を読んでいます。改めて、自分が歴史小説や軍記ものが特に好きなのだと気付きました。

最近は司馬遼太郎の「項羽と劉邦」を読み終えて、人の器について考えさせられました。何でも完璧にできると思っている人は、様々な器の人が周りにいてもそれに気付かず、それぞれの適性に応じて用いることが少ない。その才能やリーダーシップに惹かれてついてきてくれる人はいても、助けてあげたいと思ってくれる強い器が集まらない。つまりそのグループはリーダーの能力を超えるものにはなりません。

どんな人も受け容れる度量の大きな人や、大きな空の器のような人には、様々な才能を持った器が集まって、その人を助けてくれる。こういうグループには無限の可能性があるということになります。でもそう思うと自分には、完璧さも度量の大きさもないから困ってしまう。

ストーリーもすごく面白いけれど、そんな「人の器」について考えさせられた本でした。

いろいろ調べて買って読んだ本なので、記録しておきたいと思い、それにも飛行機リフィルを使っています。

飛行機リフィルを使っているのは、飛行機という旅をイメージさせてくれるワンポイントがあって、心が癒されるからです。若い時では考えられなかったけれど、こういう少し可愛らしいもの、ワンポイントあるものも使ってみたいと思うようになってきました。

智文堂のリフィル、バイブルサイズの筆文葉もM5サイズのそら文葉も、その多くは書くことを楽しむための趣味のリフィルだと思っています。

線を色鉛筆などで引き足したり、スタンプを押したりして、工夫しながら使う余地がこのリフィルにはあって、好きなことを書いて、ページを仕上げること自体を楽しむようにできています。

智文堂のカレンダーリフィル(バイブル・M5)もその形式ですが、2つ折り、3つ折りなどの折りたたみ式のリフィルにも惹かれます。

アシュフォードの2つ折りメモも1枚の紙に倍の情報量を書くことができるので愛用しています。

他にも一昨年から扱い始めた、あたぼうのジャバラ式ダイアリーじゃばらんだは、12カ月分のブロック式カレンダーが片面6カ月ずつ表裏で1年になっていて、広げると半年を見渡すことができます。

いちいちページをめくらなくても違う月を見ることができるメリットは大きく、ユニークだけどオーソドックスなレイアウトの使いやすいダイアリーリフィルだと思います。

小さなサイズの手帳の中にそのサイズを超えたサイズの紙があるということが嬉しくて、折り畳み式のリフィルが好きなのだと思います。

私も同じだけど、システム手帳ユーザーの不思議は、ページをめくることや、リングを開いてリフィルを移し替える手間を惜しむところだと思っています。

リングを開けてページを移し替えることができるのがシステム手帳のメリットで、それを惜しむのは、万年筆ユーザーがキャップを開ける手間を惜しんで、勘合式キャップを探し求めたり、パイロットキャップレスを使い出す気持ちに似ていると思います。

車の故障に関しては、POLOが故障しやすいのではなく、走行距離が少ないからといって私が点検に出すのを怠っていたせいだと今は反省しています。

*智文堂 そら文葉「飛行機」

*あたぼう じゃばらんだ・2022年ダイアリー

ラミー2000 55周年記念限定万年筆ブラウン

ラミー2000が発売された1960年代は、万年筆にとって最も苦しい時代だったのではないかと想像しています。

モンブラン146は廃番になり、ペリカンはそれまで主力だった400というクラシックタイプの万年筆の生産を止めてしまっていることからも分かるように、万年筆が売れなくなった時代でした。コンウェイスチュアートが倒産したのも60年代で、他にも多くの万年筆メーカーがこの頃姿を消しています。

その理由は50年代に登場したボールペンが普及して、人が文字を書く道具がボールペンに移行したからでした。

日本では少し状況は違っていましたが、それでも大きなペン先のクラシックタイプの万年筆は姿を消していて、小さなペン先でキャップを閉じると短くなるポケットタイプの万年筆をスーツやワイシャツのポケットに差していた時代です。

万年筆暗黒時代の只中の1966年にラミー2000は発売されています。こんな時に何で?と思わなくもないですが、こういう時代の転換期だったから全く新しいデザインのラミー2000ができたのだとも言えます。

実用の道具としての万年筆の役割は終わって、万年筆メーカーは今までと違うものを示さなければ、売れなくなった万年筆とともに沈んでいくことになります。

万年筆が売れないなら売れないで、事業を縮小できたらよかったのかもしれませんが、時代が変わったからといってすぐに規模を小さくすることも難しかったのかもしれません。

単価を上げて、経費を下げてより利益を確保するということも売れない会社存続の方法だと思いますが、そのためにはその会社の万年筆の在り方から考え直す必要があります。

著名な工業デザイナーで世界的な家電メーカーブラウンの仕事を主にしていたゲルハルト・ミュラーによる、未来の、2000年にも通用するデザインの万年筆の発売でラミーは新しい万年筆の在り方を示して、会社の方向性を示しました。

その向かう方向は今も変わっていないように見受けられ、その時ラミーが筆記具メーカーのひとつの理想像を見つけたことが分かります。

ラミー2000の構造を考えた時、当時発売されていたモンブラン24などの万年筆と共通点が多く、構造的・機能的に新しいことはなかったけれど、無機質で装飾のない当時最先端の工業デザインの考え方を取り入れたということが新しく、画期的なことでした。

そしてそれは55年経っても、全く色褪せないものとして今も在る。

やや遅れた1970年に、アウロラは万年筆・筆記具の歴史に燦然と輝く、細い円筒形の万年筆アスティルを発売していて、工業デザインと出会った万年筆メーカーは歴史的に意義のある万年筆を発売していることが分かります。

アスティルのデザインは1970年代に多くのメーカーが真似してムーブメントになり、暗黒時代にあった万年筆業界に光明が差しました。

一方、ラミー2000に似た万年筆は出てこなかったけれど、それほどラミー2000は個性的だったと言えます。それでもラミー2000は今も作り続けられていて、万年筆のひとつの定番と言えるものになっています。

ラミー2000発売55周年を記念して、2000ブラウンが発売されています。

ボディカラーをブラウンにし、クリップなど金属パーツをPVDコーティングした豪華版の2000には、デザイナーゲルハルト・ミュラーの数多くの仕事を収めた写真集と豪華な牛革貼りのノートが付属しています。

なぜボディカラーをブラウンにしたのか、ラミーから正式な発表はないけれど、ゲルハルト・ミュラーがその多くをデザインしていた家電メーカーブラウン(BRAUN)に敬意を表したからではないかと邪推できなくもないし、3300本という限定本数については、ゲルハルト・ミュラーがラミー2000をデザインした時(発売の前年の1965年)の年齢が33歳だったからだと言う人もいます。

一つの製品が55年間姿を変えず存在し続けたということは稀なことで、万年筆というものの特殊性はあるけれど、ラミー2000がデザインやものの在り方においての偉大な発明であったことには変わりありません。

時代の転換期に新しいものが生まれるのなら、今がその時代の転換期で、今までと違うものが生まれるタイミングなのかもしれません。私たちはそんな時代を今生きているのではないでしょうか。

⇒限定品・LAMY 2000ブラウン

小動物のようなM5サイズ・くるみ手帳

どこもやっていることだと思いますが、組織やグループのリーダーの人は、その考えや考察、記録をグループ内で公開していると思います。それはそのグループの方針や立場の取り方を統一し、仕事の円滑化に役に立つからです。

だからリーダーは、考えや考察・記録を自分しか見ることができない手帳に細々と書いていてはいけない。もちろん手帳を書いてもいいけれど、それを公開して組織の役に立つ形にするべきだと思っている。

もちろんプライベートなこともあるから全てを公開する必要はないけれど、そう考えるとグループのための手帳と自分のための手帳は分ける必要がある。リーダーの個人用の手帳はもしかしたらM5のような小さなものでいいのかもしれませんし、グループ公開用の手帳と個人手帳とを使い分けるということを考えるとM5手帳の活用の仕方が見えてくるような気がします。

加工し過ぎず、野性味を残した革クードゥーでとても可愛らしい手帳をカンダミサコさんに作ってもらいました。

当店の言う可愛らしいは、もしかしたら他所のお店とは少し違っているかもしれませんが、本当に小動物のような愛らしい手帳が出来上がりました。

見た目は可愛らしいですが、サブのメモ用のM5手帳ではなく、メインで使っていただきたいという狙いを持って製作してもらいました。

M5用としては最大径の13mmリングを装備していて、100枚程度のリフィルを挟めるようにしています。そのためメモだけでなく、ダイアリー、アドレス帳、覚書など、この1冊があれば自分の仕事が成り立つ、オールインワンの手帳に仕立てることができると思います。もちろん仕事から離れて、1日1ページの日記帳のような使い方もできます。

M5サイズは「書くことを強制されない大きさ」だと思っています。

バイブルサイズの用紙だと、空白を埋めるためにたくさん文字を書かなくてはと思いますが、M5サイズだとその気持ちの負担も少なくなります。少し文字を書いたらいっぱいになりますので、気楽に使うことができます。

さらに、ペンを完全に保護してくれる太径のペンホルダーも装備しています。

この手帳とのバランスを考えるとあまり大きなペンは合わないので、短めのペリカンM400や、セーラープロフェッショナルギアスリムミニなどがいいサイズだと思っています。

ペンホルダーにジャストフィットして、ペンホルダーに収めた時手帳からはみ出さないモデルは、セーラープロギアスリムミニです。最大径14.8mmで、このサイズのペンとしては太めですが、この万年筆をベースにペンホルダーのサイズを決めていただきました。

持っている人が限られますが、以前のペリカンの限定品1931などのペンもきれいに収まります。私がくるみ手帳を使うなら大切にしている1931ホワイトゴールドをこのペンホルダーに入れて使いたい。

表紙が包み(くるみ)式で、中の紙とペンを保護してくれる仕様のくるみ手帳に、いつも使う万年筆と紙をたくさん挟んだ姿はころんとして可愛らしく、小動物が丸まったような印象があります。

女性のお客様の評価が高いですが、男性でも理由もなくいつも持っていたいと思ってもらえる手帳が出来上がったと思っています。

⇒M5サイズ・くるみ手帳

⇒M5サイズリフィル 智文堂M5リフィルそら文葉 粧ひセット お芋ポッケ

シャーク革のペンレスト兼用万年筆ケース

カンダミサコさんと毎年革をひとつ決めて、その素材に合ったステーショナリーを一年限定で作ってもらうという企画を4年ほど続けています。

今まではカンダミサコさんらしく、どちらかというとアパレルの世界寄りのお洒落な革で企画してきましたが、今年は質感豊かなエキゾティックレザーの「シャーク」で、様々なものを作ってもらっています。

久しぶりに、当店オリジナルのペンレスト兼用万年筆ケースの新作を、シャーク革で作ってもらいました。

ペンレスト兼用万年筆ケースは3本差しのペンケースで、持ち運び時のペンの保護と使用中の使いやすさを兼ね備えた、実用性に特化したペンケースです。

このペンケースは開店当初に作った、当店の万年筆に対する考え方を表現したものですが、それは今も変わらず一番使いやすいペンケースだと思っています。

当店の万年筆に対する考え方は、どんな高価な万年筆も書く道具であり、書くことを楽しむためのものであるということです。

持ち運ぶときはフタを被せて、逆さまになってもペンが脱落しないようになっています。内革には柔らかいヌバック革を使用していますので、しっかり保護してくれます。クロム鞣しの革なので銀製の万年筆に直接触れても黒ずむことはありません。

机上などで使用している時は、フタを万年筆の下に差し入れて枕のようにすると取り出しやすくなり、3本を素早く使い分けたい時に便利です。

フタを折り返す構造のため、硬い革ではこのペンケースを作ることができません。シャークはしなやかで折り目もつきませんので、このペンケースに最適な素材だと言えます。

このペンレスト兼用万年筆ケースは、中にペンを入れると革がその形状になりますので、抜いてもふんわりその形のままになります。そのためペンが入っていなくても2本の溝のあるペントレイとして使うことができて、それがこのペンケースの名前の由来になっています。

またすぐ使うペンを硬い机に直接大切なペンを置かず、このペンケースの上に仮置きすることができます。

ペンレスト万年筆ケースは、継ぎ目のない1枚の革からできているため、大判の革が必要です。

出回っているシャークの革だと、1枚の革からこのペンケースを1つしか作ることができず歩留まりが悪くなってしまいます。余ったところで1本差しペンシースや革のペン置きを作って無駄なく使っています。

模様のある革を使って、色ではなくその質感で変化を出したいと考えたら、シャークのように独特のシボの入った革は理想的です。なるべくなら、均一な型押しの革を使って安く作るよりも、ひとつひとつの表情は違うけれど自然なシボのある革を使いたい。

私はペンケースからペンを取り出した後、そのフタを元通りに戻すことが苦にならない人間だけど、当店のスタッフKはいちいちフタをするのは面倒だと豪語するズボラなところがあります。そんなスタッフKの発案で生まれた当店のロングセラーのペンケースです。

⇒ペンレスト兼用万年筆ケース・シャーク革

⇒1本差しペンシース・シャーク革

⇒1本差しペンシースショート・シャーク革

⇒ペン置き・シャーク革

極北の地への憧れ

星野道夫の本を夢中になって読み漁っていた時期がありました。

アラスカフェアバンクスに家を建て、季節ごとにアラスカの奥地の原野に分け入って、アラスカのさまざまな風景や生き物を撮り続けた写真家、星野道夫のエッセーを読んでヒグマやオオカミ、白くま、カリブーの生態に興味を持ち、極寒の地で暮らすエスキモーやアサバスカインディアンの生活に想いを馳せました。

アメリカ合衆国のネイティブアメリカンへの同化政策やアラスカの開発に反対し、自分たちの民族性やアラスカの大自然を大切にしたいという考えに共感します。日本も西洋化、近代化してテクノロジーを追い求める生き方を卒業してもいいのではないかと思うし、グローバルスタンダードに染まらず、もっと自分たちらしさに誇りを持つべきではないだろうか。

そうやって星野道夫の本を読んで、極北の地への憧れを強めてアラスカやシベリアへ行ってみたいと思うようになりました。

今では、デナリとかアリョーシャン列島、ウラル山脈などの北の地名を見ただけで、心が動くようになっています。実は前作のアンビエンテ・ギアッチャイオにも激しく反応しました。

極寒の地の生活はきっと厳しいと思うけれど、その反面快適な日本では見られない美しい景色も見ることができるのだろう。

アウロラの限定品アンビエンテ・ツンドラに激しく反応する人は私以外にもきっと多くおられると思います。

透明感とニュアンスのあるブルーとブラウンは、北の土地の永久凍土ツンドラを的確に表現しています。

スターリングシルバーを多用したこのモデルを評価する人は多く、デザイン的な理由ももちろんあると思いますが、その使用感が魅力なのだと思います。

人気のあった85周年レッドやマーレリグリアなども同じモデルで、抜群の書き味と高い筆記性能を持ったアウロラの自信作です。

軽く、コントロールしやすいことがアウロラらしさで、そんなアウロラの軽やかさもいいですが、その重量によって強めの弾力に味付けされた18金のペン先のしなりが感じられる書き味の良さは、他のペンでは味わうことのできないものです。

ツンドラは個人的に心揺さぶられるテーマだったけれど、そんなふうにピンポイントでターゲットを狙うテーマの方が、より深く心に刺さるような気がします。

⇒AURORA 限定品 アンビエンテ・ツンドラ